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海外が憧れる日本の美。じつは「理想世界の表現」だった? 日本庭園の意外なルーツ

海外が憧れる日本の美。じつは「理想世界の表現」だった? 日本庭園の意外なルーツ

栗林公園(香川)

日本文化の集大成ともいわれる「日本庭園」には、海外からも羨望の眼差しが寄せられていることをご存じですか? その美しさの正体は、古来の人々が思い描いた“理想世界(楽園)”にありました。本連載では、日本人として知っておきたい庭園のルーツや、散策がもっと楽しくなる「3つの様式」について、フランスで日本庭園の入門講座を行っている庭園文化研究家、遠藤浩子さんが解説します。

世界のセレブリティも絶賛する日本庭園の世界

栗林公園(香川)
日本最大の広さを誇る回遊式庭園、栗林公園(香川)。

フランスの方々を対象にパリで日本庭園の入門講座を行うようになって、7年が経ちます。根強い日本庭園人気を目の当たりにするのは嬉しく、また日本人として身が引き締まる思いもあります。古くから世界のセレブリティの絶賛を受け、愛好家たちを持つ日本庭園の世界ですが、日本に居ながらも意外によく分からないかも、という方もいらっしゃるかもしれません。本連載では、私たち自身のルーツに深くつながる日本庭園の世界をご紹介していきます。

日本庭園のはじまり

平城京・東院庭園(奈良)
平城京・東院庭園(奈良) Takashi Images/Shutterstock.com

日本庭園のはじまりは学説によって異なりますが、庭園的な造形要素と呼べるものは、古墳時代から見受けられます。私たちが今日イメージするような日本庭園のかたちが整ってくるのは飛鳥~奈良時代以降、平城京の東院庭園などの庭園遺構からはっきりうかがえる、水を使った庭園(池泉庭園)の自然風の構成の原型が現れるのがこの頃です。

日本庭園を育んだ2つの源泉

白神山地
東アジア最大級のブナ原生林が広がる白神山地のブナ林(青森・秋田) Scirocco340/Shutterstock.com

現在につながる日本庭園のかたちが生まれた背景には、大きく2つの要素があります。1つは、古代中国・朝鮮半島から伝わった庭園芸術。稲作や文字など多くの渡来技術のなかに、造園技術がありました。同様に大陸からもたらされた哲学思想、仏教も庭園づくりに大きな影響を与えます。もう1つは、日本の風土気候と、森羅万象に生命や霊性が宿ると感じる世界観、古来の日本人がもつアニミズム*です。南北に長い国土、降雨量の多い温帯気候にあって、植生の多様性に恵まれた反面、台風や地震などの自然災害に常にさらされてきた日本人の自然観こそが、日本庭園を育む土台となります。

*アニミズム(animism)とは、人間に限らず、動物や植物、石、山、川などのあらゆる自然物や現象に霊魂(魂)が宿っていると考える思想や信仰のこと。

海洋風景と理想世界

文化の違いを超えて、庭園のはじまりは、理想世界、楽園、天国を表すことが多いのですが、じつは日本の庭園もそうでした。有機的な曲線を描くゆるやかな汀(みぎわ)をもった池は大海を、池の中島は、古代中国の伝説にある理想郷である蓬莱島を表します。それは、自然の海洋風景の再現のなかに、理想世界が象徴的に表された庭園空間だったのです。島国日本の心象風景は、何よりもまず、島々を囲む海にあったのでしょうか。

平等院鳳凰堂(京都)
春は桜が満開の平等院鳳凰堂(京都)。cowardlion/Shutterstock.com

この頃にはすでに、やはり日本庭園らしさの重要な要素である、自然石による石組(いわぐみ・いしぐみ)も見られます。早い段階から幾何学構成で造られた西洋の庭園とは異なり、日本では、自然風景を縮尺して再現しながら、たとえば、聳え立つ自然石は仏教における世界の中心である須弥山を表すなどの象徴が重ねられ、典型的な日本庭園の空間へと発展していきます。空間づくりの要となる自然の風景の再現へのこだわりは、日本的な自然観、自然への畏敬の念の現れといえるでしょう。

『源氏物語絵巻』(国文学研究資料館所蔵) 
『源氏物語絵巻』(国文学研究資料館所蔵) 出典:国書データベース

国風文化が完成される平安時代は、この海になぞらえた池を中心にした「池泉庭園(ちせんていえん)」の基礎的な構成が整ったとされます。寝殿造りの貴族邸宅を完成するのは、南側に設けられた池泉庭園であり、四季の移ろいを愛で、大きな池では船遊びや釣りを楽しんだ様子が、源氏物語などからもうかがえます。庭と建築を一体とした空間とする「庭屋一如(ていおくいちにょ)」の思想も日本の庭園の重要な要素であり、建築と庭園の姿は常に密接につながりつつ、変遷していくことになります。

3つの様式

ところで、ひと言で日本庭園といっても、イメージする庭の姿は一様ではないかもしれません。睡蓮池に太鼓橋がかかった風景をイメージする方もあれば、古淡な枯山水の庭を思い浮かべる方もあるでしょう。日本庭園は大きく3つの異なる様式で捉えることができます。

ここまでに見てきたように、池を大海になぞらえ、自然風景を再現した「池泉庭園」は、日本の庭園のすがたの基礎であり、時代によってさまざまなかたちをとって発展していきます。

銀閣寺庭園(世界遺産・京都)
池泉回遊式庭園の例:銀閣寺庭園(世界遺産・京都)。

しかし、そればかりではありません。海外で日本庭園といえば、圧倒的にゼン・ガーデンなどと呼ばれる、いわゆる「枯山水」がイメージされることも多いのです。「枯山水」とは水を使わず、石や砂で山水(風景)を表現した庭(ドライ・ランドスケープ・ガーデン)です。室町時代に禅宗寺院の修行にふさわしい象徴的な空間として禅的思想と密接な関係を持って生まれ、その後はより幅広く、大名や公家の書院造り庭園などでもつくられるようになっていきます。

龍安寺石庭(世界遺産・京都)
枯山水庭園の例:龍安寺石庭(世界遺産・京都)。

さらに日本庭園の発展に大きな影響を与えたのが「露地・茶庭」です。室町から桃山時代の茶の湯文化の発展にともなって現れた庭園の様式です。茶の湯の精神に従って構成される野趣を旨とした庭園は、茶の湯に臨む心身を整えるための場として構想されました。

千利休による侘び茶とともに完成した露地の理念が、今日の茶庭の原型をつくったとされます。仏教的には俗世と悟りの世界をつなぐ小径を意味する露地は、禅的な思想からくる侘び寂びの美学、簡素・枯淡の美を志向する、新たな庭園空間を拓くことになります。また、露地の出現とともに庭園に取り込まれた、灯籠、蹲(つくばい)、飛び石などの構成要素が、現在では日本庭園になくてはならないアイコン・イメージとなっているのも興味深いところです。

宝の庭(神奈川・北鎌倉)
茶庭の例:宝の庭(神奈川・北鎌倉)

フランス庭園といえば、17世紀のフランス整形式庭園、イギリス庭園というとまずは18世紀のイギリス自然風景式庭園というように、主にある国のある時代の庭園様式を指したものになることが多いのですが、日本庭園では、これまで見てきたように歴史上で発展してきた異なる様式が重なる多面性が、さらに豊かな庭園の世界観を醸成しています。

次回はこれら3つの様式の庭園を、著名な庭園の例を交えて見ていきます。

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