患者さんやスタッフの癒やしにと、クリニックの庭を丹精する面谷ひとみさん。毎年、少しずつ草花の種類を変え、飽きさせない工夫をしています。2023年は、昨年感激したポピーの数を増やし、「ポピー祭り」の予定でしたが、ポピーが思わぬポテンシャルを発揮し、庭は「ポピー狂想曲」に! で、ますますポピーにハマッた面谷さん。ポピーを熱弁します。
目次
シャーレーポピーとは
シャーレーポピーとは、ヒナゲシの園芸品種のことです。ヒナゲシといえば、アグネス・チャンの歌でピンとくる方もいるかもしれませんね。ケシ科ケシ属の秋まき一年草で、5〜6月に開花した後は日本の暑い夏を乗りきることができません。原産地はヨーロッパ中部で、寒さには強いものの、暑さには弱い性質です。花色は白、赤、ピンク、複色などで、花径5〜8cmの4弁花を咲かせ、品種によっては華やかな八重咲き種もあります。
私がシャーレーポピーを植えたきっかけは、行きつけの園芸ショップ「ラブリーガーデン」での花談義。いつものように花を選んでいたら、お客さんの1人から「シャーレーポピーって植えたことある? とっても素敵な花よ」と教えてもらったのです。3月頃だったので、まだ店頭の苗は花が咲いていませんでしたが、おすすめされたら試したくなるのが花好きというもの。いくつか買って帰りました。そして5月、つぼみが開いた途端、私は一瞬でポピーに魅了されてしまいました。
花弁は薄い和紙のように繊細で、ふんわりカップ咲きの花は光を透かして輝きます。まるで中に親指姫でも眠っていそうな愛らしさ。つぼみをつけた茎が白鳥の首のように優雅にうつむく姿にも、それが咲く直前に真上を向き、つぼみが割れてわずかに色が見えてきた時のワクワク感にもすっかり参ってしまいました。何よりもバラや草花との相性も最高。60〜80cmほどでバラに寄り添って咲くような雰囲気は本当に素敵で、何でこんないい花を今まで知らなかったんだろう、と教えてくれた方に感謝しました。
植えどきで劇的に変わるシャーレーポピーの姿にびっくり!
「来年はポピー祭りだ!」と心に決めた私は、ラブリーガーデンにシャーレーポピーの苗が出回ると同時にたくさん買い込み、はりきって苗を植え付けました。ところが、季節が進むにつれ、シャーレーポピーが想像以上に勢いよく育ってくるではありませんか。株周りの大きさは昨年の5倍はあるでしょうか。バラに寄り添うどころか、バラを押しのけてバラの生育を阻むほどです。ジギタリスもシャーレーポピーの陰で、ひっそり弱々しく茎を伸ばせずにいます。一方、日々、隆々とたくましく育つシャーレーポピーを見ながら「どうしよう」「マズいなぁ」「抜こうかな…」と私は右往左往。このままでは何もかもがポピーの勢いに負けて、庭がポピー畑になってしまいます。そんなわけで、思案の末に結局いくつか抜いたのですが、残した株からは、それはもう立派な花が咲きました。
バラに寄り添って咲くどころか、「私を見て!」と言わんばかりのシャーレーポピーに、ただただ驚くばかり。花径15cmはあろうかという巨大輪で、色も去年より鮮烈なものが多く咲きました。もちろん花はきれいなのですが、この庭の広さでは存在感が予想以上にありすぎて、バランスが取れなかったようです。もっと広い庭で、もっと違う植物と組み合わせていたら、この花の魅力をもっと生かすことができたでしょうにと反省。しかし、昨年と同じ花を植えたのに、なぜこんなにも姿が違うのでしょうか。
早く植えすぎ&肥料の効きすぎ
隊長にそのことを相談すると、「だから言ったがん」と一言。隊長とは、この庭を一緒に作っているガーデンデザイナーの安酸友昭さんです。隊長が言うには、1月に植え込み作業をしようとする私に、「早すぎだけん、もうちょっと待ってください」と言った、とのこと。アラ、そうだったっけ?
「何度も言いましたがん。この庭はバラの肥料も効いてるから、そんなとこで地植えにして5カ月も育ったら、シャーレーポピーが育ちすぎて大変なことになりますよって止めたのに、全然聞かんですもん。なんでこげなことになったと今さら慌ててもねぇ、面谷さんが聞かんからですがん」。
アラララ? そういえば、そんなこと言ってたような気がしなくもありませんが、ポピー祭りにまっしぐらだった私は、手元にあった苗を早く植えたくて仕方がなかったのです。でもこの経験のおかげで、来年の庭のテーマができました。「リベンジポピー!」です。
シャーレーポピーは大変生育旺盛な一年草で、本来このように大株に育ちます。しかし、限られたスペースでいろいろな草花と共演させるこの庭では、その生育をコントロールする必要があったのです。コントロールの手段は、隊長が言ったように植えどき。早く苗を手に入れても、ポットのまま養生しておき、3月になってから地植えにすることで一昨年のようなバラに寄り添って咲く風景ができたと安酸さんは改めて教えてくれました。シャーレーポピーは根が「直根(ちょっこん)」といい、縦にゴボウの根のように伸びるので、ポットの中が根でパンパンになったら、直径はそのままのロングポットに植え替えて育てるのがポイント。ちょっと面倒ではありますが、その労力に報いてあり余るほどの感動を与えてくれるはずです。
日本で育種されたオリジナルポピーとの新たな出会い
そんなシャーレーポピーの反省がある一方で、今年は新たなポピーとの感動の出会いもありました。それは山梨県のナーサリー「八ヶ岳の花遊び」さんのオリジナルポピーです。フワフワとした八重咲きの花と、繊細なニュアンスカラーの花にうっとり。珍しい花色に、たくさんの人から「これはなんという花?」と聞かれました。
この花は「八ヶ岳の花遊び」さんが、10年以上前から交配を続けてきたオリジナルのポピー。もともと、色幅の多い園芸品種の中からグレー系を選抜交配しているため、グレイッシュな大人っぽい色の花が多くあります。育種の過程では種子ができにくくなるなどさまざまな課題がありましたが、異なる系統との交配で種子をつけさせることに成功。交配の結果、フワフワとした多弁の花形が誕生したといいます。赤色の花は高温になるほどグレーに花色が変化するユニークな特徴があります。
花色のバリエーションは豊富にあり、他のシャーレーポピーと同じように、咲くまで花色は分かりません。そんなサプライズ感も、私がポピーに惹かれる理由です。こちらは株が大きくなりすぎることもなく、個性的な花色なのですが、ほかの草花との相性もとてもよく、共演させるとまた新たな魅力を発揮するように思います。
群植しても、風に揺れる風情がいい具合。石積みの手前の群植は、今年新たな庭の見所となりました。「八ヶ岳の花遊び」さんオリジナルポピーは市場に流通するほどたくさんは生産していないので、直売所かインスタグラムのDMから入手可能です(色指定はできません)。今年の販売は終了し、次回苗が入手可能になるのは2024年の2月以降です。直売所の営業はインスタグラムでご確認ください。
長くガーデニングをしてきましたが、隊長に指導されながらまだまだ学ぶことがあったり、また新たな花に感動できるなんて、庭づくりってなんて面白いのでしょうか。患者さんの癒やしにと始めた庭づくりですが、私自身、花に癒やされ、新たな出会いをもらい、未来へ導いてもらっています。来年の「リベンジポピー!」がどうなるのか、今から楽しみでなりません。
Credit
話 / 面谷ひとみ - ガーデニスト -
おもだに・ひとみ/鳥取県米子市で夫が院長を務める面谷内科・循環器内科クリニックの庭づくりを行う。一年中美しい風景を楽しんでもらうために、日々庭を丹精する。花を咲き継がせるテクニックが満載の『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(KADOKAWA)が好評発売中!
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撮影・取材・まとめ / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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