メドウ風ガーデンづくりの秘密と風に揺れるおすすめ草花17選
鳥取県米子市で「庭の美しいクリニック」といえば、誰もがその名を知る面谷内科・循環器内科クリニック。5月はバラを主役にしながらも、花の女王と称されるバラ以上に目を奪われるのが、個性的な草花の数々。宿根草、一年草、球根花など、ありとあらゆる草花が混ざり合い、風に揺れ、蝶や蜂たちが飛び交う風景は、まるで自然の野原のよう。2021年5月23日(日)、オーナーの面谷ひとみさんとガーデナーの安酸友昭さんにオンラインでご案内いただいた、5月の庭に登場する草花をご紹介します。
目次
今年の庭のテーマは「メドウ」
クリニックの庭は、訪れる患者さんを飽きさせないようにと、毎年テーマを変えて庭づくりをしています。今年のテーマは「メドウ」。メドウとは自然の野原のことです。もちろん、庭は全くの自然ではないので、人が植栽によって「野原風」の風景を作り出すわけですが、メドウガーデンは最もハイテクニックな造園の一つとされています。安酸さんに「メドウ風にしたい」と言うと、「うーん…」と首をかしげながらも、花のセレクトや苗の養生の仕方を「メドウ仕様」にするなど、いろいろと知恵を絞ってくれました。
メドウ風ガーデンのポイントは「混ざり合って咲く花々」と「風に揺れる草花」。株が横に広がって大きな一塊になる草花ではなく、線の細いさまざまな草花がそこかしこで立ち上がり、それらが入り混じって咲くような構成です。どれか一つの植物だけが際立って目立つのではなく、いくつもの植物が織りなすハーモニーがメドウ風ガーデンのポイントです。さて、どんな植物たちがメドウ風ガーデンで活躍してくれたのか、ご紹介しますね。
サルビア・ネモローサ‘カラドンナ’(宿根草)/草丈約60cm
濃い青紫色で直線的なフォルムの花が庭に引き締まった印象を与えてくれます。3年前に植えた当初はそれほど印象に残る花ではありませんでしたが、株の成長に伴い魅力を発揮してくれるようになりました。ふわふわチラチラと咲く花ばかりだと、庭が散らかったように見えてしまうことがありますが、カラドンナを要所要所に配置すると、適度に整った感じが出ます。
線が細く風に揺れて咲いてくれるにもかかわらず、デルフィニウムなど同様の形状の草花と異なり、カラドンナは自立してくれるので、支柱を立てる必要がないのは、私としてはとてもありがたいところです。花期も長く、5月初旬から色づき始め、いったん切り戻すとまた花穂が上がってきて、夏の庭に涼しげな彩りを提供してくれます。
また、花茎の間も適度に空いているので、他の花が入り混じって咲くことができます。間に咲いているのは、宿根リナリアの‘アプリコットチャーム’。淡いクリーム色とピンクパープルの可愛い花です。
こちらは白花のサルビア・ネモローサ‘スノーヒル’。
バーバスカム‘サザンチャーム’(宿根草)/草丈約60cm
カラドンナに入り混じって咲かせているもう一つの花が、このバーバスカム‘サザンチャーム’です。5弁の丸い梅のような花が下から徐々に咲き上がってくるのですが、プチプチとした丸いつぼみの様子も愛らしく、花色は淡いアプリコットカラーで、花心とつぼみが紫色。紫色のカラドンナと好相性です。このように、2つの花の中に何か共通点を見つけるという方法は、組み合わせを考えるときにとても有効です。
このバーバスカムは私の庭では、咲き進むにつれクネっと曲がってしまうので、支柱を立てています。今年は特に梅雨入りが早く、花の最盛期に打ちつけるような激しい雨が降ったので、支柱を必要とする花々は特に心配でした。もしかしたら、もっと涼しく乾燥した地域のお庭では支柱は必要ないかもしれません。
リシマキア・アトロプルプレア‘ボジョレー’(宿根草)/草丈約40〜50cm
これも前述のように、「赤紫」という共通点のある2つの花の組み合わせです。シュルシュルと細長い花がリシマキアで、クリーム色で花心が赤紫色に染まる花はフロックス‘チェリーキャラメル’です。
リシマキア・アトロプルプレア‘ボジョレー’は、ご覧のように細長いフォルムですが、こちらは自立して咲いてくれるので支柱がいりません。赤ワインのようなシックな色合いがとても魅力的な花です。
面白いことに、植えた時期で花の形状が少し異なります。上の写真はどちらもリシマキア・アトロプルプレア‘ボジョレー’ですが、左は昨年の秋に苗を植えたものです。花が上のほうへキュッと詰まって咲いています。右は今年の春に植えたもので、下から上まで長く花がついています。草丈はどちらも同じくらい。庭づくりをしていると、こんなふうに思わぬ発見があり、とても楽しいです。
リナリア・プルプレア(宿根草)/草丈約80cm
宿根性のリナリアで、何年も10cm程度のわずかな隙間から毎年咲いてくれる丈夫な花です。細い茎に紫色の小さな花をたくさん咲かせます。風に揺れても折れたり曲がったりすることもなく、本当に手間がかかりません。
ピンクのバラともとても好相性。バラはつる性の‘モーティマー・サックラー’です。
サルピグロッシス‘キューブルー’(一年草)/草丈約60cm
5月はたくさんのバラが庭を彩ります。私はバラはピンク色が好みなので、草花はバラにはないブルーや紫を選ぶことが多いです。サルピグロッシス‘キューブルー’は思わず見入ってしまうような深い紫色です。
ベルベットのような質感の花弁は、やや雨に弱いようで、激しい雨に打たれると穴があいてしまいます。それでも残って咲いてくれた一輪ですが、存在感抜群。もうちょっと穏やかに降ってくれたらいいのになぁと思う今年の梅雨です。
デルフィニウム(宿根草)
デルフィニウムも「青色」を代表する宿根草で、花弁にはデルフィニジンという青い色素のもとが含まれています。さまざまな品種があり、花色も青、パープル以外にもピンクや白色などがあります。草丈も2mはある大型種から、近年は膝丈以下のコンパクトなタイプも出てきています。今年の庭づくりでは他の草花との調和を考え、あまり草丈が高くなりすぎない60〜100cm程度の品種を植えています。
こちらは、ほんのりピンクがかった紫色のデルフィニウム。デルフィニウムはこの庭では支柱が欠かせません。ガーデナーの安酸さんは、あくまで支柱が目立たぬようにといつも言います。ですから、生育に合わせて何度も長さの違う支柱に立て替えてやらないといけないので、なかなか苦労しますが、音符のようなつぼみがだんだん開いていく様子の可愛らしさには勝てず、毎年常連の花です。
カンパニュラ ‘涼姫’(一年草)/草丈60〜80cm
星のような淡いブルーの花が穂状に咲きます。花と花の間に適度な隙間があくように咲き、名前のごとく涼しげで可愛らしい可憐な花です。
メドウガーデンの特別な苗づくり
今回のメドウガーデンでは、本来は株が横に張って大きくなる草花も、秋から春まであえてポット苗のまま管理し、ヒョロヒョロとした姿に仕上げました。アグロステンマやヤグルマギク、ギリア・レプタンサといった一年草は、いつもなら晩秋から冬にかけて植え付けます。そうすると5月には立派な大株になり、庭を見事に彩ってくれます。特に、この庭はバラもたくさん植えられており、肥料もたっぷり使っているので生育旺盛な草花は、予想以上に大型になることがあるのです。ただし今回は、1株がそれぞれ大株になると「入り混じって咲く」というメドウの様子が再現できないので、ポットのままで晩秋から春先まで育て、あえて太らせないように管理しました。そして、4月半ば以降になってから庭に植え付けることで、細い株姿の草花同士が入り混じり、メドウのような雰囲気を演出しました。
ところで、海外からの種子で「メドウミックス」というものがありますが、そこにもヤグルマギクなどの種子が入っています。ただし、これを限られた庭空間で播いてみても、なかなかメドウのような雰囲気にはならないのです。それは、草花同士が空間を競い合い、強いものが大株になって残るという生存競争があるからです。本当のメドウのような、見渡す限りの広い空間があれば叶うかもしれませんが、限られた庭では、ただ「メドウミックス」を播いたからといって、メドウを再現するのは、なかなか難しいことなのです。
メドウの雰囲気に憧れていた私は、野原に咲いているような素朴な花々を植えればメドウガーデンができると簡単に考えていましたが、それは大きな間違いでした。ガーデナーの安酸さんから「このポット苗を大切に春まで育ててくださいね」とたくさんのポット苗を昨秋渡されたときは、その意味がさっぱり分かりませんでした。「なんで植えたらいけんの?」と聞いても「まあ、春になったら分かりますがん。メドウができるかどうかは、面谷さんの管理にかかっとうですよ」と言われ、不思議に思いながら、たくさんのポット苗の管理を始めたのですが、それが本当に一苦労。まるで盆栽を育てているのと同じような状態で、数カ月間、3〜4号ポットの苗たちを根腐れさせたり、水切れしたりしないように慎重に水やりをするのはとても神経を使いました。本来は、園芸店から苗を買ってきたらすぐに植え付けるというのがセオリーです。ビニールポットのまま窮屈そうに生育している苗を見ていると、かわいそうで植えたくなってしまうもの。「ねえ、まだ植えたらいけん?」「まだです」というやりとりを何度繰り返したか分かりませんが、我慢に我慢を重ねたのは草花たちのほうですよね。
普段のガーデニングでも、株分けをしたり切り戻しをしたり、植物の生育をコントロールすることはありますが、このメドウ作りでは、植物たちの生存競争をコントロールすることがいかに難しいかを思い知らされました。そして、自然のメドウがどのようにして作られるのか、草花や、そこに訪れる虫や鳥や動物たち、風、光、雨という自然の絶え間ない営みの末にあの風景ができるのだと思うと、自然の素晴らしさや偉大さに改めて気づきました。
患者さんを飽きさせないようにと毎年、こんな風にテーマを変えて庭づくりをしていると、私自身たくさんのチャレンジができ、気づきもたくさんあるのです。
アグロステンマ(一年草)/草丈60〜90cm
白い五弁の花がアグロステンマです。ムギナデシコという素朴な名前もあり、麦の穂が揺れるがごとく、ゆったり揺れます。強い雨風に当たると倒れることがあるので、支柱が必要です。ピンクの花はハイブリッドジギタリス。入り混じって咲く姿がとても可愛らしいです。
アリウム(球根)
庭には何種類かのアリウムを植えていますが、真ん丸のこぶしより大きなアリウム・ギガンチウムは、アクセントとして大活躍してくれます。球根は1球千円以上するのですが、数年は咲いてくれますし、庭でのオーナメント的な活躍ぶりはその価値があります。
安酸さんは咲ききった時よりも、つぼみからだんだん紫に色づいていくなんともいえない色合いがアリウムの魅力だと言います。うん、確かに何色ともいえない感じ。植物だけが持っている魔法のパレットで色づいていきます。
こちらはアリウム・クリストフィー。星形の花で、ギガンチウムと同じくらいの大きさですが、草丈は30〜40cmでより淡い紫色です。空色のニゲラともぴったり。球根を植え付けてから、もう何年も経ちますが、毎年よく咲いてくれます。
ニゲラ(一年草)/草丈50〜60cm
ニゲラもピンクのバラとよく似合う一年草です。糸のような細い葉を持ち、ふわふわとした緑の葉の中に花が咲く様子から、英語では「ラブインナミスト」というロマンチックな名前で呼ばれています。とても育てやすい花で、ちょうどバラの頃に咲いてくれるので、庭には欠かせません。
ジギタリス(宿根草)
ベル形の花が連なって咲く様子がメルヘンチックなジギタリス。品種によっては、見上げるような高さにまで伸びるものもありますが、今年の庭のテーマ「メドウ風ガーデン」には、小さいタイプを選びました。上の写真のアプリコット色のジギタリスは、原種系のオブスクラ‘サンセット’。本当に夕焼けのようなグラデーションに見惚れてしまうオレンジの花です。
こちらも原種系のジギタリス・ルテアで、小さな、ごく淡い黄色の花を咲かせます。とても繊細な雰囲気ですが、他のジギタリスと比べてとても丈夫で、夏越しして何年も咲いてくれています。
これはジギタリス・プルプレア‘ピンクシャンパン’。園芸品種は夏越しが難しく、本来は宿根草ですが、二年草扱いとされることが多いです。本来は草丈70〜80cmほどありますが、今年は膝丈程度の小さな姿で咲いてくれました。そんな控えめな雰囲気が今年のメドウガーデンにはぴったりでしたが、来年はもっと草丈が高くなるかもしれません。
オンファロデス・リニフォリア(一年草)/草丈10〜40cm
スーッと伸びる草花の足元で、ふわふわとカスミソウのような白い花を咲かせるのはオンファロデス。ベールをかけたように地面に咲き広がって、軽やかでロマンチックな雰囲気を演出してくれます。一年草ですが、こぼれダネでよく増え、毎年きれいに咲いてくれます。
ブルーに白の縁取りが可愛いオンファロデス・リニフォリア‘スターリー・アイズ’。
セントランサス(宿根草)/草丈60〜70cm
小花が集まって咲く様子がレースのような繊細な雰囲気ですが、とても丈夫な宿根草です。株自体も年々大きくなっていきますが、種子も飛んで思わぬところから生えてきます。植えてから数年経ったら間引いたり株分けして、引き算をしながら育てています。
ここまでご紹介した草花は、地植えにしている植物です。庭には要所要所に寄せ植えも置いてあり、それも庭の彩りに欠かせません。
庭施工/Lovely Garden(ラブリーガーデン)
住所:鳥取県米子市両三柳839
電話番号:0859-24-1500
http://www.lovely-garden.jp/shop.html
Credit
話 / 面谷ひとみ - ガーデニスト -
おもだに・ひとみ/鳥取県米子市で夫が院長を務める面谷内科・循環器内科クリニックの庭づくりを行う。一年中美しい風景を楽しんでもらうために、日々庭を丹精する。花を咲き継がせるテクニックが満載の『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(KADOKAWA)が好評発売中!
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撮影・取材・まとめ / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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