実生株とは、種子から育てられた園芸個体のことを指します。
人工的に管理された環境で発芽・育成されるため、健康状態が安定しており、根の張りもよいのが特徴です。
若いうちは比較的シンプルな形状をしていますが、成長とともに少しずつ個性が現れてきます。

また、若い個体は全身をトゲに覆われていますが、成熟していくにつれて、成長点付近にはトゲが残る一方で、塊根のボディ部分は次第に滑らかな面が増えていきます。

これは、動物や鳥などの食害への防御が特に必要な部位にトゲが集中し、そのほかの部分では表皮そのものが防御の役割を担うようになるためと考えられています。
その証拠に、成熟株の表皮は実に硬い! まるで石のようです。
福を呼ぶ和名を持つ塊根植物「恵比寿笑い」。縁起物としても愛される理由や、自生地マダガスカルの風景から見えてくる唯一無二の姿など、パキポディウム・ブレビカウレの奥深い魅力に迫ります。編集部員Kを魅了してやまないこの塊根植物は、初めて対峙した瞬間の印象がとにかく鮮烈!ぜひ、この不思議な魅力の正体を確かめてみてください。
目次
恵比寿笑い(パキポディウム・ブレビカウレ)とは?

こんにちは、編集部員Kです。
今回の「多肉植物狂い」では、縁起のよい名前を持ち、私自身も大好きな植物、“恵比寿笑い”ことパキポディウム・ブレビカウレの魅力を、じっくりと掘り下げていきたいと思います。
扁平でどこか愛嬌のある塊根の姿、そして「恵比寿笑い」という日本ならではの名前。
見れば見るほど不思議で、知れば知るほど奥深い。そんな恵比寿笑いの世界を、実体験を交えながらご紹介します。
編集部員Kと恵比寿笑いの出会い
私(以下筆者)が初めて恵比寿笑いに出会ったのは、2020年1月。
年明け早々に訪れた、お馴染み関さんのお店ガディンツキープランツの前身となる「フラワーガーデン・セキ」で目に飛び込んできたのが、このぼてっとした独特のフォルムをした恵比寿笑いでした。

その姿に一瞬で心を掴まれたのはもちろんですが、なにより「恵比寿笑い」という名前が、新たな年の幕開けにこれ以上ないほどしっくりきたのです。
これはもう縁だろう、と。
そうして恵比寿笑いは、2020年最初の植物として我が家に迎えられることになりました。
それ以降、この植物の最大の魅力である「一つとして同じ形が存在しない」ということにすっかり心を奪われ、春を迎える頃には、気がつけば手元に3株。
私の塊根植物遍歴のスタートダッシュを支えてくれた存在こそ、この恵比寿笑いだったのです。
恵比寿笑いの基本情報

- 科属: キョウチクトウ科(Apocynaceae)パキポディウム属(Pachypodium)
- 学名: Pachypodium brevicaule Baker
- 和名:恵比寿笑い
- 原産地:マダガスカル|中央高原の高地に位置する首都アンタナナリボ南部からイトレモ山地周辺にかけた、標高約1,200〜2,000mの岩山地帯に点在して自生。
- 形態: 多年生の塊根性低木 / 夏季成長型(実生株) / 冬成長型(現地球)
- 園芸分類: 多肉植物・塊根植物(コーデックス)
- 開花時期(園芸下): 春〜初夏(3〜5月頃)。冬季は室内管理となるため、温度や日照条件が整えば12月〜翌年1月に開花することもある。
- 成長速度: ゆるやか
- 草丈・樹高(園芸下):5〜10cm前後
- 耐寒性: 弱い(12℃以上を推奨)
- 耐暑性: 強い(高温・乾燥を好む)
- 葉: 緑〜濃緑、楕円形で、表面の感触は皮革のような感じ

- 花色: 黄色

- その他: 2015年にIUCNによりVulnerable (VU) – “脆弱” に指定。人為的な絶滅リスクが高いと評価されている。
CITES附属書II(Appendix II)に掲載されているため、種の保全のため国際取引にはCITES許可証が必要。ただし、人工的に繁殖された園芸個体については規制の対象外。
パキポディウム属の中での唯一無二の存在感

恵比寿笑いが「唯一無二」と評される理由は、その極端な形態の特異性にあります。
グラキリスにウィンゾリー、ホロンベンセなど、パキポディウム属の多くは、乾燥地帯で生き抜くために幹を肥大させ、水分を内部に蓄える進化を遂げてきました。
しかし恵比寿笑いは、その貯水組織を地表近くに扁平化させるという、きわめて特殊な方向へ進化しています。
その結果生まれたのが、岩のように低く、重心の安定した塊根フォルムです。
これは見た目のインパクトだけではなく、過酷な自生環境に適応した合理的な形でもあります。

トゲも独特な雰囲気をまとう

トゲというとサボテンのトゲのような鋭いものを連想するかもしれませんが、恵比寿笑いのトゲは、サボテンほど鋭くなく、先がわずかに尖った太く柔らかい“突起物”といった印象です。
ほかのパキポディウムは、間隔を空けながらボディ全体を覆うのに対し、恵比寿笑いのトゲは成長点付近に、まるでブラシのように集中して生えています。
このトゲについては、現時点で明確にその役割を示した論文や研究結果は確認されていませんが、鳥獣による食害から新芽や成長点といった柔らかく栄養価の高い部位を守るために発達した防御機構の一つと考えられています。
また、乾燥した高地で水分を効率的に留める役割もあるのではないかともいわれています。
恵比寿笑いが人気の理由
独特なキャラ
恵比寿笑い最大の魅力は、なんといってもその扁平で個性的な塊根フォルムですが、この形状が人によってさまざまなキャラを連想させることでしょう。

若い株は比較的整った、牡丹餅のような形をしているのですが、成熟していくにつれて個性をあらわしていきます。
上の写真は実生4年目の筆者所有株ですが、この時直径6cm。
そこから3年ほど経過したものが下の写真。
直径12cmに倍加し、見た目も、もとのひょうきんな形から、まるでゴジラ映画の怪獣のような形へと変化しました。

ボディからランダムに成長点が出現する成熟株は、側面を回しながら、そして上からと、少し角度を変えて眺めると、まったく違った表情を見せてくれます。
そんな「劇的に変化する姿を鑑賞する楽しさ」が、恵比寿笑いには詰まっています。

双方とも個人的には真上からのViewが好きだ。
「縁起植物」としての存在感

「恵比寿笑い」という名前も、この植物が愛される大きな理由の一つです。
七福神の一柱である恵比寿様を連想させるその響きは、福を呼び、笑顔をもたらす縁起植物(縁起物)としても、古くから日本人の感性に寄り添ってきました。
丸みを帯びた塊根の姿は、どこか人の顔のようにも見え、にこやかに微笑んでいるような印象を受けることもあります。
また、そのゴツゴツとした岩のようなボディから黄色い花を咲かせたときの優雅さは格別で、しかも黄色い花は風水では金運や安定を象徴するとされているため、開運の予感さえ感じさせます。

こうした造形や花姿、そして名前が見事に一致している点こそ、恵比寿笑いことパキポディウム・ブレビカウレが「日本で特別な存在」となった理由といえるでしょう。
恵比寿笑いに託す、新しい門出
新年の節目や引越し、開店祝いなど、「引越しおもと」に代表されるように、日本では古くから、よい流れを呼び込みたい場面に植物を贈ったり、自分用に迎え入れたりする習慣があります。
恵比寿笑いも、そうした用途で選ばれてよい植物ですが、現時点ではまだその認知は高くなく、実際に吉兆目的で買い求める人は多くありません。
この記事を通じて、今後、観葉植物の世界にとどまらず、多肉・塊根植物の分野においても「門出の恵比寿笑い」という考え方を提案し、その価値が広く共有されていくことを願っています。

見た目に反して育てやすい!
見た目のインパクトとは裏腹に、恵比寿笑いは比較的育てやすい塊根植物です。
詳しい育て方は後述しますが、基本的に高温と日光を好むため、成長期にはしっかりと光を確保し、水やりを控えめに行うことで、安定した生育を見せてくれます。
実生株であれば、初心者でも無理なく育てられる点も魅力で、塊根植物に初めて挑戦する人にとっては、「少し背伸びをすれば手が届く存在」として選ばれる理由にもなっています。
恵比寿笑いの種類と仲間たち|実生株・現地球・白花恵比寿笑いを解説
実生株の恵比寿笑いとは

実生株最大の魅力は、成長の変化を一から見届けられることにあります。
年ごとに塊根が太り、味わいが増し、次第に「その株ならではの姿」へと育っていく様子は、長く育てるほどに愛着が深まります。
時間の流れとともに楽しむ。
それこそが、実生株を育てる醍醐味なのです。
恵比寿笑いは、個体差が非常に出やすい植物です。
同じ親株から採れた種子であっても、光量、温度、水やり、用土など、わずかな環境の違いによって塊根の形は大きく変わります。
ある個体はひたすら山のように大きく、あるものは成長点が突起し、バンザイしたような形になるなど、育てる人の数だけ異なる姿が生まれるともいえます。
実生株の恵比寿笑いは、比較的容易に入手が可能です。
大手の園芸店はもちろん、ビザールプランツを扱う専門店であれば、ほぼ確実に出会うことができます。
ネットオークションやフリマサイトなど、オンラインでの出品数も多いです。
おおよその価格帯:3,000〜10,000円前後。
(個体の大きさや塊根の形状によって幅があります)
現地球の恵比寿笑いとは

現地球とは、自生地(マダガスカル)で長年生育していた個体のことを指します。
自然環境の中で時間をかけて形成された塊根は、実生株とは一線を画す迫力を持っています。
不規則にうねり、岩に溶け込むような質感をまとった姿は、まさに自然が作り上げた造形美といえるでしょう。
Photo courtesy of Rhett Ayers Butler / Founder & CEO,Mongabay
現地球のトゲは実生株に比べて極端に少なく、面積の多くを厚くなめらかな表皮が占め、イボのような成長点の先端を、しなやかなトゲが覆っています。
実生株との最大の違いはまさにこの表皮とトゲで、自生地の強い日差しや風雨、吹きおりる砂塵の影響によってトゲが摩耗し、結果としてツルッとした表皮になると考えられています。
また、長い年月の中で塊根が巨大化し、表皮が硬く厚くなることで、トゲに頼らずとも身を守れるようになったため退化した、とする見解もあります。
いずれにせよ、“ただものではない”存在感とオーラは強烈です。
ただし、もとは自生地にいた野生種なので、実生株に比べて栽培難易度は高め。
近年は保全意識の高まりや規制の影響もあり、現地球の流通量は限られています。
市場に出回る数は決して多くなく、状態のよい個体ほど希少性が高まります。
運良く迎え入れることができたら、国際的に保護されている植物であることを意識し、その価値と背景を理解したうえで、長く大切に育てていくことが大切だと感じています。
現地球は、ちょっとマニアックな植物(ビザールプランツ)を専門に扱う個人経営の園芸店や、ネットオークション、フリマアプリを中心に流通している印象です。
ただし、原産地では違法採掘が問題となっている地域もあるといわれています。
とはいえ、私たち個人が流通経路のすべてを遡って確認することは現実的ではありません。
そのため、購入にあたっては「適切な輸出手続きが行われ、正当な経緯で流通しているものを扱っている販売者である」という、一定の信頼を前提に選ぶことになります。
おおよその価格帯:15,000〜30,000円前後。
(個体の大きさや塊根の形状によって幅があります)
白花恵比寿笑い (パキポディウム・レウコキサンツム)

一般的な恵比寿笑いが鮮やかな黄色の花を咲かせるのに対し、白花恵比寿笑いは白色や、淡い乳白色の花を咲かせる希少なタイプです。
塊根の形状や葉姿は通常の恵比寿笑いと大きく変わりませんが、開花時には黄色花とは異なる、清楚で静かな雰囲気をまといます。
派手さはないものの、その控えめな美しさに惹かれる愛好家も少なくありません。
この白花恵比寿笑いには、Pachypodium brevicaule var. leucoxanthum(パキポディウム・ブレビカウレ・レウコキサンツム)という学名がついており、ここで使われているvar. は variety(変種) を意味し、単なる園芸的な色違いや一時的な突然変異ではなく、自然環境下において一定の特徴を持つ個体群として認識されてきた存在であることを示しています。
また、「leucoxanthum」はギリシャ語のleuco-(白)と xanthum(黄)を語源とし、黄色を基調としながらも白みが強く現れる花色を意味します。
Photo courtesy of kameko1105
つまり白花恵比寿笑いは、完全に別種とされるほどの差異はないものの、学術的にも興味深い立ち位置にある恵比寿笑いなのです。
流通量は極めて少なく、大手園芸店でも入荷されるのは極めて稀。
ビザールプランツを扱う専門店や、ネットオークション、フリマアプリなどによる個人間取引が主な入手方法となります。
おおよその価格帯:5,000〜12,000円前後。
(個体の大きさや塊根の形状によって幅があります)
ハイブリッド種「恵比寿大黒(パキポディウム・デンシカウレ)」

恵比寿大黒(Pachypodium Densicaule)は、恵比寿笑い(Pachypodium brevicaule) と、デンシフローラム(Pachypodium densiflorum)を交配して生まれたハイブリッド種です。
作出者の公式な記録はありませんが、日本の園芸家が作出したものとされており、日本の園芸界で独自に固定化された園芸品種として人気を集めています。
扁平でどっしりとした塊根が特徴の恵比寿笑いと、直立気味に成長し、比較的トゲが多く花付きのよいデンシフローラムという、対照的な2種の性質を併せ持つのが恵比寿大黒最大の特徴。
同じ「恵比寿大黒」という名前で流通していても、恵比寿笑いの遺伝が色濃く現れた個体では、塊根が扁平気味に広がり、低重心で愛嬌のある姿に。
一方で、上の写真の株のように、デンシフローラムの遺伝が強く出た個体では、塊根が縦方向に伸び、トゲも多く、よりワイルドな印象になります。
このため、恵比寿大黒の面白さは、個体ごとの差が非常に大きいことにあります。
そして、どの要素を強く受け継いでいるかによって、個性の際立ちを楽しめるのも、ハイブリッドならではの醍醐味といえるでしょう。
恵比寿大黒は、大手の園芸店からビザールプランツを扱う専門店まで、比較的幅広く流通しています。
ネットオークションやフリマアプリでも入手しやすく、ハイブリッド種の中では手に取りやすい存在です。
おおよその価格帯:3,500〜8,000円前後。
(個体の大きさや塊根の形状によって幅があります)
恵比寿笑い写真集|Instagramで見つけた恵比寿笑い

【左】shock_btuさん
当連載のアロエハイブリッド記事で極上のアロエ・テンプラを披露していただいたshock_btuさん。
今回は恵比寿笑いをパキポディウム・ラメリーに接木(つぎき)するという、珍しい個体を披露。
接木は一般的には上に乗せる植物の成長スピードを加速させる目的で行われますが、成長の早いラメリーは土台となる台木としても人気なんです。
それにしても、何やら摩訶不思議な雰囲気を醸し出すおもしろい個体ですね!
【右】konstagram_1986さん
見事なフォルムの白花恵比寿笑いです。
白花恵比寿笑いは、花茎が短タイプもあるのですが、konstagram_1986さんのもののように、長いものだと、キャラ立ちも顕著で、見ていて楽しくなっちゃいますね! 鉢も株のワイルドさにマッチしています。

【左】zuko_greenさん
小さな実生で購入したものが5年でここまで大きくなりました。
アースカラーの備前焼鉢がメチャおしゃれですね!
恵比寿笑いほど焼き物の鉢が似合う植物はないということを、この写真が表してくれています。
【右】doratoshitさん
ご自身のコメントのとおり、サザエさんみたいなフォルムに思わず笑ってしまいました。
和名が表すとおり、こうして笑顔を誘うのが恵比寿笑いの魅力なんです!
鉢のチョイスもこの子にぴったりで、センスのよさを伺わせます。

【左】raruku629さん
これまた立派な現地球ですね!
この宇宙生物みたいなものから黄色い可愛らしい花が咲くのが現地球の魅力なんですよね。
全体的にモノトーンでまとめている点も、アーバンな感じがしておしゃれですね。
【右】mu_umin_plantsさん
昨年末12月31日に迎え入れたという現地球を披露。
撮影によって引き出された陰影が美しく、彫刻的な凹凸が魅力の現地球の立体感が手に取るように伝わってきます。
恵比寿笑いの育て方|水やり・日照・冬越しの基本
恵比寿笑いは見た目のインパクトに反して、基本を押さえれば比較的育てやすい塊根植物です。ここでは、日照・水やり・冬越しを中心に、恵比寿笑いを健康に育てるためのポイントを解説します。
日照と置き場所
成長期の光量

恵比寿笑いは強い日光を好む植物です。
成長期にあたる春から夏にかけては、できるだけ日当たりのよい場所で管理するのが理想です。
屋外管理が可能であれば、直射日光の当たる環境でしっかりと光を当てることで、塊根は締まり、葉も健全に展開します。
特に現地球は、冬季以外は屋外での管理を強く推奨します。
ただし、塊根植物は急に強光に当てると株に過度のストレスを与えてしまうため、室内管理(後述)から屋外へ移す際は、半日陰から徐々に慣らすようにしましょう。
室内管理のポイント
実生株の恵比寿笑いは、屋外管理が難しい場合でも、適切な環境を整えれば室内管理のみで栽培することも可能です。
室内で管理する場合は、できるだけ窓際などの明るい場所に置き、十分な光を確保することが重要です。
日照が不足すると、塊根が徒長し貧相なフォルムになるなど、生育が鈍くなる原因になります。
特に成長期の恵比寿笑いは、光と熱を旺盛に求めるため、植物育成LEDライト(以下育成ライト)を補助的に使用するのも有効です。

日照があまり見込めない環境では、太陽光に近い光源であるフルスペクトルタイプであれば、育成ライトをメインの光源として使用しても問題ありません。
その場合は、株の天頂から30cm程度の距離を目安に照射すると、安定した生育が期待できます。


冬季は特に光量不足によって調子を崩しやすいため、室内管理では育成ライトを有効活用しましょう。
また、植物の成長には風(空気循環)も欠かせないため、室内管理の際は、必ずサーキュレーターを用いて室内の空気を循環させ、空気や湿度の滞留に注意しましょう。

水やりと用土、肥料、鉢の考え方
水やり|成長期と休眠期の違い
恵比寿笑いは夏季成長型の塊根植物です。
春から夏にかけて葉を展開し、活発に生育します。
成長期には、用土がしっかり乾いたのを確認してから、下の動画のようになるべく塊根に水がかからないよう注意しつつ、鉢底から勢いよく水が流れ出るまでたっぷりと水を与えます。
この“勢いよく流れ出る”ことがとても重要で、底穴から水が抜ける際に根の代謝で生じた有機酸などの老廃物を洗い流す「リーチング効果」が期待でき、鉢内環境を清潔に保ち、根腐れの防止にもつながります。

塊根に水がかかっても大丈夫ですが、蒸れを防ぐためにもできるだけ早めに拭き取ってあげましょう。
一方、気温が下がり始める秋以降は徐々に水やりを控え、冬の休眠期には基本的に断水、もしくは極少量に留めます。
このメリハリが、根腐れ防止と健全な生育につながります。
ちなみに筆者の場合、冬場でも週に一度、用土表面が軽く湿る程度の水やりを行っています。
これにより、冬でも細根が枯れず、春の立ち上がりもよいからです。
また、適度な湿度が乾燥を好む根ジラミの発生を防ぐ効果もあるからです。
(以前、冬に完全断水した塊根植物を根ジラミにやられて大変だったので……)
あくまでも筆者個人の雑感ではありますが、管理方法を考える際の一例として参考にしていただければと思います。
施肥(成長期の管理)

恵比寿笑いの施肥には、『微粉ハイポネックス』を薄めて使う方法がおすすめです。
ハイポネックス微粉は少量で十分な効果があります。
500mlペットボトルに対して微粉を0.2g(約0.2ml)ほど溶かすと、塊根植物に適した2500倍の、安全な希釈濃度になります。
0.1ccの計量スプーンだとすり切り2杯。写真にある商品に付属の緑色の計量スプーンを使用する場合は小さい1g計量のほうで、かさ高3mmくらいです。
これを成長期に月1回あげるとよいでしょう。
過湿に弱い恵比寿笑いに最適の用土
恵比寿笑いは乾燥には強い一方で、過湿には非常に弱い植物です。
特に真冬の低温時の多湿環境は、根腐れや塊根の腐敗を引き起こす大きな原因となります。
用土は、水はけと通気性を重視し、軽石・赤玉土を主体とした配合がおすすめです。
初心者の方は、市販の多肉用培養土でもOKです。
筆者は関さんが経験則に基づいてブレンドしたガディンツキープランツの多肉用土に、小粒の加賀軽石という天然の軽石と、毎年秋に神奈川県山北町で入手する堆肥を、ともに少量加えた用土を使用しています。


株のパフォーマンスを見ながら、このように自分流の用土作りを試行錯誤するのも、結構楽しいですよ。
相応しい鉢

鉢に対する考え方は人それぞれですが、基本的には水はけと通気性が確保できていれば、どのような鉢でも問題ないと筆者は考えています。
即ち、「相応しい鉢」とは、用土のパフォーマンスに寄り添い、根の育成をしっかりとサポートできる性能を持った鉢。
そこで筆者がたどり着き、ほとんどの植物に使用しているのが素焼き鉢。
アースカラーの落ち着いた色合いと、誰が考えたのかこのオーソドックスなフォルムは、独特な造形美を誇る恵比寿笑いを、主役として存分に引き立ててくれます。


また、冬場に屋内管理へ切り替えた際にも、どんなインテリアにも自然と溶け込み、植物と暮らす楽しさを満喫させてくれます。

何よりも、4号鉢で200〜300円程度と手に取りやすい価格。
気負わず使うことができます。
冬越しの注意点
恵比寿笑いは寒さに弱いため、管理環境が12℃以下にならないよう注意しましょう。

冬場は屋外管理を避け、18℃以上ある室内で前述の育成ライトとサーキュレーターを用いて管理するのが安全です。
株の抵抗力が落ちやすい冬季に空気が動かない環境だと、カイガラムシや根ジラミなどの害虫が発生しやすくなります。
それらは気づかないうちにダメージを蓄積させ、翌成長期の生育に影響を及ぼす恐れがあります。
また、窓際に置く場合は夜間の冷え込みにも十分注意しましょう。
よくあるトラブルと対処法
蒸れ

高温多湿の環境では、蒸れが起きやすくなります。
特に梅雨時期は、屋外管理の場合も一旦室内に取り入れ、風通しのよい場所で管理することが重要です。サーキュレーターなどで空気を動かすだけでも、蒸れ防止に大きな効果があります。
根腐れ

根腐れの主な原因は、低温時の水やりや、過湿な用土です。
異変を感じたら、早めに鉢から抜いて根の状態を確認し、傷んだ部分を取り除いてから新しい用土に植え替えましょう。
そもそも、用土自体が適切でない可能性もあるため、本当に水はけのよい、多肉植物に適した用土なのかも見直しましょう。
生育不良

日照不足や水の与えすぎは、生育不良の原因になります。
葉の色や張り、塊根の状態を観察しながら、置き場所や管理方法を見直すことで、多くの場合は改善が期待できます。
とにかく、大切なのは日々の観察です。
恵比寿笑いの自生地「マダガスカル」の環境を知り、憧れの現地球へ
マダガスカルの恵比寿笑い自生地はこんなところ。👇🏻
この記事では、恵比寿笑いの実生株を育てることに主眼を置き、その魅力や基本的な育て方を紹介してきました。
輸入株である現地球については、日本で入手可能な恵比寿笑いの“バリエーション”という位置づけで紹介しました。
ただ、実生株を購入し、丹精込めて育て続けていくと、そこは人の子。いずれは現地球を育ててみたいと、憧れの存在になっていくはずです。
ここでは、そんな「いつか現地球を迎える日」に備えて、恵比寿笑いがつい最近まで生きていたマダガスカルの気候を紹介します。

参考:Weather Atlas(Itremo climate data)
上の気候図を見ていくと、恵比寿笑いは一見すると夏型塊根というより、冬型塊根に近い性質を持っているようにも感じられます。
実際に野生の恵比寿笑いは、自生地ではそうした側面を持っており、そこに目を向けることは、将来あなたが現地球を育てる際の参考にもなります。
もっとも、日本で育てる恵比寿笑いは、実生株であれ現地球であれ、時間をかけて栽培環境に慣らしていくことで、生育のリズムは徐々に安定していきます。
こうして生育がすでに安定している個体を購入するのであれば問題ありませんが、根がカットされた状態で輸入された「ベアルート株」などを入手した場合、発根後にいきなり日本の環境で育てると、根腐れなどを起こして枯れてしまうリスクもあります。
そのため、遠くマダガスカルを離れ、異国で目覚めた株をまずは安定させる、という意味でも、上の気候図は参考になるはずです。
実際に筆者も現地球を入手した際は、株が落ち着くまでは現地の気候を意識した管理を行い、徐々に東京の気候に慣らし、現在はよい状態で根も活着しています。

まずは実生株を通して恵比寿笑いという植物を知り、育てる楽しさを味わう――その延長線上に、現地球という選択肢があると、恵比寿笑いにかける「夢」というのも、広がっていきます。
恵比寿笑いを交配してみよう|交配方法・播種・発芽レポート(実体験)
上手に育てられるようになったら、複数株を揃えて、交配にもチャレンジしてみましょう。
目指せ発芽!
恵比寿笑いの開花と交配(2025年1月)
開花の様子

交配するためには、まずは2株以上の恵比寿笑いを栽培し、それらが同じタイミングで開花する必要があります。
人工交配の手順
まず、開花した双方の株で、以下のように花弁(はなびら)を上の部分でカットします。

切り口から大量の蜜が出てくるので、それを綿棒などで吸い取ります。

蜜が出なくなったら、縦に切り込みを入れ、筒の中にある雄しべを露出させます。
雄しべにできるだけ触れないように、慎重に行います。

ちなみに、花弁の中心部には、このようにおしべがあります。

この三角錐状の雄しべの中に、まるで雄しべに守られるように、中心部に雌しべがあります。(下の断面写真参照)

雄しべの先端部分(やく)には花粉がたくさん付着しています。
この花粉を先の尖ったもので、内側からすくい取り、もう一方の株の花の雌しべの先端部分、柱頭(ちゅうとう)に付着させ、交配を行います。
双方の株で複数の花が咲いている場合は、ペアリングの分だけ交配の成功率も高くなります。
実際の作業はこんな感じで行います。👇🏻
成功の手応え

2025年1月4日に交配作業を行ってから、10日ほどで子房が膨らみ始めました。
そこから約2カ月後、3月1日の状態が上の写真です。
まるでインゲンマメみたいな種鞘(しゅしょう)ですね。
光に透けてサヤの中の種子の影が見えます。

それから1カ月が経とうとしていた3月25日、突然サヤが破け、中の種子が弾け飛びました。
これを防ぎ、無事にすべての種子を回収するためには、子房が膨らんできた段階でネットをかぶせておけばよかったと後悔。

播種から発芽、そして現在
発芽後の様子
2025年1月4日に交配作業を行ってから約2カ月後の3月27日に播種。
フレッシュな種子は発芽力も高く、翌々日の3月29日には発芽。

2025年4月13日、まだ大きさは豆粒程度ながらも、すでに恵比寿笑いっぽさが出始めています。

見え始めた個体差
その後も連続して開花したため、合計35個の種子を採取し育苗中です。
この記事の執筆時で発芽後1年が経過しようとしていますが、塊根部もしっかりとしてきて、それぞれ、まん丸や扁平など個性を見せ始めています。

まとめ|恵比寿笑いという植物のその奥底に・・・
恵比寿笑いは、パキポディウム属の中でもひときわ個性的な存在です。
低く広がる塊根と可憐な花、静かな佇まいは、他の多肉・塊根植物にはない独自の美しさを持っています。
しかし共に過ごすうちに、その静けさの中に、過酷な大自然の中で個性を確立したという、強烈なロックスピリッツのようなものが奥底に宿っているのを感じます。

育てるほどに理解が深まり、季節ごとの変化に向き合う時間そのものがひとつの財産のようにも感じられるでしょう。
実生株から始め、現地球や白花個体、さらには恵比寿大黒などへと世界を広げる楽しみもあります。
いつか交配に挑戦するのも一興でしょう。
数ある塊根植物の中でも育てやすく、それでいて育て甲斐がある恵比寿笑い。
ぜひ、その奥深さを体感してみてください。
恵比寿笑いの学名は Pachypodium brevicaule Baker です。
この学名は、19世紀にイギリスの植物学者ジョン・ギルバート・ベイカー(John Gilbert Baker)によって記載されました。
属名の Pachypodium は、ギリシャ語で「太い」を意味する pachys と、「足」や「基部」を表す podion を組み合わせた言葉です。
これは、幹や根元がどっしりと太くなるパキポディウム属の特徴を、そのまま名前にしたものです。
種小名の brevicaule は、ラテン語の brevis(短い)と caulis(茎)に由来し、「短い茎をもつ」という意味があります。
恵比寿笑いは、パキポディウムの中でも特に茎が低く、地面に張り付くような姿をしていますが、その特徴がそのまま学名に反映されています。
つまり Pachypodium brevicaule という名前は、「根元が太く、茎の短いパキポディウム」という、見た目をそのまま説明した学名なのです。
Pachypodium brevicaule は、日本では「恵比寿笑い(えびすわらい)」という和名で親しまれています。
この名称は、学名のように文献上で正式に命名されたものではなく、日本の園芸文化の中で自然に定着した通称と考えられています。
恵比寿は七福神の一柱で、福徳や商売繁盛を象徴する神様として古くから信仰されてきました。
常に穏やかな笑顔で描かれる存在であり、日本人にとって親しみ深く、縁起のよい象徴でもあります。
こうした恵比寿のイメージと、この植物のボテっとしたまるで大福餅のような姿形が重なったことが、「恵比寿笑い」という和名の由来になったと考えられます。
学名 brevicaule が「短い茎」という形態的特徴を客観的に表しているのに対し、和名「恵比寿笑い」は、この植物を目にした日本人が抱いた感情や縁起観を映し出した名前といえるでしょう。
育て、眺めることで福を招く。
そうした縁起物としての側面もまた、恵比寿笑いの大きな魅力のひとつです。
自生地での恵比寿笑いは、標高約1,200〜2,000mの岩が露出した斜面や、土の浅い岩場に自生しています。
こうした環境で高さを持つことは必ずしも有利ではありません。
強い風や急激な温度変化、さらには直射日光によるダメージを受けやすくなるからです。
そこで恵比寿笑いは、重心を低く保ち、地表に張り付くような形へと進化しました。
扁平な塊根は、岩の隙間に安定して収まり、外的要因の影響を最小限に抑えることができます。
また、雨季には扁平な塊根を地表に露出していることで、雨が降った際には素早く、より多くの水分を吸収し、短期間で貯蔵することが可能になります。
見た目のユニークさは、こうした合理的な環境適応の結果でもあるのです。
扁平なボディの随所随所にトゲをまとう恵比寿笑い。
トゲものというと、キャラ的に考えるとどこか攻撃的で排他的なイメージで捉えられがちですが、恵比寿笑いの場合は少し事情が異なります。
恵比寿笑いのトゲは短く、全体のフォルムもどこか楽しげで柔らかな印象です。
そのため、攻撃性を感じさせるというよりも、外からの影響を穏やかに遮る“結界”のような役割として解釈することができ、恵比寿笑いを家の鬼門である北東や、裏鬼門とされる南西に置くことで、悪い氣から空間を守る効果が期待できます。
ただし、北東向きに置く場合は日差しが大好きな恵比寿笑いにとっては日照不足の恐れがあるため、植物育成LEDライトで明るく照らしてあげてください。
そうすることで、運気もさらに上がるでしょう。
☯️風水アドバイス:シャイアン・李
用土の乾き具合は、慣れれば目視や用土の感触、鉢を持ち上げた時の感覚などで判断できるようになりますが、初心者の方は鉢の縁に竹串を挿し、30秒ほど置いてから抜いたときの土の付着具合で状態を判断すると失敗しにくいでしょう。
引き抜いた串が乾いている、もしく土がうっすら付く程度であれば水を与えるタイミングです。
しかし、串が湿っていたり、湿った土がしっかり付いていた場合は、水やりはもうしばらく待ちましょう。
微粉タイプは液体タイプと比べ、カリ(K)の含有量が非常に高く、株をしっかり締めながら健康的に育てるのに向いています。
カリは細胞を強くし、塊根が締まって太りやすくなるほか、徒長を抑え、根のストレス耐性を高める働きがあります。
そのため、形を崩さずに育てたい冬型塊根との相性は抜群です。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 編集部員K - ライター・エディター -

フリーランスのロックフォトグラファーの傍ら、サボテンを愛し5年、コーデックスに魅せられ3年を経て、2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。多肉植物関係の記事を中心に、精力的に取材&執筆を行う。飼い猫「ここちゃん(黒猫♂6歳)」に日々翻弄されている。
記事をシェアする
季節のおすすめアイテム
テーブルクランプ -GARDEN STORY Series-
これからの時期のガーデンパーティーにぴったり! テーブルに取り付けるだけで簡単にデコレーションスペースを作れるテーブルクランプ。室内・屋外を問わず使用でき、ガーデンの装飾アイデアが広がります。
新着記事
-
ガーデン&ショップ

都立公園を新たな花の魅力で彩る画期的コンテスト「第4回 東京パークガーデンアワード」夢の島公園【4月続…
新しい発想を生かした花壇デザインを競うコンテストとして注目されている「東京パークガーデンアワード」。第4回コンテストが、都立夢の島公園(東京都江東区)を舞台に、スタートしています。2025年12月、5人の入賞…
-
イベント・ニュース

【5月のGWは横浜へ!】日本最大級の花と緑の祭典「横浜フラワー&ガーデンフェスティバル2026」開催
「GREEN×EXPO 2027」開幕1年を切り、盛り上がりを見せる横浜で、今年も日本最大級の園芸イベント「横浜フラワー&ガーデンフェスティバル2026(通称:横フラ)」が5月2日(土)〜4日(月)の3日間、開催されます。…
-
ガーデン&ショップ

まちまるごとローズガーデン!広島・福山市、100万本のバラと400の庭を巡る春の旅PR
広島県福山市は「ばらのまち」として知られ、市内には約100万本のバラが咲きます。公園や街路、学校、企業、そして個人の庭まで——。市内には400以上のバラ花壇が点在し、まるでまち全体が一つのローズガーデンのよ…
























