フリーランスのロックフォトグラファーの傍ら、サボテンを愛し5年、コーデックスに魅せられ3年を経て、2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。多肉植物関係の記事を中心に、精力的に取材&執筆を行う。飼い猫「ここちゃん(黒猫♂6歳)」に日々翻弄されている。
編集部員K -ライター・エディター-

フリーランスのロックフォトグラファーの傍ら、サボテンを愛し5年、コーデックスに魅せられ3年を経て、2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。多肉植物関係の記事を中心に、精力的に取材&執筆を行う。飼い猫「ここちゃん(黒猫♂6歳)」に日々翻弄されている。
編集部員K -ライター・エディター-の記事
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多肉・サボテン
パキポディウム・ウィンゾリーは赤花が咲く塊根! 注目の園芸家が育て方と魅力を徹底解説
プロの園芸家をも虜にする「パキポディウム・ウィンゾリー」 今回お話をうかがうのは、2024年9月に世田谷区・九品仏でビザールプランツ専門店「gadintzki plants(ガディンツキー・プランツ)」をオープンさせた園芸家・関ヨシカズさん(以下、関さん)。本連載「多肉植物狂い」でも、その深い知識と経験をたびたびご紹介しています。そんな関さんが、数えきれないほどの多肉植物の中で「いちばん好きな品種」として挙げるのが、パキポディウム・ウィンゾリー。店内には、販売用の若株とは別に、シンボルツリーのような巨大な親株が鎮座しており、ウィンゾリーへの並々ならぬ思いが伝わってきます。今回は関さんに、そんな“特別な存在”であるウィンゾリーについて、たっぷりと教えていただきました。 「パキポディウム・ウィンゾリー」とは? 「ウィンゾリー」の基本情報 植物名: パキポディウム・ウィンゾリー 学名: Pachypodium windsorii Poiss.(2004年以降※)※以前はPachypodium baronii subsp. windsorii と記載された 英名: P.Windsorii または、Dwarf baobab(小さなバオバブ) 和名: 特になく、ウィンゾリーと呼ぶ 科属: キョウチクトウ科(Apocynaceae)パキポディウム属(Pachypodium) 原産地: マダガスカル北部アンツィラナナ州、ウィンザーキャッスル周辺の乾燥した岩場地帯 形態: 多年草 / 夏季成長型塊根植物 園芸分類: 多肉植物・塊根植物(コーデックス) 開花時期: 初夏〜盛夏(6〜8月頃 / 首都圏以西の場合) 草丈/樹高: 10〜30cm(栽培環境による)※野生種は1m以上の個体もある 耐寒性: 弱い(10℃以上を推奨) 耐暑性: 強い(高温・乾燥に強い) 花色: 鮮やかな赤(中心部は黄色) ウィンゾリー開花の瞬間(筆者所有株) 黄色や白い花を咲かせる品種が多いパキポディウム属の中で、ウィンゾリーは珍しく赤い花を咲かせることから、ひときわ人気を集めています。日本酒を温めて飲むときに使う「とっくり🍶」を思わせるユニークな幹の形は、どこかひょうきんなキャラクターを感じさせ、気づけばつい目で追ってしまう、そんなじつに摩訶不思議な植物です。 「ウィンゾリー」はワシントン条約で保護されている ウィンゾリーは、2023年2月3日付でワシントン条約(CITES)の附属書Ⅰに掲載されました。この附属書Ⅰに記載される種は絶滅の危険性が高く、国際取引がその存続に影響を与える可能性があるとされており、野生個体の国際商取引は原則禁止となっています。日本国内では「種の保存法」により、CITES附属書Ⅰの種は「国際希少野生動植物種」に指定されており、譲渡や販売なども厳しく規制されています。ただし、親株も含めて管理下で人工的に増やされた繁殖個体であれば、国内での流通・売買は可能です。つまり、私たちが手に入れられるウィンゾリーは、ナーサリーや趣味家が育てた実生株(タネから育てた株)に限られます。そのため流通量は少なく、とても希少で貴重な植物となっています。※参照資料1:環境省, 参照資料2:CITES 「バロニー」との関係|「ウインゾリー」は亜種として位置付けられていた ウィンゾリーを語るに外せないのが、同様に赤い花を咲かせるパキポディウム・バロニーの存在。 現在確認されているパキポディウム全25種類のうち、赤花を咲かせるのはこのウィンゾリーとバロニーだけで、ウィンゾリーは長い間、原種であるバロニーの亜種(下位区分の種)とされてきたため、バロニーに関しても解説します。 「バロニー」の基本情報 植物名: パキポディウム・バロニー 学名: Pachypodium baronii Costantin & Bois 科属: ウィンゾリーと同じ 原産地: マダガスカル北西部マハジャンガ州、ベファンドリアナ(Befandriana-Nord)からマンドリツァラ(Mandritsara)にかけての標高の低い乾燥林や岩場 草丈・樹高: 20〜50cm(栽培環境・個体差による)※野生種は1m以上の個体もある 花色: ウィンゾリーと同様の鮮やかな赤(中心部は黄色) 「パキポディウム・バロニー」は19世紀後半に植物収集家でもある英国人宣教師バロン(Richard Baron)により発見されました。そして氏が逝去した1907年、フランスの植物学者ジュリアン・コスタンタン(Julien Noël Costantin)とデジレ・ボワ(Désiré Georges Jean Marie Bois)によって、フランスの権威ある学術誌Annales des Sciences Naturelles, Botanique(自然科学年報・植物学シリーズ)の第9シリーズ第6巻317ページに、発見者のバロン氏に敬意を表し、Pachypodium baroniiとして記載されました。※参考文献:BHL, 参照データ:Kew(1887年9月にバロン氏が実際に採集したバロニーの標本を確認できます。) 「ウィンゾリー」の発見と、その後の経緯 バロン氏がバロニーを発見してからおよそ30年後の20世紀初頭、パキポディウム・ウィンゾリーは、フランスの植物学者ポワソン(Henri Louis Poisson)により、マダガスカル北部、アンツィラナナ州のウィンザーキャッスル周辺で発見されました。このため、ウィンゾリーという小種名が付きました。 ガディンツキープランツから自生地ウィンザーキャッスルまでの直線距離は約10,838kmで、山手線を314周乗るのと同じ距離だ。現地に行くには航空機の乗り継ぎと地上移動も含め、約30時間を要するといわれている。 ポワソンは1916年に本種についてBulletin Trimestriel de l’Académie Malgache(マダガスカル学士院季刊誌)の新シリーズ第3巻に最初の記載をしましたが、1949年にフランスの植物学者ピション(Marcel Pichon)によって Pachypodium baronii var. windsorii 、つまりバロニーの変種として再分類されます。しかし2004年に、パキポディウム属の分類学的整理の権威でもあるスイスの植物学者リュティ(J.M. Lüthy)が英国のサボテン・多肉植物学会の年報『Bradleya』第22号に、ウィンゾリーは独立種として扱うべきであると提唱する論文を掲載し、以降は植物分類学上は独立種とされています。※参照データ1:Plantamor, 参照データ2:Kew, 参照データ3:Kew 「バロニー」と「ウィンゾリー」、見た目の違いと価格差 前述のように、ウィンゾリーの発見と分類には複数の植物学者が関与していますが、日本国内では現在も「バロニーの亜種」として扱われることが多くあるため、その2種の違いを整理してみましょう。最も明確な違いは、葉と幹の形状です。バロニーの葉は細くシャープな印象なのに対し、ウィンゾリーは全体的に丸みを帯びた柔らかい印象を与えます。 幹の違いも顕著です。バロニーは円錐状の単幹で、分枝しないのが基本。一方、ウィンゾリーは地際がぷっくりと膨らんだ、とっくりのような形状をしており、若いうちから分枝しやすい性質があります。また、パキポディウム属全体において「太く丸みのある幹」が好まれる傾向があるため、この点でもウィンゾリーは人気を集めやすいのです。 続いて、花の違いにも注目です。 両種とも赤い花を咲かせ、中心部が黄色く染まる点は共通しています。しかし、ディテールに目を向けると違いがはっきりします。バロニーの花は細長く、ひだが付いており、どこかトロピカルな雰囲気。対してウィンゾリーの花は花弁(はなびら)がふっくらとしていて、可愛らしく、柔和な印象を与えます。中心部の黄色い部分は「喉部(こうぶ)」と呼ばれ、「ネクターガイド(蜜標)」として虫などの送粉者(ポリネーター)に蜜の在処を示す役割を果たします。特に、マダガスカルに生息するスズメガは赤と黄色のコントラストを認識しやすいため、これは受粉成功率を高めるための色彩戦略と考えられています。 こうした適応は、バロニーとウィンゾリーが過酷な自然環境の中で種を残していくための“生存戦略”でもありますが、その造形美は見る者の心をつかんで離しません。開花までの年数にも差があります。実生から開花まで、おおよそバロニーは6〜7年、ウィンゾリーは3〜4年。この開花スピードも、ウィンゾリーの人気を後押しする理由のひとつです。価格面では、同じく実生2〜3年の株でも、ウィンゾリーのほうが2〜3倍ほど高価で取引される傾向にあります。それだけに希少性と人気の高さがうかがえます。とはいえ、どちらも個性豊かで魅力にあふれる品種。育ててみると、それぞれに異なる面白さを味わえるはずです。 「ウィンゾリー」と園芸家「関ヨシカズ」 さて、そんなウィンゾリーと関さんの「出会い」、そして彼がたどってきた「ウィンゾリーとの歩み」を語っていただきました。 出会い 僕が塊根をやり初めた17年前、初めて入手したパキポディウムはグラキリスでした。その時もウィンゾリーの存在は知ってはいたのですが、その頃のウィンゾリーはまだかなりレアな存在だったため、価格的に手が出ませんでしたね。小さな株はいくつか手にはしましたが、親株になるレベルのものをいつかは、と憧れを抱いていて、2016年に初めて写真(下)の大株を購入しました。以来、この株で自家受粉を行ってきたため、旧店(フラワーガーデン・セキ)時代と現在当店で販売している多くのウィンゾリーの親株として君臨しています。もはや御神木のような存在です(笑)。 この株を手に入れたことでウィンゾリーの魅力に完全にハマり、現在までに200株以上のウィンゾリーを売買してきました。 旧店(フラワーガーデン・セキ)時代に手がけたウィンゾリーの数々。 写真提供:関ヨシカズ 園芸家関ヨシカズを虜にした「ウィンゾリー」の魅力 ウィンゾリーの魅力はたくさんありますが、僕が一番初めに惹かれたのは花ですね。とにかく美しい! この奇怪な幹から鮮烈な赤い花を咲かせるわけですから、その圧倒的な花の存在感に完膚無きまで魅了されました。また、ほかのパキポディウムにはない独特な味わいのあるフォルムにも惹かれました。 パキポディウムは全体的に好きなのですが、やはりウィンゾリーへの想いは格別ですね。パキポディウムの受粉は、僕はウィンゾリーでしか行わないので、ある意味コーデックス(塊根植物)のイロハを学んだのがこのウィンゾリーだといっても過言ではないと思います。 ガディンツキープランツの「ウィンゾリー」 あいにく2025年5月の取材時は店頭にあった株すべてがSOLD OUT。以下は、直前まであった株たちです。いずれも、前出の親株から採取したタネからの実生株で、関さんが天塩にかけて育てた良型の株ばかり。 参考価格:25,000円(税別) 写真提供:関ヨシカズ 参考価格:25,000円(税別) 写真提供:関ヨシカズ 参考価格:8,000円(税別) 写真提供:関ヨシカズ 下の写真は、現在ガディンツキープランツ店内で栽培されている、前出の親株からの稚苗(非売品)。 2024年6月に播種した1歳の稚苗たち。 2023年8月に播種した約2歳の稚苗。稚苗で分枝するのは珍しいため、将来の動向が楽しみ。 これらの稚苗は、基本的に限られたお客様にしか販売しないもので、値段が付いて店頭に並ぶのは3年目くらいにまで成長してから。その時の価格は樹形により変動しますが、およそ5,000円から。※ウィンゾリーの在庫状況は随時店頭にDMにてお問い合わせください。 「ウィンゾリー」の育て方 そもそも、初心者でも育てられるのか? 多肉植物を育てた経験がある方であれば、コーデックス(塊根植物)も特別に難しいものではありません。重要なのは、このあと解説しますが、「栽培に適した環境をつくれるか否か」です。一方、多肉植物自体が初めてという方にとっては、多肉全般に共通する「乾かし気味に管理する」という点が少し難しく感じるかもしれませんが、これはコツを理解すれば心配はいりません。ウインゾリーを“はじめてのコーデックス”として選ぶのは、ある意味でとてもよい選択といえるでしょう。 置き場所と日光管理|日差しと風が好きな「ウインゾリー」 直射日光と風が必須 パキポディウム・ウィンゾリーは、マダガスカルの強い日差しのもとで自生している植物です。そのため、栽培においても直射日光が欠かせません。日照不足になると、徒長してしまったり、葉の色つやが悪くなる原因となります。成長期である春から秋にかけては、陽当たりと風通しのよい屋外に置くことが理想的です。その際、エアコンの室外機付近は避けてください。日光と風にしっかりと当てることで、葉の展開や幹の締まりがよくなり、健康的に育ちます。ただし、猛暑日や、梅雨の湿度には注意が必要です。 レザーのような質感を持つウィンゾリーの葉は、強靭なため葉焼けしにくいのが特徴ですが、個体差があるため、年々異常さを増す昨今の真夏の強光には注意が必要。葉焼けした場合は遮光や移動で様子を見つつ、徐々に直射日光に慣らしましょう。 室内管理の注意点 室内でパキポディウム・ウィンゾリーを育てる際の最大のポイントは、日照と風通しの確保です。ウィンゾリーは日光を非常に好むため、できるだけ長時間、陽射しが入る明るい場所に置くようにしましょう。また、TSUKUYOMIやAMATERASなど、高出力な植物育成LEDライトを使えば、天候に左右されずに太陽光に近い光を確保できるため、こちらもおすすめです。 日照不足になると、成長が止まったり、葉を落とす原因になります。また、室内は空気がこもりやすく湿度も上がりやすいため、風通しを意識して管理することが大切です。特に夏場や梅雨時期は、サーキュレーターを使って空気の流れをつくると、蒸れやカビのリスクを下げ健康に育てることができます。 エアコンの風にも注意を。風が直接当たる場所は避けて管理しましょう。乾燥や急激な温度変化によって、株にストレスがかかる恐れがあります。照度と換気を意識しながら、穏やかな環境を整えてあげることが室内管理のポイントです。 水やりのコツ|塊根植物ならではの管理方法 季節ごとの水やりの頻度 パキポディウム・ウィンゾリーは季節によって水の必要量が大きく変わる植物です。無理に一定の頻度で与えるのではなく、気温や成長状態を見ながら柔軟に対応しましょう。 春(4〜5月):生育開始期気温が安定してきたら水やりを再開します。10日に1回程度を目安に、土がしっかり乾いてから与えます。 夏〜秋(6〜10月):成長期のピークもっとも活発に育つ時期です。週1回〜10日に1回が目安ですが、風通しのよい環境で乾きが早い場合はやや多めでもOK。ただし蒸らさないためにも、夕方以降に与えましょう。 ここ数年の8〜9月は夜でも気温が下がらず寒暖のメリハリがなくなるため、成長が緩慢になる傾向があります。このため、この時期の蒸れには特に注意しましょう。 晩秋(11月):生育終了期気温が下がり始めるとともに徐々に水やりを控えます。2〜3週間に1回程度に減らし、塊根が休眠に入る準備を促します。 冬(12〜3月):休眠期夏型塊根植物のウィンゾリーは、冬になると休眠に入ります。通常、休眠期に入ると落葉しますが、環境や個体差により葉を完全には落とさずに、数枚残したまま冬を越すこともあります。これは決して異常ではなく、気温が比較的高く、日照もある程度確保されている場合に見られる自然な反応です。ただし、葉が残っているからといって根が活発に水を吸っているわけではないため、冬の水やりはあくまでも「休眠モード」での対応が基本です。休眠モード中は根の活動が極端に鈍くなるため断水気味の管理が基本ですが、完全に水を絶つのではなく、月に1〜2回、用土の表面がほんのり湿る程度にごく少量を与えるのが理想的です。この“ほんのり加減” の湿り気が細根に刺激を与え、休眠中の枯死リスクを回避する効果があります。 ほんのり加減は、写真の4号鉢(直径12cm)くらいの大きさだと、株周りを軽く2週程度でよい。 ただ一方で、2カ月以上まったく水を与えない「完全断水」という管理法も存在します。特に過湿になりがちな暖房の効いた室内では、完全断水のほうが根腐れを防ぎやすく、メリハリのある休眠と成長のリズムを作れるという利点があります。さらに、しっかりとした休眠を経験した個体は、春の芽吹きが力強くなる傾向も見られます。しかし、初めて塊根植物を育てる方にとって「完全断水」は少々ハードルが高く感じられるかもしれません。「ほんのり潤す派」と「完全断水派」、どちらも間違いではなく、栽培環境とご自身の管理スタイルに合った方法を選ぶことが大切です。 「ウィンゾリー」は乾燥には超強い。ゆえに、水やりはタイミングが重要 ウィンゾリーは、塊根部分に水分を蓄える性質を持ち、乾燥に非常に強い多肉植物です。また、CAM型光合成という特殊な光合成を行う植物で、夜間に気孔を開き、光合成に必要な二酸化炭素を取り込むことで、水分の蒸散を抑えるしくみを備えています。こうした特性を持つ植物は、水を与えすぎると根腐れを起こす恐れがあるため、前述の頻度を参考に、適切な水やりを行ってください。 水やりをする上で重要なのは、成長期(春から夏)と休眠期(秋から冬)でしっかりメリハリをつけること。成長期には土の表面がしっかり乾いてから、鉢底から水が流れる程度にたっぷりと与えるのが基本ですが、全体的にギュッと詰まった感じの樹形にさせたい場合は、用土表面の乾燥を確認後1週間程度経ってから与えるという「じらし戦法」という方法もありますが、これは基本的な水やりに慣れてから行ったほうがよいでしょう。 用土と鉢の選び方|通気性がカギ 用土のポイント 用土は、市販のサボテン・多肉植物用土でOKですが、粒が大きい場合は、粗めの軽石や川砂を足して調整するとよいでしょう。水はけが悪いと根腐れを起こしやすいので、必ず排水性のよい土を使ってください。ガディンツキープランツで販売している用土は、多肉や塊根によい素材を網羅的にブレンドしているので、おすすめです。 関さんの長年の経験が詰まったガディンツキープランツのオリジナル多肉植物用培養土。容量:2L 価格:715円(税込) 鉢選びのポイント 鉢は購入時のプラ鉢のまま栽培しても大丈夫ですが、もし自前の鉢に植え替える場合は、通気性のよい素焼きのテラコッタ鉢が理想的です。植え替えの際、鉢底には軽石や鉢底ネットを敷いて排水をよくしてください。 また、塊根の成長に合わせて鉢サイズを選び、根詰まりに注意してください。ちなみに関さんのおすすめはスリットが入ったプラスチック鉢。 プラスチック(特に黒や緑色)は熱を溜め込む性質があるため、直射日光が当たったときに鉢内の温度が上がるメリットがあります。スリットが入っていれば、夏は適度に熱放出してくれるし、冬は温度を溜め込むことができ、塊根植物には最適です。何より安価なのも◎。 肥料の与え方|与える場合は成長期を狙って適量を ウィンゾリーをはじめとする塊根植物は、もともと栄養の乏しい土地に自生しているため、肥料を与えすぎると徒長したり、バランスの悪い形に育ってしまうことがあります。基本的には植え替え時に堆肥を用土に混ぜ込む程度で、小型〜中型の株であれば基本的に追肥はしなくてもOK。ただし、繁殖のためタネを採取したあとはエネルギーを消費したため“お礼肥え”としてごく少量の液肥を与えるとよいでしょう。 目安としては水ペットボトル2Lに対し、液体肥料(『ハイポネックス』の場合)のキャップ内のシールリング(円錐状の突起)のすり切り未満くらいが適量。 一方、春〜夏の成長期に合わせて高濃度の液肥を適切に与えることで、幹の肥大化を爆速化させる栽培法もあります。ただしこの場合、光量が不足していると徒長につながるため注意が必要です。施肥は育て方や環境に左右されるため、これが正解というものはありません。もし肥料を与える場合は、薄めた液体肥料を月1〜2回、ごく控えめに与える程度が無難です。肥料はあくまで“補助的な栄養”。植物の様子を観察しながら、慎重に使うことが美しい株に育てるコツです。 冬越しの方法|低温に弱い「ウィンゾリー」を守るには? 最低管理温度と室内取り込みの目安 温暖なマダガスカル原産のウィンゾリーは、日本の冬の寒さが苦手なため、冬場の温度管理が非常に重要です。最低温度の目安は15℃。それを下回ってすぐに枯れるわけではありませんが、春の15℃と真冬の15℃では植物の感じ方が異なるため、冬は15℃ギリギリではなく、それ以上をキープするのが理想です。特に10℃を下回る環境に長時間置くと、枯死のリスクが高まるので注意が必要です。 ウインゾリーをはじめとするパキポディウム属は、環境の変化に対して非常に敏感で、その反応が見た目に表れやすい植物です。気温の変化によって紅葉したり、自然に落葉したりするので、これらのサインを観察することが室内に取り込むタイミングを見極めるポイントになります。具体的には、11月に入り葉が黄色くなりはじめたら、それが取り込みの合図です。 室内取り込み後のケア 室内に取り込んだ後も、室温が15℃を下回らないように管理しましょう。これは非常に重要なポイントです。特に寒さの厳しい1〜2月は、夜間や留守中などに室温が10℃を下回る懸念がある場合は、鉢の温度を保つ目的で育苗用のヒーターマットを使用するのも効果的です。 ヒーターマットは本来育苗用だが、この上に置くだけでも保温効果がある。 写真:Amazon.co.jp 現在の住宅環境では、室内がそこまで冷え込むことは少ないかもしれませんが、寒冷地にお住まいの方や断熱性の低い住居で栽培している場合の室温管理には特に注意が必要です。 プロが教える「ウィンゾリー」を選ぶポイントと購入時の注意 よい個体の見分け方|ここをチェック! 現在市場に流通しているパキポディウム・ウィンゾリーは、基本的に実生株が主流です。そのため、根のない状態で販売されることは少ないですが、タイや台湾で栽培された「輸入実生株」の中には、植物防疫法により根を切ったまま輸入され、未発根のまま出回っているものも存在します。 ガディンツキープランツで販売されているタイ産の輸入実生株。もちろんしっかりと根付いている。価格:12,650円(税込) こうした株はフリマアプリなどで相場より安く手に入る反面、発根の有無はしっかり確認をする必要があります。もし未発根株であれば、自力で発根させるための知識や技術、そして根気が求められます。(※輸入株の発根方法については今後の連載で詳しく解説予定です。)株の形状は好みによりますが、ウィンゾリーらしい“良形”として人気が高いのは、地際のふくらみが丸く太く、とっくり型のフォルムを持つ個体です。この形にくびれが入り、上に幹がスッと伸びるバランスの良い株は特に評価が高く、価格も上がる傾向があります。特に、実生3〜4年ほどの若株で徒長がなく、脇芽が出ていない個体は人気が集中します。 筆者所有株。 購入時参考価格:18,000円 一方、ウィンゾリーは若いうちから分枝しやすいため、バランスのとれた分枝株も評価が高く、特に中〜大型株ではその傾向が顕著です。これは、分枝が進むことで開花数が増え、採種できるタネの量も増加するためです。 筆者所有株で関氏の旧店時代に入手したもの。購入時参考価格:25,000円 分枝の形状は、地際から錨状⚓️に伸びるタイプや、上部でY字に分かれるタイプなどさまざま。最終的には「自分の好み」が最も大切な選定基準になります。そもそも塊根植物には「定価」というものが存在せず、株の状態や相場、売り手の判断によって価格が決まります。だからこそ、園芸店などで気になる株に出会ったら、その時に感じたインスピレーションを大事にしましょう。これはウィンゾリーに限らずですが、ビザールプランツ(珍奇植物)を購入する上で何よりも大切なのは、実際に目で見て、触れて、感じることです。あとはご自身の予算と相談しながら、納得のいく株を見つけてください。 ハイブリッド株には要注意! ウィンゾリーがバロニーと同じ場所で栽培されていると、両者が同じタイミングで開花した場合、虫などの送粉者(ポリネーター)の媒介によって、両者間で交配が行われていまい、バロニーの血が入ったウィンゾリー、いわゆるハイブリッド種、通称「ウィンバロ」が作出されてしまうことがあります。 筆者所有株。発芽して葉が出て初めて判明する純血か否か。フリマアプリでウィンゾリーの種子を購入すると常にこのリスクが伴う。 上の写真は実生2年目の株ですが、幹はウィンゾリーのキャラクターを持っていますが、シャープな葉は明らかにバロニーのもの。このように、ハイブリッドな株をウィンゾリーとして割安で販売しているケースもあるため、注意が必要です。ただ、これはこれでどんなふうに育つのか楽しみですけどね。 まとめ|「パキポディウム・ウィンゾリー」を育ててみよう! ウィンゾリーをうまく育てるためには、まず「強い光」、「風通し」、「適切な温度」、という3つの基本環境を整えられるかがカギになります。これは“枯らさないため”というより、ウィンゾリー本来の“美しさを引き出すため”の育て方です。マダガスカルの厳しい自然を生き抜いてきたウィンゾリーは、もともととても丈夫な植物。とはいえ、必要な条件が一つでも欠けると、枝が徒長したり、花が咲かなくなったりといった、本来の魅力を失ってしまいます。そうした個体は免疫力も落ち、病気や害虫のリスクも高まります。植物栽培においていちばん大切なのは、「適切な愛情」を注ぐこと。過保護にするのではなく、植物が求める環境と世話を見極めて、きちんと応えてあげる。それが、ウィンゾリーを健やかに、美しく育てるコツであり、何よりの楽しさでもあります。この記事を読んでその魅力を感じたら、迷わずにウィンゾリー栽培にトライしてください!その価値がある植物ですから。
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多肉・サボテン
癒やし系ぷにぷに多肉植物10選|見てほっこり育ててハマる、推しの品種を厳選紹介!
癒やしが必要な今、多肉植物という選択肢 新生活が始まり、少しずつ慣れてきたころにやってくる5月病。なんとなく気分が沈んだり、疲れが抜けない、という方も多いのではないでしょうか?そんな時、そっと心に寄り添ってくれるのが、小さな植物たち。 特に、ぷにぷにとした触感とユニークな姿で人気の“多肉植物”は、忙しい毎日に癒やしを感じさせてくれる存在です。 多肉植物の癒やしポイントって? ぷにぷに、ころんとしたフォルム 多肉植物の魅力は、何といってもその“ぷにぷに感”。見ているだけでつい触りたくなる柔らかな葉の質感と、まるっとしたシルエットは、子猫や子犬に感じるような愛おしさを呼び起こします。 やさしい色合い 淡いグリーンやピンク、ブルーがかった葉など、柔らかく穏やかな葉の色合いも癒やしポイント。部屋の雰囲気を壊すことなく、自然とインテリアに溶け込みます。 小さくてスペースを取らない 小型の多肉植物は、デスクやキッチンカウンター、窓辺の小さなスペースにも置ける程よいサイズ感が魅力で、どんな住宅事情にもマッチします。コンパクトながらも存在感があり、視界に入るたびにほっこりとした気持ちにしてくれます。 世話の手間が少ない Photo:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 多肉植物は葉やボディーにたっぷりと水分を蓄えているため頻繁に水をやる必要もなく、基本的には放っておいてOK。植物自体を初めて育てる人でも安心してインドアグリーンを楽しむことができます。ただし、多肉植物には春から秋にかけて成長が活発になる「夏型」、秋から春にかけて成長が活発になる「冬型」、春と秋に顕著に育ち、夏と冬は成長が鈍化する「中間型(春秋型)」が存在します。それぞれに合ったお世話のコツだけはチェックしておいてください(後述)。 眺めるだけで「ほっ」とできる 多肉植物は、小動物のように動きこそありませんが、日に日に少しずつ成長していく様子を見守ることで、忙しい日常の中にほんの少しの「余白」が生まれます。その“余白”が、いつの間にか心の緊張をほどいてくれるでしょう。 癒やしの多肉植物おすすめ10選 筆者編集部員Kが特に“癒やし”という視点で選んだ、多肉植物10種類をご紹介。いずれもフォルムの可愛らしさや育てる楽しさには定評があります。 ①モニラリア Photo courtesy of みつき屋 学名:Monilaria 和名:うさ耳モニラリア®︎(種子輸入総代理店「みつき屋」による園芸流通上の通称) 原産地:南アフリカ西ケープ州 成長期:秋から春にかけて成長する冬型 特徴と癒やしポイント:メセンの中間であるモニラリア。茎からぷにっとしたうさぎの耳のような双葉がぴょこんと立ち上がる姿は、まるでイラストから飛び出してきたような愛らしさです。モニラリアにはモニリフォルミス、ピシフォルミス、オブコニカ、などの種類がありますが、小さなうちはどれも似ていて見分けがつきにくく、葉の形や質感の違いが現れ、どの品種か判別できるのはもう少し育ってから。 筆者所有、実生2年目のモニラリア・モニリフォルミス。 個性が少しずつ見えてくる過程も、モニラリアならではの楽しみです。乾燥に強く、手がかからないのに、なぜかつい構いたくなる存在感で、小さなペットのような癒やしをくれる多肉植物です。 栽培難易度:★★☆☆☆(育てやすいが休眠期の夏は蒸れに注意) 置き場所:明るい窓辺など日当たりの良い室内が最適。直射日光は避け、冬は5℃以上をキープ。 水やり頻度:春・秋は10日〜2週間に1回、休眠する夏と生育が緩慢になる真冬は断水気味に。 筆者雑感:「うさぎの耳が生えてる!?」と誰もが二度見する可愛さ。小動物が鉢から顔を出しているかのような姿を見ると、自然と笑みがこぼれます。小さなお子さまのいるご家庭や、室内にほっこりを求める方におすすめです。 市場価格帯:1,000〜4,000円前後(サイズ・状態による) うさ耳モニラリア®︎はタネから育てる実生栽培キットがおすすめ! 福岡の種子輸入販売業者「みつき屋」が販売する、うさ耳モニラリア®︎「ミニ栽培キット」は、タネ、用土、鉢はもちろん、鉢底ネットから鉢底石、腰水をするための外鉢まで付いた至れり尽くせりの栽培キットで、届いたその日から手軽にうさ耳モニラリア®︎の実生を楽しむことができます。 キットにタネを播いて20日ほど経てば、もううさ耳の新芽が! 葉を覆うキラキラしたものは水晶細胞といい、保水効果と葉を守るために光を反射拡散する効果、また食害防御のための迷彩効果があると言われている。 みつき屋は、モニラリアを「うさ耳モニラリア®︎」としていち早く国内に紹介し、その普及に務めているモニラリアのパイオニア。記事の最後に栽培キットプレゼントのお知らせがあるので要チェックです! ②ハオルチア・オブツーサ 学名:Haworthia cymbiformis var.obtusa 和名・別名:日本ではオブツーサ、もしくは雫石欧米ではクッションアロエとも呼ばれる 原産地:南アフリカ東ケープ州 成長期:春と秋に特に成長する中間型 特徴と癒やしポイント: 透明感のあるぷるんとした葉が魅力の「ハオルチア・オブツーサ」は、“多肉界のゼリー”とも称される存在。葉の先端がぷっくりと膨らみ、“窓”と呼ばれる透明な部分がガラス細工のような光沢とみずみずしさを持っていて、日光を受けるとキラリと輝く美しさは唯一無二。まるで小さな宝石を集めたようなロゼット型のフォルムは、見ているだけで癒しを与えてくれます。コンパクトで場所を取らず、インテリア性も高く、成長が穏やかなので初心者にもおすすめです。 栽培難易度:★★☆☆☆(初心者向け) 置き場所:室内の明るい場所(夏の直射日光はNG)。“窓”の透明度を保つにはレースのカーテン越しの光が理想的。直射日光を長時間浴びると”窓”の透明度が落ちる傾向があります。 水やり頻度:春秋は週1回たっぷりと、夏冬は月2回程度で量は控えめに。 筆者雑感:ぷにぷに、つやつや、きらきら、ハオルチア・オブツーサは、見る角度や光の加減で表情を変える“生きた宝石”のような多肉植物です。ハオルチアには他にもたくさんの種類がありますが、オブツーサの魅力にハマってコレクションを始める方は多く、筆者もまさにその1人。目の前にこのぷにぷにした“ぷに葉”があれば、もう触らずにはいられません。疲れた心に”ぷに葉”がそっと語りかけてくれる、そんな存在です。 市場価格帯:800〜2,500円程度(株の形や、”雫石”や”アイススプライト”など、オブツーサの種類により変動) ③アドロミスクス・松虫 学名:Adromischus hemisphaericus 和名:松虫(まつむし) 原産地:南アフリカ西ケープ州の固有種 成長期:春と秋に特に成長する中間型 特徴と癒やしポイント: アドロミスクス・松虫は、天然石のような葉の形が特徴。でも触るとちゃんと“ぷに葉”してます。生えたばかりの葉は赤褐色で、それが徐々にティーグリーンに変化していく様子は興味深いです。その色彩ゆえに、古風な和鉢がマッチします。無骨で媚びない小さな姿に心が静かに落ち着く、まさに“静かな癒し”を与えてくれる存在です。 栽培難易度:★★★☆☆(少しコツが必要) 置き場所:風通しの良い明るい場所(屋外でもOK) 水やり頻度:春秋は10日に1回、夏は断水気味、冬は月1〜2回程度 筆者雑感:ある個体は盆栽的で、ある個体は地に咲く花のような、ひとつとして同じ形がなく、まるで天然石のような魅力がある松虫。静かに机の上に置いて眺めるだけで、自然とのつながりを思い出させてくれる存在です。上の写真は筆者所有株。灌木のような幹が自慢で、茶室に飾られているかのような侘びた佇まいに日々癒されます。 市場価格帯:1,000〜3,000円前後(希少個体は高騰傾向) ④ユーフォルビア・オベサ 学名:Euphorbia obesa 和名・別名:日本ではそのままオベサ欧米では野球のボールに似ているためbaseball plantとも呼ばれる 原産地:南アフリカ・ケープ州グレートカルー周辺の極めて限定的なエリアにのみ自生 成長期:春から秋にかけて成長する夏型 特徴と癒やしポイント: ユーフォルビア・オベサは、スイカのような縦ラインが特徴的な丸い球状のボディを持つユニークな外見が魅力。硬めのマットな表皮は、淡い緑から紫がかった色に変化し、下の方がゆっくりと木質化して行き、年々味わいを増して行きます。まるっとしたビジュアルとやさしい色合いが気分をほっこりとさせてくれます。成長はゆっくりなので、長く付き合える相棒となるでしょう。珍しい雌雄別株の植物で、オス株とメス株とでは花の形が異なります(上の写真はオス株)。 オス株の花。先端に花粉が付いている。 メス株の花。先端がY字に分岐しており、花粉は付いていない。 オス株とメス株が同時に開花すれば、交配しタネを生み出す楽しみも。 メス株。雌雄の見た目は同じため、開花するまで区別はつかない。 個体ごとに模様も異なり、同じ模様はひとつとして存在しない。その美しさはまるで万華鏡をのぞいているようで、自然の造形美には驚かされる。 栽培難易度:★★★☆☆(乾燥には強いが寒さと根腐れに注意) 置き場所:明るく風通しの良い場所(直射日光を避けた窓際など。室内OK) 水やり頻度:春秋は10〜14日に1回、夏は控えめに、冬は断水気味に。 筆者雑感:初めて見たとき、「え、オブジェ?」と一瞬戸惑うほど、完成された形に驚かされました。音も言葉もないのに、存在そのものが癒やしを放ってくる不思議な魅力。机の上に置くだけで、日々のざわつきをすっと吸い取ってくれるような無言の癒やし力。これは手放せません。 市場価格帯:雄株2,000円〜6,000円前後(サイズや形で価格差あり)。基部が木質化した通称“ヴィンテージ株”は最低でも1万円以上。筆者のおすすめは2,000円程度のオス株。球体の直径は3〜4cmほどで、これから共に過ごすにはちょうど良い大きさ。ちなみに、メス株の市場流通は稀で、基本的には1万円前後から。 ⑤コノフィツム・ブルゲリ 学名:Conophytum burgeri 和名:ブルゲリ(”光るブドウ”と呼ばれることも) 原産地:南アフリカからナミビアにかけてのオレンジ川周辺域 成長期:秋から春にかけて成長する冬型 特徴と癒やしポイント: メセンの仲間であるブルゲリは、まるでキャンディやグミのような、ぷるんとしたフォルムが魅力。半透明のつやつやとした質感で、マスカットのようなグリーンがとても幻想的。ひと目で惹かれるビジュアルは静かな美しさを秘めており、見ているだけで癒されます。休眠期に入る前は下の写真のように全体が赤紫色に染まるため、色彩の変化も楽しめ、その透き通るような美しさはまさに癒やしの宝石。 栽培難易度:★★★★★(上級者向け)育てたいと思う方は多いのですが、中上級者でも水やりでの失敗が多いというほど難易度は高め。 置き場所:成長期は風通しがよく、適度に遮光した環境で育てます。特に風通しは必須で、風通しがない状態が続くと溶けてしまいます。また、成長期に光量が不足すると休眠前に赤くならないため、屋外で30%ほど斜光した太陽光をたっぷり与えてあげるか、またはAMATERASなど高出力タイプの植物育成LEDライトとサーキュレーターを用いての完全室内栽培もおすすめです。休眠期は特に蒸れに注意しながら、風通しと涼しさ、そして遮光(50%程度)した環境で管理します。 水やり頻度:成長期(秋)は、土が“乾ききる寸前”にたっぷり水を与えるのが基本。この”寸前の見切り”を誤って、水分が多めに残っているうちに水を与えると、表皮が裂けて腐敗することも。逆に乾かしすぎると吸水をやめてしまい枯れてしまうこともあり、水やりの繊細な見極めが求められます。筆者が行っているのは、週2〜3回ほど竹串を用土に挿し、土の湿り具合を確認する方法。 休眠期(春〜秋)は基本的に断水しますが、完全な断水にも弱いため、週1回夕方以降に土の表面を軽く湿らせる程度の水を与えます。 筆者雑感:「これ、本当に植物なの!?」と驚かれること間違いなしの不思議系多肉植物ブルゲリ。栽培難易度に敷居の高さを感じてしまうかもしれませんが、この手間と向き合う時間さえも癒やしをくれるという稀有な多肉植物です。まるで静かに思索にふけるようにそっとそこに佇む姿は、心にじんわりとした余韻を残してくれるため、筆者的には“哲学する植物”と評しています。希少性が高いため出会えたら即ゲット推奨! 市場価格帯:4,000〜10,000円以上(大きさにより変動) ⑥ランプランサス・アウレウス’オレンジムーン’ (マツバギク) 学名:Lampranthus aureus ‘Orange Moon’ 和名:マツバギク(松葉菊) 原産地:南アフリカ西ケープ州周辺南西域 成長期:春と秋に特に成長する中間型 特徴と癒やしポイント: シャープで多肉質な葉をぎゅっと密に茂らせ、その中から現れるビビッドなオレンジの花にうっとり。オレンジムーンは、ムーンというネーミングとは真逆の、小さな太陽のような存在感を放ち、癒やしと共に元気も与えてくれます。花期は春から初夏にかけてで、一度開花すると、午前中にふわっと花開き午後にはそっと閉じるリズムが2〜3週間も続くため、日々の中に“咲く喜び”を繰り返し届けてくれます。多肉植物の中では珍しく“花を主役”にできるタイプでありながら、茎の木質化や肉厚な葉の質感も見どころ。 茎はかなり伸びて垂れ下がるため、ハンギングで楽しむのがおすすめ。 栽培難易度:★★★☆☆(日当たり重視で蒸れに注意) 置き場所:直射日光を好むため、日当たり良好な屋外推奨(室内でも窓際の強い光がある場所なら可)関東以北の冬場は室内管理推奨 水やり頻度:春〜初夏は週1回ほど。夏は控えめ、冬は断水気味に。 筆者雑感:開花した瞬間、ふっと気持ちが明るくなります。パッと花開く様子に癒やされるだけでなく、まるで自分の気持ちまで開花するような気分に。午前中に開く花が今日1日の活力を与えてくれる、”心にビタミン”な多肉植物です。しかも安い! 市場価格帯:250〜1,500円前後(ポット苗やハンギング鉢仕立てなど、バリエーションにより変動) ⑦パキポディウム「恵比寿笑い」 Photo:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 学名:Pachypodium brevicaule 和名:恵比寿笑い(えびすわらい) 原産地:マダガスカル島アンタナナリボ南部からイトレモ山脈にかけての標高1,250~1,900mの岩場 成長期:春から秋にかけて成長する夏型 特徴と癒やしポイント: ぽってりと膨らんだ塊根部と、そこからちょこんと飛び出す葉。その独特なフォルムで見る人をほっこりさせる「恵比寿笑い」。ぷにぷにした感触はありませんが、ユニークで愛嬌たっぷりな姿を眺めるだけで心がほぐされます。和名「恵比寿笑い」は、“見ていると自然と笑顔になる”というところから付けられたとも言われており、まさにネーミング通りの魅力を放っています。成長はゆっくりで、少しずつの変化をじっくり楽しめるのも醍醐味のひとつ。塊根植物ならではの「育てる時間の豊かさ」を感じさせてくれます。個体差がありますが、直径3cmほどの小さな株でも黄色くて可憐な花を咲かせることがあるので、そうなると愛着もひとしおです。 Photo:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 栽培難易度:★★★★☆(休眠期の管理に少しコツが必要) 置き場所:日当たりのよい場所。室内でもOKだが通年で風通しと日光が必須。 水やり頻度:春〜秋の成長期は土が乾いたらたっぷりと。冬は断水気味に。 筆者雑感:「見れば見るほど可愛い!」と、筆者妻は恵比寿笑いの大ファン。恵比寿様のようにどっしりと構えてニコニコしているような、なんともほっこりする存在。成長期に葉をたくさんつけている様子も可愛いですが、筆者個人的には葉を完全に落とした冬の休眠期のからの目覚めの姿(下の写真)が好きですね。 ファーストコーデックス(最初の塊根植物)にもおすすめだ。 Photo:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 市場価格帯:5,000〜20,000円以上(サイズや現地球か実生かで変動) ⑧ケラリア・ピグマエア 学名:Ceraria pygmaea(現在は Portulacaria pygmaea に分類されることも) 和名・別名:日本ではそのままケラリア・ピグマエアで流通欧米では"Pygmy Porkbush(とても小さな低木)"とも呼ばれている 原産地:ナミビアと南アフリカ・ケープ州の国境域 成長期:秋から春にかけて成長する冬型 特徴と癒やしポイント: まるでミニチュアの盆栽のような風格ある姿が魅力的な塊根植物。古木のような幹に小さなグミのような多肉質の葉がぽつぽつと付き、まるでおとぎ話の中の木のような不思議な可愛らしさを感じさせます。 そんな見た目とは裏腹に、乾燥した環境に強く、野生では厳しい岩場に根を張るほどのたくましい性格の持ち主。成長がとてもゆっくりなので、長くじっくりと付き合える人生の相棒的存在になるでしょう。ただ、写真のような古木風の塊根部を楽しめるのは現地球(輸入株)であり、タネから育てた実生株は塊根部も細く、あっさりとした印象です。 栽培難易度:★★★★☆(乾燥管理と日照確保がポイント) 置き場所:成長期は日当たりのよい屋外か屋内。風通しの良さが大切だが、厳冬期は室内へ。 水やり頻度:春〜秋は土がしっかり乾いてからたっぷりと。厳冬期は量を控えめに。 筆者雑感:”手のひらサイズの小さな森”ですね。まるで小人が住んでいそうな雰囲気は見ているだけで自然の世界に引き込まれてしまいます。実生株も十分に可愛いのですが、現地球の誘惑は強烈なものです。ただ価格が・・・。成長期を迎える秋冬になると値段も高止まりするため、ある程度価格が下がる春の「冬型塊根売り尽くしセール」などを狙うのもアリかも。実際に筆者もそれで購入。 市場価格帯:【実生株】2,000〜10,000円前後(サイズや樹形により異なる)【現地球(輸入株)】20,000〜70,000円(サイズや樹形、根の状態により異なる) ⑨サボテン「デフューサ(翠冠玉)」 Photo:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 学名:Lophophora diffusa 和名:翠冠玉(すいかんぎょく) 原産地:メキシコ中部ケレタロ州に自生するメキシコ固有種 成長期:春から秋にかけて成長する夏型 特徴と癒やしポイント:まるで高級和菓子のような見た目の翠冠玉は、トゲのないぷにぷにの肉厚ボディーと、ふさふさの羽毛が特徴。手のひらにすっぽり収まるサイズ感とやさしい質感が、”触れる癒やし”を与えてくれます。成長はとてもゆっくりですが、だからこそ「焦らなくていいよ」と語りかけてくるような穏やかさを持った存在。視覚と触感、両方から癒してくれるサボテン界のセラピストです。 栽培難易度:★★★★☆(水管理と風通し、日照のコントロールが重要) 置き場所:太陽が大好きだが、直射日光は肌焼けの危険があるので遮光下で管理。室内でもOKだが風通しの良さは必須。 水やり頻度:春〜秋は月1〜2回、用土が完全に乾いてからたっぷり与える。冬は断水気味に。 筆者雑感:ぷにフサっ、とでも言いましょうか、静かな可愛さを醸し出す佇まいは、どんな空間にも凛とした空気を添えてくれます。見ているだけで自然と呼吸が深くなるような存在。和菓子っぽいので、和鉢が似合います。 市場価格帯:4,000〜12,000円前後(大きさ・羽毛の生え方によって変動) ⑩サボテン「月世界」 Photo:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 学名:Epithelantha micromeris 和名:月世界(つきせかい) 原産地:米国のメキシコ国境地域からメキシコ北東部の乾燥地帯 成長期:春から秋にかけて成長する夏型 特徴と癒やしポイント:小型サボテンの人気種で、銀白色の極小トゲが綿毛のように密集。全体がビロードのような質感に包まれ、米俵のようなフォルムもユニークです。円柱形のボディにふわふわの羽毛のような柔らかいトゲが愛らしく、思わず守りたくなる存在。そっと触れると”ザラぷに”感があり、日々のストレスでギスギスした心を視覚と感触で静かに和らげてくれる存在です。静物好きにおすすめの癒し系です。 栽培難易度:★★★☆☆ (蒸れと過湿に注意すれば比較的育てやすい) 置き場所:成長期は風通しの良い明るい屋外の日陰か、レースのカーテンごし程度の明るさの室内がベスト。冬は室内に。 水やり頻度:春〜秋は月2回程度、冬は断水気味に。しっかり乾いてから与える「乾燥→たっぷり」のメリハリが大事。 筆者雑感:名前も見た目もどこか非日常で、眺めているだけで楽しくなるサボテンです。薄いピンクの小さな花を咲かせた後、交配すると下の写真のように赤い実(種鞘)ができるのですが、これがまた愛嬌たっぷり。 種鞘のぷにぷに感は、たまらなく気持ちいい。 Photo:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 市場価格帯:2,000〜8,000円前後(サイズや状態で変動) 癒やし系多肉植物の育て方のポイント 癒やしを楽しむには「気負わず育てることが」が大事。多肉植物は基本的に強い子ばかり。多少のミスがあってもすぐに枯れることはありません。ここでは無理なく続けられるお世話のポイントを押さえておきましょう。 水やりのポイント 水やりの際は、できるだけ株本体に水がかからないように注意しましょう。葉やボディに水がたまると、蒸れて病害虫の原因になるほか、水跡が残って美観も損なわれてしまいます。 鉢底から水が溢れるまで与える。 また、おすすめ10選の中でいくつかの品種は「冬は断水気味に」と明記してありますが、完全に水を断つわけではありません。細根を傷めないためにも、冬場は月1〜2回、用土表面がほんのり湿る程度に軽く与えるのが理想。この“ほんのり加減”が次の成長期の質を高めるカギとなります。 ほんのり加減は、株周りを一周程度で良い。(※動画がループしているため何周もしているように見えますが、実際は一周です。) 光の当て方のポイント 多肉植物は日光に強い種類が多いですが、室内育ちの株をいきなり強い日差しに当てると葉焼けの原因に。屋外に出す場合は、まずは明るい日陰で慣らす「順化」のステップを忘れずに。また、直射日光が苦手な種類には、下の写真のように園芸用遮光ネット(30〜50%遮光)を適当な大きさに切って、鉢にかぶせ、輪ゴムで止めるのも手です。 最近の日本の直射日光はかなり強烈なので、無理に屋外で育てず、特に初心者の方には植物育成LEDライトを使った室内栽培もおすすめ。ただし、湿度管理には注意が必要です。サーキュレーターなどで室内の空気を循環させ、蒸れやカビを防ぎましょう。 プラ鉢からの植え替え 購入時のプラスチック鉢でも十分に育てられますが、味気なさを感じたら、お気に入りの鉢に植え替えるのも楽しい選択です。 確かに味気ないが、植物を守り育てる機能性は高い。ゆえにプロは使用する。 ただし、多肉植物の根はデリケート。元の土を無理に崩さず、同じかワンサイズ大きい鉢に優しく移しましょう。鉢選びに迷ったら「素焼き鉢」がおすすめ。素焼き鉢は土(粘土)を原料とし、素材に含まれる微細な気孔が空気を通すことで、通気性と排水性に優れています。そのため根腐れのリスクを抑えられます。見た目もナチュラルで多肉との相性◎。使用時は鉢底石をお忘れなく(詳細は後述)。 鉢底石と土のポイント 多肉植物を元気に育てるカギは、「通気性」と「排水性」。購入時のプラスチック鉢はスリットが多く通気・排水に優れていますが、素焼き鉢など底穴が一つだけの鉢を使う場合はひと工夫が必要です。まず、鉢底に鉢底ネットを敷き、その上に鉢底石を重ねて土を底上げしましょう。これにより通気と排水の性能がグッと高まり、蒸れや根腐れを防ぐことができます。目安としては3号鉢(直径9cm)で鉢底石の高さが1/4程度がちょうど良いバランスです。 土は市販の「多肉植物・サボテン用培養土」でも十分ですが、筆者のおすすめは、プロが調合した専用土。たとえば、当連載でもおなじみの「ガディンツキープランツ」関さんや、オザキフラワーパークのオリジナル用土など、多肉を知り尽くしたエキスパートによる配合なら安心して使えます。 まとめ|小さな多肉が、心のビタミンになる 癒やしの存在は人それぞれ。我が家の場合、今年6歳になる愛猫の甘えた姿は、何にも代えがたい心のオアシスです。でも、小さな多肉植物たちも、ふとした瞬間にそっと心をなごませ、元気をくれる存在になっています。忙しい日々の中「植物と暮らす」ということは、ぷにぷにとしたフォルムや、ころんとしたシルエットに癒やされながら、自分のペースで心を整える時間を持つということ。まるでビタミンを補うように、気づけば明日への活力になってくれます。思うに、癒やしとは一方的にもらうものではなく、こちらからも愛情を注ぐことで初めて返ってくるもの。愛とは、ちょっとしたお世話や、健やかに育ってほしいと願う気持ち。それは動物でも植物でも、きっと同じです。小さな多肉植物たちも、ちゃんとその想いに応えてくれます。あなたの毎日に、ちいさな緑のビタミンをひとつ、加えてみませんか?
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多肉・サボテン
【必見】アロエハイブリッドの魅力と育て方|進化系アロエをプロが解説!
今回お話をうかがう関ヨシカズ氏 今回お話をうかがう関ヨシカズ氏(以下関さん)は、2024年9月に世田谷区九品仏に、多肉などのビザールプランツを取り扱う専門店として「gadintzki plants(ガディンツキー・プランツ)」をオープンさせた園芸のプロフェッショナル。同店をオープンする前は30年にわたり目黒区祐天寺にて園芸店を営んできており、ガーデンストーリーでは「街の園芸店がお悩みを解決!」という連載記事でもご活躍いただいてきました。 ガディンツキープランツは、育てやすい植物をお求めやすい価格で、がモットーのお店。古着のポップアップストアも併設されたおしゃれな店内には、いつも常連さんや、関さんに園芸のアドバイスを求めるお客様でにぎわいをみせています。そんな関さんの園芸哲学は、「園芸は人と人との縁(えにし)を繋ぐもの」。本やWebで学ぶ知識も大切だけれど、実際に言葉を交わし、知識や経験を共有することで園芸の楽しさはさらに広がる、と熱く語ります。「最近はアロエが来てますよ!」と、お店に集うお客様同士でも話題になっているそうで、さっそくアロエに関していろいろと教えていただきました。 アロエの基本情報 アロエの歴史と原産地、名の由来 植物名:アロエ 学名:Aloe 英名:Aloe 和名:蘆薈(ロカイ)=中国語で「草むらに茂る」という意味 科名:ツルボラン科(旧分類ではユリ科) 属名:アロエ属 原産地:アフリカ南部、マダガスカル、アラビア半島などの乾燥地帯 形態:多年草(常緑性多肉植物) 園芸分類:観葉植物・多肉植物・薬用植物 開花時期:12〜3月(温暖地域で屋外栽培の場合) 草丈・樹高:10〜100cm(種類によって異なる) 耐寒性:やや弱い(種類によって異なる) 耐暑性:強い 花色:橙、赤、黄色などアロエは南アフリカを中心に、アラビア半島、マダガスカル、インド洋の島々に分布する多肉植物の一種。原産地では乾燥した環境に適応し、砂漠や岩場に自生しており、その強靭な生命力が特徴です。古代エジプトでは「不死の植物」として神聖視され、クレオパトラが美容のために使用していたとも伝えられています。 想像図 ギリシャやローマの医学書にも登場し、日本でも中国経由で初めて持ち込まれた江戸時代に薬用植物として広まりました。「良薬口に苦し」といわれるように、薬効成分を含むアロエの果肉はとても苦いもので、このためアロエの名は、古代アラビア語で”苦い”を意味する「alloeh」が語源となり、ギリシャ語「αλόη(aloé)」へと派生し、植物学上の学名としてラテン語の「Aloe」が確立されました。現在では観賞用としての人気も高まり、独特の造形美や育てやすさが、多肉植物愛好家の心を掴んでいます。 アロエの種類と特徴(観賞用・薬用・食用) アロエは現在650種類以上が確認されており、大きく分けて観賞用、薬用、食用の3つのカテゴリーに分類されます。 観賞用アロエは、葉の模様やトゲ、ロゼット状の形状など、多様な美しさを持ち、原種系やハイブリッド系などに分類されます(後述)。 原種系アロエ (Left)Pix by PhotoSky/Shutterstock.com、(Right)Pix by Valentino Vallicelli/Courtesy of llifle ハイブリッド系アロエ 薬用アロエの代表格はアロエ・ベラやキダチアロエで、抗炎症作用や保湿効果があり、古くから民間療法に用いられてきました。ただし、民間療法には誤認識もあるため、体のことは医師に相談しましょう。 食用アロエは、特にアロエ・ベラの葉肉がゼリー状で食べやすく、ご存じのとおり、ヨーグルトやジュースに加工されることが多いです。 アロエベラとその果肉。 園芸界におけるアロエの評価 アロエといえば美容や健康への効果が注目されがちですが、園芸界でもその価値が見直されています。アロエは多肉植物の中でも成長が比較的遅いため、長くその姿を楽しめる点も評価され、個体ごとの個性をじっくり味わうことができることから、単なる実用植物にとどまらず、観賞用多肉植物として園芸の分野でも重要な存在となっています。そんな観賞用アロエの魅力は、まずその独特な美しさにあります。ロゼット状に広がる葉は品種ごとに異なり、トゲの形や色彩、葉の質感などが多様で、コレクション性が高いのが特徴です。 またアロエは特に乾燥に強く、水やりの頻度が少なくてすむ点は、多肉植物初心者にも人気の理由のひとつ。近年では、“手間のかからないグリーン”を求めるライフスタイル志向の高まりとともに、アロエの需要が再注目されています。 観賞用アロエの種類 観賞用アロエは以下の3種類に分かれます。 ①原種アロエ②アロエハイブリッド「ネームド」③アロエハイブリッド「ノーネーム」それぞれに関して関さんに解説してもらいました。 ①原種アロエ 原種アロエは、原産地に自生する野生種、またはそれをもとに育苗された株(実生株や子株など)を指します。極端な気候や乾燥した環境に適応しながら自然の中で進化してきたため、その姿には独特の美しさがあります。 原種アロエの最大の魅力は「自然が生み出した造形美」。葉の形やトゲの配置、成長の仕方など、すべてが環境に最適化されているからこそ、人工的に作られたものとは違う力強さを感じます。 マルロシー(鬼切丸) 原種アロエは、希少な品種や美しい美観と大きさを兼ね備えた株ともなると数万円の値がつくものもありますが、そういったものは愛好家の間では「生きた芸術品」とも称されています。しかし、大量生産された実生株でも十分に観賞価値を有していて、品種によっては1,000〜2,000円台で入手できることから、観賞用アロエ初心者の方にもおすすめです。 代表的な原種アロエ①:アロエ・ポリフィラ 〜渦巻きアロエの異名を持つ〜 Pix by Ladykhris/shutterstock.com アロエ・ポリフィラ(Aloe polyphylla)は、南アフリカ・レソト高地原産の原種アロエで、螺旋状に展開する葉が特徴。真上から見ると万華鏡のように美しく、原種の中でも特に人気があります。名前の「ポリフィラ」はギリシャ語で「多くの葉」を意味し、欧米では「スパイラルアロエ」、日本でも「渦巻きアロエ」と呼ばれることも。希少性が高く、小さな実生株で4,000円前後、大株では30,000円以上することもあります。価格は株の状態や販売店により変動します。 代表的な原種アロエ②:アロエ・スザンナエ 〜マダガスカルのツリーアロエ〜 Pix by Valentino Vallicelli / Courtesy of llifle アロエ・スザンナエ(Aloe susannae)は、マダガスカル原産で、野生では高さ3〜4m、最大5mにもなる大型種。「マダガスカルのツリーアロエ」とも呼ばれ、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに登録された絶滅危惧種でもあります。 マダガスカルにおける野生の4m級スザンナエ。一見してつくしのように生える花穂も巨大だ。 Pix by S.E. Rakotoarisoa(University of Antananarivo) Courtesy of ResearchGate 名前は、同島の植物研究に功績を残したフランスの植物学者スザンナ・デカリーにちなみます。細身で斑点模様のある葉は、明るい緑〜灰緑色。花はオレンジから黄色の穂状で、開花までに数十年を要し、また再び咲くまでにも長い年月が必要となります。園芸種の小株は6,000円前後、優良な株は1〜4万円で流通することもあります。 ガディンツキープランツで買える原種アロエ ここに紹介する原種アロエ3商品はすべて実生によるもので、色彩的には、いわゆる一般的なアロエのイメージに近いかも。でもトゲの色や形、樹形には独特の個性があり、それぞれの魅力が光ります。 ペグレラエ 高さ9cm 広がり幅6cm 価格2,750円(税込) マルロシー(鬼切丸) 高さ10cm 広がり幅14cm 価格2,200円(税込) ロンギスティラ 高さ12cm 広がり幅6.5cm 価格6,600円(税込) ②アロエハイブリッド「ネームド」 アロエハイブリッドとは、複数のアロエ原種をもとに交配して生まれた人工作出種のことを指します。原種アロエの持つ個性を掛け合わせることで、色彩、葉の模様、形状、トゲの付き方などが多様になり、観賞価値の高い株が生まれます。近年では、交配を手がける“ハイブリダイザー”と呼ばれる育種家たちによって、芸術品のような魅力を持つアロエハイブリッドが数多く生み出されており、アロエハイブリッド「ネームド」(以下ネームド)とは、そんなハイブリダイザーたちによって作出されたアロエハイブリッドのうち、選抜され、ネーム(商品名)が明記された色付きの札(タグ)を付けて流通しているものを指します。 このタグが鉢の縁に挿してある。これはタイの著名なナーサリー「TCT Nursery」のタグ。 現在市場に出回るアロエハイブリッドの多くは、タイや台湾で作出されており、その中でもネームドは特に高い人気があります。その魅力に惹かれてコレクションを始める愛好家も増え、観賞用アロエの世界はますます奥深いものになっています。 代表的なアロエハイブリッド「ネームド」:テンプラ(Aloe 'tempra') Pix by SHOCK_BTU 現在日本の園芸市場でアロエハイブリッド人気を牽引しているといっても過言ではない品種が、「アロエ テンプラ(Aloe 'tempra')」。優秀なアロエハイブリッドをいくつも発表しているタイの著名なナーサリー「TCT Nursery」のテプチャイ・ティッパヤチット(Tepchai Tippayachit)氏によって作出され、値段は数万円という、まさに高嶺の花の”高級テンプラ”です。テンプラは正式な学名ではなく、あくまでも園芸流通における商業上の名前ですが、テプチャイ氏が日本文化にオマージュをこめてこのように名付けました。厚みのあるテンプラの葉の表面を埋め尽くす朱色の突起模様や鋸状のトゲが、どことなく天ぷらの衣にも見えなくもないですね。 ハイブリダイザーの名が入った「ハイブリダイザー・ネームド」というのもある ハイブリダイザー・ネームドとは、著名なハイブリダイザーによって作出された株を指し、それらの商品名の多くには、ハイブリダイザーの名が含まれています。例えば、ケリー・グリフィン氏(Kelly Griffin)のK.G.Hyb.や、ディック・ライト氏(Dick Wright)のD.W.Hyb.です。また、その商品名自体がハイブリダイザーの作出したものであることを指す場合もあります。ケリー・グリフィン氏、ディック・ライト氏は、ともにアロエハイブリッドシーンを牽引する米カリフォルニアの著名なハイブリダイザーで、彼らが生み出す品種は、希少性とコレクション性の面からとても注目されています。 ガディンツキープランツで販売しているケリー・グリフィン氏作出の株「Twilightzone K.G.Hyb.」 筆者所有ディック・ライト氏作出の株「Godzilla D.W.Hyb.」。文字どおりゴジラの尻尾みたいだ。 ③アロエハイブリッド「ノーネーム」 アロエハイブリッド「ノーネーム」(以下ノーネーム)は、トゲの形がやや不揃いだったり、葉面の突起が少ないといった理由から、ネームドとして選抜されなかった個体を指します。ただし、原種の性質をある程度受け継いでおり、ナーサリーによって品質のよさが認められたものが該当します。 もっとも、日本におけるアロエハイブリッドのムーブメント自体がまだ黎明期にあるため、ノーネームに関する基準はやや曖昧です。しかし、商業的に一定の知名度を持つナーサリーが手がけたものに限ってノーネームと呼ばれる傾向があります。ちなみに、前述のタイ・TCTナーサリーが販売するノーネーム商品には「白タグ」という通称が付けられています。いずれにしても、ノーネームはネームドほどの高値ではありませんが、一定の価値が認められており、相応の価格で取引されることもあります。 アロエハイブリッドの「札落ち(ふだおち)」とは、ノーネームの中でも、どのナーサリーが作出したか不明な株を指します。出所が明らかでない分、価格も比較的安価で、ものによっては数百円で手に入ることもあり、非常にリーズナブルにアロエハイブリッドを楽しむことができます。 また、趣味家が自身で交配・育成した株を販売しているケースも札落ちに該当します。 ただし、中には有名ナーサリーが手がけた美株が、流通の過程でタグを失って(あるいは意図的に外されて)紛れ込んでいることもあるため、「札落ち=C級品」とは一概には言えません。 多肉植物の栽培が初めてで、「まずはアロエハイブリッドから試してみたい」という方には、手軽に始められる札落ちがおすすめです。 ガディンツキープランツで買える「ノーネーム」 ノーネームアロエハイブリッド各種:1,000〜5,000円 ※価格詳細は店頭にてお問い合わせください。 ノーネームとは、名を冠するには値しないものの限りなくそれに近い、いわゆる「名も無き逸品」。どの株も個性が光っており、"作品"に対するハイブリダイザーの情熱が感じられます。 これなどは、ケリー・グリフィン作'Fang'のノーネーム? と思えるほど、美しい株です。 アロエハイブリッドは必ずブームが来る! その3つの理由とは? 理由① 初心者でも容易にチャレンジできる価格 コレクション性が高い多肉植物は、過去にサボテンや現在のパキポディウム、アガベなどがそうであるように、必ずブームがくるものです。これらは高価な商品が次々と売れ、市場も活性化しました。しかし、その多くが高価格であることが、初心者にとっては敷居が高く感じることもあります。その点アロエハイブリッドは、札落ちからスタートすれば1,000円以下で手に入れることができるため、価格面での敷居が低いのが大きな魅力です。 上の写真は筆者が初めてガディンツキープランツで購入したノーネームアロエハイブリッド。いかにもテンプラの選抜落ちという感じだが、故郷のタイで手塩にかけられたものであることには違いない。 ノーネームや札落ちのアロエハイブリッドは、農作物でいう「規格外品」に近いものですが、品質が劣るわけではなく、むしろ「唯一無二の個性を持ったアロエ」として楽しめます。関さんは、「名前にこだわらず、まずはファーストインプレッションでこの摩訶不思議な植物との一期一会の出会いを楽しんでいただきたい。その先には、テンプラが待っています!」と語り、初心者が段階を踏んで楽しむことができるアロエハイブリッドに大きな期待を寄せています。 理由② 誰でもオリジナルのハイブリッドを! Pix: GreenThumbShots/shutterstock.com アロエハイブリッドは、どんな株も高い確率で開花するため、異なる品種を掛け合わせることで、新しい形や模様、色合いを持つ個体が生まれる可能性があります。つまり、自分だけのオリジナル品種を作り出せるかもしれません。実際に、テンプラなどの人気品種を種子親として他の品種と掛け合わせた、アロエハイブリッドのハイブリッド、いわば“二世代目”を育てている趣味家さんたちも多くいます。ハイブリダイザーによる傑作ハイブリッドも魅力的ですが、自分で交配して新しいアロエを生み出す楽しさを体験してみませんか? 方法は非常に簡単です。アロエの花は長い花軸の先端に鈴なりに咲くため、一方の株の花の一つを穂からもぎ、その花の雌しべを、もう一方の株の雄しべに付けて花粉を移すだけです。ただし交配を行うためには、両方の株が同じタイミングで花を咲かせている必要があります。初心者でも比較的挑戦しやすいので、ぜひ交配の世界に踏み込んでみてください! 理由③ 寄せ植えとしても楽しめる! ちなみにアメリカでは、アロエハイブリッドの多くが小型の品種であるため「ドワーフアロエ(Dwarf Aloes)」や、ヒトデに似ていることから「スターアロエ(Star Aloes)」と呼ばれています。特にカリフォルニアでは、この品種に魅了された園芸ファンが増えており、非常に人気があります。日本と違って広い庭があるため、そうした魅力的なアロエを育てやすいのがうらやましいですね。下の動画では、カリフォルニアの著名なガーデンフォトジャーナリスト、デブラ・リー・ボールドウィン氏(Debra Lee Baldwin)がドワーフアロエの寄せ植え方法を紹介しています。 ボールドウィン氏が動画の中でセダムとの寄せ植えをレクチャーしているように、アロエハイブリッドは寄せ植えにもぴったりな素材です。小型で多様な形状や色合いを持っているため、ほかの植物と組み合わせることで、美しいデザインが楽しめます。 観賞用アロエの育て方のポイント 管理場所 観賞用アロエは日当たりと風通しのよい場所で育てるのが理想的です。 【成長期:春〜秋】 基本的には 屋外の日なたが適していますが、品種によっては強すぎる直射日光で葉焼けすることもあるため、夏は強光線を避けるために半日陰に移動するか、遮光率50%程度の遮光ネットを使うのも有効です。また、多湿環境は根腐れの原因となるため、雨ざらしを避け、梅雨の長雨のときは軒下か、簡易ビニールハウス、あるいは屋内で管理するとよいでしょう。 筆者愛用の簡易ビニールハウス「パンタグラック」。色彩豊かなアロエハイブリッドの栽培にもおすすめだ。 屋内で管理する場合は、できるだけ南向きの窓際など、十分に日光が当たる場所を選びましょう。屋内で日照不足になると徒長しやすくなり、美しいロゼット形状が崩れる原因になります。ただし屋外同様に、夏の直射日光には要注意です。 【冬季】 冬の寒さには比較的強いですが、霜や凍結には弱いため、気温が5℃を下回る地域では室内や温室に取り込むのが安心です。特に冬場は日照が不足しがちなので、植物育成ライトの使用がおすすめ。 【屋内栽培では植物育成ライトとサーキュレーターを使おう!】 植物の生育には「光」、「風」、「水」の3つの自然要素が必須となります。しかし屋内、特にマンションの居室で栽培する場合は風による通気が極端に少なくなるため、サーキュレーターを使用して室内の空気を循環させることを強く勧めます。これにより、屋内栽培の失敗例として最も多い「蒸れによる根腐れ」を防ぐことができます。 用土 関さんの長年の経験が詰まったガディンツキープランツのオリジナル多肉植物用培養土。筆者は所有する多肉植物のほとんどに用いている。 容量:2L 価格:715円(税込) 観賞用アロエは水はけのよい土を好みます。上の写真の関さんオリジナルブレンドの培養土をはじめ、市販の多肉植物用培養土を用いるのが手軽ですが、自作する場合は、前出の「TCT Nursery」が推奨するアロエ・ハイブリッド向けの用土レシピを参考にするとよいでしょう。テップチャイ・ティッパヤチット氏が実際に使用している配合です。 ※オスモコートは日本では入手困難のため、住友化学園芸の「MY PLANTS 長く丈夫に育てるタブレット」(N-P-K=12.5-11-11)が代用品としておすすめ。 鉢底に軽石を敷いてから土を入れることにより排水性が向上します。 水やり 観賞用アロエは乾燥に強く、過湿に弱いため、水やりは控えめが基本です。まず、ポイントとしては、下の動画のように、葉にかからないように与えること。100円ショップの園芸コーナーでも販売しているペットボトル用ノズルを使用すると便利ですよ。 春~秋(成長期):土がしっかり乾いてからたっぷり与える。週1〜2回が目安。 冬(緩慢期):成長が鈍化し水を吸収しにくくなるため、月1~2回程度、用土表面が湿る程度の控えめな水やりでOK。 また、葉についた水滴は蒸れの原因にもなるため綿棒などで吸い取ってあげましょう。ちなみに筆者のおすすめは、カメラ用品のブロアー(ホコリを飛ばすための手動ポンプ)を用いた水滴飛ばし。効率よく確実に水滴を飛ばせます。 肥料 元肥が入っている用土を使う場合、基本的には追肥を頻繁に行う必要はありません。ただし成長期(春から秋にかけて)は栄養を必要とすることがあるので、元肥が切れる頃や、株が元気に成長していると感じたときにメネデールなどの活力剤を与えることは有効です。元肥がない場合は、成長期の春〜秋に月1〜2回、規定量より薄めにした液体肥料を水やりの際に与えましょう。冬はあげないでOKです。 かかりやすい害虫・病気 害虫 観賞用アロエは基本的に害虫には強いですが、適切な管理を行わないと以下の害虫がつく場合があります。 カイガラムシ:葉や茎に白い綿状のものが付着する。見つけ次第、歯ブラシでこすり落とすか、殺虫剤(GFオルトラン粒剤など)を使用。 ハダニ:葉の裏に寄生。乾燥を好むため、霧吹きで葉を湿らせると予防になる。 アブラムシ:新芽に集まり成長を阻害。見つけたら水流で流し落とすか、牛乳スプレーで窒息させる方法も有効。 害虫を防ぐには、風通しをよくし、定期的に葉の裏もチェックすることが大切です。 病気 病気も、その多くは過湿や風通しの悪さが原因で発生します。 黒斑病(ブラックスポット):葉に黒い斑点が出来るカビ系の病気。発生した部分は早めに切除し、切り口にGFベンレート水和剤などの殺菌剤を散布し消毒します。 軟腐病:細菌により葉や茎がどろどろに溶ける病気。発生すると進行が速いため、感染部分を切除し、GFベンレート水和剤などの殺菌剤を散布し消毒を徹底します。 病気を防ぐには、適度な乾燥と風通しの確保が大切。特に梅雨時期や冬の室内管理では注意が必要です。 まとめ|美しきアロエの世界へようこそ 【関さんから読者の皆さんにメッセージ】 アロエといえば、多肉植物に興味がない方でもその存在は知っていて、近所を散歩すれば必ずどこかのお宅が軒先に植えているという、まさに「国民的多肉植物」。そんなアロエの中でも、アロエハイブリッドは色や形のバリエーションが豊富で、まるで芸術作品のような美しさを持っています。初心者でも育てやすくコレクション性も高いため、一度魅了されると次々に集めたくなることでしょう。かくいう私も関さんのせいで沼落ち5秒前です。また、交配でオリジナルの株を作出できるかもしれないというのは夢が広がりますよね!デブラさんによるアロエハイブリッドの寄せ植えも大変興味深いです。あなたもぜひ、この奥深いアロエハイブリッドの世界に足を踏み入れてみませんか?
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多肉・サボテン
今が買い時! 多肉植物【アドロミスクス】の育て方とおすすめ品種を徹底解説
アドロミスクスの基本情報 多肉植物狂い、今回は私も好きで3品種ほど育てているアドロミスクス(Adromischus)をご紹介します。アドロミスクスは、ベンケイソウ科アドロミスクス属に属する多肉植物で、南アフリカを原産としています。名前の由来は、ギリシャ語の「adros(太い・丈夫)」と「mischos(茎)」からきており、丈夫で成長が早い特徴を持つことをあらわしています。日本には20世紀初頭に輸入され、観賞植物としてその美しいフォルムの魅力が徐々に広まりました。しかし一般的に流通するようになったのは1990年代後半から2000年代初頭です。現在は多肉植物のブームの影響もあり、アドロミスクスの栽培を楽しむ園芸ファンがますます増えています。 アドロミスクスの概要 独特な葉の形状と模様が人気 アドロミスクスの特徴的なポイントは、そのユニークな葉の形状です。葉は厚みがあり、多肉植物らしい丸みを帯びた形状をしていて、パッド状、棒状、扇状、こん棒状と、葉姿のバリエーションの多さも魅力です。葉の表面には、品種により多様な斑点や模様が見られます。一部の品種では、まるで宝石のように輝く斑点を見ることもできます。この不規則で芸術的な模様が、アドロミスクスを他の多肉植物と一線を画す存在にしています。形、色合いともに個性的で、また、成長して大きくなっても株全体の広がりは15cm程度のため、コンパクトなインテリアグリーンとして、コレクターはもちろん、幅広い層からから愛され続けています。 小さな花 アドロミスクス・クーペリーの花 Photo by Lourdes Izquierdo/flickr.com アドロミスクスは花も魅力的です。小さな花は株の中心から伸びる長い花茎に咲き、白や薄いピンク色が一般的で、とても可愛らしい印象です。とはいえ、葉の存在感、観賞価値に比べるとその佇まいはかなり控えめ。それでも花が咲いたときには、株全体がさらに華やかに見えるため、花が咲く過程を楽しみに育てる人も多いです。 アドロミスクスの品種 クーペリー Photo Courtesy of LLIFLE , Photo by Gennaro Re 原産地:南アフリカ東ケープ州 名前の由来:「クーペリー」の名前は、発見者である植物学者ジョン・クーパーに由来しています。英語圏では、見た目が千鳥という鳥の卵に見えることからPlover Eggs Plant(千鳥の卵植物)とも呼ばれています。 概要:アドロミスクス・クーペリーは、アドロミスクスのアイコン的な品種。深い緑色の葉が丸みを帯びて整然と並ぶ姿が特徴的で、葉には薄く白い斑点があり、その模様が光を反射し独特のエレガントな美しさを誇ります。この品種は、ズール山脈という比較的標高が高い場所の岩がゴロゴロした荒地に自生しているため、園芸品種として市場に出回っているものも野生種同様に乾燥に強いとてもタフな品種です。薄ピンク色の小さな花を咲かせることもあり、野生味のある葉の間から可愛らしい花が咲く姿のミスマッチ感も面白いです。 市場価格:1,000円〜4,000円クーペリーは、アドロミスクスの中でも比較的流通量の多い品種の一つで、店頭やネットで簡単に入手できます。また、昔ながらの園芸店ではアドロミスクス・クーペリーではなく「アドロミクス」としてこの品種を販売している例もあります。 マリアンナエ Photo Courtesy of LLIFLE , Photo by Flavio Agrosi 原産地:南アフリカ/ナミビア国境付近 名前の由来:この品種は、発見者である南アフリカの植物学者マリアンヌ.Nにちなんで名付けられたとされています。 概要:アドロミスクス・マリアンナエは、葉の縁に赤紫色の模様が現れる美しい品種です。この品種は寒さに強く、室内で育てやすいのが特徴です。比較的育成が簡単で、特に葉の美しい模様が観賞用に最適です。アドロミスクス・マリアンナエは、多肉植物を取り扱っている比較的大きめな園芸店で入手でき、ネット販売でも数多くが出品されています。 市場価格:1,500円〜6,000円ネットでの苗の販売価格の多くは1,500円程度でしたが、都内の大手園芸店では2,000円前後が一般的です。葉の模様や株ぶりがよいと、5,000円以上する場合もあります。ネット上での出品数も極めて少ないので、確実に入手したい場合は大手園芸店へのお問い合わせをおすすめします。 松虫 原産地:南アフリカ西ケープ州 名前の由来:日本では「松虫」という和名で親しまれていますが、種名はAdromischus hemisphaericus(アドロミスクス・ヘミスフェリクス)。hemisphaericusはラテン語の「半球」を意味する言葉で、葉の形からその種名がつきました。和名の「松虫」の由来は、風に揺れる葉の動きが松虫というバッタのような昆虫を彷彿させるため、最初は中国で松虫と命名され、それがそのまま日本で使われている、といわれています。 概要:松虫は、葉の形が細長く、先端がやや鋭角になっていて、槍先にも似た特徴があります。その色彩は、深い緑と錆びたような赤色が混ざった独特な色合いで、コントラストがとても美しいです。上の写真では新芽が生まれていますが、新芽は赤いことが分かりますね。松虫は、紅葉時期(冬成長型なので春先)には葉の色は黄色がかり、葉先がピンク色に染まるため、葉色の美しい変化も楽しむことができます。 上の写真の株は私所有のものですが、この株は長く伸びた幹が灌木のような独特な風情を醸し出し、個人的にも気に入っています(葉挿しのために葉をむしってしまいましたが、実際にはもっと葉がありました)。松虫は全体的に成長が遅めですが、耐寒性があり寒冷地でも育てやすいタフな品種です。 市場価格:約700円〜5,000円松虫は、かつては流通量が少なく、高価な品種だったのですが、昨今は葉挿しから増やした株がネット上で700〜800円くらいで販売されており、気軽に手に取って楽しめる品種となりました。しかし、株立ちがよいものとなると高価になります。 クリステイタス(永楽) 原産地:南アフリカ東ケープ州 名前の由来:品種名の「クリステイタス」は、特徴的な小さな突起のある葉の先端部が冠のように見えることから、ラテン語で「冠を持つ」を意味する「cristatus」と名付けられました。日本では「永楽」という和名で親しまれていますが、もともと永楽という言葉は古代中国の元号であり、長寿や永遠の繁栄を象徴する大変めでたい言葉とされています。そこに、クリステイタスの力強い生命力をなぞらえてこの名が付いた、と考えられています。贈り物にすると喜ばれそうですね。 概要:アドロミスクス・クリステイタスは、厚い逆三角形の葉の先端がひだ状になっているのが特徴で、一見すると餃子の皮にも見える、とても可愛らしい葉が目を惹きます。 特に葉の表面が光の角度や加減によって翡翠色に輝いたり、新芽が若草色に煌めく様子はとても美しく、幹から生える赤いヒゲのような毛とのミスマッチ感も面白くて、マニア心をくすぐります。 原産地は南アフリカの乾燥地帯で、岩がゴツゴツとした斜面の岩陰などで自生しています。そんな悪環境で生きているためか、多少日照条件が悪い場所でも問題なく栽培できます。しかし、健康的な大株に育てたい場合は、日当たりのよい場所での栽培がおすすめです。この品種は、他のアドロミスクス品種と比べて成長が速く、比較的丈夫なので初心者にも育てやすいです。 市場価格:100円〜5,000円クリステイタスは比較的流通しており、価格はサイズや状態によって異なります。小さいポット植えの場合は100円ショップでも販売していることがあり、とても安価に購入できますが、しっかりと育った株や大きなサイズは高額になります。 クラビフォリウス Photo Courtesy of LLIFLE , Photo by Julio C. García 原産地:南アフリカ東ケープ州 名前の由来:「clavifolius(クラビフォリウス)」は、ラテン語で「こん棒のような葉」を意味しており、この品種の葉の特徴を表しています。私だったら「マラカス」という名をつけますけどね。日本では「赤棍棒(あかこんぼう)」という和名がついており、これは、日本国内で見られる株の多くは葉の先端に赤い斑点が現れることに由来しています(上の写真の株は海外株)。 概要:クラビフォリウスは、前出のクリステイタス(永楽)の変種で、クリステイタス同様に岩が露出した斜面などに自生しています。とてもタフな品種ですが、クラビフォリウスは暗い場所で栽培すると葉色が薄くなり、やがて落葉してしまいます。とはいえ、直射日光への耐性も弱いので、レースのカーテン越しや、遮光ネット越しなど、20〜30%ほど遮光した場所での管理がおすすめです。 市場価格:1,100円〜5,000円店頭で見るのは稀なレア品種で、ネットで検索しても決して出品数が多い品種ではありません。現在確認したところ、某フリマアプリでの1,200円が最安値でしたが、レア品種であることを考えるとその商品はかなりお買い得ですね。 シュルドティアヌス ・原産地:ナミビアの中央部から南西、南アフリカ北部※写真の株は私所有のもので、南アフリカ北ケープ州の小さな村Pofadder(ポファッダー)郊外のPoortseberg(ポールツェベルク=丘陵地帯)産の輸入株。・名前の由来:「シュルドティアヌス」は、この品種の発見者であるドイツの園芸家ハンス・シュルド氏にちなんで名付けられました。名前の最後の「-アヌス」は、ラテン語で「-に関連する」という意味で、「シュルド氏が名付けた」ということを意味する品種名が付きました。・概要:シュルドティアヌスは、アドロミスクス特有の多肉質で複雑な彩りを魅せる葉と、基底に極太の塊根部を形成する独特な茎を持つ、とてもユニークな形状をした珍種。アドロミスクス好きとコーデックス(塊根植物)好きの両方の好みを満たすという、なんとも都合のよい品種ですね。 矢のように先端が尖ったグレーグリーンの葉は、触れてみると意外にもマットな質感で、上の写真をご覧いただくと分かるように、新芽の先端には比較的くっきりとしたピンクが現れています。葉が成長していくにつれてこのピンク色は薄くなり、成長した葉に美しいグラデーションをもたらします。ゴツゴツした塊根部にこの魅力的な葉をたくさん付けた様子は、時を忘れて眺めていることができます。 葉の間からニョキッと花芽を出している。 成長速度は他のアドロミスクスに比べて大変遅いです。この品種を育てるうえで重要なのは、日照と風通し。成長期である秋冬の日中は外に出して、陽の光と自然の空気をたっぷりと与えます。また蒸れを極度に嫌うため、水やりも土が完全に乾いてから2〜3日経過してから与えるという、やや辛めの水やりが望ましいです。 市場価格:4,000円〜10,000円市場の流通は稀で、ネット上でもなかなか入手が困難な希少種です。見つけたら即買いがおすすめです。 アドロミスクスの基本的な育て方 アドロミスクスは、南アフリカの南西部から南東部の幅広い地域に分布している多肉植物。この地域の気候に日本の気候をなぞらえると、日本ではアドロミスクスの品種の多くは高温多湿な夏に成長が停滞し、乾燥した秋~春に成長する冬季成長型の多肉植物として育てるのが一般的です。冬季成長型の一般的な栽培方法は以下のとおりです。 置き場所(日当たりと風) アドロミスクスは基本的に明るい日光を好みます。特に、冬の時期は成長を促進するために日光と風(揺れるような風ではなく空気を循環させること)を十分に与えてあげることが重要です。日当たりのよいバルコニーがある方は、秋〜春は午前中〜14時くらいまで、晴れている日は外に出してあげましょう。ただし、直射日光への耐性は品種により異なるため、園芸店あるいはネットなどで事前に調べておく必要がありますが、本記事で紹介したクラビフォリウス以外の5品種は基本的に冬の直射日光は大丈夫です。住環境でこれらが難しい場合は、太陽の代わりに植物育成LEDライト、自然の風の代わりにサーキュレーターで室内の空気を循環させることにより、適切な管理を行うことができます。 ただし冬成長型といっても、過度に低温の環境に置くと株のパフォーマンスも落ちるため、株周りの温度は7℃以上を保つようにしましょう。休眠期の夏は直射日光を避け、室内での管理を推奨します。アドロミスクスはどの品種も蒸れを嫌うため、風通しのよい場所で保管するか、サーキュレーターを用いて室内の空気を循環させるようにしましょう。 ペットや幼児に対する毒性 アドロミスクスの属するベンケイソウ科の植物の多くは、葉や茎に動物の心臓機能に影響を及ぼす強心配糖体が含まれているため、アドロミスクスも同様に注意が必要と考えます。念のため、ペットや幼児のいるご家庭では、手の届かない場所でアドロミスクスの管理をすることをおすすめします。万一、ペットや幼児がアドロミスクスをかじったりした場合、嘔吐や下痢などの症状が出る可能性があり、これらの症状の有無に関わらず、速やかに病院で受診してください。 用土 アドロミスクスは排水性のよい土を好みます。市販の多肉植物用土で大丈夫ですが、そのまま使用すると運搬などで破砕した微細粒も取り込み、多肉用土の特性である排水性通気性が損なわれ、蒸れを起こす場合があります。これを防ぐためにも、使用する土は、一度篩(ふるい)にかけて微細粒を落としてから使用することをおすすめします。 振ったあとのボウルを見ると結構な量の微細粒が混ざっていることが分かる。 自前で用土を作る場合は、赤玉土3:鹿沼土3:腐葉土4の割合で土を配合するとよいでしょう。 植え付け 植え付け時は、土を軽くほぐし、根が広がりやすいように鉢に植え付けます。乾燥した土壌を好むアドロミスクスですが、根が干物のように乾燥しすぎるのもよくないので、土の排水性と保水性の微妙なバランスを整えてくれる素焼き鉢がおすすめです。土を入れる前に、鉢底には軽石を敷き、水はけを良くしましょう。また、必ず鉢底穴のある鉢を選んでください。 肥料 アドロミスクスは、成長期である秋〜春に、月1回程度、極薄めの液体肥料を与えるとよいです。肥料を与えすぎると、徒長(本来の形ではなく間のびした状態)を起こして葉の模様が薄くなることがあるので、回数と濃度には注意が必要です。 水やり アドロミスクスは乾燥に強いですが、過湿には注意が必要です。成長期の秋と春は土の表面が乾いたら水を与えるようにし、気温が極端に下がる厳冬期(1〜2月)は寒さにより根もパフォーマンスを落とすため、用土が完全に乾いたのを確認してから与えます。ちなみに、前出のシュルドティアヌスは、塊根部が濡れると蒸れの原因になるので、下の写真のようにノズルなどを使い、水が株にかからないように注意しましょう。 写真のノズルキャップは市販のペットボトルにつけて使用するもので、100円ショップで入手可能。 休眠期の初夏〜夏は水やりを休止しますが、細根を生かし初秋の立ち上がりをよくするために、用土表面がわずかに湿る程度の”水滴”を、霧吹きなどを用いてあげるとよいでしょう。アドロミスクスは、湿度の高い場所は避け、風通しのよい場所で育てることがポイントです。 土の乾き具合は「竹串」で確かめよう 土の乾き具合のチェックには、市販の竹串の使用がおすすめ。使い方は簡単。まず竹串を、根を傷つけないように鉢の縁あたりに深く挿します。 30秒ほどしたら引き抜き、下の写真のように挿していた箇所が汚れていたらまだ水のやり時ではありません。 下の写真のように乾いていたら、土全体が乾いていて、水のあげ時であることが分かります。 ぜひ活用してみてください。 アドロミスクスのお手入れ方法 アドロミスクスは、比較的手間のかからない植物ですが、定期的なお手入れが大切です。葉にホコリが溜まったり、枯れた部分があれば取り除くようにしましょう。また、株が元気に育っているか、葉に異常がないか、毎日確認することも重要です。 おすすめの増やし方 葉挿し アドロミスクスの増やし方としては「葉挿し」が一般的です。葉挿しは、切り取った葉を乾燥させてから土に挿します。切り取った直後にメネデール希釈液に30分ほど浸してから乾かすと、発根に効果が期待できます。 土に挿したあとは、湿度(40%以上)と温度(20℃以上)を保ちながら管理し、数週間後に根が出始めたら、新しい株として育てることができます。 かかりやすい害虫・病気 害虫 アドロミスクスは、他の多肉植物と同じく、いくつかの害虫に気をつけなければなりません。特に気をつけたいのは、カイガラムシとハダニです。これらの害虫は植物にストレスを与える原因となります。害虫は、風通しのよい環境で栽培すれば基本的には発生を防ぐことができます。万一発見した場合は、速やかに水で洗い流すか、専用の殺虫剤を使って駆除しましょう。 病気 アドロミスクスがかかりやすい病気としては、根腐れやカビがあります。根腐れを発見した場合、病変部を切り取り、切断面とその周囲に「GFベンレート水和剤」などの殺菌剤を散布して殺菌処理を行い、完全に乾いたあとに新しい土に植え替えます。カビの場合は、カビが発生した葉と周囲の葉を早めに取り除き、株全体に「ベニカXファインスプレー」などの殺虫殺菌剤を吹き付けて防除します。 見た目が個性的なアドロミスクスを育ててみよう アドロミスクスは、その独特な葉の形状や模様が魅力的な多肉植物です。基本的にはサイズが小さい多肉植物なので、異なる品種2〜3株を育てるのがおすすめです。そうすれば、個性的なフォルムと色合いを楽しめるだけでなく、インテリアグリーンとしても優れた存在感を発揮します。しかし、比較的手間がかからず育てやすい一方で、適切な環境での管理が必要です。この記事に書いた育て方やお手入れ方法を押さえてアドロミスクスを上手に育てると、それはもう楽しくて、気づいたときには部屋中アドロミスクスでいっぱいになるかもしれません。特に今(2月上旬)の時期は、来たる春を目指して芽吹いている株が多いので、買い時だと思いますよ!わたしが普段その魅力を説いている、ちょっとマニアックなサボテンやコーデックスと異なり、このアドロミスクスは日本国民1億2,359万人(2025/1/1概算)全員におすすめしたい多肉植物です。楽しんでください!
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レシピ・料理
和洋中どれもおまかせ! 食用サボテン【ノパル】を使った万能レシピ8選
2025年は日常のメニューにヘルシーなノパル料理を取り入れよう! 昨年「サボテンのまち春日井」プロジェクトを取材し、特産品であるノパル(ウチワサボテンの若芽)を使用した料理を初めて食べ、その美味しさに感銘を受けた編集部員Kは、ノパルの美味しさを広めるべく、前回の記事ではノパルを使ったクリスマスメニューをご紹介しました。今回はその後編ということで、前回に続き、長年飲食業に携わり料理をライフワークとする編集部員Kの妻による、日頃の食卓で気軽に楽しめるノパルを使った日常レシピ8品をご紹介。ノパルはまだまだ日本ではメジャーな食材ではありませんし、入手できる場所も限られていますが(入手方法は後述)、栄養豊富で、しかも美容への効果が期待できるノパルをこのまま放っておくのはもったいない!ご紹介するメニューは全て手軽に作れるものばかり。そろそろ正月料理にも飽きた頃と思いますので、ぜひチャレンジしてみてください。2025年は、ご家庭でノパルを新たな食材としてぜひレギュラーメンバーに! ノパルの基本情報 ノパル(写真上)は、ウチワサボテン(サボテン科オプンチア属)の若い茎の部分を指し、特にメキシコ料理には欠かせない存在で、メキシコに国境を接している米国南西部のスーパーマーケットでも日常食として販売されています。また、サボテンの中でも随一の生命力を誇るウチワサボテンは、世界の食糧危機を救うかもしれない高いポテンシャルを持つ作物として、国連も注目しています。 ノパルの味と栄養価 ノパルは、生食と加熱の両方で美味しく食べることができます。生食では、シャキシャキとした歯応えとオクラのような粘り気が特徴で、少し酸味も感じられます。加熱すると、甘みと旨みが増してトロッとした食感になり、クセがなく食べやすくなります。栄養面では、食物繊維、抗酸化作用を持つビタミンC、肌細胞の代謝を高めるカルシウムなどが豊富で、美容面での効果が期待でき、なおかつ低カロリーなのも嬉しい点。また、血糖値の安定やコレステロール値の改善も期待できる健康食材としても注目されています。 万能食材「ノパル」を使った日常レシピ8選 【ノパルを使う際の下処理のポイント】 ノパルには「棘座(しざ)」と呼ばれる突起があるため、事前にそれをピーラーなどで取り除く必要があります。 棘座はトゲを産生するサボテン科特有の器官ですが、ノパルは若芽のためトゲは生えておらず、とても簡単にかつ安全に取り除けます。 ①ノパル香る旨味ネギトロ丼 メキシコ生まれの万能食材「ノパル」を取り入れた、新感覚のネギトロ丼が登場!まろやかなネギトロに、みじん切りにしてだし醤油と合わせた基本のノパル旨味ダレを合わせ、温かいごはんの上にたっぷりかけました。ネバネバとしたノパルの食感が、ネギトロのとろける旨味と絡み合い、一口ごとに深い味わいが広がります。さらに、イクラやシソ、カイワレなど、お好きなトッピングを加えることで、見た目も華やかに仕上がり、日常のレシピに彩りをプラスします。 【POINT】 ここで作るノパル旨味ダレはさまざまな料理に応用できる万能ダレなので、これを使ったレシピもこの後いくつかご紹介します。 【材料】(2人分)[基本のノパル旨味ダレ]・ノパル 2枚・砂糖 小さじ1・だし醤油 大さじ1・わさび 適量[ネギトロ丼]・ノパル旨味ダレ 40〜50g・白米 約1.5合・ネギトロ 約200g・だし醤油 大さじ1・わさび 適量 作り方 【基本になるノパル旨味ダレ】 ①ノパル2枚をみじん切りにし、よく混ぜる。 ②だし醤油大さじ1、砂糖小さじ1を加え、よく混ぜる。 いろいろなものに使える魔法のタレ。 【仕上げ】③ネギトロとノパル旨味ダレをボウルに入れ混ぜ合わせる。 ④わさび、だし醤油大さじ1を入れ、よく混ぜる。⑤丼に盛ったごはんにかければできあがり!いくらやシソ、カイワレなど、お好みでトッピングを。 【実際の作っているところを動画でもご覧いただけます】 ②ノパル香る卵かけごはん まろやかな卵かけごはんに、前出の「ノパル香る旨味ネギトロ丼」で作ったノパル旨味ダレをたっぷりかけた新しい味わいをご提案!みじん切りにしたノパルのネバネバ感が、卵のまろやかさと絶妙に絡み、旨味が一層引き立ちます。シンプルながらも、ノパルの爽やかな香りと深い味わいが楽しめる一品で、忙しい日のお手軽ごはんにもぴったり。じつは、今回8品のレシピを考案した中で、「え、まじ!?」と一番感動したのが、この卵かけごはんなんです! 【材料】(2人分)[ノパル旨味ダレ]・ノパル 2枚・砂糖 小さじ1・だし醤油 大さじ1・わさび 適量[卵かけごはん]・卵 2個・白米 1〜1.5号(お茶碗2杯分) 作り方 ①ノパル旨味ダレを作る(「ノパル香る旨味ネギトロ丼」参照)。②熱々ごはんに、卵(黄身だけがおすすめ)を乗せ、適量の醤油(だし醤油がおすすめ)をかける。 ③ノパル旨味ダレをかければできあがり! ちなみに我が家では卵かけごはんには牡蠣だし醤油が定番!濃厚な牡蠣の旨みが広がる牡蠣醬油は、一度使ったらやみつきになります。 牡蠣だし醤油は比較的多くのスーパーで取り扱っている。 ③ノパル香る納豆ごはん 卵かけごはんに引き続き、ノパル旨味ダレを今度は納豆と合わせてみたら、納豆のネバネバ感と、ノパル万能ダレの爽やかな香りが絶妙にマッチした一品に仕上がりました。みじん切りにしたノパルとだし醤油で作ったシンプルなタレなのですが、納豆の旨味を引き立て、さらに深い味わいに昇華させます。納豆にノパルの風味が加わることで、普段の納豆ごはんがこんなにも新しい楽しみ方に。健康的で栄養満点、お手軽なランチや朝食にもぴったりです。こちらも、卵かけごはんに続いて、夫婦で「うんまーーーー!!」と絶叫してしまいました。 【材料】(2人分)[ノパル旨味ダレ]・ノパル 2枚・砂糖 小さじ1・だし醤油 大さじ1・わさび 適量[納豆かけごはん]・納豆 2個・白米 1〜1.5号(お茶碗2杯分) 作り方 ①ノパル旨味ダレを作る(「ノパル香る旨味ネギトロ丼」参照)。②熱々ごはんに、よ〜くかき混ぜた納豆を乗せ、適量の醤油(だし醤油推奨)をかける。ポイントは、納豆に付属のタレとからしは使わないこと。③ノパル旨味ダレをかければできあがり! ④ノパルとツナのさっぱり大根サラダ もはや万能ダレ! の、ノパル旨味ダレを使って今度はサラダを作ってみました。爽やかなノパルとツナの旨味が大根にしっかり絡んだ、ヘルシーでさっぱりとした大根サラダです。大根のシャキシャキ食感とツナのまろやかさを、ノパル旨味ダレが文字通り旨味で包み込みます。普段のサラダに新しい風味が加わり、シンプルながらも栄養満点で、食事のアクセントとしておすすめ!忙しい日にも簡単に作れる一品です。 【材料】(2人分)[ノパル旨味ダレ]・ノパル 2枚・砂糖 小さじ1・だし醤油 大さじ1・わさび 適量[サラダ]・大根 150g・ツナ 1/2缶 作り方 ①ノパル旨味ダレを作る(「ノパル香る旨味ネギトロ丼」参照)。②大根を千切りにし、キッチンペーパーで水分を取る。 ③ツナ缶1/2の水気を取る。④ボウルに千切りにした大根、水気を切ったツナ、ノパル旨味ダレを入れ、混ぜ合わせる。 ⑤皿に盛り、できあがり。 ⑤ノパル香るトマトの爽やかサラダ ノパル旨味ダレを使った最後のレシピは、さっぱりとしたノパルの味わいとごま油の香りがトマトにしっかり絡んだ、簡単でヘルシーなサラダ。トマトの甘みとノパルの風味が絶妙に調和し、食欲をそそる一品です。シンプルながらも、彩り豊かで食卓に華やかさをプラス。さっぱりとした味わいで、”あともう一品”の時にも助けになり、和洋中どの食卓にもマッチする万能サラダです。 【材料】(2人分)[ノパル旨味ダレ]・ノパル 2枚・砂糖 小さじ1・だし醤油 大さじ1[サラダ]・トマト 1個・ごま油 小さじ1 作り方 ①ノパル旨味ダレを作る(「ノパル香る旨味ネギトロ丼」参照)。②ノパル旨味ダレにごま油を加え、軽く混ぜて香りをつける。③トマトを薄切りにする。④ボウルに切ったトマトと②を入れ、軽く和えたらできあがり。 ⑥プリプリ海老とノパルのウェイパー炒め 中華の万能調味料「味覇(ウェイパー)」と、メキシコ生まれの食材「ノパル」が出会い、驚きの一皿が完成! プリプリ食感の海老と、シャキッとしたノパルを香ばしく炒め、ウェイパーのコク深い旨味で包み込みました。海老の甘み、ノパルの爽やかな風味、そしてウェイパーの絶妙な塩味が三位一体となり、ごはんがどんどん進む味わいに仕上がっています。 【材料】(2人分)・ノパル 2枚・海老(むき海老) 12〜16尾・オイル(サラダ油またはオリーブオイル)適量・ニンニク 1片・唐辛子 1個・味覇(ウェイパー) 小さじ2・料理酒 大さじ2・塩、胡椒 適量 作り方 ①殻をむいた海老に、塩、胡椒をふる。 ②ノパルをひと口大にスライス。 ③ニンニク1片をみじん切りに。④フライパンにオイルを敷き、よく熱したら食材を投入。⑤唐辛子1個と、中華スープの素「味覇(ウェイパー)」を小さじ2杯入れ、炒める。 味覇(ウェイパー)はペースト状の調味料だ。 ⑥ペースト状の味覇がしっかりと溶け、全体に行き渡ったら、料理酒を大さじ2杯程度入れる。⑦料理酒が煮立ったところにニンニクを入れ、炒める。 ⑧ノパルから出たとろみが全体によく馴染んだら完成! 【実際の作っているところを動画でもご覧いただけます】 ⑦鶏唐揚げノパル香味彩り和え カリッとジューシーな鶏の唐揚げに、ノパルとパプリカで作った香味ダレをたっぷり絡めた新感覚のおかずが登場! 唐揚げの旨味と、甘辛の香味ダレに絡んだノパルとパプリカの爽やかな風味が絶妙にマッチし、一口ごとに満足感が広がります。見た目にも華やかで、おかずとしてはもちろん、おつまみにもぴったりです。 【材料】(2人分) [香味ダレ]・ノパル 2枚・赤パプリカ 1/2個・オイル(サラダ油) 適量・唐辛子 1個・水 大さじ4・砂糖 小さじ1〜2(お好みで)・だし醤油(めんつゆでも可) 大さじ3・料理酒 大さじ1[唐揚げ] ・鶏もも肉 300g・だし醤油 大さじ1・酢 大さじ2・料理酒 大さじ1・すりおろし生姜 小さじ1 (チューブでOK)・すりおろしニンニク 小さじ1 (チューブでOK)・片栗粉 30g・薄力粉 30g・サラダ油 適量 作り方 【香味ダレ】①ノパル2枚と赤パプリカ1/2個を、1cm幅のこま切れにする。 ②フライパンにサラダ油を敷き、熱したら唐辛子1個を割り入れ、香り付けをする。③こま切れにしたノパルとパプリカを入れ、炒める。④ノパルが糸を引き始めたら、水大さじ4、砂糖小さじ1〜2(お好みで)、だし醤油大さじ3を加える。 ノパルは火が入るとやや色がくすみ、ねばり気が出るが、これにより旨味が倍増する。 ⑤煮立ったら料理酒大さじ1を入れ、再度ひと煮立ちさせたらできあがり。 【唐揚げ】①鶏もも肉300gをひと口大に切る。 ②切った鶏肉をボウルに入れ、だし醤油大さじ1、酢大さじ2、料理酒大さじ1、すりおろしニンニク小さじ1、すりおろし生姜小さじ1を加え、揉みこむ。 ③調味料を揉みこんだ鶏肉は冷蔵庫で1時間ほど寝かせる。④寝かせた鶏肉に薄力粉30gと小麦粉30gの合わせ粉をまんべんなくつける。 ⑤180℃の油で3分間揚げたらできあがり。 【仕上げ】①香味ダレを煮立たせたら唐揚げを投入し、よく絡める。 ②盛り付けたらお好みで糸唐辛子(または唐辛子輪切り)をトッピングし、完成! 【実際の作っているところを動画でもご覧いただけます】 ⑧ノパル×アンガスビーフ デュオステーキ 旨味たっぷりのアンガスビーフステーキと、爽やかな風味が魅力のノパルステーキが贅沢に一皿で楽しめる「デュオステーキ」が完成!肉厚でジューシーなアンガスビーフと、香ばしく焼き上げたノパルの組み合わせに、バルサミコをじっくり煮詰めた濃厚なソースが絡み合い、一口ごとに深い味わいが広がります。ソースの酸味と甘みが肉とノパルの旨味を引き立て、日常のごちそうメニューに仕上がりました。ワインのお供にもGood!この料理、ステーキ肉なら基本的にどの肉でもOKですが、ノパルには黒毛和牛よりも輸入牛肉のほうが合うため、今回は輸入牛肉でも特に赤身の濃厚な旨味が特徴の米国産アンガスビーフを使用しました。 【材料】(2人分) ・ノパル 5枚・牛ステーキ肉 300〜500g※アンガスビーフ推奨・オイル(サラダ油またはオリーブオイル)適量・バルサミコ 200cc・塩、胡椒 適量 作り方 【バルサミコのステーキソース】①バルサミコ200ccをフライパンで中火で煮立たせる。 ②焦げ付かないようにフライパンを振りながら、5分くらい煮詰めたら火から上げ、容器に移す。 バルサミコは煮詰めることで濃厚なトロミと味わいになる。 【ノパルステーキ】①オイルをひいたフライパンにノパルを並べ、焼き目が付いたら裏返す。 ②同様に焼き目が付き、柔らかくなったら火から上げる。③盛り付けはお好みで。一口サイズにカットするか、そのままステーキの脇に添えるのもよい。※※今回は一口サイズにカットし、一口大にカットしたステーキと交互に並べました。 【アンガス牛ビーフステーキ】 (極厚肉をレアで焼き上げる場合)①肉は焼く前に冷蔵庫から出し、常温で30分くらい置いておく。 写真の肉は1ポンド(約500g) ②肉の両面に、塩、胡椒をふる。③オイルをひいたフライパンで、片面あたり強火で約1分半(両面で計約3分)焼き色が付くまで焼く。 ④一旦取り出してアルミホイルに包み、3分間余熱でゆっくり火を入れる。 ⑤もう一度フライパンに戻して、アルミホイルでフタをして片面あたり軽く(30秒程度)焼く。※1 ⑥盛り付けはお好みで。ひと口サイズにカットするか、そのままナイフで切り分けながら食べるのもよい。※2 ⑦バルサミコソースをかけてできあがり。※1 焼く時間は、肉の厚みや好みの焼き加減に応じ、適宜調整してください。※2 今回はひと口サイズにカットし、ひと口大にカットしたノパルと交互に並べてあります。 【実際の作っているところを動画でもご覧いただけます】 ノパルの買える場所 ノパルは我が国では一般的な食材ではないため、ネットでの購入が現実的。ちなみに本記事で使用しているノパルはすべて、春日井市の老舗サボテン農家「後藤サボテン」のもので、同社のオンラインストアで購入することができます。このほかにも、同じく春日井市でノパルを栽培、販売している「太陽の葉」や、個人でフリマアプリに出品している「Kaktus’s shop」などもおすすめです。 まとめ|ノパルで毎日の食卓に新しい風を! いかがでしたか? ノパルを使ったレシピで、いつもの食事がもっと楽しく、健康的に変身します!メキシコ生まれの食材「ノパル」は、普段の料理にアクセントを加え、彩り豊かなメニューを実現してくれます。今回ご紹介したレシピには、以下のポイントが詰まっています:① 新しい食材で料理に変化をノパルの爽やかな香りと風味は、普段の食卓では味わえない新しい楽しみを提供します。② アレンジ自在な万能食材ノパルは、サラダから丼物、卵かけごはんまで、多彩な料理に活用できる万能食材。③ ヘルシーで栄養満点ノパルは低カロリーで栄養豊富。健康を意識した食事にもぴったりです。ノパルを使えば、簡単に普段の食事をアップグレードできます。ぜひ日常の食卓にノパルを取り入れて、2025年をもっと美味しく、そして健康的にお過ごしください!
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レシピ・料理
【クリスマスディナー】に新提案! 食用サボテン「ノパル」の絶品レシピ5選
ノパル料理で特別なクリスマスを楽しもう! 今年の夏、愛知県春日井市で進められている「サボテンのまち春日井」プロジェクトを取材し、特産品であるノパル(ウチワサボテンの若芽)を使用したサボテン料理の数々に舌鼓を打った編集部員K。サボテンの食材としての可能性にすっかり魅了された私は、その魅力をさらに深堀りするべく、長年飲食業に携わり料理をライフワークとする妻に、ノパルを使ったオリジナルのクリスマスメニューの試作を依頼しました。その結果、私以上にノパルに魅了された妻は、渾身のレシピを5つも完成させたので、今回は、連載「多肉植物狂い」の番外編として、見て楽しむだけでなく、食べても美味しいサボテンの魅力について、ここで皆さんにご紹介します。ノパルは食卓を彩り、クリスマスにも大活躍する食材なんです! ノパルの基本情報 ノパル(写真上)は、ウチワサボテン(サボテン科オプンチア属)の若い茎の部分を指し、特にメキシコで広く食用にされています。その歴史は古代アステカ文明までさかのぼり、現在もメキシコ料理には欠かせない存在で、メキシコに国境を接している米国南西部のスーパーマーケットでも日常食として販売されています。また、サボテンの中でも随一の生命力を誇るウチワサボテンは、世界の食糧危機を救うかもしれない高いポテンシャルを持つ作物として、国連も注目しています。 ノパルの味と栄養価 ノパルは生食と加熱の両方で美味しく食べることができます。生食では、シャキシャキとした歯応えとオクラのような粘り気が特徴で、少し酸味も感じられます。加熱すると、甘みと旨みが増してトロッとした食感になり、クセがなく食べやすくなります。栄養面では食物繊維やビタミンC、カルシウムが豊富で低カロリー。また、血糖値の安定やコレステロール値の改善が期待され、健康食材としても注目されています。 ノパルの買える場所 ノパルは我が国では一般的な食材ではないため、ネットでの購入が現実的。ちなみに本記事で使用しているノパルはすべて、春日井市の老舗サボテン農家「後藤サボテン」のもので、同社のオンラインストアで購入することができます。このほかにも、同じく春日井市でノパルを栽培、販売している「太陽の葉」や、個人でフリマアプリに出品している「Kaktus’s shop」などでも購入することができます。 ノパルを使ったクリスマスメニューレシピ5選 【ノパルを使う際の下処理のポイント】 食用に栽培されたノパルにはトゲはほぼないのですが、サボテンそのものにはそのトゲを産む棘座(しざ)と呼ばれる突起があるため、事前にそれをピーラーを使い取り除く必要があります。 手作りドレッシングで楽しむノパルとベーコンの彩りサラダ シャキッとしたノパルと香ばしいベーコンの絶妙な組み合わせに、手作りドレッシングの爽やかさが加わった、ノパルを野菜のように楽しめる一皿。独特な酸味と苦味のあるノパルの魅力は生で食べてこそ、その真髄が味わえます。彩り豊かな野菜たちとノパルの食感が引き立ち、まさにクリスマスの夜に相応しいスペシャルなサラダに仕上がります。 【材料】(2人分) ・ノパル 2枚・ベーコン 80〜100g・ゆでたまご 2個・茹でたジャガイモ 1つ・レタス 半玉・トマト 1つ・ツナ 1缶・種抜きオリーブ 適量・アンチョビフィレ 4枚・塩、胡椒 適量〜ドレッシングの材料〜・卵 1個・アンチョビフィレ 2枚・酢 大さじ3・サラダ油 大さじ3・塩、胡椒 少々 作り方 ①卵は茹でて殻をむき、粗熱をとり半分に切ります。茹で時間は沸騰してから約8分が目安。②ジャガイモは厚めにスライスし、竹串がスムースに刺さるくらいまで約6分間茹で、ザルに上げて粗熱を取る。 ③ノパルはピーラーで棘座を取り除き、クリスマスツリーをイメージして三角形に切る。 クリスマスツリーをイメージして三角形にカット。 ④ベーコンをフライパンで熱し焼き色をつけて好みの大きさに切る。⑤トマトはヘタを取り除き、一口大の大きさに切る。レタスは洗って水気をよく切り、手でちぎる。【ドレッシングを作る】⑥ボウルに生卵、アンチョビフィレ、酢、サラダ油、塩、胡椒を入れ、泡立て器でよ〜くかき混ぜる。 ⑦大きめの皿にそれぞれを盛り付け、ドレッシングをかけてでき上がり! ノパルとジャガイモのかんたんグラタン Gratin dauphinois aux nopales 焼いたノパルはトロッとした食感がやみつきに。チーズとの相性も抜群。 クリーミーで濃厚な一皿。ジャガイモのホクホク感とノパルの柔らかな歯ごたえが心地よいコントラストを生み出し、フォークが止まらなくなるおいしさ!チーズの香ばしい焼き色が、見た目と香りで食欲をさらに引き立てます。ホワイトソースを使わず、牛乳だけで簡単に作れるのもポイント!これからの、寒い冬にぴったりのメニューです。 【材料】(2人分)・ノパル 2〜3枚・ジャガイモ 大きいサイズなら 3個、小さめサイズなら4〜5個・牛乳 300cc・コンビーフ 40g ・ニンニク 1片・ピザ用チーズ 適量・コンソメ 小さじ2~3・塩、胡椒 適量 作り方 ①ジャガイモは皮をむき、2〜3mm程度の薄切りにする。 ②ノパルはピーラーで棘座を取り除き、切ったジャガイモと同じくらいのサイズに切る。厚みがあるので、包丁の刃を寝かせ、そぐようにスライスするとよい。 ③フライパン(鍋でもOK)に薄切りにしたジャガイモを並べ、牛乳、刻んだニンニクを加え、火にかける。④牛乳がふつふつと沸いてきたらコンソメと塩&胡椒を加え、弱火で約5分煮る。コンソメを入れることで牛乳の独特なにおいが無くなり、牛乳が苦手な方でも美味しく食べられる。短時間で煮てジャガイモのシャキシャキ感を残すのがポイント。 ⑤グラタン皿に、煮たジャガイモとノパルを交互に並べる。その上にコンビーフをのせて、ソースをかけ、最後にとろけるチーズをトッピング。 ⑥200℃のオーブントースターで焼き色が付くまで10分程度焼いて出来上がり! 【実際の作っているところを動画でもご覧いただけます】 ノパルのブルスケッタ Bruschetta alle Nopales 2種類で楽しみます。ノパルとコンビーフのブルスケッタは、ジューシーなコンビーフの旨味と、ノパルのさっぱりとした酸味が絶妙にマッチした一品。クリーミーなベースが口当たりを滑らかにし、バゲットの食感が楽しさをプラス。やみつきになる大人の味わいです。ノパルとトマトのブルスケッタは、トマトの甘酸っぱさとノパルの爽やかな風味が奏でる、ライトでフレッシュなブルスケッタ。仕上げのオリーブオイルの香りが鼻をくすぐり、一口ごとにイタリアの香りを感じるような軽やかさが広がります。 【材料】(2人分) [ノパルとコンビーフのブルスケッタ] ・バゲット 6〜7mmくらいにスライスしたものを6〜7枚・コンビーフ 1缶(約80g)・ノパル 1枚・ヨーグルト 50g・ニンニク 半片(1片の半分) ・塩、胡椒 適量 [ノパルとトマトのブルスケッタ】 ・バゲット 6〜7mmにスライスしたものを5枚程度・トマト 大きめなら1個、小さめなら2個・ノパル 1枚・ニンニク 半片・オリーブオイル 少々・塩、胡椒 適量 作り方 【ノパルとコンビーフのブルスケッタ】①カップにコーヒーフィルターまたはキッチンペーパーをセットし、ヨーグルトを約1時間放置し、水分を濾しておく。 ②ノパルはピーラーで棘座を取り除き、ラップで包み電子レンジで30秒加熱し、粗熱が取れたところでみじん切りにする。③器にほぐしたコンビーフ、水分を濾したヨーグルト、ノパル、刻んだニンニク(すりおろしやチューブでも可)、胡椒をふり、混ぜ合わせる。 ノパルは熱を加えると変色し昆布のようになる(左)。(右)は生の状態。 ④ペースト状になるまで混ぜ合わせ、具材をバゲットに塗れば完成! 【ノパルとトマトのブルスケッタ】①トマトは半分に切り、タネを取り出したらキッチンペーパーで水気を取り除き、みじん切りにする。②ノパルは生のほうもみじん切りにし、加熱処理したノパルと合わせることで異なる食感が楽しめる。③器にトマト、ノパル、刻んだニンニク(すりおろしやチューブも可)オリーブオイルを入れ、混ぜ合わせ、塩、胡椒で味を整える。④具材をバゲットにのせれば完成! 【実際の作っているところを動画でもご覧いただけます】 メカジキのソテー 〜ノパルとトマトのソース〜Pesce Spada alla Griglia con Salsa di Nopal e Pomodoro 地中海とメキシコの出会いは、メインディッシュに相応しい洗練された一皿。 地中海料理でお馴染みのメカジキの香ばしいソテーに、ノパルの瑞々しさとトマトの甘酸っぱさが絶妙に絡む一品。火を通したノパルがほんのり柔らかくなり、トマトのソースが全体を包み込むことで、軽やかさの中にも深みのある味わいを実現しました。ノパルの爽やかな酸味が魚の旨味を引き立て、まるで地中海の空気にメキシコの太陽が混ざり合ったような新鮮な感動を楽しめる料理です。 【材料】(2人分) ・メカジキの切り身 4切れ・ノパル 2枚・ミニトマト 1パック・ニンニク 2片・パセリ 適量・白ワイン 50cc・塩、胡椒 適量 作り方 【メカジキ】①メカジキの両面に塩、胡椒をふる。 ②フライパンにオリーブオイルを敷き、ニンニク(半片)を入れ、弱火でオイルに香りをつける。そこにメカジキを入れ中火にし、焼き色が付いたら裏返し両面を焼いていく。この時、ニンニクは一旦取り出す。 ③両面にしっかりと焼き色がついたらフタをして約2分、中まで火が通ったら一旦取り出す。 【ソース】④ノパルは棘座を取り除き2cmくらいの角切りに、ミニトマトは半分に切っておく。⑤メカジキを焼いたフライパンにオリーブオイルを足し、ニンニク、ミニトマト、白ワインを加え、中火にかける。ミニトマトが加熱され、ソースに濃いオレンジ色が付くまでフツフツと煮る。ここで水分が足りないようならば、水または白ワインを加えてもよい。⑥ノパルを投入しさらに加熱し、ノパルにとろみが出たところで塩をふって味を整える。シンプルなイタリアンの味付けなので、まろやかな味わいが好みの場合は顆粒状の和風だしを加えてもOK。 ⑦焼いておいたメカジキを戻し入れ、ソースをなじませる。⑧パセリで香りを加えたら完成! 【実際の作っているところを動画でもご覧いただけます】 手作りサルシッチャとノパルのスパゲティSpaghetti con salsiccia fatta in casa e nopal お肉を食べたい! という方におすすめ、イタリア風アレンジのユニークなノパル料理。イタリア発祥のサルシッチャ(生ソーセージ)は、肉の旨味とハーブの香りが特徴で、手作りならではのジューシーさが際立ちます。その濃厚な味わいにノパルの爽やかな酸味とシャキッとした食感が絶妙なアクセントを加えます。スパゲティに絡むソースは、ノパルの風味とサルシッチャの旨味を引き立てるよう丁寧に仕上げ、口の中で食材が調和する一皿に。豊かな香りと食感のハーモニーが楽しめるこのパスタは、何度でも食べたくなる美味しさです。 【材料】(2人分) ・ノパル 2枚・豚ひき肉 250g・イタリアンパセリ みじん切りにしたものを大さじ2 手でちぎったものを大さじ1・パセリ みじん切りにしたものを大さじ2・セージパウダー 少々・乾燥バジル 少々・ナツメグ 少々・塩 3g・胡椒 少々・パスタ(乾麺1.6mm) 200g・オリーブオイル 20cc・ニンニク 2片・唐辛子 1つ 作り方 ①サルシッチャのベースを作る。ボールにひき肉を入れ、みじん切りにしたイタリアンパセリ、パセリ、セージパウダー、ニンニク(チューブでも可)乾燥バジル、ナツメグ、塩&胡椒を入れ混ぜ合わせ、手でこねる。 ②ノパルは棘座を取り除き3cmくらいの短冊切りにし、ニンニクは包丁の腹を使い軽く潰し割る。 ③フライパンにオリーブオイル20cc、ニンニク、唐辛子を入れ、弱火にかけながらオイルに香をつける。④オリーブオイルに香りがついたら中火にし、サルシッチャベースを入れ焼いていく。この時、ニンニクと唐辛子を取り除く。ニンニクと唐辛子が焦げるとエグ味が移ってしまうため要注意!サルシッチャベースは、両面にこんがりと焼き色が付くまで形を崩さずに焼いていく。 サルシッチャのベースは手で平に広げ焼いていく。 ⑤サルシッチャベースの両面に焼き色が付いたら、ヘラなどを使い一口サイズにカットする。そこにノパル、取り除いたニンニクを戻し入れ、中火にかけノパルに火を入れていく。白ワインを加え、ソースをなじませていく。 一口サイズにカットするとこんな感じ。 ⑥パスタを茹でる。ちなみに、我が家ではパスタは2人分で316gくらい。一般的なお店での”大盛り”に相当します。 水の量の1%の塩を入れ、沸騰したらパスタを投入。茹で時間は袋に明記してある時間より1分短めがおすすめ。⑦ ソースにパスタの茹で汁を加えソースと茹で汁をなじませ、そこに茹で上がったパスタを入れ、さらに茹で汁を加えソースとパスタを絡ませていく。この時、味見をしながら塩味を整える。マイルドな味が好みの場合、和風だしを加えてもOK。 ⑧最後に、手でちぎったイタリアンパセリとみじん切りのパセリで香りを付けて完成! 【実際の作っているところを動画でもご覧いただけます】 実は相性抜群なクリスマスディナーとノパル クリスマスカラーといえば赤と緑ですが、それぞれに意味があるのはご存じですか?赤は愛と情熱を表し、キリスト教においてはイエス・キリストの血を象徴しているともいわれています。緑は永遠の命や希望、繁栄を象徴する色で、クリスマスツリーに使われるモミの木や松といった常緑樹は、四季を問わず緑を保つことから、不死や再生を象徴しています。今回の主役であるノパル(=ウチワサボテン)は、サボテンの中でも特に強い生命力を誇ります。そのため、ノパルの緑をクリスマスの食卓に取り入れることで、永遠の命や希望を象徴する意味が加わり、聖夜の食事を一層特別なものにしてくれるでしょう。 まとめ|ノパルで特別なクリスマスを! いかがでしたか? ノパルで楽しむクリスマスディナーメキシコの伝統食材「ノパル」を使ったクリスマスディナーは、ユニークで健康的なだけでなく、見た目も華やかでおもてなしにもぴったりなんです!今回ご紹介した料理には、以下のポイントが詰まっています:①新しい食材で驚きと楽しさをプラスノパルの爽やかな酸味と独特な食感は、普段の食卓にはない特別な風味を提供してくれます。 ②多彩なレシピでアレンジ自由サルシッチャやグラタンなど、ノパルはあらゆるジャンルの料理にマッチする万能食材。クリスマスディナーを個性豊かに彩ります。③健康を意識したごちそうメニュー低カロリーで栄養価の高いノパルは、年末のごちそうシーズンでもヘルシーさをキープできます。特別な日の食卓にノパルを加えれば、家族やゲストとの会話も弾むこと間違いなし!ぜひあなたのクリスマスディナーに取り入れてみてください。Merry Christmas!
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ガーデン&ショップ
あなたの多肉植物みせてください! 激レア塊根専門店主がおすすめの逸品4選を拝見
あなたの多肉植物みせてください! とは 「あなたの多肉植物見せてください!」は、街で噂の多肉植物や、ご自慢の多肉植物について、編集部員Kが直接見に行ってお話を伺うという、連載「多肉植物狂い」のスペシャル企画です。読者から寄せられた情報だけでなく、編集部員Kが自らの足と嗅覚を使って探し当てたお宝多肉植物も紹介しちゃいます! 今回紹介するのは新規オープンしたばかりの激レア多肉植物専門店! 今回ご紹介するのは今年の9月14日に開店したばかりの園芸店gadintzki plants(ガディンツキープランツ)。店内は多肉植物以外のプランツも充実しているのですが、店主が多肉植物に造詣が超深く、マニア垂涎モノの激レアコーデックスが目白押しのため、ご紹介させていただきます。 その店主の正体は・・・ じつはその店主、ガーデンストーリーで人気の連載「街の園芸店がお悩みを解決!」でお馴染みの、関ヨシカズ氏なのです! 件の連載では顔出しNGでしたが、今回晴れて皆さまにお目にかかります。 その連載でもお世話になった目黒区祐天寺のフラワーガーデン・セキは、今年3月に30年の歴史を閉じ、装い新たに同区の自由が丘(最寄駅は東急大井町線九品仏駅)の地にて、gadintzki plants(ガディンツキープランツ)として生まれ変わりました。 「gadintzki plants」(ガディンツキープランツ)とは gadintzki plantsは2024年9月14日開業。祐天寺でフラワーガーデン・セキを営んでいた関ヨシカズ氏(以下関さん)が、その豊富な園芸知識と経験を活かすべく新たな業態としてスタートさせた園芸店。旧店では生花が中心でしたが、gadintzki plantsが主に扱うのは観葉植物と珍奇植物(ビザールプランツ)。じつは、旧店舗でもひっそりと塊根植物やサボテンのレア品種などを販売しており、特に型のよいグラキリスの輸入株や、関さん自らが親株から採種して手がけた実生株(みしょうかぶ=国内で種から育った株)のウィンゾリーなどが破格の値段で販売されていたため、常連プランツマニアの誰もがこの店の存在を知られたくなかったという・・・。 実際に旧店で販売していたパキポディウム・バロニー(実生)。目利きの良さが感じられる逸品であった。 もちろん闇市のようにやっていたわけでないのですが(笑)、旧店のフラワーガーデン・セキは、なにぶん店の見た目も街のお花屋さん感が強かったため、まさか奥様方がガーデニングの花を選んでいる傍で、数千〜数万円のビザールプランツ(珍奇植物)が売られていたとは、ちょっと驚きですよね! かくいう私も、関さんにより塊根植物に開眼し、初めてパキポディウム“サンデルシー”を購入したのも旧店でした。そんな多くのファンを持つ関さんが新たに始めた新店舗、期待せずにはいられません。 店名の由来 gadintzki plantsのgadintzki(ガディンツキー)は関さん考案の造語。関さんが友人のオーストラリア人に、旧店名の“フラワーガーデンセキ”を英語で発音でしたら、その友人にはそれが“ガディンツキー”と聞こえたそうで、自分の拙い英語の発音が通じなかったのは残念ながらも、“ガディンツキー”にはドイツ語っぽいニュアンスがあってcoolだな、と感じたため、そのまま新店名に採用したという。なんとも関さんらしいユニークなエピソードですね。 店内紹介 店の奥では近隣の古着屋さんのポップアップストアなども不定期でおこなわれています。 関さんおすすめ多肉植物の逸品4選 関さんに取材時(2024年10月上旬)の在庫の中から、おすすめの4商品を選んで、解説してもらいました。掲載の商品は全て1点ものなので、ご購入希望の場合は事前に店に問い合わせてください。 ①パキポディウム・グラキリス(輸入株) 価格:49,500円(税込) 大きさ:高さ(鉢含まず)25cm 幹幅12cm 特徴 根や幹、茎に水分を蓄え、肥大化したフォルムが特徴的な塊根植物(コーデックス)の中でも人気のパキポディウム属。その人気を牽引してきた最大の功労者こそ「グラキリス」です。主な原産地はマダガスカルを中心に、南アフリカ、ナミビア、アンゴラといった、アフリカ大陸南部で、その多くが岩場やインゼルバーグと呼ばれる広大な平原に孤立した丘陵地帯など、通常の植物であれば生育できない過酷な環境で自生しています。近年は観賞用植物としての乱獲が相次ぎ、国際間取引にはワシントン条約による厳しい規制がかけられているため入手も難しくなってきましたが、gadintzki plantsでは原産地政府が公認している正式なルートからの株しか仕入れていないため、安心して大自然が生んだ奇跡の造形美をお楽しみいただけます。 関さん推しの理由 人気のグラキリスも"輸入株(現地球)"なんて肩書きが付くと上級者向きでは? と難しく考えている方も多いのですが、意外にもグラキリスの現地球は塊根植物初心者にもおすすめなんです。自生地の様子をそのまま楽しめる輸入塊根植物の醍醐味を存分に味わえるのがこのグラキリス。サボテンなんかよりも全然ラクに育てられるんですよ! 大きさ、価格、共に幅広く取り揃えています。 グラキリスは低重心で扁平な球状が整っていれば整っているほど高値が付くのですが、僕がまん丸よりはちょっと変わった形のほうが好きなので、それを選んで仕入れているため価格が抑えられつつ、僕の好みが反映されているのが当店のグラキリスの特徴ですかね。 ②パキポディウム・ウィンゾリー(実生) 価格:3,000〜6,000円(税込) 大きさ:高さ(鉢含まず)5〜7cm 幅全て約2cm 特徴 パキポディウム・バロニーの変種として原種のバロニーよりも人気を誇るパキポディウム・ウィンゾリー。パキポディウム属の中で唯一赤い花を咲かせるバロニーの変種のため、ウィンゾリーも同様に美しい赤花を咲かせます。原種のバロニーは幹高30cm以上まで成長しないと開花株にはなりませんが、ウィンゾリーは比較的小さい12cmくらいの幹高でも開花するため、花を早く見たい人にはウィンゾリーがおすすめです。 筆者所有株の開花の瞬間。もちろん、関さんの旧店から迎え入れたものだ。 Photo by JOHN CHEESEBURGER FOTOG. 徳利のような愛嬌のある形も人気で、真っ直ぐ上に成長するバロニーに対し、ウィンゾリーは分枝も多く、横方向にも旺盛に成長していくため、低重心で盆栽的な味のある株に出会うことができたらラッキーでしょう。ただ、徳利型が綺麗でバランスよく分枝した株となると価格も急上昇し10万円など悠に超えてしまうため、ウィンゾリーは現在でも高級レアプランツの地位を不動のものとしています。 関さん推しの理由 おすすめの理由は、なんといっても僕が手塩にかけて育て上げた親株(写真下)で自家採種したタネからの実生株なので、将来的に親株のような良株に育ってくれるであろうというロマンが詰まっているからです。 一時期に比べるとレア感も減少した感のあるウィンゾリーですが、それはあくまで愛好家目線でのことであって、やはり一般的なお花屋さんではまず出会うこともない植物なので、ぜひこの機会に育ててみていただきたいなと思います。 ちなみにここでご紹介している稚苗は現在の大きさからだと開花するまでに6年以上を要しますが、年を重ねるごとに目に見えて肥え太っていくので、形ができ上がってしまっている中型以上の株とは異なり、稚苗は成長が見える楽しさ、育てる楽しさを存分に味わえるのが魅力です。ともに時を過ごした株に赤く可愛らしい花が咲いた瞬間は、万感の思いがこみあげてきますよ。 ③コミフォラ・ピュアカタフ(輸入株) 価格:55,000円(税込) 大きさ:高さ(鉢含まず)40cm 幹幅6cm 特徴 コミフォラ・ピュアカタフは、カンラン科に属する植物で、アフリカ北東部および東部の熱帯地域、そしてアラビア半島南西部に自生しています。多肉のようで多肉でない、塊根のようで塊根でない、いわゆる「灌木系(かんぼくけい)」というジャンルで括られます。神々しい独特な雰囲気、視線を釘付けにする観賞価値、所有感をくすぐる希少性と三拍子が揃った、とても魅力的な植物です。 白い表皮は成長とともに、まるで材木をカンナで削ったようにめくれていくので、それがまた味わい深さを増しています。予測できない方向に伸びていく黒い枝も面白いです。これは時間の経過により黒くなるわけではなく、幹から出た瞬間にもう黒いので、この色彩の妙は自生地アフリカらしい野生味を感じさせますね。香木としても利用されており、その歴史は数千年前にまで遡るといわれています。もちろん、これも枝を切ると甘く上品な香りがします。分泌される樹脂はその高貴な香りとともに鎮静鎮痛の薬効も持つため、古代エジプト文明や西洋宗教では没薬(お清めの薬)として珍重されてきました。 関さん推しの理由 コミフォラの謎めいた姿に取り憑かれて沼落ちしてしまったマニアも決して少なくはありません。マニアはこの盆栽チックな形が異形であればあるほど10万、20万と高値を付けるのですが、僕は暴れた感じの樹形よりも、コミフォラ独特の表情がありつつ、穏やかな表情も見せる株が好きなので、値段のほうも同品種としては抑えられていると思います。そもそも、数年前までまったく流通していなかったので、その頃はピュアカタフが出るとネット界隈がざわつくほど幻の植物だったんです。もしその時代にこの株が出ていたら、おそらく20万円は下らなかったはずです。現在はある程度流通が確立されたとはいえ、グラキリスやウィンゾリーほど安定しているものではないので、今当店にあるこの株は、希少性、樹形の美しさ、価格の3点から考えてもかなりおすすめです。 ④オトンナ・カカリオイデス(実生) 価格:4,400円(税込) 大きさ:高さ(鉢含まず)3cm 幹幅4.5cm 特徴 オトンナ・カカリオイデスは南アフリカの山岳地帯が原産のキク科の植物。糸のように細い花軸の先にキク科らしい黄色く可愛らしい花を咲かせます。塊根から不規則に出てくる薄緑色の小さな葉の可愛らしさは、店頭で実物を見ると悶絶級です。この葉、よ〜く目を凝らして見ると、何気に多肉らしく肉厚であることが分かります。(写真下) この株は実生株ですが、元来が極小型の塊根植物なので、現地で自生しているものでも塊根幅10〜12cmくらいまでしか大きくはなりません。しかも岩ばかりのかなり荒い土壌のわずかな砂溜まりで塊根部が全部埋まった形で自生しているんです。6〜8月が休眠期となり、葉を全て落としたこの時期の姿はまるで生姜のよう。秋口から目覚めて、翌年の5月くらいまで塊根が隠れるほど葉が生い茂ります。決して多くは出回らない、かなりのレアプランツです。 関さん推しの理由 冬型の塊根植物なので、これからの季節に葉を出し、成長していく姿を楽しめます。うちでは割とよく販売しているのですが、大きめの専門店でもあまり置いていないかなりレアな植物です。オトンナ属もさまざまな種類があり、僕もけっこういろいろ扱ってきたのですが、旧店新店ともにこのカカリオイデスがとても人気なんですよ。見た目が可愛らしいからでしょうか、新店オープンしてからもう5つが売れ、5つとも女性のお客様にご購入いただきました。しかも5人ともまったくの塊根植物未経験者で、「かわい〜」の一言でお買い上げという(笑)。動機なんてそれでいいんですよ。 “生姜のような塊根”の形も様々なものを取り揃えているので、ぜひ見に来てください! おすすめ商品の育て方 ここで紹介した関さんおすすめの4つのプランツは、全て乾燥地帯で自生している植物なので、用土は乾燥気味に保つという部分は共通しています。そして塊根系を育てるうえでの基本3原則、①太陽ガッツリ ②空気循環 ③水やり控えめ、は必須条件です。 オトンナ・カカリオイデス以外の3商品、グラキリス、ウィンゾリー、ピュアカタフは成長期が春〜秋の夏成長型植物。このため、昨今の亜熱帯化した日本の気候を考えると、3月末〜10月中旬くらいまでは屋外でたっぷりと太陽光(直射日光OK)を浴びせながら管理し、3〜4日おきに鉢底から溢れ出るくらいたっぷりの水を与えます。ただし梅雨時は屋内管理に切り替え、水やりも週1回程度に留めておきます。オトンナ・カカリオイデスは成長期が日本の冬にあたる冬成長型の塊根植物のため、秋から春にかけての成長期は屋外でたっぷりと陽射しをあてて育てます。真冬も氷点下にさえならなければ屋外でOK。ただし風の強い日は落葉を防ぐために屋内に取り込んでください。また、オトンナ・カカリオイデスは蒸れを極度に嫌うため、成長期といえど土が完全に乾燥するまでは水を与えないでください。完全に乾燥したら、他の3商品同様にたっぷりと水を与えます。土の乾燥具合は慣れれば感覚で分かるのですが、初心者の方は竹串を用いると便利ですよ。 鉢の縁に挿し、引き抜いた串が汚れていれば、まだ水のあげ時ではないことがわかる。 4商品とも、肥料は成長期に月に1回、規定量より薄めにした液肥を水やりの際にあげてください。液体肥料『ハイポネックス』原液の場合、目安としては2Lのペットボトル満水に対し市販飲料のペットボトルキャップ内側の枠すり切り(=1cc)での希釈がベスト。 休眠期の管理 4商品とも、休眠期は室内で管理します(グラキリス、ウィンゾリー、コミフォラは冬季に14℃以下にならないよう注意)。休眠中とはいえ、屋外と同様の環境づくりをしてあげることは植物栽培にとって重要なこと。室内で管理すると自ずと日照と風が不足がちになるため、これを補うために植物育成LEDライトとサーキュレーターの使用をおすすめします。 【それぞれの使用方法はこちらの記事にて】植物育成LEDライトサーキュレーター植物育成LEDライトを導入しない場合は、陽の当たる場所で管理してください。ただし、オトンナ・カカリオイデスは休眠中に夏の直射日光を浴びるとストレスになるため、レースのカーテン越しなどの遮光した環境下で管理します。また、陽当たりが悪い、あるいは屋外管理が難しい場合は、植物育成LEDライトとサーキュレーターを用いることにより、4商品とも1年を通じて室内栽培することは可能です。 休眠期の水やり 4商品とも休眠期は水やりを基本的には休止しますが、細根を生かして休眠明けの立ち上がりを良くするために、週一回程度、土表面が湿るくらいの水はあげてください。この時、グラキリス、ウィンゾリー、ピュアカタフは昼に、オトンナ・カカリオイデスは夜に、いずれもボディーに極力水がかからないように注意しながら与えます。また、成長期と休眠期の間は、急激に水やりを再開したり、やめたりするのではなく、間隔、水量ともに徐々に増減を行うようにしてください。 関さんおすすめのグッズ gadintzki plantsは園芸関係のグッズも取り揃えています。今後も、グローブ、スコップ、ジョウロなどを増やしていく予定なので、商品の在庫状況は店にお問い合わせください。 鉢 左奥:磁器製(黒)受皿付き3号鉢 2,310円(税込) 右手前:陶器製(濃藍)受皿付き3.5号鉢 3,300円(税込) 鉢もメーカー量産鉢から数量限定の作家鉢まで、多数取り揃えています。写真の鉢は、ミニマルな感じの色彩とフォルムが植物を絶妙に引き立てるのでおすすめです。ウィンゾリーの稚苗を合わせてみましたが、オトンナ・カカリオイデスにも似合うと思います。 オリジナル多肉植物用土 容量:2L 価格:715円(税込) 赤玉土と鹿沼土をベースにした完全に関さんオリジナルブレンドの多肉専用土。関さん配合の用土は筆者も旧店時代から愛用しており、筆者宅の全ての多肉植物の成長に欠かせない最高品質の用土。用土をふるいにかけて、細粒や粉末化した土を除去する“ミジン抜き”をしていないので、通気性速乾性を確保しながらも、細根が細かい土をしっかりと捕まえて栄養を吸収できるため、活着も早く塊根の幹も肥大化が促進されます。まさにここでしか購入できないプロの知識と経験が詰まった土です。 関さんの土を使ったグラキリス。細根が細粒を捕まえてギッシリと生えている様子が分かる。 関さんに聞きました gadintzki plantsオープンに至る経緯 以前から観葉植物と塊根植物を主体としたお店をやりたいと考えていた関さん。そんな折、先代のお父様が引退し、また店も老朽化が著しかったため、これを契機にと心機一転の独立。夢を実現すべく、この自由が丘エリアは九品仏の地を選び、新たな店の準備が始動したのは昨年2023年の夏。 九品仏は日頃、自由が丘でお酒を飲んでいる関さんにとっては庭みたいなもので、なおかつ、周辺地域には切花を扱う園芸店は数店舗あるものの、観葉植物や塊根植物などの専門的な植物を扱う店がないことも、この地を選んだ理由です。こうして入念なリサーチをした結果、2024年に入り現物件に出会ったわけですが、物件の状態は居住仕様だったため、店舗仕様へと自身で大幅なリノベーションを敢行することになるのです。 この状態から自身の手で全てを築くことを決意。真の男は夢の実現のためには自ら泥に塗れることをいとわない。 写真提供:gadintzki plants 本人曰く「必要最小限の金で最良のものを作りたかった。」とのことですが、その行動力と実現力の源は、自分が選んだ最高の植物を地域の皆様へという情熱が彼を突き動かすのだと思います。 gadintzki plantsがオープンするまでのエピソード 作業を進めるうえで、どうしてもその道のプロの知識と経験がなければ先に進めない部分も出てきます。スタイロ(断熱材)剥がしがまさにそれでしたが、専門業者に任せきりにせず、関さん自ら率先して作業に参加しました。 スタイロ剥がしは関さん自身もかなり汗をかいた難作業だった。 写真提供:gadintzki plants フロア中心を飾る自作のモルタル台は自慢の逸品。 写真提供:gadintzki plants 入店してまず目線が向かうここに店の看板商品となるものを配置するわけですが、考えが柔軟な関さんは、この台を植物だけに限らず、自分がよいと思ったアイテムや、要望があれば、ポップアップストアの展示台としても活用していく予定です。 関さんの目指すもの 「gadintzki plantsで販売している観葉植物や多肉植物の多くは、庭のガーデニングに用いる植物というよりは、どちらかといえば室内でインテリアグリーンの一つとして楽しむもの。まずは地域の方々に、型どおりのインテリアグリーンだけではなく、ちょっとほかでは見られない塊根植物などのビザールプランツ(珍奇植物)を用いた、インドアグリーンの新たな楽しみ方を提案し、この地域にプランツマニア(植物好き)をどんどん増殖させ、店が皆の情報発信地になれば嬉しいですね。その結果として店を拡大できればいうことないですね。」と関さんは語ります。でも、人との繋がりを大切にしたい関さん的には、買う買わない関係なく、単に店を休憩所と思って気軽に遊びに来てほしい、のだそう。そんな思いが自然に人を引き寄せるのか、取材中も近所の奥様が「これ植え替えして!」とフランクにお願いしにきたり、店の奥でポップアップストアを展開する古着屋さんの友達が集ったりと、この地で育む人間関係を次の未来に生かしたいという、関さんの新たな世界地図が広がっています。 関ヨシカズという人の人柄、園芸への愛と見識をもってすれば、gadintzki plantsの未来、すなわち関さんが目標として掲げている店舗の拡大は遠からず実現するものと確信しています。そんな愛と夢がつまった珠玉の植物たちを、ぜひ散歩ついでに見にきませんか? gadintzki plantsへのアクセス 東京都世田谷区奥沢7丁目18-1ハドル自由が丘101東急大井町線九品仏駅から徒歩1分 東急東横線/大井町線自由が丘駅から徒歩8分OPEN 11時〜19時(場合によっては20時) お店周辺のおすすめスポット gadintzki plantsの周辺には、関さんお気に入りのお店やパワースポットなど、つい寄り道してみたくなっちゃう場所が盛りだくさん! その中から関さん特にお気に入りのスポットを紹介します。 Comme’N TOKYO(コム・ン トウキョウ) gadintzki plantsから徒歩30秒もかからないご近所のパン屋さんComme’N TOKYOは関さんのお気に入り。 美味いですからぜひ、とすすめられていざ行ってみたら、なんとお店のオーナーシェフ大澤秀一氏はパンの世界大会で日本人初の総合優勝に輝いた“世界一”のパン職人だというではありませんか! 関さん曰く普段は結構並ぶのだそうですが、この日は奇跡的にすぐに入店できたので、早速お店一番人気という「生ハムとカマンベール」(写真下)を購入してみました。 かぶりついた瞬間にバゲットの香ばしさと、もっちりとした食感が心地よく、直後に具材の塩味と旨味が絶妙な調和を楽しませてくれるという、一見スタンダードな組み合わせでここまで感動するパンを作るとは、驚きです。出た答えはこれ一つです。「並んででも食べるべき。」 お店の場所 東京都世田谷区奥沢7-18-5 1F自由が丘駅徒歩10分 九品仏駅徒歩1分年中無休7:00〜18:00URL : https://commen.jp 九品仏浄真寺 Comme’N TOKYOの前の交差点を渡ったらすぐに参道の入り口がある九品仏浄真寺(くほんぶつじょうしんじ)は浄土宗の寺で、開山は今から346年前というから驚きです。本堂まで大人の足で6分かかる参道は、絶好のお散歩コースです。参道を抜け緑豊かな境内に入ると、東京都が天然記念物に指定している巨大なイチョウをはじめとした緑の競演に、都心の住宅街にこんな場所が!? と驚かせてくれます。その奥にある3つのお堂には、それぞれ都が有形文化財に指定している阿弥陀如来像が3体ずつ安置されていて、合計9体の像が"九品往生"という人の品性を顕していることから、この地が「九品仏」という地名になったといわれています。地元のみならず全国から参拝者が来る名刹、関さんのところでお買い物がてら、ぜひ立ち寄ってみては? お寺の場所 東京都世田谷区奥沢7丁目41-3Tel:03-3701-2029 (9:00~16:00)開門時間 6:00~16:30URL:https://kuhombutsu.jp 編集後記 初めて店(旧店)で買い物した2017年から数えれば知己を得て7年になりますが、その間私の園芸知識(特に多肉植物)の向上には関さんの存在は欠かせないものでした。もちろんこれからも。彼の話す情報やアドバイスは、一般的な園芸店や専門家から聞くそれとは異なり、いささか型破りなところがあり、そして常に直球。彼の園芸トークの中には方便がなく、本質を見据えた辛辣な言葉が時折ギターソロのように放り込まれ、そこにシンパシーを感じた私は、縁あってこのガーデンストーリーで関さんをフューチャーした連載記事「街の園芸店がお悩み相談」を書かせていただくことになりました。そして回を重ねるごとに本編でも記述したように、もっと彼の見識が活きる場があるのではないか、という思いが強くなって行ったのです。そこで今回の船出を聞き、正直嬉しかったですね。新たな大海で、まさに水を得た魚のように激しく泳ぎ回ることでしょう。そんな彼の活躍を、今後もガーデンストーリーは追っていきたいと思います。関さん、Godspeed!
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地域の取り組み
グルメも注目! 【サボテンのまち春日井】を全力取材! 知れば必ず行きたくなる! 前編
はじめに サボテンの産地、愛知県春日井市。しかし、それをご存じの方は多くはないのではないでしょうか。私編集部員Kも、中部地方でサボテン栽培が盛んなのは知っていましたが、愛知県春日井市がサボテンで街おこしをしているということはまったく知りませんでした。そのユニークな試みを知った以上、そして私自身がサボテン溺愛好家を自認している以上、この目で事実を確かめてこなければ!というわけで7月上旬、現地に行ってまいりました。 春日井市ってどんなとこ? 愛知県春日井市は、名古屋市の北側に隣接している人口約30万人を擁する街。名古屋市へのアクセスが良好な場所であることから、名古屋のベッドタウンとされています。都市空間と自然とがバランスよく調和したこの街は、古くから農業が盛んで、特に桃や葡萄といったフルーツ生産でも知られています。昭和初期から始まったサボテンの栽培は特に盛んで、現在では国内有数の産地となっています。また、春日井のサボテンは、タネから手間暇かけて作る高品質な「実生(みしょう)栽培サボテン」ということでも知られています。それを象徴するかのように、春日井市役所庁舎の正門前のファサード(植え込み)にはサボテンの自生地を模したロックガーデンが設けられており、マニアも唸る立派なサボテンたちが来庁者を迎えてくれます。 また、サボテンだけでなく、春日井三山をはじめとした豊かな自然、多くの埴輪や土器が出土した二子山古墳、国の重要文化財に指定されている密蔵院多宝塔や徳川家康にゆかりのある太清寺、縁結びと学業成就祈願の勝川大弘法、明治33年の建造当時のままの姿で現存し、毎年春と秋に一般公開されるJR中央本線旧線上の愛岐トンネル群など、歴史的な遺産も多い街として知られています。 写真提供:一般社団法人春日井市観光コンベンション協会 「サボテンのまち春日井」プロジェクトとは 春日井市観光コンベンション協会が一般公募により決定したロゴマーク。 春日井市では地元の特産品サボテンによる地域の活性化・観光振興を目指し、商工会議所が中心となり2006年に春日井サボテンプロジェクトが発足。2022年には春日井市役所にサボテン担当部署が発足、経済振興課の柴田知宏主査の指揮のもと、「サボテンのまち春日井」プロジェクト(以下、プロジェクト)として新たに展開し、多種多様な取り組みを行っています。 プロジェクトの旗振り役を務める春日井市役所経済振興課の柴田知宏主査。 どんな人が関わっているの? このプロジェクトは、春日井市観光コンベンション協会、そして前出の柴田知宏主査が連携し、中部大学准教授でサボテンによるソリューション研究の第一人者である堀部貴紀氏がプロジェクトの振興アドバイザーを務めています。 なぜかマッチョな振興アドバイザー中部大学堀部先生 そして、地元の農家は生産の面で、飲食店は食の面で、中小企業は商品開発の面で、大企業は催事面で、アーティストやデザイナーはクリエイティブの面で、教育機関はサボテンを用いた情操教育の面でと、それぞれが自分たちの専門分野で培った技術や知識を活かし、サボテンを軸に地域を盛り上げようと活躍しています。このように、産学官民が一体となって地元特産のサボテンに関する新たな体験と学びを創造し、「春日井=サボテンのまち」を全国規模で認知してもらうのが、本プロジェクトの目的です。また、サボテンを通じたコミュニティの結束力が、春日井市をさらに魅力的な場所にしています。 どんなことが行われているの? イメージキャラクターが活躍 サボテンのまち春日井を賑わしているのは、何も人間ばかりではありません。見てください、この胸キュンの可愛らしさ!この子たちは、左から、おしゃれでおしゃまな春代(はるよ)、元気で食いしん坊の日丸(にちまる)、無口で照れ屋の井之介(いのすけ)という本プロジェクトのイメージキャラクターで、サボテンのまち春日井を内外にアピールするべく活躍中!ちなみに、三人の頭文字を合わせると「春日井」になるんです。でもね、ただ可愛いだけじゃなくて、けっこうコンセプトが深いんですよ。「彼らに出会った人々は、いつのまにかサボテンよりも人間のほうがトゲトゲしていることに気付かされる」という、何やら耳が痛くなるような・・・。春日井に行ったらぜひ、出会った人を老若男女問わずハッピーにする春代、日丸、井之介に会いに行きましょう! サボテンダンスミュージックでDancing! プロジェクトは、音楽の面でもサボテンのまち春日井を盛り上げています。 このサボテンダンスミュージック『かすがいサボテンピース』は、春日井広報大使でもある保育士、シンガーソングライターの桃乃カナコさんが制作したもので、プロジェクトを象徴する曲として、春日井市民、特に子どもたちを虜にしています。私も子どもたちに混じってPVに参加したかったな・・・。 “さぼがーる”が活躍 写真提供:春日井市役所 旗振り役を務める市役所も負けてはいません。市役所の新人女子職員によって結成された「さぼがーる」(上写真)は、サボテンでやってみたいさまざまなイベントを企画したりリポートすることにより、春日井市の内外に春日井サボテンの魅力を日々発信しています。 イベントでサボテンを満喫 無印良品 イーアス春日井 プロジェクト発足以来、市内ではサボテンにまつわる数々のイベントが開催されていますが、中でも注目したいのが、「無印良品 イーアス春日井」で行われるサボテンイベント。市内の大型ショッピングモール、イーアス春日井内にある、国内最大規模の売場面積を誇る「無印良品 イーアス春日井」では、サボテンの実食体験イベントや、寄せ植え体験など、サボテンをテーマにしたさまざまな催事が行われています。無印良品といえば、衣料品、生活雑貨、食品を取り扱っていることで知られていますが、ここ無印良品 イーアス春日井は、地元のサボテン農家と連携し、食と園芸の両面で特産のサボテンの普及に努めているとても珍しい店舗なのです。 2024年1月に行われた、好きな苗を選んで作る「サボテン・多肉の寄せ植え体験ワークショップ」での寄せ植え(写真左)と、同年6月に行われた「サボテングルメフェス 春日井シェフ's」に参加したシェフたちと井之介(写真右)。写真提供:無印良品MUJI 無印良品イーアス春日井店舗情報 スカイサボテン 市役所庁舎隣にある、文化フォーラム春日井4階屋上庭園「スカイフォーラム」では、毎年秋にサボテンイベント「スカイサボテン」が行われています。スカイサボテンは、観賞用サボテンの展示や食用サボテンの試食、サボテングルメの販売、ワークショップやゲームなど、秋空のもとでサボテンの魅力を満喫できるイベントとして人気を博しています。 “さぼがーる”による「スカイサボテン」のリポート(上:前編 下:後編) こうしたイベントの開催により地域の活性化が図られ、サボテンを通じた新しい観光資源としての可能性も広がっています。さらに、地元の商店や農家と協力することで地域経済の振興にも寄与しており、イベントを通じてサボテンが春日井市のシンボルとして定着しました。 サボテングルメ 春日井市を訪れたなら、ぜひ試していただきたい「サボテングルメ」。サボテンのまち春日井プロジェクトでは「サボテングルメをカルチャーへ」をスローガンに、サボテンを食の面でもクローズアップしています。え、サボテンって食べられるの? と驚かれるほど日本では馴染みがないサボテン食ですが、じつは海外ではごく一般的な食材として、さまざまな料理で親しまれているんです。 もちろん食べられるのは食用として栽培されたサボテン(主にウチワサボテンのバーバンク種、マヤ種)に限られますが、その味はさっぱりとしていて、酸味とオクラのようなとろみがあるのが特徴。パスタや肉料理に使われるほか、メキシコやカリフォルニア南部などではサラダのトッピングにも。中には、サボテンそれ自体を「カクタスステーキ」としてメニューに加えている店もあります。サボテン食において特筆すべきは、その栄養価! 驚きでしょう? サボテンは栄養価が非常に高く、ガンや動脈硬化症、高コレステロール症の予防に役立つほか、抗アレルギー作用もあるため花粉症対策にも効果的。さらに疲労回復や精神安定、美容にもよいとされる奇跡の食材なのです!そんなサボテンを多くの人に食べてもらおうと、春日井市内の飲食店が協賛し、各店舗でサボテンをメニューに加えたさまざまな料理を楽しむことができます。市内ではそんな魅惑のサボテンメニューを楽しんでもらおうと、協賛飲食店32店舗による「サボテングルメスタンプラリー」を開催(今年2024年は8/10~9/23まで)。[協賛各店舗の詳細はこちらから] ※各店舗のサボテンメニュー写真クリックでお店のHPに飛びます。協賛店舗でサボテングルメを飲食あるいは購入してスタンプを押し、スタンプが3つ以上たまると、サボテンの寄せ植えか、参加店舗で使える食事券が抽選で当たります。[参加方法詳細はこちらから]春日井市役所のサボテン振興チームは、市内の飲食店にサボテンを食材として取り扱ってもらうために一軒一軒足を使って回り、ようやく32店舗までこぎつけたという、まさにサボテンへの情熱が成し得たサボテングルメ企画。「食べるサボテン」をここまで楽しめるのは、日本全国津々浦々探しても、ここ春日井市だけです! 商品開発 市内ではサボテンにフューチャーしたさまざまな商品を入手することができます。例えば、サボテンを原料に使った食品。サボテンを使用したアイスクリームは低脂肪でサッパリとした後味が特徴で、アンテナショップなどでも売れ筋の人気商品です。また、サボテンを練り込んだきしめん「サボヽめん」や、サボテンを原料に使用したビールまであり、サボテン食のレパートリーの多さに圧倒されます。化粧品では、サボテンの保水力が威力を発揮します。市内の化粧品メーカーはサボテンコスメブランド「SABO LABO」を展開し、化粧水や洗顔フォーム、ハンドクリーム、ヘアケア商品と、さまざまなサボテンコスメを販売しています。もちろん、これらの商品の大元となる食用サボテンも、市内の老舗サボテン園「後藤サボテン」で購入できます。 春代、日丸、井之介のマスコットキーホルダー。私のお気に入りだ。 このほか、Tシャツやキャップをはじめとした衣料品、文房具など、ここでしか手に入らないサボテンをテーマにしたアイテムが目白押し。店舗によっては通販も行っているので、お住まいの地域でサボテングルメやサボテンコスメを楽しむことができますが、ぜひ観光で訪れて「おみやげ」として体験と一緒に持ち帰ってほしいですね。 教育 そんなサボテンに子どもの頃から親しんでもらおうと、平成19年に学校給食でもサボテンを食材に使ったメニューがスタートし、現在も続いています。 写真提供:春日井市役所 また、春日井市観光コンベンション協会が配布している栽培キット「育てる春日井サボテン」などを通じ、春日井で技術が確立されたサボテンをタネから育てる実生を体験したり、小学校3年生になると実際に地元のサボテン農家後藤サボテン園に赴き、トゲがない品種(あるいは少ない品種)の苗を自分で選び、植え替えて持って帰るという実習も行われています。 栽培キット「育てる春日井サボテン」。袋に入ったタブレット状の土をカップに置き、水をかけると膨らむので、そこにタネを播き、カップのまま育てる。 サボテン発芽の様子。[写真左]発芽直後の稚苗(ちびょう)=1mm未満[写真右]稚苗から約2カ月が経過し5mmほどになった幼苗(ようびょう) ※写真は栽培キットによるものではありません。※左右の品種は異なります。 このように子どものうちからサボテンに慣れ親しんでもらい、ひいては家庭でもサボテンに親しみを感じてもらい、郷土愛を育む。それが春日井市のサボテン教育なのです。羨ましい・・・。春日井の子どもたちは、幼い頃からサボテン振興の一翼を担っているのですね。究極としては、サボテン農家が抱えている現在の後継者不足という問題の解決にもつながれば、とても素晴らしいことですね。 中部大学堀部先生と連携し、サボテンの科学的な魅力を発信 中部大学でサボテンの研究を行う堀部貴紀准教授と学生たち。 春日井市に校舎を構える中部大学。大学の応用生物学部環境生物科学科で教鞭を執る堀部貴紀准教授は、国内でも著名なサボテン研究の第一人者です。特に食用サボテンに関する研究では、国連からも期待されている人物です。というのも、国連の食糧農業機関FAOが2017年に「環境適応力が非常に強く、非農業適地でも比較的容易に育つウチワサボテンは、食料安全保障にとって食糧危機を救う重要な作物になりうる」と発表したことにより、ウチワサボテンがサステナブルな食材として注目を集め、その分野のエキスパートである堀部先生の研究がFAOから注目されているのです。 プロジェクトはそんな堀部先生の研究とも連携し、春日井市がサボテンの名産地にして、その文化的価値を創造している街であることを、全国はもちろん、将来的には世界中に広めたいとも考えています。 サボテングルメを実食! さまざまな取り組みが行われているプロジェクトですが、やはり一番気になるのはサボテングルメ。バラエティーに富んだサボテン食体験ができるサボテングルメスタンプラリー参加32店舗の中から、今回は市役所の柴田さん推薦の2店舗と、街の人に教えていただいた田中食品製麺の「サボヽめん」といった、サボテングルメの一部をご紹介します。 IZUMI café &bistro 地域の家族連れに人気のお店 IZUMI café &bistroは、肉厚の牛タンを使用した絶品タンシチューや手作りハンバーグ、パスタ料理が自慢のお店。オーナーの谷本健一郎さんは、無印良品イーアス春日井が主催した料理コンテストで優勝したほどの腕の持ち主なんです。 オーナーの谷本健一郎さん。 そんな実力派の谷本さんが作るサボテンメニュー。今回はサボテンのペペロンチーノを試食、というより空腹MAXだったため、本気で食べてきました。 実食の感想 こちらが出来上がったサボテンのペペロンチーノ。スープが付いて1,310円(税込)。 フェットチーネのもっちりとした食感と、芳醇なソースの味わいが極上のパスタです。さてサボテンはというと、実際に食べてみると、ちょっとした酸味とほのかな苦味のある野菜といった感じで、食感はメカブに近く、これはちょっとクセになりそうです。 また、サボテンがオクラのようなとろみを出していて、それによりパスタソースが麺によく絡む。だからといってまったくクドさはなく、むしろサボテンの爽やかさが料理全体を好アシストしてくれている、そんな印象。サボテンの持つ独特の風味は他の素材を上手に引き立てるのだな、ということが分かりました。でも、こうして素材として見事に羽ばたかせることができるのは、料理に対して真摯に向き合い、お客様に愛情を注いできた谷本さんの手腕なればこそ、なのでしょうね。 オーナーのお話 店に入って一際存在感を放っているのが、ホールの中央奥にある、普通のレストランでは考えられないくらい広いキッズスペース。完全個室の授乳室も完備しています。 実はIZUMI café &bistroは、子ども連れのお客様が食事を気兼ねなく楽しめる、というコンセプトのもとに作られたお店。これは、個人営業のレストランでは未就学児入店NGの店が多いことに、谷本さん自身が疑問を感じていたから。自分が店をやるときは、毎日頑張っているママたちが気兼ねなく食事を楽しめる店にしよう、という想いがこめられているのです。料理に、店作りに、谷本さんの愛情が溢れている、そんな印象のIZUMI café &bistroでした。 谷本さんご夫妻とスタッフの皆さん。 最後に、このプロジェクトへ参加してみてはどうですか? と感想を伺ったところ、「昨年、市の担当者柴田さんが“ノンアポ飛び込み営業”で企画を持ち込まれたときはびっくりしましたが、その情熱に賛同してこの企画に参加して心底よかった。他の店のオーナーさんとも強い絆ができたのは、よい収穫でした」と。これからも春日井サボテングルメの魅力を発信し続けてください! IZUMI café &bistro URL:https://www.izumicafe.com【営業時間】月〜土 8:30〜16:00(Lunch L.O14:30、Tea L.o 15:30)まで【定休日】日曜【住所】愛知県春日井市大泉寺町136-3【電話】0568-29-6123【駐車場】有(20台) bistro Futatsuboshi 2008年の開店から16年を数えるbistro Futatsuboshiは、今ではこの春日井市内では知らない人はいない名店中の名店。取材前にいろいろ調べてみましたが、「春日井に行ってここに行かずして帰ると後悔する」とまで言う人も。ならば、と期待に胸が膨らみます。マンションの1階フロアを占有する広い店内に入ってみると、どこかノスタルジーを感じさせてくれる雰囲気が。ここで食事をすることが幸福な時間なのだということを感じさせてくれます。 お迎えしてくれたのは、シェフの今泉錠二さん。詳しい話より、まずは料理を、ということで、早速名店の味を支える腕を振るっていただきました。 シェフの今泉錠二さん。 いただいたのは、知多ハッピーポークという愛知県産銘柄豚を使用した「豚バラ肉とサボテンの白ワイン煮込み ハリッサソース」。煮込みと相性のよい、見た目ふんわりのマッシュポテトと、そこに鎮座する知多ハッピーポークの色合い。この色合いだけで、ごはんのおかずになりそうです。かけるソースにはすでにサボテンが溶け込んでいて、濃厚なソースとサボテンの爽やかな酸味が調和した、独特な風味を楽しむことができます。そこに「ハリッサ」で和えたサボテン、パプリカ、赤玉ねぎをトッピングし完成。 ちなみにハリッサとは、唐辛子ベースにコリアンダー、キャラウェイ、クミンといったハーブとニンニクをブレンドした北アフリカ地域で用いられるスパイス。ハリッサは、豊富な輸入食材を取り扱うカルディでも人気の商品で、一度使うとやみつきになります。 我が家愛用KALDIのハリッサ こちらのサボテン料理は基本的にコース料理の中の一品のため、アラカルトとしてメニューに記載はありませんが、事前に連絡すれば単品としてオーダーすることも可能です。価格は時価となり、およそ2,500円くらいです。 実食の感想 ハリッサとサボテンがどう展開するのか、ワクワクしながら、いざ実食です。 まずは、その芳香に陶酔。見た目はフレンチなのですが、スパイスとして使われているハリッサがエキゾチックな風味に仕上げていて、とても私好みの味わいでした。舌の上でほろほろとほどけていく柔らかな知多ハッピーポークを、サボテンのエキスが溶け込んだ濃厚なソースが包み込み、そこにサボテン由来のほのかな酸味が乗っかってくる感じ。両方のバランスがとても心地よく、時折トッピングのサボテン果肉が食感で遊んでくれるという、とても印象的なひと皿でした。サボテンをかくも記憶に残る料理に仕上げる手腕はお見事! サボテンたちも食材冥利に尽きるというものです。改めて再訪し、ぜひコース料理を食べてみたいという欲求に駆られました。 シェフのお話 今泉シェフと共にお店を切り盛りするスタッフの皆さん。 見事な料理でお客様を夢心地にしているbistro Futatsuboshiですが、ここは名古屋駅近くの著名レストランでシェフとして腕を振るっていた今泉さんが、自分の店を持つという夢を実現させたところ。スタートは16年前でした。当時の店は、今の1/3の面積でした。 かつては1階店舗部分を3分割した真ん中のスペースのみだったという。現在は1階全てがFutatsuboshiの店舗となっている。 しかし、今泉さんご夫妻のお客様に対する愛情と料理に対する探究心に呼応するかのように、開店以来お客様は増え続け、現在では店のキャパも開店当時の3倍に。新たに加わった個室(写真下)では誕生会や歓送迎会など、今泉さんの料理で人生の節目を飾ろうというお客様で連日賑わっています。 そんな地元に根付いたお店だからこそ、食材の地産地消にも熱心なんです。でも、ある日突然店にやってきた市役所の柴田さんから「地元食材サボテンをぜひ使ってください!」 と猛烈プッシュされた際は、ちょっと戸惑ったそうです。がしかし、試しに使ってみると、サボテンの食材としてのポテンシャルは今泉さんの料理人魂に火をつけ、辣腕料理人をもってして「サボテンって面白い!」と言わしめるほど、なくてはならない食材となりました。 このほか、お店のイチオシはベーコンとほうれん草のキッシュ。 キッシュはランチメニューでも人気で、テイクアウトも可能。 面白いのは、シェフのつぶやいた一言。「なんの変哲もないキッシュなんだけど、なぜかすごく出るんですよねぇ〜」何の変哲もないからこそ、めっちゃ美味しいのではないでしょうか。bistro Futatsuboshi、再訪を固く誓った店でありました。 bistro FUTATSUBOSHI URL:https://www.futatsuboshi.com【営業時間】ランチ 11:15~14:00(L.O.13:00)ディナー 18:00~21:00(L.O.19:30)テイクアウト 11:15~14:00/17:00~18:30【定休日】日曜日・木曜日のディナー/不定休月2回【住所】愛知県春日井市八田町2-27-27【電話】0568-83-4441※予約・問い合わせの電話は9:30~11:00/13:30~14:15/17:00~18:00/21:00が繋がりやすい。【駐車場】有(19台) サボヽめん 地元で人気の製麺店、田中食品製麺で「サボヽ(テン)めん」というサボテンが練り込んであるきしめんを購入し、帰京後に食べてみました。この田中食品製麺、じつは、bistro Futatsuboshiへ向かう途中に立ち寄ったコンビニの駐車場で、車から降りてきた主婦らしき方に「突然すみません。決して怪しい者ではありません、東京から春日井のサボテングルメを取材に来ていまして、地元の方が普段口にされるサボテンを使ったおすすめの食材ってありますか?」と尋ね、紹介していただいた店なのです。そしてこの「サボヽめん」、偶然にも春日井土産品コンテストで入賞した商品ということで、期待大です。 1袋で2人前、特製の麺つゆも付いています。沸騰させたたっぷりの湯に麺を投入し、待つこと12分。茹でた麺を入念に水で冷まし、ざるに盛り、いざ実食。 実食の感想 麺は、サボテンの色素が反映されていて薄い緑色。一口食べると、すっかり私の味覚に馴染んだサボテンの酸味が爽やかに鼻腔から抜けていき、少々甘口な麺つゆの鰹節風味があとから追いかけてきます。心地よいコシのある噛み応えは、さすが製麺所直売の麺です。感想はズバリ「麺好き、食うべし。」ただ量的な部分では、1袋2人前のうちの1人前では、よほど少食な方でない限り、男性には確実に足りないですね。うちは夫婦で1人1袋をいただきましたが、ちょうどよい感じでした。 田中食品製麺の田中さん。 この「サボヽめん」をお土産として、読者の方に抽選で1名様に2袋お送りします。詳細は後ほど。 田中食品製麺 【営業時間】8:00~17:00【定休日】日曜【住所】愛知県春日井市弥生町2-12【電話】0568-81-3811【駐車場】有(2台) グルメに、エンタメに、教育に、春日井のサボテン産業を支える農家 ここまで、サボテンのまち春日井プロジェクトの内容をご紹介しましたが、その全ては春日井市が世に誇るサボテン農家があってこそ。ここからは、春日井市とサボテン農家の関わりについてご紹介します。 伊勢湾台風が全てを変えた 実生栽培で名高い春日井市のサボテン。その歴史を紐解くと、サボテンと春日井農家の運命的な出会いにたどりつきました。春日井市は、古くから果樹栽培で有名な街。時は昭和の戦後間もない頃、その果樹農家の1人、伊藤龍次氏は、趣味でサボテン栽培を行っていたのですが、とあるサボテンの交換会で「緋牡丹(ひぼたん)」という、それまで見たことがなかった赤いサボテンに出会い、すっかり心を射抜かれました。時を経ず、友人で同業者の関戸貫一氏を誘い、一緒に緋牡丹栽培を行うようになりました。 しかし、色素が赤いが故に葉緑体がほとんどなく、成長させるのが難しい緋牡丹栽培はなかなかうまくいきませんでした。そこでメインが果樹農家の伊藤氏は、果樹栽培で行う接木技術を応用できないかと考え、タネも安価で旺盛に育つ柱サボテン「竜神木」の先端を切り、緋牡丹をつなげてみました。今ではいろんな種類のサボテンで行われている「サボテンの接木」誕生の瞬間です。 ※写真の緋牡丹の台木は三角柱というサボテンです。 台木から栄養が送られスクスクと育つ緋牡丹は、見た目の可愛らしさも相まって大人気に。やがて、手間もかからず痩せた土壌でもたくましく育ち、見た目もユニークなサボテンの魅力が周囲にも伝わり、桃山町を中心に緋牡丹に限らずサボテン栽培を副業とする農家が増えていきました。それから時を経て昭和34年、「伊勢湾台風」が中部地方に壊滅的な被害をもたらし、春日井市内の果樹園も甚大な被害を免れませんでした。 死者・行方不明者5,000人以上、負傷者3万人以上を出した伊勢湾台風 写真:内閣府防災情報 その一方、温室で栽培していたサボテンは被害が少なかったため、多くの果樹農家が栽培主体をサボテンに切り替え、サボテン栽培は市内全域に普及しました。 おりしも昭和30〜40年代の日本は、サボテン栽培が空前のブーム。しかし当時、国内で生産されるサボテンは、親株から切り取った子株から増やしていく、生産効率の高い挿し木栽培が主流でした。対して、タネまきから行う実生栽培は、タネを買い、元来成長速度が遅いサボテンをゼロから手間暇かけて育てなければならないという効率の悪いもの。そのうえ技術も確立されていなかったため、商売には向かないとされていました。ただその反面、実生栽培は、手をかけただけ質の面では最高品質のサボテンを作ることができました。また、タネを自家採取でまかなえるためコストを下げることができるというメリットも。 そこで春日井のサボテン農家は、発芽から出荷までの工程を分業生産化することで効率を高め、また、サボテンに特化した温室を発明するなど、工夫に工夫を重ねて実生技術を確立。日本で初めて実生サボテンの大量生産が可能になりました。実生による、色も形も質の高い春日井サボテンの噂は、インターネットが無い時代にあっても瞬く間に全国に広がり、昭和の時代、サボテンのまち春日井の地位は不動のものとなりました。 時は平成に移り変わっても、平成18年(2006年)まで実施された「農林水産省作物統計調査」では春日井市が「サボテン及び多肉植物」の出荷量で全国1位を獲得するなど、先人たちの知恵と情熱は確かに受け継がれ、今日の「サボテンのまち春日井プロジェクト」を生み出す苗床となりました。 実際にサボテン園を訪ねてみた サボテンのまちとして昭和から平成を彩った春日井市。最盛期は80軒ほどあったサボテン農家も、残念ながら現在は1/10に満たないほどになってしまいましたが、そんな貴重なサボテン農家の中から、今回は安田サボテン園を訪ねました。安田サボテン園は、卸し専門の農家。ネットも含め一般販売は行っておらず、農園自体も一般公開はしていないのですが、今回は市役所の柴田さんの計らいで特別に訪問させていただきました。 安田サボテンの園主安田勝さんは、現在御歳79歳。サボテンを始めたのは昭和39年、19歳のとき。じつに60年にわたりサボテン栽培を行ってきた、まさにプロ中のプロです。 現在、マミラリア「月影丸」や「星月夜」、ギムノカリキウム「緋花玉(ひかだま)」や「牡丹玉(ぼたんぎょく)」などを中心に、約50種類のサボテンを手がけています。 代々続く果樹農家に生まれた勝さんは、中学生のときに前述の伊勢湾台風で実家が被災。窮地にあったお父様が、隣でサボテン兼業果樹農家を営む伊藤さん(前出の伊藤龍次氏)の誘いでサボテン農家として再出発したのが、サボテンとのストーリーの始まり。春日井のサボテン農業は、前述のように完全分業制で成り立っていたため、当初安田サボテン園は、タネまきと発芽を担う第一次生産農家から送られてきた稚苗を大きくする第二次生産農家でした。やがて3代目を継いだ勝さんは、平成4年から自らも実生を手がけ、タネまきから出荷までをトータルに行う実生農家になりました。 それが実生を育てるということ。 その頃サボテン農家は後継者問題に直面し、特に第一次生産農家が著しく数を減らしていったため、実生栽培に情熱を傾けていた安田さんの存在は、春日井のサボテン農家全体の原動力にもなっていたのではないかと推察します。 採取したタネの入った封筒。1封筒あたり約5万粒入っているという。 「タネから育てるのは、これほど面白いことはないね」と、根っからのサボテン溺愛好家の安田さんですが、ここに至るまでに最も苦労したのは、タネを播いてから1〜2カ月の間の管理なのだとか。稚苗を管理する温室を見せていただきましたが、一般の愛好家が稚苗を育てるのとはワケが違います。数万株の稚苗を育て上げなければならないのですから、ここに至るまでのご苦労は想像を絶します。 ところで前にも触れましたが、春日井のサボテン農家は、先人たちの知恵が詰まった特殊な温室「ピット型温室」を用いてサボテンを育てます。もちろん、安田サボテン園にもピット型温室があります。その特徴を交え、実際の映像でピット型温室がどのようなものかを見てみましょう。 先人たちの知恵を継承し、周囲のサボテン農家が後継者不足などさまざまな問題に直面し廃業していく中で、60年を超えて今もなお現役という安田さんの姿には畏敬の念を覚えます。それも、手をかけた分だけ応えてくれるという、やり甲斐があればこそ、と語る安田さん。これから先は斑(ふ)入り(=突然変異でできる特殊な模様)のものを今以上に多く手がけていきたいと抱負を抱いています。 ちなみに安田さんは幸いにも後継者(ご子息)に恵まれ、その技術が絶えることなく次世代に引き継がれているのは、私たち愛好家にとっては嬉しい限りです。また安田さんは、春日井のサボテン栽培を次世代に継承するために、なんとサボテン栽培業のノウハウを解説した、いわゆる「秘伝の書」的なものを映像に収め、これを春日井市観光コンベンション協会が大切に保管しています。「本気でこの地でサボテン就農を考えている人がいたら、ぜひ見てもらいたいです」と、目を細めて語る安田さんですが、長生きしてぜひ安田さんご自身による後進育成を頼みますよ、と誰もが思っていることでしょう。 ただやはり、収入を得られるようになるまで最低でも2年はかかるサボテン栽培、生半可な気持ちでは続かないのは当たり前。それでも「春日井でサボテンをやりたい!」という猛者が現れ、春日井サボテンに旋風が巻き起こる日がじつに待ち遠しいですね。そんな安田さんに最後に、サボテン業界の未来とご自身の未来の抱負、そしてガーデンストーリー読者へのメッセージをいただきました。 おみやげプレゼント! 春日井市経済振興課よりいただいた、サボテンのまち春日井のプロモーショングッズ7点セット(春代・日丸・井之介のクリアファイル、育てる春日井サボテン栽培キット、春代・日丸・井之介のシール、春日井サボテンの歴史が学べるマンガ、春日井サボテンハンドブック、しおり、ウエットティッシュ)を、抽選で2名様に。田中製麺食品の「サボヽ(テン)めん」2袋1組を、抽選で1名様に。それぞれお送りします。 応募方法 下記ロゴをクリックし、応募フォームに必要事項を記入の上、ご応募ください。当選された方にはご当選商品を明記したメール※をお送りしますので、折り返しお名前と発送先情報をご返信ください。※当選商品に関しては編集部で選定させていただきます。 応募締切 9月30日(月) 23:59 編集後記 サボテンを愛する地域の人々の情熱、そしてその情熱から生まれる数々のイベントや美味しいグルメ。そのすべてが、この街を特別な場所にしています。今回の取材はレンタカーで各所を回ったのですが、どこへ行ってもとにかく皆がフレンドリー!春日井市民は誰に対してもYo Amigoなのでしょうか!?そんな人々のぬくもりが心に沁み入る取材となりました。この記事を読んで興味を持たれたら、ぜひ春日井を訪ねてみてください。サボテンとサボテンを愛する人々が優しく迎えてくれることでしょう。さて、後編では、サボテンのまち春日井プロジェクトのさらにディープな部分にスポットを当て、市役所の柴田さんにはプロジェクトにかける想いやさまざまなエピソードを、そして中部大学堀部先生には、サボテンが解決のカギとなる!? 世界の環境問題の未来についてお話しいただきましたので、近日公開いたします。乞うご期待! おまけ 私編集部員Kのワイフが、春日井市の「後藤サボテン」から取り寄せた食用サボテンで料理を作ってみました。ご家庭でもぜひお試しください!ちなみにMyワイフ、すっかりサボテン料理の虜になってしまいました。
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多肉・サボテン
【サボテン】は種類が豊富で花もきれいなんです! 初心者必見、サボテン大図鑑
サボテンとは サボテンの概要 サボテンは多肉植物の一種であり、主に北米南西部からメキシコを中心に南米の砂漠や平原などの乾燥地帯に生息しています。中には、南米の山岳地帯や沿岸地帯など、植物の生育にとって極めて過酷な環境下で生息している種類もあります。園芸品種も含めると、2,000種類以上が存在するとされ、この数は植物界全体では決して多くないものの、乾燥地帯に特化した植物群としては多種多様で、その適応能力とバラエティーに富んだ形態は植物の進化学や分類学研究において世界的に重要な存在とされています。 サボテンの特徴 特徴①:多肉質の茎 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ ぷっくりとした多肉質のボディが特徴的ですが、ボディにあたる部分は一般的な植物の茎にあたります。その茎の中には十分に水分が蓄えられているため、乾燥した環境でも生存が可能です。 特徴②:トゲ(葉の退化) Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ サボテンの象徴的パーツともいえるトゲ。サボテンのトゲは進化の過程で葉が退化したものといわれています。トゲは、茎からの水分の蒸発を防ぐとともに、外敵から身を守る役割を果たしています。また、強い陽射しを和らげ、茎肌が焼けるのを防ぐ効果もあります。 特徴③:棘座(アレオーレ) Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ サボテンとほかの多肉植物を区別する上で重要なのが棘座(しざ)。アレオーレとも呼ばれます。棘座はサボテン特有の器官で、細かい綿毛集合体がトゲを乗せたクッションのような形をしており、そこからトゲ、毛、花、そして新しい茎節が生まれます。 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ サボテンの種類の中にはトゲがなく棘座のみ、というものもあります。サボテンの棘座は、植物学においてサボテンの進化と適応の鍵となる重要な要素といわれています。 特徴④:サボテンの花 どんなサボテンも基本的に花を咲かせます。トゲの合間を縫ってつぼみが現れ、やがてその見た目とは対照的な美しい花を咲かせます。このミスマッチな味わいもサボテンの醍醐味といえます。花の色や形はサボテンの品種によりさまざま。しかし共通しているのは、サボテンは開花株にまで成長しなければ開花することはないということ。開花株に至るまでの年数は品種により異なり、また開花株になっても実際に開花するか否かは生育環境が鍵となります。開花に重要なのは栽培環境作り。品種ごとの情報をネットや本で調べ、原産地で自生している環境に近い環境を作ることで開花率も上がります。初心者の方、もしくはすぐに花を見たい方は、すでにつぼみをつけた開花株を購入するのがサボテンの花を見るための一番の近道です。 これだけは言えます。サボテンの花が開花するのを一度見たら、それは決して忘れられない体験になるでしょう。 特徴⑤:光合成 通常の植物は葉で光合成を行いますが、葉のないサボテンは茎、つまりボディで光合成を行います。夜間に二酸化炭素を取り込み、日中にそれを利用して光合成を行います。この方法をCAM型光合成(ベンケイソウ酸代謝)と呼びます。 特徴⑥:浅く広がる根 サボテンの根は浅く広がる特性があり、このため少量の降雨でも効率よく水分を吸収できるようになっています。 多肉植物とサボテンの関係性 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 多肉植物とは、乾燥した気候や土壌条件下で水分を保持するために、葉、茎、根などの器官で貯水組織が発達し、これらが厚く、肉質で満たされた植物の総称。サボテンもその中の一つです。多肉植物の中にはサボテン科のほかにも、エケベリアなどを擁するベンケイソウ科、アガベなどを擁するリュウゼツラン科、ユーフォルビアなどを擁するトウダイグサ科、パキポディウムなどを擁するキョウチクトウ科、アロエやハオルチアなどを擁するススキノキ科など、さまざまな科があります。 しかしサボテン科は2,000種以上の品種を擁する多肉植物の中でも最大のグループであり、また、サボテンには前述の棘座という、ほかの多肉植物にはないサボテンのみに共通する特徴があるため、園芸界では「サボテン」と、それ以外の「多肉植物」、というように区別されています。 ●棘座の有無でサボテンか非サボテンかを選別することができる。 サボテン以外の多肉植物の中にもトゲを持つ品種がありますが、サボテンとの決定的な違いはトゲの生成プロセス。 サボテンのトゲは棘座が生み出すのに対し、ほかの多肉植物のトゲは茎がそのままトゲに変化します。 下の写真はサボテン(左)とサボテンとよく間違われるトウダイグサ科の多肉植物「大雲閣」(右)を比べたものですが、大雲閣は茎の一部がトゲに変化している様子が分かります。 このトゲの生え方の違いを覚えておくと、サボテンとそれ以外の多肉植物を確実に見分けることができます。 サボテンの形による種類分け 前述したように2,000種類以上と、とても種類が多いサボテン。種類により形がまったく異なるのも、ほかの植物にはない魅力です。ここではサボテンの形状ごとの魅力について解説します。 ウチワ型サボテン ウチワ型サボテン(学名:Opuntia)は、平たくて楕円形や円形の茎節(パッド)が特徴的。Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ ウチワ型のウチワサボテン属は、見た目がウサギの耳にも見えることから市場では「バニーカクタス」の名でも通っており、サボテン科の進化の中でも比較的早期に分岐したグループとされています。茎節は水分を貯える能力が高く、極度な乾燥地帯でも生き延びることができるため、主に北アメリカから南アメリカにかけての乾燥地域に広く分布しています。ウチワサボテンの多くには、外敵から身を守るために発達した鋭いトゲが生えており、中には微細なトゲを持つ品種もあります。しかしそのトゲとは対照的な美しい花でも楽しませてくれます。 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 春から夏にかけて鮮やかな黄色や赤、オレンジ、ピンクなどの花を咲かせ、大型種のオプンチア・フィカス-インディカ(大型宝剣)などは、花が咲いた後には多肉質でとても甘い果実が実ります。この果実はそのまま食べることができ、自生地のメキシコではジュースやジャムにも加工されます。 熟した実をカットするとマグロの赤身にも似ているため、メキシコなどサボテンの食用が盛んな地域では「トゥナ(ツナ)」と呼ばれている。 このように、ウチワサボテンは食用としても有名で、若い茎節(ノパル)はメキシコ料理では一般的な食材として、炒め物やサラダ、スムージーなどにも使われます。ウチワサボテンはサボテン科の中でも最も高い適応力を持っているため、ロサンゼルスなどの都市部でも、誰が植えたわけでもなく、風に乗って飛んできたタネが発芽し、成株になったものが道端で普通に生えているケースも散見されます。その適応能力の高さは日本においても発揮され、高温多湿な日本でも、屋外での鉢栽培や地植えが可能です。見た目のエキゾチックさから、庭に植えてシンボルツリーにしたり、店舗やビルのファサード※に利用する例も多いです。※建物の玄関アプローチや側面などに設けられた装飾的な構造物や植栽。 東京/代官山のビルのファサード。人の往来が多い場所の場合、安全に配慮して写真のバーバンクウチワのようなトゲのない品種を選ぶのも手だ。 もちろん、ウチワサボテンは屋内のインテリアプランツとしても大人気。 写真下は代官山で国内外のセレクトアイテムとオリジナル商品を取り扱う「THE STORE by C’」の店内。人の目につきやすい場所にウチワサボテンなどのエキゾチックプランツを配置することで、非日常的な空間を演出することができます。 木質化しつつある基部が味わい深いバーバンクウチワ(手前)。同店のスタッフはサボテンたちがたまに花を咲かせるのを楽しみにしているという。 柱サボテン Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 柱状サボテンは、サボテン科の中で最も進化が進んだグループとされています。その名のように柱のごとく垂直方向に成長するサボテンで、主に米国南西部からメキシコにかけての乾燥地帯に生息しています。柱サボテン最大の魅力は、株の大小に関わらず天に向かい高く成長すること。米アリゾナ砂漠に自生するサワロサボテンという品種は、なんと20m以上の高さにまで成長することがあり、その自生地は国が特別保護区として厳重に管理しています。 米サワロ国立公園に林立する野生のサワロサボテン(和名:弁慶柱)。奥の人物と比べるといかに巨大かが分かる。 写真提供:サワロ国立公園管理局 ちなみにサワロサボテンは“西部劇に出てくるサボテン”としても知られており、その色や形はサボテンのアイコンとしてもお馴染みです。 園芸用としては小型〜大型まで品種のバリエーションも多く、どの品種も一鉢置くだけで空間がスタイリッシュになり、なおかつとても丈夫で育てやすいため、家庭、店舗、オフィスなど、さまざまな場所で愛用されています。 写真上は中目黒の設計事務所、将(はた)建築設計の事務所入り口の「鬼面角」。この形はブランチ仕立てといって、胴切りをすると脇から子株(ブランチ)を出すサボテンの習性を利用して、何年もかけてこのようにスタイリングしたもの。ご覧のように一鉢の存在感がこの会社の感性の高さをうかがわせます。 同じく中目黒にある発酵食品専門店、Kiyo NATUREの店内にある柱サボテン「鬼面角」。こちらはシンプルな3頭立てですが、トゲのない鬼面角が持つ親しみやすい雰囲気が、体に優しい発酵食品が陳列された店内のイメージにとてもマッチしています。ちなみにここのおにぎりは絶品です。 場所も取らないためインテリアとの親和性も高い柱サボテン。このような垂直に伸びる形態は、乾燥地帯で水分を効率的に貯えるための適応の一つであり、長い進化の歴史の中で今日の柱サボテン繁栄の礎となっています。乾燥地帯での生存を成し遂げ、観賞用としても人気を誇り、柱サボテンはサボテン界で最も成功したサボテンともいえるでしょう。 球サボテン 球サボテンは、球のような丸い形状が特徴で、2,000種以上を擁するサボテン科の中にあって、その種類は数百に及びます。主にメキシコ、中南米、アメリカ南西部などの、降水量が極端に少ない過酷な乾燥地帯に広く分布しています。そしてそのような過酷な環境に適応するために進化してきました。 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 丸い形状は表面積を最小限に抑え、蒸発による水分の損失を減らすための適応です。表面の鋭いトゲは動物からの食害を防ぐ役割を果たしており、太陽光を部分的に遮ることで表面温度の上昇を防ぎ、内部の水分を保つのにも役立っています。しかし、球サボテンの中にはトゲのないサボテンも数多くあります。写真下は、トゲのない品種の中でも人気のアストロフィツム属。肌表面の白い斑点や毛玉のような棘座は、太陽光による茎肌へのダメージを防ぐ効果があり、また鳥獣による食害を防ぐための一種のカモフラージュとしての役割も担っていると考えられています。 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ アストロフィツム属は比較的海抜が高い場所に自生しているため、棘座をこのように毛玉化することにより、寒暖差で生まれる霧からの水分を効率よく取り込むことができます。アストロフィツム属以外にも、代表的な球サボテンの一つにマミラリア属があり、この属には数百種が含まれています。マミラリア属のサボテンは比較的小型で、園芸品種としては直径数cmから十数cm程度のものが人気です。 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ マミラリア属の多くは鮮やかな花を咲かせます(写真上)。また、トゲのバリエーションも多く、その見た目の美しさからコレクターも多い品種です。このように、観賞用としてはアストロフィツム属やマミラリア属といった小型〜中型種が人気ですが、エキノカクタス属の金鯱(きんしゃち)などの大型種は、ドライガーデンやファサードの植栽としても人気で、柱サボテンとは一味違う重厚な存在感が魅力です。 東京/恵比寿の不動産会社、リノベ不動産恵比寿南店のファサードで存在感を発揮する「金鯱」。自生地の環境を再現したダイナミックな雰囲気が道ゆく人々の視線を奪っていた。 このように球サボテンは、その美しい花とユニークな形状から、観賞用植物として、またエクステリアを飾る植栽として、世界中で親しまれています。 サボテンの属種別の特徴と代表的な品種 ギムノカリキウム属 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ ギムノカリキウム属は、サボテン科の中でも特に人気のある属で、主な原産地はメキシコ中部から米テキサス州にかけての乾燥地帯。主に球形または円筒形をしており、一般的なサイズは直径が数cm〜15cm程度と、小型〜中型のサボテンです。明確に分かれたリブ(稜)を持ち、それぞれのリブにトゲがあります。リブの数や形状は品種によって異なりますが、多くの場合縦に深い溝が入っているのが特徴です。トゲは比較的短く、種類によっては白や黒、褐色などさまざまな色合いを持ち、密度や長さも品種ごとに異なるため、このサボテンに多様性をもたらしています。またギムノカリキウム属の花は非常に美しく、直径が3〜5cmで、白やピンク、赤、黄色など多彩な色があります。花は頭頂部や側面からトゲを押し除けて咲くため、トゲがその美しさを一層引き立てます。 ギムノカリキウム「新天地」。小さい丸は蕾たちだが、トゲを押し除けて開花する姿には毎回驚かされる。前出の特徴④:サボテンの花にある開花風景はこの株によるもの。Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 【代表的な品種】 バッテリー Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 天王丸 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 牡丹玉(ぼたんぎょく) Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 瑞雲丸(ずいうんまる) Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 緋牡丹錦(ひぼたんにしき) 瑞雲丸に斑(ふ)模様が入ったことにより名称が「緋牡丹錦」となる。斑とは、突然変異で茎の色素が黄色や赤、橙色に変調する現象で、斑が入ることにより価格が元の品種の倍以上になる。緋牡丹錦は斑入り品種では最も人気がある。 翠晃冠(すいこうかん) Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 【ギムノカリキウム属の価格の相場】 1,500円〜10,000円(牡丹玉以外は多肉専門店またはネット通販でなければ入手は不可) フェロカクタス属 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ フェロカクタス属は、サボテン科の中でも特に頑丈で存在感のある種が多く、北アメリカの乾燥地帯を中心に分布しています。フェロカクタスのフェロはラテン語で「強い」「凶暴な」を意味する通り、強力なトゲを持つことで知られていて、こういった強いトゲを持つ品種はサボテン界では「強棘系(きょうしけい)」と呼ばれ、一般的にはトゲの幅が広いほうが良株とされます。形は球形や円筒形で、とても大きく成長することが多く、成熟した個体は直径が数十cmから1m以上になることもあります。非常に厚いリブを持ち、それぞれのリブは強靭で長く、品種により、赤や黄色、白、グレーと、さまざまな色があり、それらが湾曲しながら密に生えているため、見た目のインパクトは最強です。 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 花は頂部に花径約3〜5cmの花を咲かせ、それらは品種により赤、黄、オレンジなど、とても鮮やかな色をしています。フェロカクタス属は耐暑性が高いため、昨今の猛暑下でも屋外で問題なく育てることができます。逆にいえば、屋内だと光量不足、温度不足になるため、成長が鈍る冬以外は屋外での管理が理想的です。寿命も長く、数十年から百年以上生きることもあるため、一生をともにできるサボテンといえるでしょう。 【代表的な品種】 黄金冠(おうごんかん) Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 神仙玉(しんせんぎょく) Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 赤城 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 【フェロカクタス属の価格の相場】 3,500〜20,000円(多肉専門店またはネット通販でなければ入手は不可) アストロフィツム属 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ アストロフィツム属は、そのユニークな外見と比較的管理しやすい性質から、愛好家の間で非常に人気の高いサボテンです。主にメキシコからアメリカ南部にかけて分布しており、Astrophytum=星の植物、というラテン語による属名が示すとおり星型の模様が特徴的で、大鳳玉(たいほうぎょく)などの一部品種を除き、その大部分がトゲがない「無刺(むし)種」が多いことで知られています。形は球形または円筒形をしており、表面には白い斑点や星形の模様が見られます。これらの模様は、サボテンの表面を覆う微細な毛状突起(アレオーレ)によるものであり、直射日光を反射する効果があるため、ボディの冷却効果も持ち合わせています。また、自生地の環境(地面や岩面)に擬態した模様のため、動物の食害から身を守るカモフラージュ効果も有しています。名人といわれる栽培家は、この模様や斑点の出方をコントロールできるため、栽培家の名を冠したものとなると数万円するものもあります。 園芸家の恩塚 勉氏によって1970年代に作出され、一気に人気品種となった「恩塚鸞鳳玉(おんずからんぽうぎょく)」。 写真提供:信州西沢サボテン園 アストロフィツム属の花は大きく、美しい黄色や白色の花を咲かせます。花は頂部から咲き、直径は2〜4cmくらいで、開花期間は1〜2日と短命のため、その儚い美しさも観賞価値を高めています。また、トゲがない分とても扱いやすく、小ぶりなボディサイズが小さなスペースに最適で、なおかつ、一鉢置くだけでインテリアのよいアクセントとなるため、老若男女問わず多くのファンを持つサボテンです。 【代表的な品種】 兜丸(かぶとまる)、瑠璃兜(るりかぶと)など。 兜丸(写真手前)と瑠璃兜(写真奥)の開花風景 【アストロフィツム属の価格の相場】 2,000円〜20,000円(多くが多肉専門店またはネット通販でなければ入手は不可) マミラリア属 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ マミラリア属は、サボテン科の中で最も多様性に富む属の一つで、約200種類以上の種があります。属名はラテン語の乳頭(mammilla)に由来しており、実際に多くの品種が乳頭のように突起した形をしているのが特徴です。メキシコを中心にアメリカ南西部から中央アメリカにかけて広く分布していて、基本的に小型の品種が多く、薄いピンク、濃いピンク、紫、緋色と、花の鮮やかな色彩には定評があり、中でも写真下の豊明殿(ほうめいでん)に代表されるように、花径15mm程度の小さい花が花冠のように咲く品種などは、見た目の可愛らしさが際立ちます。花は比較的容易に咲き、花期も長く、咲く回数も多いため、花を楽しみたい人にはおすすめです。 写真提供:信州西沢サボテン園 マミラリア属を象徴するもう一つの特徴が、トゲの密度。短いトゲが高密度で体全体を覆う品種が多く、その規則的な配列が美しい模様のようで、丸型の品種だと日本古来の蹴鞠(けまり)のようにも見えます。 マミラリア「姫春星」。自然の造形美が堪能できる。 サイズも小さく、トゲの面においても扱いやすく、花も可愛らしいため、サボテンの魅力がグッと詰まった品種です。 【代表的な品種】 姫春星、月影丸、豊明殿美女丸(写真下) Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 美女丸の開花風景。 【マミラリア属の価格の相場】 4,000円〜15,000円(多肉専門店またはネット通販でなければ入手は不可) エキノプシス属 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ エキノプシス属は、ボリビアやアルゼンチンなど、南アメリカを中心に分布しています。かつては品種数もそう多くはなかったのですが、1980年代に遺伝的研究が進んだことにより、いくつかの種属が統合され、現在は約150種以上を含む大きなグループになりました。種類が多いので、品種により球状や、柱状が混在し、とてもバラエティーに富んでいますが、どの品種にも共通するのは花の可憐さ。花は夜に咲くことが多く、一夜限りの儚い美しさを楽しむことができます。花の色は白、ピンク、オレンジ、赤など多岐にわたり、直径10cm以上にもなる大きな花を咲かせることがあり、香りも豊かで、うっとりするような甘い香りを放つ品種もあります。とても丈夫で、成長力も旺盛のため、どんどん子を吹き群生株になることもしばしば。その変化の過程は見ていて楽しくなります。日光大好き、肥料もわりと好き、寒冷地でもしっかり育つので、初心者におすすめのサボテンです。 【代表的な品種】 短毛丸 世界の図 短毛丸に黄色斑が入ると、その見た目が地球儀のように見えることから「世界の図」と小種名が変わる。Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 【エキノプシス属の価格の相場】 1,000〜10,000円(「世界の図」は多肉専門店またはネット通販でなければ入手は不可) エキノカクタス属 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ エキノカクタス属は、主にアメリカ南西部からメキシコにかけての乾燥地帯に分布しています。丸みを帯びた球形や円筒形といった樽型のボディが特徴で、このため、原産地では樽(Barrel)を意味するバレルカクタスの名で通っています。非常に成長が緩慢なため、代名詞ともいえる品種「金鯱(きんしゃち)」は成長が遅いがゆえに、サボテン界でもトップクラスの長寿を誇っています。サイズが大きくなるまでに数十年かかり、20年以上経過してようやく開花株となるため、ある意味一生をかけてつきあえるサボテンともいえます。どの品種も外観は美しく、リブから雄々しく伸びる長く太いトゲはまるで精密な彫刻のよう。自然の造形美を余すことなく堪能することができる、極上のサボテンです。 ちなみにトゲの色は品種により、黄金色、赤、茶、白とさまざまな色があり、花の色も黄色、白、ピンクと品種によりさまざまですが、黄金色のトゲに黄金の花を咲かせる金鯱こそ、エキノカクタス属の王道ともいえます。金鯱に魅了されて沼落ちした園芸家はとても多く、中にはメキシコの自生地まで足を運んだ人も。※金鯱は系統学研究の結果、2014年4月にクレンレイニア属に変更になりましたが、市場では現在もエキノカクタス属として流通しているため、この記事ではエキノカクタス属として解説しています。 【代表的な品種】 金鯱 太平丸 写真提供:信州西沢サボテン園 雷帝(らいてい) 写真提供:信州西沢サボテン園 【エキノカクタス属の価格の相場】 3,500〜40,000円(多くが多肉専門店またはネット通販でなければ入手は不可) エピテランサ属 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ エピテランサ属は、小型の種類が多く、小さいながらもメキシコの過酷な乾燥地帯に分布しています。品種数もあまり多くなく、比較的小さなグループです。とてもコンパクトで丸みを帯びた形状が特徴で、表面は非常に細かい白いトゲや毛で覆われており、これが外観全体をふんわりとした印象にしています。細かいトゲは触れても痛くはなく、また茎肌が隠れるほど密集して生えることで、強い陽射しから茎を保護していて、また、擬態効果もあるため動物の食害から身を守ることができます。花は小さく、頂部に咲き、通常は白からピンク色で直径が1cm未満です。また開花後に小さな実ができることがあり、この実の中にはタネが入っており、このタネを用いて株を増やすこともできます。また、エピテランサ属は子株が生じやすいため、最初はシンプルな1株だったものが、短期間で群生株になるというように、外観の変化を楽しむこともできます。綿帽子のような見た目の可愛らしさと、屋内の明るい場所でコンパクトに育てることができる手軽さもあり、サボテン初心者にもおすすめです。 【代表的な品種】 月世界(つきせかい) 頂部の赤い実の中に、タネが4〜5個入っている。JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 【エピテランサ属の価格の相場】 2,000〜10,000円(多肉専門店またはネット通販でなければ入手は不可) エキノセレウス(エキノケレウス)属 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ エキノセレウス属は、主にアメリカ南西部およびメキシコに分布しています。この属には約100種が含まれ、比較的コンパクトな品種が多いです。形は球状と柱状が混在していて、群生し横に広がっていくものなどもあり、とてもバラエティーに富んでいます。トゲの色も、白、黄、赤、黒など多岐にわたり、中にはトゲを持たない品種もあります。エキノセレウス属の一番の魅力はなんといっても花の美しさ。春から夏にかけて咲き、また開花期間も長く、一度咲いたら3〜4日間くらい咲いている品種も。一般的なサボテンの開花は1〜2日程度なので、長い期間花を楽しむことができます。花は大きく、色は、ピンク、赤、紫、黄色、オレンジなど多岐にわたり、特に中心部に濃い色のコントラストが見られるものが多いです。 【代表的な品種】 紫太陽 美花角(びかかく)、オレンジ花桃太郎(美花角の交配種)、ピンク花桃太郎(美花角の交配種)など。 オレンジ花桃太郎の開花風景 ピンク花桃太郎の開花風景 【エキノセレウス(エキノケレウス)属の価格の相場】 4,500〜20,000円(多肉専門店またはネット通販でなければ入手は不可) オプンチア属 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ オプンチア属は、アメリカ大陸の乾燥地帯の広範囲にわたって自生しています。この属は約150種以上を含み、特徴的な平たい茎節(パッド)の見た目から、ウチワサボテンやバニーカクタス(うさぎ耳サボテン)などの異名を持ちます。パッドは節ごとに成長し、新しいパッドが古いパッドから生えてきます。多くの品種でパッドの表面に「グロキディア(刺状毛)」と呼ばれる微細なトゲが密集しており、これが肌に触れると数十本の細かいトゲが皮膚に刺さるため、取り扱いには注意が必要です。しかし園芸用に品種改良されたトゲのない品種もあるため、パッドが数珠つなぎになっていくという基本的な形は同じですが、トゲの有無は好みで選ぶこともできます。 トゲがないため大きい割に扱いやすいため人気のバーバンクウチワ。 オプンチア属のサボテンは、品種により手乗りサイズから屋根まで届く巨大種まで、大きさもバラエティーに富んでいます。金烏帽子(きんえぼし)のような小型品種はテーブルアクセントになり、大型宝剣のような大型品種は地植えでさらに大きくし、シンボルツリーとして仕立て上げることもできます。 大型宝剣。目視できるトゲ以外にも細かいトゲが生えているため、取り扱う際はトゲもの用のグローブが必須だ。 オプンチア属は花も美しいことで知られています。春から夏にかけて平たいパッドの縁に、品種により黄色、赤、オレンジ、ピンク、白の美しい花を咲かせますが、その姿は可愛らしさが溢れています。 オプンチア属のサボテンはどの品種も基本的にとても育てやすく、そのエキゾチックな外観が多くの人を魅了しています。 【代表的な品種】 金烏帽子(きんえぼし) Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 銀烏帽子(ぎんえぼし) 墨烏帽子(すみえぼし)※トゲ無し品種 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 大型宝剣 【オプンチア属の価格の相場】 800〜10,000円(身近な街の園芸店で入手可能) コピアポア属 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ コピアポア属の自生地はチリ北部のアタカマ砂漠一帯。極端に少ない降水量と乾燥した大地、激しい風と、この一帯は植物が生きていくには極めて過酷な環境であり、コピアポア属のサボテンたちはそんな場所に排他的なコロニーを築き自生しています。野生種は個体数が圧倒的に少なく、CITES(ワシントン条約)により国際的に保護されているサボテンの中にあって特に厳しく管理されているグループのため、その種子から育てられた子々孫々の株には常に高値がついています。特に黒王丸という品種はコピアポア属を象徴する品種として、世界中のサボテンコレクターから羨望の的となっています。黒王丸はオークションなどでも数万数十万円が当たり前。基本的に初心者では育てるのが難しいサボテンですが、サボテン好きの中には「いつかは黒王丸」と夢見ている方々も多いです。 黒王丸は直径わずか2cm程度のものでもトゲの黒さが際立つ個体は1万5千円するという、とても高価なサボテン。 コピアポア属の多くは、球形から円柱形をしており、そのどれもが個性的な外観で、成長すると高さが3m近くになるものもあります。表面は硬く、ワックス状の被膜で覆われていることが多く、これが強い日差しや乾燥から身を守る役割を果たしています。ゆえに、茎肌の色が青みがかった緑色や灰色がかった緑色など、落ち着いた色合いなのも特徴的です。 花もコピアポア属の魅力の一つです。花は直径2〜3cmと小さく、黄色やオレンジ色をしており、頂部に咲きます。開花期間は2〜3日で、その間、荒ぶった体と可憐な花の不思議なコントラストで楽しませてくれます。 【代表的な品種】 黒王丸 黒士冠(こくしかん) Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 逆鱗丸(げきりんまる) Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ ギガンティア Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ フミリス Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 【コピアポア属の価格の相場】 6,000〜200,000円(多肉専門店またはネット通販、オークションサイトでなければ入手は不可) 1属1種系 Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ 1属1種系のサボテンは、分類系統学的に調査した結果、単独の種属として分類され、それらは植物分類上とても興味深い存在です。ゲオヒントニア・メキシカーナやオルテゴカクタス・マクドガリーが有名です。これら1属1種系のサボテンは、それぞれが非常に限られた地域に生息しており、その特異性は生物多様性の研究においても注目されています。孤高の佇まいに魅了される1属1種系、我が道を征くアーティスティックな感性のある方におすすめのサボテンです。 【代表的な品種】ゲオヒントニア・メキシカーナ Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ ゲオヒントニア・メキシカーナは、1992年にメキシコのヌエボ・レオン州で発見され、その発見は植物学界でも話題になりました。ゲオヒントニアという属名は、この種を発見した植物学者ジョージSの名前に由来しています。アコーディオンのような特徴的なリブを持ち、青灰色の球形のボディと、昆虫の足のようなトゲが魅力です。メキシカーナは石灰岩の崖や急斜面に生育しており、極度に乾燥した環境に適応しています。成長はとても遅く、あらゆる面で慎重な管理が求められるため、栽培上級者向けのサボテンです。 【代表的な品種】オルテゴカクタス・マクドガリー Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎ オルテゴカクタス・マクドガリーは、オルテゴカクタスという独自の種属の中の唯一の品種です。1951年にメキシコのオアハカ州の乾燥した石灰岩地帯で、植物学者トーマスB.マクドゥーガルにより発見され、氏を讃えて米国の植物学者E.J.アレクサンダーにより、発見から10年が経過した1961年に「マクドガリー」と命名されました。小型で球形、またはやや円柱形の体を持ち、鮮やかなミントグリーンの表皮と美しい黄色の花が特徴です。メキシカーナ同様に成長のとても遅い品種ですが、小さい株の段階でも旺盛に子を吹き、愛嬌ある容姿を楽しむことができます。ただし栽培難易度は高いため、上級者向けのサボテンになります。 ●マクドガリーは“孤独”ではなかった!近年、植物学者P.B.ブレスリンの研究で、マクドガリーがマミラリア属やコリファンタ属の血脈を引くコケミエア属であることがわかり、2021年にコケミエア属に移行されました。 正確には1属1種のサボテンではなくなりましたが、2024年現在の市場ではまだ1属1種系の扱いとなっているため、本記事ではそのように記述しました。 【1属1種系の価格の相場】 8,000〜50,000円(多肉専門店またはネット通販、オークションサイトでなければ入手は不可) 編集後記 こないだ飲み屋で、私がサボテンのTシャツを着ていたため、サボテンの話になって。隣の客:「サボテンの何が好きなの?」私:「トゲですね。」隣の客:「へぇ〜。トゲのどんなところがいいの?」私:「刺さるところですかね。」その時私は、この“刺さる”というのに二つの意味を込めて言いました。一つは、実際に指に刺さる=痛いもう一つは、可愛さが心に刺さる=歓喜私にとってサボテンは、痛みと歓喜をともに与えてくれる稀有な存在なのです。この感覚、少年の頃の実らなかった初恋にも似ているかな。ともかく、どんな種類でもよいですから、インスピレーションに従いサボテンを一鉢買ってみてください。もしかしたらそのサボテンをお世話しているうちに、あなたにも初恋の記憶が蘇るかもしれませんよ。
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多肉・サボテン
サボテン金鯱はサボテンの王様!その全貌と基本的な育て方を解説
金鯱はサボテンの王様 所有者:リノベ不動産 世界で2,000種類以上あるといわれているサボテン。西部劇でお馴染み、円柱状に成長していく柱サボテンと、球状に成長していく球サボテン(海外では樽型を表すバレルカクタスと呼ばれる)がお馴染みですが、今回は球サボテンの中でも最も著名な「金鯱(キンシャチ)」というサボテンをご紹介します。黄金のトゲをまとうその巨体から「サボテンの王様」とも呼ばれ、世界中の栽培家から絶えず羨望の眼差しを向けられる存在です。 自生地における野生の金鯱は、国際自然保護連合(IUCN)が2013年に絶滅危惧種としてレッドリストに記載しています。このため現地では厳しい管理下に置かれており、分布地域も公開されていません。現在日本国内で流通しているものは日本で生まれ育った株のため問題なく栽培することができますが、種としては絶滅の危機に瀕しているサボテンなわけですから、手に入れたら大切に育てたいものですね。金鯱は、長く育てていると直径が最大で1mを超えることもあり、スペインで帰化した株の中には、なんと100歳を超えたものが現存しているそうです! サボテン金鯱の主な特徴とは 金鯱の基本情報 学名:Kroenleinia grusonii-Lodé(クレンレイニア・グルソーニ-ロデ)英名:golden barrel cactus(金の樽サボテン)、golden ball(黄金球)、mother-in-law's cushion(義母の座)和名:金鯱(キンシャチ)科目:サボテン科属名:クレンレイニア属※※以前はエキノカクタス属であったが、後年の系統学研究の結果、樽型サボテンのフェロカクタス属とエキノカクタス属のハイブリッド種であることがわかった。このため、独立した種として2014年4月にクレンレイニア属になった。ただ、現在もほとんどがエキノカクタス属として販売されている。初登記:1891年登記者:ハインリヒ・ヒルドマン(ドイツのサボテン栽培家)原産地:メキシコ中部から東部。大きさ:鉢植えで最大直径3〜40cm、地植えで最大直径1m。メキシコ北西部からアメリカ南西部に広がるソノラ砂漠では高さ3mの野生種が確認されている。 自生地メキシコの金鯱。写真の株は直径70cm、高さ170cm(写真提供:熱川バナナワニ園 清水秀男氏) 寿命:野生種での最長はスペインに帰化した株の100年。園芸においてはその半分の40~50年が最長とされている。 名前の由来や伝説、花言葉 【名の由来】 金鯱が日本に初めて持ち込まれたのは明治時代後期で、中国を経由したといわれています。持ち込まれた時に、既に金琥(チンフー)という名が付いていました。金琥(チンフー)とは、虎が死後に黄金の琥珀になって富をもたらしたという故事を表す言葉。日本では名古屋城の天守を飾る金の鯱鉾(しゃちほこ)が縁起のよいものとされており、両者の綴りも似ているため、金鯱(キンシャチ)になったのではないかといわれています。それにしてもメキシコ→中国→日本とは、当時の輸送手段を考えると、ものすごい長旅をしたものですね。 学名の由来は以下の映像で解説します。 映像でも解説しているように、エキノカクタス属からクレンレイニア属に変更になったたのですが、属名変更が宣言されたのが2014年と最近のことなので、実際にはいまだにほとんどのケースでエキノカクタス属の金鯱という認識で扱われているのが現状のようですね。ジョエル・ロデ氏本人が、自身の研究について2017年の講演で述べているので参考までに(タイムラインの40:00からが金鯱の系統についての解説です)。 【花言葉】 アメリカやメキシコの先住民たちの間で、サボテンには神秘的な力が宿るという言い伝えがあります。金鯱の自生地ソノラ砂漠に住むセリ族たちにとっては、球状で鋭いトゲが密集し、長寿を誇る金鯱に対しての思いは強く、災いから家族を守ってくれる永遠の魂の象徴として、彼らは金鯱を崇めてきました。そんなエピソードに由来して、金鯱には「永続」や「繁栄」という花言葉があります。また、王冠の形をした黄色い花が太陽のように見えるため、「光と喜び」という花言葉もあります。 形状や花の特徴 【形状】 リノベ不動産所有 園芸店で販売している実生5〜10年未満の株は基本的に球型ですが、原産地で自生しているものの中には、前出の自生地メキシコでの写真のように過酷な環境に順応した結果、円柱状に変化したものも存在します。茎※には体内の貯水量によって伸び縮みする蛇腹のようなリブ(稜)があり、天頂にはクリーム色、あるいは黄色で綿状の、トゲを生成するための器官「アレオーレ(刺座=しざ)」が密集しています。※サボテンの本体は一般的な植物の茎に相当する。 リノベ不動産所有 トゲは、生え始めのうちは薄いクリーム色で、成長とともに美しい金色へと変化していき、リブに乗って根に近づくにつれ、茶色く褪色していきます。 【花】 Pix:imageBROKER.com/shutterstock.com 金鯱は、実生20年以上経過し、ようやく開花株となります。開花株となった金鯱は、日照や温度、湿度、風など、開花に必要な諸条件が整うと、天頂のアレオーレの中に茶色い蕾が現れ、やがて黄色の美しい花を咲かせます。花弁の直径は約5cm。金鯱本体がかなり成熟してからの開花のため、金鯱の大きさに比べると、花があまりにも小さいので、そのミスマッチ感が珍妙で面白いですね。 Pix:SN Photograph/Shutterstock.com サボテン金鯱を買える場所と値段 金鯱は比較的多くの園芸店で扱っている大衆向けのサボテンです。大型の園芸店やホームセンターでは2〜3千円台の小さなものから、数万円するかなりの大株まで幅広く揃っています。街の園芸店でも小ぶりな金鯱の鉢植えを1,980円で売っているところを何度か見たことがあります。また、雑貨店などでおしゃれにデコレーションされたものが1〜2万円で販売しているのもよく見かけますが、この場合、金鯱よりも、鉢やデザインそのものに価格の比重があるように見受けられます。ちなみに私がよく訪れる園芸店では、トゲを含む直径約10cmで 3,000円程度のものがよく売れるとのこと。金鯱はメルカリでも常時多数が出品されている定番のサボテンなので、入手経路の広さや値段の幅広さも人気の秘密なのかもしれませんね。 サボテン金鯱の育て方5つのポイント ポイント①適した栽培環境 成長期(春〜秋)の栽培環境 金鯱は日光が大好きなサボテン。このため、成長期(春〜初秋)は屋外に出し、日が落ちるまでたっぷりと太陽光を浴びさせてあげてください。しかし、猛暑日は注意が必要です。本来、金鯱のように耐光性の強い種類のサボテンは、成長期は屋外で存分に陽射しを与えることで、健康で大きな株に育てることができました。しかし、異常気象が著しい近年の夏の太陽光は、あらゆるものに深刻な被害を与えるほどの強光線のため、直径が10cm(トゲ含む)に満たない耐光性の弱い小さな株は日焼けを起こす可能性があります。日焼けを起こしたサボテンは、それが原因で弱っていく可能性があります。このため、小さい金鯱は、夏になったら、市販の寒冷紗などを使い20%ほど遮光することが望ましいです。大きくなっても急激に直射日光には当てず、段階を踏んで徐々に強い陽射しに慣らしてあげましょう。ちなみに寒冷紗とは農作物の防霜・防虫・防鳥・防風のために使うネットです。 広げるとこんな感じ。好みの大きさに切って使うこともできる。 [参考商品]遮光率22%寒冷紗 梅雨の栽培環境 金鯱はドライな環境を好むため、梅雨の長雨の時期は屋内に取り込んで栽培してください。しかし、せっかく成長のスイッチが入っているのにずっと屋内にいると、本来のよい形に成長しない「徒長」をしてしまうため、植物育成LEDライトを用いて一日8時間は照射してあげるとよいでしょう。金鯱は強光線が好きなので、光の色を太陽光に寄せたフルスペクトルタイプのLEDを搭載し、20Wの高出力タイプのものがおすすめです。 [参考商品]NEO TSUKUYOMI LED 20W ただし、たまに陽射しがさす時には、それが2〜3時間であってもリアルな太陽光にあててあげましょう。また、屋内に取り込んでいる時は、サーキュレーターを回して室内の空気を循環させ、光合成を促してあげましょう。 [参考商品]YAMAZEN 洗える サーキュレーター 18畳 サボテンはCAM型光合成といって、昼と夜の2段階に分けて光合成を行うため、夜間もサーキュレーターを回し続けてあげるとよいです。[サーキュレーターの使い方関連記事] 冬の栽培環境 金鯱は基本的には耐寒性が強いサボテンですが、安全のため夜間の最低気温が10℃を下回るようになったら屋内に取り込みましょう。しかし、暖かい部屋に避難させるのではなく、屋内でも室温が10℃〜12℃くらいの場所で管理します。これは季節ごとの気温差を覚えさせることにより、生育にメリハリがつき、強いサボテンに育つためです。ちなみに、梅雨時同様にサーキュレーターを回してあげるとよいです。そして桜の開花宣言が出た頃合いで、徐々に外に出してあげましょう。 写真のように冠雪してしまった場合は、天頂の成長点を保護するためにも速やかに雪を落とし、屋内に取り込むべし。 ポイント②水やりと施肥 4月〜10月 成長期は、用土表面が乾いたら、鉢底穴から水が流れるほどたっぷりと与えます。上から水をかけると天頂部の綿毛が傷むので、写真上のように株の周囲に円を描くように与えてください。株の大きさにもよりますが、直径10cmくらいの株で、7〜10日に1回といった感じです。施肥は、月に1回、ハイポネックスなどの液体肥料を規定量より若干少なめにあげます。 11月〜12月中旬 冬季の断水に向け、水やりを減少させていきます。タイミングとしては、鉢内の水気がほぼ無くなった状態で水やりを行い、量としては鉢の中の土が半分くらい湿ったかな、くらいでOK。 土の中の水分の様子は、竹串を用いると分かりやすいです。鉢の縁に竹串を刺し、引き抜いた時の竹串の湿り具合で判断できます。 12月下旬〜2月 気温の低下や水やりの減少、また日照時間の変化を感じ取った金鯱は、徐々に休眠に入ります。金鯱に限らず、サボテンは休眠状態に入ると、以降は余分な水分を取り込まずに、今蓄えている水分をちょっとずつ消費しながら生きていこうとします。つまり、冬場は根が吸水パフォーマンスを極端に落とすため、断水を行ってください。 3月 3月はちょうど冬と春の境目。4月に春が来て急激に水やりを行わないよう、眠っている金鯱をそっと起こしてあげる準備をします。前半2週は週に1度、用土表面が湿ったのが分かる程度の水をあげ、後半2週は週に1度、鉢の中の土が半分くらい湿ったかな、くらいの水をあげます。 ポイント③植え替えと用土 ●まず大前提として、植え替えは梅雨を除く成長期に行います。冬季は行わないでください。 購入した金鯱を新たな鉢に植え替える場合は、一回りほど大きい鉢に植え替えましょう。鉢が大きすぎると水やり時に蓄える水の量も多くなり、残水により根腐れを起こす可能性があるため気をつけましょう。土は、各種メーカーが販売している市販の多肉・サボテン用土で大丈夫です。また、ナーセリー(育苗業者)などが特別に調合した、いわゆる“生産者の作る土”で栽培してみるのもおすすめです。生産者の作る土はナーセリーが運営するWebショップなどで購入できます。 私愛用のオザキフラワーパークオリジナルのサボテン用土。 購入して以降の植え替えのタイミングは、土が劣化し通気性排水性も悪くなる2〜3年に一度のサイクルが理想的です。植え替える時は、サボテン専用のグローブなどを使用し、トゲで怪我をしないように気をつけてください。 [参考商品]牛革製ガーデニング&ワーキンググローブ このくらい厚手ならトゲも安心。 Pix:amazon.co.jp 植え替えは、株を鉢からそっと抜き、ポロポロと落ちる細根以外の根を傷つけないように丁寧に扱ってください。サボテンの根は繊細なため、傷つくとそこから細菌感染し病気になるおそれがあるからです。柔らかく揉み、全体の2〜3割程度の土が落ちたら新しい土に植え替えます。植え替え後、1週間は水をあげずに半日陰で管理します。1週間ほど経ったら水やりを行いますが、この時に、規定量の半分のメネデールを混ぜた水をあげ、「芽根出〜ろ、芽根出〜ろ」と祈りを捧げます。 ポイント④日常のお手入れ 特に日常のお手入れは必要ありませんが、日々観察することが重要です。肌の様子、トゲの様子、成長点(てっぺん)の具合など、きちんとチェックしてあげることで、不調のサインが出た時に一早く気付くことができます。一定方向にばかり太陽が当たる環境の場合は、定期的に鉢を回し、まんべんなく日光浴をさせてあげることで綺麗な球形に仕立てられることが期待できます。 ポイント⑤注意すべき病害虫 カイガラムシへの注意が必要です。カイガラムシは高温多湿の状態で発生しやすくなります。カイガラムシは生きている時は見つけにくく、多くの場合、死骸や糞となってから発見されます。動画で緋牡丹錦から駆除している白いペースト状のものは、まだやられて間もないカイガラムシの糞。爪楊枝などで幹肌に傷をつけないように慎重に駆除しなければならないため、厄介なんです。予防措置として、梅雨入り前にカイガラムシ駆除薬剤を散布しておくことをおすすめします。もう一つ厄介なのが、屋外で管理している時に、飛来したブタクサのタネが鉢内で発芽し、根付いてしまうことです。ブタクサは成長が早いため、放置していると土の中で伸びた根が金鯱の根を圧迫してしまいます。このため、雑草を発見したら若芽のうちに速やかに根こそぎ抜いて駆除しましょう。 サボテン金鯱をタネから育てる 金鯱はタネから育てる「実生」でも人気の品種。金鯱のタネはメルカリなどの個人間取引でも比較的入手しやすく、また発芽率も高いため、初めてタネからサボテンを育てる方におすすめです。タネからの栽培は、成株を買って育てるより手間暇がかかりますが、発芽から手塩に掛けた株の成長を見守るのはこの上ない喜びです。ぜひチャレンジしてみてください!ここでは、2017年にタネを蒔いた、私の金鯱の実生記録を紹介します。ちなみに、この時が初の実生です。 タネまき(2017年5月) 種子消毒 金鯱のタネ。スマホと比べてみれば分かるが、ゴマ粒より小さい。 (この写真の撮影は2024年4月) タネまきは温度と湿度がある5月あたりが理想的ですが、ヒーターなどの加温装置がある場合は年中OKです。 [参考商品]育苗用ヒーターマット Pix:amazon.co.jp タネを入手したら、まずそのタネを消毒します。消毒は、蒔いたあとに土の中で他の病原菌に感染するのを防ぐためです。いろいろな殺菌剤が販売されていますが、私は「ダコニール1000」を使用。付属のキャップ半分ほどのダコニール1000を、500mlのペットボトル容器の水で希釈。その消毒液を市販の霧吹きボトルに入れ、キッチンペーパーの上に置いたタネに噴霧した後、キッチンペーパーを折り畳んでタネを挟み、2〜3時間放置します。 用土に播く 土は、清潔な土を使う必要があるため、赤玉土とバーミキュライトを6:4で混ぜた土を一旦ビニールシートに広げ、種子消毒の際に作った消毒液を土全体に噴霧し、天日干しして乾かしたのちに播くのが正しいやり方ですが、私はこの時は土消毒は行わずにそのまま播いちゃいました。タネの播き方は、育苗ポット(あるいは小さい鉢)に前出の用土を入れ、その上にただ置くだけでOK。複数ある場合は離して置いてください。 腰水(こしみず)し、ラップをかけ保湿 発芽するまで用土を十分に水分で満たすために、腰水を行います。水を容器の半分くらいまで張ったカップ状の容器に、タネを播いた育苗ポットを入れると、鉢底穴から吸い上げた水が用土全体を湿らせます。 タネを取り巻く環境が高温多湿になるよう、育苗ポットにサランラップなどをかぶせておきます。ラップは密閉しないように穴を2〜3個開けておきます。その後は、高温(30℃くらい)多湿の環境で管理します。 水は、2〜3日に1回くらいの割合で新しい水に変えます。 1週間後、発芽 ラップの中に緑色の突起物が見えたので、外してみたらなんと緑色の突起物が!(写真左)「え、これがサボテンの芽なの!?」とびっくりしました。発芽したら、芽がラップに接触しないように、写真右のようにラップに膨らみを持たせてかぶせます。 2カ月(2017年7月) 1カ月が経過した頃に腰水を終了し、以降は常に用土が湿っているように頻繁に霧吹きで水を与えるように。いっちょ前にトゲを生やしているあたり、可愛いですね。 6カ月(2017年11月) 成長に伴い、特設ステージを作ってあげました。冬になったらワイヤー部分にラップをかぶせることで簡易温室に早変わり。水やりは今までのように、用土は常にビショビショに湿っているというよりは、若干乾いたセミドライの状態になってから再び十分に湿らすというサイクルに切り替えます。 7カ月(2017年12月) 初めての冬到来。ラップをかぶせるとこんな感じに。この時は保温ヒーターが故障していたため、下に使い捨てカイロを置き代用しました。 10カ月(2018年3月) 金鯱は球サボテンなので、右側のは柱サボテンだな、と思ってしまいましたが、その柱サボテンだと思っていた高さ1cmのほうが金鯱で、もう一つはテロカクタスの一種だと判明するのは後日のこと。 2年2カ月(2019年7月) 2株とも大きくなってきたので、それぞれ単独の鉢に分けました。この頃の金鯱は高さ5cmくらい。用土は懇意にさせてもらっている園芸店オリジナルのものを使用。 2年8カ月(2020年1月) 高さ7cm(トゲ含まず)まで成長。トゲに金鯱の片鱗が見えてきました! この直後、世界は新型コロナという未曾有の危機に直面していくことになるとは、金鯱も私も知る由もない。 3年11カ月(2021年4月) 高さ11cm(トゲ含む)まで成長。横幅も広がり、トゲもしっかりしたものが生え、リブの形成も美しい。 5年(2022年5月) 高さ16cm幅15cm(それぞれトゲ含む)まで成長したので、相応の鉢に植え替える。 6年11カ月(2024年4月) 現在の勇姿。 高さ17cm幅17cm(それぞれトゲ含む)。 サボテン金鯱をいい感じに育てるコツ トゲを強く太くする 金鯱の自生地ソノラ砂漠は、常に乾燥していて朝晩の温度差が著しく、極端に少ない雨と砂混じり強風が容赦なく吹き付ける過酷な砂漠気候。しかし日本の気候下で砂漠気候を実現するのは無理がありますし、しかも植木鉢で育てるとなればできることも限られるため、最低限以下の4つを心がけることで、野生種のような趣のある個体になることが期待できます。 12cm(トゲ含む)を超えた成株は存分に直射日光に当てる。冬と梅雨時以外は表に出しっぱなしでもよい。(曇っていても自然の空気と風が成長を促す)水やりは、あげる時はたっぷりと、あげない時間もたっぷりと、というようにメリハリをつける(完全に自然の降雨任せにして育てている方もいます)。冬も屋内に入れず、夜間は屋外の温室で管理し、昼夜の温度差を与える(ただし5℃を切ったら屋内に避難させる)。 ドライガーデンを作って”映え庭”を楽しむ タフなサボテン金鯱は、寒冷地を除く地域では地植えで楽しむこともできます。どうせ地植えするなら、植える場所を自生地のような環境にリフォームしてしまうのも面白いですよ。しかし、自分で地植えするとなると、地植えに適した株の選定や、植える場所の整備、土壌改良など、思いのほかハードルが高いため、“その道のプロ”に依頼するのがおすすめ。造園業者の中には、サボテンやアガベなどの多肉植物を用いて、自生地の砂漠地帯の環境を再現することを得意とする業者が幾つかあります。彼らは砂漠地帯の植生に対する知識も豊富で、そこに自身の造園技術を融合させることで、何の変哲もない庭を、まるでメキシコの写真の一部分を切り取ったかのような”映え庭”に変えるマジックを持っています。 写真は、リノベ不動産という不動産会社の恵比寿南店店舗入り口の植栽。 (写真左)コンパクトにまとめればマンションのバルコニーでもロックガーデンを楽しめる。(写真右)某飲食チェーン社長の邸宅の庭。窓を開ければこの景色というのは本物の贅沢だろう。 巨大な金鯱と石材を多用し、メキシコの金鯱自生地へのオマージュを込めて作られたこれらのロックガーデンを施工したのは、ロンハーマンなどスタイリッシュな会社を数多く手がけているDESERT INC.という造園会社。同社は多様なスタイルの造園を手掛けていますが、中でもドライガーデン、ロックガーデンには定評があります。自宅の庭にサボテンを地植えして、ドライガーデン、ロックガーデンとしてリフォームしたい、という方は相談をしてみてはいかがでしょうか。リノベ不動産の施工風景及びエピソードはこちらの記事でご覧いただけます。 サボテン金鯱の園芸品種 金鯱にはいくつかの品種があります。品種は、突然変異などで変異が生じた「変種」と、育種家などが交配、選抜したことにより作出された「園芸品種」の2つに分かれます。ここでは、サボテンをはじめ、多肉植物などを育苗、販売している長野県の信州西沢サボテン園の西沢さんにご協力をいただき、いくつかの品種をご紹介します。ちなみに、私がサボテン好きになったきっかけも、じつは西沢サボテン園なんです。 長刺金鯱(左)、金鯱,V,豪刺ラスタブラス(右) [写真左]実生株 幅6cm(トゲ含む)1,100円(税込)、[写真右]実生株 幅12cm(トゲ含む)2,200円(税込) トゲが長いことを「長刺(ちょうし)」といい、太く長いダイナミックなトゲを「豪刺(ごうし)」といいます。二株ともインパクト大ですよね。欲しい・・・。 短刺金鯱(左)、鷲爪金鯱(右) [写真左]実生株 幅9cm(トゲ含む)3,300円(税込)、[写真右]実生株 幅7.4cm(トゲ含む)2,750円(税込) こちらは人の手によりトゲを短くし、作出されたもの。どのようにすればかくも美しいサボテンが作れるのでしょうね。神の領域に挑む人の技には畏敬の念を禁じ得ません。 白刺金鯱 (左)、王妃金鯱(右) [写真左]実生株 幅10.5cm(トゲ含む) 1,980円(税込)、[写真右]実生株 幅7.5cm(トゲ含む)3,300円(税込) 白いトゲの白刺(はくし)金鯱(左)は、作出されたもの以外にも、変種で白くなる場合もあるのだとか。両方とも、大手園芸店でもそうそうお目にかかれない珍品です。 ●上記商品はこちらの信州西沢サボテン園Webショップより購入できます。(売り切れの場合がありますが、西沢さんは毎週木曜夕刻にwebショップを更新しているのでチェックしてみてください。) 編集後記 なぜ金鯱がサボテンの王様と言われるか、それはひとえに、その荘厳な佇まいに対する畏敬の念が、そんな言葉を生んだように思います。私も金鯱のその威風堂々たる姿に魅了されている一人ですが、威風堂々というよりかは、まだあどけなさの残る可愛らしい実生株を現在育てています。そして10年20年経った頃に、ぜひとも自宅にロックガーデンを作り、この子を植えてみたいですね。自宅にRock 'n' rollなロックガーデン、憧れです。