フリーランスのロックフォトグラファーの傍ら、サボテンを愛し5年、コーデックスに魅せられ3年を経て、2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。多肉植物関係の記事を中心に、精力的に取材&執筆を行う。飼い猫「ここちゃん(黒猫♂6歳)」に日々翻弄されている。
編集部員K -ライター・エディター-

フリーランスのロックフォトグラファーの傍ら、サボテンを愛し5年、コーデックスに魅せられ3年を経て、2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。多肉植物関係の記事を中心に、精力的に取材&執筆を行う。飼い猫「ここちゃん(黒猫♂6歳)」に日々翻弄されている。
編集部員K -ライター・エディター-の記事
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イベント・ニュース
【天下一植物界Vol.5】伝統園芸植物「万年青」。万年青を愛し愛された男が今、その想いを激白!
【豊明園】水野さんが語る、万年青の世界 天下一植物界2022特集最終回を飾るVol.5は、日本古来の伝統園芸植物、万年青と万年青のブース「豊明園」をご紹介します。知らなかった私は開口一番、「まんねんあお、ってどんな植物ですか?」と聞く始末。 そのブースで終始笑顔を絶やさずに、お客さん一人一人に丁寧に万年青の魅力を説く法被を着た男性。この方こそ、100年以上続く万年青専門店「豊明園」の4代目、水野豊隆さん。生まれた瞬間から万年青に囲まれて育った水野さんに、万年青の魅力を解説していただきました。 伝統園芸植物、万年青とは? K:さて今日は万年青に関していろいろ伺います。よろしくお願いします。さっそくですが、万年青は日本古来から続く伝統園芸植物なのだそうですね。どんな歴史があるのですか? 水野さん(以下M):万年青の歴史はとても古く、1,000年ぐらい前(およそ平安時代)から親しまれている植物で、徳川家康や天皇陛下が好んだことでも知られます。特に家康が好きだったことから、江戸庶民の間で将軍家御用達の観葉植物としてとても流行りまして、鉢にも凝る人が多くいました。 「万年青」と書くのですが、万年繁栄するようにという意味を込めて名付けられています。また、引っ越しの際に、その関係者が万年繁栄するように、病気もなく繁栄するようにと願いを込めて送る「引っ越し万年青」という文化もあったんですよ。自分の子どもが新しい家を作ったら、「引っ越し万年青」を子どもに送る、そんなことが日常的に行われていたのです。 K:そうなんですか、まったく知りませんでした。おそらく一般的にもあまり知られていないと思いますが、私たちの祖先がそのように植物を愛でていたと知ると、ちょっと嬉しいですね。 M:鹿児島あたりだと、今もまだ武家屋敷が結構残っていて「北東の鬼門のほうに万年青を植えよ」っていう言い伝えもあることから、今でも万年青を置いてある家庭って多いんです。置いてあるっていうか、植わっているんです。今では鉢植えのほうが主流になっちゃったんですけどね。このようにせっかく残っている伝統文化なので、それをちゃんと次の世代にも継承していこうという活動も行われています。 K:なるほど。地植えとおっしゃいましたが、本来は鉢植えより地植えのほうが向いているんですか? M:万年青はもともと国内に自生している植物なので、地植えで楽しむこともできますが、小さめの株だと地植えには向かないですね。葉長が15cm以上の株になると、花も楽しめます。この株ではまだつぼみですが、もうちょっとすると赤い花が咲きます。お正月になるとさらに赤みが増すことから、お正月の花、お祝いの花、としても珍重されています。 ※確かに、前出の図鑑にも赤い花を付けた万年青が描かれている。 K:それはおめでたい感がすごいですね! もらった方もさぞ嬉しいのではないかと思います。 M:今はマンション住まいなど、住宅事情もあってか、小ぶりな株を白い鉢に合わせるなど、インテリア性を重視したものが結構売れますね。 初心者でも簡単? 万年青の育て方 K:万年青は栽培初心者も受け入れてくれる植物ですか? M:古来より自生しているものなので、日本の気候に基づいた水あげを再現してやれば、よい株に成長していきます。例えば、梅雨の時期は雨も多いので水を多めにあげ、夏は控えめにし、秋に秋雨前線が来る頃は再び多めに水をあげるといったところでしょうか。 K:なるほど。栽培で特に気をつけなければいけない点はありますか? M:最近の日本の夏は40℃近くになり、陽射しもかなりキツいので、そういう環境は避けるようにしたほうがいいですね。万年青は、もともと林の木陰などでひっそりと自生しているものです。夏場は日除けなどの対策を行わなければ、せっかくの味わい深い葉の色や、白から緑へのグラデーションも綺麗に出ないので、そこだけは注意が必要です。 K:確かにこの白と緑のコントラストは美しいので、キープしたいですよね。 M:ただ、僕らなんかは結構、株本来の持つパワーを強くするために、逆に厳しい環境で育てるんです。葉も直射日光であえて焼いて、お客様のもとに行く頃合いを見計らって、直射に耐性のある強い葉を出す強い株になるように調整したりもするのですが、皆さんがご自分で育てられるときは絶対に真似しないでください(笑)。葉を焼かないように育てたほうが、美しいと思いますからね。 K:あえて葉を焼くとは、なかなか思い切ったことをしますね! でも、この白と緑の美しい葉にそんなストーリーがあると知ると、さらに魅力を感じます。 万年青はとても長生き M:万年青は寿命も長いんです。当店の95歳のお客様の話ですが、15歳の時に買った万年青を80年経て、今もなお大事にされているという方もいらっしゃるんです。 K:80年! ヘタしたら人間のほうが先に逝っちゃいそうですね。万年青もさることながら、その方のご長寿を心から讃えたいですね。しかし、まさに名は体を表すで、万年生きる、と例えられる所以ですね。実際に1万年は生きるのですか? M:それはないと思います(笑)。ただ、もしかしたら1万年前の日本には原種となるような植物が生い茂っていたかもしれませんね。ちなみに、万年青は長生きの割には価格も2,000円程度から楽しめる植物なので、コスパはよいと思います。ものすごく希少価値もあり、目の飛び出るような高値がつく、というような観葉植物では決してないのですが、上手に育てることでより魅力が増してきて、そうなるともう自分の子のように愛着が湧いてしまうのも万年青の魅力なんです。 K:そう聞くと、小さい株のときから大事に育てて、家族の成長と共に大きくしたいなと思いますね。 M:ですよね。まぁ、色も緑で、特に奇をてらった模様があるわけでもないので、多肉植物などに比べるとどちらかというと地味な植物ですが、ちょっと目を向けてあげると光るものがたくさんあるので、ぜひこれを機会に万年青を知り、そして育ててみようかなと思ってもらえると嬉しいです。 万年青はなんと、1,000種類もある! K:こうして拝見していると、決してバリエーションが豊富というようには見受けませんが、育ててみて初めて分かる楽しさや、何よりも、我が国の園芸文化の伝統がそこに詰まっていると考えると、レアプランツにはない、どこか気品みたいなものを感じます。 M:ですよね! バリエーションですが、今日はイベント会場という特別な機会なので、本当に丈夫なやつを5種類くらい選んで持ってきているだけで、実際は1,000種類くらいあるんですよ! K:え!? それは失礼いたしました。しかし1,000種類とはまたすごいですね! M:そうなんですよ。ぐねぐねと奇怪に曲がったものや、幅広のだるまみたいなもの、単純にすごい大型の株など、かなりの種類があります。私もYouTubeで紹介しているので、ぜひ見てください。 豊明園水野さんのYouTubeチャンネル K:なるほど、どおりで水野さん説明がお上手なはずです。YouTubeぜひ拝見いたします。大型の株とおっしゃいましたが、やはり大きくなればなるほど、値段も上がっていくっていう感じですか? M:いや、そんなことはないです。小さくても8,500円と高価なものもあるので、そこはやはり種類によりますね。今回持ってきている1,000円、2,000円の手頃なものもあれば、それよりも小さいもので100万や300万ぐらいするものもあるんです。まず最初は、この1,000円の、大きさも手に乗る程度の株からお試しいただいても、十分に魅力は伝わるかなと思います。 万年青は富士砂のマルチングがGood! K:丈夫な株を見分けるコツみたいなものってあるのですか? M:そうですね、パッと見ではあまりよく分からないのですが、よく子株を吹いて増えるもの、そうして株がいくつかあるものだと丈夫な個体といえます。よく増えると、丈夫な割には逆に価格が安くなるので、そういう株は狙い目だと思います。 K:この黒い用土は、石? これ、どういったものなのでしょうか? M:これは富士砂といって、富士山の麓でよく採れる砂でして、いろんな植物の化粧砂としてもお馴染みです。万年青に富士砂を合わせると、黒さが万年青の印象を締まって見せ、また、湿っている時は黒い富士砂が乾くことによって白っぽくなるので、水やりのタイミングも分かって一石二鳥なんです。 K:なるほど、今は湿っているからこうして黒いのですね? M:そうなんです。特に初心者の方には富士砂を乗せて栽培するのはおすすめです。なので、ここにあるものには全て富士砂を乗せてあります。 K:乗せるというと、富士砂で上層を覆っている、という感じですか? M:そうですね、1cmくらい被せている感じで、富士砂の下のほうは、底に大きめと粗めのものが混在した軽石があり、その上に中砂を株の6〜7割ぐらいまで入れ、最後は粒の細かい砂利で首元まで、という感じなので、簡単に植え替えもできます。 K:植え替えのタイミングはどんな感じですか? M:1〜2年に1回は植え替えをしたほうがいいですね。根が成長するタイミングがいいので、春か秋に植え替えしていただくと、すぐに根が活着するので、おすすめですね。 ごく自然な形でこの仕事に就いた感じがしますね K:万年青の世界、めちゃめちゃ深いじゃないですか! なんで今まで知らなかったんだろう…罪ですね。 M:まぁこうして知ったわけですから、今後とも万年青をよろしくお願いします! K:もちろんですよ! ところで水野さんは、4代目ということは、生まれた瞬間から生家の家業が万年青だったわけですが、最初からそれを継ごうと決めておられたのですか? M:物心ついた頃から父の手伝いで万年青の大会に行ったりしていたので、家業自体には興味はあったのですが、大学を卒業する直前までは、実際に自分がこの道に入るかどうかというのは漠然としていました。でも、考えてみれば、ごく自然な形でこの仕事に就いた感じがしますね。というのも、万年青自体が珍しい植物なので、お客様も、ちょっと変わってはいるけど素敵な方ばかりなんです。いい万年青ができても失敗作ができても、お客様がそれを楽しんでいる様子を見ていて、ああなんか素敵な世界だなぁ〜、と思っていたら、自然と自分もこの世界に入りたいと思うようになっていました。 K:万年青プラス、そこに関わる人々が水野さんを惹きつけたというわけですね。 M:そうですね。いざ中に入ってみると、苗から育てる上で習得しなければいけない技術の多さや、1,000種類以上という品種の多様さに戸惑ったこともあります。でも、日本どころかアメリカやヨーロッパ、アジアなど世界中から万年青を買いにきてくださるお客様がいて、とにかく面白くて、知らず知らずのうちに万年青の沼にはまっていきました。今は特に、江戸時代の品種と現代の品種を掛け合わせて、今までにない全く新しい万年青の育種にはまっています。 K:水野さんが作出する新しい万年青、大変興味があります。完成したらぜひご一報を! M:もちろんです! 万年青は人の心を豊かにする K:こうして、万年青の世界の第一人者となった水野さんですが、プロとして万年青と関わってきた中で、特に印象に残っているエピソードなんかがあれば、教えていただけますか? M:仕事で体を壊してしまい、半身麻痺になってしまわれた方が、簡単なら自宅で楽しめるから、と万年青を育て始められました。毎日、ちょっとずつ変化する万年青を見ながら水やりをしたり、砂を足したりと、万年青の世話をするうちに半身麻痺もほとんど治って、1年後に私たちに「万年青のお陰でここまで体調がよくなりました」とのお言葉を頂戴した時にはとても感動しました。もちろん、治療やリハビリなど、ご本人の努力あってこそだと思いますが、万年青にも、どこかそんな人の心と体を癒やすパワーがあるのかな、という気がしています。 K:素敵な話ですね〜。植物って、現代科学をもってしても解明しきれない神秘的な部分があると聞きます。情報ソースが少なかった古の人たちが万年青に魅了された理由の一つに、万年青の持つ、どこか信仰にも似た何かがあるのかもしれませんね。 M:歴史が長い分、独り歩きした迷信とかもあると思いますが、万年青が人の心を豊かにすることは間違いないと確信しています。 K:間違いないですね。さて最後になりますが、ガーデンストーリーの読者の中には、私のように今回万年青を初めて知った方も多いと思います。そんな読者の皆さんに、何かメッセージをいただけますか? M:今は、世界中の植物を家の外でも中でも育てられる、植物好きにとっては最高の環境だと思います。また、昔は本当のマニアのグループに入らないと教えてもらえない、植物を育てるあと一歩のコツを、ガーデンストーリーさんのように教えてくれるサイトもあります。私も植物好き、万年青好きのはしくれとして、日本の伝統園芸の魅力を世界中の人に少しでも知ってもらいたいと頑張っていますので、よろしくお願いいたします! K:今日はお忙しいなか、ありがとうございました! 万年青の魅力、存分に堪能させていただきました! 1,000年前から息づく伝統園芸植物を我が家で愛でる粋 いかがでしたか? 万年青特集。水野さんの説明なしに伝統植物と聞くと、ちょっとハードルの高さを感じてしまいますが、YouTubeでもご活躍の水野さんの巧みな話術に魅了され、私も万年青を買おうかなと真剣に考えております。赤系の花が咲く植物は好きなので、万年青が花を咲かせたところ、ぜひ見てみたいものです。お手頃価格で始められるところも好印象ですね。 何かとビザールプランツ(珍奇植物)や、レアプランツ(希少植物)が話題となっていますが、万年青のよさを、もっと多くの人たちに知ってほしいと思います。だって、1,000年前から息づく日本の伝統園芸植物が我が家にあるなんて、粋とは思いませんか? Credit 文/写真:編集部員K フリーランスのロックフォトグラファーを経て2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。サボテンを愛し5年、コーデックスに魅せられ3年、この仕事との出会いを神に感謝し、精力的に取材、執筆を行う。今夢中になっているのはキツネダンス。
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イベント・ニュース
【天下一植物界Vol.4】信楽焼の植木鉢と植物をかたどった陶植。植物をアートに昇華させる2人の匠に迫る。
植物だけじゃない、天下一植物界の楽しみ方 賑わいを見せる天下一植物界2022の各ブース。サボテン、コーデックス、ビカクシダと、珍奇系や希少系の植物に人気が集まっていましたが、インテリア雑貨勢も、これに負けず劣らず賑わいを見せていました。中でも、お気に入りの植物に箔がつく芸術的な植木鉢や、植物をモチーフにしたハンドメイドアクセサリー、オブジェなどが人気で、お客様も興味津々で商品を手に取って眺めていました。今回の天下一植物界特集Vol.4では、ハンドメイドで信楽焼の植木鉢を製作しているコム・ワークスタジオと、多肉植物などをモチーフにしたオリジナルデザインの陶製オブジェ「陶植」を製作するSTUDIO.ZOKにスポットを当て、2人の匠にお話を伺ってきました。 【コム・ワークスタジオ】実行委員も惚れる、信楽焼の妙技 外ブースの一角にずらりと並んだ、一見して茶器を彷彿させる独特な味わいの植木鉢たち。近くに寄り、手に取ってみると、それが植物を纏うことによって完成する芸術作品であることが分かります。 これらの鉢を作るのは、コム・ワークスタジオの吉本敏彦さん。植物が大好きで、ご自身もコーデックスなどを育てている吉本さんは、天下一植物界には今回が初の出店となります。ここに至った経緯は、天下一植物界の前身イベント「BORDER BREAK!!」で、自分の鉢に合う珍しい植物を探すのを一入場者として楽しみにしていたところ、時を同じくして吉本さんの鉢に惚れ込んだ実行委員スタッフが信楽の工房まで吉本さんを口説きに来て出店が実現したというのだから、さすがにスタッフの目も肥えていますよね。天下一植物界スタッフをも唸らせた吉本さんの作品、さっそくその魅力に迫ってみましょう。 代表の吉本敏彦さんに聞く、鉢作りの極意 作品のベースにあるのは日本的な侘び寂び K:今回の出展で、来場されたお客様に、吉本さんのブースでここを一番見てほしい! というところがありましたら教えていただけますか? 吉本(以下Y): 僕はその植物が原産地で自生している様子を想像し、その株にマッチした鉢がどんなものか、そして自生している姿に近い姿で株を育てるにはどんなものが相応しいのか、との思いで鉢を作っています。砂漠の中にみずみずしく光る緑、険しい岸壁に咲く可憐な花。植物の生命力、美しさと力強さを表現できる鉢。そんな鉢を作っていますので、ぜひ私のブースにお気に入りの一鉢を探しに来てください。 K:吉本さんの作品からは何かこう、自然の香気みたいなものを感じますね。鉢を作るときに、何かこの鉢にはこの植物が合うだろうなみたいな、具体的なイメージを浮かべながら作ったりされるのですか? Y:というよりも、ベースにあるのは日本的な侘び寂びなんですよ。このヒビとか、ちょっと朽ちた感とか、そんな土の表情を大事にして作っています。信楽の目の荒い土は、通気性と吸水性に優れており、その土の素材の特徴と美しさも大切にしています。全ての制作工程はロクロを使うことなく手でつくりますし、あとは色はもう窯まかせなんで。うちは窯が大きいので、その中の置く場所によってどうしても色が変わるんですよ。あるものは赤っぽくなり、またあるものは白っぽくなる。色がこれだけ違うと、そのばらつきもまた良さの一つなんですよね。同じ種類の鉢であっても、それぞれの表情はすべて微妙に違うので。私の鉢は、そこを楽しんでもらえればと思います。 アメリカからは、植えた人が写真を送ってきてくれるんですよ K:同じ材料、同じ工程で、そのように色が自然の技、というか、火の技で変わるというのも、どこか偶然性があって面白いですね。そうして出来た鉢ですが、拝見したところ、やはりサボテンが合いそうですね。 Y:そうですね、吸水率がいいので、多肉系、特に塊根とかサボテンとかが相性はいいですね。日本的なイメージで作ってるから、多分外国でもウケてるんだと思います。 K:では、海外からの引き合いも? Y:アメリカ、香港、台湾、あとオーストラリアにも出しています。 K:カリフォルニアの邸宅で、吉本さんの鉢を使ってサボテンをあつらえたら、さぞ映えるでしょうね! Y:アメリカからはね、植えた人が写真送ってきてくれるんですよ。 K:素晴らしい話ですね! Y:鉢って、あくまでも植物が主役ではあるんですけど、決して引き立て役というだけではなく、かといって過度には主張せず、まぁ言ってみれば服みたいなもんですからね。お客さんの大切な植物に、よく似合う服であったらいいなと思って作っています。 ないのなら作っちゃおう! で始まった Y:僕はね、植木鉢作り始めてもう15年ぐらいなんですけど、最初は、僕が買った植物に合う鉢がなくって、遊びで作ったのが始まりですから。 K:ないなら作っちゃおう! というのが、趣味人の大人の発想で、なんか素敵ですね! ちなみに、その時は何の植物だったのですか? Y:コーデックスだったんですね。価格も結構高かったので、これを駄鉢に植えるのはちょっと嫌だなと思って、じゃあ作っちゃおう! というのがきっかけで、どんどん作っているうちに、こうなっちゃったんですよ(笑)。 K:なるほど(笑)。ちなみに、吉本さんの鉢はオーダーメイドもOKなんですか? Y:ええ。受けています。ただし、こんな感じのイメージで作ってほしいっていうゼロからの依頼を受けているわけではなく、例えば、すでに僕が作った鉢の中から、直径が50cmのバージョンを作ってくれ、というような依頼を受けていて、それがアメリカからは頻繁に来ます。そんな感じで、現行モデルをベースにした特注品には、できるだけ対応させていただいてます。 K:アメリカから発注がくるのは、すごいですね! Y:えぇ、アメリカのはかなり大きいのを作りましたよ。 K:アメリカは家も植物も、何から何までデカいですからね。さぞかし壮観でしょうね! Y:僕の鉢は、カリフォルニア方面ではサボテンがメインですが、ニューヨークの方面では観葉植物がメインのようですね。 K:やはりあれだけ国土が広いと、国の東西で植える植物にも違いが出るものなのですね。対して、狭い我が日本ですが、もうしばらくしたら、鳴りを潜めていたインバウンドの熱が再来しそうな気がします。そうなれば、吉本さんの鉢の魅力、世界中のさらに多くの人に知ってほしいと思います。これからも創作活動がんばってください! 本日はお忙しいなか、ありがとうございました! Y:こちらこそ、ありがとうございました。 取材に赴く前に、吉本さんの作品群をネットで拝見して、その作品数にも驚きましたが、実物を実際に見て触ってみると、これ相当感動しますよ。私も多肉植物好きの端くれとして、お気に入りの株をいくつも持つ身ですが、帰宅後、居並ぶ子らを見るに、吉本さんの作品で飾りたいと思った株がいくつもあります。なので、吉本さんの鉢、ぜひ購入しようと思います。給料日後に(笑)。 そんな吉本さんの鉢は、こちらから購入できます。大きさの指標にとんがりコーンを使っているところがお茶目。 植木鉢一覧 tps://www.comworkstudio.jp/植木鉢工房/陶/ ※ホームページ内の問い合わせフォームに、上記URLより購入希望の鉢の型番を明記し、折り返し商品代金、送料等の見積もりが来てからの購入。 有限会社コムワークスタジオ ホームページ https://www.comworkstudio.jp 滋賀県甲賀市信楽町江田724 TEL:0748-82-2585 FAX:0748-82-2909 【STUDIO.ZOK】一見して本物、一見して違う物、両方の視線で楽しめる陶製オブジェ「陶植」 サボテンのお店? かと思って近づくと、そこにあったのは、なんとアストロフィツム属サボテンをかたどった陶製のオブジェ! 遠巻きに見ると本物に見えるのですが、近づくにつれ正体が分からなくなり、目の前にくると誰しもが「触っていいですか?」と聞いてしまうのです。何かこう、不思議な引力を持っているオブジェです。 手がけるのは、今回で天下一植物界には2度目の出店となる、愛知県の陶製工房STUDIO.ZOK。「陶植」と呼ばれるこれらの作品のバリエーションはサボテンにとどまらず、グラキリスや亀甲竜などの多肉植物にまで及びます。グラキリスに至っては、葉の部分をマグネットによる着脱式にし、葉を落としたフォルムも楽しめるなど芸が細かい! このギミックは、その植物の魅力を知っているからこその為せる技ですね。その技の主、STUDIO.ZOKのクリエイター滝上玄野さんにお話を伺い、陶植の魅力について語っていただきました。 クリエイター滝上玄野さんに聞く、創作の真髄 育てるのが苦手な方に少しでも植物の世界との繋がりを K:今回の出展で、来場されたお客様に、滝上さんのブースでここを一番見てほしい! というところがありましたら教えていただけますか? 滝上(以下 T):ん〜、どの作品も丹誠込めて制作したものたちなので、全部! と言いたいところですが、練り込み技法を使った新作の斑入り(多肉植物などにおける色素が変異した品種)陶植や、葉ものに挑戦したマクラータ(ベゴニアの種類)なんかが発表したてのホヤホヤなので、見てもらえたら嬉しいです。あとは、このイベントではブースの多くが生産者さんのため、そこに紛れ込んでいるかのように、作品をプラ鉢にセットして、イベント全体に溶け込むようなディスプレイにしてみました。本物? 作り物? と興味を持って、まずは触ってもらい、作品自体を面白いと思ってもらえたら嬉しいですね。 K:作品のリアリティーには、私も興味津々でした。滝上さんがこれらのオブジェを作ろうと思ったきっかけを教えていただけますか? T:そうですね、陶植は7年前から制作しているのですが、もともとは鉢を制作して、盆栽やサボテンなどをコラボという形で仕立ててもらっていたんです。陶植の最初のきっかけですが、イベント出展する先で、植物は好きだけど育てるとなるとちょっと、というお客様が結構いることを知ったんです。「私には育てられないから」と植物の魅力は感じながらも諦めるなんて、なんか、もったいないじゃないですか。僕も植物をいくつも枯らした経験があるので、その気持ちはすごく分かります。でも、そのもどかしさに対して僕自身、何かできることがないかなって考えていたんです。 そんな時、仕事で生産者さんと関わるようになって、サボテンやコーデックスの形の面白さや種類の多さなど、知らないことばかりで驚きの連続でした。まさにこれこそ本物のアートだと思ったんです。その時に、このアート的な面白さの力を借りて、植物をオブジェとして陶器で制作することで、植物好きな方のインテリアアイテムにもなり、育てるのが苦手な方には少しでも植物の世界に繋がりを持てるものができるんじゃないか、と思ったのが始まりです。 植物に取って代わるものを作りたいわけではない K:思いやりが原点とは、また素敵なエピソードですね。そんな優しい思いが込められているのなら、よけいに欲しくなりますね(笑)。 T:ありがとうございます! K:これらの商品、皆さんにも実際に視覚と触覚で堪能してほしいと思ったのですが、作品を作る際に、再現性だったりとか、素材選びだったりとか、特にここは意識や力を注いでいる、というものはありますか? T:作品を作るにあたっては、いろいろと注意している点はありますね。基本的に、今制作しているものは陶製の素材感を出すということは大事にしています。なので、ベースの色味は土自身の色を使って表現しているものが多いです。そして、本物に似せて作ろうとしすぎないことを軸にしています。レプリカではないというか、ここのニュアンスはとっても難しいんですが、あくまで「陶製のインテリアオブジェとして楽しむためのもの」なんです。植物に取って代わるものを作りたいわけではないんです。なので、あえて色味を寄せなかったり、形をデフォルメしたりしています。ちょっと変わった置物のほうが飾り甲斐があると思うんです。ただ、モデルによっては特性上寄せないと全く分からないものもあるので、そこはうまくバランスを取って、要はさじ加減というやつです(笑)。そんな作品を通して、お客様には植物の世界にも繋がりながら陶芸としての世界にも魅力を感じていただけたら嬉しいですね。 僕ならではの方法で植物シーンを広げていけたら K:自分の育てているサボテンやコーデックスなどの愛株をモチーフにしたオブジェやアクセサリーを滝上さんに作ってもらう、というようなオーダーメイドは可能ですか? T:オーダーメイドは受けていないんです。というのも、新しいものを作るのには膨大な時間がかかってしまいます。形によっては成形可能な範囲も限られたり、色味なども窯から出すまで分からないので、成形から焼き上げまで、1つ作るのに何十個も試さなければならないケースもあって、価格的にも難しいため、基本的にはオーダーメイドは受けていないんです。でも、そういった面をご理解いただけるようでしたら、ご相談いただけたらと思います。ただ、こんな面白い種類があるよ! とか、今これが人気だよ! とかの情報は、私自身の勉強にもなるので、ぜひ教えてもらえると嬉しいです。 K:そういう情報って、ありがたいですよね。財布の紐が緩むので困りますが(笑)。 さて最後に、ガーデンストーリーは、グリーンと共に日々の生活を楽しむためのコンテンツをお届けしているWebメディアでして、多くの読者が多様なスタイルで園芸を楽しんでいます。そんな読者のみなさんに、何かメッセージをいただけますか? T:はい、暮らしを楽しむアイテムの1つとして、ボタニカルファッションであったり、ファブリックであったりと、植物の魅力は世界を広げてくれます。僕の作る陶植は、一輪挿しにできるタイプがあったりとインテリアをより楽しむために制作していて、僕ならではの方法で植物シーンを広げていけたらと思っています。みなさんもぜひ、広い意味で「植物のある暮らし」を楽しんでもらえたらと思います。その中に陶植を選んでもらえたら一番うれしいですね! K:今日はお忙しいところ、ありがとうございました。新作情報、楽しみにしています! STUDIO.ZOK滝上さんの作る陶植は、ぜひ実際に目で見て、手で触れてみてください。触れた瞬間、あそこに置いたらこんな感じかな、あそこに置くとどう見えるかな、とか、そのオブジェが自宅の部屋を飾るシーンの数々が脳裏に浮かびます。手にとった人の想像を掻き立てるオブジェ、そこに込められた思いは、滝上さんの、植物と人とを繋ぐ架け橋になりたいという優しさでした。だからでしょうか、会場で作品を手にする人は皆、素敵な笑顔になっていました。手に取る人の心を和ませる滝上さんの作品は、植物を育てるのが得意な人も、苦手な人も、また、植物が好きな方への贈り物としても最適ですよ! 下記よりご購入できます。 STUDIO.ZOK Official Web Shop https://shop.studio-zok.com Instagram https://www.instagram.com/studio_zok/ 職人の技巧も堪能できるイベント、天下一植物界 いかがでしたか? 匠の技特集。2人とも、同じ土でも、種を植えるのではなく、形を作って火に入れるという、ある意味土を操る魔術師ですね。 しかしこの天下一植物界、上物(植物)も買え、下物(鉢)や、アート作品まで揃ってしまうなんて、ちょっと欲張りなイベントですよね。鉢を作る吉本さん、陶植を作る滝上さん、2人に共通するのは、植物を愛するがゆえの情熱に突き動かされ物作りをされていること。そんな匠の創作活動を、ガーデンストーリーは今後も応援していきます。目が離せませんよ! おすすめ記事 ●天下一植物界の全てがわかる! 天下一植物界Vol.1(総合編) ●サボテン、コーデックス好き必読! 天下一植物界Vol.2(多肉植物編) ●話題のビカクシダと食虫植物に注目! 天下一植物界Vol.3(珍奇植物編) Credit 文/写真:編集部員K フリーランスのロックフォトグラファーを経て2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。サボテンを愛し5年、コーデックスに魅せられ3年、これぞ天職! と、精力的に取材、執筆を行う。好きなサボテンはゲオヒントニア・メキシカーナ、好きなコーデックスはパキポディウム・ルテンベルギアナム。
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多肉・サボテン
【癒やし系サボテン】翠冠玉に兜丸、トゲのかわりにふわふわ綿毛で癒される!育て方も教えます|多肉植物狂い vol.03
トゲのないサボテン!? 皆さんは「サボテン」と聞いて、どんなものを連想しますか? おそらく多くの人が、鋭いトゲをビッシリと全身にまとい砂漠に佇む姿を思い浮かべるでしょう。しかし、なぜあんなに尖ったものがたくさん生えているのでしょう? 不思議ですよね。 そんなトゲが嫌で、サボテンを買わない人がいるのも確か。もしあなたがそれでサボテン栽培をあきらめているのなら、それはもったいないこと。サボテンの種類は世界になんと2,000以上もあるといわれ、その中にはトゲがまったくないサボテンもたくさんあるんです。それどころか、トゲの代わりに◯が生えているものもあるんです! 今回の多肉狂いは、トゲのない、ちょっと変わったサボテンをご紹介します。 サボテンにはなぜトゲがあるのか そもそもサボテンにはなぜトゲが生えているのか、そのトゲの役割がなんなのかについてご説明します。 サボテンのトゲは、もともとは葉っぱだった!? サボテンの自生地といえば、主に南米や北米の乾燥した砂漠地帯が有名です。しかしサボテンの"祖先"となると、これが意外にも南米のジャングルなどの鬱蒼とした森林の中に自生していたことが分かっています。しかも今の形とはかけ離れた、普通の木のような形をしていたのです。中には、ツルのようにほかの木の幹を這うように生育していたものもありました。そんなサボテンの祖先がなぜ、今のようなまん丸や柱のような姿になったのか・・・。それは、遥か昔の新大陸(南北アメリカ大陸)で起きた、サボテンを取り巻く自然環境の変化が原因なのです。 その頃の新大陸では、気候の変動や、なんらかの外的な影響を受け、森林が減少してしまいました。降水量も激減したことから大地は乾燥し、たまに降った雨も強い陽射しがあっという間に蒸発させてしまいます。そこでサボテンたちは、根が吸い上げた貴重な水分を放出する「葉の蒸散作用」を不要なものと考え、葉をトゲ状に進化させました。 しかし葉は植物が光合成を行うための重要なパーツであるため、サボテンたちは思いきってその機能を茎に移し、葉のトゲ化に合わせて茎を肥大化させていきました。肥大化した茎は、貴重な水分を溜めるためのタンクなので、蒸散を防ぐために肉厚にもなりました。加えてトゲは、そんな茎が動物たちに食べられないように防御する役割も担ってくれています。トゲも茎も、まさに変わりゆく地球環境を生き抜くために、なるべくして進化を遂げたわけです。 じつは、そんなサボテンの進化の過程を、サボテン科ペレスキア属の杢キリン(モクキリン)という植物の中に見ることができます。杢キリンはサボテンの原種といわれていて、葉とトゲが混在するとても面白い姿をしています。 トゲのないサボテンはなぜトゲがないのか トゲへの進化を選ばず、綿毛に変える道を歩む サボテンの中には、鳥や獣、風などにより種子が運ばれたのか、比較的標高が高い場所を新たな自生地として選んだものたちがいます。他のサボテンの仲間同様に、水分確保のために茎は肥大化させましたが、彼らは葉をトゲにすることを選ばず、しなやかな綿毛状に進化させました。なぜなら、そこは標高が高いために朝晩の気温差が大きく、夜はかなり冷え込みます。しかし彼らが手に入れた綿毛には保温効果があり、寒さを凌ぐことができるのです。人間がダウンベストを着るのと同じですね。 また、綿毛状にすることにより、朝晩の気温差により発生する水蒸気などを毛に吸着させ、効率よく水分を捕集することもできるようになりました。中には、全身を綿毛でぐるりと覆い尽くすようになった仲間もいて、その仲間は高地ゆえの強烈な紫外線から全身を守る術を手に入れました。 このように、子孫繁栄のために葉を綿毛へと進化させたトゲなしサボテンですが、じつはもう一つ、大切な役割があります。それは、私たちがそのふさふさを触ったとき、きもちい〜! と思わせること(笑)。 トゲのないサボテンに花は咲くのか どんなサボテンも、基本的には花が咲きます。ただし、年齢、栽培環境、個体の持つスタミナなど、いくつかの条件が揃わなければなりません。トゲのあるサボテンは、トゲの間を縫うようにつぼみが姿を現し、そして花を咲かせます。その様子は、武骨さと可憐さが同居し、とても魅力的です。それに対して、トゲのないサボテンは、トゲのない分、花の美しさがより一層際立ちます。 花は、午前中の明るい時間に開き、夜は閉じます。それを2〜3回繰り返したら、しおれていきます。決して長くはない開花期間が、人をどこか情緒的にさせます。 トゲのないサボテンのおすすめ4選 トゲがないとサボテンじゃない? そんなことはありません。お饅頭みたいな姿は、眺めているだけでキュンキュンします。ずーっと眺めていると、「なんでこんなもんが生えてるんだろう?」「なんでこんな模様がついているんだろう?」と、つくづく見入ってしまいます。ここでは、そんな素晴らしきトゲのないサボテンのおすすめ4種類をご紹介します。 デフューサ(翠冠玉) ぽてっとした姿に、赤ちゃんの頭みたいな綿毛を生やしたデフューサ。ロフォフォラ属(和名ではウバタマサボテン属)という種類に属していて、翠冠玉(すいかんぎょく)という和名もついています。ロフォフォラ属のサボテンは米国南西部にも自生していますが、デフューサの原産地はメキシコ中部のケレタロ州で、この地域の固有種です。 前出の動画にもあるように、ふさふさの綿毛はずっと触っていたくなるほど気持ちよく、また、ボディーを触るとまるで大福餅みたいで、思わず食べてしまいたくなるようなサボテンです。 そんな可愛いデフューサですが、属するロフォフォラサボテンの果肉には、幻覚作用のあるメスカリンという成分が含まれていて、北米先住民たちは古来よりそれを儀式などに用いているのです。なんかイメージがガラっと変わっちゃいますね。でも、日本で種から栽培された実生株にはそういう成分はほとんど含まれていないので安心してください。 ちなみに、ロフォフォラ属のサボテンは、子株がポコポコ出てくるので、そんなところも楽しいですよ! 値段も手頃で、写真のデフューサはSサイズのみかん程度の大きさで2,000円でした。 兜丸 ギリシャ語の星を意味する「アストロン」と、植物を意味する「フィートン」をミックスした造語「アストロフィツム」と名付けられたサボテンの分類があります。日本では大変古くから親しまれていて、その見た目から「有星類(ゆうせいるい)」とも呼ばれています。 中でもこの兜丸(かぶとまる・兜とも呼ばれている)は、8つの稜(りょう:サボテンのヒダ)から生えた大小の綿毛がまるで夜空を飾る星々のようで大人気の品種です。この模様、可愛いですよね! ついつい見入ってしまいます。 でもそんな見た目に反して、兜丸という名前は、戦国時代に武士がかぶる兜の、頭頂部を保護するパーツ「兜鉢」に由来しているんです。英語圏ではSea-urchin Cactus(ウニサボテン)と呼ばれていて、国や人種によって命名センスが違うのもおもしろいですね。 原産地はメキシコ北東部から米テキサス州にかけてですが、昔から多くの日本人サボテン栽培家たちが兜丸の品種改良に挑んできたため、‘スーパー兜’や’ミラクル兜’、また作出した人の名を冠した‘村主兜’など、日本独自の種類が世界中のサボテンマニアの間で珍重されています。 ちなみに、私の持つ兜丸(写真上)は、形も模様もベーシックなタイプなので、2,600円と手頃な価格のものです。でも十分可愛いでしょ? 綿毛の触り心地もポツポツしていて、いい感じですよ。 作出者名を冠したもので有名なのは、村主康瑞さんの作出した‘村主兜’。この5月にイベント「天下一植物界」会場にいた村主康瑞さんに突撃インタビューを行ってきました。日本のサボテン栽培の裏話も聞けるので、ぜひチェックしてみてください! 【天下一植物界Vol.2】美株サボテンと話題のコーデックスが奇跡の競演! 瑠璃兜 兜丸から小さい星が消え、稜線の間に大きめの星だけが規則正しく並ぶ、いわば兜丸のシンプルバージョンの瑠璃兜。サボテンというより、名前の美しさと相まって、どこか工芸作品みたいな佇まいです。兜丸だと名前からして武骨な感じですが(見た目はそうじゃないですけどね)、“瑠璃”がついただけでエレガントなサボテンに見えてしまいます。 写真は私の手持ちの瑠璃兜ですが、一年に2〜3回、中心がオレンジ色で、外に向かってだんだんと金色になっていく、とても綺麗な花を咲かせます。初めてこの花を見た時は、その美しさに思わず息を呑みました。兜丸も同様の花を咲かせるので※、星が賑やかな兜丸、もしくは、星がシンプルなこの瑠璃兜、どちらかで、この美しい花の開花にチャレンジしてみませんか? ※兜系にはピンクや薄紫の花を咲かせる種類もあります。 福禄寿 何ともおめでたい名前です。その名も、ロホセレウス属、福禄寿(ふくろくじゅ)。毛もなにもない緑色の肌はスベスベで、ずっと触っていたくなるサボテンです。アリゾナ南部とメキシコ北西部が原産で、特にメキシコ西部のバハカリフォルニアに多く自生しています。和名の福禄寿は、御利益をもたらす七福神の中の一人、福禄寿から来ています。古い絵画ですが、この福禄寿をご覧ください。まさにサボテンの福禄寿の頭と一緒でしょ? きっと初めてこのサボテンを見た人が、あやりたくそう名付けたのかも知れませんね。 ちなみに、福禄寿という名には、子宝、財産、健康長寿という三徳が込められているので、家に置いたら何とも縁起がよくなりそうですね! しかしこのサボテン、残念ながら、なかなか流通していないのです。何軒かの多肉専門店に問い合わせてみましたが、入荷するのは非常に稀とのこと。入手するには、メルカリをこまめにチェックするなど、ネットで地道に検索して探すのが一番の近道だと思います。まさにゲットできたら来福! といった感じですね。 お値段は写真の小さめ(12cmくらい)のものが3,000円程度といったところでしょうか。やはり確実なのはメルカリなのかな・・・。この記事を執筆しながら見てみましたが、SOLD OUTだらけの中、2つだけ、まだ販売中の福禄寿を確認できました。欲しい人は、見つけたら即買いがいいと思いますよ。 トゲのないサボテンの育て方・コツは根 用土 購入したものを植え替える場合は、水はけのよい土を使ってください。園芸店やAmazonなどのネットで販売している「多肉専用土」でOKですが、多肉を専門に扱う大型店などに行くと、独自にブレンドした土を「多肉用」や「サボテン用」として販売しているところもあり、おすすめです。 水やり 春から秋にかけてが成長期です。成長期は、2週間に1度、土の中ができるだけ蒸れないように、気温が下がる夕方に、鉢底穴から水が勢いよく流れ出るくらいたっぷりと与えてください。冬の休眠期は、月に1度、同様に夕刻にたっぷりと与えてください。水が鉢にたまった老廃物を押し流し、根をとりまく土の中をリフレッシュさせ、根の生長を促進することができます。 「デフューサ」や「兜」など、綿毛のあるタイプのサボテンは、水やりの際に綿毛にかからないようにしてください。映像のように、株の周りに円を描くように水をあげれば、綿毛を濡らさずに済みます。綿毛は頻繁に濡らすと固くなってしまい、一度固くなった綿毛は再びフサフサには戻らないため、フサフサの感触をキープしたい場合は、注意しながら水やりを行ってください。映像でも紹介していますが、ペットボトルにつけて使用する「じょうろアタッチメント」が100円ショップなどで売っており、これを使うと綿毛を濡らすリスクもなく水やりができて、とても便利です。 肥料 サボテンは他の植物に比べ、肥料をあまり必要としないため、成長期は月に1回程度、『ハイポネックス』などの液体肥料を少量、水で薄めて与えればOKです。使用量は、液体肥料のボトル側面に記載してあります。『ハイポネックス』の場合、2Lのペットボトル満量の水に対し、0.5mLで大丈夫です。逆に入れすぎて多肥状態にすると、サボテンは根が繊細なため、肥料焼けという症状を起こしてしまい、枯れる原因にもなります。 日照と温度管理 トゲのないサボテンは、陽射しをたっぷりと当て、高めの温度で管理すると、ふくよかで瑞々しい個体(通称わがままボディ)へと成長します。しかし、直射日光は苦手。ほんの一瞬なら大丈夫ですが、長時間直射日光に当たっていると、せっかくの美しい肌を焼いてしまうため、7〜9月は遮光ネットの使用をおすすめします。園芸用の遮光ネットがない場合は、鉢底ネットや、100円ショップで売っている洗濯ネットでも代用できます。 冬場の温度管理は、5℃を下回らないように注意してください。5℃ギリギリまで寒い外に置いておくと、翌春、デフューサは白い花を、兜はオレンジと薄黄色のグラデーションが綺麗な花を咲かせます。ただし、個体の状況によります。サボテンは、成長期の暑さと、冬の寒さをちゃんと与えてあげることで健康に育ち、美しい花を咲かせます。 風 サボテンは風にちゃんと当ててあげないと、健康に成長してくれません。風通しが悪い状態で水やりをしていると、土から水分がなかなか蒸発せずに、根が蒸れて、根腐れの原因にもなってしまいます。夏場はそのリスクが高まります。また、無風状態はサボテンの美しい表皮にカイガラムシが付着する原因にもなります。カイガラムシは、一度ついちゃうと取るのに苦労するので厄介なんです。 サボテンにとって一番よいのは、外で遮光しつつ、めいっぱい風を感じさせながら育てることです。住環境でそれが無理な場合は、サーキュレーター(送風機)で部屋の空気を循環させるなど、少しでも自然環境に近い状況を作ってあげると、サボテンは喜びますよ。 おわりに いかがです? トゲのないサボテン、欲しくなりましたか? ここでご紹介した「デフューサ」も「兜」も、実際に現物を見ると、とても可愛いんです! お部屋にお迎えすると、雰囲気がとても和みますよ。 疲れて帰った時などは、ふと目をやると、「おかえり! お疲れ様!」って言ってくれているようなんです(笑)。トゲトゲなサボテンだと、これが「元気出せよ! 明日も尖っていこうぜ!」という声が聞こえてくるのですが、とげのないサボテンは、あのまん丸が優しく包みこんでくれて、叶うなら小さくなってあの中で眠りたいと思ってしまいます。 育てる楽しみだけでなく、一緒にいるだけでちょっと優しい気持ちになれるトゲのないサボテンを、ぜひ育ててみませんか? Credit 文/編集部員K フリーランスのロックフォトグラファーを経て2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。サボテンに魅せられて以来5年、これぞ天職! と、精力的に取材、執筆を行う。好きなサボテンはゲオヒントニア・メキシカーナとサワロ(弁慶柱) 写真/JOHN CHEESEBURGER & 編集部 スーパー兜/finchfocus_shutterstock.com 福禄寿/wikipedia.org
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多肉・サボテン
話題の塊根植物「パキポディウム」その魅力を徹底解説!【多肉植物狂い vol.02】
パキポディウムとは 皆さんはコーデックス(塊根植物)という言葉を聞いたことがありますか? 根や茎に多量の水分を含む多肉系で、ひと目見たら忘れられない珍妙な形をした植物です。ひと昔前だったら一部愛好家の間でしか話題にならなかったようなコーデックス。それが今、幅広い世代でブームとなっています。そんなコーデックス人気の牽引役を担っているのが、パキポディウム。今回の多肉狂いvol.2では、そんなパキポディウムの育て方や歴史などを、隅から隅までご紹介していきたいと思います。 ちなみに、インスタグラムで「#コーデックス」とハッシュタグ検索すると、その投稿数はなんと35.7 万件! 「#パキポディウム」だけでも24.4万件の投稿があり、いかにコーデックス人気の中でもパキポディウムが群を抜いているかがうかがえます。 パキポディウムは、キョウチクトウ(夾竹桃)科に属する植物で、マダガスカルを中心に、南アフリカ、ナミビア、アンゴラといった、アフリカ大陸南部にまで分布しています。キョウチクトウは大気汚染に強いため、日本国内では幹線道路沿いの街路樹にも使われるほど環境順応性が高いタフな植物。したがってそこに属するパキポディウムも同様で、いかにタフかは、その形が証明しています。 原産地(特にマダガスカル)は日本とは季節が反対の南半球に位置するため、5~10月が冬にあたる乾季となり、この期間はほとんど雨は降りません。また、気温もしばしば10℃を下回ります。そして11~4月が夏にあたる雨季となり、この時期に年間降水量のほとんどが降ります。雨季の気温は日本の夏のように猛暑となることはなく温暖な気候です。 しかし、この地図でも分かるように、マダガスカルは日本と同じく周囲を海で囲まれた島国。このため、熱帯低気圧がやってくると激しい風雨に晒されます。そんな飴と鞭の環境に順応するために、パキポディウムは長い年月をかけて茎を肥大化させて、自らを貯水タンクにして、あの独特な形へと進化を遂げました。 ゆえに、パキポディウムという名もギリシャ語の「パキスポドス(太い足)」に由来しています。ちなみに、トゲにもちゃんと意味があり、鳥や獣などの外敵から身を守り、雨水や空気中の水分の取り込みを助けるという2つの機能を果たします。いやいや、植物の進化って凄いですね! その進化も、地球の未来が長いものと考えれば、まだまだ途中に過ぎないのかもしれませんね。 輸入株と実生株 パキポディウムには原産地の南アフリカやマダガスカル諸島から輸入された「輸入株」と、輸入された株から種子を採取し、国内で発芽、栽培、採種を何世代にも渡り繰り返してきた「実生株(みしょうかぶ)」の2種類があり、両者にはいくつかの明確な違いがあります。パキポディウムの人気品種グラキリスを例にとってみてみましょう。 【輸入株】 値段:高価(数万円〜十数万円) 日本の法律では発根した株を輸入できないため、原産地マダガスカルで掘り起こし、根を切った状態の株(ベアルート株)を業者が輸入し、業者から仕入れた園芸店が発根管理し、発根を確認してから販売するのが一般的。そうして発根させた株は数万円するのが普通で、オークションなどの個人間取引を使ってベアルート株を安価に購入することも可能。しかしこの場合、発根させるための知識と手腕も問われ、また個体によっては発根しない可能性もあるため、投機性も高い。現在は円安とブームという2つの要因から価格も高止まりしているが、園芸関係者の話だと、この先まだまだ高値を更新していくとの見方もある。 フォルム:現地の自然環境に順応すべく進化したフォルムは珍妙にして雄々しく、また味わい深い。 栽培難易度:「中級」 原産地の自然環境同様に、成長期の夏は存分に太陽に当て、風雨にも晒すなど、あまり神経質にならずに屋外でワイルドに育てると、ボディも硬く、よい株に育つ傾向にある。ただし、日本の夏は多湿のため、雨が続くような時は屋内に取り込んだほうが無難である。冬も原産地では氷点下になることがないため、栽培環境が13~14℃を下回らないよう注意することが必要。未発根で購入した株も、発根さえすればタフに育ってくれる。 醍醐味:なんといってもその独特のフォルム。自然の為せる業とはいえ、子どものお腹のようなフォルムには愛嬌を感じずにはいられない。※決して中年おやじのお腹とダブらせてはいけない。 【実生株】 値段:安価(数千円〜1万円台前半) フォルム:輸入株と比べると、写真の通り同一の植物とは思えないほど異なるフォルムをしている。言ってみれば、輸入株が海外からの転校生なのに対し、実生株は日本で生まれ育ち、日本の教育(栽培)に順応した在校生なので、差が出るのも当然といえば当然だが、実生株も室内で甘やかさずに、屋外で放任気味に育ててやれば、ツルツルまん丸な転校生に対し、無骨ながらも国産にしか出せない、とんがった魅力たっぷりの株に育ってくれる。 栽培難易度:「初級」 国内の気候に順応しているため、シーズンごとの基本的な管理方法さえ覚えておけば、初心者でも容易に育てることができる。 醍醐味:いかに輸入株のような肥満な個体に育てることができるかだが、その道程は決して厳しいものではなく、むしろかなり楽しい。また、種子から育てると、我が子のごとく愛着が湧く。 パキポディウムは、輸入株、実生株共に花が咲きます。そしてその花で自家受粉が可能なため、自分で種子から増やして楽しむこともできるんです! 自家受粉とは、受粉に他の個体を必要とせず、同一個体内で受粉できることを指します。やり方は簡単なのですが、私もまだやったことがないので、行う際にレポート記事にする予定。これからチャレンジする人は一緒に自家受粉を体験しましょう! パキポディウムはどこで買えるの? パキポディウムは、一般的なお花屋さんではほとんど取り扱っていません。大型園芸店や、多肉植物専門店、生産者や小売業者のWebサイト、ヤフオクやメルカリなどの個人間取引などで購入することができます。 しかし、偶然立ち寄った街のお花屋さんで、パキポディウム・ラメレイが売られていたことがありました。聞いたところ、ラメレイの流通は大変多いので、仕入れるのも容易とのこと。ラメレイに限らず、欲しいパキポディウムがある場合は、品種を決めておいて、最寄りの園芸店でそれが取り寄せられるかどうかを一度問い合わせてみるのも手だと思います。 パキポディウムの種類 憧れのグラキリス パキポディウムのアイコン的存在にもなっているグラキリス。マダガスカルの南西部にある、“マダガスカルのグランドキャニオン"とも呼ばれるイサロ国立公園を中心に分布しています。「象牙宮」という和名を持ち、日本ではかなり古くから親しまれている種類です。グラキリスの魅力といえば、ぷっくりと肥えたボディ。ジブリアニメの某キャラを彷彿とさせ、誰もがその形に魅了され、とても愛着が湧きます。しかしそのボディ、前述の「輸入株と実生株」のところでも説明したように、輸入株と実生株とでは見た目がかなり異なります。実生株のボディは輸入株ほど太っておらず、また、表面がなめらかな輸入株に対し、実生株はサボテンのようにトゲに覆われています。 フォルムの好き嫌いが分かれるにしても、決定的に両者を分けているのが価格。輸入株は2〜3万円するのが当たり前で、昨今のブームや円安の影響もあり、さらに上昇気味です。これに対して実生株は、小さいものだと2〜3千円、実生3年でそこそこ形が仕上がっているものでも5〜8千円と、ほとんどの場合1万円以下で入手可能です。グラキリスは、輸入株・実生株ともに、梅雨時や酷暑、厳冬期の基本的な管理方法さえ勉強すれば、パキポディウム初心者でも比較的容易に育てることができます。 入手も容易なラメレイ 全身をビッシリと長いトゲに覆われたラメレイは、パキポディウムの中では最も入門に適した種類。なぜなら、丈夫で成長も早く、入手も容易だからです。多肉植物専門店以外にも、街の園芸店でラメリーという呼び方で販売されていることも多く、価格も2千円前後と、大変リーズナブルです。実際に私も近所の園芸店でたまたま販売しているのを見つけ、幹も太く、元気旺盛な個体を1,600円で購入しました。 ラメレイは他のパキポディウム同様、マダガスカルが故郷で、自生しているマダガスカル南部では5〜6mにもなる大きな株が、まるで椰子の木のように頭頂部で大きく葉を広げています。その見た目から「マダガスカルパーム」と呼ばれることもあります。冬がある日本ではそこまで大きくなることはまずありませんが、とにかくタフなので、その強さを活かして他の種の台木として使われることもあります。 名前からしておめでたいブレビカウレ(恵比寿笑い) お饅頭が飾りをつけたみたいな形が可愛いブレビカウレは、その姿にぴったりな「恵比寿笑い」というおめでたい和名でも親しまれているパキポディウム。昭和30年代にはすでに日本に輸入されていて、その時からこの和名で呼ばれていました。 こちらもマダガスカル原産ですが、他のパキポディウムに比べ標高が高い場所に自生している“高山性パキポディウム"という、ちょっと変わった種類です。石場が多いところに根を這わして自生しているためか、根はとてもデリケートで、高価な輸入株を手に入れた場合、湿度の高い日本では、蒸れによる根腐れに注意して育てる必要があります。万一根腐れを起こした場合、そこを切り取って前出のラメレイに接木するという人も多いようです。 対して実生株は、日本の気候に順応しているため、湿度にも強く、とても育てやすいです。ただし、グラキリス同様、輸入株と実生株ではフォルムにもかなり違いがあります。私個人的には、前衛芸術作品のような個性的なフォルムが魅力の輸入株より、お饅頭みたいな実生株のほうが可愛げがあって好きですね。そんな私が育てている実生株が、春先に黄色い花を咲かせまして、これがまたとても愛おしくて、花ごと食べちゃいたくなりまし(笑)。 ※毒性があるので食べてはいけません。 ちなみに、このブレビカウレ(恵比寿笑い)とデンシフローラムという種類とを交配して作り出されたハイブリッド種デンシカウレ(恵比寿大黒)というのもあり、ノペッと横に広がっていく恵比寿笑いに対し、デンシカウレ(恵比寿大黒)は上に成長していきます。両方とも可愛いですが、これは好みですね。 価格は、小さいものだとブレビカウレ(恵比寿笑い)もデンシカウレ(恵比寿大黒)も数千円で買うことができますが、後者のほうが高価にはなります。 撮影協力:ヨネヤマプランテイション本店URL:http://thegarden-y.jp/shop/ypt.htmlInstagram:https://www.instagram.com/thegarden_honten/神奈川県横浜市港北区新羽町2582TEL 045-541-4187 コーデックスの品揃えの豊富さは見事! 人気店のため、目当ての商品が売り切れの場合もあり、事前に在庫の有無を確認することをおすすめします。 世界最大級のパキポ、ルテンベルギアナム(鬼に金棒) 自生地マダガスカルでは国土の広範囲に分布するルテンベルギアナム。名前の由来は、マダガスカルで27歳という若さで非業の死を遂げたドイツのプラントハンター「クリスチャン・ルーテンベルク」に因みます。と、せっかく著名な探検家のかっこいい名前がついているのに、和名がなんと「鬼に金棒」。しかし、小さめのトゲをまといながら上に棒のようにただひたすら伸びていく姿は、まさに鬼の金棒そのものです。そんな金棒も、自生地マダガスカルでは10mにも届くかというほどまで成長し、「世界最大級のパキポディウム」と称されるほど、巨大になります。 実生株も大変成長が早く、冬がある日本では自生地ほど巨大にはならないものの、うまく育てられれば2〜3mはいってくれます。こう聞くと、興味をそそられますよね? しかし残念ながら、細葉を規則正しく出しながら、ただただ上に大きく伸びていくその成長過程がシンプルすぎて面白くないからか、はたまた、成長の早さゆえに幼苗期を長く楽しめないからか、パキポディウムの中では不人気ぶりもナンバーワンの種類なのです。故に流通量も少なく、希少な割には3〜4千円で買えることもあり、もしかしたら今狙い目のパキポディウムかもしれないので、あえてここでご紹介します。というか、私自身、「ルテンベルギアナム」が好きだから(笑)。自分で育ててみると分かりますが、他の追随を許さない成長の早さは、とても気持ちいいですし、幹の成長痕がみるみるうちに木質化していく様子は、結構クセになります。 私は今、このルテンベルギアナムの実生にもチャレンジしているので、その様子はいずれご報告いたします。ルテンベルギアナム、個人的に超おすすめです。 白銀の肌と薄紫の輪郭を帯びた白花が美しいサンデルシー サンデルシー(サウンデルシー)は、パキポディウムの宝庫、マダガスカルから海を隔てた南西に位置するアフリカ大陸最南の国、南アフリカ共和国が原産のパキポディウム。白銀色に輝くすべすべした表皮の肌触りはとても上品で、ちょっとカールした葉の間から覗く、細長く鋭いトゲが特徴。見た目のイメージ通り、「白馬城」という和名がついています。中世ヨーロッパのお城を彷彿させるようなエレガントさと、そのお城を槍隊が守っているような勇ましさを兼ね備えた、大変美しいパキポディウムです。ちょっと紫に縁取られた白い花を咲かせるのですが、これがまた美しいのです。 サンデルシーの自生地の南アフリカは、マダガスカルよりも気温が低いため、寒さにも強く、雨ざらしでもグングン育ち、初心者でも育てやすいタフさも魅力。この花も雨ざらしで放っておいて、知らないうちに咲きました。 じつは、サボテン専門だった私が初めて興味を持ち、手に入れたパキポディウムが、このサンデルシーでした。当時はコーデックスの実態をあまり知らなかったのですが、店主から「これ育て始めたらサボテンに戻れないかも…」と意味深なことを言われ、ならば挑戦してサボテン愛を再確認しようじゃないか! と、購入したのが2年前。サンデルシーが私のパキポディウム世界への呼び水となりました。 店主の言う通りに、直射日光をガンガン当て、水やりは毎日夕方にジャンジャンあげて育てていますが、そんなのサボテンでは考えられません(サボテンのケアはもっとデリケート)。でも、パキポディウムはご覧のように、たくましく育っています。 お値段はお手頃な3〜4千円くらいです。輸入株はそうはいかないですが。 パキポディウムでは珍しい赤い花を咲かせるウィンゾリー その情熱の赤い花見たさに、世のパキポディウムファンから羨望の眼差しを浴びるウィンゾリー。パキポディウムの多くは白か黄色の花を咲かせますが、マダガスカル最北部に位置するアンツィラナナ州を中心に分布するバロニーと、ここでご紹介するウィンゾリーの2種だけは、情熱的な赤い花を咲かせます。 ウィンゾリーはバロニーの変異種。アンツィラナナ州と、南西に下ったマジュンガ州との州境付近にある、過去の戦争で使われたウインザー砦付近に自生するバロニーのうち、幹が特に肥大化するタイプのもののみ、採取地のウインザー砦に因んでウィンゾリーと名付けられました。 そんな希少性もあってか、現地では盗掘が相次ぎ、その結果、後述するワシントン条約でも最高位のCITES Ⅰに分類され、特例を除き一切の輸出入および取り引きが禁止されています。お店やネットなどで輸入株と称されるものがどのような経緯で入ってきたのかは不明ですが、現在一般に入手可能なものの多くは実生株で、しかも流通量はごく僅か。そのため、手に入ったらラッキーと思って、幸運の赤花が咲くまで大切に育ててほしいです。 基本種のバロニーに比べると全体的に小ぶりの品種なのですが、小さいうちからぷっくりと太って、熱燗を飲る時の徳利のような姿にはとても愛嬌を感じます。また、開花率もバロニーより高いため、その情熱の赤い花見たさに、世のパキポディウムファンを熱狂させてもいる品種です。入手のしにくさもあってか、価格は実生3年ほどの株で大体1万5千円前後から。 私の育てているこの実生4年目の株も、購入時は実生1年未満で1万5千円でした。でも、開花はまだ当分先かな・・・。ちなみに、基本種のバロニーは今、種から育てているんですが、なんと昨日! 発芽しました。記事の公開に合わせてくれたのか、出たがりな子だ(笑)。そちらのレポートも、いずれしますね。 【そしてこの記事公開から8ヶ月目のバロニー】 種は5つ蒔き、そのうち3つが発芽し無事成長中!一番大きい子(写真)は高さ9cmになり、顔つきも"らしく"なってきました。 パキポディウムの育て方 用土 水はけのよいものを使用します。ホームセンターなどで入手できる多肉植物栽培用の用土を買えば問題ありません。 水やり 映像はグラキリスの水やり風景ですが、水を浴びた瞬間、銀色の肌が緑色に変化する様子がクセになります! その水やりですが、春〜夏は成長期にあたるため、夕刻以降に映像のようにたっぷりと与えてください。但しこれは屋外の雨ざらしの環境で栽培している場合であり、室内栽培など、状況によっては間隔を変える必要があります。水やりのタイミングを見極める上で役立つのが竹串。株と鉢の縁の中間地点あたりで土に竹串を深めに刺して、抜いた時に先端から柄にかけて湿った土がついていれば、まだ水のやり時ではありません。この場合、1〜2日待ってから再度竹串を刺し、土の中が乾いたことを確認してから水をやりましょう。 秋から初冬にかけては冬に備えて根の給水性能を徐々に落としてくるため、土の中の状況をさらに繊細に確認しながら水やりを行います。 冬は完全に水断ちして休眠させるのが一般的ですが、根は生きているので、たまに霧吹きで用土表面を湿らせる程度の水を与え、3月中旬あたりから徐々に水をやり始めましょう。 日照 パキポディウムは、春から夏にかけて旺盛に成長するため、この時期の日光が大好き。翌年も元気な株にするためには太陽光は必須。外栽培・室内栽培を問わず、太陽光を存分に当ててください。ただし、ずっと室内で栽培していたものをいきなり直射日光下に置くと葉焼けを起こしてしまう可能性が高いので、この場合は徐々に太陽に当てるようにしましょう。どうしても日照が確保できない場合は、植物育成ライトを活用してみるのも手です。 外栽培の場合も、冬場は室内に取り込むことになるので、植物育成ライトの活用はおすすめです。 風 パキポディウムは、自生地でかなりの風雨に曝されながらタフに育っています。これはパキポディウムに限らず、植物栽培全般にいえることですが、元来自然のものなので、自然の状況に近い環境を作ってあげることで、株は健康に育っていきます。そういった意味では、室内の無風の状態というのは彼らにとって不自然な環境なので、室内で栽培する場合は、空気を循環させるためにも、サーキュレーターの使用を強く推奨します。 肥料 市販の多肉栽培用土を使っている場合、元肥は含まれているので、特に与えなくても大丈夫ですが、春から夏の成長期には、月2回程度なら、ハイポネックスなどの液肥を薄く与えてもよいと思います。ただし、与えすぎはトラブルのもとなので、注意してください。自分で土を作り込む場合は、植え替えの時にマグアンプKを元肥で混ぜ込むようにします。夏場はメネデールなどの活力剤を2週間に1回程度与えると元気に育ちます。 植え替え 一部の品種を除き、パキポディウムは基本的に成長が早いです。鉢底から根がちらほら見えるようになったら、一回り大きい鉢に植え替えると、より株の成長を促進します。あまり大きな鉢にしてしまうと、土中の水分が蒸発するのに時間がかかり、根腐れの原因となります。 発根 未発根のベアルート株などを入手し、発根を促したい場合は、入手した株の、親株から切り離した切り口(そこだけ不自然なのですぐに分かります)部分に発根促進剤『ルートン』を塗布し、放置します。それに加え、念を押したい場合は、希釈したメネデール液を、たまに霧吹きで吹きかけてあげると、さらに効果があるかもしれません。ただし、前述の通り、ベアルート株は絶対に発根することが保証されているわけではないので、根気勝負となるでしょう。“根”なだけに。 また、根腐れや病気などのトラブルがあった場合は、患部を切り落とし、発根を促しますが、その際も上記と同様の発根方法を取ります。切断に使うカッターの事前消毒は、くれぐれも忘れないように。 冬越しにチャレンジしよう 夏は放っておいても元気に成長するパキポディウムですが、冬の管理「冬越し」は神経を使うところ。というのも、冬越しに失敗してそのまま枯れてしまう、なんてことが結構多いのです。ちなみに、夏型のパキポディウムは、本格的な冬に入る前に葉が紅葉し、最終的には全ての葉を落として休眠状態に入ります。パキポディウムを初めて栽培する人の中には、これを枯れたと勘違いする人が多いのです。植物が休眠状態に入ることは、ライフサイクルを持つ生き物としてはごく普通のこと。銀杏や楓の葉も紅葉し、やがて冬を迎えると落葉し、枯れ木のようになりますよね。葉がなくなれば、そこから水分が蒸発することもないので、見た目は枯れ木みたいでも、根や幹が蓄えた最低限の水分だけで生きていけるのです。冬の休眠は、植物が次のシーズンにさらなる成長をするための大切な体力温存期間。パキポディウムも同様で、彼らを健康に成長させるためにも、このライフサイクルを与えることは重要です。 そこで試練となるのが冬の水断ち。初心者にとっては、手ずから枯らしてしまうんじゃないかと怖くなる人も多いでしょう。でも怖がらずに、水を断ち、冬の寒さを与え、見守ってください。そして、次のシーズンを生き抜くスタミナを養ってあげましょう。 ただし、休眠中とはいえ、生きているので、たまに(週1くらい)霧吹きを2〜3回して、土の表面を若干湿らせてください。また、寒さを経験させるといっても、さすがに氷点下になると枯れる恐れがあるため、冬の温度管理の目安としては、13〜14℃は下回らないようにしましょう。 パキポディウムはサボテン好きにもおすすめ! 同じ多肉でも、サボテンを育てている人は、水やりを学ぶのに結構時間をかけた(かけている)のではないでしょうか? 鰻店修行の「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」のように、明確な年数はありませんが、サボテン栽培には失敗を繰り返しながら学ばなければいけないノウハウがいくつもあります。 対して、パキポディウム栽培は、懇意にしている園芸店店主が「サボテンの苦労が馬鹿馬鹿しく思えるくらい育てやすい」と言うくらい、初心者を大歓迎してくれます。多肉界の双璧ともいえる両者、は同じ「トゲモノ」。サボテン好きはパキポディウムも好き、パキポディウム好きはサボテンも好き、ならば一緒に育てちゃいましょう! 私もそうですが、まるでウサギとカメを育てているようで、なかなか面白いですよ! パキポディウムは、サボテン好きには特におすすめしたい植物です。 SNSに投稿しよう! パキポディウムの上手な写真の撮り方 「写真はね、ハートが感じたまま撮ればいいんだよ」と高名な米国人フォトグラファーは言いますが、そういうわけにもいかないので、不肖ながらカメラマン経験のある私が説明させていただきます。写真には「日の丸構図」というものがあり、これは文字通り、被写体を構図の中心に置くことで、日本国旗のような配置になり、ダサい構図、と、されています。もちろん、あえて構図としてそうする人も大勢いますが。 では、どうすればCoolなカットを撮ることができるか、答えは簡単、日の丸構図を避け、被写体のパキポディウムを中心からずらせばいいだけです。これはインスタにアップする際に、いろんなところで使える技、って技ってほどでもないか... でもどうです? グラキリスに、なんかLIVE感が加わって、空を見ているように見えませんか? あと、全体像を撮るより、引き算するっていう感覚で、品種の特徴的なところを切り取ったほうが、ドラマチックな写真が撮れます。下の写真の場合、輸入株グラキリスのアイコンといえばやはり、まん丸なわがままボディーなので、それをドアップにすることにより、「我ここにあり!」といった存在感がアピールできます。 話しかけながら撮る 相手は植物といえど、立派な生き物です。心を通わせなければいい写真は撮れません。その都度、話しかけましょう。きっといい表情を見せてくれますよ。 パキポディウム豆知識 ペットを室内飼いしている場合は十分に注意を! パキポディウムが属するキョウチクトウ科の植物には強心配糖体(cardiac glycoside)という毒性がある、という検証結果が「AMERICAN JOURNAL OF BOTANY」という米国の植物系学術誌に記載されています。強心配糖体とは、人間にとっては心不全の薬にも用いられる成分ですが、犬や猫にとっては毒であり、特に猫に関しては死に直結する猛毒であることが分かっています。同様の成分がパキポディウムにも含まれるため、ペットがいるご家庭でパキポディウムを栽培する場合は、ペットが触れることができない場所に置くなどの注意が必要です。 特に猫は、ちょっと珍しいものが自分の縄張りに入ってくると、必ず匂いなどを確かめに行く習性があります。匂いを嗅ぐだけならいいのですが、パキポディウムの葉を好物の猫草と思ってかじってしまう場合もあるんです。大切なペットがパキポディウムの葉なり茎なりを口にした場合、嘔吐や下痢、呼吸が早い、息が荒い、食欲不振などの症状を起こすことがあります。もしこれらの症状を見せた場合は、原因の一つとしてパキポディウムを考え、速やかに動物病院に連れて行ってください。夜間であっても早急に夜間診療を行っている動物病院に連れていくことをおすすめします。 知らないとは恐ろしいもので、我が家も猫を飼っていて、冬季はパキポディウムたちを室内に取り込むため、これを園芸店の店頭で聞いたときには全身から血の気が引きました。対策として、IKEAで植物用のアクリルガラスケースを購入し、猫が触らないよう、そこで冬場の管理をするようにしています。 飲めるの!? 食べられるの!? 飲むなー! 食うなー! とふた言で済むのですが、一応ご説明しますね。 前述の「AMERICAN JOURNAL OF BOTANY」誌の中に、パキポディウムの毒性について、21の既知のパキポディウム種のうち16種を育てて検証を行った結果、背が高い品種ほど毒性が高い、という記載があります。背が高いというと、ルテンベルギアナムはまず毒性が高いということが予想されます。このほか、ラメレイやサンデルシーも自生地では背が高くなるので、これらも同様でしょう。このように、パキポディウムはその多くが強い毒性を持つ植物なので、茎を食べたり、抽出した液を飲んだりは決してしないでください。特に小さなお子様のいるご家庭では要注意です。万一口にしてしまった場合は直ちに病院へ。また、茎や葉から出た液体が手などについた場合は、かぶれる恐れもあるため、石鹸などでしっかりと洗い流してください。ちなみに、学術誌の検証は現地球(輸入株)を用いたものですが、どこかの研究機関が“実生株は安全だ”という検証結果を出さない限り、実生株も毒性は同様のものと考えておいたほうが無難かもしれません。 ワシントン条約で護られているパキポディウム ワシントン条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)、略して CITES(サイテス)とも呼ばれますが、この条約は、絶滅の危機に瀕した動植物を乱獲や密猟から国際的に保護し、種の保全を図るために1973年(昭和48年)に米国ワシントンで採択された条約で、日本も1980年(昭和55年)から発効しています。 【ワシントン条約は下記3つのカテゴリーに分かれています】 CITES Ⅰ 絶滅の可能性が極めて高く、商業目的のための国際取引は原則禁止。但し、輸出側・輸入側双方の政府が発行する許可証があれば、学術的な目的での取引は可能。 CITES Ⅱ 現時点で絶滅の可能性はないものの、厳重に取引を規制しなければ、いずれ絶滅に至る。輸出側政府の発行する輸出許可書があれば、商業目的の国際取引は可能。 CITES Ⅲ 締約している国が種を国内保護するために、他の締約国の協力が必要。当該国政府の発行する輸出許可書があれば商業目的の国際取引は可能。但し原産地が当該国以外の種を輸出する場合には原産地証明が必要。 パキポディウムは全種がCITES Ⅱ以上(バロニーとウィンゾリーはCITES Ⅰ)に指定されているため、条約に違反した取引を行うと罰せられます。知らなかった、は通用せず、日本国内でワシントン条約に違反した取引には「種の保存法」が適用され、植物の没収と多額の罰金、最悪の場合は懲役刑が科されます。 輸入株なら分かるけれど、さすがに国内で種子から育てられた実生株にはワシントン条約は適用されないのではと思い、管轄する経産省に問い合わせをしてみました。担当者によると、国内実生株も海外に輸出する際には、CITES Ⅱ扱いとなり、正規のルートで海外に出すにはとても煩雑な手続きが必要となるとのこと。滅多にいないと思いますが、実生株を輸出する場合はご注意ください。 では、これらのことから、大型の園芸店で販売されている輸入株ってどうなの? メルカリなどで売られている輸入株はどうなの? と思いますよね。信頼できるまともな園芸店さんはちゃんと必要な手続きを取って販売しているので、安心して購入できます。個人間取引の場合はトレーサビリティーが確立されていない以上、下手をしたら密輸されたものを購入してしまう可能性もあるため、出品者をよく見極める必要があります。 パキポディウムは、レアプランツやビザールプランツ(珍奇植物)として人気を博していますが、国際的に保護されているような植物を趣味にする以上、私たち購入者も、特に輸入株を求める際は、個人で大量に輸入しているなど、怪しげなところからは購入しないように心がける必要があると思います。 おわりに いかがでしたか? 多肉狂い第2弾は、今人気のパキポディウムを、これでもか! というくらい特集してみました。すでにパキポディウムを育てている人はその魅力の再認識を、今まであまり興味がなかった人にはこの記事がきっかけとなり、パキポディウムの楽しさを味わっていただけたら嬉しいです。 パキポディウムは今、女性たちからも熱い視線を浴びていて、Instagramでは「パキポ女子」なるハッシュタグも飛び交っています。この人気がいつまで続くのかは不明ですが、成長過程をいろんな顔で楽しませてくれるパキポディウムは、共に過ごすことで人生の価値も豊かにしてくれる、じつはブームに関係なく最高な植物なのです。ぜひゲットしてみてください。 Credit 文/編集部員Kフリーランスのロックフォトグラファーを経て2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。以来、精力的に取材、執筆を行う。飼い猫ここちゃん(黒猫4歳ex♂)に翻弄されっぱなしの日々。 写真/JOHN CHEESEBURGER & 編集部キョウチクトウ写真/Mr.Somchai Sukkasem_shutterstock.comマダガスカル自生地写真/Monika Hrdinova_shutterstock.com
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【天下一植物界Vol.3】ビカクシダに食虫植物、自然の奇跡が生んだその魅力に迫ります!
ビカクシダと食虫植物のブースを訪問する前に軽く予習 ビカクシダとは 園芸店によっては「コウモリラン」という名でも売られていますが、ランではなく、その名の通りシダの仲間で、主にインドネシアや太平洋の島々など、熱帯の環境下で、木の幹に着生しながら生息しています。観葉植物としての楽しみ方は、鉢植えで育てることも可能ですが、最も人気なのは、樹上に着生している姿に似せた「板付け」。水苔に植え付け、それを釘やヒモを使って土台となる板(主にコルク)にしっかりと固定する着生植物特有の栽培方法です。シダ類は直射日光が苦手なので、室内で育てる観葉植物としても最適。多くの人が壁に掛けたり吊したりして、室内でビカクシダ栽培を楽しんでいます。 ビカクシダは、和名・学名ともに鹿の角という意味を含んでおり、葉が大ぶりのものを1株飾れば、その名のごとく鹿角のオブジェを飾ったかのようにお部屋がゴージャスに見える効果があり、小ぶりのものでも、ちょっと奇怪で可愛い感じがお部屋をオシャレに魅せる…このように、とてもインテリア性に富んだ観葉植物です。 手間をかけ、自分流に株を育て上げていく、そんなところも人気なのかもしれませんね。インスタグラムでもハッシュタグで検索すると28万件以上ヒットし、亜熱帯感がひしひしと伝わるものや、スタイリッシュな“映え”を意識したものなど、素敵な写真が目白押し! ビカクシダ初心者の私にとっては、この天下一植物界でどんな出会いがあるのかワクワクします。 食虫植物とは 食虫植物というと、奇々怪々な形をした植物が虫を捕らえ、それを栄養分にして生きている、何やらちょっとホラーな姿を想像してしまいますが、実際は少し違っていて、決して虫だけを糧に生きているわけではなく、他の植物同様、ちゃんと光合成をしながら成長していく能力も備わっています。蝶番みたいなところで虫を捕らえるハエトリソウ(写真)や、消化液の入った壺のような場所に虫を誘い、落下したところをじわりじわりと溶かしていくウツボカズラなどが有名ですね。 種類にもよりますが、奇怪な見た目に反して栽培方法は簡単な品種が多いため、最近はホームセンターの園芸コーナーなどでもよく見られるようになりました。 とはいえ、どこか謎めいた存在であることは確か。私も食虫植物というと前述の2種類しか知らないため、今回の天下一植物界でどんな出会いがあるのか、とても楽しみです。おそらくそこには、自分の想像を上回る異色な世界が広がっている予感が...。 ビカクシダブース【vandaka plants】を訪ねる 『vandaka plants』とは グリーンとインテリアアート2つの融合体ともいえるビカクシダ。熱狂的な愛好家も多く、コロナ禍のおうち時間効果も加わり、ここ2〜3年で幅広い層に爆発的に人気が広がりました。そんなムーブメントの牽引役も担っているのが、全国のビカクシダマニアから熱い信頼を寄せられている専門店『vandaka plants』。京都のショップですが、東京にもショップを兼ねたギャラリーを構えていて、東西の拠点から全国に向け、ビカクシダの魅力を発信しています。植物を愛し、旅を愛する代表の高橋宏治さんが手がける『vandaka plants』のエキゾチックな天下一植物界ブースを訪ねました。 ブースのビジュアル的なインパクトに魅せられる サボテンマニアの私が、この天下一植物界でまず最初に向かったブース、じつは多肉ブースではなく、ビカクシダ専門店の『vandaka plants』のブースでした。なんていうのかな、あの謎めいた葉っぱに呼び寄せられたというか、引力を感じたのです。自宅近所の園芸店で、コウモリランの商品名で売られているビカクシダは幾度となく見たことがありますが、ここにあるものは、町の園芸店のそれとはまったく別物です。私が知っているそれは、苔玉に植えられて、ワイヤーのようなもので吊されたものだったのですが、『vandaka plants』のブースにあるものはほとんどが前述の「板付け」というスタイルで飾られていて、ブース全体のビジュアル的なインパクトにかなりやられました。見る人を取り囲むように飾られたビカクシダを眺めていると、まだ行ったことのない亜熱帯のジャングルとはこういう感じなのだろうな、と想像を掻き立てられます。 胞子のガチャ。この中にあるのがビカクシダの素、ってこと? でも、こんなギミックすらもオシャレでカッコよく見えてしまいます。 板や木片が無造作に置いてありますが、これは株を着生させるためのコルクの板。たかだか木片なのですが、ここに雄々しいビカクシダが着生し、それが拙宅のリビングに飾られている様を思い浮かべると、その部屋にいる自分がディーン・フジオカにでもなったかのような・・・そんな妄想が無限に広がります。いやホント、帰りが飛行機でなかったら完全に買っていました。 『vandaka plants』代表の高橋宏治さんにお話を伺いました 多種多様な品種をしっかりと作り込んでいるのがうちの持ち味 K:本日はよろしくお願いします。まずさっそくですが、今回天下一植物界に出展した経緯を教えていただけますか? 高橋(以下T):第1回の時より出展させていただいておりまして、コロナによるイベント中止が続いて、今回が3年ぶり2回目の出展となりました。中止になってしまった第2回目の企画段階から、こちらの会場の屋上部分を、世界のさまざまな植物を取り扱っている『花宇宙』さんと占領して、面白い展示をしたいと計画していました。それが今回実現できて、大変嬉しく思っています。 K:それにしても、ビカクシダって、思いのほか見事な、というか、ダイナミックなものなのですね。私はビカクシダ初心者なので、知らないことだらけなのですが、ビカクシダの値段の幅って、どんなところで決まるのでしょうか? T:希少性と大きさ、また管理期間の長さといったところですね。 K:やっぱり大きければ大きいほど高価になる感じですか? T:そうですね。ただ、品種によっては小型のものもあるんで、逆にそれが希少性が高かったりして、価格も大きなものを凌駕することがあります。 K:ビカクシダの栽培法についてですが、鬱蒼とした熱帯ジャングルにいるイメージなので、燦々と降り注ぐ直射日光はやはり苦手な植物なのですか? T:そうですね。このブースがそうであるように、直射日光は避けたほうがいいです。インスタグラムでもよく見られるように、「アマテラス」に代表されるような植物育成ライトだけでも育つといえば育つのですが、室内栽培で健康に美しく育てるには、やはり風が必要なんですね。本来、屋外で生育している植物ですから、風に当てて、明るく、でも直射日光は当たらない、そんな環境がいいですね。 K:ここに木の皮がありますが、これに植え付ける感じなのですね? T:これはコルクの木の表皮でして、これに、土の代わりに水苔をつけて植え付けます。なので、一般的な植物が土が古くなったら植え替えを行うように、水苔が古くなったらまた新しい水苔に替えて、新しい木の土台に植え替える必要があります。 K:なるほど、植木鉢への植え替えと違って、板付けは作業にひと手間ふた手間かかるところがまた趣深いですね。上手に育てられたとして、どのくらいまで生きる植物なのですか? T:寿命か...あまり考えたことはないですねぇ。けっこう長いこと生きるのは確かです。そもそもシダ植物なので、花も咲きませんし、まさにご覧のこの状態を、この葉っぱの姿を長い時間かけて楽しむ、という感じですね。シダなので、古くからこの形で、それこそ古代から続いてる植物なので、そんなところに想いを馳せるのもおもしろさの一つです。 K:そう聞くと、なにやら時空を超えたロマンを感じますね! 今回の出展で、来場されたお客様に『vandaka plants』のブースで、ここを一番見てほしい! というところがありましたら教えていただけますか? T:多種多様の品種を揃えて、しっかりと作り込んで販売しているところがうちの持ち味かと思います。たくさんの品種を直接見て選ぶ楽しさを味わっていただきたいと思います。 きっかけは、旅先で出会った野生のビカクシダ K:葉の形のバリエーションも多く、緑の色調もそれぞれ味わいがあって、結構種類が多いのですね。ここでの出会いを期に、ビカクシダにハマる人も多いのではないかと思います。ちなみに、高橋さんがビカクシダに惹かれたきっかけを教えていただけますか? T:20年以上前に、旅先で出会った野生のビカクシダの造形美に衝撃を受け、その魅力にはまりました。 K:野生って、カットした木ではなく、生えている木に着生しているやつですよね? 写真でしか見たことありませんが、生で見たら凄いんだろうなぁ。 T:生の迫力は凄いですよ! ビカクシダに限らず、原生地はユニークな植物の宝庫なので、植物が好きなら一生に一度は見る価値があると思います。 K:高橋さん企画で、ぜひツアーを(笑)。さて、こうして皆さんにその魅力を伝える側になられたわけですが、そんな高橋さんの手がけたビカクシダは、東京の『vandaka plants GALLERY TOKYO』でも見ることができるそうですね。こちらのギャラリーについて教えていただけますか? 『vandaka plants GALLERY TOKYO』 T:現在『vandaka plants』は、東京と京都に2店舗ありまして、日本橋馬喰町にある東京店のほうが、『vandaka plants GALLERY TOKYO』です。馬喰町界隈には、アートギャラリーも多く、最近はおしゃれな店も随分と増えており、東京店のある「BAKUROCACTUS」も、各階にアートギャラリーなどが入った面白いビルです。アートピースのようにビカクシダを見せるという、園芸店とは違うアプローチの仕方が、ビカクシダの面白さ、すばらしさをお伝えできるのではないかと考えて、壁一面ビカクシダで覆うなど、展示方法も工夫していますので、ぜひ遊びに来てください。 K:ありがとうございます。近日中に、そちらのほうも取材させてください。 T:もちろんです、お待ちしています。 K:このように東西からビカクシダの魅力を発信されているわけですが、今までビカクシダと関わってきた中で、最も印象に残っているエピソードがあれば教えていただけますか? T:そうですね、たくさんあって一つに絞れませんが、仕入れ先でもあるタイのバンコクで定宿にしているホテルがあるのですが、毎回利用しているうちに、仕入れたものの持ち帰れなくて置いていったビカクシダを、仲のよい従業員さんが世話してくれるようになり、それらが徐々にホテルを占領していってしまい、エントランスと屋上がビカクシダだらけのホテルになってしまっていること、などでしょうか。旅先での思い出は数え切れませんよ。 K:そのホテル、見てみたい(笑)。ビカクシダマニアにとっては夢のようなホテルですね! では最後になりますが、ガーデンストーリー読者の皆さんに、何かメッセージをいただけますか? 読者の中には、ビカクシダについて今回初めて知る、あるいは興味を持ったという方も多いと思います。 T:ビカクシダの魅力は、個性豊かな種類がたくさんあることに加え、育て方によってもいろんな表情を見せてくれるところです。また観葉植物の中でも成長が早いところや、壁に掛けて管理ができるので、インテリアとしても楽しめるところなど、そういったたくさんの魅力を、読者の皆さんにぜひ知ってもらえたら嬉しいですね。そして、皆さんがそれぞれのライフスタイルに合わせて、ビカクシダを楽しんでいただけたらと思います。 K:本日はお忙しいなか、ありがとうございました! いかがでしたか? ビカクシダ。今回の私がそうであったように、皆さんにも興味を持っていただけると嬉しいです。インタビューにもあるように、私は近日中に、『vandaka plants GALLERY TOKYO』にお邪魔して、改めてビカクシダの魅力を再発見したいと思います。いずれその模様もご紹介しますので、どうぞお楽しみに! 「vandaka plants」のさらに詳しい情報はこちら URL https://www.vandaka-plants.com Instagram https://www.instagram.com/vandakaplants_official/ 【KYOTO SHOWROOM】 住所:京都府京都市上京区三軒町48-15 電話:080-4014-2855 メール:info@vandaka-plants.com 【GALLERY TOKYO】 Instagram https://www.instagram.com/vandakaplants_gallerytokyo/ 住所:東京都中央区日本橋馬喰町2-4-1 BAKUROCACTUS 4F 電話:03-6683-9120 メール:info@vandaka-plants.com ※京都、東京、両ショップ共、営業日、及び時間はwebサイト内のカレンダーにてご確認ください。 食虫植物ブース【関西食虫植物愛好会】を訪ねる 『関西食虫植物愛好会』とは 最近はホームセンターの園芸コーナーで見かける機会も多くなった食虫植物。私もかつて、あの大きな口で虫をバクっとやるハエトリソウを育てたことがあります。まさにホームセンターで購入したのですが、見る見るうちに成長し、やがては千手観音像の幾多の手のごとく増えて、その栽培が結構楽しかったのを覚えています。 と、そんな経緯もあることから、興味津々でブースを訪ねましたが、こちらのブースは屋号が「愛好会」なので、サークルの集まりなのかなと思いきや、販売している商品は全てホームセンターで売られているものよりも本格的で、見たこともないような品種も多数。お話を伺ったメンバーの南あこさんからは、食虫植物の知られざる実態をいろいろと教えていただきました。 ふざけた感じのネーミングセンスが楽しい食虫植物 南さんにお気に入りの1株を伺ったところ、ピックアップされたウツボカズラ「ネペンテス・エトセトラ」のネーミングに笑ってしまいました。「石原さ●み風プルプルリップ」って(笑)。確かに壺の口部分は、虫が滑りやすいようにプルプルになっていますが、このド直球のネーミングセンスには脱帽です。 ここにある株は、私の知っているホームセンターのそれとは違い、どれも皆立派でバラエティー豊か。例えば、この赤い粘着質のある部分で虫を捕らえる品種は「モウセンゴケ」というのですが、観賞用にあつらえたものというよりは、いかにも現地に自生しているものをそのまま持ってきました! というようなリアリティーが、どの株からも感じられました。そのどれもが健康そうなので、かなりアグレッシブに虫を捕ってくれそうな気がします。 「関西食虫植物愛好会」の南さんにお話を伺いました 食虫植物のコワイところは、沼にはまっちゃうところなんです(笑) K:いやぁ、このブースだけアマゾンの秘境ですね(笑)。まず最初に、今回このイベントに出展した経緯を教えていただけますか? 南(以下M):関西食虫植物愛好会は、天下一植物界の前身であるBORDER BREAK!!当初から参加させていただいています。食虫植物はまだまだニッチなジャンルではありますが、ここ10年ほどでホームセンターなどで簡単に手に入るようになり、確実に身近な存在になってきました。イベントは、食虫植物の沼にどっぷりハマった私たちにとって、食虫植物の知名度を上げるためはもちろん、私たちのような趣味家や、多様な植物を愛する人のためにもとても素晴らしい機会だと思い、今回も楽しんで参加させていただいています! ちなみに、私たちは企業というより、愛好会組織なんです。 K:というと、大学のサークル的な? M:それよりはもっと踏み込んで、自生地保全、普及活動、研究発表、植物園とのタイアップ企画などの活動もさせていただいていますが、もっと自由に愛好者同士で集まろうよ! 基本はニッチなジャンルだからこそ趣味の同じ仲間を見つけて楽しくワイワイ集まろうよ! という趣旨がベースにはあるので、そこを意識してこの名前がついています。 K:なるほど、ゆえに名称も「愛好会」なのですね。そんな皆さんが、今回の出展で来場されたお客様に、ここを一番見てほしい! というところがありましたら教えていただけますか? M:食虫植物というと「ハエトリソウ」「ウツボカズラ」といった有名どころを想像し、鬱蒼とした薄暗いジャングルに生息しているイメージを持っている方が大半かと思います。でも本当は、山上にある開けた湿地とかで、太陽を燦々と浴びて育っている食虫植物が大半なんです。名前のインパクトと反比例して可愛らしい花を咲かせたり、水の中に漂っていたり、昆虫と共生したりと、知れば知るほど想像を超えてくる彼らの生態には他の植物にはない面白さがあり、ハマッたら抜け出せないと思います! なので、一番見てほしいのは、ズバリ、商品全てですね。 K:おっと! 全部ときましたか(笑)。まぁ確かに、指を入れたら指が溶けちゃうんじゃないかとか、そんなちょっと怖いイメージを持っている人は多いかもしれないですね。かく言う私も、ホームセンターでハエトリソウに出会うまではそうでしたが、イメージがちょっと変わりました。そんな食虫植物と南さんが出会い、惹かれるようになったきっかけは何だったのですか? M:幼少期に植物図鑑で知ったウツボカズラと私が実際に出会ったのは、大人になってから行った植物園の食虫植物展でした。実際の姿を見て、なぜこんな形になったのか? どうやって虫を食べるのか? 食べた虫はどうなるのか? どのくらい消化液は強いのか? といった疑問で頭がいっぱいになりました。確かに私もそのときは、生態系ピラミッドを崩すかのような存在に、ちょっと恐怖を覚えたのも事実です。でも怖いもの見たさといいますか、植物園を出る頃にはもう、ウツボカズラの虜でしたね。そして、手に入れたい一心で、植物園の帰りに園芸店をいくつもハシゴして、ウツボカズラをはじめ、その他の食虫植物も大量買いしたんです。そう、食虫植物のこれがコワイところなんです。沼にはまっちゃうんです(笑)。 その後、育て方などを調べていくうちに関西食虫植物愛好会と出会い、現在に至っています。そこで知ったのは、食虫植物っていうくらいだからけっこう強いと思うけれど、じつは意外と儚くて、保護も視野に入れねばならない希少な存在なのだということ。そして気が付けば10年以上経っていて、今はYouTubeで食虫植物の話をしたりと、ありがたいことに面白さを広める側に立たせていただいています。 食虫植物はいけばなの世界でも馴染みが深い植物 K:いやさすが、食虫植物への愛情と熱気がバシバシ伝わってきます! ところで南さん、お名刺を拝見したところ、いけばなの教授、とのことですが、いけばなと食虫植物、何か相通ずるものがあるのですか? M:じつは、いけばなにとって、食虫植物は昔から馴染み深い植物なんです。私が入門していますいけばな小原流では、二世家元の小原光雲先生が「小原流盛花瓶花傑作選集」という昭和9年発行の本で、すでにウツボカズラを使用した作品を活けておられて、イラストと記録が残っているんですよ。 K:昭和9年って、90年近くも前じゃないですか! そんな昔に食虫植物でいけばなとは、驚きました。小原流は、なかなか攻めていたのですね(笑)。でも、何やら不思議な作品ができそうですね。 M:いけばなでは、ウツボカズラやサラセニア、イビセラという品種が使われることが多いです。私も花展などで自分が活ける場合、ウツボカズラやサラセニアを使っています。流通数が少なく、まだまだ数を揃えることが難しい植物なので、普段の練習やお稽古の時の花材として「今日の材料はウツボカズラよー」なんてことはさすがに言えないのですが(笑)。 大きな花展であれば、会場で食虫植物を見つけることができます。私は花展が終わったら、挿し木や株分けをして、延々とリユースしています。栽培としての姿だけでなく、切り花や作品としてもたくさんの方に目をとめて興味を持っていただき、食虫植物というジャンルがもっと大きく確立できれば嬉しいですね。 食虫植物はお子様の夏休みの自由研究にもぴったり! K:今回、食虫植物がいけばなで使われているのを初めて知った人は多いと思いますよ。さて、いけばな教授の南さんではなく、プロの生産者・販売業者さんとして南さんが食虫植物と関わってきた中で、一番印象に残っているエピソードがあれば教えていただけますか? M:いろんなイベントに参加させていただいていますが、だんだんと「あ、前もイベントの時に来てくれてはったなー」みたいに、顔馴染みになってきたお客様が増えた時は、やっぱり嬉しいですね。販売の流れが落ち着いた頃に「一年前のイベントで買ったコレが今こんな感じでー」と話しかけてくださったり、その際に写真でめっちゃ育ってるのを見せてくださったりと、いろいろ共有できるのも嬉しいです。そして仲良くなって植物園や自生地に遊びに行く…そんな関係になれるのが愛好会としての生産販売者冥利に尽きるなと思っています。 K:一期一会といいますからね、同じ趣味の輪を広げるには、イベントは最高の場所ですね。さて最後に、ガーデンストーリーは、グリーンと共に日々の生活を楽しむためのコンテンツをお届けしているWebメディアでして、そんな読者の皆さんに、何かメッセージをいただけますか? M:食虫植物には、小さな子供から大人まで、人間を虜にする不思議なパワーがあります。お子様の夏休みの自由研究にも使えて、みんなの目をオッと釘付けにするような話題にもなる不思議な魅力を持った植物です。温度管理が! 湿度管理が! 虫をあげなきゃ! といろいろ思いがちですが、皆さまの暮らしにスッと溶け込める食虫植物がじつはたくさんあります。1人でも多くの方と食虫植物たちの魅力を分かち合うことができれば嬉しいです。ぜひこの夏、食虫植物をおうちにお迎えしてみませんか? K:今日はお忙しいなか、ありがとうございました。おかげで食虫植物という存在がとても身近なものになりました。 取材前のリサーチで、まず名称の段階でインパクト大の『関西食虫植物愛好会』。当日現地に向かう飛行機の中でも「さぞかし変わった人たちなんだろうなぁ...」と思っていたら、その予想は、まぁ当たってはいましたが(笑)、とにかく、ただひたすら真っ直ぐに食虫植物を愛する南さんでした。 『関西食虫植物愛好会』のさらに詳しい情報はこちら URL https://kcps.themedia.jp ビカクシダに食虫植物、噛めば噛むほど味わい深い亜熱帯の植物の魅力に興味津々 いや、なかなかに新しい発見ずくめのビカクシダに食虫植物でした。植物というのは、人類の祖先が水から上がる前に既に地球上に存在していた、いわば生命の大先輩。他の木に着生したり、虫を食べたり、生き残るために遂げた進化には、人間の進化よりも長い時を費やしたのではないかと想像すると、ビカクシダにも食虫植物にも、地球レベルのロマンを感じずにはいられません。 『関西食虫植物愛好会』の南さんの言葉を借りますが、いかがでしょう? この夏、そんなロマンをおうちに迎え入れてみては? 天下一植物界各ブース情報や、主催者長谷圭祐氏のインタビューなど、イベント全体像を網羅したVol.1は下記リンクより。 ●【天下一植物界Vol.1】話題の多肉、塊根、熱帯草が目白押し! Credit 文/写真:編集部員K フリーランスのロックフォトグラファーを経て2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。サボテンに魅せられて以来5年、仕事でサボテンに関われることを神に感謝している。
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【天下一植物界Vol.2】美株サボテンと話題のコーデックスが奇跡の競演!
趣味家垂涎の多肉3ブースはお宝が目白押し 世の中に「タニラー」という造語まで生んでしまうほど、今多肉植物の中でも人気を二分しているのが、コーデックスとサボテン。根が地上にせり出したようなぷっくりとしたフォルムが特徴的なコーデックス(塊根植物)と、コロナ禍のおうち時間を過ごす若者の間でも人気のサボテンのファンが激増中です。天下一植物界には多くの多肉植物ブースが出店していますが、今回はその中からコーデックス、サボテンをメインにした3つのブースに取材を敢行。多肉栽培にお役立ちのHow toや、ここでしか聞けない裏話など、タニラーにはたまらない話題が満載です。 紛れもなくタニラーの私にとって、今回の取材行でラッキーだったのは、会場にATMがなかったこと。もしあったなら、妻の待つ拙宅の玄関は間違いなく閉ざされたままだったでしょう。そんな小市民の私が、偶然にも、サボテンの神様とも仰がれるカリスマ生産者の村主康瑞(すぐりこうずい)さんに遭遇! 貴重なお話をたくさん伺って、鳥肌が立ちっぱなしでした。そんなインタビューの模様を収めた終章の「サボテンの神様、降臨」のエピソードは、マジに必読です! 【浦部陽向園】財布のヒモも緩む、サボテンと盆栽のテーマパーク まず最初に訪ねたのは『浦部陽向園』。運営側からの推薦を受けて今回で2度目の出店となります。盆栽とサボテンという、一見ミスマッチな組み合わせですが、自然と両者が調和しているのが意外でした。 天下一植物界で唯一盆栽を取り扱っていたのが『浦部陽向園』。もし開催時に海外からの観光客に対する国の制限措置が解除されていたら、ここはきっと外国人でごった返していたのだろうと思います。面白かったのは、家族連れ客のお父さんが子どもに「どっちが欲しい?」と聞いたら、「こっちがいい!」と盆栽を指差していたことです。ひょっとして、サボテンのトゲが怖いのかな? しかしながら私の目は、盆栽の隣に集団をなす美株サボテンに釘付け。私の大好きなメキシコのサボテン「メキシカーナ」までありました。 じつは、この意外とも思える盆栽とサボテンの組み合わせこそ『浦部陽向園』の美株作りの真骨頂、というのは、店主の浦部久美子さん。園芸との出会いは大阪府立園芸高等学校まで遡り、高校の3年間でみっちり園芸を学んだという浦部さんに、サボテン栽培のノウハウを伺いました。 盆栽の侘び寂びを活かしてサボテンやコーデックスをお客様にお届けしているのがうちの特色 K:盆栽とサボテンというのも、なかなか面白い組み合わせですね。 浦部(以下U):サボテンやコーデックスは盆栽型にしやすく、シルエットは似ているところがあります。そのシルエットが引き出す「心の癒やし」をテーマに、手に入れた瞬間から愛着がわくように形を作っています。具体的には、盆栽型に作れそうなものを探し、陶器鉢に植え替える際に、盆栽を観賞する時のように、いろんな角度から植物を眺めて侘び寂びの雰囲気が味わえるよう、植え付け角度にはこだわっています。また、お客様にとってなるべく育て方が容易なものを選別しています。このように、盆栽作りの経験を活かしているのが、うちの特色だと思います。 よい株に育てるには、アメとムチを K:それにしても美株揃いですね! U:うちの圃場のある豊能町は、冬場の朝晩の気温が平均5℃まで下がるので、日中との寒暖の差が、綺麗で丈夫なサボテンを作り上げるのだと思います。 K:やはり寒暖を与えることって、重要なんですね。 U:えぇ、寒暖を与えてあげることはとても重要です。日当たりがよくても、家の中にずっと置きっぱなしにするよりは、季節に応じた暑さ寒さを与えたほうが、球体の張り・艶もよく、品種の持つトゲの特徴が顕著に出たよい株に育つんです。ただし、氷点下になるような時は、霜よけぐらいはしたほうがいいですね。そして冬場12月から3月までの2〜3カ月の間は水を断ちます。 K:霧吹きでパパッとやるのもなしで、完全に水を断ってしまう感じですか? U:はい。完全な渇水状態にします。 K:私も自宅のサボテンは冬場は渇水しますが、渇水によってシワシワになったあのサボテンを見ると、初心者にとっては、ちゃんと春に元のぷっくりとした状態に戻ってくれるのかが、けっこう怖いと思うんですよね。 U : その気持ちは分かります。うちも加温しないビニールハウスだけなんです。だからサボテンたちにとってはかなり寒いと思いますが、その寒さがよい株に鍛え上げるんですよ。 元気の源は「馬糞」 K:陽向園さん流の、用土についてのコツがあれば教えてください。 U:うちは、植えるときに全ての商品に馬糞を原料としたオリジナルの肥料を入れちゃうんですよ。近所の乗馬クラブからいただいている馬糞があって、その栄養のバランスがまたちょうどいいんです。 K:馬糞ですか! これまた栄養豊富そうですね(笑)。 U:はい。そのままの馬糞には虫とかがけっこう寄ってくるので、それは嫌なんですけど(笑)、でもやっぱりこれがいいんです。でも、さすがに一般のご家庭で馬糞を原料から吟味して肥料を作るというのは難しいと思うので、園芸店で売られている馬糞堆肥や、入手しやすいマグアンプとかでも大丈夫ですよ。うちはそれが容易に手に入るため、全ての商品に入れています。 K:だから皆こんなに顔つきがよいのですね。ちなみに、馬糞が原料とのことですが、肥料それ自体からは馬糞の臭いはしないのですか? こうやって鼻を近づけても異臭はしませんが。 U:したら売れないです(笑) 奇跡が生み出す、美しい曙斑(あけぼのふ) K:この斑(ふ)入り※のフェロカクタス「天城」に関して教えていただきたいのですが。球体が成長していくにつれて、斑も変化していくのですか? ※ 斑入りとは、通常緑色の肌のサボテンに、突然変異や交配などにより黄色や赤などの色が模様として現れたものを指し、通常の個体よりも高価になる。江戸時代の古典園芸でも、この変化を「葉芸」として観賞し、珍重されてきた。 U:この天城についている「曙斑(あけぼのふ)」は、夏場は消えちゃいます。「曙斑(あけぼのふ)」というのは、新芽が伸びるときなどに現れるもので、成長にともなって薄くなったり消えたり、曙のように時間経過とともに変化していく性質の斑のことをいいます。この球体はいったん緑に戻りますが、冬を越して、今(5月)のような、サボテンにとっていい季節なると、また出てきます。斑の入ったサボテン全てがそうというわけではないのですが、曙斑に関してはそんな感じで、出たり消えたりを繰り返します。 K:曙斑のように綺麗な模様を入れるコツみたいなものがあるのですか? U:コツがあるというわけではなく、うちでは他のサボテンと同じように育ててはいるので、まさに自然の産物ですね。ただ、完全に自然かというとちょっと違っていて、斑入り同士を掛け合わせたりとかはしています。それでもやはり曙斑は貴重ですね。何千粒って植えた中の1個とか、そんなぐらいの確率ですね。 K:意図的にやって作れる物ではない中からこれができるなんて、とても神秘的ですね! U:ただ、ちょっと日に焼けやすいので、外に置く時は、直射日光に当てないように気をつけなければなりません。どうしても、斑のところは焼けやすいので。 K:まぁ、言ってみれば色素がない箇所ですからね。話は変わりますが、あの奥の「マクドガリー※」、大きくて綺麗ですね。私もマクドガリーを栽培していますが、うちのは下部が茶色く変色しちゃっているんですよ。でも腐っている様子はないんです。それって、やはり病気なのでしょうか? ※オルテゴカクタス・マクドガリーはメキシコの標高2,000m以上の高地に自生する1属1種のみの貴重なサボテン。その美しい表皮の色から「美肌サボテン」の異名を持つ。 U:この子もそうですよ。 K:あ、本当だ! じゃあ病気ではないのですね? U:はい。これはなぜこうなるかは謎なんですが、マクドガリーだけなんですよね。でも、この子を見てくれれば分かるように、しっかりと元気に成長していますので、心配ないかと思います。 K:ホッとしました。今日はお忙しいなか、いろいろと教えていただき、ありがとうございました! 馬糞が秘訣とは、驚きでしたね。そんな『浦部陽向園』のサボテンは、下記オンラインショップでも購入できます。コピアポアやアストロフィツムなど、品種別に見ることができるのでとても便利。要チェックです! 『浦部陽向園』 https://www.u-yokoen.com 事務所:〒563-0014 大阪府池田市木部町47-1 圃場:豊能町 栽培場では直接販売は行っておりません。春・秋に開催される大阪城公園植木市及び各種イベントでの販売、オンラインショップ TEL:080-5336-6366 受付時間9時~17時 MAIL:info@u-yokoen.com 編集部員K メキシカーナを「運命買い」! ゲオヒントニア・メキシカーナ。その名の示す通りメキシコ原産で、1属1品種という孤高の存在のサボテンです。このサボテンに魅了されている私は、昨年の誕生日にもらったバースデー「メキシカーナ」を、不用心な日焼けにより枯らしてしまいました。 失意により、もうメキシカーナは… と思っていたところ、『浦部陽向園』のブースで美しきメキシカーナを発見! 御歳10歳のこちらの株を、衝動買いならぬ「運命買い」! 今度は枯らすまい、と心に誓いながら、共に帰路についたのでした。天下一植物界よ、ありがとう(涙)。 帰京後すぐに、メキシカーナ様ご座所を制作 メキシカーナが直射に弱いことが分かっていながらの迂闊な所業。亡き株の教訓を活かし、遮光ネット(20%遮光)を張った手製の“ご座所”を用意し、盛夏まではこちらでお過ごしいただきます。 【ISHII PLANTS NURSERY】実生のコーデックスは一見の価値アリ 次に訪ねたのは『ISHII PLANTS NURSERY』。実生(タネから育てたもの)のパキポディウムやサボテンが充実しています。お客様の目線は、サボテンよりも豊富なコーデックス群に注がれているような印象を受けました。店主の石井俊樹さん曰く、そのコーデックスの目玉商品が、イベントの開場と同時に瞬殺で売れてしまったとのこと。『ISHII PLANTS NURSERY』の人気ぶりがうかがえますね。石井さん自身も筋金入りのコーデックス好きで、タネから丹精込めて育て上げたこだわりがたっぷりと詰まった実生株がおすすめ。そんな石井さんのコーデックスへかける想いを伺ってみました。 グラキリスは個人的にも好きな植物ですね K:コーデックスも実生ものが多いんですね。 石井(以下 I ):そうですね、実生ものを中心に取り扱っています。大体タネを播いてから2〜3年くらいのものを商品として出しています。サボテンですと南米系のサボテン、コーデックスだとマダガスカルのものが多いですね。 K:やっぱり「グラキリス※」はしびれますねぇ! ※「グラキリス」とは、コーデックスの中でも人気のパキポディウムを代表する品種で、「象牙宮」の異名を持つ。可愛らしいフォルムの国内実生株に対して、奇怪なフォルムが特徴の輸入株を所有することが、コーデックスマニアの間では、ある種のステータスにもなっている。 I:そうですね、一番人気がありますね! 私も個人的に大好きな品種です。 K:グラキリスも輸入株ともなれば、最近は値段が上昇傾向にありますが、このまま高止まり、という感じなのでしょうか? I:高止まりというよりも、おそらくこの先も上昇傾向かと思います。人気の輸入株全般が、昨今の円安の影響をモロに受けていますからね。 K:なるほど、ここにも影響が・・・。 そのフォルムに意味があることを考えると、ロマンを感じますよね。 K:石井さんは天下一植物界への出店は今回で2度目だそうですが、今回来場されたお客様にここを一番見てほしい! というところがありましたら教えていただけますか? I:タネから育てたパキポディウム苗ですね、コーデックスの中でも特に人気のパキポディウムはとても育てやすいので、コーデックス初心者にもおすすめです。小さな苗から育てていく喜びをぜひ味わっていただきたいですね。 K:パキポの苗がぷっくりとだんだん肥えていって成長する過程って、すごく楽しいですよね。石井さんが、そんな多肉植物に惹かれるようになったきっかけを教えていただけますか? I:そうですね、その株が持つフォルムには、過酷な環境に適応するためにそうなっていったという意味があり、そんなストーリーと造形美に魅力を感じたから、ですかね。先ほど話に出た「グラキリス」も美しいですよね。特に輸入株のものは、現地マダガスカル島でそんな意味のもと、あの独特な造形美がつくられたのかと思うと、ロマンを感じますよね。 K:確かにロマンは感じますが、逆に、マダガスカル島ってどんだけ過酷なの!? って(笑)。 大切な植物を失ってみて初めて分かった、植物への強い想い K:今までプロの生産者・販売業者さんとして多肉植物と関わってきた中で、一番印象に残っているエピソードがあれば教えていただけますか? I:ある時、自分の不注意でハウスごと植物をダメにしてしまったことがあり、私はショックのあまり、三日三晩泣き続けました。それまで、植物が好きだというひたむきな気持ちを大事にこの仕事を続けてきたと思っていましたが、大切な植物を失ってみて初めて、私は自分が考えていた以上に植物が大好きなんだ、という気持ちを実感することとなりました。その時からまた一段と植物との関わり方が深く、そして強くなったと感じます。 K:なるほど、失敗は成功のもと、と言いますから、そのご経験が今の石井さんの礎となったのですね。では最後に、ガーデンストーリー読者の中でも、特にこれから多肉植物を楽しみたいと考えている方に何かメッセージをいただけますか? I:多肉植物は、育て方次第で一生お付き合いができる植物です。管理方法など少し特殊な面もありますが、コツをつかめば美しく育てることができます。ぜひお気に入りの一鉢を見つけてください。 K:今日はお忙しいところ、ありがとうございました。 植物を枯らさずに育てた経験を持つ方は少ないと思うので、石井さんの失敗談からの植物愛、共感できる方は多いのではないでしょうか。タネから手塩にかけて育てた、愛情がたっぷりと詰まった多肉植物を提供する『ISHII PLANTS NURSERY』の情報は、下記インスタグラムにてご確認いただけます。オンラインショップはありませんが、直売会情報は要チェックです! 『ISHII PLANTS NURSERY』 https://www.instagram.com/ishiiplantsnursery/ 【㍿カクタス・ニシ】勇壮なパキポディウムには誰もが立ち止まる 紀州は和歌山を拠点に、中国上海にも店舗を構える『カクタス・ニシ』さんのブースは、輸入株のパキポディウム「マカイエンセ」が見事な存在感を放っていて、その勇姿に多くのコーデックスマニアが立ち止まっていました。 ところが、西さん親子が切り盛りしているこのブースのお話を伺おうとしたところ、お父様の西さんが突然、「サボテンの神様に会わしたる!」と。そして、誘われた先にいらっしゃったのは、なんと! ご自身の名を冠したサボテンの品種を幾つも持つカリスマで、「サボテンの神様」とも仰がれるサボテン研究家の村主康瑞(すぐりこうずい)さん(72)。 狂仙会会長、東京カクタスクラブ顧問、大阪カクタスクラブ顧問、という肩書きを見ただけでも、いかにサボテン界の重鎮かということが分かりますよね。生産者としてのご高名もさることながら、北米や南米の自生地を旅して、現地の生産者とも親交があり、サボテンの海外事情にも精通。そんな方のお話を伺えるなんて、ラッキーとしかいいようがありません。西さん、感謝です! ではさっそく、村主さんにインタビュー。 サボテンの神様、降臨 サボテンとの出会いは、夜店の「金鯱」 K:先生とサボテンとのおつきあいについて伺います。今までどれくらいのサボテンを手がけてこられたのですか? 村主(以下S): 僕はね、67~8年かな、そのぐらいですよ。 K:そのぐらいですよ、って...す、すごいですね... S:僕らの時代はね、こういうイベントやクラブとか、そんなのなかったので、先輩のとこに行って弟子入りして、一子相伝みたいな方法で栽培技術を習うというのが一般的だったんです。 K:一子相伝って、なんか北斗神拳みたいですね。 S:僕らの時代は皆そうだったんです。でなかったら、何をどうやって作ったらいいか分からなくて、それで、小学生のときに夜店で売っていたサボテンを見て、整然と並んで売られている中でも、大きめのものが欲しいって言ったのよ。そうしたら、そこの店のおっちゃんが、「そんなん大きくなってから買え! それよりも、小さいのを買うて、お前の手で大きゅうせい!」そう言われたんですよ(笑)。それ金鯱(きんしゃち)っていうサボテンだったんやけど、その時買ったものが、今では1mを超す大きさになってしまって。 K:1m!? そんな金鯱、見たことないです! どこかの植物園で大きいのは見たことはありますが、1mってあったかなぁ... S:そりゃそうですわ、その金鯱は国内で栽培記録が残ってるサボテンとしては、おそらく一番古いんちゃうかな。 K:いやいや、見てみたいですねぇ。長生きするサボテンは人間の寿命なんか余裕で追い越しちゃうって聞きますから、まさに超ご長寿サボテンですね! アメリカやメキシコにはそんなサボテンがゴロゴロしているそうですね。 S:アメリカやメキシコに行ったら、もっともっと面白植物がいっぱいあるので、もし行かれるのなら、バハ・カリフォルニア(メキシコ)のほうに行かれたらええ。最高に面白い植物に出会えますよ! K:ありがとうございます。ぜひ行ってみたいと思います! 粋でハイカラだったサボテンという趣味と、そこにある夢 K:ところで、この天下一植物界では若い生産者さんたちが大活躍していますが、若い人たちがサボテン栽培で後に続く、というのはやっぱり嬉しいものですか? S:そうやね、こうやって見ると、こんなに裾野が広がっていくゆうのはすごいことだと思うんです。サボテンはね、私もまだ若かった昭和30年代に、第一次ブームとして爆発的に流行ったんですよ。その頃は今のようにスマホやらゲームやらもないっていう時代だったので、趣味の世界いうたら、サボテンをやることが、なんていうか、粋でハイカラだったんですわ。 K:そんな時代があったのですね、驚きです! 今それが再び、粋なものとして若い世代に迎えられ、このようにエネルギッシュなイベントが開かれるようになりました。ただ、ムーブメントというものが熱を帯びると、必然的に商品価値も高まり、限度を越えて価格も上がってきているように感じます。そのあたりはどうお感じになられますか? S:やっぱりね、値段が上がらないと、趣味としては面白くないと思う。自分らが作ってるものが二束三文ていうよりは「これは高いんや」というところのグレードを保ってくれてるっていうのは大事なことだと思います。 K:確かに、皆さん値段相応の苦労をして、ここまで育ててきているわけですからね。 S:まぁ、一時的に高騰する場合もあるけれども、結果的にね、市場価格が形成されていって、いい値段に落ち着くのではないかと思いますよ。 K:ある程度は値段が落ち着いてくれると、消費者としては嬉しいですね。 S:そこにね、タイムラグが生じても僕は構わないと思うんですよ。値が高騰すれば、生産者はバーっと作り、その結果、値段もだんだんと落ちていく。そこを消費者も狙って買いにくる。そして、そのサイクルの穴埋めをするように、次を狙う人間が絶対的に出てくるのですが、そこにはすごい夢があるし、自分の思いが遂げられる、そんなふうなのが健全な趣味の発展やろうと、僕は思うんです。僕らもそうやってきましたしね。それって面白いことなんですよ。 例えば、僕らのような職人が作ってたものが、目を疑うほど安く売られていても、それは、どうしようもない! と思うようなことではなく、それは形を変えて令和の流行として受け入れられ、若い子たちが、そこに新しい価値を見いだしたということなんです。時代の変化とともに、僕らが気づかなかった価値観を見いだした、ということなんですわ。 観賞する上での楽しみは、今のほうがぜんぜん上だと思いますよ S:新しい価値というところで面白いのは、最近は、(亀甲竜などに代表される)塊茎モノが盛んになっているでしょう? すると我々の頃は、芋の部分とか根の部分を土に埋めて隠していたのを、それを逆にみんな土から上にあげて作るようになってるんですよ(笑)。我々の頃と、そもそも観賞の仕方が変わってきていて、それがじつに面白い! 西(以下N): 私らの時代は、栽培のほうばっかりに注力していたので、いかにして綺麗に作るか、いかに大きくするかやったけど、今はどういうふうな形で眺めるか、観賞するかっていう作り方だから。 S:観賞する上での楽しみは、今のほうがぜんぜん上だと思いますよ。ネットの影響というか、恩恵というか、そういうのも大きいのではないでしょうか。 N:カフェでの食事写真をインスタにアップしてっていう習慣が、植物の世界でも恒例になっているので、今の時代、ネットの影響は大きいですよ。まぁ今はね、生産者もネットで通用せんかったらあかん時代が来ていると思うよ。時代が変わったもんね。 K:その時代の変遷を、温かい目で見守っておられる、2巨匠の姿に感銘を受けました。 S & N : 温かくはないで(爆)。 サボテンの花は余計なもの!? N:にしても、おもろいのは、私らの頃は、こうしてサボテンが花つけていたら怒られましたからね。 S:ほんまや(笑)。 N:師匠から「これ取れ!」って言われて、一生懸命花を摘んでいましたわ。ところが今は花を大事にせなあかんという(笑)。私らからしたら、すごい時代だと思うんです。 K:え!? 昔はサボテンって花を咲かせるのがダメだったんですか!? N:そうそう。形を作るほうがメインやったから。 S:結局花が付くと体力落ちるじゃない、だからそれを全部もぐと、球体が充実していくんです。いかに綺麗に球体を作るかというほうが、花を咲かせるよりも大事だったので。花は邪魔でしかなかった(笑)。それに、花は水分を大量に持っていって蒸発させるので、花の時期には水もしっかりやっていました。 N:今はね、花の観賞を第一にってことが多いので、花芽つけたまま出さなあかんね。 K:驚きです! 今はサボテンの花を楽しみにしている人もたくさんいるので。 N:温室入ったら花をもいでしまうのは癖になってんねんけど、そしたらお客さんが怒るもん(爆) K:(笑) 日本に順化したサボテンは、順応性適応性が優れているんですよ S:球体をいかに充実させて、かっこいいものを作るかっていうこと。それが私らの目指すサボテンやったね。 N:こんなん(花芽のついた株)作ったら、わしらの時代、先輩に怒られたわ(笑)。 N:せやけど、今は花付きでないと駄目なんです。今のお客さんは花も楽しみたいわけです。 S:それとな、今の時代の品種は改良されていてな、病気に耐えられるよう、丈夫になっているんですわ。もう今の市場に出ている品種の多くは世代交代やって、おそらく7代目か8代目ぐらいになってますから。 K:そこまで世代が進めば、もはや純国産モノですね。 S:そう、もう日本に順化してるサボテンですよ。僕も屋外で実験しててね、けっこうみんな生きる! この今の日本の気候を。僕は思うに、日本に順化したサボテンてね、非常になんていうか、順応性適応性いうのが優れているんですよ。 K:もともと乾燥してる土地に生きている植物ですから、日本の多湿な気候は嫌なはずなのに、そこにうまいこと合わせていって、こんなにも美しいものが出来上がったのですね(ストロンボカクタス「菊水」を見る)。 それにしても、『Plants Works』さんのこの「菊水」、すごい美株ですね! こんな綺麗な「菊水」は初めて見ました。 N:それは谷田貝※さんが作った「菊水」やな。ええ形しとる。 ※著名なサボテン生産家の谷田貝靖雄氏が作った「菊水」という意味。谷田貝氏はアストロフィツム属のサボテン「谷田貝兜」の生産者として広くその名を知られている。 難物サボテン、ストロンボカクタス「菊水」 S:「菊水」なんて、僕らの時代ね、まず手に入らなかった。だから作るしかないんだけど、作るのにも超難物でね。それが今、もうこんな綺麗になってんねん。素晴らしいわ。最初は菊水もな、作り方が分からんかった。そもそも「菊水」のタネ自体取れなかったんですよ。みんな輸入球やったし。そんで「菊水」のタネがまた、埃みたいな小さいもんだから厄介でな。そんなんで、みんなうまく成長するところまで行き着かなかったんです。タネ播いたとしても、それが形を取るまで、やっぱり5年から6年かかったんです。ほんで、生き残る率も、ものすごく悪かった。「菊水」は砂よりも柔らかい土系、赤玉とか、ああいう大きなところにペタっと引っ付いて芽を出すんです。本来の形は、崖に引っ付いて生えているものやから。そういう斜面の中で風が吹いてタネが飛んで、斜面にペタァッて引っ付くんや。せやから、どっちかいうともう、苔に近い。 N:そうそう、苔みたいな扱いでええくらいやな。 S:そうなんです。だから、水はしっかりとやったほうがええ。(自生地では)山の湧水の水分もよう吸って育っておるので、谷から霧が湧き上がってくるラインを探したら、よう生えているんですわ。 K:なんか菊水、欲しくなっちゃいますね(笑)。あ、もっとお話を伺いたいのですが、飛行機の時間がギリギリです!! そろそろ失礼します。 S:わしの本送るよ! K:OMG! サボテンの本、大好きです! 最高に嬉しい! 本日は貴重なお話を、ありがとうございました! 村主さんを紹介してくれた『カクタス・ニシ』、偶然にもインタビューの場となった『Plant's Work』、両店の詳細は下記URLにて。見たこともない極上の株に出会えるので要チェックです! 『株式会社カクタス・ニシ』(ネットショップあり) https://cactusnishionline.net 『Plant's Work』(Instagram) https://www.instagram.com/plants_work/ 神様から送られた本は、まさにサボテンのバイブル 帰京後ほどなくして、村主さんから貴重な本を送っていただきました。ご自身の旅の経験が凝縮されたこの本は、滅多に見られないサボテン自生地でのありのままの姿を見ることができます。 サボテン好きには夢のような時間だった いかがでしたか? 少々濃厚になりすぎのVol.2ですが、生産者さんから伺える生のお話にテンション爆上がりであったため、そこは平にご容赦のほど。ただ、天下一植物界の会場には、最高のサボテンやコーデックスを手がける生産者さんのブースがまだまだあり、その全ブースをお伝えできないのは断腸の極みです。次回の天下一植物界では、さらに多くのブースをご紹介できるよう努めますので、どうぞお楽しみに! 天下一植物界各ブース情報や、主催者長谷圭祐氏のインタビューなど、イベント全体像を網羅したVol.1は下記リンクより。 【天下一植物界Vol.1】話題の多肉、塊根、熱帯草が目白押し! https://gardenstory.jp/events-news/70303 Credit 文/写真:編集部員K フリーランスのロックフォトグラファーを経て2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。サボテンに魅せられて以来5年、仕事でサボテンに関われることを神に感謝している。
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イベント・ニュース
【天下一植物界Vol.1】話題の多肉、塊根、熱帯草が目白押し!
天下一植物界とは こんにちは、サボテンLOVEのガーデンストーリー編集部員Kです。今回私は、兵庫県宝塚市の宝塚市立文化芸術センターで開催された「天下一植物界 2022」を取材してきました。天下一植物界は、植物系イベントとして一世を風靡した「BORDER BREAK!!」を前身とするグリーンイベント。2019年に第1回目を開催したのちに、惜しくもコロナ禍による中止を余儀なくされましたが、3年ぶり2度目の開催となった今回は、BORDER BREAK!! 時代を含め通算13年目ということで、開催期間の2日間とも全53ブースが大賑わいを見せていました。 【開催日時】 2022.5.14(土) 開場10:00 閉場17:30 入場無料 2022.5.15(日) 開場10:00 閉場16:00 入場無料 賑わってるとはいえ、そこはコロナ禍。距離を取ってブースを配置するなど、時節を反映したところも印象的でしたが、特筆すべきはマスク! なんと今回のために特注されたオリジナルマスクが来場者全員に配布され、それが入場券になるというのですから、時節柄ならではの演出ですね。 会場の宝塚市立文化芸術センターは、昭和の時代に西日本における植物研究の聖地でもあった「宝塚植物園」の跡地に建つ気鋭のイベント会館。植物に所縁のある土地でこのイベントが行われたというのも、何か縁を感じます。来場のお客様のテンションも否応なしに高まります。 会場には植物だけでなく、鉢やオブジェ、アクセサリーなどのブースも展開し、どこも大盛況。初めて参加した私には、ブースに並ぶ商品自体の面白さはもちろん、あちこちのブースで財布からではなく、厚みのある銀行封筒からそのまま現金を出してお買い物をするお客様の姿が衝撃的でした。その本気度にいささか圧倒されつつ、私も何度仕事を忘れ、財布を掴んでは離したことか…。このように、多肉Loveの私には身悶えするほどの誘惑の嵐となった取材ですが、8時台にはすでに800人も並び、10時の開場と同時に数万〜数十万円もするレア物があっという間に売り切れる白熱ぶり。 さて、私はそんな2日間のうち、14日(土)のみの参戦であったため、53ブース全てを取材することはできませんでしたが、一部のブースの方に取材のご協力を得ることができたため、それをここでご紹介したいと思います。 植物に熱き魂を捧げる14ブースのご紹介 ISHII PLANTS NURSERY (多肉植物) BORDER BREAK!! 時代からの常連で、天下一植物界では2度目の出店となる『ISHII PLANTS NURSERY』は、実生(種子から育てた)のパキポディウムやサボテンをはじめとした多肉系が充実のブース。店主の石井さんが丹精込めて育てたお宝の数々に、多くのお客様が目を輝かせていました。株元付近がどっしり太くなる植物のことを「コーデックス(塊根植物)」と呼びますが、ブースには見事に太ったパキポたちが目白押し。こんなに立派になるまでに、いったいどれくらいの時間が流れたことか…。石井さんも、ここに至るまでには泣くに泣かれぬ失敗の経験をお持ちとのこと。そのお話はVol.2でご紹介します。 『ISHII PLANTS NURSERY』の詳しい情報はこちら。 https://www.instagram.com/ishiiplantsnursery/ 浦部陽向園(多肉植物・盆栽) 今回で2度目の出店となる『浦部陽向園』は、盆栽とサボテンをはじめとした多肉植物の店。盆栽で培った技術をサボテンなどの多肉にも応用し、「心に癒やし」をテーマに商品展開をしています。私もつい、一目惚れしたサボテンを買ってしまいました。陽向園のファームの近隣には厩舎があり、そこからもらってきた馬フンを肥料に使っているため、グングンと逞しく成長するのだとか。もちろん、健康に育つためには土や肥料だけではなく、気温や風なども大切な要素。店主の浦部さんは、そんなサボテン栽培のノウハウを、いろいろと教えてくださいました。その模様はVol.2でお送りしますので、お楽しみに! 『浦部陽向園』の詳しい情報はこちら。 https://www.u-yokoen.com/smp/ 植物屋Dohraku(多肉植物) 以前、植物園に勤務していた際に天下一植物界運営側の『Green note』早瀬さんに出会い、そのご縁で幾度か出店しているという多肉植物のお店『植物屋Dohraku』さん。店主のDohrakuさんこと川西隆之さんは、元府立植物園の多肉植物担当で、現在は自身のお店を経営しながら、園芸番組やYouTubeでも活躍する人気者。さすがに手慣れているだけあって、その話術には自然と引き込まれました。店内には多種多様な多肉植物が整然と並べられており、中でも「生きた宝石」とも称されるメセンの品質が際立っていました。生産・販売だけでなく、自社で種子を採取し育種も行っており、ここにしかない極上の品種に出会えます。 『植物屋Dohraku』の詳しい情報はこちら。 Instagram https://www.instagram.com/shokubutuya_dohraku/ YouTube https://www.youtube.com/user/douraku0511 ㍿カクタス・ニシ(多肉植物) 紀州は和歌山を拠点に、中国上海にも店舗を構える『カクタス・ニシ』のブースは、サボテンやハオルチアの隣で、輸入株のパキポディウムたちが存在感を放っていました。多分枝した株や、可愛らしい黄色の花を咲かせた株など、それだけでも見る価値たっぷり。創業者の西さんには、当日来場していた「サボテン界の神様」とも仰がれる研究家の村主康瑞(すぐりこうずい)さんを紹介していただき、サボテンに関する貴重なお話を伺うことができ、大変感激しました。その模様はVol.2でお送りしますので、お楽しみに! 『カクタス・ニシ』の詳しい情報はこちら。 https://cactusnishionline.net Plant's Work(多肉植物) 山口県は下関から出店の『Plant's Work』。目立つ位置に配置されたコピアポア「黒王丸」という南米種サボテンの雄々しいこと! 「黒王丸」以外にも、こんな機会でもなければお目にかかれないような貴重な珍品を数多く出品されておりました。個人的に気になって、今でも買ってこなかったことを後悔しているのが「菊水」というサボテン。こういう時はやはり、散財覚悟で行かなきゃダメですね。それくらい魅力的な商品が目白押しのブースでした。 『Plant's Work』の詳しい情報はこちら。 https://www.instagram.com/plants_work/ vandaka plants(ビカクシダ) 『vandaka plants』は、ビカクシダ(コウモリラン)を専門に扱うショップで、天下一植物界には2度目の出店。今回は、会場の広大な屋上スペースを『花宇宙』のブースと二分し、屋外空間を活かした展示は、さながら映画『アバター』の中に迷い込んだような、ちょっとした異世界感がありました。店主の高橋さんはビカクシダを求めて世界中を旅し、ビカクシダの魅力を、初心者の私に分かりやすく教えてくださいました。 『vandaka plants』の詳しい情報はこちら。 https://www.vandaka-plants.com Green Note(ハオルチア/ケープバルブ/水草/熱帯植物) 熱帯植物を中心に展開している『Green Note』。代表の早瀬さんは、運営サイドのスタッフという顔も併せ持ちます。熱帯植物の育て方を伺ったところ、「基本、置きっぱなしで大丈夫。陽も直射がガッツリ当たったほうがかっこよくなります。冬も、霜に当たらなければそのままマイナス4℃ぐらいまではOKです」と教えてくださいました。冬にも強いとは驚きです! お値段も2,000~3,000円とお手頃なので、大変興味をそそられますね! 『Green Note』の詳しい情報はこちら。 http://green-note.info 関西食虫植物愛好会(食虫植物) BORDER BREAK第1回目からの古参、『関西食虫植物愛好会』。文字通り食虫植物専門のブースです。今回いろいろ教えてくださった南さんの食虫植物への造詣の深さはハンパないです。食虫植物というと宇宙人のような植物が、鬱蒼とした薄暗いジャングルに生息しているイメージがありましたが、実際には山頂などで太陽を燦々と浴びて育っているということを知りました。そんな南さんのお気に入りは、ウツボカズラ‘エトセトラ’。その商品説明の例えがまた…(笑)。 『関西食虫植物愛好会』の詳しい情報はこちら。 https://kcps.themedia.jp 株式会社花宇宙(ワールドプランツ) 広大な屋上スペースに場所を構えた『花宇宙』のブースには、多種多様な植物が盛り沢山! 『花宇宙』のスペースだけで、植物園として営業できるのではないかというレベルです。個人的に気になったのは、強烈な価格のソテツ! 普段我々が目にするソテツはギザギザの葉が緑色ですが、こちらのソテツはなんと黄金色! とても貴重な品種ゆえに高価だということを、社長の西畠さんに教えていただきました。ちなみに、店名の由来は、もともと営んでいた、いけばなの花材を取り扱う業態から、現在の観葉植物中心の業態に切り替える際、娘さんが学生時代に書いた『花宇宙』という言葉が頭をよぎり、この名前を社名にしたのだそうです。ロマンチックな話ですよね。 株式会社『花宇宙』の詳しい情報はこちら。 https://www.instagram.com/kunzo_n/ 豊明園(古典園芸植物) 『豊明園』は、日本の古典園芸植物「万年青(おもと)」の専門店。万年青の歴史は古く、時は江戸時代まで遡り、あの徳川家康までも虜にしたことから、江戸庶民の間で慶事の植物として広まり、特に引越しの際の「引越し万年青」は江戸文化の粋として大人気でした。と、YouTubeでも万年青の魅力を説く、代表の水野さん。年間通して育てやすいこの万年青を、現代でも多くの人に広めたい! と熱っぽく語ってくださいました。 『豊明園』の詳しい情報はこちら。 https://houmeien.co.jp 松本洋ラン園(洋ラン) 今回が2回目の出店となる『松本洋ラン園』。洋ランというと、まず胡蝶蘭が思い浮かびますが、ブースを見回してみると、洋ランにもいろいろと種類があることに驚きました。今回このブースを仕切る2代目の正浩さんに、おすすめの洋ランを伺ったところ、「二寸鉢に入った可愛い小型の洋蘭が、場所を取らずに草姿、花、どちらも可愛く楽しめます」とのこと。その小型の洋ランを実際に見せていただきましたが、そのどれもがじつに可愛らしい! さすが、小さい頃から洋ランに触れてきたという正浩さん推しの子たちです。 『松本洋ラン園』の詳しい情報はこちら。 http://www.bekkoame.ne.jp/ha/ma-pleuro/ 雨林園藝 熱帯草屋LA(熱帯植物) この天下一植物界を企画・運営している長谷圭祐さんが代表を務める『雨林園藝 熱帯草屋LA』は、文字通り亜熱帯地方の植物を取り扱うブース。長谷さんのこのブースを目指し、当日は長蛇の列ができていました。その人気ぶりを象徴するかのように、『雨林園藝 熱帯草屋LA』を目指すお客様は、まず回転抽選器(ガラガラ)で「エリア」を引き、そのエリアにある植物のみを購入できるという方式。密を回避する観点からしても、じつに画期的です。各エリア、長谷さん選りすぐりの、マニア垂涎のお宝が、新しいご主人との出会いを今か今かと待ち侘びていました。 『雨林園藝 熱帯草屋LA』の詳しい情報はこちら。 https://lifeplusaq.exblog.jp STUDIO.ZOK(陶植) サボテンのお店かと思いきや、これがまたなんと、全商品が多肉植物の陶製オブジェ! そのリアリティーには驚きました。「陶植」と名付けられたこれらの作品を作っているのが、天下一植物界には今回で2度目の出店となる『STUDIO.ZOK』の滝上さん。曰く、植物を育てるのが苦手な方が、少しでも植物の世界に繋がりが持てるものを作りたい、というのが陶植作りの原点。この手触り、そして創作テーマにしている"実物に寄せすぎず"の絶妙なデザイン、ぜひ手に取って体験していただきたいです。 『STUDIO.ZOK』の詳しい情報はこちら。 https://studio-zok.com COM WORK STUDIO(鉢) オリジナルの信楽焼の鉢を販売している『COM WORK STUDIO』。その全てを手がけている代表の吉本さんも、植物の魅力に心酔する一人。鉢作りのきっかけを伺ったところ、自身のお気に入りの多肉に合う鉢が市場になく、だったら作っちゃおう、が原点なのだと教えてくださいました。こうして作り出す鉢からは、土の温もりと同時に、野武士のような無骨さも漂ってきます。うちのギガンティア(南米原産のサボテン)あたりを植えたら、何やら孤高の高みへと昇華させてくれそうな予感。 『COM WORK STUDIO』の詳しい情報はこちら。 https://www.comworkstudio.jp 主催者にして『雨林園藝 熱帯草屋LA』代表 長谷圭祐が語る天下一植物界の未来 天下一植物界をBORDER BREAK!!時代含め10年間にわたって牽引してきた長谷圭祐さん。自身も『雨林園藝 熱帯草屋LA』の店主にして、国内外で多彩な経験を誇るプラント・ハンター。そんな彼に、天下一植物界の未来と、ご自身のお話を伺いました。 「植物好き」っていう括りで、皆の垣根を低くできたら K:天下一植物界を始められた経緯を教えてください。 長谷(以下H):僕が大学2年のときに、植物文化のカテゴリーの垣根を超えた総合的なイベントがあったら面白いな、という発想で始めた「BORDER BREAK!!」っていうイベントがありまして、初めは内輪で、しかも、めっちゃ狭い会議室みたいなところでやっていた無名のイベントだったんです。まぁ細々とこれをやっていたんですが、6年くらい経った頃から、いろんな方が店を出したいと言ってくれるようになったんですよ。ただ、僕自身もそうであったように、いい意味でこぢんまりとした内輪の雰囲気が好きだという方も結構いたので、そこはそこで残しつつ、もっといろんな業者を呼べる大きいイベントを別バージョンで打てたら面白いな、と思い、「BORDER BREAK BEYOND (BORDER BREAKの向こう側)」という位置付けで始めたのが「天下一植物界」なんです。 K:なるほど。まず前身のイベントがあって、それがさらに進化した形が天下一植物界なんですね。 H : そうですね。本当はもっと海外の業者さんを呼んだり、展示や講演などもやっていこうと思ってるんですけど、今回はちょっとコロナ禍で2年潰れた後なので、販売のみの形で開催しました。本来の趣旨としては、大学の先生方の講演などがあったり、展示スペースも、もっと作りたいな、とは思ってます。 K:確かに、講演とかあったら、さらに深掘りした情報をゲットできそうで面白いですね! H : そうですね、マニアックな面白さみたいなところが僕自身としては好きなんですけど、イベントとしては間口は広く取って、いろんな人が興味を持てるようにしつつ、蒐集面だけでなく、生態的な情報など、さらに踏み込んだディープな情報とかも鮮度高く入手できるようなイベントにしたいなと考えています。 K:それが実現すると、ゆくゆくは長谷さんご自身が権威ある学会とかで呼ばれちゃうなんてこともありそうですね。 H : うーん、どうかな(笑)。まぁ、珍種系の植物の販売って、結局その消費の仕方として、学術的な界隈からはあんまりよく思われてないんですよ。特に保護保全していこうという方々からしたらブームの加熱は必ずしも歓迎できない事態です。でも、販売サイドだからこそできる保護への動きもあると思うので、学者さんなどのアカデミック界隈の方々も、皆同じ「植物好き」っていう括りで、そこの垣根をもうちょっと低くできたらな、とは思っていますね。 K:まさにそこもBorder Breakできたら、ということですね。 H : そうですね、そっち側もやりたいなとは思っています。 水没してるようなジャングルを2〜3日歩くこともありました K:長谷さんも『雨林園藝 熱帯草屋LA』として個人のブースをお持ちですが、ご自身は、どんな経緯で熱帯植物に出会われたのですか? H : 僕は水草からなんです。昔、熱帯魚を飼っていて、そこに入っていた水草が好きになり、ちょっと変わった種類のものが好みになっていき、徐々に…みたいな。じつはそういう人、結構いるんですよ。さまざまな水草が輸入されて入手できるようになった流れの中で、水の中では育たなくても、陸上のジメジメした環境だとグングン育つような植物がやがて市場を席巻していき、その流れで、僕もそういう植物のほうがメインになっていった、っていう感じですかね。 K:原点が熱帯魚だったというのは、なんか可愛らしいエピソードですね(笑)。 H : そうですね(笑)。でも、わりと植物をやってる人って、虫や熱帯魚の愛好家もかなり多いんですよ。そうして僕も、ちょっと変な水草から、上陸してきたって感じです。 K:上陸(笑)。人類の進化を見ているようですね。私の植物栽培歴は陸上植物のサボテンから始まったのですが、乱獲の影響で自生サボテンの多くがワシントン条約で保護されています。水草というと、イコール水辺ですから、開発等で水辺が減り、種の保存の観点から規制がかかっているものとかもあるのですか? H : 水草でワシントン条約に引っかかるものは、ほぼないと思います。ただその逆で、日本の水田などで増えちゃうものが多いため「特定外来生物法」で禁止ってパターンがかなりありますね。サボテンも多肉も、環境を脅かしたり、増殖によって国を出ちゃうなんてことはないと思いますが、その点では僕らのやっている水辺に自生する熱帯植物は、まだ観賞植物としての栽培の歴史も浅いので、先のことを考えて、これから熱帯植物を楽しむ人はもちろん、既存の愛好家に対しても、そのあたりをもっとしっかりとアナウンスしていかなければ、と思っています。観賞植物の歴史の浅さとは裏腹に、熱帯植物の世界はとても奥深いので。 K:その奥深い世界を股にかけ、長谷さんはプラントハンターとしていろいろな国を旅されていますね。たくさん経験を積まれてきた中で、何か思い出深いエピソードがあったら教えていただけますか? H : そうですね、場所にもよりますけど、基本はジャングルに単身で入っていくので、山中泊するときもあるし、ジャングル自体が水没しているようなところでは、足を取られるほどドロドロの泥の中を2〜3日歩くときとかもありましたけど、その程度かな。。。 K:いやいやその程度って、普通の人は水没したジャングルを歩きませんから(笑)。なんか、以前やっていて最近また始まるという噂の"某クレージーな旅番組"に出られそうですね。 H : あれ、一応出たんです(笑) K:え!マジ!? H : 2回目の収録も済んでたんですけど、僕の2回目のやつの放送日の2週間前ぐらいに、例の問題が出てポシャッちゃったっていう経緯がありまして...。 K:いやいや、ガチでやってたところが凄い! H : ガチでしたね〜(笑) 来年もまた同じところでやれたらな K:さて、天下一植物界ですが、来年はどうなりそうですか? 2年ぶりの開催でこの大賑わいですから、来年も一層期待してしまいます。 H:来年かぁ…、イベントってホント不思議なもんで、準備をしているときは毎回「もう絶対二度とやらん!」と思いながら、当日になると、次回もぜひ、っていう話になってくるので(笑)。今回もそうなったんで、来年もやる予定ではいます。会場や日程は未定ですが。 K:では、次回は東京、あるいは首都圏に来るかもしれない、という期待を持っても? H:いや、基本は関西ですね。実行委員は3人しかいないんですけど、拠点が全員関西なので、打ち合わせなどで東京まで行くのはなかなか厳しいので、基本関西。今回の会場(宝塚市立文化芸術センター)はすごくよかったので、できたらまた同じところでやれたらな、とは思っているんですが。 K:会場の雰囲気、よかったですもんね! H:屋外ブースとか最高でしたよね! 天候に助けられたというか、嵐の去ったギリギリ後だったので、じつにツイていました。 K:イベンターさんにとって、ツキって、結構大事だと思いますよ。そのツキを味方に、ぜひ植物界の万博を目指してください。 H:そこまでは(笑)、まぁ、大きさというより、さらに面白いイベントになるように、頑張っていきたいと思います。 K:イベント終わりのお忙しいところをありがとうございました。次回も楽しみにしています! 取材で見えた、天下一植物界の未来、グリーンムーブメントの未来 2022年は、withコロナの中でもさまざまなイベントが催されるようになりましたね。コロナ禍で間口の広がった植物栽培への関心が、こうした植物系のイベントによって高まり、今まさにグリーンムーブメントは最高潮を極めているように感じます。販売を目的としたイベントが多い中で、天下一植物界は、植物と人との関わり方を一段高いフィールドへ昇華させたいという主催者長谷さんの熱意に、このイベントの未来、そしてグリーンブームの未来がより一層私たちの心と生活を豊かにしてくれるのでは、と期待せずにはいられません。天下一植物界、来年も楽しみです。 今回は見られなかったブースをご紹介 今回惜しくも時間の関係でお話を伺うことができなかったお店を紹介したいと思います。 sin 取り扱い品目 : 植物モチーフの真鍮/植物アクセサリー https://twitter.com/sin_brass HEAT WAVE &山水苑 取り扱い品目 : 熱帯植物/オリジナルケージ/肥料 https://heat-wave.ocnk.net Hiro‘s Pitcher Plants 取り扱い品目 : 食虫植物/ウツボカズラ http://www.hiros-pitcherplants.com 小林商会 取り扱い品目 : 世界の木の実 http://jamkobayashi.com Tanakay 取り扱い品目 : 南米の植物 https://yadoku-gaeru.blog.ss-blog.jp Azul Aquarium 取り扱い品目 : Aglaonema/Homalomena http://pokoujiaz.exblog.jp Light-Box 取り扱い品目 : 植物を撮影した作品や旅行記/エッセイ http://www.lightbox-archive.com/about.html Mosslight 取り扱い品目 : LED照明付きテラリウムの展示 https://mosslight-led.amebaownd.com TORIHADA PLANTS 取り扱い品目 : Tillandsia https://twitter.com/CorkRoots Comolebi Plants 取り扱い品目 : Platycerium/ビカクシダ https://comolebiplants.com Succulent Box Ruchia 取り扱い品目 : 多肉植物 https://www.instagram.com/ruchia_60/ STRAIGHT 取り扱い品目 : 書籍 https://www.instagram.com/straight_books/ SPECIES NURSERY 取り扱い品目 : ブロメリア/チランジア/ケープバルブ/多肉植物 http://speciesnursery.com 南九州植物園 取り扱い品目 : ヤマアジサイ/カンアオイ/原種ラン/シダ https://www.rakuten.co.jp/nankyu/ 芳明園 取り扱い品目 : サボテン/多肉植物 https://www.instagram.com/houmeien/ 日々の、 取り扱い品目 : 着生シダ/その他 https://www.instagram.com/katsu_hibino/ dubhe 取り扱い品目 : 古い博物図版等 https://twitter.com/dubhejp B_The_U 取り扱い品目 : アクセサリー/雑貨 https://twitter.com/plantsBTheU KOKESHINOBU-LOG 取り扱い品目 : コケシノブ/シダ/コケ https://kokeshino.exblog.jp (有)ピクタ 取り扱い品目 : 観葉植物/栽培資材 https://www.picuta.com 喜晴園 取り扱い品目 : 古典植物/珍奇植物/その他 http://kiharuen.life.coocan.jp KOKEMON 取り扱い品目 : テラリウム http://www.kokemon.com 植物アクセサリー Sentier(サンティエ) 取り扱い品目 : 金属化させた植物とガラスでつくる植物アクセサリー https://www.instagram.com/emikomiyazaki THE VERDANT CITY 取り扱い品目 : 生花 http://theverdantcity.com つるかめ山草園 取り扱い品目 : 原種シクラメン/シダ/オエセオクラデスなど http://www.turukamenosansouen.com Bela Vista Orchids 取り扱い品目 : 原種洋蘭(ブラジル/中南米産) https://twitter.com/hirokovista はちのへ洋らん園 取り扱い品目 : 洋蘭各種/ジュエルオーキッド/アロカシア https://twitter.com/unicum2go 伊藤蟻植物農園 取り扱い品目 : アリ植物/コルムネア/その他熱帯植物 https://stringeplants.com 仙人スパイス・純胡椒 取り扱い品目 : 純胡椒(生の胡椒の塩水漬け) http://sennin-spice.com 蜜林堂 取り扱い品目 : ハリナシバチ蜂蜜/熱帯植物グッズ http://mitsurindo.com ワカヤマオーキッド 取り扱い品目 : 洋ラン/小型ラン/珍奇植物 http://www.w-orchids.net TEAM BORNEO 取り扱い品目 : アグラオネマ/その他 http://teamborneo.com/home.html 市野伝市窯 取り扱い品目 : 丹波・伝市鉢 http://denichigama.com ㍿東和物産 取り扱い品目 : 温室/温室設備 http://hidamari.co.jp 宝生園 取り扱い品目 : 伝統園芸植物万年青(おもと) http://www.housyouen.jp 高橋園芸 取り扱い品目 : 原種洋蘭/プラチセ/ホヤ/資材 http://www.takaorchid.com MundiFlora Farm 取り扱い品目 : 南米のラン https://ja-jp.facebook.com/MundifloraFarm/
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多肉・サボテン
【珍奇な多肉植物】サボテンやコーデックスなど、ブーム真っ最中の珍奇系多肉植物の魅力を新人編集部員が徹底解説!|多肉植物狂い vol.01
サボテンが好きすぎて・・・ こんにちは。サボテン好きが高じて、新たにガーデンストーリー編集部に加わりました、編集部員Kです。これから皆さんに、サボテンやコーデックスなど、ちょっと可愛らしくも珍奇な多肉植物の数々をご紹介していきます。育て方などのお悩み解決はもちろん、入手方法や、プロ栽培家への取材など、多肉植物に関するさまざまな情報をアップしていきますので、楽しみにしていてくださいね! 私は日本酒を好み、葉巻もたしなみますが、やはり最高な時間は、我が家のサボテン60株、コーデックス11株を、ひと株ひと株呼んで、「そのトゲ、いつ生えたの? とてもCoolだね」、「どう?日本の気候には慣れた?」と、語り合いながら一杯飲ることです。さながら高校の個人面談ですね。 サボテンとコーデックス、その限りなき魅力 サボテンやコーデックスは「珍奇植物(ビザールプランツ)」とも呼ばれ、その特異なフォルムが世界中の愛好家を魅了しています。 サボテンの魅力は種類の豊富さと幅の広い価格 一般にサボテンといえば、まず思い浮かぶのは、西部劇にも出てくる「柱サボテン」ではないでしょうか。しかし、サボテンにはさまざまな種類があり、例えば、お馴染みの鋭いトゲが、老人の白髪のようなふわふわとした形状に変化したものや、そもそもトゲ自体がないものなど、その珍奇な見た目から、いわゆるステレオタイプのサボテン像をくつがえすような品種が数多くあります。 価格帯も非常に幅広く、ウサギの耳のような形が可愛らしいバニーカクタスのように、街のお花屋さんで見かけるようなサボテンは千円にも満たない値段で購入できますが、過酷な生育環境をルーツに持つような珍種ともなると、オークションで数十万円という値で取り引きされています。安価なものは育てやすいのですが、高価なものは値段に似合う「気難しさ」を持つものが多く、栽培にはそれなりのスキルが求められます。 コーデックスの魅力は珍奇なフォルムに似合わぬ育てやすさ コーデックスは、「塊根植物」という名の通り、茎や根に水分をたっぷりと含んだ「塊」が特徴の多肉植物で、その多くが一度見たら忘れられないような形をしています。主な原産国であるマダガスカルや南アフリカの厳しい環境に順応するように、とても長い年月をかけて進化していった結果、このようなフォルムになったといわれています。そのように聞くと、愛嬌のあるフォルムにも、どこか地球規模の壮大なロマンを感じてしまいます。 しかし、気難しい頑固者が多いサボテンと違い、初心者でも気軽に楽しめる育てやすさも、コーデックスの大きな魅力の一つで、おうち時間が増えたことを背景に、コーデックスは今ブームにもなっています。そのため、昨今(2022年4月現在)は価格も少々お高めに推移しており、値段の面では、気軽に、というわけにはいかないようです。ちなみに、コーデックスにハマッた人が必ず目指すのが「グラキリス」という品種の輸入株を育てること。輸入株は国産株と異なる奇異な形状が特徴で、そのため数万円の値が当たり前のように付けられています。 花が咲いた時の感動は圧巻! ブラッディーオレンジの花が情熱的な、エキノケレウス「オレンジ花桃太郎」の開花シーン。 どうしても花を咲かせたい場合は開花株の購入がおすすめ サボテンもコーデックスも、その多くは大変美しい花を咲かせます。しかし、花を咲かせるには、株の大きさや生育環境など、諸条件が整うことが必須。そうなると、ある程度の栽培手腕が必要となるため、「すぐに花が見てみたい!」という初心者の方は、既につぼみを付けた開花株を購入するとよいでしょう。 切磋琢磨の結晶が花開いたときの感動 サボテンもコーデックスも、基本的には外来植物。いかに原産国の気候風土に近づけられるかが上手に育てるコツだと、プロの生産者さんから伺ったことがあります。でもそれって、結構難しいですよね。特にサボテンは乾燥地帯出身なので、日本のジメジメした梅雨の時期や、真夏の直射日光は大敵。分かってはいても、ついバルコニーから室内に取り込むのを忘れて出かけてしまい、表面の一部が日焼けしてしまった、なんて失敗はよくあることです。 このように、失敗と学びを繰り返し、切磋琢磨しながら時間と手間をかけた愛株が花を咲かせた時は、とっておきのお酒で一杯飲りながら、ここに至るまでの道程に浸ってしまいます。目を閉じればそこに、北米や南米の砂漠地帯でたくましく生き抜く、仲間のサボテンたちの息吹さえも聞こえてきます。サボサボ、、、サボサボ、、、と。 SNSと共に楽しむ多肉植物 インスタグラムで、サボテン(cactus)や塊根植物(Caudex)、多肉植物(succulentplants)をハッシュタグ検索すると、膨大な数の投稿を見ることができ、国籍や人種にかかわらず、老若男女が十人十色で楽しんでいる様子がうかがえます。私もインスタグラムは近しい友人たちと楽しむ程度で使っていますが、たまに、栽培しているグラキリスの写真を投稿しようものなら、「いいね」の数が5〜6倍に突如跳ね上がり、海外の愛好家さんから「It’s so cool, Bud!(いいね、兄弟!)」とメッセージをいただいたことも。 また、栽培で困ったことなどをDMで相談すると、大抵の場合はやさしく返信をしてくれるので、ちょっとした知恵袋としても使えます。このように、SNSで情報交換をしながら楽しむことができるのも醍醐味の一つ。多肉愛がさらに膨らみますよ。 育て方に正解がないからこそトライしてみる価値がある サボテンやコーデックスの育て方をネットで検索してみると、根の通気姓を確保する、肥料のあげすぎは避ける、など、大筋は一緒なのですが、細かい栽培方法に関しては微妙にニュアンスが異なる記事を多く目にします。これに関して、とあるショップの二代目に尋ねたところ「正解なんてないからね。だからこそ面白い」という答えが返ってきました。プロの意見って、説得力がありますよね。確かに、正解がないからこそトライする価値があり、それこそ、ビザールプランツ最大の魅力なのだと思います。 おわりに 数ある多肉植物の中でも、サボテンやコーデックスは、ちょっとマニアックな価値観をもつ人たちが集うディープな世界。ガーデンストーリーでは、より多くの人にこのディープな世界観を楽しんでもらえるように、今後、現場の「マニアックなプロ」からのアドバイスもどんどん掲載していきますので、乞うご期待です! Credit 文/編集部員K フリーランスのロックフォトグラファーを経て2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。サボテンに魅せられて以来5年の時を経て、天職を得たと狂喜している。 写真/JOHN CHEESEBURGER