【天下一植物界Vol.4】信楽焼の植木鉢と植物を模った陶植。植物をアートに昇華させる二人の匠に迫る。

今、最も注目の植物イベント「天下一植物界」。実は植物だけではなく、味わい深い信楽焼の植木鉢や、植物をモチーフにした陶製のオブジェなど、インテリア雑貨のブースも賑わいを見せていました。天下一植物界レポート第4回目は、植物との暮らしをワンランク上の、ちょっとアーティスティックな世界にワンランク引き上げる、鉢と陶植にスポットをあて、二人の匠にお話をうかがいました。
植物だけじゃない、天下一植物界の楽しみ方

賑わいを見せる天下一植物界2022の各ブース。サボテン、コーデックス、ビカクシダと、珍奇系や希少系の植物に人気が集まっていましたが、インテリア雑貨勢もこれに負けず劣らず賑わいを見せていました。中でも、お気に入りの植物に箔がつく芸術的な植木鉢や、植物をモチーフにしたハンドメイドアクセサリー、オブジェなどが人気で、お客様も興味津々で商品を手に取って眺めていました。今回の天下一植物界特集Vol.4では、ハンドメイドで信楽焼の植木鉢を製作しているコム・ワークスタジオと、多肉植物などをモチーフにしたオリジナルデザインの陶製オブジェ「陶植」を製作するSTUDIO.ZOKにスポットを当て、二人の匠にお話を伺ってきました。
【コム・ワークスタジオ】実行委員も惚れる、信楽焼の妙技

外ブースの一角にずらりと並んだ、一見して茶器を彷彿させる独特な味わいの植木鉢たち。近くに寄り、手にとってみると、それが植物が纏うことによって完成する芸術作品であることが分かります。
これらの鉢を作るのはコム・ワークスタジオの吉本敏彦さん。植物が大好きで、ご自身もコーデックスなどを育てている吉本さんは、天下一植物界には今回が初の出店となります。ここに至った経緯は、天下一植物界の前身イベント「BORDER BREAK!!」で、自分の鉢に合う珍しい植物を探すのを1入場者として楽しみにしていたところ、時を同じくして吉本さんの鉢に惚れ込んだ実行委員スタッフが信楽の工房まで吉本さんを口説きに来て出店が実現したというのだから、さすがにスタッフの目も肥えていますよね。天下一植物界スタッフをも唸らせた吉本さんの作品、早速その魅力に迫ってみましょう。
代表の吉本敏彦さんに聞く、鉢作りの極意

作品のベースにあるのは日本的な侘び寂び
K:今回の出展で、来場されたお客様に吉本さんのブースでここを一番見てほしい! というところがありましたら教えていただけますか?
吉本(以下Y): 僕はその植物が原産地で自生している様子を想像し、その株にマッチした鉢がどんなものか、そして自生している姿に近い姿で株を育てるにはどんなものが相応しいのか、との思いで鉢を作っています。砂漠の中にみずみずしく光る緑、険しい岸壁に咲く可憐な花。植物の生命力、美しさと力強さを表現できる鉢。そんな鉢を作っていますので、ぜひ私のブースにお気に入りの一鉢を探しにきてください。

K:吉本さんの作品からは何かこう、自然の香気みたいなものを感じますね。鉢を作るときに、何かこの鉢にはこの植物が合うだろうなみたいな、植物のイメージを浮かべて作られたりするのですか?
Y:というよりも、ベースにあるのは日本的な侘び寂びなんですよ。このヒビとか、ちょっと朽ちた感とか、そんな土の表情を大事にして作っています。信楽の目の荒い土は、通気性と吸水性に優れており、その土の素材の特徴と美しさも大切にしています。全ての制作工程はロクロを使うことなく手でつくりますし、あとは色はもう釜まかせなんで。うちは釜が大きいので、釜の中の置く場所によってどうしても色が変わるんですよ。あるものは赤っぽくなり、またあるものは白っぽくなる。色がこれだけ違うと、そのばらつきもまた良さの一つなんですよね。同じ種類の鉢であっても、それぞれの表情はすべて微妙に違うので。私の鉢はそこを楽しんでもらえればと思います。
アメリカからは、植えた人が写真を送ってきてくれるんですよ
K:同じ材料、同じ工程で、そのように色が自然の技、というか、火の技で変わるというのも、どこか偶然性があって面白いですね。そうして出来た鉢ですが、拝見したところ、やはりサボテンが合いそうですね。
Y:そうですね、吸水率がいいので、多肉系、特に塊根とかサボテンとかが相性がいいですね。日本的なイメージで作ってるから多分外国でもウケてるんだと思います。
K:では海外からの引き合いも?
Y:アメリカ、香港、台湾、あとオーストラリアにも出しています。
K:カリフォルニアの邸宅で、吉本さんの鉢を使ってサボテンをあつらえたら、さぞ映えるでしょうね!
Y:アメリカからはね、植えた人が写真送ってきてくれるんですよ。
K:素晴らしい話ですね!

Y:鉢って、あくまでも植物が主役ではあるんですけど、決して引き立て役というだけではなく、かといって過度には主張せず、まぁ言ってみれば服みたいなもんですからね。お客さんの大切な植物に、よく似合う服であったらいいなと思って作っています。
ないのなら作っちゃおう! で始まった
Y:僕はね、植木鉢作り始めてもう15年ぐらいなんですけど、最初作ったのは僕が買った植物に合う鉢がなくなって、遊びで作ったのが始まりですから。
K:ないなら作っちゃおう! というのが、趣味人の大人の発想で、なんか素敵ですね! ちなみにその時は何の植物だったのですか?
Y:コーデックスだったんですね。価格も結構高かったので、これを駄鉢に植えるのはちょっと嫌だなと思って、じゃあ作っちゃおう! というのがきっかけで、どんどん作っているうちにこうなっちゃったんですよ(笑)。
K:なるほど(笑)。ちなみに、吉本さんの鉢はオーダーメイドもOKなんですか?
Y:ええ。受けています。ただし、こんな感じのイメージで作ってほしいっていうゼロからの依頼を受けているわけではなく、例えば、すでに僕が作った鉢の中から、直径が50cmのバージョンを作ってくれ、というような依頼を受けていて、それがアメリカからは頻繁に来ます。そんな感じで、現行モデルをベースにした特注品にはできるだけ対応をさせていただいてます。
K:アメリカから発注がくるのは、すごいですね!
Y:えぇ、アメリカのはかなり大きいのを作りましたよ。
K:アメリカは家も植物も、何から何までデカいですからね。さぞかし壮観でしょうね!
Y:僕の鉢は、カリフォルニア方面ではサボテンがメインですが、ニューヨークの方面では観葉植物がメインのようですね。
K:やはりあれだけ国土が広いと、国の東西で植える植物にも違いが出るものなのですね。対して、狭い我が日本ですが、もうしばらくしたら、鳴りを潜めていたインバウンドの熱が再来しそうな気がします。そうなれば、吉本さんの鉢の魅力、世界中のさらに多くの人に知ってほしいと思います。これからも創作活動がんばってください! 本日はお忙しい中ありがとうございました!
Y:こちらこそありがとうございました。

取材に赴く前に、吉本さんの作品群をネットで拝見して、その作品数にも驚きましたが、実物を実際に見て触ってみると、これ相当感動しますよ。私も多肉植物好きの端くれとして、お気に入りの株をいくつも持つ身ですが、帰宅後、居並ぶ子らを見るに、吉本さんの作品で飾りたいと思った株がいくつもあります。なので、吉本さんの鉢、ぜひ購入しようと思います。給料日後に(笑)。
そんな吉本さんの鉢はこちらから購入できます。大きさの指標にとんがりコーンを使っているところがお茶目。
【STUDIO.ZOK】一見して本物、一見して違う物、両方の視線で楽しめる陶製オブジェ「陶植」

サボテンのお店? かと思って近づくと、そこにあったのはなんとアストロフィツム属サボテンを模った陶製のオブジェ! 遠巻きに見ると本物に見間違えるのですが、近づくにつれ正体が分からなくなり、目の前にくると誰しもが「触っていいですか?」と聞いてしまうのです。何かこう、不思議な引力を持っているオブジェです。
手がけるのは、今回で天下一植物界には二度目の出店となる愛知県の陶製工房STUDIO.ZOK。「陶植」と呼ばれるこれらの作品のバリエーションはサボテンにとどまらず、グラキリスや亀甲竜などの多肉植物にまで及びます。グラキリスに至っては、葉の部分をマグネットによる着脱式にし、葉を落としたフォルムも楽しめるなど芸が細かい! このギミックは、その植物の魅力を知っているからこその成せる技ですね。その技の主、STUDIO.ZOKのクリエイター滝上玄野さんにお話を伺い、陶植の魅力について語ってもらいました。
クリエイター滝上玄野さんに聞く、創作の真髄

育てるのが苦手な方に少しでも植物の世界との繋がりを
K:今回の出展で、来場されたお客様に滝上さんのブースでここを一番見てほしい! というところがありましたら教えていただけますか?
滝上(以下 T):ん〜、どの作品も丹誠込めて制作したものたちなので全部! と言いたいところですが、練り込み技法を使った新作の斑入り(多肉植物などにおける色素が変異した品種)陶植や、葉ものに挑戦したマクラータ(ベゴニアの種類)なんかが発表したてのホヤホヤなので、見てもらえたら嬉しいです。あとは、このイベントではブースの多くが生産者さんのため、そこに紛れ込んでいるかのように、作品をプラ鉢にセットして、イベント全体に溶け込むようなディスプレイにしてみました。本物? 作り物? と、興味を持ってまずは触ってもらい、作品自体を面白いと思ってもらえたら嬉しいですね。
K:作品のリアリティーには私も興味津々でした。滝上さんがこれらのオブジェを作ろうと思ったきっかけを教えていただけますか?
T:そうですね、陶植は7年前から制作しているのですが、元々は鉢を制作して盆栽やサボテンなどをコラボという形で仕立ててもらっていたんです。陶植の最初のきっかけですが、イベント出展する先で、植物は好きだけど育てるとなるとちょっと、というお客様が結構いることを知ったんです。「私には育てられないから」と植物の魅力は感じながらも諦めるなんて、なんか、もったいないじゃないですか。僕も植物をいくつも枯らした経験があるので、その気持ちはすごく分かります。でも、そのもどかしさに対して僕自身、何かできることがないかなって考えていたんです。
そんな時、仕事で生産者さんと関わるようになって、サボテンやコーデックスの形の面白さや種類の多さなど、知らないことばかりで驚きの連続でした。まさにこれこそ本物のアートだと思ったんです。その時に、このアート的な面白さの力を借りて、植物をオブジェとして陶器で制作することで、植物好きな方のインテリアアイテムにもなり、育てるのが苦手な方には少しでも植物の世界に繋がりが持てるものができるんじゃないか、と思ったのが始まりです。

植物に取って代わるものを作りたいわけではない
K:思いやりが原点とは、また素敵なエピソードですね。そんな優しい思いが込められているのなら、余計に欲しくなりますね(笑)。
T:ありがとうございます!
K:これらの商品、皆さんにも実際に視覚と触覚で堪能してほしいと思ったのですが、作品を作る際に、再現性だったりとか、素材選びだったりとか、特にここは意識や力を注いでいる、というものはありますか?
T:作品を作るにあたっては、いろいろと注意している点はありますね。基本的に今制作しているものは陶製の素材感を出すということは大事にしています。なので、ベースの色味は土自身の色を使って表現しているものが多いです。そして、本物に似せて作ろうとしすぎないことを軸にしています。レプリカではないというか、ここのニュアンスはとっても難しいんですが、あくまで「陶製のインテリアオブジェとして楽しむためのもの」なんです。植物に取って代わるものを作りたいわけではないんです。なので、あえて色味を寄せなかったり、形をデフォルメしたりしています。ちょっと変わった置物のほうが飾り甲斐があると思うんです。ただ、モデルによっては特性上寄せないと全く分からないものもあるので、そこはうまくバランスを取って、要はさじ加減次第というやつです(笑)。そんな作品を通して、お客様には植物の世界にも繋がりながら陶芸としての世界にも魅力を感じていただけたら嬉しいですね。


僕ならではの方法で植物シーンを広げていけたら
K:自分の育てているサボテンやコーデックスなどの愛株をモチーフにしたオブジェやアクセサリーを滝上さんに作ってもらう、というようなオーダーメイドは可能ですか?
T:オーダーメイドは受けていないんです。というのも、新しいものをつくるのには膨大な時間がかかってしまいます。形によっては成形可能な範囲も限られたり、色味なども窯から出すまで分からないので、制作から焼き上げを1つ作るのに何十個試さなければならないケースもあって、価格的にも難しいため、基本的にはオーダーメイドは受けていないんです。でも、そういった面をご理解いただけるようでしたら、ご相談いただけたらと思います。ただ、こんな面白い種類があるよ! とか、今これが人気だよ! とかの情報は、私自身の勉強にもなるので、ぜひ教えてもらえると嬉しいです。
K:そういう情報ってありがたいですよね。財布の紐が緩むので困りますが(笑)。
さて最後に、ガーデンストーリーは、グリーンと共に日々の生活を楽しむためのコンテンツをお届けしているWebメディアでして、多くの読者が多様なスタイルで園芸を楽しんでいます。そんな読者のみなさんに、何かメッセージをいただけますか?
T:はい、暮らしを楽しむ1つとしてボタニカルファッションであったり、ファブリックであったりと、植物の魅力は世界を広げてくれます。僕の作る陶植は、一輪挿しにできるタイプがあったりとインテリアをより楽しむために制作していて、僕ならではの方法で植物シーンを広げていけたらと思っています。みなさんもぜひ、広い意味で「植物のある暮らし」を楽しんでもらえたらと思います。その中に陶植を選んでもらえたら一番うれしいですね!
K:今日はお忙しいところありがとうございます。新作情報、楽しみにしています!

STUDIO.ZOK滝上さんの作る陶植は、ぜひ実際に目で見て、手で触れてみてください。触れた瞬間、あそこに置いたらこんな感じかな、あそこに置くとどう見えるかな、とか、そのオブジェが自宅の部屋を飾るシーンの数々が脳裏に浮かびます。手にとった人の想像を掻き立てるオブジェ、そこに込められた思いは、滝上さんの、植物と人とを繋ぐ架け橋になりたいという優しさでした。だからでしょうか、会場で作品を手にする人は皆、素敵な笑顔になっていました。手に取る人の心を和ませる滝上さんの作品は、植物を育てるのが得意な人も、苦手な人も、また、植物が好きな方への贈り物としても最適ですよ! 下記よりご購入できます。
職人の技巧も堪能できるイベント、天下一植物界
いかがでしたか? 匠の技特集。二人とも、同じ土でも、種を植えるのではなく、型を作って火に入れるという、ある意味土を操る魔術師ですね。
しかしこの天下一植物界、上物(植物)も買え、下物(鉢)や、アート作品まで揃ってしまうなんて、ちょっとよくばりなイベントですよね。鉢を作る吉本さん、陶植を作る滝上さん、お二人に共通するのは、植物を愛するがゆえの情熱に突き動かされ物作りをされていること。そんなお二人の創作活動を、ガーデンストーリーは今後も応援していきます。目が離せませんよ!
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Credit

文/写真:編集部員K
フリーランスのロックフォトグラファーを経て2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。サボテンを愛し5年、コーデックスに魅せられ3年、これぞ天職! と、精力的に取材、執筆を行う。好きなサボテンはゲオヒントニア・メキシカーナ、好きなコーデックスはパキポディウム・ルテンベルギアナム。
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