【天下一植物界Vol.2】美株サボテンと話題のコーデックスが奇跡の競演!
希少な「黒王丸」に、孤高の存在「メキシカーナ」、曙斑入りの「天城」、長美株の「菊水」などなど、趣味家垂涎のサボテンから、グラキリスを筆頭に人気沸騰中のコーデックス(塊根植物)まで、2年ぶりに開催された植物イベント「天下一植物界」を飾る多肉植物各ブースは珍品逸品勢揃い! 今回は、貴重なエピソード満載の多肉植物特集をお送りします。なんと、サボテンの神様まで降臨!?
目次
趣味家垂涎の多肉3ブースはお宝が目白押し
世の中に「タニラー」という造語まで生んでしまうほど、今多肉植物の中でも人気を二分しているのが、コーデックスとサボテン。根が地上にせり出したようなぷっくりとしたフォルムが特徴的なコーデックス(塊根植物)と、コロナ禍のおうち時間を過ごす若者の間でも人気のサボテンのファンが激増中です。天下一植物界には多くの多肉植物ブースが出店していますが、今回はその中からコーデックス、サボテンをメインにした3つのブースに取材を敢行。多肉栽培にお役立ちのHow toや、ここでしか聞けない裏話など、タニラーにはたまらない話題が満載です。
紛れもなくタニラーの私にとって、今回の取材行でラッキーだったのは、会場にATMがなかったこと。もしあったなら、妻の待つ拙宅の玄関は間違いなく閉ざされたままだったでしょう。そんな小市民の私が、偶然にも、サボテンの神様とも仰がれるカリスマ生産者の村主康瑞(すぐりこうずい)さんに遭遇! 貴重なお話をたくさん伺って、鳥肌が立ちっぱなしでした。そんなインタビューの模様を収めた終章の「サボテンの神様、降臨」のエピソードは、マジに必読です!
【浦部陽向園】財布のヒモも緩む、サボテンと盆栽のテーマパーク
まず最初に訪ねたのは『浦部陽向園』。運営側からの推薦を受けて今回で2度目の出店となります。盆栽とサボテンという、一見ミスマッチな組み合わせですが、自然と両者が調和しているのが意外でした。
天下一植物界で唯一盆栽を取り扱っていたのが『浦部陽向園』。もし開催時に海外からの観光客に対する国の制限措置が解除されていたら、ここはきっと外国人でごった返していたのだろうと思います。面白かったのは、家族連れ客のお父さんが子どもに「どっちが欲しい?」と聞いたら、「こっちがいい!」と盆栽を指差していたことです。ひょっとして、サボテンのトゲが怖いのかな? しかしながら私の目は、盆栽の隣に集団をなす美株サボテンに釘付け。私の大好きなメキシコのサボテン「メキシカーナ」までありました。
じつは、この意外とも思える盆栽とサボテンの組み合わせこそ『浦部陽向園』の美株作りの真骨頂、というのは、店主の浦部久美子さん。園芸との出会いは大阪府立園芸高等学校まで遡り、高校の3年間でみっちり園芸を学んだという浦部さんに、サボテン栽培のノウハウを伺いました。
盆栽の侘び寂びを活かしてサボテンやコーデックスをお客様にお届けしているのがうちの特色
K:盆栽とサボテンというのも、なかなか面白い組み合わせですね。
浦部(以下U):サボテンやコーデックスは盆栽型にしやすく、シルエットは似ているところがあります。そのシルエットが引き出す「心の癒やし」をテーマに、手に入れた瞬間から愛着がわくように形を作っています。具体的には、盆栽型に作れそうなものを探し、陶器鉢に植え替える際に、盆栽を観賞する時のように、いろんな角度から植物を眺めて侘び寂びの雰囲気が味わえるよう、植え付け角度にはこだわっています。また、お客様にとってなるべく育て方が容易なものを選別しています。このように、盆栽作りの経験を活かしているのが、うちの特色だと思います。
よい株に育てるには、アメとムチを
K:それにしても美株揃いですね!
U:うちの圃場のある豊能町は、冬場の朝晩の気温が平均5℃まで下がるので、日中との寒暖の差が、綺麗で丈夫なサボテンを作り上げるのだと思います。
K:やはり寒暖を与えることって、重要なんですね。
U:えぇ、寒暖を与えてあげることはとても重要です。日当たりがよくても、家の中にずっと置きっぱなしにするよりは、季節に応じた暑さ寒さを与えたほうが、球体の張り・艶もよく、品種の持つトゲの特徴が顕著に出たよい株に育つんです。ただし、氷点下になるような時は、霜よけぐらいはしたほうがいいですね。そして冬場12月から3月までの2〜3カ月の間は水を断ちます。
K:霧吹きでパパッとやるのもなしで、完全に水を断ってしまう感じですか?
U:はい。完全な渇水状態にします。
K:私も自宅のサボテンは冬場は渇水しますが、渇水によってシワシワになったあのサボテンを見ると、初心者にとっては、ちゃんと春に元のぷっくりとした状態に戻ってくれるのかが、けっこう怖いと思うんですよね。
U : その気持ちは分かります。うちも加温しないビニールハウスだけなんです。だからサボテンたちにとってはかなり寒いと思いますが、その寒さがよい株に鍛え上げるんですよ。
元気の源は「馬糞」
K:陽向園さん流の、用土についてのコツがあれば教えてください。
U:うちは、植えるときに全ての商品に馬糞を原料としたオリジナルの肥料を入れちゃうんですよ。近所の乗馬クラブからいただいている馬糞があって、その栄養のバランスがまたちょうどいいんです。
K:馬糞ですか! これまた栄養豊富そうですね(笑)。
U:はい。そのままの馬糞には虫とかがけっこう寄ってくるので、それは嫌なんですけど(笑)、でもやっぱりこれがいいんです。でも、さすがに一般のご家庭で馬糞を原料から吟味して肥料を作るというのは難しいと思うので、園芸店で売られている馬糞堆肥や、入手しやすいマグアンプとかでも大丈夫ですよ。うちはそれが容易に手に入るため、全ての商品に入れています。
K:だから皆こんなに顔つきがよいのですね。ちなみに、馬糞が原料とのことですが、肥料それ自体からは馬糞の臭いはしないのですか? こうやって鼻を近づけても異臭はしませんが。
U:したら売れないです(笑)
奇跡が生み出す、美しい曙斑(あけぼのふ)
※ 斑入りとは、通常緑色の肌のサボテンに、突然変異や交配などにより黄色や赤などの色が模様として現れたものを指し、通常の個体よりも高価になる。江戸時代の古典園芸でも、この変化を「葉芸」として観賞し、珍重されてきた。
U:この天城についている「曙斑(あけぼのふ)」は、夏場は消えちゃいます。「曙斑(あけぼのふ)」というのは、新芽が伸びるときなどに現れるもので、成長にともなって薄くなったり消えたり、曙のように時間経過とともに変化していく性質の斑のことをいいます。この球体はいったん緑に戻りますが、冬を越して、今(5月)のような、サボテンにとっていい季節なると、また出てきます。斑の入ったサボテン全てがそうというわけではないのですが、曙斑に関してはそんな感じで、出たり消えたりを繰り返します。
K:曙斑のように綺麗な模様を入れるコツみたいなものがあるのですか?
U:コツがあるというわけではなく、うちでは他のサボテンと同じように育ててはいるので、まさに自然の産物ですね。ただ、完全に自然かというとちょっと違っていて、斑入り同士を掛け合わせたりとかはしています。それでもやはり曙斑は貴重ですね。何千粒って植えた中の1個とか、そんなぐらいの確率ですね。
K:意図的にやって作れる物ではない中からこれができるなんて、とても神秘的ですね!
U:ただ、ちょっと日に焼けやすいので、外に置く時は、直射日光に当てないように気をつけなければなりません。どうしても、斑のところは焼けやすいので。
K:まぁ、言ってみれば色素がない箇所ですからね。話は変わりますが、あの奥の「マクドガリー※」、大きくて綺麗ですね。私もマクドガリーを栽培していますが、うちのは下部が茶色く変色しちゃっているんですよ。でも腐っている様子はないんです。それって、やはり病気なのでしょうか?
※オルテゴカクタス・マクドガリーはメキシコの標高2,000m以上の高地に自生する1属1種のみの貴重なサボテン。その美しい表皮の色から「美肌サボテン」の異名を持つ。
U:この子もそうですよ。
K:あ、本当だ! じゃあ病気ではないのですね?
U:はい。これはなぜこうなるかは謎なんですが、マクドガリーだけなんですよね。でも、この子を見てくれれば分かるように、しっかりと元気に成長していますので、心配ないかと思います。
K:ホッとしました。今日はお忙しいなか、いろいろと教えていただき、ありがとうございました!
馬糞が秘訣とは、驚きでしたね。そんな『浦部陽向園』のサボテンは、下記オンラインショップでも購入できます。コピアポアやアストロフィツムなど、品種別に見ることができるのでとても便利。要チェックです!
『浦部陽向園』
https://www.u-yokoen.com
事務所:〒563-0014 大阪府池田市木部町47-1
圃場:豊能町 栽培場では直接販売は行っておりません。春・秋に開催される大阪城公園植木市及び各種イベントでの販売、オンラインショップ
TEL:080-5336-6366 受付時間9時~17時
MAIL:info@u-yokoen.com
編集部員K メキシカーナを「運命買い」!
ゲオヒントニア・メキシカーナ。その名の示す通りメキシコ原産で、1属1品種という孤高の存在のサボテンです。このサボテンに魅了されている私は、昨年の誕生日にもらったバースデー「メキシカーナ」を、不用心な日焼けにより枯らしてしまいました。
失意により、もうメキシカーナは… と思っていたところ、『浦部陽向園』のブースで美しきメキシカーナを発見!
御歳10歳のこちらの株を、衝動買いならぬ「運命買い」! 今度は枯らすまい、と心に誓いながら、共に帰路についたのでした。天下一植物界よ、ありがとう(涙)。
帰京後すぐに、メキシカーナ様ご座所を制作
メキシカーナが直射に弱いことが分かっていながらの迂闊な所業。亡き株の教訓を活かし、遮光ネット(20%遮光)を張った手製の“ご座所”を用意し、盛夏まではこちらでお過ごしいただきます。
【ISHII PLANTS NURSERY】実生のコーデックスは一見の価値アリ
次に訪ねたのは『ISHII PLANTS NURSERY』。実生(タネから育てたもの)のパキポディウムやサボテンが充実しています。お客様の目線は、サボテンよりも豊富なコーデックス群に注がれているような印象を受けました。店主の石井俊樹さん曰く、そのコーデックスの目玉商品が、イベントの開場と同時に瞬殺で売れてしまったとのこと。『ISHII PLANTS NURSERY』の人気ぶりがうかがえますね。石井さん自身も筋金入りのコーデックス好きで、タネから丹精込めて育て上げたこだわりがたっぷりと詰まった実生株がおすすめ。そんな石井さんのコーデックスへかける想いを伺ってみました。
グラキリスは個人的にも好きな植物ですね
K:コーデックスも実生ものが多いんですね。
石井(以下 I ):そうですね、実生ものを中心に取り扱っています。大体タネを播いてから2〜3年くらいのものを商品として出しています。サボテンですと南米系のサボテン、コーデックスだとマダガスカルのものが多いですね。
K:やっぱり「グラキリス※」はしびれますねぇ!
※「グラキリス」とは、コーデックスの中でも人気のパキポディウムを代表する品種で、「象牙宮」の異名を持つ。可愛らしいフォルムの国内実生株に対して、奇怪なフォルムが特徴の輸入株を所有することが、コーデックスマニアの間では、ある種のステータスにもなっている。
I:そうですね、一番人気がありますね! 私も個人的に大好きな品種です。
K:グラキリスも輸入株ともなれば、最近は値段が上昇傾向にありますが、このまま高止まり、という感じなのでしょうか?
I:高止まりというよりも、おそらくこの先も上昇傾向かと思います。人気の輸入株全般が、昨今の円安の影響をモロに受けていますからね。
K:なるほど、ここにも影響が・・・。
そのフォルムに意味があることを考えると、ロマンを感じますよね。
K:石井さんは天下一植物界への出店は今回で2度目だそうですが、今回来場されたお客様にここを一番見てほしい! というところがありましたら教えていただけますか?
I:タネから育てたパキポディウム苗ですね、コーデックスの中でも特に人気のパキポディウムはとても育てやすいので、コーデックス初心者にもおすすめです。小さな苗から育てていく喜びをぜひ味わっていただきたいですね。
K:パキポの苗がぷっくりとだんだん肥えていって成長する過程って、すごく楽しいですよね。石井さんが、そんな多肉植物に惹かれるようになったきっかけを教えていただけますか?
I:そうですね、その株が持つフォルムには、過酷な環境に適応するためにそうなっていったという意味があり、そんなストーリーと造形美に魅力を感じたから、ですかね。先ほど話に出た「グラキリス」も美しいですよね。特に輸入株のものは、現地マダガスカル島でそんな意味のもと、あの独特な造形美がつくられたのかと思うと、ロマンを感じますよね。
K:確かにロマンは感じますが、逆に、マダガスカル島ってどんだけ過酷なの!? って(笑)。
大切な植物を失ってみて初めて分かった、植物への強い想い
K:今までプロの生産者・販売業者さんとして多肉植物と関わってきた中で、一番印象に残っているエピソードがあれば教えていただけますか?
I:ある時、自分の不注意でハウスごと植物をダメにしてしまったことがあり、私はショックのあまり、三日三晩泣き続けました。それまで、植物が好きだというひたむきな気持ちを大事にこの仕事を続けてきたと思っていましたが、大切な植物を失ってみて初めて、私は自分が考えていた以上に植物が大好きなんだ、という気持ちを実感することとなりました。その時からまた一段と植物との関わり方が深く、そして強くなったと感じます。
K:なるほど、失敗は成功のもと、と言いますから、そのご経験が今の石井さんの礎となったのですね。では最後に、ガーデンストーリー読者の中でも、特にこれから多肉植物を楽しみたいと考えている方に何かメッセージをいただけますか?
I:多肉植物は、育て方次第で一生お付き合いができる植物です。管理方法など少し特殊な面もありますが、コツをつかめば美しく育てることができます。ぜひお気に入りの一鉢を見つけてください。
K:今日はお忙しいところ、ありがとうございました。
植物を枯らさずに育てた経験を持つ方は少ないと思うので、石井さんの失敗談からの植物愛、共感できる方は多いのではないでしょうか。タネから手塩にかけて育てた、愛情がたっぷりと詰まった多肉植物を提供する『ISHII PLANTS NURSERY』の情報は、下記インスタグラムにてご確認いただけます。オンラインショップはありませんが、直売会情報は要チェックです!
【㍿カクタス・ニシ】勇壮なパキポディウムには誰もが立ち止まる
紀州は和歌山を拠点に、中国上海にも店舗を構える『カクタス・ニシ』さんのブースは、輸入株のパキポディウム「マカイエンセ」が見事な存在感を放っていて、その勇姿に多くのコーデックスマニアが立ち止まっていました。
ところが、西さん親子が切り盛りしているこのブースのお話を伺おうとしたところ、お父様の西さんが突然、「サボテンの神様に会わしたる!」と。そして、誘われた先にいらっしゃったのは、なんと! ご自身の名を冠したサボテンの品種を幾つも持つカリスマで、「サボテンの神様」とも仰がれるサボテン研究家の村主康瑞(すぐりこうずい)さん(72)。
狂仙会会長、東京カクタスクラブ顧問、大阪カクタスクラブ顧問、という肩書きを見ただけでも、いかにサボテン界の重鎮かということが分かりますよね。生産者としてのご高名もさることながら、北米や南米の自生地を旅して、現地の生産者とも親交があり、サボテンの海外事情にも精通。そんな方のお話を伺えるなんて、ラッキーとしかいいようがありません。西さん、感謝です! ではさっそく、村主さんにインタビュー。
サボテンの神様、降臨
サボテンとの出会いは、夜店の「金鯱」
K:先生とサボテンとのおつきあいについて伺います。今までどれくらいのサボテンを手がけてこられたのですか?
村主(以下S): 僕はね、67~8年かな、そのぐらいですよ。
K:そのぐらいですよ、って…す、すごいですね…
S:僕らの時代はね、こういうイベントやクラブとか、そんなのなかったので、先輩のとこに行って弟子入りして、一子相伝みたいな方法で栽培技術を習うというのが一般的だったんです。
K:一子相伝って、なんか北斗神拳みたいですね。
S:僕らの時代は皆そうだったんです。でなかったら、何をどうやって作ったらいいか分からなくて、それで、小学生のときに夜店で売っていたサボテンを見て、整然と並んで売られている中でも、大きめのものが欲しいって言ったのよ。そうしたら、そこの店のおっちゃんが、「そんなん大きくなってから買え! それよりも、小さいのを買うて、お前の手で大きゅうせい!」そう言われたんですよ(笑)。それ金鯱(きんしゃち)っていうサボテンだったんやけど、その時買ったものが、今では1mを超す大きさになってしまって。
K:1m!? そんな金鯱、見たことないです! どこかの植物園で大きいのは見たことはありますが、1mってあったかなぁ…
S:そりゃそうですわ、その金鯱は国内で栽培記録が残ってるサボテンとしては、おそらく一番古いんちゃうかな。
K:いやいや、見てみたいですねぇ。長生きするサボテンは人間の寿命なんか余裕で追い越しちゃうって聞きますから、まさに超ご長寿サボテンですね! アメリカやメキシコにはそんなサボテンがゴロゴロしているそうですね。
S:アメリカやメキシコに行ったら、もっともっと面白植物がいっぱいあるので、もし行かれるのなら、バハ・カリフォルニア(メキシコ)のほうに行かれたらええ。最高に面白い植物に出会えますよ!
K:ありがとうございます。ぜひ行ってみたいと思います!
粋でハイカラだったサボテンという趣味と、そこにある夢
K:ところで、この天下一植物界では若い生産者さんたちが大活躍していますが、若い人たちがサボテン栽培で後に続く、というのはやっぱり嬉しいものですか?
S:そうやね、こうやって見ると、こんなに裾野が広がっていくゆうのはすごいことだと思うんです。サボテンはね、私もまだ若かった昭和30年代に、第一次ブームとして爆発的に流行ったんですよ。その頃は今のようにスマホやらゲームやらもないっていう時代だったので、趣味の世界いうたら、サボテンをやることが、なんていうか、粋でハイカラだったんですわ。
K:そんな時代があったのですね、驚きです! 今それが再び、粋なものとして若い世代に迎えられ、このようにエネルギッシュなイベントが開かれるようになりました。ただ、ムーブメントというものが熱を帯びると、必然的に商品価値も高まり、限度を越えて価格も上がってきているように感じます。そのあたりはどうお感じになられますか?
S:やっぱりね、値段が上がらないと、趣味としては面白くないと思う。自分らが作ってるものが二束三文ていうよりは「これは高いんや」というところのグレードを保ってくれてるっていうのは大事なことだと思います。
K:確かに、皆さん値段相応の苦労をして、ここまで育ててきているわけですからね。
S:まぁ、一時的に高騰する場合もあるけれども、結果的にね、市場価格が形成されていって、いい値段に落ち着くのではないかと思いますよ。
K:ある程度は値段が落ち着いてくれると、消費者としては嬉しいですね。
S:そこにね、タイムラグが生じても僕は構わないと思うんですよ。値が高騰すれば、生産者はバーっと作り、その結果、値段もだんだんと落ちていく。そこを消費者も狙って買いにくる。そして、そのサイクルの穴埋めをするように、次を狙う人間が絶対的に出てくるのですが、そこにはすごい夢があるし、自分の思いが遂げられる、そんなふうなのが健全な趣味の発展やろうと、僕は思うんです。僕らもそうやってきましたしね。それって面白いことなんですよ。
例えば、僕らのような職人が作ってたものが、目を疑うほど安く売られていても、それは、どうしようもない! と思うようなことではなく、それは形を変えて令和の流行として受け入れられ、若い子たちが、そこに新しい価値を見いだしたということなんです。時代の変化とともに、僕らが気づかなかった価値観を見いだした、ということなんですわ。
観賞する上での楽しみは、今のほうがぜんぜん上だと思いますよ
S:新しい価値というところで面白いのは、最近は、(亀甲竜などに代表される)塊茎モノが盛んになっているでしょう? すると我々の頃は、芋の部分とか根の部分を土に埋めて隠していたのを、それを逆にみんな土から上にあげて作るようになってるんですよ(笑)。我々の頃と、そもそも観賞の仕方が変わってきていて、それがじつに面白い!
西(以下N): 私らの時代は、栽培のほうばっかりに注力していたので、いかにして綺麗に作るか、いかに大きくするかやったけど、今はどういうふうな形で眺めるか、観賞するかっていう作り方だから。
S:観賞する上での楽しみは、今のほうがぜんぜん上だと思いますよ。ネットの影響というか、恩恵というか、そういうのも大きいのではないでしょうか。
N:カフェでの食事写真をインスタにアップしてっていう習慣が、植物の世界でも恒例になっているので、今の時代、ネットの影響は大きいですよ。まぁ今はね、生産者もネットで通用せんかったらあかん時代が来ていると思うよ。時代が変わったもんね。
K:その時代の変遷を、温かい目で見守っておられる、2巨匠の姿に感銘を受けました。
S & N : 温かくはないで(爆)。
サボテンの花は余計なもの!?
N:にしても、おもろいのは、私らの頃は、こうしてサボテンが花つけていたら怒られましたからね。
S:ほんまや(笑)。
N:師匠から「これ取れ!」って言われて、一生懸命花を摘んでいましたわ。ところが今は花を大事にせなあかんという(笑)。私らからしたら、すごい時代だと思うんです。
K:え!? 昔はサボテンって花を咲かせるのがダメだったんですか!?
N:そうそう。形を作るほうがメインやったから。
S:結局花が付くと体力落ちるじゃない、だからそれを全部もぐと、球体が充実していくんです。いかに綺麗に球体を作るかというほうが、花を咲かせるよりも大事だったので。花は邪魔でしかなかった(笑)。それに、花は水分を大量に持っていって蒸発させるので、花の時期には水もしっかりやっていました。
N:今はね、花の観賞を第一にってことが多いので、花芽つけたまま出さなあかんね。
K:驚きです! 今はサボテンの花を楽しみにしている人もたくさんいるので。
N:温室入ったら花をもいでしまうのは癖になってんねんけど、そしたらお客さんが怒るもん(爆)
K:(笑)
日本に順化したサボテンは、順応性適応性が優れているんですよ
S:球体をいかに充実させて、かっこいいものを作るかっていうこと。それが私らの目指すサボテンやったね。
N:こんなん(花芽のついた株)作ったら、わしらの時代、先輩に怒られたわ(笑)。
N:せやけど、今は花付きでないと駄目なんです。今のお客さんは花も楽しみたいわけです。
S:それとな、今の時代の品種は改良されていてな、病気に耐えられるよう、丈夫になっているんですわ。もう今の市場に出ている品種の多くは世代交代やって、おそらく7代目か8代目ぐらいになってますから。
K:そこまで世代が進めば、もはや純国産モノですね。
S:そう、もう日本に順化してるサボテンですよ。僕も屋外で実験しててね、けっこうみんな生きる! この今の日本の気候を。僕は思うに、日本に順化したサボテンてね、非常になんていうか、順応性適応性いうのが優れているんですよ。
K:もともと乾燥してる土地に生きている植物ですから、日本の多湿な気候は嫌なはずなのに、そこにうまいこと合わせていって、こんなにも美しいものが出来上がったのですね(ストロンボカクタス「菊水」を見る)。 それにしても、『Plants Works』さんのこの「菊水」、すごい美株ですね! こんな綺麗な「菊水」は初めて見ました。
N:それは谷田貝※さんが作った「菊水」やな。ええ形しとる。
※著名なサボテン生産家の谷田貝靖雄氏が作った「菊水」という意味。谷田貝氏はアストロフィツム属のサボテン「谷田貝兜」の生産者として広くその名を知られている。
難物サボテン、ストロンボカクタス「菊水」
S:「菊水」なんて、僕らの時代ね、まず手に入らなかった。だから作るしかないんだけど、作るのにも超難物でね。それが今、もうこんな綺麗になってんねん。素晴らしいわ。最初は菊水もな、作り方が分からんかった。そもそも「菊水」のタネ自体取れなかったんですよ。みんな輸入球やったし。そんで「菊水」のタネがまた、埃みたいな小さいもんだから厄介でな。そんなんで、みんなうまく成長するところまで行き着かなかったんです。タネ播いたとしても、それが形を取るまで、やっぱり5年から6年かかったんです。ほんで、生き残る率も、ものすごく悪かった。「菊水」は砂よりも柔らかい土系、赤玉とか、ああいう大きなところにペタっと引っ付いて芽を出すんです。本来の形は、崖に引っ付いて生えているものやから。そういう斜面の中で風が吹いてタネが飛んで、斜面にペタァッて引っ付くんや。せやから、どっちかいうともう、苔に近い。
N:そうそう、苔みたいな扱いでええくらいやな。
S:そうなんです。だから、水はしっかりとやったほうがええ。(自生地では)山の湧水の水分もよう吸って育っておるので、谷から霧が湧き上がってくるラインを探したら、よう生えているんですわ。
K:なんか菊水、欲しくなっちゃいますね(笑)。あ、もっとお話を伺いたいのですが、飛行機の時間がギリギリです!! そろそろ失礼します。
S:わしの本送るよ!
K:OMG! サボテンの本、大好きです! 最高に嬉しい! 本日は貴重なお話を、ありがとうございました!
村主さんを紹介してくれた『カクタス・ニシ』、偶然にもインタビューの場となった『Plant’s Work』、両店の詳細は下記URLにて。見たこともない極上の株に出会えるので要チェックです!
『株式会社カクタス・ニシ』(ネットショップあり)
https://cactusnishionline.net
神様から送られた本は、まさにサボテンのバイブル
帰京後ほどなくして、村主さんから貴重な本を送っていただきました。ご自身の旅の経験が凝縮されたこの本は、滅多に見られないサボテン自生地でのありのままの姿を見ることができます。
サボテン好きには夢のような時間だった
いかがでしたか? 少々濃厚になりすぎのVol.2ですが、生産者さんから伺える生のお話にテンション爆上がりであったため、そこは平にご容赦のほど。ただ、天下一植物界の会場には、最高のサボテンやコーデックスを手がける生産者さんのブースがまだまだあり、その全ブースをお伝えできないのは断腸の極みです。次回の天下一植物界では、さらに多くのブースをご紹介できるよう努めますので、どうぞお楽しみに!
天下一植物界各ブース情報や、主催者長谷圭祐氏のインタビューなど、イベント全体像を網羅したVol.1は下記リンクより。
【天下一植物界Vol.1】話題の多肉、塊根、熱帯草が目白押し!
https://gardenstory.jp/events-news/70303
Credit
文/写真:編集部員K
フリーランスのロックフォトグラファーを経て2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。サボテンに魅せられて以来5年、仕事でサボテンに関われることを神に感謝している。
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