【天下一植物界Vol.5】伝統園芸植物「万年青」。万年青を愛し愛された男が今、その想いを激白!

万年青、という植物をご存じですか?「おもと」と読み、じつはその歴史は江戸時代まで遡り、庶民の間では「引っ越し万年青」として引っ越し祝いにも珍重され、それどころか、時の徳川将軍家にまで寵愛されていたという、由緒正しき日本の伝統園芸植物なのです。2022年天下一植物界特集の最終回を飾るVo.5は、日本人ならぜひ知っておきたい万年青の魅力を、万年青の全てを知り尽くした万年青のプロに解説していただきました。
目次
【豊明園】水野さんが語る、万年青の世界

天下一植物界2022特集最終回を飾るVol.5は、日本古来の伝統園芸植物、万年青と万年青のブース「豊明園」をご紹介します。知らなかった私は開口一番、「まんねんあお、ってどんな植物ですか?」と聞く始末。
そのブースで終始笑顔を絶やさずに、お客さん一人一人に丁寧に万年青の魅力を説く法被を着た男性。この方こそ、100年以上続く万年青専門店「豊明園」の4代目、水野豊隆さん。生まれた瞬間から万年青に囲まれて育った水野さんに、万年青の魅力を解説していただきました。
伝統園芸植物、万年青とは?
K:さて今日は万年青に関していろいろ伺います。よろしくお願いします。さっそくですが、万年青は日本古来から続く伝統園芸植物なのだそうですね。どんな歴史があるのですか?
水野さん(以下M):万年青の歴史はとても古く、1,000年ぐらい前(およそ平安時代)から親しまれている植物で、徳川家康や天皇陛下が好んだことでも知られます。特に家康が好きだったことから、江戸庶民の間で将軍家御用達の観葉植物としてとても流行りまして、鉢にも凝る人が多くいました。
「万年青」と書くのですが、万年繁栄するようにという意味を込めて名付けられています。また、引っ越しの際に、その関係者が万年繁栄するように、病気もなく繁栄するようにと願いを込めて送る「引っ越し万年青」という文化もあったんですよ。自分の子どもが新しい家を作ったら、「引っ越し万年青」を子どもに送る、そんなことが日常的に行われていたのです。


K:そうなんですか、まったく知りませんでした。おそらく一般的にもあまり知られていないと思いますが、私たちの祖先がそのように植物を愛でていたと知ると、ちょっと嬉しいですね。
M:鹿児島あたりだと、今もまだ武家屋敷が結構残っていて「北東の鬼門のほうに万年青を植えよ」っていう言い伝えもあることから、今でも万年青を置いてある家庭って多いんです。置いてあるっていうか、植わっているんです。今では鉢植えのほうが主流になっちゃったんですけどね。このようにせっかく残っている伝統文化なので、それをちゃんと次の世代にも継承していこうという活動も行われています。
K:なるほど。地植えとおっしゃいましたが、本来は鉢植えより地植えのほうが向いているんですか?
M:万年青はもともと国内に自生している植物なので、地植えで楽しむこともできますが、小さめの株だと地植えには向かないですね。葉長が15cm以上の株になると、花も楽しめます。この株ではまだつぼみですが、もうちょっとすると赤い花が咲きます。お正月になるとさらに赤みが増すことから、お正月の花、お祝いの花、としても珍重されています。
※確かに、前出の図鑑にも赤い花を付けた万年青が描かれている。

K:それはおめでたい感がすごいですね! もらった方もさぞ嬉しいのではないかと思います。
M:今はマンション住まいなど、住宅事情もあってか、小ぶりな株を白い鉢に合わせるなど、インテリア性を重視したものが結構売れますね。
初心者でも簡単? 万年青の育て方
K:万年青は栽培初心者も受け入れてくれる植物ですか?
M:古来より自生しているものなので、日本の気候に基づいた水あげを再現してやれば、よい株に成長していきます。例えば、梅雨の時期は雨も多いので水を多めにあげ、夏は控えめにし、秋に秋雨前線が来る頃は再び多めに水をあげるといったところでしょうか。

K:なるほど。栽培で特に気をつけなければいけない点はありますか?
M:最近の日本の夏は40℃近くになり、陽射しもかなりキツいので、そういう環境は避けるようにしたほうがいいですね。万年青は、もともと林の木陰などでひっそりと自生しているものです。夏場は日除けなどの対策を行わなければ、せっかくの味わい深い葉の色や、白から緑へのグラデーションも綺麗に出ないので、そこだけは注意が必要です。
K:確かにこの白と緑のコントラストは美しいので、キープしたいですよね。
M:ただ、僕らなんかは結構、株本来の持つパワーを強くするために、逆に厳しい環境で育てるんです。葉も直射日光であえて焼いて、お客様のもとに行く頃合いを見計らって、直射に耐性のある強い葉を出す強い株になるように調整したりもするのですが、皆さんがご自分で育てられるときは絶対に真似しないでください(笑)。葉を焼かないように育てたほうが、美しいと思いますからね。
K:あえて葉を焼くとは、なかなか思い切ったことをしますね! でも、この白と緑の美しい葉にそんなストーリーがあると知ると、さらに魅力を感じます。
万年青はとても長生き
M:万年青は寿命も長いんです。当店の95歳のお客様の話ですが、15歳の時に買った万年青を80年経て、今もなお大事にされているという方もいらっしゃるんです。

K:80年! ヘタしたら人間のほうが先に逝っちゃいそうですね。万年青もさることながら、その方のご長寿を心から讃えたいですね。しかし、まさに名は体を表すで、万年生きる、と例えられる所以ですね。実際に1万年は生きるのですか?
M:それはないと思います(笑)。ただ、もしかしたら1万年前の日本には原種となるような植物が生い茂っていたかもしれませんね。ちなみに、万年青は長生きの割には価格も2,000円程度から楽しめる植物なので、コスパはよいと思います。ものすごく希少価値もあり、目の飛び出るような高値がつく、というような観葉植物では決してないのですが、上手に育てることでより魅力が増してきて、そうなるともう自分の子のように愛着が湧いてしまうのも万年青の魅力なんです。
K:そう聞くと、小さい株のときから大事に育てて、家族の成長と共に大きくしたいなと思いますね。
M:ですよね。まぁ、色も緑で、特に奇をてらった模様があるわけでもないので、多肉植物などに比べるとどちらかというと地味な植物ですが、ちょっと目を向けてあげると光るものがたくさんあるので、ぜひこれを機会に万年青を知り、そして育ててみようかなと思ってもらえると嬉しいです。
万年青はなんと、1,000種類もある!
K:こうして拝見していると、決してバリエーションが豊富というようには見受けませんが、育ててみて初めて分かる楽しさや、何よりも、我が国の園芸文化の伝統がそこに詰まっていると考えると、レアプランツにはない、どこか気品みたいなものを感じます。
M:ですよね! バリエーションですが、今日はイベント会場という特別な機会なので、本当に丈夫なやつを5種類くらい選んで持ってきているだけで、実際は1,000種類くらいあるんですよ!
K:え!? それは失礼いたしました。しかし1,000種類とはまたすごいですね!
M:そうなんですよ。ぐねぐねと奇怪に曲がったものや、幅広のだるまみたいなもの、単純にすごい大型の株など、かなりの種類があります。私もYouTubeで紹介しているので、ぜひ見てください。
K:なるほど、どおりで水野さん説明がお上手なはずです。YouTubeぜひ拝見いたします。大型の株とおっしゃいましたが、やはり大きくなればなるほど、値段も上がっていくっていう感じですか?
M:いや、そんなことはないです。小さくても8,500円と高価なものもあるので、そこはやはり種類によりますね。今回持ってきている1,000円、2,000円の手頃なものもあれば、それよりも小さいもので100万や300万ぐらいするものもあるんです。まず最初は、この1,000円の、大きさも手に乗る程度の株からお試しいただいても、十分に魅力は伝わるかなと思います。
万年青は富士砂のマルチングがGood!
K:丈夫な株を見分けるコツみたいなものってあるのですか?
M:そうですね、パッと見ではあまりよく分からないのですが、よく子株を吹いて増えるもの、そうして株がいくつかあるものだと丈夫な個体といえます。よく増えると、丈夫な割には逆に価格が安くなるので、そういう株は狙い目だと思います。
K:この黒い用土は、石? これ、どういったものなのでしょうか?
M:これは富士砂といって、富士山の麓でよく採れる砂でして、いろんな植物の化粧砂としてもお馴染みです。万年青に富士砂を合わせると、黒さが万年青の印象を締まって見せ、また、湿っている時は黒い富士砂が乾くことによって白っぽくなるので、水やりのタイミングも分かって一石二鳥なんです。
K:なるほど、今は湿っているからこうして黒いのですね?
M:そうなんです。特に初心者の方には富士砂を乗せて栽培するのはおすすめです。なので、ここにあるものには全て富士砂を乗せてあります。
K:乗せるというと、富士砂で上層を覆っている、という感じですか?
M:そうですね、1cmくらい被せている感じで、富士砂の下のほうは、底に大きめと粗めのものが混在した軽石があり、その上に中砂を株の6〜7割ぐらいまで入れ、最後は粒の細かい砂利で首元まで、という感じなので、簡単に植え替えもできます。
K:植え替えのタイミングはどんな感じですか?
M:1〜2年に1回は植え替えをしたほうがいいですね。根が成長するタイミングがいいので、春か秋に植え替えしていただくと、すぐに根が活着するので、おすすめですね。
ごく自然な形でこの仕事に就いた感じがしますね
K:万年青の世界、めちゃめちゃ深いじゃないですか! なんで今まで知らなかったんだろう…罪ですね。
M:まぁこうして知ったわけですから、今後とも万年青をよろしくお願いします!
K:もちろんですよ! ところで水野さんは、4代目ということは、生まれた瞬間から生家の家業が万年青だったわけですが、最初からそれを継ごうと決めておられたのですか?
M:物心ついた頃から父の手伝いで万年青の大会に行ったりしていたので、家業自体には興味はあったのですが、大学を卒業する直前までは、実際に自分がこの道に入るかどうかというのは漠然としていました。でも、考えてみれば、ごく自然な形でこの仕事に就いた感じがしますね。というのも、万年青自体が珍しい植物なので、お客様も、ちょっと変わってはいるけど素敵な方ばかりなんです。いい万年青ができても失敗作ができても、お客様がそれを楽しんでいる様子を見ていて、ああなんか素敵な世界だなぁ〜、と思っていたら、自然と自分もこの世界に入りたいと思うようになっていました。

K:万年青プラス、そこに関わる人々が水野さんを惹きつけたというわけですね。
M:そうですね。いざ中に入ってみると、苗から育てる上で習得しなければいけない技術の多さや、1,000種類以上という品種の多様さに戸惑ったこともあります。でも、日本どころかアメリカやヨーロッパ、アジアなど世界中から万年青を買いにきてくださるお客様がいて、とにかく面白くて、知らず知らずのうちに万年青の沼にはまっていきました。今は特に、江戸時代の品種と現代の品種を掛け合わせて、今までにない全く新しい万年青の育種にはまっています。
K:水野さんが作出する新しい万年青、大変興味があります。完成したらぜひご一報を!
M:もちろんです!
万年青は人の心を豊かにする
K:こうして、万年青の世界の第一人者となった水野さんですが、プロとして万年青と関わってきた中で、特に印象に残っているエピソードなんかがあれば、教えていただけますか?
M:仕事で体を壊してしまい、半身麻痺になってしまわれた方が、簡単なら自宅で楽しめるから、と万年青を育て始められました。毎日、ちょっとずつ変化する万年青を見ながら水やりをしたり、砂を足したりと、万年青の世話をするうちに半身麻痺もほとんど治って、1年後に私たちに「万年青のお陰でここまで体調がよくなりました」とのお言葉を頂戴した時にはとても感動しました。もちろん、治療やリハビリなど、ご本人の努力あってこそだと思いますが、万年青にも、どこかそんな人の心と体を癒やすパワーがあるのかな、という気がしています。
K:素敵な話ですね〜。植物って、現代科学をもってしても解明しきれない神秘的な部分があると聞きます。情報ソースが少なかった古の人たちが万年青に魅了された理由の一つに、万年青の持つ、どこか信仰にも似た何かがあるのかもしれませんね。
M:歴史が長い分、独り歩きした迷信とかもあると思いますが、万年青が人の心を豊かにすることは間違いないと確信しています。

K:間違いないですね。さて最後になりますが、ガーデンストーリーの読者の中には、私のように今回万年青を初めて知った方も多いと思います。そんな読者の皆さんに、何かメッセージをいただけますか?
M:今は、世界中の植物を家の外でも中でも育てられる、植物好きにとっては最高の環境だと思います。また、昔は本当のマニアのグループに入らないと教えてもらえない、植物を育てるあと一歩のコツを、ガーデンストーリーさんのように教えてくれるサイトもあります。私も植物好き、万年青好きのはしくれとして、日本の伝統園芸の魅力を世界中の人に少しでも知ってもらいたいと頑張っていますので、よろしくお願いいたします!
K:今日はお忙しいなか、ありがとうございました! 万年青の魅力、存分に堪能させていただきました!
1,000年前から息づく伝統園芸植物を我が家で愛でる粋
いかがでしたか? 万年青特集。水野さんの説明なしに伝統植物と聞くと、ちょっとハードルの高さを感じてしまいますが、YouTubeでもご活躍の水野さんの巧みな話術に魅了され、私も万年青を買おうかなと真剣に考えております。赤系の花が咲く植物は好きなので、万年青が花を咲かせたところ、ぜひ見てみたいものです。お手頃価格で始められるところも好印象ですね。
何かとビザールプランツ(珍奇植物)や、レアプランツ(希少植物)が話題となっていますが、万年青のよさを、もっと多くの人たちに知ってほしいと思います。だって、1,000年前から息づく日本の伝統園芸植物が我が家にあるなんて、粋とは思いませんか?
Credit

文/写真:編集部員K
フリーランスのロックフォトグラファーを経て2022年4月にガーデンストーリー編集部に参加。サボテンを愛し5年、コーデックスに魅せられ3年、この仕事との出会いを神に感謝し、精力的に取材、執筆を行う。今夢中になっているのはキツネダンス。
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