イヌツゲは生け垣やトピアリーにおすすめ! 育て方のポイントや仕立て方をご紹介

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昔から生け垣に利用されてきた、おなじみの庭木、イヌツゲ。刈り込みに耐えるので、玉仕立てやトピアリーなどを作って楽しむことができるのも魅力の一つです。この記事では、イヌツゲの基本情報や特徴、性質、名前の由来や花言葉、育て方など、詳しくご紹介します。
目次
イヌツゲの基本情報

植物名:イヌツゲ
学名:Ilex crenata
英名:Japanese holly、box-leaved holly
和名:イヌツゲ(犬黄楊)
科名:モチノキ科
属名:モチノキ属
原産地:日本、朝鮮半島南部
分類:常緑性高木
イヌツゲの学名は、Ilex crenata(イレックス・クレナタ)。名前に「ツゲ」の文字が入っており、ツゲの木によく似ていますが別の科で、モチノキ科モチノキ属の常緑樹です。原産地は日本、朝鮮半島南部。昔から日本の山野に自生してきたことから暑さや寒さに強く、放任してもよく育ちます。樹高は10mに達する高木に分類されていますが、刈り込みによく耐え、毎年の剪定によって樹高をコントロールすることが可能です。生け垣やトピアリーなどにも利用できます。
イヌツゲの花や葉の特徴

園芸分類:庭木
開花時期:6〜7月
樹高:10m
耐寒性:強い
耐暑性:強い
花色:白
イヌツゲの開花期は6〜7月で、花径2mmほどの小さな4弁花を咲かせます。花色は白。イヌツゲは雌雄異株の植物なので、花が咲いた後に果実がつくのは雌株のみです。6〜7mmの果実をつけ、晩秋になると黒く熟します。
イヌツゲの葉は1.5〜3cmの小さい楕円形です。光沢のある葉は枝に互生につき、密に茂ります。
イヌツゲの名前の由来や花言葉

イヌツゲは和名で、木材として利用されるツゲの木に似ていながらも、木材としての質はツゲに及ばないため、イヌツゲと呼ばれるようになったといわれます。昔は「犬」が枕詞のように用いられると、「劣る・下等」ということを表していました。
イヌツゲの花言葉は「魅惑」「強固」です。
ツゲとイヌツゲの違い

ツゲとイヌツゲはよく似ていますが、ツゲはツゲ科ツゲ属に、イヌツゲはモチノキ科モチノキ属に分類されています。見分けるポイントはいくつかあります。まず葉のつき方に注目すると、ツゲの葉は枝に対して左右対称につく「対生」で、イヌツゲは枝に葉が交互につく「互生」です。また、ツゲは雌雄同株で開花期は3〜4月ですが、イヌツゲは雌雄異株で開花期は6〜7月。果実にも違いがあり、ツゲの実は雄しべの3本の花柱が突き出すように残り、熟すと裂けて種子が露出します。一方、イヌツゲは球形の黒紫色の実がつき、熟しても実が裂けることはなく、種子は見えません。
イヌツゲの代表的な品種

イヌツゲにはいくつかの種類があるので、ここでは園芸店などでポピュラーに出回っているものを取り上げてご紹介します。
マメイヌツゲ
イヌツゲの園芸品種です。葉の長さは1.5〜2cmで、豆のように丸くふっくらとしていることからこの名前がつきました。より葉が密に茂り、生け垣やトピアリーに仕立てると見栄えがします。
キンメツゲ
イヌツゲの園芸品種で、新芽がライムグリーン色で、明るい印象をもたらします。新芽はしばらく経つと緑色に落ち着きます。葉はイヌツゲよりも小さく、より密につくのが特徴です。明るい色をしていることから、洋風の庭にも向いています。
ハイイヌツゲ
ハイイヌツゲはイヌツゲの変種で、漢字で「這犬柘植」と書きます。北海道〜本州の日本海側の雪の多い地域に自生してきました。イヌツゲが高木であるのに対し、ハイイヌツゲは1〜1.5mの低木です。
イヌツゲの栽培12カ月カレンダー
開花時期:6〜7月
植え付け・植え替え:4〜6月、9~10月
肥料:2~3月
剪定:3~10月
イヌツゲの栽培環境

日当たり・置き場所
【日当たり/屋外】日当たり・風通しのよい場所が最適です。半日陰の場所でも生育しますが、あまりに暗い場所では生育が悪くなります。
【日当たり/屋内】屋外での栽培が基本です。
【置き場所】水はけ・水もちがよく、腐植質に富んだふかふかとした土壌を好みます。
耐寒性・耐暑性
イヌツゲの栽培適地は北海道南部〜九州。暑さや寒さに強く、環境への適応力がある植物です。
イヌツゲの育て方のポイント
用土

【地植え】
植え付けの2〜3週間前に、直径・深さともに50cm程度の穴を掘ります。掘り上げた土に腐葉土、堆肥、緩効性肥料などをよく混ぜ込んで、再び植え穴に戻しておきます。粘土質などの水はけの悪い土壌であれば、腐葉土や堆肥を多めにすき込んで土壌改良し、土を盛って周囲よりも高くしておくとよいでしょう。土づくりをした後にしばらく時間をおくことで、分解が進んで土が熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。
【鉢植え】
樹木用にブレンドされた、市販の培養土を利用すると手軽です。
水やり

水やりの際は、木の幹や枝葉全体にかけるのではなく、株元の地面を狙って与えてください。真夏は、気温の高い昼間に行うと、水がすぐにぬるま湯になって木が弱ってしまうので、朝か夕方の涼しい時間帯に与えることが大切です。反対に、真冬は気温が十分に上がった日中に行います。夕方に水やりすると凍結の原因になるので避けてください。
【地植え】
植え付け後にしっかり根づいて枝葉をぐんぐん伸ばすようになるまでは、乾いたら水やりをしましょう。根づいた後は、下から水が上がってくるので、ほとんど不要です。ただし、晴天が続いてひどく乾燥する場合は水やりをして補いましょう。
【鉢植え】
日頃から水やりを忘れずに管理します。土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。また、枝葉がややだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサインです。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイント。特に真夏は高温によって乾燥しやすくなるため、朝夕2回の水やりを欠かさないように注意します。冬は生育が止まり、表土も乾きにくくなるので控えめに与えるとよいでしょう。
肥料

【地植え】
イヌツゲを庭植えにした場合、肥料を与えるのに適したタイミングは、生育期に入る少し前の2月頃です。有機質肥料を株元から少し離れた周囲にまいて、クワかスコップで軽く耕して土に馴染ませましょう。
【鉢植え】
鉢栽培しているイヌツゲには、3月頃に緩効性化成肥料を株の周囲にまきます。スコップで軽く表土を耕して土に馴染ませましょう。
注意する病害虫

【病気】
イヌツゲに発生しやすい病気は、すす病です。
すす病は、一年を通して葉や枝などに発生します。葉に発生すると表面につやがなくなり、病状が進むと黒いススが全体を覆って光合成がうまくできなくなり、樹勢が衰えてしまいます。カイガラムシ、アブラムシ、コナジラミの排泄物が原因で発生するので、これらの害虫を寄せ付けないようにしましょう。込んでいる枝葉があれば、剪定して日当たり・風通しをよくして管理します。
【害虫】
イヌツゲに発生しやすい害虫は、ハダニ、カイガラムシなどです。
ハダニは、葉裏に寄生して吸汁する害虫です。体長は0.5mmほどと大変小さく、黄緑色や茶色い姿をしています。名前に「ダニ」がつきますが、クモの仲間です。高温で乾燥した環境を好み、梅雨明け以降に大発生しやすいので注意が必要。繁殖力が強く、被害が大きくなると、葉にクモの巣のような網が発生することもあります。ハダニは湿気を嫌うため、予防として高温乾燥期には葉裏にスプレーやシャワーなどで水をかけておくとよいでしょう。
カイガラムシは、ほとんどの庭木に発生しやすい害虫で、体長は2〜10mm。枝や幹などについて吸汁し、だんだんと木を弱らせていきます。また、カイガラムシの排泄物にすす病が発生して二次被害が起きることもあるので注意。硬い殻に覆われて薬剤の効果があまり期待できないので、ハブラシなどでこすり落として駆除するとよいでしょう。
イヌツゲの詳しい育て方
植え付け・植え替え

植え付け・植え替えの適期は4〜6月、または9〜10月です。
【地植え】
土づくりをしておいた場所に、苗木の根鉢よりも一回り大きな穴を掘り、軽く根鉢をほぐして植え付けます。最後に、たっぷりと水を与えます。
イヌツゲは暑さ寒さに強く、環境にも馴染みやすいので、一年を通して地植えのままにしてかまいません。
【鉢植え】
鉢で栽培する場合は、入手した苗よりも1〜2回り大きな鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから樹木用の培養土を半分くらいまで入れます。イヌツゲの苗木をポットから取り出して軽く根鉢をくずし、鉢の中に仮置きして高さを決めたら、少しずつ土を入れて植え付けます。水やりの際にすぐあふれ出さないように、土の量は鉢縁から2〜3cm下を目安にし、ウォータースペースを取るとよいでしょう。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から流れ出すまで、十分に水を与えます。
鉢植えで楽しんでいる場合、成長とともに根詰まりしてくるので、1〜2年に1度は植え替えましょう。植え替え前に水やりを控えて土が乾いた状態で行うと、作業がしやすくなります。鉢から株を取り出してみて、根が詰まっていたら、根鉢をくずして古い根などを切り取ります。同じ鉢を使う場合は、根鉢を整理して小さくし、新しい培養土を使って植え直します。もっと大きく育てたい場合は、元の鉢よりも大きな鉢を準備し、軽く根鉢をくずす程度にして植え替えてください。
剪定

剪定の適期は3〜10月です。イヌツゲは萌芽力が強くて、刈り込みに耐えます。長く伸びすぎている枝、込み合っている部分の枝、枯れ込んでいる枝、地際近くから発生するひこばえなどを選んで切り取りましょう。
生け垣にしている場合、膨らみすぎているようであれば、刈り込みバサミで輪郭を刈り取って形を整えます。生け垣の形を美しくキープするには、頻繁に軽い切り戻しを重ねて行うのがポイントです。樹形が乱れきった頃に一気に深く切り戻すことは避けましょう。
増やし方

種まき、挿し木で増やすことができます。ここでは、それぞれの方法について詳しく解説していきます。
【種まき】
10月頃に果実をつけるので、採取して果肉を取り除いた後、流水できれいに洗い流し、そのまま種まきしましょう。
黒ポットに新しい培養土を入れて十分に水で湿らせます。種子を黒ポットに数粒まいて軽く土をかぶせ、明るい日陰で管理。発芽した後は日当たりのよい場所で管理しましょう。本葉が2〜3枚ついたら勢いのある苗を1本のみ残し、ほかは間引いて育苗します。ポットに根が回るまでに成長したら、少し大きな鉢に植え替えて育苗します。苗木として十分な大きさに育ったら、植えたい場所に定植しましょう。
【挿し木】
挿し木とは、枝を切り取って地面に挿しておくと発根して生育を始める性質を生かして増やす方法です。植物の中には挿し木ができないものもありますが、イヌツゲは挿し木で増やすことができます。
挿し木の適期は、7〜8月です。その年に伸びた新しい枝を10〜15cmで切り取ります。採取した枝(挿し穂)は、水を張った容器に1時間ほどつけて水あげしておきましょう。その後、吸い上げと蒸散のバランスを取るために下葉を数枚切り取ります。3号くらいの鉢を用意してゴロ土を入れ、新しい培養土を入れて水で十分に湿らせておきます。培養土に3カ所の穴をあけ、穴に挿し穂を挿して土を押さえてください。発根するまでは明るい日陰に置いて管理します。その後は日当たりのよい場所に移して育苗し、ほどよく育ったら植えたい場所に定植しましょう。挿し木のメリットは、親株とまったく同じ性質を持ったクローンになることです。
イヌツゲのさまざまな仕立て方

刈り込みに耐え、枝葉が密に茂るイヌツゲは、さまざまな仕立て方をすることが可能です。ここでは、主な仕立て方についてご紹介します。
玉散らし・玉仕立て
玉散らしは、幹から出るいくつかの枝ごとに、枝葉を楕円形に刈り込んで仕立てる方法です。日本庭園などでよく見られます。
玉仕立ては、株全体を球形に刈り込む方法です。
生け垣
道路や隣地との境界などに設けるのが生け垣で、目隠しや防風・防音の役割も果たします。常緑樹を植えることで、フェンスやブロックを設えるよりみずみずしい空間を作ることが可能です。生け垣を作る場所に均一の間隔で植え付け、高さやアウトラインを決めて刈り込んで形を整えます。放置すると形が崩れて見栄えが悪くなるので、まめに剪定して形をキープしましょう。
トピアリー
トピアリーとは、樹木を刈り込んでいろいろな形に仕立てたものです。球形や四角、三角、スパライルなどの形状のほか、動物などをモチーフにしたものもあります。
イヌツゲを好みの形に仕立てて庭のアクセントにしてみよう

生育期ならいつでも剪定ができ、生け垣やトピアリーなどに仕立てて楽しめるイヌツゲ。鉢植えにしてトピアリーを作り、玄関先にシンメトリーに飾れば、フォーマルなイメージも演出できます。ぜひイヌツゲを庭や玄関先に取り入れてみてはいかがでしょうか。
Credit
文 / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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