ニュージーランドの庭文化【世界のガーデンを探る24】

世界のガーデンの歴史や、さまざまなガーデンスタイルを、世界各地の庭を巡った造園家の二宮孝嗣さんが案内する、ガーデンの発祥を探る旅第24回。今回は、南半球ニュージーランドのフラワーショーと、一般家庭のガーデニング、公共の庭などについて解説していただきます。
目次
ニュージーランドのガーデニング

ニュージーランド(NZ)という国は、10世紀ごろ海洋民族のマウリの人たちがカヌーに乗って住み着いたのが始まりでした。その後イギリス人が大航海時代に上陸して、1804年にマウリの人たちとワイタンギ条約を締結し、正式にイギリスに併合されて、「ニュージーランド」と呼ばれるようになりました。

そうしてイギリス連邦に組み込まれ、1907年にイギリス連邦内の自治領となり、独立国家となりました。ご存じのように、ニュージーランドは北島と南島があり、北島に100万都市のオークランドがあります。かつてここでは「エラズリーフラワーショー」が毎年開催されていました。その後、1994年より、開催地は庭好きな人が多く住んでいる南島のクライストチャーチに移りましたが、2015年にショーの開催はストップし、その後も残念ながら開かれていません。花好きの人たちが多く住んでいても、クライストチャーチの町が大規模なフラワーショーを支えきれなくなったのは、経済的な理由によるのかもしれません。

ニュージーランドの北島にはアイルランドから多くの人が渡ってきて、この国のいろいろな仕組みを作ったのですが、彼らはイギリス人ほど庭好きではありませんでした。庭好きなイギリス人の多くは、南島のクライストチャーチに住み着いたのです。かつては、個人庭園や町、それに商店なども参加してガーデンコンテストが開かれていました。
まずは、かつては世界3大フラワーショーの一つに数えられていたエラズリーフラワーショーをご紹介してから、ガーデンコンテストの受賞庭園やクライストチャーチ近郊の個人庭園をご紹介しましょう。
世界3大フラワーショーだったエラズリーフラワーショー


エラズリーフラワーショーは、もともと北島のオークランド郊外にある競馬場の「エラズリー」で開かれていたことから付けられた名称ですが、その後手狭になり、オークランド郊外の植物園で開かれるようになりました。僕も毎年審査員として10年近く参加しました。
もともとはオークランドのライオンズクラブがチャリティー(寄付金集め)目的で始めたもので、会場整備や運営に当たっていました。近年は先ほど書いたように、南島のクライストチャーチに移りましたが、残念ながら今は行われていません。


会場には、ガーデン関連のショップやフラワーアレンジの展示、ガーデン倶楽部による植物の提案、地元の食やワインなどが集まるマーキーまであり、イギリスのチェルシーフラワーショーほどの緊張感はなく、おおらかな雰囲気でした。2009年の開催時は、ニュージーランド固有の植物を取り入れながら、キッチンガーデンやデッキ空間がある庭など、19のコンテストガーデンがつくられました。審査は、RHS(英国王立園芸協会)に所属するイギリス人ガーデナーをはじめとする27人の専門家によって行われる国際的なコンテストでした。
ニュージーランドの植物事情


ガーデンデザインの提案には、毎年必ずといっていいほど、アウトドアキッチンをテーマにしたものがいくつかありました。雨が少ないニュージーランドでは日常的に外での食事も楽しめるので、一般家庭の庭でも、このようにキッチンを備えたテラスのあるデザインを見かけます。


ニュージーランドにはもともと花のきれいな植物はほとんどなくて、ほぼすべての庭の植物は、多くはイギリスから持ち込まれたものです。なぜ花のきれいな植物が少ないかというと、ニュージーランドはもともとジーランディアというほとんど海に沈んでしまった大陸の一部で、おそらく昆虫が地球上に現れる前にゴンドワナ大陸から離れてしまったのではないかと考えられています。その結果、きれいな花に虫を集める虫媒花が現れず、現在も風媒花が主流なのだと僕は思います。昆虫がいないということはイギリスから持ち込まれた植物を食べる害虫がいないということで、ニュージーランドではほとんど消毒する必要がないのです。バラなどは、これほどきれいなのかと思うくらい素晴らしい花が咲きます。

オープンガーデンのガーデンコンテスト

クライストチャーチでは、ガーデンコンテストを毎年開催しています。カテゴリーは3つあります。1つ目は1軒の庭単位でエントリーする「個人庭園部門」、2つ目は、「法人部門」で、例えば商店や会社の周りの植栽などでエントリーします。そして3つ目は、上の写真のように住宅地の一角(10軒程度の集合地域)ごとの、地域ぐるみでエントリーする「住宅地部門」で、他国のカテゴリーではあまり例のないことです。こういうコンテストを実施できるということは、みんなで町全体をきれいにしようという意識がある文化度の高さの表れかもしれません。


個人邸で育てられている植物についてお話ししましょう。この地域は空気が乾燥しているので、球根ベゴニアやダリア、それにバラもきれいな花を次々に咲かせてくれます。日本と違って蒸し暑い夏がないクライストチャーチは、ダリアや球根ベゴニア、フクシアなどが、初夏から秋まで、病気や害虫に悩むことなく咲き続けてくれます。バラも夏に休むことはなく、初夏から秋まで見事な花を楽しむことができます。ただ日本人にとっては、ちょっと赤花が強烈に見える気がしますが、いかがでしょうか?


暮らしの中で楽しむ個人邸のガーデン


住宅の庭では、日本でもお馴染みのニューサイランやフトモモ科のギョリュウバイ、ユッカ、それにトベラの仲間やヘゴの仲間の木性シダなどが使われています。近年、ニュージーランドでは、もともと土地にあった植生を回復させようと、高速道路や公園の緑地には多くのニュージーランド原産の植物が使われるようになりました。
私が訪ねた個人邸では、窓が大きく外の庭の緑が暮らしの一部になっていました。いつもそばに自分が生まれ育った地域の植物が育ち、眺めることができるのは、穏やかな暮らしの支えになっているのかもしれません。
クライストチャーチ郊外の有名な庭



イギリスと比べてガーデニングの歴史が浅いながらも、ニュージーランドにも、名園と呼ばれる場所がいくつかあります。その中の代表的な庭園が、クライストチャーチ郊外にある「オヒナタヒ庭園(Ohinatahi garden)」です。海を望む崖の上につくられた庭で、とてもよく手入れがされています。地形をうまく利用したイタリア風な庭づくりで、オーナーが男性だからかもしれませんが、緑の芝生を中心に落ち着いた雰囲気を醸し出しています。



もう一つご紹介するのは、クライストチャーチ郊外の「トロズ・ガーデン(Trotts Garden)」です。オーナー曰く、世界一のノットガーデンです。奥に見える建物は古い教会。ここでは時々結婚式もとりおこなわれているそうです。この規模のノットガーデンをつくろうと思ったこと自体にも感心しますが、維持管理を考えただけでも気が遠くなります。


ニュージーランドの公共の庭

クライストチャーチの町の真ん中にある川沿いの公園「MONA VALE」。

「MONA VALE」の中心付近には、バラ園もあります。どの地域も、ニュージーランドにあるバラ園は本当に、花はきれいに咲き揃い、手入れも行き届いて気持ちのよい場所になっています。川沿いにある個人の庭も公園の一部になっていることがあります。

フォーマルな高級住宅でもそれぞれに庭が設けられているので、散歩をしていると次々と現れるガーデンシーンに出合うことができ、目を楽しませてくれます。本当にクライストチャーチは“ガーデンシティー”の名に恥じないレベルで、町を挙げての取り組みがなされていて、完全に脱帽です。


次回はオーストラリアの庭と、メルボルンフラワーアンドガーデンショーの話をしたいと思います。
Credit
写真&文 / 二宮孝嗣 - 造園芸家 -

にのみや・こうじ/長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。
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