雪深い北海道の集落のはずれで、家族とともに森を育み、庭づくりをする山崎亮子さん。長い月日をかけて育ててきた庭は、車イスが必要となった今の亮子さんをやさしく包み、いつも希望を与えてくれます。そんな庭づくりをする日々の中で「庭仕事や畑作業が大変だと思ったことはないですよ」と微笑む亮子さんが実践するのは、「花畑はほぼ自生、畑は耕さない不耕起栽培」。体力が要らず、心に余裕が生まれるという亮子流、家庭菜園の手入れのコツや利点について、自筆のイラストを交えて教えていただきます。
目次
北海道の一軒家

私の家は、森のほとりに建つ一軒家です。
森の中を通る道を抜けると、ポッカリと現れる原っぱのような庭と小さな家。家の裏には夏野菜の菜園。脇にはちょこっと山菜が採れる林や、ムーミンハウスと名付けた東屋があります。広さは、およそ800坪。
私は体力のないへなちょこガーデナーですが、庭仕事や畑作業が大変だと思ったことはありません。
花畑はほぼ自生、畑は耕さない不耕起栽培。体調もお天気もよい時だけ、気ままに手をかけたいところだけ、植物や土と語り合うように手を入れています。
今日は、我が家の畑を中心にお話ししたいと思います。
森の暮らしに、ようこそ(^^)

畑の見取り図
まずは、家の裏のメインの畑をご紹介します。全体をガーデンといった雰囲気にまとめています。

北と東の外周を2×4材を使ってDIYしたフェンスで囲い、角には生ごみ用のコンポストを配置。東西南北に草の道があり畑を四方に分け、少しずついろんな品種を作るために、小さな「うね」をいくつも立てています。
中央にシンボルとしてガゼボがあり、周りを丸く植栽コーナーで囲って、背の高い野菜を絡めています。
ガゼボを買ったのは9年前。畑の支柱が傷んだのでホームセンターに買いに行くと、バーゲンのガゼボを発見! 購入を予定していた支柱の価格と大差ないお値段だったので、家族3人揃って「こっちのほうがカッコいい」と飛びついたお気に入りです。
実った野菜がエレガントに見えるんです。

じつは、この畑は南側が森に面しているので、半日陰という畑作には不利な立地です。
オマケに野鳥や小動物に荒らされて、飼い犬たちまでイチゴを食い荒らすなど……。ハプニングばかりの畑ですが、たとえ収量少なめでも、家族の話題が豊富に食卓に上るこの菜園に、私たちは満足しています。

我が家流の不耕起栽培
我が家の畑は「不耕起栽培」の考え方を取り入れています。それは、地表を有機物で覆うことによって微生物を増やし、土壌を整える方法です。
自然栽培の本で不耕起栽培を知ったとき、森の土を作る方法のようだと感じました。枯れ葉が降り積もり、虫や生き物たちの営みで、豊かに保たれる森の土…。
「森の家だもの。自然の営みを生かして生活してみたい」とチャレンジして十数年。いろんな微生物がバランスよく過ごし、農薬や殺虫剤を使わずとも病害虫であまり悩まない、健やかな場所になりました。
手順は以下の図のように。立ち枯れた作物を捨てずに地面に重ねます。畑で直に腐葉土を作っていると想像してくださいね。

積み重ねた植物の下には生物がいっぱい集まって、モリモリ食べて分解し、肥料と同じような成分を作ってくれた上に、「団粒構造」という理想的な土にしてくれます。
生き物たちに「ありがとう」を言わなくては。
畑作シーズンがやってきたら、昨年の枯れ草を地表に敷きながら、うねを立て、野菜を育てます。

敷き詰める植物は、土が見えないくらいが適量なので、畑で枯れた作物だけでは足りません。我が家では花壇の植物も使って、どんどん重ねます。
おすすめの作業日は、カラッと晴れた日。薄く広げると、抜いた雑草も干からびて根付くことはありません。1日の作業で一気に厚く敷かず、サラリと敷くのがコツです。

これを繰り返すことで、次第に土の微生物が増え、数年単位で土が豊かになっていきます。
耕さなくても、肥料が少なめでも、野菜はちゃんと育ちます。いろんな生物や菌が同居しているせいか、何か特定の虫や病気だけが激増して困ったなんていう記憶はありません。
楽ちん、楽ちん。

不耕起栽培を成功させるコツ <春〜夏>
私が実践している不耕起栽培のコツは3つです。
- 畑に生えた雑草は小さなうちに抜いて重ねる
- 晴れの日に薄く重ねる(すぐ干からびて土になじみます)
- 作物より雑草の丈を低く抑える
作物のほうが勢いがあれば、雑草まみれでも平気です。
ほらね、雑草の中でも苦くないミニピーマンの「ピー太郎」が鈴なりです。

不耕起栽培を成功させるコツ <秋〜冬>
その1 晩秋の草葉をふんだんに使う
秋の草葉って、とっても不思議。まるで抜け殻のようです。
みずみずしかったギボウシも、秋はしんなり。夏は私の指より太かった茎もバリッとした葉っぱも、ひと冬越せばトイレットペーパーのようにヒラヒラで、新しい草花が簡単に突き破って芽吹き始めます。
夏の葉っぱを干しても、こうはなりません。

経験上、秋に立ち枯れた植物は、完熟腐葉土に近い感覚です。ぶ厚く敷くと、ひと冬でかなり土がよくなります。こんな場所は土づくりのお宝です。

畑に大量に種まきしたくなければ、花が咲いたあと種を付ける前に、花茎をカットしてくださいね。綿毛になった後で何とかしようとしても、フワフワ飛び散ってしまいます。
…しかし、私は不耕起栽培を続けることで、こぼれた種が芽吹いたら「うしし『堆肥』が出てきたぞ」と喜ぶ人になりました(笑)。
不耕起栽培を成功させるコツ <秋〜冬>
その2 有機石灰をまこう
土壌改良剤の一つ、「有機石灰」は貝殻などが原材料で、アルカリ性の土が好きな野菜のためにまいています。
日本の土は酸性なのですが、野菜の多くはアルカリ性の土である海外が原産なので、石灰は欠かせません。
落ち葉は燃やすか堆肥に活用します

根雪になる前、森の家の我が家には、大量の落ち葉が降り注ぎます。落ち葉は堆肥にするか、燃やして草木灰にします。なぜそうするのか、理由は水はけの悪さにあります。
落ち葉を雪解け後まで放っておくと、雪でペシャンコになり、地表で固まってシート状になってしまいます。そこに雨が降れば、たっぷり水を吸ってジメジメに。
気のせいか蚊やナメクジも増える気が……。

写真のような濡れ落ち葉は、のろしを上げるがごとく煙ばかり上がって、ちっとも燃えないので、堆肥にします。
我が家の堆肥づくりは、山の傾斜を利用したお手軽コンポストです。

落ち葉が乾いていたら、やった! とばかりに落ち葉焚きです。落ち葉焚きといえば焼き芋! これも例年の季節の楽しみ。
我が家では、焚き火用に底や両脇に空気穴をあけた一輪車を用意して「七輪車」と呼んでいます。
ドッサリの落ち葉を焼いて、熾火をゴッソリ作ったら、焼き芋屋さんのようにじっくりトロトロ蒸し焼きに……もうたまりません。残った草木灰は主に花壇へ。花壇から雑草や立ち枯れた草葉が畑へ。こうして庭と畑と暮らしの喜びが、毎年グルグル回っています。
ゆとりが生まれる栽培方法

私は病気があって、体調はいつも不安定です。慢性呼吸不全に不全麻痺で思うように動けず、痛みも強い毎日。目標を定めて頑張ることは難しく、いろんなことが常に後回しです。
ただでさえ自己嫌悪に陥りそうな日常なので、もしもメディアのお手本のように栽培しようとしていたら「ちゃんとできなかった」ことだらけになり、とっくにガーデニング自体を諦めていたと思います。
ところが、不耕起栽培だと耕さなくていいぶん体力が要らないし、雑草を積むのが大事なので、雑草でぼうぼうになっても庭や畑が荒れているとは思いません。
土の下で何が起きているか…どんな生き物が増えたかが楽しみなくらいです。
雑草も許し共存し、手入れに追われず、あるがままを楽しむゆとりが生まれること。
それが不耕起栽培の贈りものだと思います。
最後に、このガーデニングスタイルにたどり着いた参考文献を2冊ご紹介します。
・『新ぐうたら農法のすすめ』 西村和雄著 人類文化社刊 2001年
・『地面の下のいきもの』 大野正雄著 挿絵/松岡達英 福音館書店刊 1988年
絵本を超えた素晴らしい一冊で、ガーデナーの足元の世界が変わります!
Credit
写真&文&イラスト / 山崎亮子

やまざき・りょうこ/北海道で家族とともに裏の森へとけこむような花と緑のガーデンを作る。厳しい自然環境でたくましく育つ植物を丹念に観察しながら庭づくりを楽しみ、庭の実りを食卓やインテリアなど暮らしへ豊かに展開し、その様子を本誌で執筆。自身の暮らしを描いたやさしいタッチのイラストも人気。
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