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子どもと若者が育てた、小さな緑のじゅうたん 公園はどう変わり始めたのか

子どもと若者が育てた、小さな緑のじゅうたん 公園はどう変わり始めたのか

神奈川・川崎駅東口の歓楽街にある東田公園。ほんの数年前まで、不法投棄やゴミが絶えず、地域で「子どもは遊びに行ってはいけない」と言われていたこの場所に、今、小さな緑のじゅうたんが広がっています。育てているのは、子どもや学生たちが主体の「まちびらき隊」。子ども達が植えた緑は、公園の景色だけでなく、そこに集う人と場所との関係まで、少しずつ変え始めています。緑は街に何をもたらすのか。そして、公園とは本来、誰のためにある場所なのでしょうか。

歓楽街の公園に響く、歓声

「水、たまってる!」

8月のある日曜日、朝10時すぎ、川崎市川崎区の東田公園。その一画に広がる小さな緑のじゅうたんの周りに、学生たちが集まっていた。地面を這うようにびっしりと葉を広げているのは、グラウンドカバープランツのクラピアだ。彼らが覗き込んでいるのは、前日からクラピアの葉を覆っておいた透明なビニール袋。内側には水滴がつき、底には少量の水がたまっている。葉から水分が放出される「蒸散」を、自分たちの目で確かめる実験だ。

蒸散によって得られた水の水質を確かめてみようと、相談する学生たち。

今度は地面の温度を測る。クラピアが覆っている場所は約26℃。すぐそばの砂利がむき出しになった場所は約36℃。

「10℃も違う!」

この日は曇りがちで、真夏としては比較的穏やかな天候だったが、学生たちが測った表面温度には約10℃の差があった。

しゃがみ込んで葉の間をのぞけば、今度は生き物探しが始まる。バッタがいた。シジミチョウやキタテハも見つかった。

「前はいなかった生き物がいるね」

小さな緑の中に、次々と発見がある。観察がひと段落すると、彼らは水鉄砲を手にして、クラピアへ水を飛ばす。あっちからも、こっちからも水が飛び、時には人にもかかる。歓声を上げて走り回り、キャッキャと笑いながら、小さな緑のじゅうたんに水を与えていく。

笑い声が弾ける、穏やかな公園の風景。

しかし、ここはほんの数年前まで、こんなふうに子どもが集まる場所ではなかった。

「子どもは遊びに行ってはいけない」と言われた公園

東田公園は、川崎駅東口から徒歩約10分。「商店街の中にある身近な公園」と位置づけられている。園内には広場や遊具、コミュニティーハウスもある。

しかし、公園から一歩視線を外すと、その立地の特殊さが分かる。東田町で、営業種目が飲食店に分類される施設を編集部で集計すると400以上。そのうちの6割以上が「バー」に分類される。公園入口のすぐそばには、女性の姿を大きく掲げた派手な看板が並び、取材した日曜日の朝も、道路には前夜の名残を思わせるゴミが点在し、朝から酒を飲んでいる人の姿もあった。

かつてはここに店舗から出たと思われる粗大ゴミが置かれていた。

今、公園の一画にクラピアが緑のじゅうたんをつくっている辺りは、かつて不法投棄が目立つ場所だった。周囲の店舗が入れ替わる際などには、ソファやタンスといった大型の廃棄物まで捨てられていた。毎日ゴミを拾っても朝に1袋、夕方にまた1袋がいっぱいになり、ブルーシートを住まいにする人もいて、地域では「子どもは遊びに行ってはいけない」と言われる公園だったという。

ところが今、その場所に近隣の保育園の子どもたちが、毎朝遊びに来るようになった。公園の姿を変えたものは一体、何なのか。

始まりは「公園をきれいにしたい」

変化のきっかけをつくったのが、「まちびらき隊」。先ほどクラピアを観察していた学生たちがメンバーだ。

まちびらき隊は、NPO法人「姿勢教育の孝心会」のもとで活動する子ども・学生主体のグループ。東田公園内には同法人が運営する「コミュニティーハウスさくら」があり、そこを拠点として、毎週日曜日の10時15分から定期活動を行っている。

この日の活動にはクラピアを開発している株式会社グリーンプロデュースの井上まきさんが手入れの助言や新たな壁面緑化プロジェクトの相談役として参加した。

活動が始まったのは2021年。「公園をきれいにしよう」。そんな純粋な思いから近隣の友だち同士が集まり、まず始めたのはゴミ拾いだった。代表は次の世代へと引き継がれながら活動が継続され、初期から現在まで参加を続けているメンバーもいる。

彼らは、ただ用意された活動に参加するのではない。自分たちで地域の問題を見つけ、「どうしたら変えられるか」を考え、実際の行動へとつなげていく。イベントを企画し、チラシをつくり、必要なら行政への申請書を用意する。商店街にプレゼンし、地域や企業にも協力を呼びかける。企画、チラシ制作、司会、写真・動画撮影、SNS発信など、活動を実現するための役割も細かく分担し、その一つひとつを子どもたち自身が担っている。

こうした活動のやり方は、上の世代から下の世代へと受け継がれてきた。大学生が高校生に、高校生がさらに年下の子どもたちに、遊びも交えながら活動の意義や方法を伝える。そうして少しずつ、「自分たちの街は、自分たちで変えられる」と考える仲間を増やしてきた。

「禁煙」か「分煙」か。東田公園が抱えていた課題

最初は、捨てられているゴミをくる日もくる日もひたすら拾った。活動日の日曜だけでなく、学校からの帰り道にも、クリスマスにも、お正月にも。それでも遊具のすぐ側や彼らが花を植えた花壇の中にも、酒瓶や空き缶、ペットボトルにたばこの吸い殻、傘、メガネ、服など、ありとあらゆるゴミが繰り返し捨てられた。

公園入り口に散乱するたばこの吸い殻を拾う子どもたち。ひまわりの花壇の中にも空き缶が。写真/まちびらき隊

自分が植えた花の上が、そんな惨状になった時の気持ちを想像してみてほしい。どれほど悲しく、無力感にさいなまれるだろうか。しかし、彼らは諦めるでもなく、誰を責めるでもなく「なぜゴミは減らないのか」と考えた。例えば、たばこの吸い殻。メンバーである子どもたち自身は、もちろんたばこを吸わないが、彼らは吸う人の立場になって、捨てる場所がないことも吸い殻が散乱する一因なのではないかと考えた。

興味深いことに、東田公園では行政もまさに同じ課題に向き合っていた。川崎市は2024年3~4月、東田公園を含む市内6公園で禁煙の試行を実施し、利用者アンケートを行っている。東田公園では105人が回答。「公園での喫煙をどう思いますか」という問いに対し、「禁煙がいい」が45%、「分煙がいい」が42%だった。ほぼ真っ二つである。 

市全体に寄せられた意見にも、「吸い殻のポイ捨てが怖い」「子どもへの副流煙が心配」という声がある一方、「灰皿があればそこで捨てる」「スモーキングエリアを設ければ、そこで吸ってほしいと言える」という分煙を求める声があった。 つまり、「吸う人を締め出すのか、何も規制しないのか」という二択ではなく、異なる立場の人が利用する公共空間で、どう折り合いをつけるかという課題が、現実に突きつけられていたのである。

公園に新設された喫煙所を清掃する「まちびらき隊」の高校生。写真/まちびらき隊

東田公園で実験的に禁煙が導入された際、まちびらき隊は、活動を続けるなかで、むしろたばこの吸い殻のポイ捨てが増えたと感じたという。そこで市に対し、喫煙する人がルールを守って利用できる場所の設置を働きかけた。川崎市はその後、公園を原則禁煙としながら、常駐管理者のいる一部公園に「喫煙可能スペース」を設ける方針を決定。2025年7月1日から、東田公園にも設置された。

「ゴミを捨てないで」。子どもの言葉が大人に届いた

また、まちびらき隊はポスターをつくるイベントを開催し、たくさんの子どもたちが描いた絵とメッセージを公園中に掲げた。書かれているのは、どれもシンプルな言葉ばかりだ。

「ゴミをすてないで」「お花を大切に」「みどりだいすき!」「公園を大切に」「ちきゅうをきれいに」「まちをきれいに」

すると活動を続けるうちに、不法投棄は見られなくなり、少しずつゴミも減ってきたという。

「僕たちがゴミを拾うからだけではなく、ポスターでメッセージすることによって、ゴミを捨てる人自体も減ったのだと思います」と、初期から活動するメンバーが話してくれた。

誰かがこの公園を大切にしているというメッセージ。それがゴミを捨てようとする人の手を、とどまらせている。

次に挑戦したのは「緑」だった

「まちびらき隊」が現在ゴミ拾いと並行して取り組んでいるのが、東田公園を緑化するプロジェクトだ。まず挑戦したのはクローバーだった。土を耕してタネをまき、緑のじゅうたんをつくった。一度は茂った。しかし、夏の暑さで枯れてしまった。もう一度挑戦しても、夏を越せない。試行錯誤は4年間続いた。

そこで彼らは、自分たちで植物を調べ始めた。

「川崎市は工業地帯で、二酸化炭素を多く排出しているんです。それを吸収して温暖化を防ぐことにもつながればいいなと思って、暑さに強いという条件とともに、CO2吸収という検索ワードも入れて調べたら、出てきたのがクラピアだったんです」。

クラピアは、沖縄などに自生する在来種イワダレソウを原種として品種改良された、地面を這うように広がるグラウンドカバープランツだ。暑さに強く、小さな丸い葉が密に広がることで、雑草の発生を抑えやすく、雑草対策などにも利用されている。また、根が地中深く1m近くまで伸びるため、豪雨による土壌の流出防止や雨水の浸透効果などの環境機能が注目されている。

つるはしとシャベルだけで砂利の地面を耕すまちびらき隊メンバー。写真/まちびらき隊

ただし、その植栽は簡単ではなかった。クラピアは地中深く根を伸ばすという資料を読んだ彼らは、予定地43平米を50cmの深さで掘り進めた。掘ると、中から石が次々と出てきた。それを一つずつ取り除きながら、半年ほど地道な土づくりを続けた。その後、専門家の植栽指導を受けてクラピアを175株植栽。土づくりから約1年をかけ、公園の一画に緑のじゅうたんを育て上げた。心配していた8月の猛暑も枯れることなく、瑞々しい緑が広がり、愛らしい花も咲く。

2025年秋、資材の購入など、まちびらき隊の活動を支援する川崎中央ロータリークラブと一緒にクラピアを植栽した。

こうした彼らの活動は行政からも評価され、2025年には、「かわさきSDGs大賞2025」の地域・社会部門で最優秀賞を受賞。川崎市は、中高・大学生が主体となり、幼児や小学生の意見を取り入れながら、行政、企業、商店街、地域団体と連携して実現している点などを高く評価した。

活動を通して、子ども達自身にも変化が生まれたという。大学生の一人は、「植物にこれまで興味がなかったけれど、この活動を始めてから、どうしてここに生えているのかなとか、植物の働きについて興味を持って調べるようになりました」と話す。また、横浜から電車とバスを使いこの活動に参加している高校生は「学校だけではないコミュニティを持って、仲間と一緒になんでもチャレンジできることがとても楽しい」と教えてくれた。

緑は、人の心に何をもたらすのか

緑がもたらすものは、景観の美しさだけではない。WHOは都市の公園や緑地について、心理的なリラックスやストレスの軽減、人とのつながりや身体を動かす機会を生み出し、さらに暑さや騒音など都市生活の負担を和らげることで、心身の健康を支える可能性があるとしている。

東田公園を考えるうえで、興味深い研究もある。米国フィラデルフィアで、荒廃した空き地541カ所を対象に行われた無作為化比較試験だ。空き地を清掃したうえで芝生や樹木を植え、継続して管理する「緑化」を行った場所と、清掃だけを行った場所、何もしない場所の3つを比較した。

その結果、緑化した場所の近隣住民では、対照群と比較して「抑うつを感じる」という回答が41.5%減少した。貧困線以下の地域に限ると、その減少はさらに大きかった。一方、ゴミを取り除いて管理するだけの介入では、同じような精神面の改善は確認されなかった。

同じフィラデルフィアの別の無作為化比較試験では、荒廃した空き地を緑化・管理した周辺で、住民の安全感や屋外利用にも変化が確認され、貧困地域では一部の犯罪指標も減少した。

もちろん、「緑を植えれば犯罪がなくなる」「クラピアを増やせばゴミが捨てられなくなる」と単純化することはできない。しかし、こうした研究を東田公園の変化に重ねてみると、興味深い共通点が見えてくる。ゴミを取り除くだけではなく、植物を植え、誰かが継続して手入れすることで、「ここは放置されていない場所だ」と感じられる風景が生まれていることだ。

「捨てちまえ」と思わせない場所へ

すでにゴミが散乱している場所に、もう一つ空き缶を置くのは気が咎めない。「どうせ汚い」「誰も気にしていない」、そう思えば心理的なハードルは低くなるものだ。

まちびらき隊が中心となり、毎年、春にはチューリップ、夏にはひまわりを育てている公園入り口の花壇。写真/まちびらき隊

けれど、その場所に花の絵とともに「公園が好き」という文字がある。昨日までむき出しだった土に緑が広がっている。花が咲き、誰かが水をやっている。毎週日曜日には、若者たちが手入れをしにやって来る。そうなれば、そこはもう、「誰も気にしていない場所」ではない。

さらに、前述の研究の中に示された、緑化された環境が人の心身にもよい影響をもたらす可能性も注目すべき点だ。

緑の心地よさは、利用する人を選ばない

公園の緑化と聞けば、その先に子どもが遊び、家族がピクニックを楽しみ、地域の人が花を眺めるような、穏やかな景色を思い浮かべる人が多いだろう。けれど、東田公園を訪れる人はそれだけではない。

周囲の店で働く人もいる。酒を飲んだ帰りの人もいる。仕事の合間にたばこを吸いに来る人。何かがうまくいかず、ただ一息つきたい人もいるかもしれない。

そうした人たちは、「荒れた公園」を説明するための景色ではない。彼らもまた、この街に暮らし、働く一人の人間だ。そして、家でも職場でも店でもなく、お金を払わずにただ木陰に腰を下ろすことのできる公園を、むしろ強く必要としているかもしれない。少し疲れたとき、社会とのつながりからこぼれ落ちそうになったとき、足が向くのが公園という場所なのかもしれない。

公園は誰のためにあるのか

「公園は誰のためにあるのか」という問いは、東田公園だからこそ浮かび上がってくる。まちびらき隊がこれまでやってきたことは、そこで問題を起こす誰かを排除することではなかった。ゴミを拾い、子どもたちの言葉を掲げ、喫煙する人にもルールを守れる場所を用意し、そして荒れた地面を耕して緑を育てている。

彼らの目下の目標は、この緑のじゅうたんのエリアを広げ、公園を緑でいっぱいにすることだ。

「この公園を拠点に、街中へも緑を広げて、温暖化とか社会の課題を解決できたらいいなと思い描いています」と代表を務める学生の一人は話した。

ほんの数年前まで、「子どもは遊びに行ってはいけない」と言われていた東田公園。今、その一画には小さな緑のじゅうたんが広がり、日曜日になると子ども達が集まってくる。その緑のそばでは、子どもも、大人も、この街で働く人も、ただ通りかかった人も、同じ公園の利用者だ。

小さな緑のじゅうたんが広げようとしているものは、植物の葉だけではないのかもしれない。

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