福岡といえば明太子、豚骨ラーメン、屋台グルメ…といった食の都のイメージが強くありますが、じつはそれに加え、近年、花にあふれる美しい街の景観が魅力にプラスされているのをご存じですか。道路沿いや公園、学校、病院、駅前、商業ビル、ホテルやマンションのアプローチ、パチンコ店の店先まで、そこかしこが季節の花で鮮やかに彩られ、街はさながら‘フラワーシティ’の様相を呈します。これらの花を植え、熱心に世話をしているのは市民。街を舞台にガーデニング大ブーム中の福岡市「一人一花運動」を取材しました。
目次
かわいい花壇がそこかしこに!
歩くだけで楽しい福岡市の街なか
アリッサムやビオラ、プリムラの花の絨毯の中から、チューリップがスッと茎を伸ばす鮮やかな花壇。どこか素敵なガーデンの一角のようなこの花壇、じつは福岡市の中心部、中央区天神の幹線道路中央分離帯(写真下)です。通勤、通学、買い物の人や車が行き交う横断歩道脇にこのような花壇が設置されており、一年を通じて花が咲き継ぎます。特に春の「スプリングフェス(2022年は4月9〜17日)」開催中には、主要道路をつなぐ約9kmにわたって花壇やプランターにチューリップが一斉に咲き揃い、華やかさを極めました。
福岡市内の企業が美しい花壇のスポンサーに
花壇は各所で少しずつ趣が異なり、花壇ごとにプレートが立てられています。そこには企業名とともに、「一人一花」の文字が。これは福岡市が推進している「一人一花運動」の目印。「一人一花運動」とは、2018年1月に福岡市がスタートさせた街づくり施策の一つで、市民一人ひとりに花を育ててもらうとともに、企業には一社一社、街なかの花壇を管理してもらい、街の魅力をみんなで高めていこうというものです。
街の美観を保つための緑化運動は多くの自治体が取り組んでいますが、課題となるのが花壇の質や管理体制の充実です。そこで、福岡市が掲げたのが「一人一花運動」の「おもてなし花壇」制度。おもてなし花壇とは、人通りの多い都心部に年間を通じて美しい花壇を設え、『おもてなし』の気持ちを表現しようというものです。この制度に共感賛同する企業や個人は、その年間管理費相当額を協賛。花壇にはスポンサーとなってくれた企業名入りのプレートを掲げることにしました。
つまり、プレートはTVでよく目にする「この番組は〇〇の提供でおおくりします」というものと同じ趣旨で、都心部のメインストリートで名前を広く知ってもらえるのがスポンサー側のメリットです。こうしたメインストリートの花壇は「おもてなし花壇」と呼ばれ、福岡市民はもちろん、福岡を訪れる人を美しい花で迎え、観光地としての魅力を上げる狙いもあります。
美しい花壇で街づくりに参画する会社が増加中
街なかの花壇は単一に花が列植されているだけでなく、さまざまな花材を用い、デザインにも工夫が凝らされています。「美しい花壇」は、結果的に企業にとって認知度アップだけでなく、自社のCSR活動やSDGsへの取り組みの表明の場にもなっており、年々企業側からの申し込みが増え、現在は155社(令和4年3月31日時点)がスポンサーに名前を連ねています。
市民のガーデニングスキルの高さも美しさの秘密
また、植える人の園芸スキルの高さも、美しい花壇の秘密。身近な公園や道路などの公共空間を花壇化する「ボランティア花壇」の手入れは、市と管理協定を締結した市民のボランティアグループなど293(令和4年3月31日時点)の団体が行っています。舞鶴公園フラワーボランティアはその一つで、市民の憩いの場となっている公園内の花壇の手入れを定期的に行っています。水辺を背景に季節ごとに見事な花景色を展開する花壇は、公園を訪れる人のフォトスポットにもなっており、スマートフォンを構える人が後を絶ちません。
「季節を感じられる変化のある景色を楽しんでほしいので、花壇の花はほとんど一年草で構成しています」と話すのは、メンバーのまとめ役の前田郁子さん。年間でどんな花を咲かせるかを計画し、花壇をデザインしています。驚くのは、これらの花がすべて前田さんたちボランティアの手で種から育苗されていること。「花壇にたっぷり花を咲かせるにはたくさんの花が必要なので、種から育てたほうがコスパがいいんです。それに加え、ここは常に管理者がいるわけではないので、自然の降雨で丈夫に育つよう、根張りのよい丈夫な花が必要です。そのためには、種から自分たちで育てるのが一番いいんです」(前田さん)。
バックヤードで育てられた花苗は、見頃の花がちょうどよくバトンタッチするように植え替えされます。「今日はビオラの後を彩るトレニア(夏スミレ)をポット上げして、植え込みの準備をしました。今、咲いているチューリップは花が終わったら来年も咲かせるために、バックヤードに植栽し直し、肥料をやって球根を太らせ、再び花壇に植えるまで大事に保管します」(前田さん)。
丈夫な花のために、前田さんたちは苗づくりだけでなく、土作りも自分たちで行っています。「公園の落ち葉や抜いた雑草は、私たちにとってはゴミじゃないんです。これもバックヤードに集めて堆肥にし、土壌改良も自分たちで行っています」。
このような高い園芸スキルが年間を通じた美しい花壇を実現していますが、福岡市では、市民の園芸スキルアップの機会が多数用意されています。その中心となっているのが、福岡市とともに「一人一花運動」を推進している公益財団法人福岡市緑のまちづくり協会が実施している「緑のコーディネーター」制度です。
緑のネットワークを広げる「緑のコーディネーター」制度
緑のコーディネーター制度は、花壇づくりや寄せ植え、植物栽培など専門知識や緑に関する得意分野を持つ人を協会が認定し、人材を登録。緑化活動の指導者やアドバイザーとして市民向け講座などへ派遣し、全体のレベルアップを図っています。舞鶴公園フラワーボランティアのメンバーの多くは、この「緑のコーディネーター」の認定を受けており、舞鶴公園だけでなく他の福岡市内でも活動を牽引しています。
現在、福岡市の「緑のコーディネーター」は309名。協会やコーディネーター同士のネットワークを通じて、花の種や苗のやりとりが行われることも珍しくありません。とりわけ、舞鶴公園フラワーボランティアが育苗する花苗のなかには、種採りを何世代も繰り返して長年受け継がれる間に、福岡市の気候に合うよう品種特性が進化したものもあります。そうした育てやすく丈夫な花は、他の公園や道路の植栽マスで活動する団体へも提供され、福岡中に広がっています。
市民の生活の質の向上が「一人一花運動」の目的
「自分たちで育てた花を皆さんに見てもらい、喜んでもらえるのが一番のやりがいですし、みんな誇りに思っています」と前田さんは話します。じつはメンバーの多くはマンション住まいで、自身の庭を持っていないため、公園での活動を通してガーデニングが存分に楽しめることも大きな喜びです。「一人一花運動」の目的は、まさにここにあります。市民の生きがいづくりや地域コミュニティの活性化、多世代交流、健康寿命延伸などといった福岡市民の生活の質の向上が一番の目的で、花はそのためのツール。その結果として、花であふれた街の景観が生まれているのです。
市では、福岡市内の花壇活動が可能な公有地をリストアップしてホームページに掲載し、花壇をつくりたい企業や人を募集。花壇づくりがしたい人は、協会からの助成制度も利用しつつ、街なかを舞台にガーデニングができるという仕組みです。「一人一花スプリングフェス」開催中には、市役所前でコンテスト形式のガーデンショーも開催され、さらに多くの人の花への関心度を高める契機としています。こうして年々活発になる「一人一花運動」に、福岡市内の園芸店も反応。「一人一花運動」をしている人を対象に、5%割引で花苗を販売し活動をサポートしています。企業や園芸業界、そして市民が一丸となり、皆がやりがいや誇りを感じるからこそ活動が継続され、街はどんどん美しくなっていきます。この好循環そのものが、福岡市の目指す「街づくり」です。
都市の住みやすさを評価する『日本の都市特性評価2021(森記念財団都市戦略研究所)』によると、福岡市は「生活・居住」分野においては第1位を獲得。さらに、福岡は現在再開発の真っただ中にあり、中心地のビルは建て替えラッシュです。街の魅力や価値を自分たちの手で上げていこうという気運もますます高まり、「一人一花運動」は活発化しています。ただ花で街をいっぱいにするだけでなく、花をツールに「花で共創のまちづくり」を実現している福岡市。フラワーシティへの変貌に今後も注目です。
一人一花メディアパートナーにガーデンストーリーが就任!
このたびガーデンストーリーは福岡市の「一人一花運動」のメディアパートナーに就任しました。今後も一人一花メディアパートナーとして福岡市の‘花で街づくり’の様子をご紹介していきます。お楽しみに!
Information
福岡市一人一花運動公式ホームページ
https://hitori-hitohana.city.fukuoka.lg.jp
取材協力/福岡市役所一人一花推進課、舞鶴公園フラワーボランティア、ユニマットリック
Credit
文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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