なぜヨーロッパ人は「4週間」もバカンスが取れる? 留守宅を守る“無料シェア”の秘密とスイスで見つけた豊かな暮らし
Gartenbildagentur Friedrich Strauss / Strauss, Friedrich
長期旅行中の「留守宅やペットの不安」を解消する、ヨーロッパ流の「無料ホームシェア」の知恵をご存知ですか? ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ-ツェルナーさんがこの合理的な仕組みを利用し、スイスの美しい山間の村で過ごした滞在記をお届けします。花や自然に囲まれた、心豊かな暮らしのヒントがここにあります。
目次
夏の長期休暇

この夏、私は4週間をヨーロッパで過ごす機会を得ました。日本ではさまざまな事情から長期のバカンスを取るのが難しいかもしれません。その理由として挙げられるのは、家族や健康上の理由、円安などでしょうか。また、定年退職やその他の好機に恵まれ、長期旅行に出かけられる状況にあったとしても、自宅や庭を数日以上留守にすることに不安を感じるかもしれません。庭が荒れてしまったり、予期せぬトラブル、あるいは空き巣に狙われてしまうといった懸念がありますよね。

もう一つの大きな理由として、ペットの存在が挙げられます。世話や遊び相手が必要な猫、日々の散歩や構ってあげることが欠かせない犬、あるいは水槽の魚やウサギなどの小さな家族が気がかりなのです。
まずは、長期間家を空ける場合でも安心して過ごせる方法の例をご紹介したいと思います。
ヨーロッパ人のバカンスの秘密

私のヨーロッパの友人たちの中には、数週間にわたって家や庭を留守にすることに対し、とても気楽な感覚を持っている人たちがいます。では、その秘訣は何でしょうか?
じつは、彼らは留守の間、友人に自宅やアパートを無料で貸し出しているのです。もし庭がある場合、一時的に家を借りる人が行う作業といえば、植物への水やり、一年草やゼラニウム、インパチェンスの花がら摘み、そして場合によっては芝刈り(ヨーロッパではどこにでも芝生があります)といったことくらいです。これらは1日30分から1時間もあればできる仕事ですし、“仕事”とはいっても実際には楽しみながらできること。その土地や近隣の様子をより深く知ったり、違った生活スタイルを垣間見たりできる、興味深い体験なのです。

猫や犬、その他のペットがいる場合、無料で滞在する代わりに、餌やりや遊び相手、犬の散歩といったお世話をすることになります。具体的なスケジュールや作業は個別に話し合って決めることになりますが、条件などについては忘れないよう、紙にしっかりと書き留めておくとよいでしょう。
そうした約束事以外の時間は、自由に使ってOK。散歩やハイキング、街へ出かけての観光はもちろん、テラスのリクライニングチェアに座って読書をしたり、自然の音に耳を傾けたりして過ごすのも素敵です。スイスでは、朝起きてまず窓を開けて新鮮な空気を入れ、近くの山々の頂に雲がかかっていないか確認しつつ、辺りから聞こえるカウベルの音に耳を澄ますのが日課でした。本当にリラックスできる、穏やかなひとときです。

スイスでのちょっとした庭仕事
さて、今回のスイス滞在に関しても、友人から素敵なアパートを2週間借りることができて実現したもの。彼女は車まで貸してくれたので、本当に貴重な体験ができました。
ただ残念なことに、彼女の家には手入れすべき草花も、刈るべき芝生もありませんでした。手持ち無沙汰になった私が目を付けたのは、建物の入り口にある大きなバラ。それは建物のオーナーのもので、大きく立派に育ってはいましたが、全く手入れされておらず、伸び放題の状態でした。庭仕事をしたくてうずうずしていたので、オーナーの方からバラの木を少し剪定する許可をもらうことにしました。

許可を得た翌日、早速赤いバラの伸びすぎた枝を切り詰め、花がらを取り除き、バラの植え込みの周囲をきれいに整える作業を楽しみました。もう庭仕事を手伝うことについて文句を言うのを諦めている娘の助けもあり、1時間ほどで、以前よりずっとすっきりと整った状態にすることができました。
このちょっとした庭仕事のおかげで、単なる滞在以上の体験ができました。バラの香りを楽しみ、この素晴らしいロケーションの魅力を一層味わうことができたのです。
このバラは、オーナーの方とのコミュニケーションのきっかけにもなり、私たちの成果も喜んでくれました。作業の間、彼女自身は愛らしい1歳の息子さんの世話をしていたのですが、それまで鋭いトゲを持つ枝が低く垂れ下がっていたのに、小さな男の子が怪我をしなかったのは幸運でした!

作業を始める前に聞いた話ですが、彼女の義父はこの家を訪れるたび、若いご夫婦が特に手入れをせず、伸び放題のバラを見ていつも“大きなショック”を受けているそうです。ご主人の話では、ある年の秋にお義父さんがバラの木をすべて切り詰めたところ、ご近所の人たちから「何かあったの? 大丈夫?」と心配されたそう。でも、その翌年には赤いバラが以前よりも美しく咲き誇り、花数もずっと増えたのだとか。
まさに“魔法使いのお父さん”、熱心なガーデナーですね。
実際、このバラを本格的に剪定するとしたらもっと時間がかかったでしょうが、時期が少し早すぎたので断念。もしバッサリと剪定していたら、ご近所の方々はきっとまた驚いたことでしょう。
スイスの山間の小さな村

今回滞在した、「クロワ峠(Col de la Croix)」の山間部に位置し、世界屈指の超高額な寄宿学校を擁する可愛らしい小さな村は、標高1,000メートルを超える高地にあります。村の入り口にはタチアオイが青い花を咲かせ、バス停には立派に育ったラベンダー、そしてたくさんの赤い花を咲かせるゾナル系ゼラニウムとアイビーゼラニウム……。真っ赤なゼラニウムは、暗色の木造家屋や、時折牛や子牛がのんびりと草を食む緑の牧草地を背景に、とても美しく映えていました。

ゼラニウムは昔ながらの夏の定番花で、とても丈夫。暑さだけでなく、やや低温にも耐えられます。ドイツやオーストリアでよく栽培され、赤系、あるいは白系の中間色が街並みによく似合います。ちなみに、ゼラニウムという名前はついていますが、現在はペラルゴニウム属に分類されています。


山間の村へ車で向かう道は、急カーブや道幅の狭い箇所が多く、なかなかの難所です。牧草地の柵が道路のすぐそばまで迫っているため、突然、車の目の前に牛が顔を出すこともありました。ガードレールがない場所も多く、ハンドル操作を一度でも誤れば、急勾配の斜面を転がり落ち、止まる術もありません。かなり恐ろしい道でしたが、それでもバスがこの長く急峻な曲がりくねった道を、一日に何度も往来していました。
村には手つかずの美しい景色が広がり、細い電気柵のワイヤーで区切られた牧草地と道路の境界はほとんど見分けがつきませんでした。
ベンチや通りの花装飾

今回の滞在中、花や自然とともに印象に残ったのは、座ってくつろぎ、景色を楽しめるベンチや休憩場所が数多く設けられていたことです。スイスはこうした設備が素晴らしく、素朴な木のブロックや丸太、あるいは美しく彫刻されたベンチや椅子などの座れるスペースが、美しい景色を望む場所や木陰に多様に用意されていたほか、市役所や商店の前といった村の市場にも設置されていました。こうしたベンチなどは植物やプランターと組み合わされていることも多く、中には2つの機能を兼ね備えたものもありました。


この洗練された小さな村は、周囲の高い山々を望む高地の丘陵地に位置していて、丘を登る道、あるいは丘を下って谷へと続く道という、たった一本のメインストリートしかありません。この道にも、プランター機能を有したベンチが効果的に使われていました。

メインストリート沿いには、ステンレスの脚に支えられた木製の丸太のようなベンチが並びます。丸太の中ほどにはプランターを置くためのスペースが彫り込まれており、その左右は木材の形状を活かしたデザイン。プランターには中央に小さな木が植えられ、その両脇に赤いペラルゴニウムが添えられていました。とてもシンプルですが、素敵な佇まいです。

可愛らしいガードレールのように車道と歩道を隔てるこのベンチは、見える範囲でも20〜30基ほど設置されており、どれも手入れが行き届いていて美しい状態でした。地域のボランティアガーデナーの方々が大切に世話をしているのでしょう。中には、木製の支柱をそのまま活かし、プランターを使わず、彫り込まれたスペースに直接夏の花を植え込んでいるものもありました。

道路沿いには街路樹、多くはリンデン(西洋菩提樹)も大きく茂っていて、その根元のスペースには、小さな野原のようにさまざまな種類の野の花が咲いています。子どもや動物、あるいはうっかり植栽に踏み込みかねない人々から花々を守るために、木製の柵で囲いもつくられていました。

自然の持つシンプルな美しさ

スイス滞在中、私は自然が持つ純粋な美しさを再発見しました。色とりどりの植物を少しあしらっただけのシンプルな演出が、言葉では言い表せないほど魅力的に感じられたのです。

日常生活における自然や植物の存在は本当に素晴らしいものです。チューリッヒの市場を訪れた際にも、野の花のブーケが持つ魅力に心を奪われました。多種多様な花が並び、どのブースでも近隣地域で育てられた花々が美しくアレンジされていました。

本当に自然は素晴らしいものですね。
Credit
話・写真 / Elfriede Fuji-Zellner - ガーデナー -

エルフリーデ・フジ・ツェルナー/南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/ Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood
まとめ / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。 2026年10月5日発売の書籍第3弾『小さな空間を生かす立体ガーデニング 玄関から始める花のある暮らし』(発行/KADOKAWA)予約受付中!
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