おとぎの国の花の楽園 マイナウ島-Insel Mainau-
なかなか終わりの見えない自粛生活。気兼ねなく旅行や外出ができる日が待ち遠しいですね。今回は、海外旅行に行きたいけれども行けないという皆さんを、ドイツで暮らすガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんが、空想旅行でドイツにお連れします。エルフリーデさんお気に入りの花の島、ボーデン湖に浮かぶマイナウ島をご案内しましょう。
目次
冬のドイツ
ドイツの1月はとても厳しい環境です。この記事を書いているいま、外には美しい景色が広がっています。雲の隙間から青空が顔をのぞかせ、鳥がさえずり、見渡す限りが雪に覆われています。10cmほどの積雪が、太陽に照らされて輝いています。
このように文字に起こすと美しい景色なのですが、降り続く雪と風の中、20kmもの除雪されていない田舎道を運転しなければならないような時には、景色を楽しむ余裕はありません。先日町に用事があって出かけた時には、心臓をバクバクさせながら、雪の降り積もった坂道や急カーブなどを進まなければなりませんでした。時には、車が道を外れて道端で凍えるのではないか、なんて考えが頭をよぎることも。帰り道では除雪車を見かけましたが、道の半分はまだ雪で覆われていました。残りの半分は除雪されて運転しやすくなっていましたが。その後、幸い事故もなく、無事に家に帰り着くことができました。
そんな例年通りの冬の厳しさに加え、今年はコロナウイルスの感染状況も深刻です。ドイツでは、1月11日から、全面的なロックダウンが再び始まりました。日常生活が次第に難しくなっていて、バイエルンでは、普通の布マスクを着用しただけでは、もうスーパーなどに買い物に行くことはできません。それぞれの州により規制は異なりますが、1月18日から、買い物などの際にはFFP2マスクという医療用マスクを着用することが義務付けられています。
さて、こんなことばかり考えていると気持ちが暗くなってしまうので、こんな状況でも楽しむために、一緒に旅行に行きましょう! とはいっても、本当に旅する訳にはいきません。この記事では、イチオシの美しい風景や、花や自然、そして喜びに満ちたドイツのエリアをご紹介しながら、想像の旅を楽しんでいただきたいと思います。
コロナ禍を乗り切る空想旅行
今回は、バーデン・ヴュルテンベルク州のボーデン湖にあるマイナウ島(Insel Mainau)へと皆さんをお連れしましょう。ボーデン湖はシュヴァーベン海とも呼ばれていますが、これはまるで海のように大きい湖だから。この湖はドイツの南西端にあり、ドイツ、スイス、オーストリア3国の国境に位置しています。南北の幅は、およそ63km。湖全体をぐるりと回る、約260kmのサイクリングロードも人気です。セーリングやウィンドサーフィン、海水浴を楽しむ場所としてもよく知られています。近隣の国では、人気のリゾートスポットなのです。
私も旅行で何度もマイナウ島を訪れたことがありますが、同じドイツ国内とはいえ、私が暮らすバイエルンとは雰囲気が大きく異なる地域です。
有名なライヒェナウ島
ボーデン湖には、マイナウ島を含め、いくつかの島々が浮かんでいます。中でも一番大きい島は、1,300年以上前につくられた修道院で有名な、ライヒェナウ島(Insel Reichenau)。この修道院の近くには小さなハーブガーデンがあり、9世紀には修道院長のワラフリッド・ストラボ(Walahfried Strabo)が、『HORTULUS』という、植物学的かつ教育的な、非常に初期のガーデニングに関する詩集を残しています。この詩集の中で、彼はセージやヘンルーダ(コモンルー)、ニガヨモギ、キャットミント、ハッカなどなど、多くの植物について言及しています。当時のガーデニング模様を記した貴重な文献資料です。
このハーブガーデンは、1991年に復元されました。気軽に見て回ることができますが、その背後には素晴らしい歴史を持つガーデンなのです。
現在でも、ライヒェナウ島にはたくさんの野菜やハーブの畑があります。春から夏にかけて、島の空気は爽やかなハーブの香りを含みます。この島にはいくつかの通称がありますが、その1つが「野菜の島」という意味のもの。あまり華麗な名前ではありませんが、島には野菜農家のハウスも多く、島の様子をよく表しています。野菜畑と並んで多いのが、赤や白のブドウが育つブドウ畑。秋になると、美しい紅葉を見せてくれます。
島にある高さ45mの展望台からの眺めも壮観です。この地の豊かな歴史を示す3つの教会と博物館が一望できます。ライヒェナウ島の人口はわずか3,300人ほどですが、休暇を過ごすためのレンタルアパートは充実していて選択肢が豊富。どのアパートも清潔で居心地がよく、島民の方々と交流することもできます。
さて、先に書いたように「野菜の島」とも呼ばれるライヒェナウ島には、じつはもう1つ別の名前があります。それが「MONASTERY ISLAND(修道院の島)」というもので、ユネスコ世界遺産のリストにも、こちらの名前が登録されています。
1つの島に対して3つの名前。ちょっと混乱してしまいますね。
花の島 マイナウ島
世界遺産にまで登録されているライヒェナウ島ですが、じつは、私がボーデン湖で一番好きな島は、別にあります。それが、「花の島」とも呼ばれるマイナウ島です。マイナウ島を訪れるときには、基本的に船でメーアスブルクの村から出発します。
この花の楽園をつくり上げたのは、2004年に亡くなった、レナート・ベルナドッテ伯爵。彼の死後は妻のソーニャ・ベルナドッテ伯爵夫人がその仕事を引き継ぎ、2008年に夫人が亡くなった後は、娘のベティーナ・ベルナドッテ伯爵夫人と、その弟のビョルン・ベルナドッテ伯爵という若い世代の下で、多くの新しいアイデアやエリアが加わり、さらなる発展を続けています。
マイナウ島の大きさは約45ヘクタールで、島からは湖とスイスの山々を望むことができます。 島の周りには舗装された広々とした道が通り、さまざまなテーマのガーデンや温室、レストラン、観光スポットへと続いています。 ベビーカーや車椅子の人でも、ほとんどの場所に簡単にアクセスできるようになっているので、旅行するにはぴったりの場所です。
「花の島」という名にふさわしく、マイナウ島は花と緑がいっぱい。中でも春は、溢れんばかりの球根花が、訪れる人々を迎えてくれる華やかな季節。船から下りると、大通りが球根花の咲くエリアへと続いています。3月初めにはクロッカスから開花が始まり、続いてスイセン、チューリップ、ビオラが、春の通りというテーマのガーデンで咲き誇ります。この光景を見ると、オランダのキューケンホフ公園を少し思い出します。マイナウ島にはキューケンホフのようなチューリップ畑はありませんが、広い範囲にたくさんの球根が植わり、芝生と木々の緑、湖の青を背景にしたステージで、素晴らしいショーを見せてくれるのです。
それでは、マイナウ島の人気エリアをご紹介していきましょう。
マイナウ島の人気エリア
バタフライハウス(蝶園)
この島のバタフライハウスは、ドイツでも2番目に大きいものです。季節にもよりますが、最大で約120種1,000頭のチョウが、世界中から集めた熱帯植物の間を舞い飛びます。この光景は、いつ見ても曇りのない喜びと限りない自由を感じさせてくれます。湿度は何と90%にも達し、気温は年間を通しておよそ25~30℃に保たれています。外の冬とは対照的な、素晴らしい南国の楽園なのです。
子どもの広場
島を訪れる子どもたちには、水をテーマにした大きな遊び場がおすすめ。親にとっても、ゆっくり座って子どもが遊ぶ姿を見守ることができるのが嬉しい場所です。木陰でピクニックもいいですね。隣にはポニーやアルパカ、羊、ロバ、牛などがいる小さな牧場もあります。餌やりや触れ合いも体験できますよ。
クライミングパーク
マイナウ島では、アドベンチャー体験もできます。クライミングパークに行ってみましょう。木々の間にはたくさんのアトラクションがあり、高いところやスピードを楽しむことができます。見ているだけでも楽しいですよ。
以前、このクライミングパークのアスレチックに挑戦したのですが、木登りやバランスといった普段しない運動をしたことで筋肉痛になり、回復するのに丸々3日かかりました。私のように日頃から運動をしていない人が挑戦する場合は、十分気をつけてくださいね。
樹木園
樹木園には、樹齢100~150年ほどの雄大な木々が植わっています。ほんの一例をあげれば、セコイアデンドロンやユリノキ、ヒマラヤスギなど、主にエキゾチックな木々が世界中から集められています。近くにはメタセコイア並木もありますが、これらの巨木たちの間に立つと、自分がいかにちっぽけな存在か痛感させられます。
バロック様式の宮殿
島の中心部にあるこの美しい宮殿は、1739~1746年にかけて、ドイツ騎士団の城として建設されました。均整の取れた左右対称の建物で、形はアルファベットのUに似ています。この宮殿は島の中心部にあり、現在もベルナドッテ伯爵がここで暮らしていますが、一部は一般に公開されています。部屋やホールの一部は、展覧会や音楽会、企業の会議、結婚式などのために借りることもできますが、どんなイベントを行うにしても、素晴らしいロケーションとなることでしょうね。教会もあり、こちらも結婚式場として人気の高いスポットです。
パームハウス(ガラス温室)
この宮殿と教会に隣接して、パームハウスがあります。外見は、まるでガラスでできた大きな3つの波のよう。高さは最大で17mほどあり、一番大きなヤシの木も十分に収まる温室です。中では20種以上のヤシが育ち、冬季になると柑橘類も冬越しのためにやってきます。5月には大きなランの展示イベントもあり、ファレノプシス(コチョウラン)やバンダ、カトレアなど、さまざまな品種のランを見ることができます。
イタリアンローズガーデン
パームハウスの前には、幾何学的にデザインされたローズガーデンがあります。
一番花のハイシーズンは6月半ば、そして二番花は8月に見頃を迎えます。トレリスにはつるバラが絡み、ブッシュローズやスタンダード仕立てのバラなどが、数えきれないほどの色形で花開きます。ガーデンには1,000品種以上のバラがあり、毎年少しずつ新品種が加わっています。毎年6月には、訪れた人による人気投票で、マイナウ島のバラの女王を決めるコンテストも行われています。
バラを楽しむ際には、香りも忘れてはいけません。ぜひ顔を近づけて、香りもかいでみてください。私はどの花でもついつい香りを確かめてしまうので、花壇を一列見るだけでも、とても時間がかかってしまいます。
イタリア風 花と水のカスケード
このカスケード(階段滝)は、次にご紹介する地中海テラスと、その下に広がる湖のエリアをつなぐもの。イタリアのトスカーナを彷彿とさせる背の高いイトスギと、色とりどりの一年草や地中海原産の植物に彩られた美しい水路を、楽し気に水が流れ落ちています。季節によってさまざまな表情を見せ、マイナウ島の中でもよく知られたスポットです。
地中海テラス
イタリアの風を感じられる地中海テラスは、この「花の島」の中でも、私が特に好きなスポットの一つです。
ドイツ人の多くは、イタリアや地中海、そしてかの地の緑豊かな植生や短く暖かな冬への憧れを持っています。こうしたイタリア好きのドイツ人は、自分の家のガーデンのどこかにイタリア風のポイントを入れることがよくあります。このテラスは、その素晴らしい成功例の一つでしょう。ノウゼンカズラやブーゲンビリア、パッションフラワー、アガベ、ヤシといった熱帯~亜熱帯地域の植物に取り囲まれるようにして、中央には噴水があります。これらの植物は寒さに弱いので、冬は温室に運び込まなくてはなりませんが、それでもとても美しい景色です。
また、このテラスからの眺望は素晴らしく、ボーデン湖のパノラマビューを堪能することができます。
草本園
マイナウ島の草本園を訪れると、かつてガーデニングを学んだ場所のことをよく思い出します。ルドベキアやエキナセア、デルフィニウム、エキノプス、オリエンタルポピー、ヘメロカリス、ピオニーなどなど、数えきれないほどの宿根草が海のように広がります。ここでは、700種以上、2万を超える植物が育ち、サイズや形、カラーリーフなどが多様に植えられているので、自宅の庭の宿根草の組み合わせ方を学ぶにもうってつけの場所です。
アジサイの小径
フェリーで島を訪れる人々が到着する船着き場のそばにはアジサイの小径があり、レストランやおいしいソーセージを売る屋台などの前を通り過ぎ、「Comturey」というレストランの美しいルーフガーデンを通って、花時計まで続いています。
ちなみに、花壇と時計を組み合わせたものではなく、花そのものの開花によって時間を計るという花時計のアイデアは、世界的に有名なスウェーデンの植物学者であるカール・フォン・リンネが、1745年に考えたものだそう。花によって開花の時間が異なることに気づいたリンネは、丸い花壇を作って12の時間帯に分け、その時間帯に開く花を対応する場所に植えて時を計ることを考えました。条件次第で開花にバラツキが出るため、時計としては普及しませんでしたが、いまでも一部のガーデンや植物園などで見ることができます。
ダリアガーデン
8月末から10月半ばにかけて、最盛期には1万本以上が咲くダリアは、秋のマイナウ島の最大の魅力の一つです。草丈40cmほどのコンパクトなものから2mにもなるものまであり、花色や花姿も豊富です。バラと同様に、最も人気の高いダリアの花を選ぶ投票も毎年行われています。
旅する日を夢見て
マイナウ島では、年間を通してたくさんのフェスティバルやイベントも行われ、毎年およそ120万人もの観光客が、ボーデン湖に浮かぶこの花の楽園を訪れます。ここでご紹介した以外にも、ボーデン湖周辺には魅力的な場所がたくさんあるので、ゆっくり時間を取って観光するのがおすすめ。マイナウ島は見どころが多いので、丸一日かけてさまざまなエリアを探検してみてはいかがでしょうか? 慌ただしく回るのではなく、腰を落ち着けて景色を眺めたり、レストンや屋台の美味しい食事を楽しんだり。この素晴らしいロケーションと美しい景色を、じっくり味わってほしいと思います。
残念ながら、現在は島を訪れるにはさまざまな規制がありますが、近い将来、私も再びマイナウ島を訪れて、今まで以上にその素晴らしさを満喫したいと思っています。自然やその美しさ、そして自由に旅する喜びは、コロナ禍を経て、より一層強く感じられることでしょう。
ボーデン湖とマイナウ島の地で、皆さんを歓迎できる日が来ることを願っています。それまでは、「いつか行きたい」と思う地を、空想旅行で楽しんでみませんか?
マイナウ島 https://www.mainau.de/en/welcome.html
Credit
ストーリー&写真(記載外)/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood
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