育てやすい私のお気に入り植物セレクション&ステップストーンとしての緑の役割
夏が終わったこの時期は、今年植えた植物のパフォーマンスを再評価してみましょう。今年も猛暑が続いた日本の夏の暑さに負けず、元気に生育してくれた植物は、来夏のマストバイアイテムとしてチェックすべき優秀プランツです。ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ-ツェルナーさんが、夏のガーデンで活躍した生育旺盛で育てやすいお気に入り植物4種を、栽培のコツや利用のポイントとともにご紹介します。併せて、ドイツでの生態系保護に向けた取り組みもご紹介します。
目次
家庭菜園でお気に入りになったツルムラサキ
この夏、特に印象に残った植物が、ツルムラサキ。自身が家庭菜園に植えたわけではないのですが、市民農園の隣の区画の方が育てていて、私の区画近くにも2種類を植えていたので、よく観察することができました。
お隣さんのツルムラサキのつるはぐんぐん伸びて、三角錐の形に作られた竹のトレリスを伝い、10月には高さ170cmほどまで成長していました。つるは繊細でエレガント、生育旺盛で、葉は楕円形からハート形をしています。濃い緑で艶のある葉は、とても装飾的です。葉の付け根からは短い花柄を伸ばし、白やピンクの花を上向きに咲かせます。花の後には濃い紫の果実が実ります。
ツルムラサキは日当たりのよい場所を好みます。生育は旺盛ですが、支柱を立てて定期的に収穫・剪定していれば、スペースはそれほど必要ありません。私の暮らす湘南のような温暖な地域では、夏の間ずっと、10月まで長く新鮮な葉や新芽を提供してくれる頼りになる植物。気温が下がると生育が鈍り、霜が降りる頃には枯れてしまいます。
食用や観賞用としていろいろ活用
ツルムラサキの葉や新芽は食用に。ホウレンソウに似ていて、ほのかにコショウや柑橘のような香りがあります。若い葉は生のままグリーンサラダに混ぜたり、蒸したり茹でてホウレンソウのように活用できます。加熱したモロヘイヤには少しぬめりがあり、オクラやモロヘイヤのような食感に。スムージーに入れても美味しいですよ。私のおすすめはシイタケと合わせること。シイタケを切ってソテーし、薄切りのニンニクを加えて数秒加熱したらツルムラサキの葉を加え、醤油を少々垂らして茎が柔らかくなるまでさっと炒めます。ごま油と煎りごまを添えて完成です。さっと茹でたツルムラサキを鰹節と醤油でいただく簡単レシピもお気に入りです。いろいろな方法で召し上がれ!
ツルムラサキには、葉やつるが緑色の緑茎種と、赤紫のつると赤みがかった葉を持つ赤茎種の2種類がよく流通しています。ケールやスイスチャードと組み合わせてもいいですね。赤茎種のツルムラサキは観賞価値が高く、こちらも生育旺盛です。キャベツや菜の花、レモングラスなど、明るい葉色の野菜と組み合わせれば、カラフルなキッチンガーデンになりますよ。
ツルムラサキは、観賞用の一年草として利用するのもおすすめです。
私のプライベートガーデンでは、ポット苗をそのままウィンドウボックスに入れてほったらかしていたのですが、そんな扱いでも生き残って長いつるを伸ばしてたことから、非常に丈夫だと実感しました。来年はフェンスに絡めるか緑のカーテンに仕立てて、どのように成長するか見てみたいと考えています。いずれにせよ、来年の菜園計画のマストアイテムです。
香りがよくぐんぐん育つレモングラス
レモングラスもまた、夏のお気に入り植物の一つ。とてもよく育ち、高さ180 cm 近くにまで成長しました。無数に茂った葉は、切り戻すとすぐにまた伸びてきます。レモングラスの大きな魅力はその爽やかな香りです。庭仕事を始める前にその葉を触り、新鮮なレモンの香りを吸い込んでやる気をプラスするのが夏の習慣になりました。
レモングラスはシトロネラオイルの生産に使用され、石鹸、虫よけスプレー、アロマテラピーなどに広く利用されています。オイルとしての利用に限らず、風味付けとして料理にも使われ、特にタイ料理では欠かせないハーブです。ハーブティーにもおすすめで、レモングラス単体でお茶にしたり、ペパーミントやレモンバーム、カモミールなどとブレンドしたり。茎の部分をタイカレーの具材にしているという友人もいます。
ちなみにツルムラサキは英語で「Malabar spinach」などと呼ばれ、レモングラスは別名の一つに「Malabar grass」というものがあります。この2つに共通する「Malabar」とはいったい何でしょうか? マラバールは、インド南西部の海岸近くの地域の名称。ツルムラサキとレモングラスの原産地なのです。
ガーデン素材としての活用法
レモングラスのような背の高いグラスには、優しい緑色の葉がほかのエリアや隣人の庭とを区切る、パーテーションとしての役割も期待できます。また、私は定期的に切り戻しをし、刈り込んだ葉は庭の小径や野菜の間に敷くマルチング材として活用しています。地面を覆うマルチは地面の乾燥や流失を防ぎ、また堆肥を作る虫たちの棲みかにもなります。冬に立ち枯れたグラスの葉は、ガーデンの風よけになり、また虫たちが寒い冬を越すための素晴らしい避難場所になりますよ。
グラウンドカバーやお茶に利用できるエビスグサ
英語ではSicklepod、別名coffee weedやjava weedと呼ばれるエビスグサ(Senna obtusifolia)をご存じでしょうか。日本語では、種子を表すケツメイシ(決明子)のほうが通りがよいかもしれません。
エビスグサは短命なマメ科の宿根草で、生育が早く、我が家の庭でも150cmほどにまで成長しています。乾燥によく耐え、この夏も日向で水やりをほとんどせずともよく育ちました。こぼれ種からもよく育ち、可愛らしいですが、増えすぎたら取り除くのも簡単です。よく茂って地面を覆い、グラウンドカバーのように乾燥を防いでほかの植物の生育を助けたり、小さな風よけのように利用できます。
一部の気候地域では、エビスグサは侵略的な植物とされ、繁茂しすぎないようコントロールが必要です。
私はエビスグサの黄色い花と、丸い小葉が羽のようにつく明るい緑の葉が大好き。長さ10cmほどの鎌形の莢をつけ、莢は熟すと茶色がかった緑色になり、中には種子がいっぱいに入っています。種子が熟して茶色になったら、焙煎して煮ると、とても健康的なお茶ができます。coffee weedという名前も、地域によってこの種子をコーヒーの代替品に利用していることに由来します。
私の義母はこのお茶のことを「ハブ茶」と呼んでいて、よくエビスグサの種子からハブ茶を作ったものでした。同じ植物や同じ種子についてさまざまな名前で呼ばれているため混乱しますが、それを最大限に活用するために考えられたさまざまな方法を知るのは興味深いことです。
常緑が楽しめる定番のローズマリー
私のもう一つのお気に入りはローズマリー。湘南地域では常緑ですが、故郷のドイツでは寒く湿った冬を乗り越えられないため、夏の間しか楽しむことはできませんでした。
ローズマリーは香りのよい葉と小さな藤色や青、または白の花を持つ常緑低木。暖かく日当たりのよい場所と、軽くて水はけのよい土壌を好みます。地中海性気候の地域を原産とし、植栽場所の環境にもよりますがマイナス5℃程度まで耐えられます。
ほとんどどこのスーパーでも手に入り、チャイブやバジル、パセリと一緒に植わった鉢植えがディスプレイされていることもあります。一年中販売され、特に春からはよく出回ります。ガーデンセンターにはスーパーで販売されているものよりも大きな苗が並び、庭や屋外のプランターに植えられるのを待っています。
私がよく使うのは、形を整えたり切り戻ししやすい立性の品種。私の小さな家庭菜園では、ハーブエリアの真ん中に植わっています。毎年デザインを変えていますが、いまのところ乾燥した冬を生き延びているのは、この立性のローズマリーと、タイム1種のみです。今は高さが約50cmまで育っていますが、これから刈り込んで、長い枝はハーブエリアの周囲に新しい苗を風や寒さから守る小さなフェンスを作るのに使う予定です。こうした枝は乾燥しすぎると見た目が悪くなりますが、それを考えてもメリットのほうが十分に上回ります。
環境に配慮したガーデニング
レモングラスのマルチ素材やローズマリーのフェンスのように、庭の植物の葉や枝は捨ててしまうのではなく、庭に残しておいて土壌や生き物たちの役に立つ素材として活用しましょう。
ガーデンは、なにもキッチンのように隅々までチリ一つなく片付いている必要はありません。ですから、秋になると道にズラリと並ぶ、落ち葉の詰まったゴミ袋を見るとちょっともったいない気持ちになります。ぜひ、こうした落ち葉は庭で活用してほしいものです!
自然のためのステップストーン(飛び石)
ドイツではミツバチをはじめとする虫たちに、棲みかと食料となる花々を提供する取り組みが試験的に行われています。このアイデア自体は新しいものではありませんが、そのアプローチとしてはさまざまな新たな方法が考えられています。
私の故郷であるドイツ南部には、園芸・造園分野で有名な大学があり、そこが主導してグリーンシティ構想を実施しています。目指すのは昆虫たちが繁殖できる可能性を高めることですが、昆虫の行動範囲は通常500mほど。したがって、少なくとも300〜500m圏内には、ハチやチョウ、その他の昆虫にとって花粉などのオアシスとなる植物や花が必要なのです。
ところでドイツでは、雨や悪天候から身を守るため、または夏に日陰を作るために、バス停にはちょっとした屋根や小さな小屋があるのが一般的です。そこで、この屋根をグリーンシティ構想に利用し、昆虫のためにその地域のさまざまな季節の花を植えることが多くなってきました。バス停間であれば距離も離れすぎてはいないので、昆虫たちも行動範囲の中で連携させて利用することができます。
日本の庭でも、飛び石が庭の道として利用されていることがあります。それと同じように、ハチやその他昆虫にとって、各地に配置されたバス停とそこに植わる地域の植物が飛び石の役割を果たし、道を作っているのです。
美しいガーデンづくりばかりがガーデニングではありません。昆虫や生き物たちの居場所を作ること、特に厳しい秋冬に避難できる場所を用意することも、環境のためにとても大切です。
環境への配慮に遅すぎることはありません。ぜひ、ガーデニングを通して生き物たちが命をつなぐための飛び石をたくさん作りましょう。
Credit
話 / Elfriede Fuji-Zellner - ガーデナー -
エルフリーデ・フジ・ツェルナー/南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/ Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood
まとめ / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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