小松菜は、東京都江戸川区の小松川周辺で栽培されてきた歴史を持ち、徳川将軍に命名されたという誉れを持つ野菜です。スーパーや青果店では一年中店頭に並び、スープの具に、炒めものに、お浸しや和え物、煮物にと、さまざまな料理に大活躍するので、常備野菜にしている方も多いでしょう。この小松菜、じつは家庭でも簡単に育てられるんです!「自宅で栽培してみたいけれど、方法が分からないから」と二の足を踏んでいる皆さんに向けて、この記事では、小松菜の基本情報や栽培方法などを詳しく解説していきます。読み終える頃には、「な〜んだ、こんなに簡単に収穫できるの!?」と、小松菜の栽培にチャレンジしたくなっているはずですよ!
目次
小松菜を栽培する魅力
小松菜は、種まきから収穫までの期間が短く、成育期であれば30〜50日程度で収穫できる、成長のスピードが速い野菜の一つです。管理の手間もほとんどかからず、成功体験を最も得やすいので、菜園デビューのビギナーの皆さんには、スタート野菜としてぜひ選んでほしいもの。プランターで栽培してもOKなので、ベランダで気軽にチャレンジできます。ここでは、そんな小松菜のプロフィールや栄養価、種類、ライフサイクルなどについてご紹介しましょう。
小松菜の基本情報! 育てやすい野菜
小松菜は、アブラナ科アブラナ属の一年草で、葉菜類に分類されています。原産地は日本。江戸時代から東京の小松川(東京都江戸川区)で栽培され、その地名にちなんで「小松菜」と名づけられました。古くから日本で栽培されてきたことからも分かるように、日本の気候に馴染んでよく育つので、管理の手間がかからない野菜です。
小松菜は、「漬け菜」という青菜の一種です。漬け菜とは、アブラナ科に属する野菜のうち、ハクサイやキャベツのように結球しない葉菜類の総称。小松菜以外にも、ミズナ、ノザワナ、チンゲンサイなども含まれ、煮物や漬物などに向く野菜です。これらの「漬け菜」の祖先は、ハクサイやキャベツと同様に、地中海沿岸、中央アジア、東・北ヨーロッパ、ロシア周辺が原産だとされています。これらの地域に自生していた祖先が中国に伝わり、改良されてチンゲンサイやパクチョイなどさまざまな漬け菜ができました。それがさらに日本へともたらされ、各地に伝わって地方品種がそれぞれに生まれて多様化していきました。これらは「雑菜」と呼ばれる葉菜類で、小松菜も江戸で生まれたその一種です。原産地は日本とされていますが、よくよくルーツをたどれば、前述の地中海沿岸あたりまでたどり着くとされています。
小松菜の種類
小松菜には、在来種に近い品種と、タアサイなどとの交雑種、地方品種などさまざまな種類があります。また、人気の野菜だけに、種苗会社で品種改良が進められて、より育てやすい品種も多数生まれています。初心者なら、より育てやすく改良されたものを選ぶのもいいですね。主な品種は、以下の通りです。
‘楽天’は、大葉で株張りがよいのが特徴。気温が低い時期でもよく成長するので、秋冬まきに向いています。‘菜々美’は夏期でもじっくり成長し、収穫適期が長い品種です。耐病性もあります。‘きよすみ’は立性の緑が濃い葉をもち、夏の暑さに強く一年を通して栽培が可能です。
小松菜は周年栽培できるだけあって、春夏作に向く品種、秋冬作に向く品種があるので、シーズンによって使い分けるとよいでしょう。
小松菜は栄養素が豊富で調理の幅も広い
小松菜は、βカロテン、ビタミンC、カルシウム、鉄分、カリウムなどの栄養分を豊富に含む緑黄色野菜です。特にβカロテンを多く含み、髪や粘膜、皮膚の健康維持に効果があるとされています。また、カルシウムや鉄分については、意外にもホウレンソウより多く含んでいるほどです。
調理方法も幅が広く、さっと茹でて和え物やお浸しに。炒め物や汁物、煮物の具材にとオールマイティーに利用できます。また漬物にしてもよく、シャキシャキとした歯ごたえで、ごはんのお供にぴったりです。
小松菜の栽培・収穫の時期
小松菜の生育適温は20℃前後で、発芽適温は15〜30℃です。暑さにも寒さにも強く、厳寒期を除いて、ほぼ一年中栽培することができます。とはいっても、江戸で栽培されていた頃は、秋にタネを播いて、年末から春にかけて出回っていました。寒さにあうことで甘みが凝縮されるので、本来の旬の美味しさを得るには、秋まきが最適です。また、病害虫の心配も少なくなるのもメリットといえます。
栽培の基本として、秋まきした時の小松菜のライフサイクルをご説明しましょう。10月頃にタネを播くと、2〜3日で発芽します。その後、間引きながら育成し、45〜60日で収穫できます。なんと、種まきから2カ月以内に収穫できるというわけです! これで「小松菜は栽培しやすい」と言われる理由が分かっていただけたでしょうか。ビギナーには、失敗しない野菜としてぜひ菜園デビューにおすすめします!
小松菜の育て方
ここまで、小松菜の基本情報や栄養素、ライフサイクルなどについて、詳しくご紹介してきました。では、ここからは実践編として、菜園やプランターで栽培する方法をご案内しましょう。土づくりから種まき、日頃の管理、季節に応じた管理、病害虫対策、収穫方法などについて、初心者でも分かりやすいように、詳しく解説していきます。
日当たりや環境
小松菜は、日当たりがよく、風通しのよい場所を好みます。比較的連作に強く、一年を通して栽培できますが、ビギナーなら春か秋に種まきして栽培するのがおすすめです。丈夫で土質を選ばず、寒さに比較的強い植物です。
土づくり
【地植え】
種まきの2〜3週間以上前に、小松菜を育てる場所に苦土石灰を1㎡当たり約100〜150g散布し、よく耕して土に混ぜ込んでおきます。
種まきの1〜2週間前に、苦土石灰を施しておいた場所に1㎡当たり牛ふん堆肥2〜3㎏、化成肥料(N-P-K=8-8-8)100〜150gをまいて、土にまんべんなく行き渡るようによく耕しておきましょう。
タネを播く前に土壌改良資材や元肥となる肥料を施しておくことで、時間をかけて分解されて土が熟成します。タネを播く頃にはよい土壌に育っているので、あらかじめ土づくりをしておくひと手間が、収穫成功への第一歩となりますよ!
【プランター栽培】
葉菜類の野菜用にブレンドされた市販の培養土を使うと便利です。
種まき
【地植え】
土づくりをしておいた場所に、幅60cm、高さ5〜10cmの畝をつくり、小松菜を2列分育てることにします。条間(小松菜の列の間隔)を約15cm取って、深さ1cmのまき溝を2列分つけましょう。園芸用の支柱などの棒を埋め込んで凹みを設けるのがおすすめ。まき溝に約1cmの間隔を取って、タネを播きます。溝の両側から土を寄せて、軽く表土を押さえておきましょう。最後にたっぷりと水やりをします。はす口をつけたジョウロで高い場所から水をまき、タネが水圧で流れ出さないようにするとよいでしょう。
家庭菜園では、一度にたくさんの種まきをすると、消費が追いつかなくなってしまいます。1週間〜10日くらいの間隔をおいて、少しずつタネを播く「ずらしまき」をするのがおすすめです。
【プランター栽培】
土の容量が10ℓほど入る、標準サイズのプランターを用意し、小松菜を2列分育てることにします。
プランターの底穴に鉢底網を敷き、底が見えなくなるくらいまで鉢底石を入れます。野菜用にブレンドされた培養土に、元肥として用土10ℓ当たり化成肥料(N-P-K=8-8-8)を大さじ2ほど混ぜ込んでプランターに入れましょう。水やりの際にあふれ出さないように、ウォータースペースを鉢縁から2〜3cm残しておきます。
条間を約10cm取って、深さ1cmのまき溝を2列分つけましょう。園芸用の支柱などの棒を埋め込んで凹みを設けるのがおすすめ。まき溝に約1cmの間隔を取って、タネを播きます。溝の両側から土を寄せて、軽く表土を押さえておきましょう。最後に鉢底から流れ出すまでたっぷりと水やりをします。はす口をつけたジョウロで高い場所から水をまき、タネが水圧で流れ出さないようにするとよいでしょう。
間引き
【地植え・プランター栽培】
発芽して本葉が1〜2枚ついたら、3〜4cm間隔になるように間引きます。弱々しい苗や、葉に傷がついている苗などを選んで抜きましょう。
さらに育って、本葉が3〜4枚ついたら、5〜6cm間隔になるように間引きます。
間引いた苗は、ベビーリーフとして利用できます。味噌汁やサラダなどにおすすめです。
水やり
【地植え】
地植えの場合は、下から水が上がってくるので、天候にまかせてもよく育ちますが、雨が降らずに乾燥が続くようなら、適切に水やりをして補いましょう。
【プランター栽培】
土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えます。特に梅雨明け後の高温期は乾燥しやすいので、朝夕2回の水やりを忘れずに行いましょう。高温の真昼に水やりすると、すぐにお湯状になって地温が上がり、かえって株が弱ってしまうので、必ず涼しい時間帯に与えることが大切です。冬は土が乾きにくくなるので、土の湿り気具合をよく見て、乾いていたら与えます。
追肥
【地植え】
2回目の間引きをする際に、化成肥料(N-P-K=8-8-8)を1㎡当たり30gほど小松菜の列の間にまいて追肥します。移植ゴテで軽く耕して土になじませ、小松菜の株元に土を寄せましょう。
【プランター栽培】
草丈が7〜8cmに育ったら、化成肥料(N-P-K=8-8-8)大さじ1杯程度を目安に、株の周囲全体にばらまいて追肥します。移植ゴテで軽く土になじませ、小松菜の株元に土を寄せましょう。
注意したい病害虫
病気は、葉にいびつな粉状の白い斑点が現れる白さび病、苗が地際でくびれて枯れる苗立ち枯れ病に注意。「小松菜は連作に比較的強い」とよくいわれますが、長期に連作栽培すると病気が発生しやすくなるので、適宜に輪作を心がけるようにしましょう。
害虫は、アオムシ、アブラムシ、コナガ、ハモグリバエ、キスジノミハムシなどが発生しやすくなります。春から秋にかけて、害虫が発生しやすい時期は、畝やプランターに支柱をアーチ状に仕立てて、防虫ネットをかけて被覆しましょう。物理的に害虫が外から侵入するのを防除できるので安心です。小さい虫も侵入できないように、網目が0.8mm以下の目の細かい防虫ネットを選びましょう。
小松菜の冬栽培のポイント
一年中種まきができる小松菜ですが、冬は土壌が凍結しない暖地に限ります。冬は発芽後に霜や雪、寒風などによって葉が傷んだり、トウ立ちしたりすることがあるので、被覆資材を使って対策するとよいでしょう。種まき後に不織布をべたがけしておき、苗が育ってきたら、支柱をトンネル状に設置し、ビニールをかけて保温するとよいでしょう。
収穫方法
種まきから収穫までの目安は、春・秋まきでは45〜60日、夏まきで25〜30日、冬まきで60〜100日くらいです。
青果店やスーパーでは30cmくらいの大株の状態で流通していることが多いのですが、家庭菜園では、草丈が20〜25cmの頃に収穫するのがおすすめ。若採りしたほうが食感が柔らかく、風味も増して本来の味わいを楽しめます。
収穫する際は、地際の茎の部分を握って一気に抜き取ります。食べる直前まで根を切らないでおくと、鮮度を保てますよ!
保存方法
収穫後、すぐに根を水で洗い、浅く水を入れた容器に立てて入れておきます。濡らしたキッチンペーパーで包み、保存袋に入れて冷蔵庫へ。
冷凍する場合は、生のまま食べやすい大きさに切って、ジッパーつき保存袋に入れて冷凍庫へ。調理する時は、凍ったまま使ってかまいません。ゆでて粗熱をとった後、しっかりと水気を切って、小分けにしてから冷凍してもOKです。
栄養いっぱいのおいしい小松菜をつくろう!
この記事では、小松菜の基本情報や栽培方法などを、ビギナーでも分かりやすいように、掘り下げて解説してきました。小松菜は栽培しやすい野菜の一つで、特に秋にタネを播くとより簡単に栽培でき、寒さにあえば甘みも増して美味しくなります。家庭で栽培すれば、草丈20〜25cmで若採りもできるので、より食感のよい小松菜を味わえるのも、醍醐味の一つといえるでしょう。ぜひこの秋から、小松菜の栽培を始めてみませんか?
Credit
文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
参考文献/
『やさしい家庭菜園』 監修者/藤田智、加藤義松 発行/家の光協会 2006年3月1日発行
『わが家の片隅でおいしい野菜をつくる』監修/藤田智 発行/日本放送出版協会 2008年2月10日発行第5刷
『別冊やさい畑 野菜づくり名人 虎の巻』発行/家の光協会 2009年2月1日発行
『甘やかさない栽培法で野菜の力を引き出す 加藤流絶品野菜づくり』著者/加藤正明 発行/万来舎 発売/エイブル 2015年5月25日発行第2刷
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