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第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園【舞台裏レポ】5つの庭づくり大公開

第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園【舞台裏レポ】5つの庭づくり大公開

新しい発想を生かした花壇デザインを競うコンテストとして、東京・渋谷区の都立代々木公園の一角を舞台に一般公開している「第1回 東京パークガーデンアワード」。審査を通過した5つの庭づくりの精鋭たちによるコンテストガーデンをレポート。2022年12月上旬に行われた庭づくり、はじめの一歩を大公開!

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コンテストの舞台は都立代々木公園の花壇

代々木公園
コンテストガーデンが作られる以前のオリンピック記念宿舎前広場。2022年10月中旬の様子。

都市公園を新たな花の魅力で彩るプロジェクトとしてスタートした「東京パークガーデンアワード」。第1回の舞台となるのは、都内でも屈指の利用者数がある「都立代々木公園」の中です。アクセスがとてもよく、JR山手線「原宿」駅から徒歩3分の原宿門から入ってすぐ右手の「オリンピック記念宿舎前広場」に、5つのコンテストガーデンと吉谷桂子さんによるモデルガーデン「the cloud」があります。

代々木公園
通路に沿った細長い敷地を花壇に変え、A〜Eの5つの植栽スペースが設けられました。1エリアにつき広さは72〜85 ㎡。

コンテストガーデンが作られる以前、この場所は通路に沿ってハナミズキやオリーブが植わり、地面は芝生に覆われていましたが、2022年10月には今回のコンテスト開催に先駆けて、5つのエリアが同じ土壌条件になるように花壇スペースが整地されました。

10月、花壇スペースを縁取る木枠を設置する様子。

花壇の整地は、既存の表土にある雑草とその種子を駆除する意味から厚み5cm分取り去ったあと、花壇用土には人工軽量土壌を厚み20cm客土し、ベースの土壌として整えられました。

木枠で縁取られた花壇内に所々ある四角い石は、既存の照明設備。灰色に見える土が人工軽量土壌。

「第1回 東京パークガーデンアワード」第1回作庭【12月】

「持続可能なロングライフ・ローメンテナンス」をテーマに、各ガーデナーが提案するガーデンコンセプトは、各人各様。それぞれが目指す庭のコンセプトに沿って、2022年12月5日から9日まで行われた第1回目の庭づくりの様子をレポートします。

*コンテスト開催の概要や各庭の月々の様子は、こちらをチェック!

コンテストガーデンA
Changing Park Garden ~変わりゆく時・四季・時代とともに~

畑や かとうふぁーむ 渡部陽子(新潟県新潟市)さん率いる作庭チーム。

Aエリアは、培養土と肥料(かんとりースーパー緑水)を全体に敷き詰め、表面をならして基本の用土づくりは完了。この段階で耕さないのは植え付け時に耕すことを想定したためで、手間を最小限にしています。

平らにならした表土に、次々と苗が配置されて、あっという間に地面が隠れるほど数々の植物で埋め尽くされました。Aエリアは、大苗に仕立てられた根張りのよい丈夫な宿根草を用意。品種によって異なりますが、圃場で1~3年以上育てられた苗なので、一般で販売されているサイズの何倍も大きな株ばかりです。

大苗は育成管理に時間がかかりますが、その分株が充実しているといいます。
大苗を使う利点は、4つ。① 既存植物とのバランスがとりやすく、周囲の環境にすぐに馴染む。② 植えた年から植物本来の個性が発揮され、しっかり開花する。 ③ イメージがすぐにカタチになるので、庭施工の際もお客様の満足度が高い。④ 大苗なら1ポットで十分ボリュームがでる場合も、市販の小さなサイズの苗だと数多く植栽しがちで、経済的にも苗の生育環境的にもよい。
さらに、見頃を迎えた大苗は、ショーガーデンでも活用されることからも、この花壇には大苗が多数使われています。

配置が終わったら、端から順に次々と植え付けを開始。苗は、現地の土壌にスムーズに活着できるよう根の処理(根をほぐしたり、根きりをするなど)を事前に施していたため、現場では、ポットから抜いてすぐに植栽でき、作業時間短縮とストレス軽減になりました。

選ばれた植物は、春から秋に次々とバトンタッチして花を咲かせるものや、風に揺れるグラス類、雑草抑制が期待できるグラウンドカバープランツなど。どれも、特徴や性質を見極めることができる花卉生産者により選ばれているので、ロングライフでローメンテナンスでありながら、美しい花壇となる組み合わせ。

苗を植え付けたあと、原種チューリップやアリウム、カマシア。エレムルスなど、1,500球の球根も植え付けられました。

中段左から/スティパ・イチュー/ストケシア・ラエヴィス/スタキス・ビザンティナ(ラムズイヤー)/ユーフォルビア・ウルフェニー 下段左から/オレガノマルゲリータ/エリムス・アレナリウス/スタキス・オフィシナリス/ペンステモン‘ハスカーレッド

配置にこだわり、交互や列植、斜めなど、ほどよい距離感で植わる小さな植物は、小さいながらも青みがかった緑や銀がかった緑、赤や黄など彩り豊か。合計84種の植え付けが完了しました。

1回目の作庭が終了して1週間後、12月中旬の様子。

コンテストガーデンB
Layered Beauty レイヤード・ビューティ

鈴木 学(宮城県伊具郡)さん率いる作庭チーム。

Bエリアは、作庭前の花壇の土壌を独自に検査した結果、pH調整用として無調整ピート(ラトビア産ピート)をまいた上に、肥料もちを高めたい理由から培養土(ベストブレンド)を追加して耕運機で攪拌。

平坦な花壇を山状に盛り上げるためにも、40ℓ200袋という多くの用土が追加されました。結果、元の地表よりも15〜10cm高い土壌が完成。植物を配置するガイドとして、グリッド状に水糸が張られました。

上写真の白く囲まれた部分(図内A)に、パニカム、ユーパトリウムやアガスターシェなどが配置されている。

「さまざまなレイヤーを組み合わせて美しさを構築する」という考えのもと、季節を感じる宿根草ガーデンを作庭。背の高いグラス類と宿根草で作る4つの島(図内A)が通路から眺めた時に奥行きを感じられるような視覚効果も狙って配置されました。

上左/用意された苗の一部。上右/花壇の中には、天然石のステッピングストーンを配置。下左/植物の配置が記された図面。下右/多くの苗がどんどん配置されていきます。

3月から10月まで、月ごとに見頃が移り変わるように選ばれた植物は、合計142種。
丈夫な植物、持久性のある植物、病害虫予防、密植に耐える植物、耐陰性の高い植物、観賞期間の長い植物などを考慮して選ばれています。また、こぼれ種で増えたり、宿根草の生育の邪魔にならない一年草も入っています。

球根は、拳以上の大きなアリウムから、小さなクロッカスまで、全部で約5,200球。小球根は、器に小分けしてから配置したことで、植え付け位置の手直しや微調整がしやすい効果がありました。写真左上のオレンジ色の器具は、アリウムやフリチラリアなどを深く植える際に穴を掘るホーラー。フリチラリアは、高温の影響を受けずに長生きさせるため、通常より一段深く植えられました。

3月までに咲くフリチラリアとクロッカスなどの小球根、遅れて咲くアリウムやカマッシアを置いた後、最後にチューリップ、スイセン、アリウム‘パープルセンセーション’をばらまきし、配置具合を確認したあと植え付けられました。アリウム‘サマードラマー’のみ、このタイミングで植え付けると翌年(審査のある2023年)に開花しないと予想して、芽出しのポット苗を植え付けています。

球根の植え付けがすべて完了した後、表土に有機質肥料の「グアノ」と「モルト滓」を散布。どちらも長期的な効果を狙ったもので、グアノはリン酸とカルシウムで植物を丈夫にする目的、モルト滓はチッソ分の補給と土壌の微生物環境の改善を目的としています。最後にバーク堆肥でマルチングをして終了。所々にラベルがついた小枝が刺さっているのは、2月末に行われる2度目の作庭で植え付ける予定の植物の場所を示しています。

1回目の作庭が終了して1週間後、12月中旬の様子。

コンテストガーデンC
Garden Sensuous ガーデン センシュアス

GreenPlace(埼玉県朝霞市)代表の高橋三和子さんと山越健造さん(山越健造デザインスタジオ、宮城県仙台市)率いる作庭チーム。

園路を挟んで、対になったL字形のCエリアは、黒土と小粒の軽石、バーク堆肥、木酢液入り木炭を表土にまいたあと、耕運機で耕して基本の用土づくりは完了。
基本用土は乾燥すると砂状になり、マウンドや窪みといった高低差を付けるのが難しそうだったため、造形をしやすいように黒土を追加。軽石は、黒土を加えたので通気性の向上のために、木炭と堆肥は保水性をよくし、有機物を足すことで土中微生物を増やすために加えられました。

丸の中に印を。「−(マイナス)」が書かれている場所は穴を掘り、「+(プラス)」の場所は盛り上げる。

土を攪拌してフカフカにしたあと、山越さん自ら有機石灰が入ったボトルを手に、図面を見比べながら花壇に数カ所、丸印が描かれました。
これは、多様な植生と生物の場を創出するために作られる「マウンド(築山)」と「低地(レインガーデン)」、「フラット(平地)」という、凹凸のある地盤作りのためのガイドラインとなります。

この庭でいう「マウンド(築山)」とは、Hugel mound(Mound culture:ドイツなどが発祥の農法)と雑木林の循環管理方法を融合させたもので、土中に剪定枝などを埋めてから土を盛り上げて山のようにします。
このマウンドを作ることで、① ゴミを焼却することにより、発生する二酸化炭素を削減する。② 保水性を高めることにより、水の使用を軽減。③ 微生物など生き物の棲処になる。④ 高さを出すことで周囲の低地に水が集まり、植生の異なる豊かな植栽が可能になるという4つの効果を狙っています。

窪ませた場所の底には、さらに軽石、木炭を入れて透水性を高める。

「低地」は、窪ませることで ① 降雨時の急激な下水道への排水を緩和。② 植栽や土壌によって水質を浄化。③ ヒートアイランド現象の緩和という3つの効果が期待できるレインガーデンとしてのデモンストレーションになっています。

起伏のある地盤が完成すると、全体にニームケーキ(植物性土壌改良材)と元肥をまいて、植物を配置するガイドに沿ってポット苗を配置し、1株ずつ植え付け。

図は審査時に対象だったBエリアの現状分析をベースにした植生ゾーニング例。実際に施工したCエリアに合わせたゾーニングで配置された。

植物は、地表面の形状や湿度、日照などを考慮したA〜Eの5つのエリアに区分され、それぞれに適したものを配置。

上左/築山とその周辺部分。下左/低地とその周辺部分。上右/用意された苗の一部。下右/小さな苗の生育を補うため、木酢液(キクノール)と天然活性液(バイオゴールドバイタル)を希釈した液を仕上げに散布。

盛り上がった築山には、乾燥に耐え、あまり背の高くならないレモンバームやオレガノなどを。窪んだ低地には、アスチルベやユーパトリウムなど、湿度や水に耐性のある種類が選ばれています。また、平地には、築山と低地との緩衝地帯としても機能する安定した植栽スペースとして、多様な表情が見られるようにと、エキナセアやイトススキ、ガウラ、バーベナなどが選ばれ、2〜3月の最終植え付けまでに合計65種が植えられます。

1回目の作庭が終了して1週間後、12月中旬の様子。

コンテストガーデンD
TOKYO NEO TROPIC トウキョウ ネオ トロピック

西武造園 永江晴子 (東京都豊島区) さん率いる作庭チーム。

Dエリアは、植物性完熟堆肥(黒い堆肥)と赤玉土、ピートモスを表土にまき、しっかりスコップで耕して基本の用土づくりが行われました。有機質を混ぜ込む土壌改良を行って保水力や保肥力を高め、根を生育させることで、翌年からの灌水を抑える効果を狙っています。

レイズドベッドの枠に使うヤマハギの枝を仕分ける作業を行いながら、枠作りも進行。

また、土づくりと同時進行で、自然素材を使った「ウィービングレイズドベッド」作りもスタートしました。レイズドベッドとは、枠を設けて地面より高い位置に植える場所を作る手法で、ここでは地温を確保し、冬の寒さによるダメージを軽減する目的や、花壇をリズミカルに表現する目的で設置されました。

今回、この「ウィービングレイズドベッド」のイメージに近づけるためには、曲がりが少ない枝を見つける必要がありました。現場での枝選びの後、さらに事前にモックアップ制作。施工の手順やイメージ通りの仕上がりになるように太さの確認をしてから、実作業に臨んだといいます。
レイズドベッドやコンポストの位置を決める角棒が枠の四隅に立てられたあと、黒竹を等間隔で挿し、その間を縫うようにヤマハギの細い枝を下から順に編み上げながら縁取りを作ります。手作業でレイズドベッドが1つ、また1つと組み上がっていきます。

レイズドベッドの枠を自然素材にしたことで、周囲の植物とも馴染み、通気性や排水性を確保。枠の内側に防草シートを張り、底には約10〜20cmほど軽石を敷き詰めてから用土を入れていきます。

高さや形状が異なるレイズドベッドが9個完成。金網の枠(写真上右)はコンポスト用で、この花壇から出る枯れ葉や枯れ枝、花がらなどを堆肥化するために設けられます。レイズドベッドの上とその外側などに苗と球根を配置。高低差がある花壇の中に次々と植え付けられました。

選ばれた植物は、ローメンテナンス・ロングライフであるコンセプトに合わせた宿根草を中心に、サブトロピカルな植物をポイントにしています。個性豊かな植物が東京の地で力強い姿を見せてくれるのを予想し、アロカシア、パンパスグラス、カンナ、アスパラガス、アガベなど合計40種超の植物が選ばれました。昆虫の棲処にもなるバイオネストの設置や一部のサブトロピカルの植物、芝生などは2月の作業で追加されます。

通常、亜熱帯系の植物は、暖かい時期に植栽すれば問題なく越冬するものですが、今回指定された施工時期(12月、2月)は亜熱帯系植物の植栽時期としてはベストなタイミングではありませんでした。そこで、屋外での植え付け時に植物がなるべくダメージを受けないようにと、養生も温室から無加温の温室に移動するなどの配慮がされました。

仕上げに、針葉樹の樹皮(バーク)を粉砕加工したリサイクルマルチング材(ランドアルファ)を表土全体に敷き、金網の内側に不織布が設置されたあと、レイズドベッドを作る際に出た不要な枝などをコンポストに投入して、作業は完了しました。

1回目の作庭が終了して1週間後、12月中旬の様子。

コンテストガーデンE
HARAJUKU 球ガーデン

平間淳子(東京都目黒区)さん率いる作庭チーム。

コンテストガーデンのエリアで一番奥に位置し、「オリンピック記念宿舎」の前にあるエリアE。初日は雑草を丁寧に取り去ったあと、根が伸びやすくなるように、また、排水性を高めるためにシャベルで全体を掘り起こしました。それから日頃の庭づくりで使い慣れているという赤玉土と腐葉土を40ℓずつ各12袋を投入。少量のくん炭と元肥もプラスして、基本の用土づくりは完了。

ずらりと揃った植物を前に、どの場所に何を配置するか、段取りを整理しながら、傷んだ部位を切除するなど、苗の手入れも同時進行しました。

多数の植物の中から、まず骨格となる植物を選び、その配置からスタートします。このガーデンの作品タイトルは「HARAJUKU 球ガーデン」。某超有名ガーデンを原宿ならではの遊び心でもじったタイトルで、初夏にはまん丸の花が咲くアリウム、そして秋にポンポン状の花がダイナミックに咲くダリアまで、球状の花を多数組み合わせました。ポップに楽しく見せる植物が選ばれています。

配置図を頼りに、まず苗を配置。離れて見たり、角度を変えて眺めたりしながら、育った姿を想像して位置を微調整。
植え付けて半年で見応えが出るように、骨格となるニューサイランやディエテスなどは、一般的なサイズよりも大きな株が用意されました。また、これらの草丈が高く大きな縦のラインとなるニューサイランやディエテス、グラスなどを多めに入れることで、メインとなる丸い花々を引き立てる効果を狙っています。

地面に置かれたレンガは、植え付け時の足場として。植え付けるまでに苗がいたずらされないようにと、一時的にカラス除けのCDが吊されました。

霧のような穂を立ち上げているのは、ミューレンベルギア・カピラリス。ほかにもディスカンプシア‘ゴールドタウ’など、秋にダリアが咲いた頃、幻想的に調和する効果を狙ったグラスが選ばれました。
普段は“甘やかさず育てる派”ですが、テーマ通りの庭に最短で仕上げるため、1つずつ植え穴に肥料を入れながら植え付けています。また、植物によっては排水性を高めるために、パーライト、軽石などを植え込みました。

最終日は、全体に球根を配置して一気に植え付け。仕上げにバーク堆肥でマルチングして冬に備えます。特に多くの種類を植えたのがアリウムで、開花期間が少しでも長くなるようにと、球根で16種、苗は2種の合計18種が植えられました。

長く伸びていたディスカンプシアなどは短く切り戻し、常緑のニューサイランやカレックス‘エヴェレスト’などは、そのまま越冬させます。

1回目の作庭が終了して1週間後、12月中旬の様子。

日々成長するコンテストガーデンに注目を

ご紹介の「第1回 東京パークガーデンアワード」は、5つの庭の魅力を競うコンテストですが、参加するガーデナーたちは、仕上がっていく互いの庭を見て刺激を受けたり、人手が足りないチームの植え付けを助ける場面もありながら、期間内に無事1回目の作庭が完了しました。

代々木公園を舞台に行われた「第1回 東京パークガーデンアワード」。5つの庭を一度に見学できるこの場所は、公共ガーデンに新しい息吹を吹き込むことが期待された2023年において東京の最新のガーデンでした。2023年11月からは舞台を神代植物公園(東京・府中市)に移し、「第2回 東京パークガーデンアワード」が開催されています。

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