光沢のあるハート型が特徴的なアンスリウムは、1本だけでも熱帯植物らしい存在感があります。花びらのように見える色づいた部分は仏炎苞(ぶつえんほう)と呼ばれるもので、よく見かける赤色のほかピンクや白、グリーン、紫などがあります。ここではアンスリウムを育てる際の日々のお手入れから、育て方のコツ、寄せ植えの楽しみ方までを紹介します。
目次
アンスリウムを育てる前に知っておきたいこと
鮮やかなグリーンの葉と光沢のある赤の組み合わせが印象的なアンスリウム。赤い部分は仏炎苞といい、花芽を保護する葉の一種です。アンスリウムの花はとても小さく、仏炎苞から突き出した肉穂花序(にくすいかじょ)と呼ばれる軸のような部分に密集して咲きます。肉穂花序は、黄色から白〜緑へと色が変わっていきます。花よりも仏炎苞を鑑賞する観葉植物として楽しまれています。
■ アンスリウムの基本データ
学名:Anthurium
科名:サトイモ科
属名:アンスリウム属、ベニウチワ属
原産地: 熱帯アメリカ、西インド諸島
和名: 紅団扇(べにうちわ)
英名:Flamingo flower、Tail flower
開花期:5〜10月
花色:赤、ピンク、白、緑、紫、オレンジ ※仏炎苞の色
生育適温:18〜30℃(最低温度は10℃)
アンスリウムは本来、地面に根を下ろさずに、大きな樹木の上で育つ着生植物です。そのため、庭植えにすると根腐れを起こしやすく、日本では鉢植えで育てるのが一般的です。鉢植えされたアンスリウムはホームセンターなどで購入できます。色や大きさなど種類がありますので、好みのものを選ぶとよいでしょう。乾燥させない、直射日光に当てないなど日々の管理に注意すれば、鮮やかなアンスリウムを長く楽しむことができます。
種類を知ると、選び方がわかります
熱帯植物のアンスリウムは600種以上の仲間があるとされ、仏炎苞の大きさ、形、色など園芸品種も多様です。多くのものは仏炎苞の色を楽しみますが、品種によっては葉の鑑賞をメインにしたものもあります。
仏炎苞を楽しむもの
アンスリウムといえば赤色をよく見かけますが、ピンクや白、グリーンなどもあります。すべてが当てはまるわけではありませんが、一般には、背が高くなり仏炎苞が大きめのものは花数が少なく、あまり背が高くならずに仏炎苞が小ぶりなものは花がたくさんつく傾向があります。
葉を楽しむもの
アンスリウム・クラリネビウムは、仏炎苞が小さく肉穂花序も地味ですが、ビロード状のハート型の葉に銀白色の亀甲模様が出る品種です。流通数が少ないアンスリウム・ロムズレッドは新芽が美しい赤銅葉色に展開する品種です。葉をメインに鑑賞するものは、花を鑑賞する品種よりも長い期間楽しめるメリットがあります。
アンスリウムを育てるときに必要な準備は?
アンスリウムは種や苗から育てるより、ホームセンターなどで成長した株を購入するのが手軽でおすすめです。インターネットなどでもさまざまな品種のものを購入することができます。
準備するもの
・アンスリウムの株
・鉢
・鉢底ネット
・鉢底石
・土
・肥料
鉢は購入した株よりもひと回り大きいものを用意します。鉢底ネットは、鉢穴から虫などが侵入するのを防ぎます。鉢底石は水はけをよくするために土の下に入れ込むもので、軽石や黒曜石などが使われます。通常は鉢の5分の1の高さ程度で、高さのある深いタイプの鉢の場合は3分の1程度まで入れてもよいでしょう。
適した土作りが、育てるコツの第一歩
鉢の中が加湿状態ではアンスリウムをうまく育てることはできません。そのため用土は排水性と通気性にすぐれたものが必要です。複数の土を自分で配合するなら、ピートモス5:パーライト4:赤玉土1の配合土、鹿沼土1:パーライト1:ピートモス1の配合土などがよいでしょう。「アンスリウムの土」という専用土も市販されています。
水はけのよい洋ラン用の培養土もアンスリウム向けです。観葉植物用の培養土の場合は赤玉土やパーライトなどを混ぜて、排水性を高めるとよいでしょう。
アンスリウムの育て方にはポイントがあります
アンスリウムは鉢植えの株を購入して育てるのが一般的です。上手に育てるには水はけのよい土を使うことにくわえて、強い日差しに当てないということが大切となります。
アンスリウムは本来、地面に根付かずに大きな樹木の上で育つ着生植物で、木漏れ日が差すような場所に自生しています。そのため、普通の草花を育てるための用土では水分が多くなりすぎて根腐れが起きやすく、強い日差しに当てると「葉焼け」を起こします。葉焼けした葉は元には戻りませんので、ひどくなるとアンスリウム全体が枯れてしまいます。アンスリウムを育てる時には、直射日光を避けて、木漏れ日などで明るさが保てる明るい日陰に置くのがベストです。室内であれば、日の当たる窓辺のレースのカーテン越し程度が理想です。室内の暗い場所では、花つきが極端に悪くなります。
熱帯原産のアンスリウムですが、日本の湿気の多い夏は苦手です。気温が30℃を越すような時は、風通しのよい涼しい場所に移動させましょう。一方で、寒さにも弱い性質です。春〜秋の間は鉢植えでも外で育てられますが、気温が12℃を下回るようになったら室内に移動させます。
株の選び方
アンスリウムを購入する時には、葉の色が濃く光沢があり茎がしっかりしたもの、新しい花が一番上で咲いているものを選びましょう。新しい花か古い花かは、花がつく肉穂花序の色で判断できます。新しい花は肉穂花序が黄色で、そのあと徐々に白〜緑と変化します。ですから、黄色の肉穂花序が白や緑の肉穂花序よりも低い位置についているものは、株が弱っている可能性がありますので避けましょう。購入したアンスリウムを持ち帰るときには、肉穂花序を折らないように注意します。
品種によって花数のつき方も変わりますので、好みのものを選ぶとよいでしょう。一般に、仏炎苞や葉が大きめで株が大きく育つタイプは花数が少ない傾向です。あまり背が高くならずに仏炎苞や葉が小ぶりなものは花数が多くつきやすい品種といえます。
アンスリウムと仲よくなる日々のお手入れ
アンスリウムの水やりのタイミング
用土の加湿を苦手とするアンスリウムは水のやりすぎに注意しましょう。5〜10月の生育期は、鉢土が乾いたタイミングで、たっぷり水やりをします。鉢底から水が流れるまでやりましょう。鉢皿にあふれた水はそのままにせず捨てておきます。気温が10℃以下になってくると休眠期に入ります。水やりも控えめにし、鉢土が完全に乾いてから2〜3日後で大丈夫です。冬の間は乾かし気味に管理します。
一方でアンスリウムは空気中の湿度は好みます。葉や茎に霧吹きで水をやる「葉水」をしましょう。特に冷房や暖房の効いた室内は乾燥しやすいので葉水が必須です。
アンスリウムの肥料の施し方
肥料を与えすぎてしまうと肥料焼けを起こしてしまいます。生育期の5〜10月は、固形の緩効性肥料を規定量だけ置き肥します。生育期以外の肥料は必要ありません。
アンスリウムの花が咲いたら…
花のつく肉穂花序は古くなると緑色になってきます。それとあわせて仏炎苞も色あせてきます。そうなったら茎の根元から切り取りましょう。古い花を切り取ることで新しい花がつき、1年中楽しむことができます。
緑色になった肉穂花序をそのままにしていると、形が凸凹になってきます。これは花が終わり実をつけた状態ですが、ここまで放置してしまうと、実に栄養分を取られ株が弱ってしまいます。肉穂花序が緑色に変わってきたら、すぐに茎を根元から切り取りましょう。
立派に育てるための、植え替え時期と方法
植え替えに適した時期は5〜8月で、鉢底から根が出ていたら植え替えのタイミングです。店頭にあるアンスリウムは根がいっぱいになっていることが多いので、購入したらすぐに植え替えをするのがおすすめです。それ以外は、2年に1回の目安で植え替えます。植え替えは次の手順で行いましょう。
①新しい鉢の鉢穴をふさぐように鉢底ネットを敷き、鉢底石を2〜3cmの高さまで入れます。
②鉢に水はけのよい新しい土を鉢の4分の1ほど入れます。
③古い鉢からアンスリウムを抜き、手で根の下の方についた古い土を少し崩します。黒く変色した傷んだ根はハサミでカットして取り除きます。
④土を入れた新しい鉢にアンスリウムを置きます。
⑤鉢に土を加え、鉢と根の隙間にも土が入るように棒などでつついて土を入れ込みます。この時、つついた棒で根を傷めないように注意しましょう。
⑥鉢の上部2〜3cmのところまで土を入れ、鉢底から水が流れ出すまでたっぷり水をやります。
剪定を行うときは、時期に注意しましょう
茎がすらりと伸びるアンスリウムは、あまり大きく乱れることはありません。剪定も古くなった花を根元から切り取る程度で大丈夫です。ただし、アンスリウムは長く育てていると、気根(空気中に露出している根)をたくさんつけた茶色の茎が土から立ち上がってきます。こうなると見た目が悪くなりますので仕立て直しが必要です。
アンスリウムの仕立て直しの方法
仕立て直しの適期は5〜8月です。仕立て直しで切り取った茎は、挿し木をすることができますので、次のような手順で行いましょう。
①茶色になった茎をハサミで切り取ります。緑色の茎との境目から5〜6cm下の位置で、できるだけ気根をつけるようにカットしましょう。
②切り取ったアンスリウムは古い葉を取り除き、2〜3枚だけ葉を残します。新芽が出ている場合は新芽を残します。これが挿し穂になります。
③新しい鉢に鉢底ネットと鉢底石を敷き、水はけのよい新しい土を鉢の4分の1ほど入れます。
④土を入れた鉢に挿し穂にしたアンスリウムを入れ、さらに土を加えて植え付けます。土が乾いたらたっぷり水をやりましょう。
⑤茎をカットした親株は、ひと回り大きな鉢に植え替えます。
知りたい! アンスリウムの増やし方
アンスリウムは親株のまわりに子株がついて大きくなる植物です。増やす時には子株を株分けするのが一番簡単です。また、伸びすぎた茎で挿し木をすることもできます。
アンスリウムの株分けの時期と方法
株分けは、2年に1回の植え替え時に行うとよいでしょう。適した時期は植え替え同様5〜8月です。
①アンスリウムを鉢から抜き出し、手で古い土を崩します。
②子株の根元をつまみながら、親株から引き離すように分けます。根が絡み合って分けにくい時は、清潔なナイフで株を2〜3株に切り分けてもかまいません。黒くなった根は取り除きます。
③新しい鉢に鉢底ネットを敷き、鉢底石を2〜3cmの高さまで入れたら、水はけのよい新しい土を鉢の4分の1ほど入れます。
④新しい鉢に株分けしたアンスリウムを置きます。
⑤鉢に土を加え、鉢と根の隙間にも土が入るように棒などでつついて土を入れ込みます。この時、つついた棒で根を傷めないように注意しましょう。
⑥鉢の上部2〜3cmのところまで土を入れ、鉢底から水が流れ出すまでたっぷり水をやります。株分けしたものは、親株も子株も同様の手順で植え付けます。
アンスリウムの挿し木の時期と方法
伸びすぎた茎は挿し木にしましょう。適期は5〜8月です。
①元気のある茎を10〜15cmの長さに切ります。
②下のほうについている葉を切り落とし上部の葉2〜3枚だけ残したものを、湿らせたバーミキュライトに挿します。
③明るい日陰で管理し、バーミキュライトが乾いたら水やりをします。バーミキュライトは乾きやすいので、乾かないように定期的に水やりをします。
新しい葉が出てきたら、植え替えの要領で新しい鉢に移しましょう。その後は生育するにしたがって植え替えをしていきます。
毎日の観察が、病気や害虫を防ぐコツです
育てるときに注意したい病気
土の水はけが悪いと立ち枯れ病などを起こすことがあります。アンスリウムは普通の草花よりも多湿に弱いので、土の選び方、水やりのタイミングに注意しましょう。
立ち枯れ病
土の中に発生するカビが原因で起こる病気で、鉢内の湿度が高すぎると発生しやすくなります。立ち枯れ病にかかると葉が変色し株が弱ってしまい、最終的には枯れてしまします。立ち枯れ病は伝染病なので、発生したら株、土とも処分してください。
育てるときに注意したい害虫
害虫では、アブラムシ、ハダニ、カイガラムシなどに要注意です。特に、初夏〜初秋にかけては害虫が出やすいため、鉢のまわりや鉢底を確認し、見つけたらすぐに駆除しましょう。
アブラムシ
2〜4mm程度の虫です。アンスリウムが生育する4〜10月に発生し、茎や花から養分を奪い生育を妨げます。春暖かくなったら、粒状の浸透移行性殺虫剤を1カ月に1回、株元に置いて予防します。アブラムシがつくとすす病を誘発することがあるので、ついてしまったら、即効性のあるスプレー式の浸透移行性殺虫剤で駆除します。
ハダニ
黄緑や赤色の0.5mm程度の虫で、風通しが悪いとつきやすくなります。ハダニは葉の裏から養分を吸い取り、無数の白い斑点をつけます。水に弱いので、毎日、霧吹きで葉に水をかけると予防できます。もしハダニがついてしまったら、シャワーのような勢いのある流水を葉の裏にかけるとハダニが流れて駆除できます。大量になった場合は、即効性のあるハダニ駆除の殺虫剤を散布しましょう。
カイガラムシ
3mm程度の虫で、貝殻のような殻をかぶったり、白いロウ物質や粉状の物質で覆われたりしています。カイガラムシがつくと株が弱り、そのまま枯れてしまうことがあります。 排泄物ですす病を誘発することもあります。風通しが悪いと出てくるので、適宜剪定をして風通しをよくします。カイガラムシ専用スプレー剤を散布するか、枝についたものは歯ブラシなどでこすり落としましょう。
アンスリウムと相性のよい寄せ植えの植物は?
アンスリウムは茎がすくっと立ち上がって成長するので、根元のほうにこんもりとしたシルエットを作る植物を植えると全体のバランスがよくなります。一般的な草花よりも、育て方の似ている観葉植物と一緒に寄せ植えすると失敗がすくないでしょう。カラジウムやレクス・ベゴニア、ドラセナ・スルクロサなど模様の美しい葉物を合わせると、アンスリウムの艶やかなグリーンの葉に負けることなくお互いが引き立ちます。あまり高く成長しない品種のアンスリウムなら、ポトスやシンゴニウムなどつる性のものと合わせて、ハンギング仕立てにしてもよいでしょう。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・ブライズヘッド
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