異常気象の中の植生と親子キャンプレポート・・・「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.14〜
近年の気温上昇や降雨量は想定をはるかに超え、恐ろしい現象としか言いようがない状況です。実績データに基づくAI解析の予測を超えた事象が、日々上書きされる現実。動けない植物たちは進化の過程でどのようにリスク回避をしてきたのか、この異常気象にはどのように立ち向かうのか、季節外れの長雨で憂鬱そうに見える森を眺めつつ、考え込んでいます。「備えあれば憂いなし」。ヒトという生物には、この言葉が虚しく響きます。
目次
季節の森 ~クルミの黄葉〜
通勤では日ごとの変化を見落とさないように、運転に支障のない範囲でキョロキョロしています。この時期、樹々はまだ青々と葉を繁らせていますが、とびきり目立って黄葉し始めるのがオニグルミだと感じます。「実を落とすぞ~」という合図でもあるのでしょうか? 今年もオニグルミの黄色い葉が、一番に秋の訪れをアピールしています。
これを皮切りに周囲の樹々も徐々に秋の色へと移り変わっていきます。Vol.6<木になる樹>でもオニグルミについてご紹介しました。羽状複葉がまばらに黄葉する戦略には何か意図があるのでは、と毎年この時期に想像を巡らせているのですが、いまだヒントが見つかりません。
森がもっと面白くなる ~今の森から読み解く~
今年ほど気候の異常や異変を肌で感じたことはありません。動くことのできない樹木たちにも受難であるに違いありません。動物は、異常を察したら瞬時に移動を開始することができますが、大地に根を下ろした樹木は、そうはいきません。危機的状況に対し、どうにかして種を生き延びさせようと変容する力(=変異)が生じるのではないかと推測できます。個々の樹木および植物群全体のリスク管理、その「進化の結果」が、今の森の在り様(植生)です。
今の森の在り様(植生)を、樹木間競争の経過や個体の変異から想像する見方は、「植物は<知性>を持っている」(※1)や「樹木たちの知られざる生活」(※2)という書籍でも興味深く紹介されています。しかし、変容にはとてつもない時間を要するため、近年のような急激な変化により、多くの種が絶滅していくのも事実です。
およそ20年前から菅平の森を観察し続けていますが、私が感じる違和感は、樹木の開花量です。この10年余は、その量の多さが顕著です。樹種により豊凶の差は生じますが、それを差し引いても、どの樹種とも花の量が多いのです。一刻も早く子孫を大量に残さなければならない「スイッチ」が入ってしまったのではないかと不安がよぎります。
動けないからこそのリスク管理。樹々が有するあらゆる感度で、これまでとは異なる気象変化を察知し、素早くリスク回避に転じているように思えます。地球温暖化は、私たちが今すぐ対策を講じても、回復が程遠い域に達しようとしています。ヒトとしての感度を研ぎ澄ませ、人類の英知を結集させて立ち向かわなくては間に合わないと切に思います。
※1:「植物は<知性>を持っている」NHK出版 ステファノ・マングーソ+アレッサンドラ・ヴィオラ/著 久保耕司/訳
※2:「樹木たちの知られざる生活」早川書房 ペーターウォールベン/著 長谷川圭/訳
自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~
例年300名余の小学生を募集して実施する「サマーキャンプin信州」。コロナ禍により昨年は中止したキャンプ事業ですが、今夏は募集人員も大幅に減らした「親子キャンプ」にスタイルを変え、8月7日から2泊3日で開催しました。
幼児から小学低~高学年に大人たち、幅広い年齢の4家族14名の皆さんに、菅平高原を満喫していただきました。私たちスタッフも久しぶりにおもてなしの喜びを感じ、知り尽くしたフィールドをご提供しながら、楽しい時間を過ごすことができました。
初日は、ダボスの丘でのんびりとスカイ・カイト揚げ。澄み切った青い空にカイトが映えました。丘ではもう秋の七草が咲き始め、風になびくススキが涼しげです。
2日目は火おこし、焚火料理作り、沢歩き、ドラム缶風呂、締めにスイカ割り! と充実のアクティビティが目白押しです。マイ切り式火おこしには悪戦苦闘。
お昼時間がずれ込みましたが、その空腹も調味料となり、料理の味は格別に。
午後からの沢歩き。冷えた身体には、ドラム缶風呂がじんわり効いたことでしょう。そして長野県屈指のブランド=波田スイカで贅沢なスイカ割り。子どもも大人も、満足の笑みがこぼれました。
最終日は、朝食前のお散歩からスタート。前夜の十分な睡眠で英気快復、みんな元気いっぱいです。朝食後は広々とした菅平牧場で昆虫を捕まえたり、動物たちと触れ合ったりと気ままに過ごしました。午後からの最終アクティビティは、森の恵みを活かしたネイチャークラフト。素敵なお土産ができました。
この1年、コロナ禍でオンラインの活動が増えましたが、3日間のキャンプ事業を通して、リアルコミュニケーションの楽しさを再認識しました。
Withコロナ。工夫をこらして思いを伝えたり、分かち合ったりしていこうと思います。
今月の気になる樹:ミズキ
この夏は、ミズキをはじめ白い花が豪勢に咲き乱れ、森一帯がすみずみまで甘い香りに包まれるという至福を味わっています。街路樹でお馴染みのハナミズキ、ヤマボウシと同じ仲間であるミズキですが、花のつくりが随分と異なるため、この2つがミズキ科・ミズキ属とは推測できにくいですね。
ミズキの一番の特徴は、その樹形にあります。地面に対しほぼ水平に枝を伸ばして成長し、何段もの層をつくります。遠くからでも、樹形だけでミズキだと判断可能です。
ミズキは長枝と短枝の2種類の枝を持ち、短枝はほとんど伸びないので階層状態を維持することができるのです。真上や真下から見ると明らかですが、葉が重ならないための見事な戦略といえます。
上向きの白い小花が、枝の上面に平らにかたまって咲きます。派手さはないですが、大きな花序とそこから漂う香り、その形態で受粉する虫たちを呼び寄せます。
開花時期に、ミズキの幹にオレンジ色の不思議なものを見かけることがありますが、これも特徴のひとつです。糖分を含む樹液に天然の酵母が付着生息し、ピンク色から赤色の「バター状コロニー」を形成します。目下、天然色素アスタキサンチンを含む原料として実用化を目指した研究が進められているとか。私はいつも「豆腐よう」だと思って眺めています。
漢字表記は「水木」。字の如く、春先に樹液をたくさん放出するのが名前の由来といわれています。かつて春の森で伐採したことがありますが、切断面からどくどくと樹液が流れ出て、かわいそうなことをしたと切なくなりました。
ミズキの果実は、緑~紫~黒紫へと変化します。同時に果柄(※3)も珊瑚のように赤く色づき、遠くからも食べごろを知らせるサインのようです。ミズキの実はツキノワグマや野鳥の好物で、それらによって広範囲に種子散布されます。
材の用途として、ミズキは「団子の木」ともいわれ、小正月の繭玉をつける枝としても古くから使われてきました。色の白い材なので、こけしやコマの材料としても利用されています。
[ミズキ]
ミズキ科サンシュユ属/落葉高木
北海道、本州、四国、九州に自生する。
※3 果柄:果実の柄になっている部分のこと
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