かがみ・きよ/森林ライフプロデューサー、森林インストラクターほか。
長野県安曇野市出身。幼い頃から野山を好み、道草や散歩が大好き。それが高じて大学で林学を専攻する。卒業後は東京・原宿の造園会社に就職後、2002年からやまぼうしで勤務開始。2008年代表理事に就任。森林環境教育、指導者養成に力を入れて活動を展開中。常に自然・森・樹との関わりを持って今に至る。
かがみ・きよ/森林ライフプロデューサー、森林インストラクターほか。
長野県安曇野市出身。幼い頃から野山を好み、道草や散歩が大好き。それが高じて大学で林学を専攻する。卒業後は東京・原宿の造園会社に就職後、2002年からやまぼうしで勤務開始。2008年代表理事に就任。森林環境教育、指導者養成に力を入れて活動を展開中。常に自然・森・樹との関わりを持って今に至る。
かがみ・きよ/森林ライフプロデューサー、森林インストラクターほか。
長野県安曇野市出身。幼い頃から野山を好み、道草や散歩が大好き。それが高じて大学で林学を専攻する。卒業後は東京・原宿の造園会社に就職後、2002年からやまぼうしで勤務開始。2008年代表理事に就任。森林環境教育、指導者養成に力を入れて活動を展開中。常に自然・森・樹との関わりを持って今に至る。
急ぎ足の春の訪れ。「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.16〜
季節の森 ~芽吹きの色を楽しむ〜 森がひときわ色鮮やかなのは、初春から初夏にかけてではないでしょうか。菅平高原のある長野県上田市は、日本のほぼ中央に位置しています。植生を水平で区分すると、冷温帯の「夏緑樹林※1」に分類されます。さらに上田市内と菅平高原の標高差が1,000mあるので、垂直方向で区分すると「低地帯」「山地帯」「亜高山帯」「高山帯」となり、市内から真田を経由した菅平までの道筋でさまざまな樹木を観察することができます。 人間の顔がみな違うのと同じように、樹木もみな違った色で芽吹きます。また同じ樹種でも生育場所など環境により個体差が生じます。開葉のタイミングにも微妙な時間差があり、それが初春から初夏の森の色合いに反映されるのです。 1本ずつに着目してみると「葉は緑色」という概念を覆すほどバラエティーに富んでいます。新芽は桃色やオレンジ色のほか、蛍光色の鮮やかなものもあります。葉に含まれる葉緑素(クロロフィル)の量と光の波長によって、人間の目には緑とは異なった色調として認識されるためです。 それらの色は、ひと雨ごとに違った様相を見せてくれます。森全体がほぼ同じ緑色になる夏前に、その存在を知らなかった樹木を芽吹きによって発見できるのも、この時期ならではの楽しみです。 やま笑う季節、スケッチブックやカメラを片手に森へ色探しに出かけてみませんか。 ※1 夏緑樹林:寒く乾燥する冬の間は落葉・休眠している広葉樹からなる森林。熱帯などで乾期に落葉する雨緑樹林と区別するために夏緑樹林と呼ばれる。ブナ・ミズナラ・シナノキ・ウダイカンバ・カエデ類などが主な構成種。 森がもっと面白くなる~草原に注目~筑波大学研究情報ポータルより 筑波大学山岳科学センターと神戸大学大学院人間発達環境学研究科のグループは、数千年続く「古い草原」と、スキー場造成のためにできた「新しい草原」との間で植物の多様性や種の組成が異なることを発見しました。 菅平高原には概ね「草原を主とする景観」が広がっています。「草原」は250万年前の氷河時代から日本に存在してきた代表的な生態系の一つですが、過去100年間で生活様式の変化などに伴い急速に消失しました。同時に草原性の動植物も過去に例を見ない速さで消滅しています。そして草原に棲息するわずかな動植物が、ことごとく絶滅危惧種としてランクインしているというわけです。「秋の七草」も風前の灯のような状況です。 調査した菅平高原スキー場と峰の原高原スキー場は、黒ボク土の堆積により、縄文時代から草原だったことが解明されました。縄文人の火入れによって草原が維持されていた可能性があるといわれます。奈良時代には放牧が始まり、人の手によって広大な草原が維持されてきた歴史がありますが、明治時代後期以降は草原が利用されなくなったため森林化したり、意図的な植林により草原の大部分が失われました。 菅平高原スキー場と峰の原高原のスキー場はかつて草原(=古い草原)だった区画にリフトが架けられました。森林化した場所(=新しい草原)を伐採してリフトを架けた区画もあります。どちらの区画にも在来の草原性植物が見られますが、ワレモコウとツリガネニンジンは古い草原にのみ存在していることが明らかになりました。 「歴史が古い植生ほど希少種が多い」という知見は、そこに棲息する生物や、調査区画以外の草原の生態系にも適用できる可能性が見いだされ、興味深い報告です。自然学校のフィールドである貴重な草原に、引き続き注目していきたいと考えています。 自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~ 人気のイベント「味噌づくり」。毎春恒例の催しですが、その準備作業は、遡ること前年夏の大豆作りから始まります。安曇野の畑で、企業会員さんが無農薬で育てています。 大豆の収穫は、秋の恒例行事。人海戦術での刈り取り作業です。完熟のため、刈り取って積んだ大豆がパチッパチッと莢から自然と弾き出されます。大豆も種子なのだと実感する瞬間です。 収穫した大豆の選別は、これまた会員さんの真冬の恒例行事となっています。 その様子はVol.11でご紹介しています。お喋りしながらの作業が何日か続きます。時には「ボケ防止作業」などという軽口も飛び出します。笑 3月に開催した「味噌づくり」イベントの様子をご紹介します。大豆を前々日から水に浸し、ふっくら戻したものを大釜で柔らかくなるまで半日がかりで炊きます。この時、大豆サポニンの泡でふきこぼれないよう細心の注意を払います。豆を小指と親指で挟んで簡単に潰れる柔らかさになれば、よい頃合いです。大豆の甘い香りに包まれながらの作業です。 こうして迎えるイベント当日。今年は常連のお客さまに初参加の方も加わり、総勢20名が参加しました。まずは麹の量に合わせて塩の計量。次にミンサーという器具で茹でた大豆を潰してペースト状にします。これはみんなの連携作業で、ミンサーからニョロニョロとペースト状の大豆が押し出されます。 ペースト状の大豆に塩と麹を混ぜ込み、最後に空気を抜きながら持参した容器に詰めていきます。あとは麹の力と寝かせ時間が「美味しい手前味噌」に仕上げてくれます。 イベントの締めは、手作りの「甘酒プリン」。発酵食品のおやつです。 参加された方からの感想です。 ●初めて味噌を作る経験を期待して参加しましたが、大変良かった ●子どもも楽しく一緒にできたのが良かったです。ありがとう ●大豆を潰すのが楽しかった 来年も3月に実施します。 今月の気になる樹:チャノキ 八十八夜は、農の吉日。農作業の目安とされ、種籾をまいたり茶摘みをしたりする時期です。日常の飲みものとして、古くから日本人に親しまれてきた緑茶。 その原料となるのがチャノキです。お茶の生産量トップ5は、1位=静岡県、2位=鹿児島県、3位=三重県、4位=宮崎県、5位=京都府です。温暖な産地からも想像できますが、原産は中国南西部の四川省、雲南省、貴州の温暖多雨地帯です。日本では丘陵帯に栽培されていますが、九州では野生化が見られています。長野県でも南端の天龍村中井侍地区で「中井侍銘茶」としてお茶の栽培が行われています。 茶畑は効率的な作業のために樹形を低く仕立てていますが、本来は高さ2mほどの低木です。条件が良ければ10m以上にもなるといわれています。公園や街路樹にもチャノキが植栽されていますが、管理上の都合で整えられている姿が多く見受けられます。一面に広がる壮大な茶畑は見事ですが、伸び伸び育つとチャノキはどんな姿になるのでしょう。 チャノキの葉はいわゆる茶葉になるのですが、長楕円形で光沢があり、サザンカによく似ています。縁には鋸歯があります。 花は白色で丸い5枚の花弁をつけた清楚な姿で、多数の雄蘂(おしべ)を持っています。10~11月にかけて開花します。 開花後は昆虫により受粉し、なんと1年後の秋に種子が熟します。1つの実の中に1〜5粒の種子が入っていて、かつては種子から食用油を取ったり、洗髪に利用していた地域があったといわれています。 また長寿などの薬効にあやかり「茶の実紋」の意匠も多く見受けられ、それだけ生活に密接な繋がりのあった樹木だったことがうかがえます。 チャノキの葉から作られる代表的な飲みもの=緑茶の効能は、さまざまな研究で明らかにされています。3つの薬効成分カテキン、テアニン、カフェインを含み、生活習慣病予防やメンタルヘルスにも効果があることも分かってきています。薫風を感じながら、和菓子と新茶で一服しましょうか。 [チャノキ] ツバキ科ツバキ属/常緑低木 中国原産、丘陵帯で栽培、九州で野生化
雪の結晶「六花」を観察。「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.15〜
季節の森 ~目覚める樹々〜 立春を過ぎる頃から太陽光線が強く森に差し込むようになり、樹々が白いキャンバスにストライプ状の影を落とします。そんな景色を確かめに、スノーシューを履いていそいそと森へ分け入るのが、この季節のルーティーンです。 先端に付いた冬芽も、わずかながら膨らみ始めている様子。過酷なほど気温が低い菅平高原でも、樹々は降りそそぐ陽光のおかげで生存できるのです。センサーを働かせ、少しずつ強まる太陽エネルギーに季節を感じ取りながら、次なる準備にとりかかるのでしょう。 この季節、冬芽のみならず埋もれて見えない雪原下でも、樹液を吸い上げる根も春の訪れをいち早くキャッチしてソワソワしているのかな・・・想像膨らむ早春の森散策。 森がもっと面白くなる ~雪を科学する~ 雪は結晶として地上に落ちたときには、儚く溶けてその形を変えてしまいます。雪は氷からできている、という事実を認識できる瞬間ですね。氷は液体である水が冷えて固体に変化したものですが、雪は気体である水蒸気が固体に変化したものです。この現象を「昇華凝結」といいます。 雪は結晶として降ってきます。雪の結晶とは水の分子が規則正しく整列したものです。雪の場合は六方向への対称形で、平らで樹枝のような形状をしています。雪が別名「六花(りっか)」といわれる所以です。 ところが、天から落ちてくる雪は、さまざまな形をしています。それは、できかけの結晶に空気中の水蒸気、つまり水分子が付着して成長するからです。さらに上空の温度と湿度が、形を決める要因となります。雪の結晶形の早見表としては「中谷ダイアグラム」がよく知られています。 学生時代、豪雪地の演習林で「雪氷学」を学びました。降雪量の多い森に存在する樹木にとって、雪は著しく成長の妨げとなります。空から舞い降りてくる雪の結晶はふわふわと軽く儚い存在ですが、結晶が溶けずに積雪となった場合、また違った力が生じるのです。 雪の重さはどれくらいでしょうか。新雪で1㎥当たり約150kg以上、 根雪となって固まった場合は500kg以上にもなります。さらに、この重量に沈降力も加わります。 積雪沈降力は、雪の重さと気温の上昇によって重力方向に働きます。雪の密度が大きくなることで下方に力が加わり、粘性のある「締まり雪」が枝の周囲に垂れ下がった状態になるため、雪をかぶった枝が折れたりする原因となります。軒先に垂れ下がってくる雪もこの沈降力によるものです。 一面を雪に覆われた銀の森は、息をのむほどの美しさです。が、この冬の厳しさへの耐性を得たもののみが生存を許される過酷な環境でもあります。粘りがあり、しなやかで折れにくく、曲がっても再び立ち上がることができる選ばれた樹種。そんな自然の姿に、ふと人生を重ねて見つめてしまうことがあります…。 あなたに届いた「天からの手紙」からは、どんなメッセージが読み取れますか。 ※出典『雪の結晶』ケン・リブレクト、矢野真千子訳 河出書房新社 自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~ 自分たちだけで独り占めしてはもったいない! と感じる菅平高原での体験やできごとを、イベントに昇華させるよう心掛けています。コロナ禍突入の2020年に着想し、2021年春に企画化した「満月の森スノーシュー散策」イベントについての経緯をご紹介しましょう。 満月の夜、光に導かれるようにダボスの丘に登り「お月見」を楽しむことがよくありました。一昨年の冬、満月の夜にスノーシューで森を歩いたら素敵かも! と思いついたのです。が、しかし。調べてみると「積雪のある季節でイベントに適した土・日が満月の夜」は、非常に少ないことが判明。 諦めきれずに迎えた2021年。運よく満月が2月の土曜日に重なり、イベント開催に漕ぎつけました。日没から月の出を待つまでの、静まり返った闇の時間。 気温がぐんぐん低下しカラダの芯まで浸食してくる冷気。そして凛と張り詰めた空間に突如出現した月光と影。なんとも幻想的なひとときとなりました。 そんな体験の機会を再び!ということで、今年は3月18日の満月に合わせて実施します。 https://www.facebook.com/events/303593311750589 今月の気になる樹:サンショウ サンショウは用途が多く、古くから利用されてきた身近な樹木のひとつです。 落葉低木で変異が多く、樹高は3mほどになり、枝には対生するトゲが見られます。葉は互生、奇数羽状複葉(※1)で11~19個の小葉(※2)で構成され、小葉の長さは1~3.5cmの卵形をしています。雌雄異株で緑黄色の円錐状の花を多数付けます。 実を利用するためには野山に自生しているものから採取しますが、庭などに植栽して手軽に収穫したい場合は、雌雄異株のため2本植える必要があります。 ご存じのように、サンショウの一番の特徴は、その香りです。山椒の「椒」の字は訓で「はじかみ」「かぐわしい」と読み、樹名には字のごとく「山にあるかぐわしい木」という意味が込められています。 日本人ならこの香りで「鰻」を連想すると思うのですが、最近ではそうでもありません。自然観察の散策の途中で匂いを嗅いでもらうと「虫よけスプレー」を思い浮かべる学生が多いのです。市販の虫よけスプレーを噴霧してみると、確かに同じような香りがします。果たして防虫効果があるのでしょうか。 サンショウは生薬「山椒(さんしょう)」として古くから利用されており、完熟前の果肉は芳香辛味健胃薬として漢方処方され、家庭薬としても食欲不振や消化不良に効能があるといわれています。漢方では、鎮痛、鎮咳、駆虫薬として使われています。成分は、精油としてシトネラールなど、辛味成分としてサンシオールⅠ、Ⅱなどです。 葉や実のみならず、すりこぎには山椒の幹が最適とされています。材に解毒作用があり、擦った際の木の粒子が食材に混ざり、まだ冷蔵庫の無かった時代には食あたりを防ぐとされていたそうです。特徴的な樹皮の凸凹がしっかり握りやすく、使い勝手がよいのも理由のひとつかもしれません。 効用が多いサンショウは、一家に一本植栽されていると重宝する樹木です。ただし昆虫の「食草」であることを忘れないでください。気が付いたら丸裸という事態もあります。アゲハ蝶の幼虫が好んで食します。 今の季節は葉を落とし、トゲと冬芽でことさらユニークな姿をしています。 森で出会ったこの一枚、どんな風に見えますか? 冬芽が伸びて「木の芽」を味わえるのも間もなくです。 ※1 奇数羽状複葉:葉の形の一つで複数に分かれているもの。葉軸の左右に小葉が並ぶものが羽状複葉で、そのうち軸の先端に小葉があるもの。 ※2 小葉:複葉を構成している一つひとつの葉状のもののこと。 [サンショウ] ミカン科サンショウ属/落葉低木 北海道・本州・四国・九州の丘陵帯から山地帯の林地に自生する
異常気象の中の植生と親子キャンプレポート・・・「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.14〜
季節の森 ~クルミの黄葉〜 通勤では日ごとの変化を見落とさないように、運転に支障のない範囲でキョロキョロしています。この時期、樹々はまだ青々と葉を繁らせていますが、とびきり目立って黄葉し始めるのがオニグルミだと感じます。「実を落とすぞ~」という合図でもあるのでしょうか? 今年もオニグルミの黄色い葉が、一番に秋の訪れをアピールしています。 これを皮切りに周囲の樹々も徐々に秋の色へと移り変わっていきます。Vol.6<木になる樹>でもオニグルミについてご紹介しました。羽状複葉がまばらに黄葉する戦略には何か意図があるのでは、と毎年この時期に想像を巡らせているのですが、いまだヒントが見つかりません。 森がもっと面白くなる ~今の森から読み解く~ 今年ほど気候の異常や異変を肌で感じたことはありません。動くことのできない樹木たちにも受難であるに違いありません。動物は、異常を察したら瞬時に移動を開始することができますが、大地に根を下ろした樹木は、そうはいきません。危機的状況に対し、どうにかして種を生き延びさせようと変容する力(=変異)が生じるのではないかと推測できます。個々の樹木および植物群全体のリスク管理、その「進化の結果」が、今の森の在り様(植生)です。 今の森の在り様(植生)を、樹木間競争の経過や個体の変異から想像する見方は、「植物は<知性>を持っている」(※1)や「樹木たちの知られざる生活」(※2)という書籍でも興味深く紹介されています。しかし、変容にはとてつもない時間を要するため、近年のような急激な変化により、多くの種が絶滅していくのも事実です。 およそ20年前から菅平の森を観察し続けていますが、私が感じる違和感は、樹木の開花量です。この10年余は、その量の多さが顕著です。樹種により豊凶の差は生じますが、それを差し引いても、どの樹種とも花の量が多いのです。一刻も早く子孫を大量に残さなければならない「スイッチ」が入ってしまったのではないかと不安がよぎります。 動けないからこそのリスク管理。樹々が有するあらゆる感度で、これまでとは異なる気象変化を察知し、素早くリスク回避に転じているように思えます。地球温暖化は、私たちが今すぐ対策を講じても、回復が程遠い域に達しようとしています。ヒトとしての感度を研ぎ澄ませ、人類の英知を結集させて立ち向かわなくては間に合わないと切に思います。 ※1:「植物は<知性>を持っている」NHK出版 ステファノ・マングーソ+アレッサンドラ・ヴィオラ/著 久保耕司/訳 ※2:「樹木たちの知られざる生活」早川書房 ペーターウォールベン/著 長谷川圭/訳 自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~ 例年300名余の小学生を募集して実施する「サマーキャンプin信州」。コロナ禍により昨年は中止したキャンプ事業ですが、今夏は募集人員も大幅に減らした「親子キャンプ」にスタイルを変え、8月7日から2泊3日で開催しました。 幼児から小学低~高学年に大人たち、幅広い年齢の4家族14名の皆さんに、菅平高原を満喫していただきました。私たちスタッフも久しぶりにおもてなしの喜びを感じ、知り尽くしたフィールドをご提供しながら、楽しい時間を過ごすことができました。 初日は、ダボスの丘でのんびりとスカイ・カイト揚げ。澄み切った青い空にカイトが映えました。丘ではもう秋の七草が咲き始め、風になびくススキが涼しげです。 2日目は火おこし、焚火料理作り、沢歩き、ドラム缶風呂、締めにスイカ割り! と充実のアクティビティが目白押しです。マイ切り式火おこしには悪戦苦闘。 お昼時間がずれ込みましたが、その空腹も調味料となり、料理の味は格別に。 午後からの沢歩き。冷えた身体には、ドラム缶風呂がじんわり効いたことでしょう。そして長野県屈指のブランド=波田スイカで贅沢なスイカ割り。子どもも大人も、満足の笑みがこぼれました。 最終日は、朝食前のお散歩からスタート。前夜の十分な睡眠で英気快復、みんな元気いっぱいです。朝食後は広々とした菅平牧場で昆虫を捕まえたり、動物たちと触れ合ったりと気ままに過ごしました。午後からの最終アクティビティは、森の恵みを活かしたネイチャークラフト。素敵なお土産ができました。 この1年、コロナ禍でオンラインの活動が増えましたが、3日間のキャンプ事業を通して、リアルコミュニケーションの楽しさを再認識しました。 Withコロナ。工夫をこらして思いを伝えたり、分かち合ったりしていこうと思います。 今月の気になる樹:ミズキ この夏は、ミズキをはじめ白い花が豪勢に咲き乱れ、森一帯がすみずみまで甘い香りに包まれるという至福を味わっています。街路樹でお馴染みのハナミズキ、ヤマボウシと同じ仲間であるミズキですが、花のつくりが随分と異なるため、この2つがミズキ科・ミズキ属とは推測できにくいですね。 ミズキの一番の特徴は、その樹形にあります。地面に対しほぼ水平に枝を伸ばして成長し、何段もの層をつくります。遠くからでも、樹形だけでミズキだと判断可能です。 ミズキは長枝と短枝の2種類の枝を持ち、短枝はほとんど伸びないので階層状態を維持することができるのです。真上や真下から見ると明らかですが、葉が重ならないための見事な戦略といえます。 上向きの白い小花が、枝の上面に平らにかたまって咲きます。派手さはないですが、大きな花序とそこから漂う香り、その形態で受粉する虫たちを呼び寄せます。 開花時期に、ミズキの幹にオレンジ色の不思議なものを見かけることがありますが、これも特徴のひとつです。糖分を含む樹液に天然の酵母が付着生息し、ピンク色から赤色の「バター状コロニー」を形成します。目下、天然色素アスタキサンチンを含む原料として実用化を目指した研究が進められているとか。私はいつも「豆腐よう」だと思って眺めています。 漢字表記は「水木」。字の如く、春先に樹液をたくさん放出するのが名前の由来といわれています。かつて春の森で伐採したことがありますが、切断面からどくどくと樹液が流れ出て、かわいそうなことをしたと切なくなりました。 ミズキの果実は、緑~紫~黒紫へと変化します。同時に果柄(※3)も珊瑚のように赤く色づき、遠くからも食べごろを知らせるサインのようです。ミズキの実はツキノワグマや野鳥の好物で、それらによって広範囲に種子散布されます。 材の用途として、ミズキは「団子の木」ともいわれ、小正月の繭玉をつける枝としても古くから使われてきました。色の白い材なので、こけしやコマの材料としても利用されています。 [ミズキ] ミズキ科サンシュユ属/落葉高木 北海道、本州、四国、九州に自生する。 ※3 果柄:果実の柄になっている部分のこと
春から雨の季節にかけての森の変化・・・「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.13〜
季節の森 〜今日の森は今日限り〜 春に限ったことではないのですが森は1日として同じ姿を見せてはくれません。刻々と変化するさまを肌で実感するのがこの季節。もうそろそろかな・・と目星をつけていたものたちはタイミングを逃すとあっという間に姿を変え、次のステップへと生長して私を置き去りにします。森へ分け入り見つけた瞬間、出会えた瞬間が森の「The Day」。 また森にとって春の雨はとても大切な恵み。変化をゆっくり楽しみたいと思っている側にしてみればこの天からの恩恵により、森の生長はまたも早送りのように進んでしまい、雨上がりの散歩でがっかりすることもしばしば。通勤途中の車窓から遠目にも降雨後の森の変化は顕著です。樹木にとっては一気に葉を広げ、晩夏までに十分な蓄えをしなくてはならないのだから仕方ないのだけれど。 夏の終わりにはなんとすでに「冬芽」が枝の先端に準備されて、冬支度には早過ぎやしないか?? とあきれる程です。これも樹木が動けないからこその生存戦略なのでしょう。 冬芽のできる仕組みを少しお話ししましょう。昼の長さのことを日長といいます。樹木の生長現象のうち、花芽や冬芽の形成、節間生長(※1)など極めて重要な生理現象は、この日長によって制御されています。また日長の長さに反応する生理現象を光周性反応といい、短い日長に反応する植物を短日植物、長い日長に反応する植物を長日植物といいます。 人間も外を眺めて「日が長くなった」とか「日が暮れるのが早くなった」と敏感に感じ取りながら生活をしていますが、植物たちは生存戦略の重要な営みとして太陽光を取り込んでいるのです。変化は植物たちの生きる術であり季節により彼らは急ぎ足で変身を遂げますが、私は森のなかで彼らの変化をのんびり楽しみたいと思うのです。 ※1 節間生長:節間とは二つの隣り合った葉によって区切られた幹の一部を指し、葉の数が多いほど節間数も多くなる。その部分の生長のこと。 森がもっと面白くなる ~生態系サービス⑤最終~ 森の働きを指す「生態系サービス」の4つの分類のうち、今回は「生息・生育地サービス」についてご紹介しましょう。 「生息・生育地サービス」は (1)生息・生育環境の提供 (2)遺伝的多様性の維持 という2つの機能を指します。 生態系に組み込まれる移動性の生物に生息・生育環境を与え、そのライフサイクルを維持するサービスが、(1)の生息・生育環境の提供です。生物は生きるために空気、水、食料などさまざまな生産物を取り込み、繁殖に適する環境に支えられています。それは単純なつながりではなく生態系間の相互作用により複雑に影響し合っています。 (2)は例えば、小笠原諸島などは固有種が集中し生物多様性が高い生態系(生物多様性ホットスポット)に進化が起こりうる可能性も秘めている場所と考えられ、「遺伝的多様性」を保全していくことが重要となります。遺伝的多様性が消失すると、野生種・野生化種・栽培種間の継続的な進化が妨げられるといわれています。 5回にわたり「生態系サービス」についてお伝えしてきました。馴染みがなく難しい内容だったかもしれません。ヒトという生物が生きていくためにかけがいのない「地球の環境」と「生物多様性」。危機に瀕した今こそ、このことを拡散する必要性を感じています。 自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~ 調査研究の手伝い やまぼうし自然学校が事務所を構えている菅平高原は上信越国立公園の中にあります。近隣には筑波大学山岳科学センターがあり、当校ではセンターの継続調査協力や国立公園内の根子岳保全活動も行なっています。2017年から携っている「ワラビ」の継続調査についてご紹介しましょう。 この調査の目的は33haにも及ぶ広大なフィールド内にある半自然草原(※2)の維持であり、この草原区域に特徴的な「ワラビ」の収穫を通し、半自然草原の持続可能な利用手法を探ることです。 5月初旬、その年の気候を予想してワラビ調査計画を立案、7月1週目まで2カ月にわたり週1回の調査日が設定されます。 調査には当校の会員さんにも協力を募っています。報酬は「ワラビ」。委託調査員として厳密な調査にかかわるわけですが、「上物ワラビ」に遭遇すると思わず手が伸びて・・・採取禁止エリアでは私は毎回口うるさい監視オバさんと化します。 154×7mの調査エリア内には7m四方の調査区が22設置され、さらに1調査区内に4つの小調査区が置かれます。小調査区はワラビ<採集区><対照区>に仕切られ、さらに ①採らない ②踏み込んで全部採る ③踏み込まないで全部採る ④半分採る の調査ルールで採集されます。そして、どのやり方が持続可能な利用手法なのか、長年かけて調査しているので、監視オバさんは重要な役割なのです。 調査ルールに従って採集が完了したら、各調査員の採集量をそれぞれ計測し、販売可能なワラビは選別し出荷用に整えます。これで一連の調査は終了です。要する時間はワラビの生育具合にもよりますがおよそ1時間半から2時間。 出荷用からはじかれたものや、調査エリア外で許可の降りている場所で採集したワラビが調査協力の報酬となります。会員の皆さんはワラビのお土産を楽しみに、毎回快く協力してくださいます。 筑波大学との調査や環境保全活動は今後も続きます。地道な調査活動を支えているのは会員の皆さんなのです。 ※2 半自然草原:もとは森だった場所を人が樹木のみを駆除し、草刈り・野焼き・放牧等で遷移を意図的に止めた草原。調査区域では刈り取りによる草原の維持を試みている。 今月の気になる樹:イヌエンジュ 樹木の名前には「イヌ」と付くものがあります。イヌには【接頭語として名詞につく。むだで役に立たない意を表す。よく似てはいるが実は違っているという意を表す】(※3)という意味があり、対比して命名されているものがあるのです。イヌエンジュの場合、対比されているのはエンジュです。他にもイヌブナ/ブナ、イヌザンショウ/サンショウ、イヌツゲ/ツゲなどが挙げられます。 イヌエンジュの芽吹きは遠くからも認識できます。ほかの樹木に比べて遅い芽吹きと、葉の裏面に密生する毛がこの時期は白銀色のビロードのように輝いて見えるからです。樹皮も十文字の裂け目が徐々に菱形にめくれて特有の模様を形成し特徴的です。また幹や枝に傷がつくと臭気を放ちます。 芽吹きが目立つのは、林道沿いや伐採跡などの明るい場所で生育することも要因でしょう。菅平高原への通勤途中でも道沿いに点在しているのを確認することができます。7月頃からはクリーム色のマメ科特有の小さな花を房状に付け、果実は10月頃さや豆状に熟し垂れ下がります。 エンジュに接頭語の「イヌ」を冠しているイヌエンジュですが、エンジュと比較して材に遜色はなく特に心材の材価は高く評価されています。心材の濃い褐色と辺材の淡い色の対比や、光沢のある木目を活かして床柱、家具、お盆や菓子器などの工芸品に比較的高級な材として用いられます。また音響特性が良いため三味線や太鼓の胴にも利用され、強度や粘りがあることから手斧や農具の柄にも適しています。アイヌ民族では病魔除けとして古くからこの材が利用され、今でも民芸品「ニポポ」の材料として使われています。 ※3 出典:デジタル大辞泉(小学館) [イヌエンジュ] マメ科イヌエンジュ属/落葉高木 北海道・本州(東北・関東・中部)に分布
早春の森の楽しみは“樹木のお花見”! 「森と人をつなぐ」自然学校 〜高原便り 四季折々Vol.12〜
季節の森 〜樹木のお花見〜 お花見の代表格といえばウメやサクラが思い浮かぶことでしょう。でもこの季節、それだけではもったいない! 森の中でひっそりと咲く、樹木の花にも目を向けてみてください。その控えめな美しさに感動するはずです。 マルバマンサク 「まず咲く=マズサク」が名前の由来となっている「マルバマンサク」から。実は菅平高原ではあまり見かけませんが、お隣の峰の原高原や須坂市側に山を下る道のあちらこちらに淡い黄色が目立ちます。芽吹き前の灰褐色の森ではこのマンサクの黄色がひときわ目を引きます。 春先の森ではマンサクのほかにも次々と樹々が黄色い花を咲かせます。 黄色はこの時期の森ではよく目立ち、昆虫たちを引きつけているようです。 ハンノキ お次は「ハンノキ」です。Vol.1号の「今月の気になる樹」でもご紹介していますが、落葉した枝先に濃紫色の雄花を咲かせ、遠くからもその特徴的な色で開花を確認することができます。菅平高原で春の訪れを最初に実感する花です。 ツノハシバミ、ヤシャブシ 続いて「ツノハシバミ」、「ヤシャブシ」です。どちらも「ハンノキ」と同種のカバノキ科ハンノキ属で春早い時期にまずはこの種に特徴的な、穂を垂らした雄花を咲かせます。開花する毎に花序が下に伸びていき、春風にゆらゆら揺れる姿が興味をそそります。 「ヤシャブシ」だけは花序が黄色く見えます。春先の最初の花粉症の原因物質がハンノキ属の花粉なので、花粉症に苦しんでいる人は雄花の揺れる姿を悠長に眺めていられないかもしれませんね。雄花の盛りが過ぎる頃、小さな雌花が姿を現しますが、うっかり見逃してしまうほどです。 ヤナギ類の花 「ネコヤナギ」で代表されるヤナギ類の花も個性的です。ビロード状のものが花で、正確には「花穂(かすい)」と言います。これも初春を代表する樹木の花のひとつです。 花を楽しむ目的で改良された園芸木と異なり、自然の樹木は子孫を残すための器官として花を備えています。それらに華やかさはありませんが、形や色、香りを駆使し、まさに全身全霊で繁殖のチャンスを狙っています。そんな樹木たちを観察できる春のこの時期、その花にぜひ目を向けてみてください。 森がもっと面白くなる ~生態系サービス④~ 森の働きを指す「生態系サービス」の4つの分類のうち、今回は「文化的サービス」についてご紹介しましょう。 「文化的サービス」は①自然景観の保全、②レクリエーションや観光の場と機会、③文化・芸術・デザインへのインスピレーション、④神秘的体験、⑤科学や教育に関する知識の5つに分類され、多様な生態系があることによって醸成される文化的な基盤や価値を支えるサービスをさします。例えばハイキングやキャンピング、バードウォッチングなどのレクリエーションや、森林浴などで得られる精神的な癒やしなど、その多くはその土地や場所の生態系が形作る環境によって支えられた文化と言えます。 やまぼうし自然学校が提供するプログラムもこのサービスの恩恵を多分に受けています。四季折々の自然の恵みを生かした一般向けイベントや、林間学校・移動教室で訪れる子どもたちへの森林環境教育の提供もこれに含まれます。 付加価値を伴う「文化的サービス」の提供は、前回までにご紹介した「供給サービス」、「調整サービス」が土台となってこそのサービスといえるでしょう。 自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~ 支障木伐採のお手伝い 「シラカンバの木を伐るよ。活用するなら選別に来て」 お世話になっているホテルの社長からの嬉しい電話連絡。やまぼうし自然学校が提供しているネイチャークラフトはこのような身近な伐採木の有効利用によるものです。切り倒してみるとシラカンバはギリギリ水あげ前で、まだ幹に水分が少ない状態でした。カエデ類が既にぐんぐんと水を上げ始めていることを思うと、樹木たちが同時期に資源を奪い合わない仕組みに感心します。 作業日当日、スキー場のリフトに乗せてもらい現場に到着。すでにチェーンソーでの伐採作業が始っていました。「必要な部分だけ選んで除けておいて雪が溶けたら軽トラで運び下ろせばいいよ」とのこと。ここぞとばかり欲張って仕分け作業をさせていただきました。 ふと青い空を見上げると真っ白な飛行機雲が根子岳目がけて伸び、遠くの山には天気が下り坂を知らせる雲が垂れ込めています。観天望気通り夕方からは春の雨となり、雪解けがすすみました。 自然素材を活用するためには周到な段取りが必要です。伐採、玉切り、乾燥、輪切りに加工してのさらなる乾燥、とこの間約12カ月。その後の保管にもカビや反り、割れを起こさないよう湿度管理が欠かせません。こうして手間暇かけた自然素材は宝物です。 伐採したシラカンバは「ダボスの丘」の上のゲレンデの支障木でした。スキー滑降には少々邪魔になってしまった樹ですが、私たちにとっては材としてお宝となります。また草原維持のためには長期的視野のもと計画的な樹木の伐採も必要です。 作業の合間に草原のネコヤナギが早くも花穂を出してモコモコと可愛い姿なのを発見。少しだけ枝先を頂きました。またシラカンバの幹にも美しい地衣類が付着していて、その部分も切り取って持ち帰りました。タイミングよく会員さんが持ち寄ったツバキとともに事務所エントランスに「ユニークな高原の春」が生けられています。久しぶりの外作業で身体も気持も晴れやかな一日となりました。 今月の気になる樹:コブシ 遠くの山の雪が解け、林床が見えるようになるとコブシの白い花を探しながらの運転が楽しみになります。咲くまで気がつかなったり、新たな場所に白い花を発見したりワクワクします。私の車中観察では山の谷筋に添って白い花が確認され、線状に分布しているように感じます。 「コブシ」という名前は集合果(※1)が拳に似ていることに由来します。 秋頃に観察するとなるほどと納得の形状です。熟すと袋果(※2)がさけて赤い実が伸縮性の白い糸(珠柄)で垂れ下がります。食べごろを野鳥にアピールしているのでしょうか。モクレンは最も祖先的な被子植物のひとつで、モクレン類には姿かたちの異なる4つの分類仲間がありますが、どれも共通して精油を合成します。一億年前には授粉を担うためのチョウやハエは存在せず、甲虫類が花粉を運ぶ担い手でした。植物そのものにも食害を及ぼすために精油成分を生産するようになったといわれています。 サクラに先駆けて春を告げる代表種のコブシ。開花が農作業に取り掛かる頃合いを図るために利用され、「種まき桜」と呼ぶ地域もあります。類似樹種に「タムシバ」があります。別名「ニオイコブシ」と呼ばれ、和のアロマとしてこのところ注目の樹木です。 モクレン科の代表樹木には「ホオノキ」も挙げられますが、いずれも香木と言われ樹皮や枝葉にコブシ油と呼ばれる精油が含まれています。食害回避のために精油を生産し、その香料成分であるシトラールやαピネン、シネオールを多く含み、レモンやスギ、ヒノキ、ユーカリ同様に柑橘系の爽やかな芳香を放ちます。削った木片をポプリや枕に入れて香りを楽しむことができます。 生薬の辛夷(しんい)としても古くから利用されており、鼻づまりや風邪による頭痛に対し効能があります。 コブシやハクモクレンの咲く頃、一度は寒の戻りがあり、白色の花々が茶色く変色してしまうことが多いようです。サクラの開花やツバメの飛来が例年より格段に早かった今年は、その白さを保って美しく咲ききることができるでしょうか。 ※1 集合果:複数の果実がひとかたまりになっている複合果のひとつ。ひとつの花の複数の雌しべに由来する果実 ※2 袋果:子房を包む1枚の皮(心皮)が種子を包む果実を袋果という [コブシ] モクレン科モクレン属/落葉高木 北海道・本州・四国・九州の丘陵帯から山地帯の林地に普通に分布
春芽吹く森でアニマルトラッキング! 「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.11〜
季節の森 〜アニマルトラッキング〜 締まった雪面に点々とスタンプされた足跡や齧り取ったような食痕。この時期は動物の気配を感じながら散策する「アニマルトラッキング」がおすすめです。 人前には滅多に姿を現さない動物たちの動線が、くっきりと雪面に描き出されています。痕跡を残した動物たちと遭遇するかもしれないワクワク感も高まります。 足跡をヒントにその行動を想像しながら歩みを進めましょう。「こんなところで何をしていたのだろう?」「ここからジャンプした?」「どこへ向かおうとしているの?」 特徴的な足型やその行動軌跡から生息している動物を判別することができます。菅平高原ではキツネ、ニホンカモシカ、タヌキ、テン、リス、ノウサギ、キジ、ヤマドリ、カケスなどが雪原を行き交っていることがわかります。 いっぽう、耳を澄ませば野鳥たちの会話も聞こえてきます。 足元から視線を樹上に移動させてみます。溶けかけた樹上の雪が小さな塊りのまま落ちてきて枯れ枝に当たり、硬質で澄んだ音が木琴のように響き渡ります。 樹木も確実に春の準備を始めています。休眠から覚めた証拠に冬芽がふっくらと膨らみ、ほのかに赤みを帯びてきています。地面はまだ深い雪に覆われていますが、根が水を吸い上げ始めたサインです。 神秘的な静寂が支配していた冬の森から芽吹きの準備が着々と進む森へ。躍動は音として聞こえずとも、さまざまな生物たちの目覚めを感じることができるでしょう。五感を研ぎすまし、自然の中へ出かけましょう。 森がもっと面白くなる ~生態系サービス③~ 森の働きを指す「生態系サービス」の4つの分類のうち、今回は「調整サービス」について詳しくご紹介しましょう。 「調整サービス」は ①大気質調整、②気候調整、③局所災害の緩和、④水量調整、⑤水質浄化、⑥土壌浸食の抑制、⑦地力の維持、⑧花粉媒介、⑨生物学的コントロールの9つに分類されます。健全な森や草木類がもたらす機能が多岐にわたっているといえます。 1. 大気質の調整及び他の都市環境の質の調整 主に都市の環境を調整するサービス。街路樹や公園の緑が、大気汚染や騒音、ヒートアイランド現象を緩和しています。河川周辺の緑地、史跡や墓地、大学キャンパスやオフィスビルの公開緑地などもこの役割を担っています。 2. 気候調整 地球の表面温度を維持するサービス。地球表面の温度は生命体維持のため天然の「温室効果」によって調整されています。近年の急速な気候変動は近代化など土地利用の変化や化石燃料の消費急増によってもたらされています。 3. 局所災害の緩和 自然災害などを緩和するサービス。森林のみならず珊瑚礁、海草、海中林、湿地帯、砂丘などが、台風や暴風、洪水、津波、雪崩、野火、地滑りなどさまざまな自然災害の影響を軽減する天然の防壁、緩衝帯となりえます。 4. 土壌浸食の抑制 植物が土壌浸食や地滑りを防ぐサービス。植物が地面を覆うことで土壌浸食の防止に大きな効果があります。森林が土壌の保水状態を調整し、急傾斜地での地滑りを防ぎます。地滑りが増加傾向なのは森林破壊など人為的な土地利用の変化によるものと考えられます。 5. 地力の維持および栄養循環 土地の肥沃度を維持し、栄養循環を支えるサービス。土壌の質は母材と土壌生物による生物学的過程、地質、気候によって決定づけられます。土壌に生物多様性が見られれば、栄養循環に好影響を与え作物の生産量も向上するといわれています。 6. 花粉媒介サービス 昆虫や鳥などが植物の受粉を媒介するサービス。農作物や生薬となる種の植物の多くは授粉媒介動物(昆虫、鳥など)に授粉を依存するといわれています。授粉媒介動物の生息環境の喪失で多様性を失うと、授粉システムの維持にも悪影響を及ぼします。 7. 生物的コントロール 有害生物および病気を生態系内で抑制するサービス。有害生物や病気は、捕食者や寄生生物の存在により生態系の中でコントロールされています。しかし気候変動による新たな病気や虫害の発生が予想されており、重要性が増すとされているサービスです。有害生物の天敵となる生物に多様性が見られればこのサービスは向上すると考えられています。 これらは「森林の公益的機能」に該当し、森林を保全することでサービスが飛躍的に向上する部分でもあります。 自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~ 恒例の味噌作り準備 立春を迎える頃から味噌作りのための大豆選別作業が始まります。会員さんも入れ替わり立ち替わり招集され、老若男女が選別作業に勤しみます。無農薬栽培の大豆で仕込むため、虫喰いや未熟な粒を一つひとつ丁寧に選り分けます。 選別専用の道具があるわけではなく、ソリや木枠を工夫して活用。ひとりでやると気の滅入る地味な作業でしかありませんが、たわいないお喋りがセットだと楽しい作業になります。今年はソーシャルディスタンスを保ち、マスク必須ですが。 選り分けた無農薬大豆と自家製の麹で仕込み、菅平高原でゆっくりと熟成。秋にはおいしいやまぼうし味噌になります。イベントや体験学習ではこの「手前味噌」を存分に味わっていただいています。 コロナ禍で注目の発酵食品。手作り食を通して気持ちにも身体にも元気を蓄え、この難局を乗り切りたいものです。 今月の気になる樹:ウリハダカエデ ウリハダカエデはやまぼうしの体験学習で人気の観察プログラム「ネイチャートレイル」にも登場します。特徴的な樹皮をスイカの縞模様に見立てて「スイカの木」を探すというものです。お目当てに遭遇すると、インタープリター(自然観察解説者)から「スイカ模様の木の本当の名前を考えましょう」と質問が発せられます。「スイカは何の仲間だろう」「プロペラのタネを付けるのはカエデの仲間だね」などの推理と考察を経て、「ウリの模様に似たカエデだからウリハダカエデ」となります。 菅平高原には若木から老木まで各世代のウリハダカエデが生息しています。葉が出るのと同じタイミングで黄緑色の小さな花が房状に咲きます。雌雄異種で、表面は濃緑色、裏面は緑色の葉はほぼ五角形。秋には赤みを帯びたオレンジ色に紅葉します。葉脈は葉脚基部から5本の掌状脈(※1)となります。よく似たウリカエデは浅く3裂する葉を持つので見分けられます。 今の季節は冬芽と樹皮を観察することで判別が容易にできます。冬芽は枝の先端に頂芽がひとつと側芽が対生します。2枚の芽鱗(※2)に包まれていて、春になると剥がれ落ち葉が出てきます。 樹皮は若木から成木では緑色に黒い縦筋が入り、そろばんの目の様な皮目が散らばっています。成長するにつれ緑色は目立たなくなり、全体としてくすんだ灰色〜白色になってきます。老木で判別するポイントは「蝶」。オオミズアオ(蛾)のような模様が樹皮に表出しています。 この季節、ウリハダカエデが気になる最大の理由はこの樹から「樹液」=メイプルサップをたっぷりと頂くからです。採取した大量のメイプルサップはゆっくりと煮詰められ、黄金色に輝く「メイプルシロップ」に。他地域ではイタヤカエデやシラカンバでも樹液採集が行われていますが、味がよいのはウリハダカエデだと言われています。 樹液の採集はおよそ1か月半にわたります。春を感じながら、ボトルを片手に毎日の森通いがスタートします。 ※1 掌状脈:葉脈が放射状にでるもの ※2芽鱗:葉や花になる芽を覆って保護する鱗状の小片 [ウリハダカエデ] ムクロジ科カエデ属/落葉高木 本州・四国・九州の丘陵帯から山地帯に普通に分布
スノーモンスター出現の菅平高原より〜「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.10〜
季節の森 〜霧氷芸術 スノーモンスター〜 スノーモンスターとは樹氷のことで、蔵王(山形)や八甲田(青森)、御在所(三重)が有名です。菅平高原では根子岳の山頂付近に出現します。樹氷とは霧氷の一種で、樹木に付着した霧氷が成長したものです。亜高山帯に分布するオオシラビソの樹氷はモンスターと見紛うように大きく形成されます。 霧氷はどのようにできるのでしょうか。霧氷が形成されるためには、水分・気温・風の3つが必要です。マイナス5℃以下に冷却された水蒸気が、樹木などに風で吹きつけられ凍結してできた氷が霧氷です。風上側へ羽毛状に成長して気泡を含むため白い色をしています。その形状から「エビの尻尾」とも呼ばれています。散策中に遭遇すると、その見事な造形に思わず触れたくなります。口に入れてみたことがありますが(笑)、もちろん味はなく食感だけが楽しめました。 樹氷や霧氷は、気温がプラスになると樹木から剥がれ落ちてしまいます。せっかく着氷しても、わずかな気温差で見ることが叶いません。事務所から遥か遠くにスノーモンスター出現を確認したら、快晴で極めて寒い日を狙ってモンスターたちに会いに出かけようと楽しみにしています。もちろんスノーシュー装着で! 森がもっと面白くなる ~生態系サービス②~ 森の働きを指す「生態系サービス」の4つの分類のうち、今回は「供給サービス」について詳しくご紹介します。森の「生態系サービス」の全体像については前回ご紹介していますので、そちらもご参照ください。 →→『静けさ広がる冬の森・・・「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.9〜』 「供給サービス」は、次の6つに大きく分類されます。 ①食べ物 ②水(水流の調整及び浄水を含む水供給) ③燃料・材料(燃料及び繊維などの原材料) ④遺伝資源 ⑤薬(薬用資源及び他の生化学資源) ⑥観賞用資源 ①食べ物 現代の人間の食料は、農業や畜産業、漁業で得られます。それらの産業は、農業生態系や海洋生態系に支えられています。数値的には地球表面の35%が農業や畜産業に利用されており、海洋も含めた地球環境の悪化は、ストレートに生産量低下に繋がります。食料供給には健全な自然生態系と生物多様性の維持が不可欠なのです。 ②水(水流の調整及び浄水を含む水供給) 森林や湿地の生態系は、植生、微生物、土壌によって水の流れを調整し、水質を改善しています。地球規模の水循環(供給、調整、浄化)に関与する森林は重要な役割を担うため、森林の乱獲や放置は多大な影響を及ぼします。 ③燃料・材料(燃料及び繊維などの原材料) 例えば建材としての木材、紙の原材料であるパルプや植物繊維、燃料としての薪など身近なところで天然由来の原料が活用されています。森林の乱獲や放置による森林面積の減少はそれら原材料の供給低下に結びつきます。 ④遺伝資源(人間にとっての遺伝子の潜在的な有用性に着目して使われる言葉) 多様な生物の遺伝資源は、独自の機能を持つものが多く、医学や生物工学などに応用すれば人間に有用となるものも含まれています。例えばミノムシの糸は、日本企業の研究によって優れた構造を持つ天然繊維であることが解明され、新たな工業用繊維としての利用や、今後作られる人工繊維の目指すべき指針として活用されることが期待されています。 このように、長い進化過程の末に残されてきた生物の遺伝資源はそれ自体が貴重で、人間にとっての有用性にかかわらず保護事業が推進されてきました。生物多様性条約により生、物多様性の維持と遺伝子の保存が更に進められ、急速に失われている多くの生物資源を遺伝子レベルで保存しています。品種改良などにより、農作物の生産性や有害生物、気候変動への適応力向上に活用されています。生物多様性を最も必要とするサービスといえます。 ⑤薬(薬用資源及び他の生化学資源) 人間は古来より、身近な天然産物を病気治療や香料・化粧品の原材料に利用してきました。生化学薬品など高価値な化学薬品の発見にもつながる機能ですが、生物多様性が損なわれることで、その可能性に影響を及ぼす恐れがあります。 ⑥観賞用資源 観賞用の植物や魚、鳥類等の提供です。古来は地位や権力を象徴する装飾品等として利用されてきました。現在では希少種の無断採取や野生種の乱獲など、モラルを欠く営利取引が多発しており、種の存続が危ぶまれています。 このように、食物、天然資材、衣類、水や医薬品など、人間の衣食住に不可欠なものを「生態系サービス」として自然界から得ているということなのです。かつては森の働きのみを単体で注視し「森林の公益的機能」と捉える考え方が一般的でしたが、今日では生物多様性の観点から、自然界全体とのつながりで考えるようになってきました。 自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~ 新たな森林資源の活用と草原植生の維持の取り組みとして、菅平高原で茅(カヤ)刈り作業を実施しました。ここでの茅とはススキ、ヨシなどイネ科の多年草を指します。 この活動は、草原の研究をされている筑波大学山岳科学センターの田中健太准教授のご指導のもと実施に至りました。菅平高原では、スキー場として利用している草原の一部で採集しています。 折しもユネスコは2020年12月、日本が無形文化遺産に提案していた「茅葺」「茅採取」を含む『伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術』の登録を決定しました。草原の維持、無形文化の継承に貢献しながら、茅購入を請け負ってくださる業者様のお力添えまで得ることのできる有難い取り組みです。 一般社団法人日本茅葺き文化協会参照(http://www.kayabun.or.jp/) 今月の気になる樹:オオシラビソ 独特の芳香を放つ亜高山帯の樹木の代表です。ある標高に達すると甘くさわやかな香りが漂い、私にとって「ここまで登って来た!」と実感する香りです。 味覚で表現するなら、ジントニック。森で好きな香りの最上位に位置します。 通称「ヤニ袋」といって樹皮に膨らみがあり、ここに触れるとブヨブヨしていて、爪を立てると松脂が滲み出てきます。その香りがまさに「高山の芳香」です。 秋田ではかつて「モロビ」と呼ばれ、<登った人は、必ずこれをみやげに折って下り、一年中、朝夕、きよめ火に用いた。モロビの香りは穢れを払い、魔除けの効力がある>と信じられてきました。旅立ちの際にはモロビを燻して全身を浄め、安全祈願をしたそうです。 シラビソと混生することが多く、長期にわたり安定した極相林をつくります。樹皮は紫色を帯びた独特な色合いで、針葉は密生しているため下から枝を透かしても空が見えないほどです。多雪地帯に強く、雪の重さで枝が下方にしなっても折れることがありません。 根子岳の山頂も、一定の面積がオオシラビソ林を形成しています。マイナス20℃を越える極寒の環境で、樹木はどのように寒さに耐えているのでしょうか。 水は一般的には0℃で凍結しますが、秋から糖分を細胞に貯め込んでいる樹液は、簡単には凍結しません。さすがに細胞内が凍ってしまうと死んでしまいますが、厳冬期を迎えると、まず細胞の外側の水が凍結するのです。高校生物の授業を思い出してみてください。動物細胞と植物細胞の大きな違いは? そう<細胞壁>の存在です。細胞壁内での凍結を、細胞外凍結といいます。 細胞内での凍結を防止する仕組みを、植物は備えているのです。細胞外凍結が起きると、細胞から水が外へと滲出し、その水が凍るとさらに水が滲出します。マイナス10℃にもなると、細胞内の水の90%程度が細胞の外に出てしまいます。細胞内は濃度が上がり、凍らなくなるというわけです。この仕組みで、マイナス50℃にもなる地域でも樹木が生きていけるのですね。動けないからこその驚くべき戦略です。 [オオシラビソ] マツ科モミ属/常緑高木 別名 アオモリトドマツ 日本固有種/本州青森県八甲田山から中部地方、西限は白山の亜高山帯に分布
静けさ広がる冬の森・・・「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.9〜
季節の森 〜見通しのよい森での発見〜 これからの森歩きには、スノーシューが欠かせません。いわゆる「西洋かんじき」を装着することで、降り積もる雪の森の奥深くへと分け入ることが可能となります。広葉樹はすっかり落葉しているので視界も遮られず、緑があふれていた季節とは別の一面が発見できるのが冬の森の楽しさです。 樹種を特定するのに「葉」は重要な要素ですが、葉を落としているこの時期は、樹皮の色や模様、樹形、冬芽など、樹々がもつ特徴から識別することができます。特に冬芽は、それぞれに特徴的に形成されていることが多く、葉痕(※1)と相まって動物に見えたり、ふわふわ帽子をかぶっている小人に見えたりとユニークです。思わず笑みが漏れてしまう、冬の森歩きではイチ押しの観察対象です。 地衣類(※2)もこの季節の森で目を引く観察対象です。ふだんは地味な印象ですが、冬にはその美しさが際立つように感じます。空気が澄んだ場所に繁殖するため、菅平高原では多種の地衣類を観察することができます。彩りの少なくなった冬の森ではよく目立つようになり、容易に見つけることができます。 信州では珍味とされる「イワタケ」ですが、これはキノコではなく地衣類です。つい最近、イワタケを採集して調理する機会に恵まれ、菌類と藻類が合体している様子をじっくり観察することで、その仕組みが理解できました。乾燥していると白く見える部分を水に浸すと、表面に藻が生えているように緑色に変化します。食す際は、この藻の部分をきれいさっぱり水で洗い落とします。この作業がなかなか手間でした。すっかり洗い上げると黒い菌類だけの物体になるので、それを天ぷらにしたり、酢の物にしたりして味わいます。自然味あふれる「イワタケ」に森で遭遇する機会があったら、ぜひチャレンジしてみてください。 ※1 葉痕:葉っぱが枝から落ちた痕跡 ※2 地衣類:菌類の仲間で必ず藻類と共生しているという特徴をもっている (国立科学博物館資料から引用) 森がもっと面白くなる ~生態系サービス~ 森の働きのことを、ある時期までは「森林の公益的機能」と呼んでいました。 現在では「生態系サービス」と表現されることが多くなっています。「生態系サービス」とは、人間の生活を維持していくために生態系が果たしているさまざまな機能のうち、人間がその恩恵を受けているものを指していて、国連は「生態系サービス」を「供給サービス」「調整サービス」「文化的サービス」「基盤サービス」の4つに分類しています。 森の恵みとしての生態系サービスを詳しくみると、こんな風になっています。 ◯供給サービス=木材や紙の原料、繊維、果実や木の実、山菜、医薬品原料。 ◯調整サービス=水量の調整(緑のダム)、水の浄化、土砂崩れ防止。 ◯文化的サービス=癒やし、キャンプ、登山、ハイキング、信仰。 ◯基盤サービス=水の循環や物質・エネルギーの循環など、他のサービスの継続的な供給を支える基本部分。 「生態系サービス」は、お金を払って得られるものではありません。ですから、その機能が消失してしまったとき、人間にとっては計り知れない打撃となるでしょう。あって当たり前と恩恵を受けているものに、いま一度、意識を向けてみるべきと感じます。 地球環境の悪化、温暖化による影響は深刻さを増し、危機感が高まってきています。身近には近年の大型台風による大雨や、局地的なゲリラ豪雨、豪雪が記憶に新しいところです。その一方で、降雪がごくわずかな季節に限られてしまい、雪解け水としての水源枯渇も散見されます。人と森との関わりという視点からも、地球環境について考えてみませんか。次回からは生態系サービスの4つの分類について詳しくご紹介します。 自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~ 冬の森を楽しむ一番のアクティビティは、前出のスノーシュー・ハイキングです。雪上を滑り降りるスキーとは異なり、雪原をゆっくりと歩くので、子どもから大人までどなたでも楽しむことができます。やまぼうし自然学校では、各種スノーツアーを企画しています。<雪の森いつでもガイド><根子岳スノーシュー><満月スノーシュー>などなど、冬の森を満喫するためのラインナップはHPに掲載しています。ぜひご覧ください。 今月の気になる樹:ノイバラ やまぼうし自然学校の事務所エントランスには飾り棚があり、蔓リースや木の実などをディスプレイしています。ある朝、その台の上に動物の「落とし物」がありました。よくよく観察してみると、ノイバラの種子が「落とし物」に混入しています。森に目をやると、ノイバラの実がたわわに赤く彩りを添えていて、動物たちには冬の間の大切な餌であることに改めて気づかされました。そんなできごとから、今月はノイバラを取り上げます。 落とし主を絞り込むべくフィールドサイン図鑑を調べた結果、小動物ではないことが分かりました。さらに調査を進め、どうやら野鳥であることまでを突き止めましたが、解明はそこで行き詰まっています。菅平に棲息している野鳥の中で、アカゲラ、アオゲラ、モズ、ヒヨドリ、ジョウビタキが候補としてあげられます。落とし物=糞のサイズからアカゲラとアオゲラは除外。落とし主が再び姿を現す瞬間を心待ちにしています。 ノイバラは、5〜6月に白または桃色を呈した白い花を咲かせ、その豊かな香りで開花に気がつきます。漂う香りに誘われ、ハナムグリ類やハチ類が受粉のために訪れる虫媒花です。 ノイバラは、園芸品種のバラの台木としても使われています。子どもの頃、庭のバラがいつの間にかノイバラに変わっていて驚いた記憶があります。接がれたバラが枯れて、台木で繁殖力旺盛なノイバラにとって代わられてしまったのでしょう。 花が終わると、たくさんの赤い実をつけます。ノイバラの実は生薬の営実(エイジツ)として利尿・瀉下(しゃげ)作用があるため、脚気、腎臓病、浮腫などに効く民間薬に使われます。 ハーブティーでおなじみのローズヒップは「ハマナス」や「イヌバラ」の種子のことで、ノイバラの実とは異なります。 [ノイバラ] バラ科バラ属/落葉低木 別名 ノバラ 北海道・本州・四国・九州の丘陵帯から山地帯に多く分布
寒さ深まる菅平より…「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々 Vol.8〜
自然に関する気になるトピック 〜生物季節観測〜 前述の「雪虫」のように、人それぞれ何かしら季節の節目を感じる指標をお持ちでしょう。 気象庁が1953年に開始した、全国統一の「生物季節観測」をご存じでしょうか。各地の気象台・測候所58地点で植物34種、動物23種を対象に、開花や初鳴きなどが観測されてきました。最もニュースになるのは、サクラの開花ですね。 ところがつい最近のこと、気象庁大気海洋部から、令和3年1月より対象を大きく削減し、「生物季節観測」は植物6種目9現象に変更すると発表がありました。「あじさい開花」、「いちょう黄葉・落葉」、「うめ開花」、「かえで紅葉・落葉」、「さくら開花・満開」、「すすき開花」の6種目9現象です。新緑の緑がまぶしい頃の「ウグイスの初鳴き」や「つばめの初飛来」、初夏の到来を感じさせる「アブラゼミの鳴き始め」は項目から外れてしまいました。 気象庁のこの変更を、みなさんはどうお感じになりますか? めぐる季節の気配を身近な自然から五感を通して受け取る…ささやかなこの行動を継続して、異変を凝視し続ける義務が「人間」にはあるように私は感じます。温暖化など地球環境の急速な異変は、近代化に伴う「人間」の行動に起因しているからです。 季節の森 ~人と野生動物たち〜 人も含めた生きものにとって、森の役割は多岐にわたりますが、その中の一つに「住処と食料の供給」が挙げられます。かつての日本では奥山(※1)と里山(※2)とを、「人」と「野生」が使い分けることで、両者はうまく共存していました。 ところが1960年代の高度経済成長期以降、生活に必要な燃料、肥料、材料を手に入れるために頻繁に人が出入りしていた里山の利用が激減し、奥山的なエリアが拡大してしまいました。いわゆる薪炭林(※3)の消滅が、奥山に棲息していた野生動物たちの行動範囲を広げてしまい、人里近くまで降りてくる一因となっているのです。 近年この時期に問題になるのが、人里近くに出没する「ツキノワグマ」です。動物は冬眠前に食料を大量に必要とします。ところが山に食べるものが無ければ、食べ物を探して彷徨います。かつてのバッファーゾーンとしての里山の急速な荒廃と、奥山的エリアへのレジャー目的の人間の侵入が相まって、気づいたときにはお互いがばったり鉢合わせというわけです。 動物にとって重要な食料となる木の実も、毎年豊富に実をつけるわけではありません。不作、凶作の年にはツキノワグマの出没数も多く報告されています。 一方で樹木たちにも「食べ尽くされないための戦略」があるのです。意図的な凶作とその戦略については機会を改めてお伝えすることとして、人里に現れる動物たちの行動には、前述の里山消失に加えて人の食べ物の「美味しさ」と「栄養価の高さ」を知ってしまったこともあるでしょう。灰汁の強いドングリや美味しくても小さいブナの実を食べるよりも、人の食物のほうが格段に効率がよいからです。 他にも奥山の森林環境の悪化などさまざまな要因が挙げられます。捕獲されるツキノワグマのニュースを耳にしながら切なくなる冬の始まりの季節です。 ※1 奥山:国土保全や水源涵養のほか、鳥獣の生息環境や人々のレクリエーションの場 ※2 里山:平野部の農地に続き丘陵地帯に広がる森林。農地に必要な肥料、薪や炭、木材などの供給源として利用 ※3 薪炭林:薪や木炭の原木など燃料を供給する森林。広葉樹の株立ち状の木が多いのが特徴 自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~ おかげさまで、やまぼうし自然学校は今年NPO法人認証20周年を迎え、この大きな節目に記念冊子の作成に取り組みました。思いもかけないコロナ禍に見舞われ、窮地の中で若手職員が奮闘。手作り感溢れる仕上がりです。 生まれた時からパソコンやスマートフォンが存在する世代は、それらの機能をごく自然に駆使して素敵なレイアウトページを次々と繰り出します。アナログ世代には到底まねのできないスキルには、感心することしきりでした。世代間のギャップなどものともせず、ワイワイガヤガヤ、一つの目的に向かってチームワークで成し遂げることに喜びを感じます。完成した記念冊子を手に、我が職場は自慢できる魅力的な場であることを改めて実感しました。 大切な「森のメッセージ」を発信するため、30周年、40周年も笑顔で迎えられるよう自然学校のさらなる発展と継続を目指します。 森がもっと面白くなる ~遷移(せんい)3~ 前回からの「遷移」の続きを。いよいよ「極相」に突入です。「クライマックス」とも呼ばれ、「遷移」の帰結として到達する植物群落のことを指します。 理論上では、極相状態の森林は遷移過程のように方向性をもった変化はありません。暴風や大水、火災のような「攪乱」が起きない限り、生物と環境の間には安定した平衡状態が保たれ、極相の群落は永続的に続くと考えられています。 日本国内での極相林は、例えば知床国立公園や白神山地などが有名です。これらはいわゆる原生林(=極相状態)と呼ばれている森林ですが、仔細に分析すると、アカマツなど陽性樹種が混在しています。これは部分的に「攪乱」を受けた証で、ギャップ(※4)といわれます。森はある広さの「攪乱」を常に受けていて、その場所の修復を繰り返しながら、全体としては極相という均衡を維持しているのです。森の「動的平衡」ともいえるでしょうか。 ※4 ギャップ:林冠(※5)を構成する木が寿命で枯れたり、強風で倒伏したりした際にできる空間のこと ※5 林冠:樹木の枝と葉の集まりである樹冠(Vol.5季節の森)が、隣接する樹木の樹冠と隙間なく連続している状態 今月の気になる樹:カラマツ② カラマツはVol.2に続き、2回目のご紹介です。菅平が明るい光、黄金色に染まる秋。それはカラマツの黄葉によるものです。春の新緑と秋の黄葉がカラマツの最大の魅力であり特徴です。 長野県の東信地域にカラマツが特に多いのは、第二次世界大戦後の国策で拡大造林の主要樹種として採択されたことによります。成長が早いため、土木用材などの利用目的で広く植栽されました。その結果、今は見渡す限りのカラマツ林が広がっています。御代田町には現存する最古の人工カラマツ林がありますが、御代田町塩野国有林として1852年(嘉永5年)に植林が開始されています。 一方で日本の固有種であるカラマツは長野県内での天然分布が多く、信州産のテンカラ(天然カラマツの略)は良材として名高く、大径木は高級材として珍重されてきました。カラマツは氷期遺存種(※6)で、本州中央部の標高900〜2,800mの山間部に天然分布し、長野県内では北アルプス上高地や東御市池の平が有名です。 造林木のカラマツは、強度性能は優れるものの、ねじれや干割れが大きく、製材後にもヤニ(樹脂)が斑点状に染み出すなど扱いが難しいとされてきました。近年は画期的な技術開発により、合板材料として高く取り引きされるようになっています。カラマツの材は桃色を呈しとても美しいので、樹齢80年の大径のものなどは、合板ではなく住宅建材として利用してほしいと願っています。 [カラマツ] マツ科カラマツ属/落葉針葉高木 宮城県〜静岡県北部の亜高山帯に分布 日本固有種 ※6 氷期遺存種(氷河期遺存種):最終氷河期に南下した植物で現存しているもの。標高の高いところに棲息する高山植物など
実りと彩りの秋到来!「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.7〜
季節の森 ~色鮮やかに色づいて〜 菅平高原の紅葉。森には黄葉する樹種が多いのが特筆すべき点です。シラカンバ、ダケカンバ、カラマツがそれです。今年は特に色づきがよいように感じます。根子岳(ねこだけ)や四阿山(あずまやさん)は黄色に、カラマツ林は間もなく黄金色に染まることでしょう。 葉が色づくことは、すなわち落葉の準備が整ったサインです。夏季には盛んに光合成を行うことで種子の形成や翌年の成長エネルギーを貯えます。これらの準備が完了すれば、光合成を担う葉は不要なものとなり、離層が形成されて栄養供給がストップします。すると葉は変色し、落葉します。 同時期に種子の散布も多様な形で行われます。動物に運ばれる、風に運ばれる、水に流される、重力に従って転がるなどなど。動くことができない樹木が進化の過程で選び抜いた種子の散布方法なのでしょう。そのいくつかをご紹介します。 動物散布の例として、前回はリスでしたが、鳥類にも貯食するものがいます。 この季節、カケスはあっちの森からこっちの森へとミズナラのドングリをせっせと運んでは樹々の穴や隙間、土の中に隠しています。冬に食べようと貯えているのです。ところがカケスは貯食のたびに隠し場所に印をつけるわけもなく、回収しそびれたドングリが運よく芽生えれば、ミズナラたちが勝利したということになるわけです。 風散布はプロペラを持つタネや綿毛などがそれに相当し、樹種として代表的なのはカンバ類、カエデ類やマツ類などがあげられます。菅平高原に顕著なシナノキやオオバボダイジュも風散布です。 数年前のこと、台風接近中にすっかり葉を落とした大明神沢ネイチャートレイルコースで下見調査をしていました。落葉しているので森の中はすこぶる見通しがよく、樹々に残る紅葉も色鮮やか・・・とその時、突然森を揺らすほどの強風が吹きました。するとイタヤカエデ、ウリハダカエデ、ハウチワカエデなどの種が上空に向かって吸い寄せられるように一斉に飛び立ったのです! 風散布とは、ひらひらと樹高の高さから地面に舞い落ちるものとばかり思っていました。よくよく考えれば、それでは遠くまで種子を運ぶことはできません。このような強風で上空に向かって飛び立てば、遥か遠くまで散布することが叶うでしょう。忘れられない感動的な体験でした。 重力散布は、どんぐりころころどんぶりこ♪ の歌がそれに当てはまるでしょう。水散布は、水辺に生えるオニグルミやサワグルミが水に運ばれて、親から遥か離れた場所での発芽が可能になります。 自動散布は、ホウセンカやツリフネソウがそれにあたります。つい最近のこと、ナガミノツルキケマンが面白い自動散布をすることを知りました。一列に莢に収まった丸い小さな種が、丸まった莢に押し出される形で飛び出します。押し出す力は驚くほどです。わずか1cm程度の莢から1mmほどの種子が周辺2m四方に弾け飛びます。ナガミノツルキケマンは私たちのフィールドではよく見かけますが、じつは絶滅危惧種に数えられています。 種子という新しい命の旅立ちを応援しつつ、彩り鮮やかな森を楽しんでいます。 森がもっと面白くなる ~遷移(せんい)2~ 前回からの「遷移」の続きを。草原から森への変化はどのように進んでいくのでしょうか。まずは、先駆種(パイオニアプラント)といわれる日当たりのよい環境でいち早く育つ樹種が侵入します。そのような性質をもつ樹木を<陽樹>(※1)といいます。陽樹は光合成の速度に比例して成長も早く、遷移のはじめの段階では陽樹が主体の陽樹林となります。 数十年経過すると、樹高が10〜20mを超えるような高木林となり、森の中の環境が変化します。当初は明るかった森も樹々の成長に伴い光が届かなくなり、森の中は次第に暗くなっていきます。陽樹の種子が森に落ちても、成長するのに十分な光が足りず、成長することができなくなります。 陽樹に対し、日陰の環境でも育つ耐陰性(※2)の高い樹木を<陰樹>(※3)といいます。陽樹が成長するにつれて光の環境が変化し、陰樹が徐々に混ざり混交林(こんこうりん)へと推移し、後に陰樹主体の陰樹林へと変化=遷移していきます。 遷移がさらに進むと、陰樹林での新たな芽生えも陰樹となり、その後数百年が経過しても大きな変化が見られない極相(※4)と呼ばれる状態となります。地域によって極相林の樹種は異なります。菅平高原の場合は、ミズナラがそれにあたります。一度出来上がった森は、ずっと同じ姿を留める訳ではありません。台風など気象の影響や大木の倒壊などにより、常に動き変化し続けているのです。森の中は誕生と死が渾然一体となって存在しています。そんな目で森を見ると、新たな発見があるかもしれません。 ※1 陽樹:耐陰性の低い植物を陽生植物といい、若い頃の耐陰性が低い樹木のこと。 ※2 耐陰性:植物が弱い光の下でも生存し得る能力。 ※3 陰樹:耐陰性の高い植物を陰生植物といい、若い頃の耐陰性が高い樹木のこと。 ※4 極相:遷移の結果として、その場所で最終的に到達する植物群落のこと。 自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~ 会員の方にしばしば「やまぼうしのHPやSNSは食べものネタが多いね」と言われます。私自身も創作料理が好きで、イベントのためのレシピを考えたり、食材と調味料の組み合わせを考えたりするのが得意です。好きな作家の著書に出てくる「雑草イーター」を実践してみました。お昼の賄いをご紹介します。 最初に食したのは「ハルザキヤマガラシ」(4/15)。あいにくキッチンにはパスタの具材が無く、まだ雪の残る事務所の庭から掘り出して使いました。「ハルザキヤマガラシ」は日本の侵略的外来種ワースト100や外来生物法で要注意外来生物に指定される、何やら物騒なレッテルの貼られた植物です。侵入経路は非意図的。ムギ類に混入して明治末期にヨーロッパからやってきたそうです。 菅平高原も一面に黄色い花を咲かせる場所が広がりつつあります。モリモリ美味しく食べて駆除できると良いと考えているのですが。 続いて「ヤブカンゾウ」(4/17)。竹林整備の際、土手から採集しました。春先の若葉を茹でて酢味噌で和えると相性抜群です。シャキシャキとした歯ごたえが美味しさのポイントかもしれません。 「ニワトコ」「カキドオシ」(4/28)。メインフィールド自然体験の森の橋の架け替え作業時に採集。他にも至る所に生える「オオバコ」「ヨモギ」「フキノトウ」と一緒に春の野草天ぷらを楽しみました。 「ヨモギ」(5/10)。春の定番ヨモギでお団子を作り休憩のお供としました。幼児向けのイベントでもよく登場する、親しみやすく処理が簡単な野草です。 「タンポポ」(5/16)。今年はタンポポがあちこちで盛大に咲いていました。頂いた「たんぽぽジュレ」の味が忘れられず、作ってみました。キラキラの美しい出来映えに感激し、急遽「たんぽぽジュレ作り」イベントを開催しました。 「スベリヒユ」(8/19&23)。レタスの畑の厄介者。事務所に持ち帰ると皆から嫌なヤツ呼ばわりされる可哀想な雑草なのですが、調理してみると驚くほどの美味しさでした。まずは芥子醤油のおひたしに。もう一品は、特有の粘りと多少の酸味を生かし、刻んだオクラと梅干しで和えてネバネバ丼に。これらをSNS発信したところ、卵とじもお勧め、と投稿があり、試してみました。 「スベリヒユ」は栄養価も高く薬効もあるとか。厄介者扱いされるのは、その繁殖力の強さからだと推察されます。農作業の合間にじっくり観察すると、ラグビーボールのようなカプセルがくす玉のように真ん中でぱっくりと割れ、タネが散布される様子を確認できました。 「雑草イーター」を実践し、楽しみながら生態や環境に思いを巡らせる食育イベントとしても取り入れるに値する手応えを感じました。「野草」と呼ばれるならまだしも、「雑草」とは何とも気の毒な呼ばれ方。名前を確かめ、しっかりと向き合って「雑草イーター」を実践します。 今月の気になる樹:シラカンバ 皆さんがイメージする「高原の風景」といえば、シラカンバとレンゲツツジではないでしょうか。菅平高原もご想像通りの牧場風景が広がっています。長野の県木はシラカンバです。シラカンバは菅平だけでなく志賀高原や乗鞍高原、美ヶ原高原でも印象的な風景を形成する重要な構成要素となっています。 前出の遷移の話にも絡みますが、シラカンバは代表的な陽樹で、山火事や森の伐採跡地に一斉に侵入します。そして蝶のような形をした細かい種子を大量に風散布します。森を伐採して作った牧場などは、利用をやめ放置されると瞬く間にシラカンバが侵入し、一斉林(※5)が形成されやすくなります。成長が早く寿命が短いのがシラカンバの特徴でもあるため、先駆種としての役割を果たしながら、陰樹への橋渡しを担うわけです。樹皮の白さが薄れ、桃色がかった色になると、そろそろ寿命です。 有毒植物であるレンゲツツジも、牧場の牛から食べられることを逃れて高原の景観要素となっています。 環境教育プログラムでシラカンバの森を歩いた折、小学生に「誰が(シラカンバを)白く塗ったの?」と質問されました。長野に生まれ育った私には当たり前のシラカンバですが、都会で育った子どもにとって樹木の幹は多くが茶色という認識、ペンキを塗ったようなシラカンバを不思議に思ったのですね。 白さの秘密は何でしょうか。シラカンバは「ベチュリン」と呼ばれる有機化合物が含まれるため白く見えます。また抗菌作用もあり、樹皮には防腐作用もあります。この「ベチュリン」は、マイクロプラスチックで問題になっている石油資源依存から脱却するためのバイオポリエステル開発の素材として注目されているそうです。 枯れて倒れたシラカンバを森でよく見かけますが、幹はすでに朽ちて柔らかくなっていても、白い樹皮だけはしっかりと朽ちた木を覆っています。このように、べチュリンは外樹皮に豊富に存在し、過酷な環境から守る役割を担っています。 ※5 一斉林:同一樹種かつ同一年齢の樹木で構成される森林 [シラカンバ] カバノキ科カバノキ属/落葉高木 北海道・本州(中部以北)の山地帯の陽地に生息する