みなさまはヒメイワダレソウをご存じですか? とても生育力が強く、地面に広がるスピードは芝生よりも速いため、ガーデンで見かける機会も多い植物です。しかしながら、じつはその繁殖力から「生態系被害防止外来種リスト」に掲載されている植物でもあります。ここではそんなヒメイワダレソウの特徴について詳しくご紹介します。
目次
ヒメイワダレソウとは
ヒメイワダレソウは、その生育力の強さからグラウンドカバープランツとして植栽されることもある植物。雑草よけにもなり、芝生よりもメンテナンスの手間が少なく管理できます。しかし、日本では「生態系被害防止外来種リスト」に掲載されているため、栽培の際には適切な管理が必要です。ここでは、そんなヒメイワダレソウについてご紹介します。
基本情報
ヒメイワダレソウ(姫岩垂草)はクマツヅラ科イワダレソウ属の多年生植物で、学名はフィラ・ノディフローラ(Phyla nodiflora)。原産地はペルーなどの南米で、同じイワダレソウ属(フィラ属)の仲間は世界で220種ほどが知られています。海浜の砂場に這うようにして自生しており、そのため乾燥や塩害にも強い種が多いです。その生育力の強さから世界中に帰化していて、ヒメイワダレソウも日本国内で繁殖するようになってきています。上に伸びるのではなく、横に這うように伸びる匍匐(ほふく)性で、放射状に茎を伸ばしながら広がります。また、初夏から秋には、白色から桃色の穂状花序の可愛い花を咲かせます。より赤みの強い花を咲かせるタイプは、ヒメイワダレソウ‘ロゼア’の名前で流通しています。
比較的乾燥に強く、庭のグラウンドカバーとしてだけではなく、石垣や敷石のすき間の植栽やコンテナの寄せ植えなどでも活躍。日本にもイワダレソウというやや大ぶりな自生種がありますが、ヒメイワダレソウは「ヒメ」と付くように小ぶりで葉の節の間隔も狭く、より密に茂ります。ヒメイワダレソウは「リッピア」という名前でも流通しています。
効果や役割
前述のように、ヒメイワダレソウは密に繁茂して這って広がる性質から、グラウンドカバーとして人気があります。旺盛な繁殖力により雑草の侵入を阻害し、また食害もほとんど無いことから雑草対策や害虫予防に役立ちます。踏みつけにも強く、芝よりも刈り込みの回数が少なくて済むなど、たくさんのメリットがあるヒメイワダレソウですが、「生態系被害防止外来種リスト」に入るほど繁殖力が強いため、栽培の際には注意が必要です。
ヒメイワダレソウを栽培する際に必ず確認したい注意点
ヒメイワダレソウはとても育てやすく丈夫な植物で、近年はその旺盛な繁殖力が問題になりつつあります。植えていた庭の外にまで出ていって増えたヒメイワダレソウが、もともとそこで自生していた植物を駆逐してしまうことがあるのです。
原則として国内の自然環境に放流してはいけなかったり、販売や持ち運びに制限がある「特定外来生物」として、マスメディアでよく取り上げられる「ブラックバス」や「ブルーギル」がありますが、このまままではヒメイワダレソウも同様の扱いを受けるようになってしまうかもしれません。生物の多様性は、その生物が住む土地の人々のみならず、全世界の人々にとっての財産であり、守るべきものです。最近話題のSDGsの15番目の目標にもなっているので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
2022年現在、ヒメイワダレソウは特定外来生物とはなっていませんが、日本に自生している植物の植生に強い影響があるのではないかということで、環境省の「生態系被害防止外来種リスト」に掲載されています。実際、日本の各所でヒメイワダレソウが増えつつあります。ヒメイワダレソウの代わりに在来種のイワダレソウを選ぶか、管理には細心の注意を払い、庭の外に出さないように気を付けるようにしましょう。
基本的な育て方
ヒメイワダレソウはとても強健ですが、栽培環境によっては徒長し、思ったように密にならないことがあります。ここでは、ヒメイワダレソウの特徴や性質を確認していきましょう。
まず、ヒメイワダレソウはとても日照を好む植物です。夏の強光や高温でも問題なく育ちます。日当たりのよい場所なら適宜刈り込むだけで葉がより密になり、グラウンドカバーとして綺麗に育てることができます。反対に、日陰や湿地のような場所では徒長したり枯れてしまったりすることがあります。
水はけのよさにだけ気を付ければ、土壌は特に選びません。鉢植えで管理する場合は水はけのよい園芸用土に植えるとよいでしょう。植え付けは一年通していつでも可能です。植え付け後はしっかりと水やりを行いましょう。鉢植えの場合は、用土が乾いたらたっぷり与えてください。月に1度液肥を与えると生育も良好です。
よく増えることから、鉢植えにしていると根詰まりで生育が鈍ることがあるので、ときおり間引いたり、植え替えるなどして株を整理しましょう。
天敵となる病害虫は特にいません。マイナス5℃を下回ると地上部が枯れて越冬し、春になると土中に残っている根から芽吹いてきます。
ヒメイワダレソウの代わりに! おすすめのグラウンドカバープランツ
ヒメイワダレソウはグラウンドカバーとしての人気が高い一方で、外来種として繁殖力が問題視されていることをご紹介しました。ここでは、ヒメイワダレソウの代わりにグラウンドカバーや花壇の縁取りに活躍する、地植えしてみたい植物を4つご紹介します。
●『グラウンドカバーに最適な植物10選【足元のカバーや雑草対策に活用!】』の記事もどうぞ。
クラピア
日本在来種のイワダレソウから品種改良されたクラピアは、グラウンドカバープランツとして現在注目されている植物。ヒメイワダレソウよりもさらにグラウンドカバーとしての特性が強く、また管理しやすいのが特徴です。栽培方法は基本的にヒメイワダレソウと同じで、よく増えるので意図しない場所に広がらないよう気を付けましょう。
セージ
セージはシソ科サルビア属の植物です。ラテン語の学名ではサルビア、英語ではセージと呼ばれています。非常にたくさんの種類がありますが、コモンセージ(サルビア・オフィシナリス)やサルビア・ネモローサなど、横に広がっていくタイプがグラウンドカバー向きです。
サルビアは古来よりハーブとして利用され、さまざまな効能があり重宝されていました。過湿を嫌うため、栽培する際は水はけのよい用土を選び、酸性土壌の場合は苦土石灰などで中和するとよいでしょう。種子繁殖をする場合は、春か秋に行うと、翌年の春から夏にかけての開花が見込めます。ただし種子の発芽率が悪いため、挿し木などで増やすほうが効率がよいことも。夏の日差しや高温多湿といった環境に弱いため、秋から翌年の初夏までの生育期に肥料をしっかりと与え、丈夫な株にすることが大切です。
ムスカリ
ムスカリはキジカクシ科ムスカリ属の球根植物。広い範囲にたくさんの株を一斉に咲かせると壮観で、花壇の縁取りなどによく用いられます。春先に釣り鐘形のブドウの果実のような小さな愛らしい花が咲き、チューリップと開花時期が重なることから、春に一緒に植えられているのを目にすることも多い植物です。ちなみにムスカリという名前の由来はムスクで、品種によっては甘いマスクメロンのような香りがします。水はけと日当たりがよければどこでも育つ強健さと増殖力の高さ、手間の少なさから、とても人気があります。一般的には紫色の花が咲きますが、現在は白やライトブルー、ピンクなどさまざまな花色の品種があり、自分の好みに合わせて選べるのも嬉しいですね。球根を植える適期は10~11月です。一度植えたら放任でよく育ちます。開花後は花がらを茎の根元から切り取り、残った葉を日に当てて球根を充実させましょう。残った葉が伸びすぎて見た目がよくない場合は、2月頃に一度葉を刈り込むと、開花期に株姿が整います。
ローズマリー
ローズマリーはシソ科マンネンロウ属の植物です。茎が立ち上がるタイプもありますが、グラウンドカバー向きなのは横に這うタイプで、広い範囲を香りのよい葉で覆ってくれます。
ハーブとして肉料理や魚料理、煮込み料理の香り付けとして活用されるほか、アロマや化粧品の素材としてもよく使われています。多くの品種があり、花色も白、ピンク、青、紫などさまざま。樹勢も木立性から匍匐性、その中間のものもあります。食用と庭の彩り、どちらにも活用できるおすすめの植物です。ローズマリーは過湿に弱いので、用土は水はけのよいものにしましょう。地植えで排水性に心配がある場合は、小粒の赤玉土やバーミキュライトなどを混ぜるとよいでしょう。またローズマリーは植え替えに弱いという性質があるため、植える場所ははじめからしっかりと決めておきましょう。
ヒメイワダレソウを栽培するときは、環境への配慮を忘れずに!
ヒメイワダレソウは性質が強く、繁殖力旺盛な植物です。適切に管理すれば、速いスピードで庭を覆ってくれ、素敵な庭づくりに貢献してくれることでしょう。反面、その成長の早さから他の植物の生育や環境への影響が懸念され、環境省の生態系被害防止外来種リストにも名前が挙がっている植物でもあります。そのことを意識しつつ、栽培の際は外部で繁殖しないようしっかり管理することが大切です。
Credit
文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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