採りたての風味を楽しむために育ててみたい! 料理の名脇役サンショウを上手に育てるコツをご紹介
日本ならではの香辛料といえば、なんといっても山椒(サンショウ)です。春の料理に彩りを添える“木の芽”は、そのままサンショウの若葉をさすことからも、日本の食文化に欠かせないものであるのが分かります。葉にとどまらず、花、実、樹皮と、あらゆる部位が食用になるサンショウ。収穫したての香りや刺激は、なんといっても格別です。サンショウの木が身近にあれば、日々の食事がグレードアップすること間違いなし。鉢植えも可能なので、栽培にトライしてみませんか。
目次
名前の由来は「辛く、香りのよい実」
Japanese pepperとの英名が示すように、日本を代表する香辛料であるサンショウ。その利用の歴史は古く、縄文時代の遺跡からもサンショウの実が見つかり、古事記では神武天皇が詠んだ歌に登場しています。古くは「ハジカミ」と呼ばれていましたが、これはニラの古名「カミラ」に、熟した実がはじける様を表す言葉が合わさったものと考えられています。さらに、「ハジカミ」は生姜の別名でもあったことから、両者を区別するために、サンショウは「ナルハジカミ(成椒)」と呼ばれるようになったそうです。中世以降は現在の山椒の名が使われるようになりました。「椒」の字には「芳しい」という意味があり、「山で採れる薫りの高い実」と、その特徴を表しています。その名の通り、爽やかな香りや痺れるような辛さに殺菌や防腐効果があるとされ、薬や食材として古くから使用されてきました。
サンショウってどんな植物?
サンショウ(Zanthoxylum piperitum)はミカン科サンショウ属の落葉低木。原産地は日本から朝鮮半島にかけてといわれ、日本では北海道から本州、四国、九州まで広く分布しています。山地の雑木林などに自生し、樹高は1~3m、小葉が葉軸の左右に鳥の羽のように並んだ羽状複葉で、長さは5~15cm、葉柄の基部には鋭い棘があります。樹皮は灰褐色で、棘やいぼ状の突起があるのが特徴。堅く香りがよいので、すりこぎ(擂粉木)に利用されます。4~5月に直径5mmほどの小さな黄緑色の花を多数つけますが、雌雄異株のため、実がなるのは雌株のみ。「花山椒」として流通しているのは、つぼみの状態の雄花。雌株は、初夏には緑色の果実をつけます。
【サンショウの基本データ】
学名:Zanthoxylum piperitum
科名:ミカン科
属名:サンショウ属
原産地:日本列島および朝鮮半島
和名:山椒、ハジカミ(古名)
英名: Japanese pepper
開花期:4~5月
花色:黄緑色
樹高:1~3m
爽やかな芳香の葉、痺れる辛さの果実
ミカン科の植物には薬や香辛料として利用されるものが多くありますが、なかでもサンショウは日本人にとっては最も馴染み深い香辛料の一つ。果実だけでなく、葉や花、樹皮などほとんどの部分が食用や薬用に利用されています。香り成分は、フェランドレン、オイゲノール、シトロネラールなどで、葉の縁に散在している「油点」に精油成分がたまっています。新芽や若い葉は「木の芽」と呼ばれ、春の料理を引き立てる食材として使われますが、使うときに、手で挟んで「パン」と叩くのは、この油点を潰して、細胞組織の中から芳香成分を出すためです。
一方、舌が痺れるような刺激は、サンショウオールやサンショウアミドなどの辛み成分によるもの。ピリピリと焼けつくような痛みをともなうトウガラシの辛みとは異なり、麻痺作用があるため、局所麻酔をかけられたときのように“しびれた”感覚になります。かつては、宮沢賢治の童話『毒もみのすきな署長さん』にもあるように、山椒の皮を川や池の水中で揉み出し、魚を麻痺させて捕まえる「毒もみ」「毒流し」という漁法もありました(現在は水産資源保護法により禁止されています)。
中華料理の「花椒」は近縁種
「痺れる辛さ」ブームで話題となっている「花椒(ホアジャオ)」は、日本の山椒とは種が異なります。華北山椒(カホクザンショウ)の熟した実を乾燥させて、その果皮を挽いて使用します。「四川山椒」「中国山椒」とも呼ばれ、四川料理には欠かせない香辛料で、日本の山椒とは香りが異なり、辛味が強いのが特徴です。中国では古くから漢方の生薬としても利用されてきました。
胃腸の機能を高め、新陳代謝も活発に
サンショウの刺激的な辛みや芳香は、肉や魚などの臭みを消し、料理の油っぽさを緩和してさっぱりとした味わいに変えてくれます。鰻の蒲焼きに粉山椒が欠かせないというのも納得です。
さらにサンショウは薬用植物として、漢方や民間薬などの分野で古くから利用されてきました。ピリリとした辛さの成分でもあるサンショウオールは、脳を刺激して内臓の動きを活発にする作用があり、消化不良や胃もたれ、吐き気などを緩和する働きが。また、新陳代謝を活発にして、発汗作用を高めるため、冷え性の改善も期待できます。一方、香り成分であるシトロネラールには脳の働きを活性化させて、集中力アップや疲労回復といった効果があります。
サンショウを育ててみよう
購入すると割高な印象の「木の芽」。身近にあれば、使いたいときに使う量だけ収穫できて便利ですね。とはいえ、サンショウは日本各地に自生する植物ながら、栽培するとなると“なかなか気難しい”樹木。ホームセンターなどで苗木が販売されていますが、実の収穫までとなると、購入後数年はかかります。「せっかく入手したのに枯れてしまった」とならないように、育て方のコツを知っておきましょう。
植え付け
種から育てることもできますが、苗木のほうが入手しやすく、収穫までに要する期間を考えても苗木からのスタートがよいでしょう。一般にサンショウは雌雄異株の植物ですが、流通している品種は、朝倉山椒やブドウ山椒といった雌雄同株の品種が多く、1株でも実が収穫できます。
植え付け適期は落葉期にあたる12~3月ですが、厳寒期は避けたほうがベター。サンショウの根は繊細で弱いため移植が困難なので、移動しなくてもすむように適した場所を選びたいものです。日当たりのよい場所を好みますが、地植えの場合は、やや日陰でも十分に育ちます。地面が乾燥するのを嫌うので、強い西日が当たるような場所は避けましょう。耐寒性は高いので、特別な防寒対策は必要ありません。植え付ける場所に腐葉土などの有機質肥料をすき込んでおくとよいでしょう。
移植はおすすめしませんが、どうしても行う必要があれば12~3月の休眠期に。移植に先駆けて、9月頃に株元の数カ所にスコップを入れて太い根を切っておく「根切り」処理をするのも手。太い根が切られることで、細かい根の発根が促され、移植後の根づきがよくなるからです。葉がすっかり落ちたら、大きめに掘り上げて移植します。このとき、できるだけ根の周りの土を落とさないように気をつけましょう。
鉢植えでも栽培はできますが、植え替えを嫌うため、深くて大きめの鉢を用意します。用土は粘土質でなく水はけのよいものを。市販の培養土も使えますが、自分で配合するのであれば、赤玉土5:腐葉土4に川砂やパーライトを1程度混ぜるとよいでしょう。鉢底石を敷き、用土を入れ、鉢の中央に苗を配置したら、ウォータースペースを確保して用土を入れていきます。苗木をポットから取り出すときには根を崩さないように注意を。作業が終わったら、たっぷりと水をやりましょう。
増やし方
収穫までの時間はかかりますが、播種も可能です。10月以降に完熟した実から種を採取して播く「取り播き」か、乾かさないように保存しておいて春になってから播く「春播き」になります。育苗ポットに小粒の赤玉土や種まき用土を入れ、1cmほどの深さに穴をあけ数粒落とします。4月には発芽するので、丈夫な芽を残すように間引きします。播種で育てた場合、花が咲くまで雌雄の判別ができないので、ご注意を。
挿し木で増やす場合の適期は6月か、9~10月頃。前年に伸びて硬くなった枝を10~15cmに切り、上の方の葉を3枚ぐらい残して挿し穂を作ります。1時間ぐらい吸水させた後、小粒の赤玉土かバーミキュライトなどに挿します。直射日光の当たらない場所に置き、用土を乾かさないように管理します。新芽が出てきたら、6号程度の鉢に植え替えましょう。
水やりと肥料
サンショウは根の張りが浅く土壌の乾燥には弱いので、とくに夏の水切れに気をつけましょう。鉢植えの場合、土の表面が乾いていたら、鉢底から水が流れるまでたっぷりと与えます。地植えなら、株元に藁などを敷いておくと乾燥を防げます。とはいえ、梅雨など雨量が多い時期の過湿にも注意。株元に水がたまらないよう注意が必要です。
肥料は年に1度、休眠期の1~2月頃に与えます。株の周りに深さ20cmほどの溝を掘り、油かすなどの有機肥料をまきます。葉や実を収穫した後に、株が弱っているようであれば、収穫後の夏~秋にも与えます。
剪定
樹形が乱れにくいため、樹形を整えるというよりは、混み合った枝を整理して風通しをよくする目的で行います。幼木の数年間は、落葉する冬場に、弱い枝の剪定を行います。成木になってからは、間のびした枝や混み合って重なる枝を、同じく冬場に剪定すればOK。強すぎる剪定を行った翌年は、収穫量が減ってしまうので注意を。成長期に伸びた枝の中で短いものには花芽がつくので、よく観察して切りましょう。
病害虫
ミカン科につく害虫といえば、なんといってもアゲハ類の幼虫です。サンショウにはナミアゲハやクロアゲハなどがよく卵を産みつけます。アゲハの幼虫の食欲は旺盛で、幼木であれば「一晩にして丸坊主」にされてしまうので、見つけ次第駆除を。枝葉の広がる足元あたりにふんが落ちていないかをチェックすると、早期発見につながります。
極端に湿度の高い環境では、白絹病が発生することがあります。株元に白いカビが生え、腐って枯れてしまう病気で、一度かかってしまうと治療は難しいので、株を処分するしかありません。
収穫
若芽でも実でも、サンショウの芳しい香りを楽しむなら、なんといっても採りたてが一番。育てているからこその特権といえるでしょう。
「木の芽」としての旬は、春先から初夏にかけて。艶のある若い新芽が香り高く、大きくなると香りが落ちてしまうので、ちょうどよいタイミングで摘み取っておきましょう。木の芽は冷蔵・冷凍保存も可能。冷蔵の場合は、湿らせたキッチンペーパーにはさみ、保存袋に入れて密閉し冷蔵庫に。冷凍の場合は、さっと茹でたあと、冷水にさらし、水気を切ってから小分けにし、ラップに包んで保管します。
熟す前の緑色をした実は「青山椒」と呼ばれます。青山椒の収穫期は5~6月。佃煮や醤油煮などにして楽しめますが、適期を逃すと皮がかたくなり美味しくありません。柔らかいうちに収穫したら、あく抜きをして冷凍しておけば、翌シーズンまで保存できます。あく抜きの方法は、塩を加えてたっぷりの湯で5分ほど湯がき、その後1~2時間ほど水にさらします。保存する場合は、水気をしっかりと切ります。
11月頃まで採らずにおくと、実は赤茶色に熟して割れ、中から黒い種子が飛び出します。これが「実山椒」。かたくて苦い種子は食べませんが、茶褐色の果皮を乾燥させて粉にしたものを「粉山椒」にして使います。
いずれの収穫でも、枝にある棘には注意を。指先のケガ防止のためにも、手袋をして作業するのをおすすめします。
身近にあると重宝するサンショウを育てよう
サンショウの基本情報から栽培のポイント、健康効果についてご紹介してきましたが、その魅力を感じていただけたでしょうか。
サンショウの葉や実は、季節の料理のアクセントとして活躍する食材。とはいえ、スーパーなどで買うと意外と高価……。大量に使うものではないだけに、身近にあって収穫できれば、重宝すること間違いなしです。
植え替えが難しく、乾燥に弱いなど、やや育てにくい点はありますが、環境さえマッチすれば、すくすくと育ちます。市販されている苗の多くは一株でも収穫できる雌雄同株の品種。数年後の収穫を楽しみに、挑戦してみてはいかがでしょうか?
Credit
文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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