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美しくたくましい植物「ソテツ(蘇轍)」《我が人生と共に生きた植物》

美しくたくましい植物「ソテツ(蘇轍)」《我が人生と共に生きた植物》

葉をダイナミックに広げ、一年中緑を保つ常緑低木の「ソテツ(蘇轍)」。庭木や花木、観葉植物、多肉植物、熱帯植物という幅広い使われ方で、世界中で育てられている園芸植物です。日本各地では樹齢数百年の大株が存在するなど、丈夫で長生きな一面も。そんなソテツとの付き合いが半世紀以上になるというガーデンプロデューサーの遠藤昭さんにソテツの魅力を教えていただきます。

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日本や海外でたくましく育つソテツ

ソテツ
お寺でもよく見かけるソテツ。Moonpixel/Shutterstock.com

私にとって、トロピカルなイメージがあるソテツは、九州南部から南西諸島、台湾、中国南部に自生し、園芸植物として世界中で育てられている。TVの時代劇の庭の植え込みには必ずと言ってよいほど登場したり、各地には樹齢数百年の大株が存在したりする。また、お寺や学校や公共施設のエントランスで育つ立派な株立ちも思い出す。日本で古くから盆栽などでも人気の植物であるが、国内のガーデニングの世界では、あまり話題にならないようだ。

旅館のソテツ
最近旅で出会った、箱根の老舗旅館の巨大ソテツ。
日南海岸
宮﨑を象徴する絶景、日南海岸にもソテツが育つ。kan_khampanya/Shutterstock.com

昨今のガーデニングの潮流で、スタイリッシュで育てやすく手間のかからない植物が選ばれているドライガーデンの流行から、ソテツの人気が高まるのではないかと私は期待している。

キューガーデンのソテツ
イギリス、ロンドンの植物園Kew Gardenでもソテツは人気。
ソテツ
アメリカのジョージア州の住宅街にも見られるソテツ。洋風建築に映えますね。Sabrina Janelle Gordon/Shutterstock.com

ソテツは「生きている化石」と呼ばれ、中生代、つまり恐竜が出現した時代から姿形が変わらない植物なのだ。私の好きなシダ同様に、2億5000万年前から風雪に耐え、大自然の中で研ぎ澄まされて最適な形で生き残った自然の芸術作品なのだ。

私とソテツの出会いは小学生のころ

ソテツの盆栽
COULANGES/Shutterstock.com

私が初めてソテツに出会ったのは小学生の時で、親戚の家に、ソテツの盆栽があり、子供ながらに「カッコイイ!」と思った。

私は、中学生の頃はサボテンに興味を持ち、高校生の頃は観葉植物に興味を持ち始めていたが、ソテツに関しては、何と18歳の時に苗を3本買い、半世紀以上も人生をほぼ共にしてきた「我が人生思い出の植物」なのだ。

ソテツの俯瞰
2005年に上から撮ったソテツ。

私がソテツで魅力的に感じるのは、たくましい葉の美しさと共に、新芽が萌えて出る時のエネルギーだ。それは爆発のように凄い! なんとも生命力を感じる瞬間だ!

毎年6~7月に新芽が勢いよく伸び出て、まるで爆発するようなエネルギッシュな成長が感動的だ。下の写真は、実家から我が家に来て10年目の2005年の写真。樹齢約37年。

ソテツの成長
左から、2005年6月30日、7月6日、7月19日と、凄い成長を遂げた。
ソテツ
同じく2005年に上から撮った写真。

18歳の時、ソテツの苗木を植木市でなんとなく購入

ソテツ
2008年9月。

このソテツは、私が18歳の時に大学の「不合格発表」を見に行った帰り道に、通りがかった植木市でなんとなく購入したものである。もう、半世紀以上も前のことである。結局、半世紀以上、このソテツとは人生を共にしたことになる。

あの日、第一志望の大学から突き放され、浪人が決まった。この時、何故ソテツを購入したのか?

1本50円で、根も無く葉も無くイモみたいに、ころがされて売られていた。

「え? これが本当に育つの?」と尋ねると、店のオッチャンは「ソテツは生命力が強いから育つんだよ」と答えた。こんな姿から生命を吹き返すなんて思えなかったが……。

私は衝動的に、このソテツを3本購入した。

ソテツ
2005年に植え付けて順調に成長。狭くなったので南側に移植した。2017年7月のこと。

たぶん入試に失敗し、絶望のどん底に突き落とされた自分の姿と、このソテツの惨めな姿が重なって足が止まったのだろう。

そのオッチャンの「強い生命力」という言葉に、若き日の失意の私は揺さぶられたのである。

ソテツ
我が家の一等地に移植後、2024年2月にはこんな立派になった。
ソテツ
2023年8月。

あれから、なんと56年が過ぎた。大学を卒業して実家を離れてから四半世紀は、実家に戻った時にしか見なかったが、45歳の時にオーストラリアから帰国して現在の家に住むようになり、実家から移植した。

ソテツ

3本購入したが、1本は実家で枯れてしまった。実家から連れ帰ってきたソテツは、上手く掘り上げられず、根鉢も崩れてしまい、もうダメかなと思ったが復活した。まさに「強い生命力」を実感したのである。我が家に来てから、既に約30年近くになり、我が家でも大きくなり1回移植した。そして、日当たりのよい我が家の一等地に余裕を持って植えたつもりだが、成長が遅いというものの、30年でかなり成長。巨大化し我が家の庭で育てる限界を感じるようになった。

庭の終活、ソテツを他所へ移植

ソテツの移植
ソテツを掘り上げるには1週間かかった。大人4人でようやく抱えられる重さだった。

おそらく、いずれいつかは、この家を処分することになるが、ご近所を見ても、家を取り壊すときは庭の植木も根こそぎブルドーザーで処分してしまう。

ソテツ以外にも、自分が大切に育ててきた樹木がブルドーザーで処分されるのは耐えがたい。庭の終活を考えるようになって、幸い大きくなったこのソテツや、ジャカランダ、木生シダのディクソニア、コルディリネなどを広い敷地で引き取っていただける庭が見つかった。

ソテツの移植

移植場所は、広い敷地のレンタルガレージの一角、日当たりのよい場所だ。2024年4月に移植して、無事に根づき、第二の人生をスタートした。

ソテツの雌花

そして、1本は初めて花を咲かせた。長寿のソテツ、50歳越えは、これから人生の花が開くのだ。ソテツは雌雄別株でこの丸い花は、雌花だ。雄花は長い形だ。

ソテツの雄花
これが雄花。Opachevsky Irina/Shutterstock.com

ソテツの寿命は数百年とも言われる。新天地は、どんなに巨大化しても十分なスペースがある。56年前は小さなイモのようなソテツが、こんなに育ち、狭い庭から脱出して、広い土地で伸び伸びと葉を広げる姿に、なんだかホッとした。

本当に長い間、人生を共にしたソテツである。辛いことがあったり、くじけそうになったりした時に、ソテツを見ると元気が出るのだ。私の人生の良きライバルでもある。

立派に育てよう! ソテツの育て方

さて、どんな荒れ地でも育つといわれるソテツだが、育て方に触れておこう。

  • 日当たりのよい場所を好む。
  • 水やりは控えめに乾燥気味に育てる。
  • 地植えの場合には施肥は必要ないが、鉢植えの場合は春と秋に緩効性肥料を与える。
  • 植え替えや移植は春が適期で、鉢植えの場合は2~3年に1回、鉢増しをする。根詰まりを起こしやすいので注意。
  • 寒さに比較的弱く、寒冷地では冬は屋内に入れる。
ソテツ

ソテツ栽培の注意点

  • 成長が遅く、1年で数センチしか育ちません。
  • 種子だけでなく、葉や根にも毒性がある。
  • 雌雄異株で花の形が異なる。

ソテツの増やし方「実生と株分け」

ソテツの増やし方

実生で増やす注意点

実生(種まき)も可能だが、発芽するまで数カ月から数年かかることもあるそうだ。植物園勤務時代に挑戦したことがあるが失敗した。種子を植える時は、半分は地上に出すそうだ。また、温度と湿度を保つ必要があり、私は挑戦したものの失敗。おそらく、湿度管理ができなかったのが原因だと思う。

株分けで増やす方法

株が大きくなると根元から子株ができるので、株分けをする。あまり小さいと育ちにくいので、幹が直径5cmを目安にするとよい。

子株からの成長過程

昨春、移植する際に掘り上げたら、たくさんの子株ができていたので植えてみた。

ソテツの子株
① 堀り上げ前の親株。② 次々と子株が出てくる。③ たくさんの株ができた。④ 鉢に植えておいた。

56年前に、植木市で1本50円の芋のような苗を、3本購入した時のことを思い出した。あの時の株は、葉も無くてもっと小さかったかもしれない。あれから、半世紀以上も経ち、子株からまた新しい株が誕生した。

この子株も、50年後には巨大化するのだろうか。新天地に移植した2本のソテツは100歳を超え、きっと立派に育っている未来を想像した。

ソテツの子株
3カ月後には、こんなに新芽が出た。

私が18歳の青春の時から、人生を共にした、“青春のソテツ”が、何故か石川達三の小説『青春の蹉跌(せいしゅんのさてつ)』と重なる。

『青春の蹉跌』の主人公は、夢と野望がやがて破滅して行く青春だったが、私の“青春のソテツ”は違うのだ!(ちなみに蹉跌とは、物事が見込みと食い違って、うまく進まない“失敗の”状態になること)

ソテツ

あれから長い歳月が流れた。結局、私は浪人しても、第一志望校に行くことはなかった。もしかするとアノ大学に行っていたら、エリートコースを歩んで、『青春の蹉跌』の主人公のような破滅の人生を歩んだかも知れない……なんて負け惜しみを言ってみたりする。

私は、夢と野望よりも、余裕のあるロマンと微笑みに満ちた人生がスキだ。今、老後を好きな美しくたくましい植物たちと、ピアノとバイオリン&ビオラを奏でて音楽に囲まれ、植物三昧&音楽三昧。自分では幸せと思える日々を送っている。これが、私の“青春のソテツ”。

ソテツは、ずっと私の人生を見守っていてくれた。

ソテツ
田中一村の晩年の作品には「不喰芋と蘇鐵」があるが、その作品をイメージして撮った写真。光に透けて葉が美しく引き立つ。

そして、ソテツはボクの好きな画家、田中一村の絵を思い出させる。

本当に美しくて、たくましいソテツだ。こんなソテツを見ると、加齢で弱音を吐く自分が愚かに思える。残りの人生をソテツのように、美しくたくましく生きよう!

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