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シドニーの週末には、街のあちこちで個性豊かなマーケットが開かれています。早朝のフラワーマーケットで出会う力強いネイティブフラワー、歴史ある街で楽しむアートと食、そして植物が自然に溶け込むローカルな暮らし。冬のシドニーのマーケットを巡りながら、この街ならではのボタニカルライフを訪ねてみました。

「シドニー・フラワー・マーケット(Sydney Flower Market)」/冬の早朝に出会う、南半球の力強いネイティブフラワー

シドニーの冬の朝。まだ街が目覚める前の時間に、世界中のフローリストを魅了する植物たちが集まる場所があります。
それが、早朝5時から9時頃までという短い時間だけ開かれる、市中心部から西へ約 15 キロのフレミントン(Flemington)にある「シドニー・フラワー・マーケット」です。
ここはオーストラリア最大規模を誇る花の卸売市場。その歴史は古く、1975 年に現在の場所へ移転して以来、50 年近くにわたりシドニー中のフローリストたちのインスピレーションの源であり、街を彩る花市場として愛され続けてきました。

通常はプロのフローリストたちが仕入れに集まる本格的な市場ですが、一般の私たちも買い物を楽しむことができます。早朝の澄み切った冬の空気の中に一歩足を踏み入れると、そ こには広大な敷地に100以上の出店者がひしめき合い、朝一番の活気と熱気に満ちあふれています。

シドニーの冬、7月のフラワーマーケット

市場の主役は、なんといっても南半球の冬にベストシーズンを迎えるエネルギッシュな植物たち。日本では残暑の頃ですが、ここ冬のシドニーでは、オーストラリア固有の植物だけでなく、同じ南半球の個性豊かな仲間たちが最も美しく輝く季節です。
そんな賑やかな市場の中でも、ひときわ多くの人々を惹きつけ、私がその素晴らしさに最も心を奪われたのが「East Coast Wildflowers(イーストコースト・ワイルドフラワーズ)」のブースです。ここには、多種多様なワイルドフラワーが並び、そのディスプレイのセンスはまるで洗練されたボタニカルアートのよう。常に多くの人々で大賑わいを見せている、市場きっての人気スポットです。

色鮮やかなワイルドフラワーが並ぶ「East Coast Wildflowers」は、市場でもひときわ人気を集める存在。

一歩足を踏み入れると、寒さを吹き飛ばすほど鮮やかな色彩が目に飛び込んできます。特に目を引くのが、圧倒的な存在感を放つプロテアの仲間たち。実はプロテアは南アフリカ原産の植物です。遠く離れた南アフリカとオーストラリアですが、かつて同じゴンドワナ大陸を構成していた地域。そのため、ヤマモガシ科(Proteaceae)の植物たちがそれぞれ独自の進化を遂げてきました。
そんな太古のつながりを持つプロテアは、今やオーストラリアのボタニカルスタイルにも欠かせない存在です。 淡いピンクのグラデーションが気品漂うプロテア‘ピンクアイス’や、大輪でまさに花の王様の風格を持つキングプロテアが、圧倒的な存在感で見る人の心を惹きつけます。

左/ピンクのグラデーションが美しいプロテア‘ピンクアイス’(学名:Protea ‘Pink Ice’) 右/大輪の花姿がひときわ目を引くキングプロテア(学名:Protea cynaroides

そしてプロテアと並び、オーストラリアを代表するネイティブプランツであるバンクシアも、ユニークな個性を競い合っています。鳥の羽のような葉と愛らしい形のバンクシア・バクステリ、もこもことした質感が冬の温もりを感じさせるバンクシア・バウエリなど、日本ではまだ一般的とはいえない品種が、現地ならではのダイナミックなボリュームで迎えてくれます。

左/淡いピンクの花色が印象的なバンクシア・バクステリ ( 学名:Banksia baxteri) 右/もこもことした花姿が愛らしいバンクシア・バウエリ(学名:Banksia baueri

さらに、冬のシドニーの市場で忘れてはならないのが、ブースを明るい黄色に彩るワトル(アカシア)の仲間です。オーストラリアの国花であるゴールデン・ワトルとはまた違う魅力を持つ、パール・ワトルもこの季節ならではの存在です。
日本でも「パールアカシア」や「ミモザ」の名前で親しまれている植物ですが、夜明けの澄んだ空に映える鮮やかなパウダーイエローの花と、スタイリッシュなシルバーグレイの葉のコントラストは、寒さをふんわりと温かく包み込んでくれます。

シルバーリーフと黄色い花のコントラストが印象的なパール・ワトル(学名:Acacia podalyriifolia

お花だけでなく、シルバーグレイの美しい葉とユニークな実が魅力のユーカリ・プレウロカルパなどのグリーンも充実しており、ただ眺めているだけで、オーストラリアならではのボタニカルライフの豊かさが伝わってきます。
East Coast Wildflowers のスタッフさんが、「今からドライフラワーにしておけば、12 月のクリスマスリースにも美しく使える」と教えてくれたことがきっかけで、それ以来、私は毎年この時期になるとユーカリ・プレウロカルパを買って帰るようになりました。
自宅の壁に吊るし、ゆっくりとドライになっていく姿を眺めながら、数カ月先の「夏のクリスマス」に思いを馳せる――そんなひとときも、シドニーならではの季節の楽しみです。

左/市場に並ぶフレッシュなユーカリ・プレウロカルパ(学名:Eucalyptus pleurocarpa) 右/自宅の壁に吊るして楽しんでいる、ユーカリ・テトラゴナ(学名:Eucalyptus x tetragona)とベルガム(Bell Gum)のドライフラワー。

花選びやちょっとした疑問にも、生産者さんたちは冬の寒さを忘れさせてくれるような温かな笑顔で応えてくれ、ドライフラワーの楽しみ方や季節ならではの植物の魅力など、さまざまなアイデアを教えてくれます。
花を買うだけではなく、植物が持つ季節のリズムや、生産者さんとの会話まで楽しめること。それこそが、冬のシドニー・フラワー・マーケットならではの魅力なのかもしれません。

「The Rocks Markets (ザ・ロックス・マーケット)」/歴史ある石畳の街で、ボタニカルアートと甘い冬のぬくもりに出会う

花市場の朝の熱気とは対照的に、週末の「ザ・ロックス・マーケット」には、歴史ある街並みに溶け込むような、ゆったりとした時間が流れています。
ロックスの歴史は、1788 年にイギリスの第一船団が上陸し、オーストラリア最初のヨーロ ッパ人入植地が築かれた時代まで遡ります。19世紀に建てられた砂岩の倉庫や古いレンガ造りの建物、趣あるレンガ舗装の路地が今も残るこのエリアは、一歩足を踏み入れるだけで、まるでヨーロッパの古い港町を訪れたかのような情緒に包まれます。澄み切ったシドニーの冬空の下、歴史の面影を残す美しい街並みを眺めながら歩く時間は、それだけで贅沢なひとときです。

歴史あるレンガ造りの街並みが美しい、冬の The Rocks Markets。

中でも目を引かれたのが、ボタニカル&バードアーティスト、Paula Church さんのブースです。
そこには、オーストラリアの力強いネイティブプランツや、カラフルな野鳥たちを描いた作品が並びます。フラワーマーケットで実際に目にした植物が、今度はアートとして表現されているのを見ると、この国では植物が単なる自然ではなく、人々の暮らしや文化の中に深く根付いていることを改めて感じます。

オーストラリアのネイティブプランツや野鳥を描いた作品が並ぶ、ボタニカル&バードアーティスト、Paula Church さんのブース。

アートを楽しみながら、歴史あるレンガ舗装の路地を歩いていると、今度は甘い香りに誘われます。
色とりどりのヌガーやファッジが、まるで小さなアート作品のように並んでいます。
オーストラリア原産の素材を使った「Australian Bush Native Flavours Collection」は、この土地ならではの植物の恵みを、お菓子という形で気軽に楽しめるのも魅力です。
温かいコーヒーを片手にいただく色とりどりのヌガーやファッジは、冷えた体にじんわりと染み渡る最高のぬくもりを届けてくれます。見た目の美しさだけでなく、贈り物としても喜ばれること間違いなしの逸品です。

色とりどりのお菓子が美しく並び、道行く人の足を止めている「The Village Providore(ザ・ヴィレッジ・プロヴィドール)。

歴史ある街並みの中で出会うアートや甘い香りは、冬のシドニーをゆっくりと味わう、心豊かなひとときを与えてくれます。

Kirribilli Markets (キリビリ・マーケット) / ハーバーを望む街で見つけた、
植物のある暮らし

歴史の面影を残すザ・ロックスから、シドニーの象徴であるハーバーブリッジを渡った先に広がるキリビリ。美しい湾沿いのこの街で、1976 年から地元の人々に愛され続けているのが「キリビリ・マーケット」です。
毎月 2 回開催されるマーケットには約 220 ものブースが並び、目の前にはハーバーブリッジとオペラハウス、そして青く輝く海が広がります。澄み切った冬空の下、心地よい潮風を感じながら、家族や友人とゆったりと週末を過ごす人々の姿が印象的です。

ハーバーブリッジを望むキリビリ・マーケット。冬の澄んだ青空の下、多くの人々で賑わいます。

このマーケットで特に印象的だったのは、植物が特別なものとしてではなく、人々の暮らしの中にごく自然に溶け込んでいることでした。
ハンドクラフトが並ぶ「Cedar Lodge Home Wares & Produce」のブースでは、ユーカリのグリーンがやさしく空間を彩り、まるで一つのインテリアのような温かな雰囲気が広がっていました。
ブースの奥で優しく迎えてくれたのが、ネイティブフラワーをモチーフにしたフェルト作品を手がけるマーゴット・ウェブ(Margot Webb)さんです。彼女が手がける『Joy Poppet Pot』は、小さなポットの中に、それぞれの植物が持つ物語やメッセージを込めた愛らしい作品です。

ユーカリが彩る温かなブースで迎えてくれた、フェルトアーティストのマーゴット・ウェブさん。植物とハンドクラフトが自然に調和する、キリビリらしい風景。

小さなポットに入ったゴールデン・ワトルの作品には、「ゴールデン・ワトルはオーストラリアの国花であり、記憶、希望、そして再生を象徴しています」との説明が添えられていました。
ほかにもジェラルドトン・ワックス、クリスマス・ベル、オーストラリアン・ブルーベル、フランネル・フラワーといったネイティブフラワーから、ジャカランダなどシドニーの街並みを彩る植物たちまで、温かみのあるフェルトで表現されています。
花を飾るだけではなく、植物をモチーフにしたアートを暮らしの中で楽しむ。そんなオーストラリアらしい感覚が、この愛らしい一角からも伝わってきました。

ゴールデン・ワトルをはじめ、オーストラリアの植物や動物をモチーフにした愛らしい『Joy Poppet Pot』。

植物との付き合い方は、目で楽しむだけにとどまりません。
マーケットでは、ネイティブ植物の恵みを生かしたアロマやスキンケアにも出会いました。「Floramedica」のブースに並ぶ石鹸やアロマオイルは、すべてカタリン・ケレメン(Katalin Kelemen)さんが一つひとつ丁寧に手づくりしているものです。

植物を「飾る」だけではなく、「香り」として暮らしに取り入れる。そんなオーストラリアらしいボタニカルライフを伝えてくれた、 Floramedica のカタリン・ケレメンさん。

数ある商品の中でも、カタリンさんが特にオーストラリアの植物を使っていると教えてくれたのが、爽やかな香りのレモンティーツリー(Lemon Tea Tree)や、紫色のマーブル模様が美しいレモンマートル(Lemon Myrtle)のハンドメイド石鹸でした。小さな石鹸の中にも、この土地ならではの植物の恵みがぎゅっと詰まっています。

オーストラリアの植物の恵みを香りとして楽しむ、Floramedicaのハンドメイド石鹸とアロマオイル。

植物を「飾る」だけではなく、「香り」や「癒やし」として暮らしに取り入れる。そんなボタニカルライフもまた、オーストラリアらしい豊かさの一つなのかもしれません。
早朝のシドニー・フラワー・マーケットでは、植物そのものが持つ生命力に触れました。そしてザ・ロックス・マーケットでは、植物がアートや食へと広がる豊かな文化に出会いました。
ここキリビリで感じたのは、植物を特別なものと構えることなく、ごく自然に暮らしへ取り入れている人々の姿でした。

シドニーの冬のマーケットを巡っていると、植物は特別なものではなく、人々の暮らしに寄り添い、季節を感じさせてくれる身近な存在であることに気づかされます。
花として愛で、アートとして楽しみ、香りとして暮らしに取り入れる――。
そんなボタニカルライフに出会えることこそ、シドニーのマーケット巡りの何よりの魅力なのかもしれません。

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