単体でも圧倒的な美しさを持つバラは、他のバラや草花と組み合わせたら魅力も倍増! さて、バラの魅力を引き立てるのは、どんな植物か。ローズアドバイザーの経歴を持ち、数々の文献に触れてきた田中敏夫さんがバラ同士をペアリングして楽しみたいおすすめの組み合わせ実例について、品種の特徴やエピソードも交えながらご案内します。
目次
バラをもっと楽しむアイデア〜はじめに〜
単体のバラの美を愛でる以外にも、昨今はバラ同士を組み合わせたり、他の植物とともにハーモニーを楽しんでいる方も多いことと思います。バラと組み合わせる植物のバリエーションは無限大ですが、何と何を組み合わせると相性がいいのか、そして、どんな美を楽しめるのか……。長年バラを研究してきた視点で、おすすめのコンビネーションを2つのテーマに分けてご紹介します。
今回の<前編>では、「バラ同士をペアリングして、色や花形の微妙な移ろいや変化を楽しんだり、強いコントラストを演出して違いを楽しむ」アイデアをご紹介します。
次回は<後編>として、「バラとコンパニオン・プランツとの組み合わせを愛でる」についてご紹介する予定です。
まずは、異なる品種のバラをペアリングして楽しむアイデアから。
バラのおすすめペアリング・サンプル
それでは実際に、おすすめのバラのペアリング実例を6例ご紹介しましょう。
① ‘ヘーベス・リップ’と‘セント・ニコラス’
ともに一季咲きのダマスク。中輪・25弁前後、オープン気味の中輪花で美しいシベを楽しむことができる組み合わせです。花色の違いはあるものの、花形も樹形も似通っていて姉妹品種のような印象を受けますが、育種の経歴、時代もまったく違う“他人の空似”品種です。
ヘーベス・リップ(Hebe’s Lip)
1846年頃、イギリスのJ&C・リーが育種したとされています。長い期間、注目を浴びることはなかったのですが、1912年頃、園芸家ウィリアム・ポールが改めて世に紹介したことから広く知られるようになりました。
交配親は不明ですが、サマー・ダマスクと、ヨーロッパに広く自生しているライトピンクの原種ロサ・ルビギノーサ (“エグランティン”とも)との交配、または自然交雑により生み出されたというのが一般的な理解です。
品種名はギリシャ神話の女神である“ヘーベのくちびる”といった意味かと思います。花弁縁に少しだけ出る紅色が命名の由来だろうと思いますが、なぜ“リップ”であって“リップス”ではないのか不思議に思っています。
セント・ニコラス(St. Nicholas)
1950年、イギリス、ヨークシャー州のロバート・ジェームズというアマチュアの愛好家が聖ニコラス教会の庭園で発見したとされています。交配親は分かっていません。
ダマスクにクラス分けされてはいますが、一般に非常に濃厚な香りの品種が多いダマスクなのですが、この品種はあまり香りません。また、時に秋に返り咲きする性質があるなど、純粋なダマスクとはいえない性質があります。
② ‘ジェームズ・ヴェイチ’と‘サレ’
返り咲き性のあるモスの組み合わせです。‘ジェームズ・ヴェイチ’はモダンローズに見紛うほど強い返り咲き性がありますが、‘サレ’の返り咲き性はそれほどでもなく、秋口の開花は‘ジェームズ・ヴェイチ’だけとなることが多いかもしれません。
ジェームズ・ヴェイチ(James Veitch)
1865年、フランスのウジェンヌ・ヴェルディエF.A.(fils aîne:“長男”)が育種・公表しました。交配親は不明です。
返り咲きするモスとして、パーペチュアル・モスにクラス分けされることが多いですが、返り咲きの性質が非常に強いこと、また、ダマスク・パーペチュアルの品種‘レンブラント’などとの類似が見られるため、ダマスク・パーペチュアルにクラス分けされることもあります。
ジェームズ・ヴェイチ(1792-1863)はスコットランドに生まれ、後にロンドンへ出て活躍した植物のコレクター、販売業者です。息子のジェームズ・ヴェイチ・ジュニアとともに世界各地から珍しい植物を英国に持ち帰りましたが、その活動は遠く日本や中国へまで及びました。
サレ(Salet)
1854年、フランス・リヨンのラシャルムが育種・公表しました。交配親は不明です。公表されてから今日まで、その優雅さと強い香りが愛され、しばしば返り咲きするモスローズ最良の一品と評されることが多いです。
“サレ”はフランス人に見られる苗字のようですが、育種者ラシャルムとの関係は分かっていません。
③ ‘フランソワ・ジュランヴィル’と‘アルベリック・バルビエ’
ウィックラーナ・ランブラーの組み合わせです。春一季のみですが絢爛豪華に開花する‘フランソワ・ジュランヴィル’、そして姉妹品種のように同時期に色違いの花が咲く‘アルベリック・バルビエ’。
フランソワ・ジュランヴィルは大株となるランブラーの中で、おそらく世界中でもっとも植栽されている品種です。一輪一輪は軽く香る程度ですが、大株に育ったあかつきには、めまいを覚えるほどの香りに包まれます。
両品種とも、丸みを帯びた小さめの縁などに銅色が色濃く出る深い色合いの照り葉、非常に柔らかな枝ぶり、350〜500cmほど枝を伸ばします。ジュランヴィルをメイン、バルビエをサブとして植え付け場所を考えるといいと思います。
フランソワ・ジュランヴィル(François Juranville)
1906年、フランスのバルビエール兄弟により育種・公表されました。原種の照り葉ノイバラ(ロサ・ルキアエ)と、ピンクとイエローがまちまちに出る珍しい花色のチャイナローズ‘マダム・ローレット・メッシミー’との交配により育種されました。
残念ながら、この品種が捧げられたフランソワ・ジュランヴィルがどんな人物であったのかは、よく分かっていません。
アルベリック・バルビエ(Alberic Barbier)
1900年、この品種もフランスのバルビエ兄弟により育種・公表されました。原種ロサ・ルキアエと、イエローのティーローズ‘シルレイ・イベール’との交配により育種されたといわれています。
フランス、オルレアンの育種家バルビエ兄弟が、ガーデナーであった父親アルベリックの名を冠したバラです。
④ ‘コーネリア’と‘イースリーズ・ゴールデン・ランブラー’
半日陰での植栽にもよく耐える組み合わせです。‘コーネリア’はハイブリッド・ムスクにクラス分けされる返り咲き性のある品種ですが、‘イースリーズ・ゴールデン・ランブラー’はウィックラーナ・ランブラーですので一季咲きとなります。しかし、春、大輪のゴールデン・ランブラーの間から、房咲き小輪の‘コーネリア’が花咲く様子はとても愛らしいです。
‘イースリーズ・ゴールデン・ランブラー’は入手が難しいかもしれません。比較的入手しやすく、また返り咲きが期待できるレモン・イエローに花咲くクライマーにしたいと考えるなら、‘つるスマイリー・フェイス’に替えてもいいかもしれません。
コーネリア(Cornelia)
1925年、イギリスのジョゼフ・ペンバートンにより育種・公表されました。交配親は不明です。
優れた耐病性を示し、半日陰にも耐え、好環境のもとでは、頻繁に返り咲くという、”完璧”な品種の一つです。
グラハム・トーマスは著書『グラハム・S・トーマス・ローズブック』(1994)の中で、
「(ペーター・ランベルトが育種した)トリ―アあるいは(シュミットが育種しランベルトが市場へ提供した)アグライアの系統にあたるかもしれない…」
と解説していますが、定説とはなっていません。
ペンバートンが育種したすぐれたハイブリッド・ムスクは、‘フェリシア’ ‘キャサリーン’ ‘ペネロピー’など数多くありますが、それらの中にあっても、とりわけ傑作として評価の高い品種です。
イースリーズ・ゴールデン・ランブラー(Easlea’s Golden Rambler)
ラージ・フラワード・クライマーへクラス分けされていますが、大輪花を咲かせるランブラーとするべき樹形です。大輪花品種で、真横へ伸びると表現したくなるような枝ぶりは、数多いバラ品種の中でも例が少なく、貴重な性質です。パーゴラや大型のアーチ、低めの長いフェンス、壁面仕立てなど大きなスペースを優雅に飾ることができます。
1932年、英国のアマチュアの育成家であった、ウォルター・イースリーが育種・公表しました。交配親は不明です。
⑤ ‘レイニー・ブルー’と‘ゴールデン・ボーダー’
優雅な枝ぶりとなるモダンローズのイエローと藤色(モーヴ)の花色の組み合わせです。
よく返り咲きする修景バラとして評価の高い‘ゴールデン・ボーダー’を前景に、人気の藤色つるバラ‘レイニー・ブルー’を組み合わせてみました。
柔らかな枝ぶりのクライマーでよく返り咲きする‘レイニー・ブルー’は生育に時間を要することが多く、想像どおりの風景になるにはしばらく辛抱がいるでしょう。
‘レイニー・ブルー’に替え、藤色、よく返り咲きする中輪花の品種を選ぶとしたら、つるバラではありませんが高性のシュラブでつる仕立ても可能なオリエンタリス・シリーズにカテゴライズされている最新バラ、‘カミーユ’でも同じような効果が期待できるのではないかと思います。
レイニー・ブルー(Rainy Blue)
2012年、ドイツのタンタウ社が育種し、同年、京成バラ園を通じて市場へ提供されました。
小輪、深いピンクの花が房咲きとなるシュラブ‘リベリタス(Libertas)’を種親に、パープルの大輪花を咲かせるフロリバンダ‘オールド・ポート(Old Port)’を花粉親にしたと明らかにされています。
成長は遅いですが、順調に生育すれば3年ほどで200cmを超える高さに達します。細い枝ぶりのため、シュラブというよりは比較的小さめなクライマーと考えるほうがいいと思います。
カミーユ(Camille)
2021年、バラの家社から育種・公表された新しい品種です。交配親の詳細は明らかにされていません。
淡い藤色の中輪花を咲かせます。どちらかというと病気に弱い品種が多い藤色バラの中にあって、丈夫さを獲得したすぐれた品種です。
‘レイニー・ブルー’と比べると、枝ぶりは硬く、数年後にはしっかりと自立するようになるようです。
クロード・モネの絵画「散歩・日傘をさす女」のモデルとなったモネの妻カミーユにちなんで命名されました。
ゴールデン・ボーダー(Golden Border)
1993年、オランダのファルシューレン社が育種し、フランス・メイアン社を通じて公表されました。交配親は公表されていません。
花色は明るいイエロー、いくぶんかクリームがかった爽やかな色合いです。成熟が進むと淡い色合いに変化し、ピンクの斑などが生じます。そのため、全体としてはイエローのグラデーションとなります。
丸みを帯びた少し小さめに感じる、グレイッシュでくすんだ色合いの照り葉、トゲが比較的少ない、硬めの枝ぶり、横張り性が強く、樹高120cmほどのこんもりとまとまった感じのブッシュとなります。
⑥ ‘レディ・オブ・シャロット’と‘クレア・オースチン’
イングリッシュ・ローズの組み合わせ。高さ200cmほどのアーチを飾るバラの組み合わせとしてよくおすすめするペアリングです。
両品種とも柔らかな枝ぶりながら大輪花を咲かせるため、開花した花はうつむきかげんになりがちです。アーチなどに誘引すると美しい花を存分に観賞できると思います。
なお、‘レディ・オブ・シャロット’は‘クレア・オースチン’より少し遅れがちに開花することが多いようです。
レディ・オブ・シャロット(Lady of Shalott)
2009年にオースチン農場から育種・公表されたイングリッシュ・ローズです。交配親の詳細は公開されていません。
イギリス、ヴィクトリア朝時代の詩人、アルフレッド・テニスン (1809-1892) の生誕200年を記念して命名されました。
テニスンは、水夫の悲劇を描いた物語詩『イノック・アーデン』などで知られるイギリスを代表する詩人の一人です。彼が1833年に公表したのが長編詩『シャロットの妖姫(Lady of Shalott)』でした。
画家ジョン・W・ウォーターハウスはこの物語に深く心を動かされたのでしょう、レディ・オブ・シャロットを描いた美しい絵画を3点残しています。特に死出の船に乗るシャロット姫を描いた1点はイギリスの至宝の一つとして愛されています。
クレア・オースチン(Claire Austin)
2007年、デヴィッド・オースチン農場より育種・公表されました。交配親の詳細は公表されていません。
強いミルラ香、イングリッシュ・ローズとしては返り咲きする性質が強いこと、また比較的良好な耐病性を示すことなどから、公表直後から高い評価を得ています。
クレアは育成者、デヴィッド・オースチンの娘です。アイリス、シャクヤク、ヘメロカリスを専門にしたナーセリーを経営しているとのことです。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 田中敏夫 - ローズ・アドバイザー -
たなか・としお/2001年、バラ苗通販ショップ「
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