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春の庭がぐっと美しくなる理由 白い花木と草花をつなぐ木漏れ日の力

春の庭がぐっと美しくなる理由 白い花木と草花をつなぐ木漏れ日の力

青空を背景に白い花木が咲き始めると、庭はいっきに春の表情を見せます。けれど、この庭を本当に美しくしているのは花の色だけではありません。足元に咲く小さな草花、風に揺れる枝葉、地面に落ちる木漏れ日まで含めて心地よさをつくる、面谷さんひとみさんと安酸友昭さんの庭づくりを紹介します。

庭に春を知らせる白い花の花木たち

光の色が変わったことで、私は春の到来を感じます。米子の冬は、晴れの日が本当に少なく、曇りか雨のことがほとんど。ときには雷まで鳴って、空全体が重たく低く垂れこめるような日も珍しくありません。庭に出ても、土も枝も空気もどこか湿り気を帯びていて、色彩まで眠っているように見えます。だからこそ、長い冬のあとにようやく青空がのぞく日が来ると、それだけで胸がふっと軽くなります。

ウワミズザクラの花
刷毛のようなウワミズザクラの花。樹高は10m以上になるので、庭木としては定期的な剪定が必須。

その青空を背景にして、庭の花木に白い花が咲き始めると、春が目に見える形で立ち上がってきます。たとえばウワミズザクラ。枝先にふわりと立ち上がる白い花穂は、桜のような華やかな塊ではなく、細かな花が集まって、光を含んだ刷毛のよう。若葉のやわらかな緑のあいだから、こぼれるように咲いている姿には、どこか野の木らしい素朴さがあります。でも、その素朴さが春の空にはとてもよく似合うのです。

ベイリーズセレクト
10年近く庭を彩ってくれたプルヌス・バージニアナ‘ベイリーズセレクト’。近年、虫の被害によりやむなく別の樹木に変更した。自然樹形で樹高7m前後。

今はもうこの庭にはなくなってしまったプルヌス・バージニアナ‘ベイリーズセレクト’の花もまた、この季節ならではの美しさがあります。銅葉の印象が強い木ですが、春の若葉はやわらかな緑色で、白い花との対比はとても印象的です。

春の庭

そうした花木の株元には、小さな春の草花たちが咲いています。原種のチューリップやスイセン、アネモネ、フリチラリア、ムスカリ、クロッカスなどの球根類、そしてビオラやイオノプシジウム、イングリッシュデージーなどの小さな花々。ことさらに主張するわけではないのに、木の下のやわらかな光の中で、それらが入り混じって咲く様子は、小花柄のリバティプリントを広げたかのようです。

アロニア
赤いしべが愛らしいアロニア。2m前後で樹高が止まる低木。

木の形ではなく、木の下に落ちる光まで考える

木漏れ日の小道
時間の流れとともに模様を変えていく木漏れ日の小道。

春の庭が美しいのは、ただ色々な花が咲くからだけではありません。小道の土の上に葉の影が揺れ、草花のあいだに光の粒がこぼれ、風が通るたびにその模様が静かに動いていく。その様子を見ていると、庭の美しさは花の色だけではできていないのだと、改めて感じます。

ハチ
ブ〜ンという羽音も庭の楽しいBGM。

この庭をつくってくださったガーデンデザイナーの安酸友昭さんは、庭の魅力や心地よさを作っているのは、植物の色や形だけではなく、光や影、草花が風に揺れる風情、香り、そこに訪れる虫たちの気配まで含めたものだとおっしゃいます。植物を人の手で植え、整えることはできても、その瞬間の木漏れ日や、風にそよぐ枝葉の動きまでは留めておけません。でも、留めておけないからこそ、心に残る景色になるのだと思います。

庭木

樹木の剪定はすべて安酸さんにお願いしていますが、その剪定は単なる管理作業ではなく、庭の体験そのものを形づくる大切なデザインなのだと思います。枝をどう残し、どこを透かし、どこに抜けをつくるか。その判断一つひとつが、春の光のやわらかさにも、夏の涼しさにも、冬の日だまりにもつながっていくのです。

木の姿は見上げれば分かりますが、その木が本当に庭にもたらしている価値は、見上げた姿だけでは測れません。木の下に立ったときにどんな光が落ちるのか。そこにどんな空気が流れるのか。安酸さんは、その木が庭全体に生み出す気配も含めて剪定してくれているのではないかと思うのです。

樹木は景色であると同時に、草花のための環境でもある

ジューンベリー
庭の入り口に咲くジューンベリーの花。自然樹形で5m前後で、剪定で樹高をコントロール。

この庭の樹木の多くは落葉樹で、春に花を咲かせてくれるのはプルヌス・バージニアナ‘ベイリーズセレクト’、ウワミズザクラ、ジューンベリー、アロニア。すべて白い花が咲きます。落葉樹のよさは、季節ごとにその役割を変えてくれるところにあります。春、まだ葉が出そろう前には、枝のあいだからやわらかな日差しがたっぷりと差し込みます。その光を受けて、木の下では原種の球根類や原種シクラメン、クリスマスローズ、ビオラたちが、いちばんよいタイミングで花を見せてくれます。

ジューンベリーの株元に咲く原種チューリップ
ジューンベリーの株元に咲く原種チューリップ。

夏になると葉が茂り、今度は強い日差しを遮って、地面の乾きすぎも防いでくれます。秋になり落葉してくると、地面に日が当たるようになると、原種シクラメンが咲いてきます。冬には落葉して、ふたたび低い日差しを地表に届けてくれる。樹木は、季節を通して庭の環境を調整してくれている大切な役目を果たしています。

へスペランサ・ククラータやクリスマスローズ
ウワミズザクラの株元に咲く、へスペランサ・ククラータやクリスマスローズ。どちらも夏は休眠するので落葉樹の下が適地。

私は、庭の植物が無理なく育っている景色が好きです。がんばって咲かせている、という感じではなく、その場所に合った植物が、その場所に合った姿で自然に咲いている庭に心惹かれます。こうした景色は、花だけを選んでいても生まれないのだと思います。どこに木を置くか、その木が何年か後にどのくらい枝を広げるか、葉を落としたときに冬の光がどう入るか、春の木漏れ日が足元にどう届くか。そういう時間の流れまで含めて考えられているからこそ、草花が心地よさそうに見える環境ができるのだと思います。

クロッカスとイオノプシジウム
春の球根花、クロッカスと一年草のイオノプシジウム。一年草ですが、この木漏れ日の環境が合っているようでこぼれ種で増える。

安酸さんは、花を飾るように並べるのではなく、植物どうしが支え合う関係をつくっておられるのだと思います。樹木は上の層で光を整え、その下で草花が季節を受けとめる。さらにその足元には、虫たちが訪れ、風が通り、影が落ちる。庭は平面的な花壇ではなく、上から下まで、時間も含めて重なり合う空間なのだと感じます。

樹木は、花を引き立て、庭の外をやわらかく隠す

この庭の木々を見ていると、樹木には本当にいくつもの役割があるのだと感じます。春に白い花を咲かせ、足元の草花が育つ環境を整え、木漏れ日をつくってくれますが、それだけではありません。私にとって木々は、ほかの植物を美しく見せる背景でもあり、庭の外にある現実の風景をやわらかく受け止めてくれる存在でもあります。

ウワミズザクラ
ウワミズザクラの爽やかな緑を背景に、淡いピンクのつるバラがよく映える。

私は淡いピンクのつるバラが好きなのですが、その色合いは繊細なぶん、背景によって印象が大きく変わると感じています。やさしく、夢のある色ですが、一歩間違えると輪郭があいまいになったり、甘く見えすぎたりもします。そんなときに、樹木の葉や枝の存在が本当に大きいのです。

プルヌス・バージニアナ‘ベイリーズセレクト’の銅葉
プルヌス・バージニアナ‘ベイリーズセレクト’の銅葉が、つるバラの‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’の桜のように淡い色を浮き立たせてくれる。

特に、プルヌス・バージニアナ‘ベイリーズセレクト’の銅葉は、この庭の中でとても大切な役割を果たしてくれていました。銅色を帯びた葉は、深く落ち着いた色を持ちながら、春の光の中では重く沈みすぎず、むしろ景色にほどよい奥行きを与えてくれます。その前に淡いピンクのバラが咲くと、花色がふわっと浮かび上がるように見えるのです。主役として前に出すのではなく、そっと支えるような背景。その控えめな力が、私はとても好きです。

庭づくりをしていると、つい花そのものの美しさに目が向きますが、じつは花をどう見せるかは、その後ろに何があるかで大きく変わるのだと思います。花色、葉色、枝の線、光の当たり方。そうしたものが重なって、はじめて風景の印象が決まる。この庭の樹木は、ただそこに立っているのではなく、ほかの植物の美しさまで計算に入れたうえで、景色の後ろ側を支えてくれているのだと感じます。

樹木は、花を引き立て、庭の外をやわらかく隠す

庭木

そしてもうひとつ、私がこの庭でありがたいと思っているのは、木々が庭の外の景色をやわらかく隠してくれることです。ここは両側を道路に挟まれた場所で、一方は車通りが多く、もう一方は民家が並ぶ生活道路です。小道の先には駐車場もあり、少し視線が抜けるだけで、どうしても日常の生活感が目に入ってきます。けれど安酸さんは、その“見えてしまう先”をとても丁寧に扱ってくださいました。

つるバラとウワミズザクラ
アーチ仕立てのつるバラとウワミズザクラの枝葉が庭の向こうの道路を隠してくれる。

庭の端に立つ木々や植栽は、目隠しのようにただ遮るのではなく、視線を自然に受け止めてくれます。向こう側にあるものを完全に断ち切るのではなく、木の幹や枝葉の重なりによって少しずつ遠ざけ、庭の空気の中に溶かしていくような感じです。コンビニの看板や行き交う車がまったく見えなくなるわけではないのに、庭の中に立つと不思議と気にならない。その感覚は、単に植物が多いからではなく、どこに何を置けば景色が落ち着くのかを、安酸さんがよく見極めておられるからだと思います。

ウワミズザクラとベンチ
ウワミズザクラが光を受けて輝く午後。ベンチも木陰に置くと絵になる風景に。

私はこの働きを、庭の“フレーム”のようなものだと感じています。絵でも額縁があることで視線が定まり、ひとつの世界として見えてくるように、庭もまた、どこまでを景色として感じさせるかがとても大事なのだと思います。細長いこの庭が、実際の広さ以上に奥行きを持って感じられるのも、木々が空間の輪郭を整えてくれているからです。見せたい方向は開き、見せたくない方向はそっとやわらげる。その加減が絶妙で、だからこそ庭に入ると、周囲の現実から少し離れたような気持ちになれます。

こうして考えると、樹木は本当に多層的な存在です。花を咲かせて春を知らせ、木漏れ日をつくり、足元の草花を育て、バラを引き立て、外の景色を整える。そのどれかひとつだけでも庭にとって大切ですが、それらが同時に働いているからこそ、この場所には奥行きが生まれているのだと思います。

寄せ植え
寄せ植えでも木漏れ日を感じさせる安酸さんの寄せ植え。

私がこの庭で心地よいと感じる理由も、きっとそこにあります。花がきれい、木が美しい、というだけではなく、それぞれが支え合いながら景色をつくっている。その重なりがあるから、庭がひとつの完成された風景として感じられるのだと思うのです。

庭を美しくするのは留めておけないもの

ラナンキュラス・ラックス
光を受けて輝くラナンキュラス・ラックス。

こうして振り返ると、この庭には本当にたくさんの工夫が重ねられているのだと感じます。けれど、その一方で、庭の美しさは人の手でつくった部分だけでは完成しないのだという安酸さんの言葉にとても共感します。どれほど植栽を考え、光の入り方を整え、景色を構成したとしても、最後にその場を生きた風景にしてくれるのは、やはり人には留めておけないものだからです。

庭木のある庭

光が若葉を通って小道に落ちるときのやわらかな明るさ。風が吹いて枝先がそよぎ、そのたびに地面の影がほどけたり重なったりする様子。花のまわりを虫がふっと横切り、気づけばどこかへ飛んでいく、その一瞬。そうしたものは、待っていても同じ形では二度と現れません。きれいだなと思う瞬間の多くが、じつはそういう“決めきれないもの”の中にあることに気づかされます。花がたくさん咲いていること自体もうれしいのですが、それだけではなく、偶然のような一瞬が重なって、庭はただ整った空間ではなく、心がほどける場所になるのだと思います。庭は、人の手ですべてを支配する場所ではなく、自然の働きがきちんと生きるように整える場所なのかもしれません。春の花木が咲くたびに、そのことをまた新しく感じている今日この頃。そんな庭を、私はとても愛おしく思っています。

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