「焼け」や「八重咲き」、「青染み」、「切れ弁」など、個人育種家の活躍によって、かつてない劇的な進化を遂げているパンジー&ビオラ。自身も育種家として活躍しながら、個人育種の世界を牽引してきた「アナーセン」の川越ROKAさんは、現在のパンジー&ビオラの進化は伝統園芸文化に通ずる日本独自の花文化であると話します。日本人の感性に響く新しい花の世界を、川越さんが解説してくれます。

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(『千変万化の個性を競い合う個人育種パンジー&ビオラ最先端レポート①』より続き)

川越さん(以下敬称略)
私はこの平成という時代は、パンジー・ビオラという花の歴史において、記録されるべき時代だと思っています。というのも、平成になってパンジー・ビオラは日本独自の進化が始まり、その進化は劇的な速さで進んでいます。菊や朝顔も、江戸時代に育種が盛んになって独自の変化を遂げ、現在は日本の花として認識されていますが、そもそもそれらは外国からやってきたものです。それを日本人の美意識で進化発展させ、今では日本の伝統園芸植物として世界中に知らしめるまでになっています。そして、パンジー・ビオラは今、まさにそれと同様の歴史を辿っているところなんです。

編集部)
個人育種のパンジー・ビオラには、日本らしさが反映されているということですか。

川越)
ええ、確実に。外国から来たものは、日本にその花が入ってきた時点で、既に外国で完成された美意識とともにやってくるわけです。パンジー・ビオラに関していえば、原種の細弁に対して花弁をどれほど丸く整えるかが育種目標の一つ。ですから、乱れているものは親株に残しちゃいけないという選抜基準があったわけです。でも八重咲きの始まりというのは、花弁の乱れだったんですよ。花弁が乱れた一株から始まって、3代目くらいで完全な八重咲きとして分離できる系統ができてしまったんですね。もしも最初からこんな美しい八重咲きの完成形が見えていたなら、ヨーロッパの人も選抜したかもしれませんが、最初の段階では、ちょっとした花弁の乱れなんです。そこに価値を見出すところに、日本独自の美意識が反映されているんです。少なくとも花弁が切れた花とか、「焼け」の入る花なんて、海外だったら汚いといって選抜から外され、淘汰されていくと思います。

ブロッチ部分に「焼け」といわれる形質を持つ優雅なフリル咲きの花。他にブルー、ローズ、イエロータイプなども。平塚弘子さん作出‘ドリームワンダー’。
花弁の縁に切れ込みが入る「切れ弁」、いろんな色がある。佐藤清史さん作出“ギザギザビオラ”。

編集部)
「欠損品」ということですね。

川越)
一つの基準から見ればそうです。でも、「欠点」と思われていたものに価値を見出して、こんなに独自性豊かな美しい世界をつくれるというところが、日本人らしさであり、私にはそこがとても魅力的なんです。そういうセンスを日本人は持っているんですね。欠点にすら積極的に価値を見出すことのできる柔軟性と独自性、そして見出しただけでなく、それを磨き上げて発展させ、新しい美の様式をつくることができるという点。そういうところは、まさしく「侘び寂び」という日本人ならではの感覚だと思います。ですから、ここにある平成のパンジー・ビオラは、間違いなく日本だからこそ生まれた花姿なんですね。

そして、そういう花をつくる人がいて、それに共鳴できる人もいるからこそ、ここまで発展しているんですね。この展覧会は10年目を迎えますが、第1回目にこの平塚さんが作出した‘ドリームワンダー’という「焼け」の入る花を見て、お客さんが「渋くていいわー」と言ったんです。変な言い方ですけど、普通の宮崎の田舎のおばちゃんですよ。ですが、これらのパンジー・ビオラに対して「渋くていい」なんて感覚を持てるというのは、まさしくそれこそが日本人の美意識なんですね。

編集部)
面白いですね。この風土に培われた文化とか美意識が、おばちゃんの何気ない一言にも感じられますね。

石川智樹さん・泰子さん(石川園芸)の作出品種‘レディ’。青染みによる渋めの色合いが日本的。
繊細な色と姿のコウロギノブコさんの作出品種。
繊細な覆輪(フェイス覆輪)が入り、ヒラヒラと優雅に花弁を翻す花。作出者の求める「芸」の細やかさが見て取れる。木村靖さん育成。

川越)
本当ですよね。近年は“エボルベ”の登場によって青染み(ブルーイング発色)の「くすみ」系の色合いが流行しましたが、パンジー・ビオラは進化が早いので、また来年はガラッと変わったものが出てくるはずですよ。今度はクリアな色や鮮やかな色が注目されています。この振れ幅、多様性が魅力なんです。やる人が増えれば増える分だけ、この多様性は広がっていきます。だから、この育種という楽しみをどんどんたくさんの人に知っていただいて、多くの人に参加していただいて、この花の世界が無限に広がっていくのをずっと見ていたいなと思います。みんなが参加してくれたおかげで、ここまで広がったんですよ。

ピンクの発色がきれいな植田光宣さん・寛子さんの‘スイートラブ’。
赤色が鮮やかな‘レインボー・ウェーブ’ の系統。植田光宣さん・寛子さん作出。

(『千変万化の個性を競い合う個人育種パンジー&ビオラ最先端レポート③』へ続く)

Information

Andersen アナーセン

宮崎県宮崎市跡江1380−9
TEL & FAX 0985-48-2668
OPEN 10:00 – 18:00
月曜定休
http://andersen-flower.com

Credit

写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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