冬から春にかけて、可憐な花を咲かせるパンジー&ビオラ。花壇や寄せ植えなどでよく使われる親しみのある花ですが、近年、個人育種家によってこれまでにない花色や花形が次々に生み出され、千変万化の個性を競い合っています。このブームを仕掛けたのは、宮崎のフラワーショップ「アナーセン」。2018年で10年目を迎えたパンジー・ビオラ展を訪ねました。自身も育種家として活躍しながら、個人育種の世界を牽引してきたアナーセンの川越ROKAさんが案内してくれます。

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編集部)
アナーセンさんで開催されるこのパンジー・ビオラ作品展は、今年10年目を迎えるということですが、市場では目にしない個性的な花ばかりが一堂に会していて驚くばかりです。これらの花はどういったものなのでしょうか。

川越さん(以下敬称略)
これらはすべて個人育種のパンジー・ビオラなんです。育種というと、専門的で難しそうな世界に聞こえるかもしれませんが、実はそんなことはなくて、誰でもできるんですよ。育種は異なる花同士を掛け合わせてタネをつくり、それを播いて新しい花を生み出すのですが、特にこのパンジー・ビオラは一年草で種を播いて3カ月後には結果が出ますし、もともと交雑しやすく新しい花が生まれやすいので、育種しやすいんです。花なんか育てたことないっていう人でも、できますよ。実際、今回作品展に出品している育種家さんには、そういう主婦の方もいます。

宮崎のフラワーショップ「アナーセン」での第10回パンジー・ビオラ作品展(2018年の会期は終了)。

編集部)
今年は何人くらいの方が参加したのですか?

川越)
25人の個人育種家の方と、企業では横浜植木さん、ゲブラナガトヨさんにもご協力いただきました。宮崎の育種家さんが多いのですが、全国の育種家さんたちも参加してくださっています。回数を重ねるごとに本当にたくさんの方が参加してくださるようになって、女性の育種家の方もとても増えましたよ。女性の感性は育種の世界で際立って特徴的ですね。

編集部)
それは例えば、どんな特徴があるんでしょう。

川越)
例えば、女性的な美的感覚を最初に発揮されたのは、落合けいこさん(やまね工房)です。落合さんの代表作は八重咲きですが、一重咲きも柔らかい色合いで、花弁に独特のフリルがかかっていて、それがとてもエレガントなんです。彼女の作品に‘ドレスデン’という八重咲きの品種がありますが、一輪でもコサージュにできそうな、花弁が豊かに20枚くらい重なっているもので、とても印象的な花です。落合さんの登場によって、女性たちが「私にもできるかもしれない」と、育種の世界に参加し始めたことが、パンジー・ビオラの世界を近年、新たに広げています。

落合けいこさん作出の八重咲きのパンジー‘ドレスデン’。

それからコウロギノブコさん(興梠花卉園)。コウロギさんは「造形のコウロギ」とも呼ばれていて、「反転咲き」という、花弁をシクラメンのようにひるがえして咲く個性的な花形を完成させました。この花から派生していろいろな品種が生まれています。

彼女自身が今取り組んでいるのは、パンジー・ビオラに未だかつてないグリーンの花色。年々、緑が濃くなってきていて、新しい花の完成にワクワクします。

編集部)
なるほど、皆さんそれぞれに個性があるんですね。

コウロギノブコさんの「反転咲き」。蝶の飛翔のような花形の‘モンロースカート’。
「造形のコウロギ」との形容される通り、精緻な造形の花を生み出す。写真は‘ノブコズフリル’。

川越)
人によって求めるものが違うので、同じタネからスタートしたとしても、選抜を繰り返していくうちに全然違う世界ができ上がってくるんです。これがとても大事なことです。この多様性がとっても大事。育種の場合は、人と同じじゃダメなんですね。

かといって、先ほども言ったように、始めるのは決して難しい世界じゃないんです。今回出品してくださっている、ありまひろこさんは、私がタネを3年前に差し上げたところ、すっかり育種の世界にはまってしまいました。それまでタネを播いて苗を育てるなんてことをしたことがなかったんですが、今は大輪のフリルというテーマに取り組んでいます。ブラックやワインカラーの渋めの色目で、独特のラッフルが際立つ花です。

編集部)
花径7〜8㎝くらいあるでしょうか。とてもインパクトがありますね。

ありまひろこさんの大輪フリル咲き品種‘ふたりでワインを’。シックな色も魅力的。

川越)
ええ、素敵でしょう。それから石村あさみさんの網目(ベイン)模様。網目模様自体はこれまでにもあるのですが、彼女のは可愛らしい繊細な感じに仕上がっているのが特徴です。それから、「がく羽」も彼女のテーマですね。通常ガクは5枚ですが、その2枚が花弁に変化しているというレアな個体から選抜したものです。突然変異で出たものですが、このガクの2枚を大きくしていけば、もっとインパクトの強いものができて、またこれまでにない面白いグループができ上がるはずです。しかし、誰もまだやったことがないので、どうしたらいいのかが分からない手探り状態。もしかしたらこの2枚のガクだけでなく、全てのガクが花弁に変わる可能性もあるので、とにかく追求する面白さがありますね。

編集部)
こんなふうに、突然変異として生まれた個体を親株として育種に使うということもあるんですね。

石村あさみさんの優しい網目模様の花(右)と、ガクが花弁化して花弁が7枚ある「がく羽」(左)。

川越)
ええ、あるのですが、突然変異で出た特徴というのは、必ずしも次世代の花に受け継がれるわけではないんです。これは交配したものでもそうですが、親株と同じ特徴を持っているという保証はないんです。育種は運みたいなところもあって、伝わらなければ一代限りなんですね。残したい特徴を固定させるためには運もあるし、もちろん丹念なデータ収集も必要で、そうやって何世代も選抜を繰り返して、ある程度安定したものは、流通にのっていくことができます。ですから、商業的に考えた場合には手間がかかりすぎて、必ずしも生産性がいいとはいえないんです。

編集部)
なるほど。でも、そもそも個人育種の場合は、選抜の目的が必ずしも商業的ではないからこそ、自分の求める姿を追求できるということもあるのですね。

川越)
ええ。運もあるけれど、その前にどの花を選抜するのかというのは、その人の感性次第です。同じように見えるたくさんの花の中から、花の個性を発見する目を持たなければなりません。そして、自分がいいと思う個性を次世代でさらに際立たせるよう、目を磨いて、感性を磨いて選抜を繰り返していきます。ですから、ある意味、ここに並ぶ個人育種家のパンジー・ビオラは、工芸的な価値があると思いますよ。

例えば、「ブルーイング」はその名のとおり花色が「青味を帯びる」現象ですが、その色合いは藍を水で薄めたようなぼかしの色合い。これは大牟田尚徳さん(アイディアルフワラー)が選抜した“エボルベ”というシリーズの1系統で、本来はローズやピンクで出ていたのが、アプリコットやブラウンなどにブルーのぼかしが重なる色が出て、パンジー・ビオラでこんな色表現ができるのかと驚きを以て迎えられた花色です。

編集部)
絵描きが嫉妬しそうな魅惑の色ですね。

大牟田尚徳さんの“エボルベ”。右の花がアプリコットとブラウンに青みがかる「ブルーイング(青染み)」発色の花。
大牟田尚徳さんの作出花。下の花は絞り咲き(ストライプ)で、複雑な色表現が特徴。

川越)
ええ、本当に。芸術的ですよね。それから平塚弘子さんの‘ドリームワンダー’など、「焼け」といわれる形質を持った花も特筆すべき新たな系統です。「焼け」というのは、花弁の中にシルバーでキラキラと光る部分ができる形質のことをそう呼んでいます。それから、木村靖さん(Kim農園)のブロッチ覆輪や斑入り。花弁の中心の黒い部分をブロッチと呼ぶのですが、これは海外で完成された一つのパンジー・ビオラの美の完成形でもあるんです。しかし、ブロッチを上の花弁にもこんなにキレイに出すのは本当に手間がかかって大変。斑入りも大変なんです。だから種苗会社はやらないんですが、すごく個性的でしょう。

平塚弘子さんの「焼け」といわれる形質を持つ‘ドリームワンダー’。
木村靖さんのブロッチ覆輪品種(未命名)。
木村靖さんのブロッチ品種‘バブルリング’(上)と、斑入り葉の‘キャロットピンク’。

編集部)
そうですね。みんなパンジー・ビオラですけど、ここにあるものは似たものってないですね。

川越)
佐藤清史さんの育成品で「切れ弁」という形質を持った“ギザギザビオラ”も、パンジー・ビオラの概念を変えるような個性ですよ。カーネーションのように花弁の縁に切れ込みが入る花なんですが、佐藤さんは16年ほど前に市販品種からたった一株出現した個体から採種を繰り返し、ここまでの変異を広げてきました。育種というと「交配」がメインのように考えられがちですが、このように変異個体の拾い上げも重要なんです。それは「狙ってできるものではない」形質が多いからなんですね。この切れ弁と大牟田さんの色を掛け合わせて誕生したものもあります。

佐藤清史さんの「切れ弁」と大牟田尚徳さんの色合いの形質を合わせ持った花たち。

編集部)
「狙ってできるわけではない」というと、もう神様の領域ですね。神様の領域と人の感性とで、この世にない花が生まれているんですね。昨年まではこの世にはなかった花が、全国からここに集まっていることにも驚きです。花き市場などで行われる新作発表会はよくありますが、アナーセンさんはフラワーショップですものね。

川越)
ええ。アナーセンのオーナー、川口のり子さんの「宮崎から新しい花文化を発信したい」という想い、もちろん私にもパンジー・ビオラの魅力をたくさんの方に伝えたいという想いがあって、それから育種家さんたちの想いがあって、10年間実現してきた作品展です。ここにある花のほとんどは、育種家さんたちから親株をレンタルしているんですよ。

編集部)
親株といえば、タネをとるための、いわば育種では最も大事な株ですよね。すごい信頼関係の上に成り立っている作品展なんですね。

川越)
本当にありがたいことです。ここには間違いなく日本の最先端のパンジー・ビオラが集まっていますが、それを宮崎の花屋さんでやっているというのは、面白いかもしれませんね。

(『千変万化の個性を競い合う個人育種パンジー&ビオラ最先端レポート②』へ続く)

information

Andersen アナーセン

宮崎県宮崎市跡江1380−9
TEL & FAX 0985-48-2668
OPEN 10:00 – 18:00
月曜定休
http://andersen-flower.com

Credit

写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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