いのうえ・そのこ/ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。ガーデニング以外の他分野のPR等にも携わる。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
井上園子 -ライター/エディター-

いのうえ・そのこ/ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。ガーデニング以外の他分野のPR等にも携わる。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
井上園子 -ライター/エディター-の記事
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ガーデン
【小さな庭実例】庭を輝かせるテクニック満載! バラに包まれる根本邸
コツコツと手づくりしながらつるバラの魅力を引き出した庭 東側の家の側面を活用しながら、南側の駐車スペースを含めた50㎡ほどの場所につくられた根本さんの庭。日陰になる部分以外はすべて白やピンクの淡い色のつるバラが覆い、芳しい香りが辺りを包んでいます。 南側の駐車スペース。ベンチがアイストップになっている。 もっとも目を引くのが、道路側の幅70cmほどの小さなスペースに咲く、ロサ・ムリガニー。庭を本格的につくり始めた9年ほど前に長尺仕立ての苗を植えたもので、今では見事な株に成長し、この庭のシンボル的な存在となっています。以前実店舗があったバラのお店「オークンバケット」の店先を彩っていた風景に憧れて、このバラを選んだそう。 大きなトゲをつけた太いつるは、建物の外壁に取り付けたワイヤーにしっかり結わえながら誘引。理想的なシーンをつくるために、毎年冬にすべてを取り外して誘引し直しています。「作業は脚立を少しずつずらしながら、3~4日かけて行います。昨年は窓の下にも誘引しましたが、今年はピンクのバラ‘ケルナーフローラ’をもっと大きく育てるために、窓の上にだけ誘引しました」と根本さん。ここの見栄えも考えて、今年は網戸も取り外しました。 腰高の花壇には木製フェンスを取り付けて、季節の草花を植えている。キャットミントは猫が好んで株の上に座ってしまうので、トゲトゲしたプラスチック製の猫よけを忍ばせている。 庭スペースは駐車スペースより60~70cmほど地面の高さが上がっており、シーンの切り替えには最適な構造です。駐車スペースの正面突き当たりには手作りのベンチを置き、背面のフェンスにはバラ‘レイニーブルー’をレイアウト。さらに庭への通路には小さな階段+アーチを設けてバラ‘ジャスミーナ’を誘引し、ロマンチックな空間を生み出しています。 バラの見頃は、早咲きと遅咲きの2部構成。前半の5月上旬は早咲きの‘レイニーブルー’の青みがかったピンクの花が群れ咲き、後半には‘ジャスミーナ’とロサ・ムリガニーにバトンタッチします。 ご主人と作ったベンチやフェンスと床面。 庭の骨格をなすバラの誘引や構造物はめぐみさんがデザインし、それをご主人の力を借りて形にしています。「じつは、主人は当初、あまり乗り気ではありませんでした。でも、近所の人に‘棟梁!’なんて言われたりして、徐々に楽しくやってくれるようになりました。DIYとは無縁だったのに、なぜかうまくまとめてくれるんですよ」と笑います。 バラのアーチの奥に隠れた中庭もご紹介!コーナー別にご紹介します 9年前に正社員だったのをパートに切り替え、時間にゆとりができた根本さん。以前は草花だけだった庭にバラを取り入れたことで、庭づくりを本格的に始動させました。 マイナーチェンジを繰り返し、ここまで魅力的に仕上がった根本さんのスモールガーデン。 外からは窺えない中庭エリアも併せ、素敵な場所をクローズアップしてご紹介します。 【アーチ】 見せ場の1つである‘ジャスミーナ’が覆うアーチ。ランプやお手製のステンドグラスのオーナメントを下げて、愛らしさをプラス。駐車スペースから奥へと視線を誘います。 左/ステンドグラスのオーナメントは陽の光を浴びるとキラキラと反射し、バラの魅力をさらに引き立てる。右/ヨークシャーテリアの愛犬カイくんも、豊かな花の香りが楽しめる庭が大好き。庭とともに育ってきた。 【アーチ奥の植栽コーナー】 アーチをくぐると、ナチュラルで繊細な草花が出迎えます。こぼれ種で増えたオルラヤと宿根したジギタリス、根本さんが種まきから育苗したオンファロデスやニゲラが咲き群れ、夢のような風景が広がります。 庭から駐車スペース方向の景色。ロサ・ムリガニーの白花と相まって、ノーブルな雰囲気に。 【勝手口まわり】 アーチをくぐって右手の勝手口まわりをDIYでカバーして、生活感を払拭。段差をなくすためにステップを作り、鉢物をレイアウトしました。さらにフェイクの窓や飾り棚を取り付け、早咲きのバラ‘ボニー’を誘引。淡いピンクやペパーミントグリーンにペイントし、どこか素朴でカントリーな雰囲気を醸し出しています。 扉の右側に設けた道具入れ。お手製のステンドグラスのパネルを取り付け、ハゴロモジャスミンを絡ませて雰囲気をアップ。手前に咲くバラは、コロコロとしたアンティークタッチの‘パシュミナ’。 【庭の板塀】 奥の白い板塀にはクレマチス‘グレイブタイ・ビューティー’や雑貨類をディスプレイして、見応えたっぷりに。手前にはバードバス+バラ‘グリーンアイス’の鉢を配して、立体感と奥行き感を出しています。 処分した衣装ダンスの扉内側についていた鏡を再利用、アンティーク加工を施し板塀に取り付けて。手前の草花が映り込み、奥行き感と透明感をプラスしている。 【ガーデンシェッド】 日当たりの悪い庭の隅は、2人で作った白いシェッドを設置。中庭のフォーカルポイントになっています。バラ‘サマースノー’が屋根部分を程よいボリュームでカバー。 左/‘サマースノー’がまだシェッドの側面までしか伸びていない、一昨年の様子。中/雑貨やドライフラワーが飾られた内部。肥料や薬剤もここに収納している。右/根本さんが作ったステンドグラスのパネルをはめ込んだ窓がアクセントに。 【日陰のエリアのパーゴラ】 南側の隣家との境目は、最も日が当たらない場所。ここにはガゼボ風パーゴラをつくって設置し、隣家を目隠ししています。パーゴラにもステンドグラスや棚を取り付け、雰囲気を高めました。旺盛に上部を覆うのは、秋に咲くクレマチスのセンニンソウ。「小鳥が多いので、毎年ピーナッツのリースを下げています。いつも全部食べてくれるんですよ」と根本さん。 2年前まではモッコウバラを絡ませていた場所。レンガを使った腰高のウォールと窓風ステンドグラスパネルが、光を採り入れつつ程よい目隠しに。 【テーブルまわり】 来客があったときは、中庭で花を眺めながらおもてなしをしています。通りからの視線をつるバラが遮ってくれるので、心おきなくでくつろぐことができ、会話も弾むそう。 脇の花が倒れてこないように、白いフェンスで囲んだり、細い棒で支柱を立てたり。 センスが光る手づくり&小物あしらいにもクローズアップ! ここでは、随所に見られる小技をご紹介。見逃せないシーンがたくさん。 ■ストーンワーク 敷く・並べる スモールガーデンでも、多様な石づかいで、飽きのこない風景を作ることができます。 シェッドの前は細長い石を並べ(左)、塀の前の細い園路にはピンコロ風の石を採用(右)。 以前敷いていた固まる砂を剥がしたときに残った塊がコッツウォルズストーンのような形をしていたので、それを並べて再利用。草花の軽やかさを維持しながらナチュラルな雰囲気に。 ■ディスプレイ あちこちのシーンにアクセントを作り、見応えを出しています。スモールガーデンに合わせて手作りしたアイテムがいっぱい。 左・中/スペースにピッタリのベンチはご主人と一緒に作ったもの。傍らにガーゴイルを配し、さながらイギリスの庭園のワンシーンのよう。 右/スタイロフォームを組み、ダークグレーにペイントして作った、石柱のような花台。 左/レンガをざっくりと積んで、上にコーンのオーナメントを。時間の経過を感じてもらえるように苔をのせています。 中/小さなバードバスで、水のきらめきをプラス。花がたくさんある時期は、摘んで浮かべて楽しみます。 右/ハート形のワイヤーにアイビーを誘引。「丈夫なので数年放ったらかしです」と根本さん。 ■フェンスで仕切る 小さな空間でもシーンの切り替えは必要。立体感を出すのにも有効です。 バラ‘レイニーブルー’が絡むフェンスの隣にアイアンフェンスを設置。透け感を維持するためには、程よく華奢なものが◎。 フェンスは飾ったり、植物を絡ませたりして、表情豊かに。 ■ペンキでエイジング加工 ガーデンの雰囲気に合わないものは「グレーに塗ってダークな色でほんのり汚れをつける」加工を自ら施し、空間に統一感を出しています。 アーチの下のフェンスにもエイジング加工を。根本さんが作ったステンシルのプレートがアクセントに。 板塀のニッチに飾ったキューピッドにもペイント。 左/にぎやかな色のガーデンピックの棒を取り外し、トップの小さな動物にペイントしたオーナメント。 右/セアノサスを植えるコンテナは大きいので、テラコッタなどでは重くなりますが、軽いプラスチック製のものを用いてペイントすることで、問題をクリア。 スモールガーデンを彩るバラ&クレマチス 根本さんの普段のお世話は、冬に寒肥で牛ふんや油粕、カリ有機肥料を施すのみで、お礼肥は様子を見て。消毒は2~3週間に1度行っています。庭を彩る美しいバラとクレマチスを一部ご紹介します。 まずはバラから。 左上から時計回りに、‘レイニーブルー’、‘ジャスミーナ’、 ‘アイスバーグ’、ロサ・ムリガニー。 左上から時計回りに、‘パシュミナ’、‘フランボワーズ・バニーユ’、‘ロマンティック・レース’、‘ブラン・ピエール・ドゥ・ロンサール’。 続いてクレマチスもご紹介。 左上から時計回りに、‘マリア・コーネリア’ 、‘マーガレット・ハント’、‘白万重’、‘ワーレンバーグ’。 左上から時計回りに、‘ロマンティカ’、‘シーボルディー’、 ‘カイウ’、‘篭口’。 種まきで増やした草花 変わった品種やお気に入りの植物は花後に種子を採り、播種してベランダで育苗。これなら絶やすことなく、デザインどおりの場所に咲かせることができます。 左上から時計回りに、ニゲラ‘アフリカンブライド’、ジギタリス・トロヤナ、ゲラニウム‘ビオコボ’、スカビオサ・オクロレウカ。 左上から時計回りに、ギリア・レプタンサ、ゲラニウム‘クラリッジドリュース’、シノグロッサム、シレネ‘ホワイトパンサー’。 とびきりのセンスとアイデアで、小さな空間をロマンチックなローズガーデンに仕上げている根本さん。何より手間を惜しまず丁寧に向き合う姿が、多くの人が憧れる魅力的な空間を生み出しているようです。二人三脚の庭は、これからも思い出を紡ぎながら進化を続けていきます。 2021年フォトコンテストで編集長賞を受賞 この投稿をInstagramで見る meme(@memeblossom)がシェアした投稿 受賞時にガーデンストーリーサイトでもご紹介した受賞写真は、‘ジャスミーナが咲くアーチ’でした。 うつむき加減に咲くつるバラの‘ジャスミーナ’は、少し遅咲きで、ほのかに香る品種のようですね。純白の‘アイスバーグ’や足元の小花たちによるロマンチックな色合いのコラボレーション。画面いっぱいの花々の風景に、吸い込まれるように見入ってしまう写真です。中央の木製ランタンと、その奥にちらりと向こうの風景が覗くことで奥行きが感じられて、他のエリアも拝見してみたいと思いました。副賞として来年春、編集部による取材をお約束させていただきました。ご主人と2人で庭づくりをされているそうです。「何度もくぐり抜けた」という花咲くアーチをくぐる日が楽しみです。 編集部コメントより ガーデンストーリーでは、今年も、フォトコンテストを開催中です。詳しくは、下記の記事をご覧ください。
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ガーデン&ショップ
本格的な春到来! 「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」の『ショーアップ審査』を迎えた5人の庭と審査の様子をご紹介
年3回審査を行うガーデンコンテスト「東京パークガーデンアワード」 神代植物園の正門へ続くコンテストガーデンが、エントランスの景観と一体感をなす4月中旬。 5人のガーデナーが手掛ける日向と日陰の2つのガーデン。最終結果が決まるまでに4・7・11月の3回に渡って審査が行われますが、ガーデンの施工から約5カ月経過した今回、第1回目となる『ショーアップ審査』が行われました(春の見ごろを迎えたガーデンの観賞性を審査します)。審査期間:2024年4月11日~17日。 審査員は以下の6名。福岡孝則(東京農業大学地域環境科学部 教授)、正木覚(環境デザイナー・まちなか緑化士養成講座 講師)、吉谷桂子(ガーデンデザイナー)、佐々木珠(東京都建設局公園緑地部長)、植村敦子(公益財団法人東京都公園協会 常務理事)、松井映樹(神代植物公園園長) 事前に公表されているコンテスト審査基準 公園の景観と調和していること/公園利用者が美しいと感じられること/植物が会場の環境に適応していること/造園技術が高いこと/四季の変化に対応した植物(宿根草など)選びができていること/「持続可能なガーデン」への配慮がなされていること(ロングライフ) /メンテナンスがしやすいこと(ローメンテナンス)/デザイナー独自の提案ができていること/総合評価 ※各審査は別途定める規定に従い、審査委員による採点と協議により行われます。 今回の評価のポイントは主にガーデンの観賞性で、「植物の春の美しさがしっかりと表現されているか」。しかし、単に華やかであることだけが重要ではなく、「植物個々の特性・魅力がしっかり見せられているか」、「葉や花の組み合わせがデザイン的に美しいか」、そして「今回のテーマ=武蔵野の“くさはら”、が表現されているか」などの項目も含めて評価されています。※年によって気象条件が変わるため、開花の時期がずれていても評価に影響しません。※今回行われた審査結果の公表はありません。 4月の審査時期を迎えた5名のガーデンをご紹介 コンテストガーデンAGrasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜 【作品のテーマ・制作意図】 武蔵野のくさはらを表現するにあたり、オーナメンタルグラスとカラーリーフ、特徴的な葉を持つ植物をメインにしたガーデンをつくってみたいと思いました。「グラスガーデン」は馴染みが薄かったり、地味にとらえられたりすることもあるかと思いますが、宿根草に加え、球根植物も多用し華やかさをプラスすることで、多くの方に楽しんでいただけるガーデンを目指しています。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 カマッシア‘ライヒトリニー’ 【日陰エリア】 開花期を迎えていた植物 スイセン‘タリア’、プルモナリア‘トレビファウンテン’、イカリソウ’スルフレウム’、アネモネ・シルベストリスなど コンテストガーデンB花鳥風月 命巡る草はら 【作品のテーマ・制作意図】 ガーデンの美しさは緑量や花の色目や形状だけで測れるものでなく、空や光や風や生きもの全ての関わり合い、生命の尊さを感じることでガーデンがより輝いて見えます。ガーデンに長く根付いて、地域に馴染む風景、生態系の一部になることを想定し、植えっ放しに耐えられる丈夫な品種を中心に、蜜源植物や、風や光の動きを反映しやすい植物を多く取り入れ、地味な在来種でも組合せや配置で奥行ある豊かな草はらの表現を目指します。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 カッコンセンノウ、シラー・ベルビアーナ カッコンセンノウ、シラー ベルビアーナ、カマッシア レイヒトリニー、スイセン ピピット 【日陰エリア】 開花期を迎えていた植物 ミニチューリップ ホンキートンク、ムスカリ アルメニアカムブルー、オルレア ホワイトレース、ビオラ ラブラドリカ、ムラサキサキゴケ、イフェイオン ジェシー、イフェイオン ウィズレーブルー、イフェイオン ホワイトスター コンテストガーデンC草原は、やがて森へ還る。 【作品のテーマ・制作意図】 森では、様々な木々が壮絶な生存競争を繰り広げています。しかしそれは草原もまた同じ。草原は生命力に溢れる草花たちの戦いの場です。そしてやがて、草原の中から樹木が芽生え、最終的には森へと遷移していきます。私は、草原から森へと還るこのはじまりの瞬間を、美しくもドラマティックに演出したいと思いました。ここは、森が好きなガーデンデザイナーが解釈し表現したペレニアルガーデンです。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 ゲラニウム'サンギネウム・ストラータム'、サポナリア・オキモイデス(ロックソープワート)、シレネ・ユニフローラ‘シェルピンク’、アリウム・ニグラム、アリウム‘カメレオン’、オルラヤ、ベロニカ‘ウォーターペリーブルー’、クランベ・マリティマ、リクニス・フロスククリ(カッコウセンノウ)など 【日陰エリア】 開花期を迎えていた植物 イカリソウ、ゲラニウム‘タイニーモンスター’、フリチラリア・ペルシカ、アジュガ‘チョコレートチップ’ コンテストガーデンDfeeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~ 【作品のテーマ・制作意図】 人々の心に残る武蔵野の情景を骨格に、新たな要素を組み足して、これからの愛される武蔵野の風景を植物の魅力や武蔵野の風景を「伝え」「感じる」ことを軸に提案しました。武蔵野の草原を連想させるグラスをベースに、季節の流れの中で、さまざまな色や形の草花がガーデンを彩っていくような配置を心がけました。自然との距離が遠くなった現代で、このガーデンが少しでも自然と人とが寄り添うきっかけになればと思っています。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 チューリップ‘クイーンオブナイト’、チューリップ‘コンチネンタル’、チューリップ‘ドールズメヌエット’、チューリップ‘ホワイトバレー’、チューリップ‘スワラ’、ラナンキュラス ラックスシリーズ 【日陰エリア】 開花期を迎えていた植物 チューリップ‘クイーンオブナイト’、チューリップ‘コンチネンタル’、チューリップ‘ドールズメヌエット’、チューリップ‘ホワイトバレー’、チューリップ‘スワラ’、チューリップ‘ヒルデ’、ラナンキュラス ラックスシリーズ、ムスカリ、アジュガ コンテストガーデンE武蔵野の“これから”の原風景 【作品のテーマ・制作意図】 世界的に”Climate Change(気候変動)”が叫ばれ、日本でも夏の猛暑、雨不足による水ストレスが植物を苦しめました。農業技術である完熟した堆肥をはじめ有機資材を使い、微生物に富み団粒構造を持つ土壌を作ることからはじめ、これまで武蔵野の草原風景を担ってきた在来植物を中心にガーデンを構成します。都市の暮らしの中でこぼれ落ちてきた技術、植物でこれからの武蔵野の風景を模索していきます。 【日向エリア】 開花期を迎えていた植物 ― 【日陰エリア】 開花期を迎えていた植物 スイセン‘トレサンブル’、シラー・シベリカ、スノーフレーク 次回の審査は7月、梅雨を経て猛暑に向けた植栽と耐久性を審査する『サステナブル審査』です。庭作りスタートから月々見頃の植物と5名のガーデンを紹介する記事もご覧ください。 コンテストガーデンを見に行こう! Information 都立神代植物公園(正門手前プロムナード[無料区域])所在地:東京都調布市深大寺元町5丁目31-10https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/電話: 042-483-2300(神代植物公園サービスセンター)開園時間:9:30~17:00(入園は16:00まで)休園日:月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日が休園日、年末年始12/29~翌年1/1)アクセス:京王線調布駅、JR中央線三鷹駅・吉祥寺駅からバス「神代植物公園前」下車すぐ。車の場合は、中央自動車道調布ICから約10分弱。
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ガーデン&ショップ
「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」ガーデナー5名の2月の“庭づくり”をレポート!
「第2回 東京パークガーデンアワード」【2月末】第2回作庭 コンテストガーデンの入り口付近には案内板が設置されています。 12月上旬に第1回目の作庭がされたあと、コンテストガーデンのある東京では一度雪が数センチ積もる日があったものの、2月にはこの時期には珍しく25℃に達する暖かな日もありました。年を越し、本格的な春がやってくる前に行われた2月下旬2度目の作庭の様子をご紹介します。 コンテストガーデンAGrasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜 ◆今回の作業①除草 抜いた雑草類は花壇後方に設置したバイオネストに。比較的コンパクトなサイズで、鳥の巣のような形が愛らしい。 ②上部残った枯れた部分を切除 主にグラス類の地上部をカット。これもバイオネストにイン。 ③一部球根類の植え込み 1月に届き、家で保管していたユリの球根を植え込み。「芽が伸びてしまっていて、植え付けが遅すぎではないか心配」と古橋さん。 ◆2月下旬のガーデンの様子 ■日向(北側) マルチング材の杉皮バーク堆肥(ガーデンモス)をたっぷり使い表土が覆われていることで、ガーデン全体が明るくやわらかい印象です。リナリア・プルプレアがこんもりと葉を茂らせ、小球根のピンク色のクロッカス‘ホワイトウェルパープル’やスイセン‘ベビームーン’が彩りを添えるなど、一足早い春を迎えています。 ◆日陰(南側) 日向と同じグランドデザインですが、日陰の花壇の方がレベルの起伏がはっきりと浮かび上がっています。ベースの構造が確認できるのは冬の間だからこそ。まだ寒々しさが残っていますが、明るい黄緑葉のカレックス‘エバリロ’や銅葉のティアレラなどのリーフ類が色彩を添えつつ、シラー・ミスクトスケンコアナや、楚々としたバイモユリの花が愛らしさを放っています。 ◆こだわりのプランツタグ プランツタグといえば、イギリスなど海外の植物園で見かける「黒地に白文字」のイメージがあり、日本語による表記とともに学名も記載しています。神代で開催なので植物園らしさを出しつつ、外国の方にも楽しんでいただけるように設置しました。 コンテストガーデンB花鳥風月 命巡る草はら ◆今回の作業①不要な分の雑草取り 宿根草の根元で邪魔になる雑草のみを除去。現時点で愛らしいものや彩りが寂しい場所は残し、草原っぽさを演出している。 ②宿根草苗を追加植栽 アガパンサスやホトトギス、カレックスなど寒さに弱い植物を植栽。 ③カットバック グラス類の切り戻しやノリウツギの花がら取り。刈ったグラスの葉は細かく切ってマルチングとして活用。 ◆2月下旬のガーデンの様子 ■日向(北側) グラス類の枯れ葉の合間で、黄花のスイセン ‘イエローセイルボート’と白い房咲きのスイセン‘ペーパーホワイト’が明るい顔をのぞかせて、早春らしい風景が広がっています。また、宿根アイリスやスイセン類、カレックスの葉が描くアールのフォルムで、春の訪れに浮足立つようなリズミカルさが生まれて、素朴でナチュラルな雰囲気が漂っています。 ◆日陰(南側) 常緑のヤブランやツワブキが瑞々しく育ち、日向のガーデンとは全く異なるシーンが広がっています。中央を横断する作業用の通路には剪定枝やカットした枯れ葉が敷かれ、思わず歩きたくなる小道があるような風景に。青々とした風景の中でカレックス‘エヴァリロ’ (左)が、効果的な明るいアクセントになっています。通常鉢植えで楽しまれるオモトも今回植え付けられましたが、今後どのような効果をもたらすのか楽しみ。 ◆こだわりのプランツタグ 自然な草はらの空気感を壊さないように目立たない細長いプレートを選びました。鉄製で重みがあって何度も使用できます。裏には、学名も記載してあります。 コンテストガーデンC草原は、やがて森へ還る。 ◆今回の作業①雑草取り/溝に資材を投入 抜いた雑草は、小川のように蛇行して設けられた溝に入れる。溝内の腐植にタイムラグをつくるために枯れ枝・炭を溝に足す。 ②苗の追加/微調整 1回目に植えた植物の育ち具合を見ながら、位置を微調整する。 ③カットバック グラス類をメインに枯れた葉を切り戻し。カットした葉は溝に入れる。 ◆2月下旬のガーデンの様子 ■日向(北側) 起伏が大きく、溝となる部分には太い木片が投入され、ワイルドな雰囲気が漂っています。それに対し、溝の傾斜部分に春を告げるクロッカス‘ホワイトウェルパープル’が群れ咲いて、小球根の愛らしさが際立っています。花壇の手前側に植えたチューリップの原種‘アルバコエルレアオクラータ’が。あまり目立つ花ではありませんが、花が少ないこの持期に花を発見する楽しみを提供してくれています。 ◆日陰(南側) 低木はまだ葉を出していませんが、株元では常緑の植物たちが瑞々しく葉を展開。まだ深みのある緑葉が多い中で、ワイルドチャービル(下左)のライムグリーンの葉がひと際明るく存在感を発揮しています。可憐な花を下げるクリスマスローズ(下右)とともに、道行く人の目を引き、ところどころに差す光が林床を思わせています。 ◆こだわりのプランツタグ シンプルで見やすくて主張しすぎない、そして朽ちにくい素材のものとして、黒い金属板のタイプを採用。 コンテストガーデンDfeeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~ ◆今回の作業①雑草取り 除草したものは後方に設置したコンポストの片方に入れる。ある程度積み上がったら、開いている側に切り返し(かき混ぜて空気を取り込む作業)を行い、腐食を促す予定。 ②植物苗追加植栽 年内に入手できなかった植物を追加で植栽(ラナンキュラス・ラックスシリーズ、ユーパトリウム‘ベイビージョー’、ニホンムラサキなど)。福岡のちびっ子も上京して参加(下)。 ③切り戻し(グラス、低木など) アナベルなどの低木類は、生産者のレクチャーの元、花が咲く時期の樹高や花のつき方をイメージして切り戻しの高さを調整しながら剪定。グラス類の中でも、スティパとカレックスは、切り戻さず透かし剪定を行い、ボリュームを調整。剪定くずは雑草同様にコンポストに入れる。 ◆2月下旬のガーデンの様子 ■日向(北側) 細い溝で分けられたいくつかのゾーンに植え込みには、今か今かと待ちわびているさまざまな宿根草が確認できます。ガーデンの手前では、よく道端で見かけるオオイヌノフグリをイメージして、丈が低く華奢なベロニカ‘オックスフォードブルー’を植栽。のどかな風景を連想させています。チューリップがあちこちで芽を出しており、春本番にはぐっとにぎやかになることでしょう。 ◆日陰(南側) まだ枯れ木状態の落葉低木を背景に、一足早く宿根草や球根類が芽を出して成長を始めていいます。その陰陽の対比が、これからの競演を期待させています。また、大きく葉を広げるツワブキやリョウメンシダが、日向のガーデンとはひと味もふた味も異なるダイナミックな野趣を演出しています。 ◆こだわりのプランツタグ 間伐材を加工して作成し、日向・日陰、それぞれの雰囲気に合うように2タイプ用意。日向には木の無垢地に黒文字で、日陰には黒く塗った地に白文字で植物名を表記しています。又どちらもハンギングタイプで高さを出し、植物名が調べられるようQRコードをつけています。 コンテストガーデンE武蔵野の“これから”の原風景 ◆今回の作業①雑草取り/カットバック ススキやフジバカマなど地上に枯れた姿を残していた植物を切り戻し、春の芽吹きを促す。冬季には地上から姿を消す宿根草が大部分を占めており、それぞれの芽吹きを観察できるよう今回は雑草を抜く。 ②苗の補植 12月になかなか思い通りの株が手に入らなかった、クサソテツやフウチソウを植え付け。 ③バイオネスト設置 神代植物公園内で発生した剪定枝を材料にして、日向・日陰それぞれ異なる樹種の枝でガーデン後方に設置。枝のしなり方が違うので、作り方や仕上がりの見え方もやや異なっています。バイオネストの底には、植物ごみの減容、減量を促す自作の基材(モミガラ、落ち葉、コメヌカを発酵管理したもの)を敷き込んでおく。 ④マルチング 昨年末に、完熟バーク堆肥を3cmほどかぶせていましたたが、細かすぎて風で飛んでしまうこと、今後保湿効果が薄いことを懸念して、重みのある腐葉土を追加で2cmほど、全体にかぶせました。 ◆2月下旬のガーデンの様子 ■日向(北側) 選んだ野草類は成長速度が穏やかなものが多く、まだガーデンに大きな動きは見られないですが、土中の見えないところでは、確実に小さな芽は成長しています。部分的に成長が早い植物もあるので、それを見つける楽しい時間です。ガーデンの手前側では、ノアザミ(寺岡アザミ)と原種のチューリップ・トルケスタニカがほかより一足先に成長を進めていました。 ◆日陰(南側) 日陰側も主だった成長はまだまだのようですが、ガーデンの中央高台ではディアネラ‘ブルーストリーム’がオーナメンタルな存在感を放ち、背後ではタマシダがつややかな葉を広げています。また、多くの野草が眠るなか小さなフクジュソウが見頃を迎え、春の到来を告げていました。 ◆こだわりのプランツタグ 木材に植物名と学名をレーザー加工で記したオリジナルのプランツタグです。地域内での資源巡回を目指し、使用した木材は近所のオーダーメイド材木屋『ティンバークルー』で長く使っていなかったサクラ材を用いて製作しました。表記はシンプルに和名と学名のみにして、データを作成し、レーザープリンターで印刷しました。 コンテストガーデンを見に行こう! Information 東京都・神代植物公園を舞台に行われている「第2回 東京パークガーデンアワード」。5人のガーデンデザイナーが日向と日陰のガーデンづくりにチャレンジし、趣の異なる10のガーデンを観賞することができます。いつでも自由に見学可能。日々表情を変えていくプロによる植栽を見に、ぜひ訪れてください。 都立神代植物公園(正門手前プロムナード[無料区域])所在地:東京都調布市深大寺元町5丁目31-10https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/電話: 042-483-2300(神代植物公園サービスセンター)開園時間:9:30~17:00(入園は16:00まで)休園日:月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日が休園日、年末年始12/29~翌年1/1)アクセス:京王線調布駅、JR中央線三鷹駅・吉祥寺駅からバス「神代植物公園前」下車すぐ。車の場合は、中央自動車道調布ICから約10分弱。
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ガーデン&ショップ
吉谷桂子さんのガーデン「the cloud」から学ぶサステナブルな庭づくり⑤ ~ガーデンデザインの指標~
吉谷さんのデザインの原点とは? 代々木公園に向かってユニークに広がる雲形の花壇。‘クラウド(雲)’は、吉谷さんが公園の上に広がる空から発想を得たものだが、この配置は、環境条件やメンテナンスのしやすさを踏まえながら、美しい修景デザインとして成り立たせている。 「私がデザインにこだわるのは、父がバウハウス(*注)の影響を色濃く受けた近代デザインの建築家であったことが大きかったと思います。両親の仲人をつとめてくださったのは、日本大学芸術学部長だった山脇巖教授ですが、彼はドイツのバウハウスに留学し、ミース・ファン・デル・ローエ氏、ワシリー・カンディンスキー氏らに学んだ日本人で唯一の卒業生。バウハウスの造形理論を教育に導入し、日本のデザイン教育の方向に重要な役割を果たした方です。父が教授に影響を受けたことから、今思うと、食卓で交わされるデザインの良し悪しについての会話も、基本となるものはバウハウス的なスタイルで、我が家の家風になっていたように思います」 創設者で建築家のヴァルター・グロピウスによって設計されたバウハウスの校舎。シンプルで直線的な建築と丸みを帯びた「BAUHAUS」のロゴが、その理念を象徴している。Claudio Divizia/Shutterstock.com *注「バウハウス」とは第一次世界大戦後の1919年、ドイツ・ワイマールに設立され、「デザインは、シンプルで合理的・機能的であること」という理念のもと、建築・美術・工芸・写真など、デザインの総合的な教育を行った機関のこと。ナチス侵攻による経済情勢、政治的混乱で、1933年に閉鎖を余儀なくされる。短い期間だったにもかかわらず、バウハウスの美学は現在も色あせることなく、建築家やデザイナーをはじめ、芸術家に大きな影響を与え続けている。 左/実家の台所(1950年代)。右/父が設計した庭の図面(1946年)。 「そんな経緯もあって、子どもの頃からバウハウス関連の本のほか近代デザインに関する資料に囲まれて育ち、高校・大学の美術教育もバウハウスの教義が基本になっていたように思います。ヴァルター・グロピウス(ドイツの建築家でバウハウスの創設者)やヨハネス・イッテン(スイスの芸術家、理論家、教育者)、モホリ・ナギ(ハンガリー出身の画家、写真家、造形作家、デザイン教育者)らが書いた造形教育の基礎本は、50年以上経った今も時々読み返すと、さらに理解を深めることができたりするのに驚きます」 「ティーンエイジャーの頃から学んでいた20世紀のデザイン概論。今見ても役立っています」と吉谷さん。 左/吉谷さんが幼少期に愛用していた三輪車は、お父様からもらった飾りのないミニマルなT型デザインだった。これ以上も、これ以下もないデザインを愛するベースとなっていた。 右/吉谷さんがプロダクトデザイナーとして活動していた頃にデザインした‘無印良品’の三輪車。子ども用でも「シンプルでいながら美しく機能的である」ことを貫いている。 「今の私の作風は多要素なので、意外に思われるかもしれませんが、80年代の初めヨーロッパに3カ月間の美術修行に行くまでは、『Less is more(レス イズ モア)』が若い頃の私のキーワードでした。父のもっとも尊敬する20世紀に活躍したドイツ出身の建築家、ミース・ファン・デル・ローエが残した言葉で、『少ないほうが豊かである』ということを意味しています。建築家としての信念『シンプルなデザインを追求することにより、より美しく豊かな空間が生まれる』が表れています。おそらく、ティーンエイジャーの頃から耳にこびりついているのでしょう」 バウハウスのデザインによるポスターやファニチャー。色が限定されているのが分かる。Martine314/shutterstock.com 「近年、バウハウスの考えるデザイン“余計な装飾を排除した、シンプルで機能的な美しさ”や、モダンデザインベースの美術からインスピレーションをもらうことがさらに増えています。若い時になんとなく分かっていたことが、今になってしっくりときたり…」 ガーデニングへの生かし方 「バウハウスにおける造形教育の基礎理論のひとつである『‘点・線・面’をいかに美しくコンポジションするか』は、建築や絵画に限らず、ガーデンデザインのビジュアル表現にもいえること。この理論は私の中にずっとあったのですが、ガーデンの構造だけでなく、植物の配置、植栽デザインにもいえることだと思います」 ※コンポジションは、もちろん、‘点・線・面’だけではありませんが、平面構成の基礎として、簡潔で分かりやすいので、例にしています。 さまざまな‘点・線・面’のフォルムで構成されている植栽はドラマチックで、見る人を飽きさせない。 「20年近く前、オランダのガーデンデザイナーであるピート・アウドルフ氏の本が出版され、彼も同じような考えでガーデンを構成しているのだと思ったとき、おかしな言い方ですが『それなら知ってる!』と、非常に感銘というか同調したのを覚えています。大いに影響を受けた、彼の植物の組み合わせの基本パターンは、私なりの解釈で今も応用しています」 カラフルで美しいピート・アウドルフ氏の図面。ピート・アウドルフ氏のアトリエ訪問にて。 「20世紀のイングリッシュガーデンでは、イギリスの園芸家、ガートルード・ジーキル氏の影響も大きく、特にカラースキームが注目されていました。ジーキル氏の場合は、造形よりも色彩や光を重んじて植栽を絵画的に表現するため、それまで以上に印象派の絵画的な色づかいを庭づくりに取り入れています。ジーキル氏の仕事は、彼女が尊敬したターナーの絵画もそうですが、『造形よりも色彩や光の表現の美しさ』を重視しています。 私はガーデニングをやり始めた当初、それに大きく影響を受けましたが、正解は1つではありません。デザインをする際に、何を重要視するかによって、生まれる作品は異なってくると思いますが、完成度の高い絵画的な感性や、それを理解しようとする美意識が必要だということです」 イギリスの自宅で庭づくりをしていた1993年頃。植物の形について考えていなかった。 「実は30年ほど前、イギリスで自宅の庭を作っていた頃の私は、衝動買いした植物を先着順に庭に植えたりして、たくさんの失敗をしてきました。日当たりや水はけ、地面の乾湿問題は重要ですが、それだけを優先した植物の配置や、ただ、手に入った植物を先着順に植えても庭は絵になりませんね」 ガートルード・ジーキル氏が手がけ復元された庭の1つ、「ヘスタークーム(Hester Combe Gardens)」(イギリス、サマセット州)。 Tom Meaker/Shutterstock.com 「21世紀の宿根草ガーデンでは、“植物への視点の多様化”が加わったように思います。以前は季節限りの花の色・形自体を愛でていましたが、現在は植物のあらゆる表情や質感も注目するようになりました。例えば、花後のシードヘッド。その造形美や力強さはとても魅力的です。芽出しから枯れるまで季節ごとに異なる植物の魅力が発見できれば、植物の奥深さに触れることもできるはず。常にピークの状態を維持する必要はないので、持続可能ともいえるでしょう。 デザイナーはエコロジストでもあるべき今の時代、花の満開の時だけでなく、植物のあらゆる魅力をガーデナー各自の視点で発見し、それを個性として多様に表現できればいいと思います」 吉谷さんがデザイン時に意識する、植物のフォルム 植物のハーモニーを考えるとき、それぞれが持っている造形と、組み合わせの基本が分かっていないと、似て非なる植物がぶつかりあって景色がゴチャゴチャしたり、散漫に見えてしまいます。それぞれの植物が持つ美しさで互いを引き立て合うために、下記のことを知っておきましょう。必ずしもすべての植物が当てはまるわけではありませんが、ある程度の座標にしてみると分かりやすいでしょう。 植物のフォルムのハーモニーを楽しむためのフォルムパターン ❶ ボウル:球形もっともシンボリックな花の形、その大きさでアクセントになり、花の最盛期は庭の眺めの核になる。 ❷ アンブレラ:傘形花の形としては、もっとも彫刻的な造形。眺めに変化を与える。 ❸ スパイク:尖塔形ボウル型の花に対し、もっとも対照的な引き立て役。庭の景色をシュッとした感じに引き締める。直立し、庭が片付いて見える効果をもたらす。 ❹ ドット:点小さな点の集合は多くの場合脇役となる。大きなボウル型やアンブレラ型の花がアクセントプランツとすれば、ドット型の花はフィリング・間を埋める役目に。切り花でも凡庸だがカスミソウがバラの脇役に使われるようなイメージ。 ❺ デイジー:菊形(花びらが独立して見える)大きなボウル型に準ずるが、大型のエキナセアの花のような存在感を持つ。ガーデンのアクセントプランツになるので、眺めの前方に植える場合が多い。 ❻ プリュム:羽根のようなフワフワした形ドット型とも役割が似て、フィリングプランツになる場合が多い。例えば、フィリペンデュラ・ベヌスタのように背が高くふわふわしているものは、写真でボケの効果があるので後方に植える場合が多い。 この6つだけではありませんが、代表的な形で分けています。これらをバランスよく組み合わせて配置していくことは、『‘点・線・面’のコンポジション』の考え方と同じこと。ボリューム・大きさなど効果的な配分で美しく構成していきます。 計画・イメージ(上)と実際(下)のアートフォルム。実際にまったくその通りにならなくても、設計段階でフォルムのコンポジションを考えて植栽設計をするとよい。 オーナメンタルグラスは、育ち方のフォルム全体のデザインをベースにする(地中の根も同じように広がる想定を)。※バウハウス的平面構成を意識して吉谷さんが描いたオリジナルのイメージ図です。 フォルムの違いを生かした植栽シーンバリエ 背景にスパイク型の高く伸びるカラマグロスティス‘カールフォースター’❸、手前にアンブレラ型のオミナエシ❷を配した、華はないものの野趣あふれるワンシーン。 幻想的に広がるプリュム型のヒヨドリバナ❻とやや形の崩れたアンブレラ型のオミナエシ❷の中に、ルドベキア・マキシマのデイジー型の黒いシードヘッド❺が、ピリリとしたアクセントになっている。 ボウル型のアリウム‘パープルレイン’❶がこの時季の主役。その周りのセントランサス・コキネウス・アルバが、点々と繰り返すドット型❹から、やがて花が咲いてタネができるとふわふわとしたプリュム型❻となり、主役の引き立て役に。 ボリュームたっぷりのヒオウギ❹のドットが、エアリーなプリュム型のディスカンプシア‘ゴールドタウ’❻を手前でどっしり支えつつ、線形の葉が植栽をシャープに引き締めている。 花が咲く位置より下方の枝葉に個性のないエキナセア❺を補うように、手前には、がっちりしたフォルムのハイロテレフィウム(オランダセダム)❹を配置。その背後に奥の景色を透かすようにエアリーなディスカンプシア❻が茂っています。手前にがっつりアクセントを据え、途中に丸い花の彩り、背後にシードヘッドが美しいグラスが風にそよぐという典型的な三段構えの組み合わせ例。 日本のガーデニングは次の時代へ 5回にわたる連載でご紹介してきたモデルガーデン「the cloud」(2023年7月中旬)。 バウハウスの「造形で造るシンプルな美しさ」を幼いころから肌で感じ、10代で理論を学んだ吉谷さん。世界に共通するデザイン理念を日本のガーデニングに取り入れて実践する第一人者といえるでしょう。デザインにおける指標を先人から受け継ぎ、自身のエッセンスを加えながら新たな世代に指標をつなぐという次のステップへ。 第2回でご紹介したメンテナンスフレンドリーのためのガーデンデザイン法と併せて、ぜひ皆さんも実践してみてください。チャレンジすることから、吉谷さんが行うガーデンデザインの意図を知る一歩になるのではないでしょうか。 今年春から「浜名湖花博2024」が開催される「はままつフラワーパーク」では、“足元から頭上まですっぽりと自然の美に包まれる新感覚・没入体験型”の吉谷さんデザインによるガーデンが披露されます。また、4月6日(土)&7日(日)には、吉谷桂子さんのトーク&ガーデン巡りや、SDG’sな寄せ植え教室も開催されます(ご案内サイトはこちら。お申し込み開始は3月15日から定員になり次第終了)。ぜひ、最新のガーデンを見にお出かけください。 詳しくは、「浜名湖花博2024」ホームページをご覧ください。
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吉谷桂子さんのガーデン「the cloud」から学ぶ“ナチュラリスティックな庭づくり”④ ~ガーデン環境整備について~
ガーデンづくりは、環境にも自分にも優しいメンテナンスフレンドリーで 園路が入り組んでいる雲形の花壇は、お手入れしやすいことに配慮されたデザイン。 気象変動と自身の体力と向き合いながらガーデンをつくるには、下記の3つを意識して自然といかに仲よくしながら楽しめるかがカギ。 1. メンテンスが楽・容易 2. 生物多様性/脱化成肥料・無農薬 3. 耐久性・永続性・丈夫で長もち・長生の宿根草に注目 西日に輝くミューレンベルギア・カピラリスが存在感を放つガーデン/11月 実際に「the cloud」で行われた最小限のメンテナンス 植え付け後の様子を確認する吉谷さん/12月 植物の生命力を信じて、ここぞというタイミングで最小限で行いました。「目指す所は、彼らのコロニーを作り、植えっぱなしで手を加えずに育っていく環境を作っていくこと。『トライ&エラー』。今までにない気候変動によって起こる予測不能な問題にも、都度あきらめず、自然に寄り添う気持ちでいきましょう」と吉谷さん。 ① 灌水 特に雨が少なく乾燥しやすい冬~春はしっかり行います。植え付け1年目の宿根草は、未成年者のような存在。保護者として、最初のうちは植物から目を離さないことが必要。のちのち、放ったらかしにできるのを目標にしています。 初年度ということもあり、雨量を測るカップを設置。今後の目安データとして役立てる。 丘の頂上には水やりチェッカー「サスティー」を挿して水分量を目視。 ② 剪定・切り戻し(カットバック) 近年は春の急激な気温の上昇で植物の成長が早く、5月を過ぎるとあっという間に株が茂りすぎてしまいます。そのままでは夏に蒸れてしまいそうな植物は、思い切って夏前に伸びた株の枝葉を切り戻す、オーバー・グロウ・カットバックを行います。イギリスでは5月下旬にチェルシー・フラワーショウが始まりますが、そのタイミングで切り戻す作業のことを“チェルシー・カットバック”と呼んでいました。関東地方以西の温暖な地域では、ヨーロッパより気温が高いので、品種にもよりますが、ゴールデンウィーク後にカットバックしてもよいでしょう。 また、前年から冬越しした宿根草の立ち枯れた枝やシードヘッドは、2月中旬までに切り戻します。この作業を、“アーリースプリング・カットバック”といいます。また、3月から出てくる新芽が成長して、生命の再スタートです。 オーバー・グロウ・カットバックが必要だった植物:バーベナ・ボナリエンシス、エキナセア、モナルダ、デスカンプシア‘ゴールドタウ’ アスチルベは1度しか花が咲かないので、花穂は切り取らず、そのまま秋までシードヘッドを楽しむ。 ③ 施肥 基本的に施肥は行いません。その代わり、冬に完熟堆肥で花壇全体を覆うことで、微生物の働きを促します。堆肥は肥料分となりながら表土の温度や湿度をコントロールしてくれるほか、乾燥から防ぐ役割も担ってくれます。 しかし、生育が旺盛なアガパンサスのように、花を咲かせるのにエネルギーと肥料が必要なものには、春先に固形の有機堆肥を施しています(アガパンサスのみ)。 植え付け直後、12月のアガパンサスの様子。黒い完熟堆肥と緑の葉とのコントラストが美しい。 ④ 病害虫対策 化学的な薬品は使用しません。 害虫/どうしてもイモムシ・毛虫はついてしまうもの。吉谷さんはこれも生物多様性だとして許容。「蝶もいれば益虫・害虫もいます。被害の可能性の高いコガネムシなどは捕殺しますが、アゲハの幼虫などは見守り、テントウムシやカマキリの安住の地となるような場所を目指しています」と吉谷さん。 病気/まず病気が出ないように環境を整えることが大切。なんといっても風通しが大切なので、蒸れる恐れがある梅雨や夏前に株間を透かすなどの剪定を行う。 【蜜源植物 ベスト3】 花の蜜で虫たちを呼ぶ蜜源植物を集めました。セリ科の植物はアゲハの幼虫の被害にあいやすいのですが、この眺めを楽しむ気持ちで見守っていました。 左/アンジェリカ‘ビカースミード’(セリ科) 中/ミソハギ(ミソハギ科) 右/バーベナ・ボナリエンシス(クマツヅラ科) エキナセアのシードヘッドの先で休む赤トンボ。「トンボは食害しないうえ、ヤブ蚊を食べてくれているんだと思うと、ちょっと嬉しいかな」と吉谷さん。 ⑤ 雑草対策 花後に早々と地上部が枯れるイフェイオンは、丈夫な上に愛らしい花を咲かせる優秀なグラウンドカバー。ニゲラもこぼれ種で増えているが、増えすぎないのが◎。オルラヤは侵略的すぎるので、避けているのだとか。 実生の雑草は放ったらかしにすると抜けにくくなりますが、双葉が出た頃なら割りばしなどでかき出せば簡単に抜けます。それまでが勝負。宿根草が小さい初年度は、雑草に負けないようにこまめにチェックします。 初年度。11月に植え付けたニゲラが、その他の宿根草などの間を埋めていたが、これでも株間が狭く、翌春は大きくなって間引きが大変だった。 除草になるべく手間をかけないための予防策としては、雑草が生える余地がないように、宿根草の間にニゲラや5,000球のイフェイオンを植えてカバーしています。マルチングしている堆肥は雑草予防にもなっています。 メンテナンスフレンドリーにするにはまずは土壌環境を整えること! 植物が気候変動のストレスを受けにくく、エコフレンドリーで美しく健やかなガーデンに育てるためには、日当たりや風通しなどの『生育環境』を整えることは大前提ですが、それと同様に重要なのは『土壌の状態を整えること』。「育て方が最重要と思われがちですが、考えるべきは『土壌環境、庭の構造(高低差や水はけ・日当たり)、植物選び、その植え方、育て方』の順番です」と吉谷さん。 しかし、最初から思いどおりにはならないので、気分はいつでも『トライ&エラー』。今までにない気候変動により起こる問題に、都度あきらめずに立ち向かうことが必要。 完熟堆肥のふかふかな布団がかけられた花壇。葉の瑞々しいグリーンとのコントラストも楽しめる。 【土壌の状態を整える】 「the cloud」では、水はけなどを改良しつつ、「いかに微生物を育てて土壌環境を豊かにするか」を意識して花壇が作られています。 ◆植え込み前30cmの深さまで掘り起こし、ワラ、炭、剪定枝ほか有機物を基本の土全体に混ぜ込んで酸素の豊富な構造に。 深さ約30cmほど耕し、ワラや剪定枝、炭などを投入。 花壇内に20~30cm間隔で直径約10cm、深さ30cmほどの穴をあけて直径6cmの有孔管を挿し込み、筒の中にはくん炭を入れて、通気・浸透・排水を確保。ゲリラ豪雨や長雨に備える(環境デザイナー・正木覚さんのアドバイスによる)。 棒が立ってるのは空気孔をあけた場所(棒は後で抜いています)、植え升の裏側(日陰側)でジメジメしやすく、正面から見ても、目立たないところに有穴パイプを埋めてあります。土中に酸素が届き、嫌気が溜まらないように。 ベッドに高低差をつけ水捌けや風通しは、植物の乾湿の好みに合わせて植栽デザインをした。 ◆植え込み後完熟堆肥を全体に厚み3cmほどかけてマルチングをする。 ◆様子を見て適宜完熟堆肥を株間にマルチング(11月頃)。こうすることで土壌の乾燥を防ぎながら、土中の団粒構造を保ち、保水性・排水性・保肥性が高まります。また、微生物の多様性が豊かになることで、病気の発生を予防することにもつながります。 「土中の微生物の多様性が保たれている = 病気の発生しにくい健全な土壌」 8月下旬の「the cloud」。酷暑を元気に乗り切った植物たち。 日本の園芸界も次なるステージへ 審査員をしながら「the cloud」を手掛け、自身も思わぬ問題に直面しながらも新たなガーデンの在り方を示してくれた吉谷さん。エコロジカルな植栽システムの構築を目指しつつ、日本の園芸界を次なるステージに牽引する、ガーデンエコロジストでもあります。 「厳しい気候変動の影響もあり、2023年の夏は、その前年に予想していたよりもさらに厳しく、これまでの観測史上最も暑い夏と言われました。地球沸騰の時代が到来。地獄の門を開けたと言う科学者もいます。そんな深刻化する気候下で、ガーデニングは私たちが、自然との共存について考える大切な機会となるはずです。 諦めるのではなく、発見とアイデアで乗り越えていく道は多様性に富んでいるはずです。庭をデザインするうえでは、まず構造デザインが先ですが、次に大切なのが植物選び。今後はそうしたことを共に体験しながら、共に学ぶ「メンテナンスフレンド=メンテナンスフレンドリーに、ガーデン管理に誇りをもって携わる若いガーデナーや、植物に関わることを生きがいに感じられる人を増やしていきたい」と、人材育成プログラムにも意欲を燃やしています。 次回は、ガーデンデザイナーとして吉谷桂子さんが庭づくりをする際に指標としていることをお伝えする最終回です。
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「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園 」ガーデナー5名の“庭づくり”をレポート!
彩り豊かな庭をつくるためにガーデナーが踏まえておく条件とは 2023年、画期的な試みとして大注目を浴びた「第1回 東京パークガーデンアワード」。2回目となる今回は、神代植物公園のプロムナード両脇の植栽エリアを活用して、コンテストガーデンが設けられました。以前ここはツツジや笹が列植する緑一色だったという場所だけに、花でどんな彩りがプラスされるのか期待が高まります。 北側に並ぶ日向の花壇(写真左)と、南側に並ぶ日陰の花壇。どちらの背後にもシラカシが列植されている。 コンテストガーデン区画(花壇)は、事務局にて既存地盤の上に盛土(厚さ40cm)を行い、土留め用の木材で囲った状態で引き渡しされました。基礎土壌は(上層20㎝が多孔質人工軽量土壌/下層10cmが黒土)が用いられていますが、ガーデナーは自身が表現したい植栽が健全に育つために、ガーデン制作時に土壌改良・施肥などをすることは可能です。 【ガーデン制作にあたり、デザイナーが踏まえておくこと】 ◼️ガーデンのテーマは「武蔵野の“くさはら”」とし、多年生植物をメインとしたガーデンを制作すること。◼️国内市場で流通している植物のみ使用可能(採取した植物は使用できません)。◼️主たる植物は多年生植物を使用。容易に制御が可能な、草本類に近い木本類は使用可能(全ての植物は高さ2m以内に限る)。◼️構造物やガーデンオーナメント等の設置は不可。植物のみで構成すること。 「第2回 東京パークガーデンアワード」【12月】第1回作庭 各ガーデナーの植え込みの様子をチェック。ガーデナーの経験値が頼りになる5者5様の土壌づくりにも注目を! コンテストガーデンAGrasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜 古橋 麻美さん率いる作庭メンバーの皆さん。 ◆使用資材◆ 土壌改良材:完熟堆肥(ガーデンプレミアムコンポ)、バーク堆肥排水確保:燻炭(ピノス)マルチング:杉皮バーク堆肥(ガーデンモス)元肥:有機肥料バットグアノ ◆土壌を整える◆ 土壌中の有機物を増やし微生物を活性化するために、バーク堆肥と完熟堆肥(ガーデンプレミアムコンポ)の2種類を混ぜながら耕す。 日向・日陰それぞれの花壇に水抜き穴を15カ所あけ、燻炭を入れる。 デザインに基づいて、溝や起伏を作る。 ◆植え付け◆ 苗を配置確認してから植える。 カマッシアやダッチアイリス、シラー、クロッカス、スイセンなどの球根を植え、グラス類以外の宿根草を植える場所に、有機元肥としてバットグアノを軽く混ぜ込む。 ◆マルチング&その他仕上げ◆ 左/杉皮バーク堆肥で全体にマルチングをする。右/植えつけた場所にそれぞれの植物名を書いたネームプレートを挿す。 【植え付け完了】 ■日向(北側) ■日陰(南側) 【メンテナンス時の発生材について】 左/日向・日陰とも花壇の後方に剪定枝で形作ったバイオネストを設置。右/雑草や切り戻した植物は、溝部分にも混ぜ込んでいく予定。 切戻しなどで出た病気にかかっていない枝葉は、なるべく細かくしてマルチングとして利用します。もしくは後方にバイオネストを作り、夏の間堆積し発酵を促した後、土壌に漉き込みを行う予定です。雑草も同様で、一年草は後方へ堆積。宿根性の雑草(ヤブガラシ、ドクダミ、ササなど)が出てきた場合、根は処分したいと考えています。 コンテストガーデンB花鳥風月 命巡る草はら メイガーデンズ、柵山 直之さん率いる作庭メンバーの皆さん。 ◆使用資材◆ 土壌改良材:腐葉土、もみ殻燻炭、バーミキュライト、ピートモスマルチング材:腐葉土、一部に剪定生チップ溝に入れ込むもの:鉢底石元肥:発酵腐葉土ぼかし、一部に有機肥料バイオゴールド ◆土壌を整える◆ 左/トラックから荷物を降ろして、自身の区画に運ぶ。右/デザインに基づいてラインを引き、位置確認をする。 左/保水性・通気性を高めるための資材(腐葉土:微生物の餌でありミネラルの元となる、もみ殻燻炭:アルカリ性ミネラルで微生物の住処になる、ピートモス:酸性ミネラルを補う、バーミキュライト:保肥力を高める)を投入する。右/水を注いで排水状態を確認。 左/1㎡単位水糸を張り、デザインに基づいて溝や起伏をつける。右/土壌全体に発酵腐葉土ぼかしを混ぜる。 ◆植え付け◆ 左/苗を置いて全体のバランスを確認してから苗を植える。右/水はけのために、溝の端部を深く掘り、鉢底石を敷きこんだ。 植えた苗の間に、スイセン、原種チューリップ、ダッチアイリス、カマッシアなどの球根を植える。 ◆マルチング◆ 花壇全体の表面を腐葉土で覆う。 【植え付け完了】 ■日向(北側) ■日陰(南側) 【メンテナンス時の発生材について】 ・雑草や剪定残渣は粉砕し、マルチング材として花壇に使用する。 ・簡易なインセクトホテルを制作し、今後刈り取ったイネ科の茎を詰め込んだテントウムシの冬越し場所を設けたい。 コンテストガーデンC草原は、やがて森へ還る。 吉野 ひろきさん率いる作庭メンバーの皆さん。 ◆使用資材◆ 土壌改良材:真砂土、バーク堆肥(炭入りコンパ)、竹炭、燻炭、もみがら、パーライト(ネニサンソ、ホワイトローム)マルチング材: バーク堆肥、落ち葉、杉皮樹皮バーク(しらさぎ難燃マルチバーク)溝に入れ込むもの:剪定枝葉竹、落ち葉、竹、稲藁、元肥:牛ふん、汚泥発酵肥料(タテヤマユーキ1号)、バークその他:プランツタグ、草花固定誘引ワイヤー ◆土壌を整える◆ 左/デザイン図に基づいて線を引いてから、起伏をつける。右/パサパサしている土壌の質を変えるため、関西で使われることが多くてやや重みのある真砂土、排水効果を高めるパーライト、団粒構造を作りながら維持するバーク堆肥、保水性や通気性を高めるもみ殻や燻炭を混ぜ込む。 左/溝に、空壁があって微生物が住み着きやすい竹炭を敷いてから樹木の枝を入れ込む。枝はモミジやカナメモチ、マキ、ウメなどで、これらを敷きつめることで空気や水が通りやすくなる。太さ・長さ・落葉性・常緑性にさまざまなタイプを投入することで腐食時間がまちまちになり、さまざまなバクテリアが発生しやすくなる。また、こうすることでこの溝に向かってまわりの植物の根が動き、土中環境を活性化させる。右/植え付ける場所に、肥料分として汚泥発酵肥料(タテヤマユーキ)、牛糞、バーク堆肥を混ぜる。 ◆植え付け◆ 配置図を確認しながら苗を配置し、1ポットずつ順に植え付ける。 原種チューリップやクロッカス、スイセンなどの小球根や大きめのアリウムの球根を、苗の合間に植える。 ◆マルチング◆ バークを敷きならしたのち、落ち葉、杉皮樹皮バーク(しらさぎ難燃マルチバーク)でカバーする。 【植え付け完了】 ■日向(北側) ■日陰(南側) 【メンテナンス時の発生材について】 ・ガーデン内の草花の各群落の間、地形の緩やかな起伏に合わせて、その間を縫うように深さ10~20cm、幅は10cm程度の溝を張り巡らせ、水や空気が通る道を作った。溝や穴には、主に有機物植物の枝葉が絡みつくように寝かせ、そこに落ち葉や竹炭、燻炭、微生物活性汚泥、バーク堆肥などを混ぜておく。こうすることで、ガーデン内の土壌の保水性・通気性・透水性を高め、土壌微生物の増殖をも促すので、植物の根系の成長が活性化されるものと考えている(作庭当初はこの溝が多少目立つが、やがて草花が覆い隠すので、気にならなくなる)。 ・メンテナンス時に発生した花がらや枯草、剪定枝、除草した草などは溝に漉き込むほか、落ち葉などとともにマルチング材としても再利用する。森の地面が落ち葉で深く覆われているように、表層を自然の野山と同じ状態にする。 ・発生有機物をすべてガーデン内で循環利用し、やがて土へ還り植物たちの栄養へと再び還元されるゼロエミッションな計画を考えている。 コンテストガーデンDfeeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~ 藤井宏海さん率いる作庭メンバーの皆さん。 ◆使用資材◆ 土壌改良材:腐葉土マルチング材:腐葉土元肥: 食品リサイクル有機質堆肥(ミラクルバイオ肥料FDS)、鶏糞有機発酵堆肥(アミノ有機)その他:樹名板(間伐材を加工した花名板を設置予定) ◆土壌を整える◆ 既存の土が肥性に優れた黒土と透水、通気性に優れた改良土(エコロベースソイルCAプラス)だったため、腐葉土を混ぜ込んで耕運機で耕うんして微生物の働きで団粒構造のあるフカフカな土にする。 黒土はリン酸が欠乏しやすそうなので、鶏糞を発酵させた有機発酵堆肥(アミノ有機)を耕運機でまんべんなく混ぜ込む。 水糸を張ってグリッドを作り、デザインに基づいて溝や盛り上がりを作る。グラス系の植物を植えこむ場所を盛り上げ通気性、排水性をよくする。花を植える部分には食品リサイクル有機質堆肥(ミラクルバイオ肥料FDS)を混ぜ込む。 ◆植え付け◆ 左/グリッドを生かして苗を配置し、植えていく。右/アリウム、チューリップ、オーニソガラムなどの球根を植え込む。 ◆マルチング◆ 武蔵野の黒土の色をイメージして、溝も含めて全体的に腐葉土で覆う。 【植え付け完了】 ■日向(北側) ■日陰(南側) 【メンテナンス時の発生材について】 ガーデン管理で出た剪定くずは、堆肥ヤードで堆肥化しマルチング材として活用し、ガーデン内で資源の循環を図る。微生物がより活発に活動がしやすい環境を作るために、枝や葉をヤード内に混合させる。 コンテストガーデンE武蔵野の“これから”の原風景 清水一史さん率いる作庭メンバーの皆さん。 ◆使用資材◆ 土壌改良材:完熟落ち葉堆肥(五段農園/岐阜県)、鹿沼土(刀川平和農園/栃木県)マルチング材:バーク堆肥(上田林業/滋賀県)、腐葉土(岡部産業/東京都) ◆土壌を整える◆ 左/既存の人工土壌と黒土の層が混ざり合うように、耕運機で念入りに耕してから均す。右/人工土壌がややアルカリ性なので、在来の野草がよく育つ弱酸性に傾けるために鹿沼土を一面に投入し、粒がつぶれないように軽く耕うん。 左/完熟落ち葉堆肥を最後に投入し、軽く攪拌、築山を造成していく。右/完熟した落ち葉堆肥(五段農園)。パッケージは培養土化した商品のもので中身は異なる。 ◆植え付け◆ 水糸を張ってグリットを作り、デザインに基づいて苗を植える。植物1種あたり0.5〜1.5㎡ほどをまとめて植えるブロックプランティングを採用。レイアウトを決めるマーキングにはスプレーなどを使わず、完熟落ち葉堆肥を線上に撒いて行った。 ◆マルチング◆ 目の細かなバーク堆肥を2cm、葉の形がやや残った腐葉土を2cm敷いた。土と植物の本来の姿を見届けるべく施肥は予定していない。 【植え付け完了】 ■日向(北側) ■日陰(南側) 【メンテナンス時の発生材について】 ・植物ゴミ等の現場発生資材を集めて、堆肥とするため“バイオネスト”を設置する。剪定した植物ゴミを投入、巡回時に天地返し。マルチング材として使用する”刈草堆肥”を作成する。 ・バイオネストに資材を投入し、巡回時に天地返しするだけでは“完熟”せずに雑菌や雑草種子、病原菌などの混入が懸念されるため、土壌への鋤きこみには使用せず、マルチングとして活用することを想定している。 ・将来的には、現場発生資材と神代植物公園内で発生する落ち葉を利用し、“完熟”落ち葉堆肥にするコンポストプログラムなども妄想し、ガーデンと公園で資源循環を実現できないかと考えている。 コンテストガーデンを見に行こう! Information 東京都・神代植物公園を舞台に行われている「第2回 東京パークガーデンアワード」。5人のガーデンデザイナーが日向と日陰のガーデンづくりにチャレンジし、趣の異なる10のガーデンを鑑賞することができます。いつでも自由に見学可能。日々表情を変えていくプロによる植栽を見に、ぜひ訪れてください。 都立神代植物公園(正門手前プロムナード[無料区域])所在地:東京都調布市深大寺元町5丁目31-10https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/電話: 042-483-2300(神代植物公園サービスセンター)開園時間:9:30~17:00(入園は16:00まで)休園日:月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日が休園日、年末年始12/29~翌年1/1)アクセス:京王線調布駅、JR中央線三鷹駅・吉祥寺駅からバス「神代植物公園前」下車すぐ。車の場合は、中央自動車道調布ICから約10分弱。
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ガーデン
吉谷桂子さんのガーデン「the cloud」から学ぶ“ナチュラリスティックな庭づくり”③ 〜おすすめプランツ〜
適地適草でレイアウトを植物の性質を調べておこう 「the cloud」は西向きの庭で、背後は神宮の森がそびえて朝日がまったく当たらない。夏の太陽がもっとも厳しくなる左側のエリアは西日や乾燥に強い植物で、黄色やオレンジの花が咲くものが多い。高木の北側にあって日照時間が短い右側のエリアは、半日陰を好む日本の在来種で、ピンクや白の花が咲くものが多い。 ロングライフ・メンテナンス・フレンドリーを目標とした、今までにないガーデン制作を行っている吉谷さん。これまでの経験を活かし、高温多湿に耐えられる日本の在来種を取り入れているのもこのガーデンの特徴です。ただ、長生の植物はゆっくりと育つので、見応えと順応性が最終的に分かるのは3年後と考えて、作庭から1〜2年目は、華やかさが出る短命の宿根草や、初年度からたくさん花が咲く一年草も加えています。 上左/ややしっとりとしたエリアを彩る、ヒオウギとカラマグロスティス‘ゴールドタウ’ (7月)。上右/ベンチ+パーゴラ裏で視線が抜けるのをストップ。ルドベキア・マキシアとヒヨドリバナ(7月)。下/シードヘッドになったペンステモン‘ダコタバーガンディ’の銅葉が植栽に深みを与えつつ、引き締め役として活躍(11月)。 また、吉谷さんにとって丈夫で絶対確実な植物だけでなく、ヨーロッパなら大丈夫だけれど、ここではちょっとどうかな? というチャレンジングなものも入れています。 「全体の約2割がチャレンジプランツです。植物の魅力を知るには常にトライ&エラー。環境への順応は試してみないと分からないし、 ガーデニングは自然との共存について学べる大切なチャンスです。 失敗は決して無駄にはならないはず。いろいろと可能性を考えてトライしてみて」。 最大の合い言葉は「適地適草」まずは、植物の性質を調べておこう! 「植物のセレクトとその配置には理由があり、好きな植物をなんとなく植えてはダメ。簡単ではないかもしれないけれど、エコロジーとデザイン両面の適地適草を前提に、美を備えながら気候の変動にも耐えて長生、行儀のよい植物を見極めて」と吉谷さん。 美しい自然な風景を作るには、「植える場所の環境」と「植物の特性」を把握し、『RIGHT PLANT, RIGHT PLACE (適材適所・適地適草)』で花壇に落とし込むことが大切です。 【チェックポイント】 ・丈夫で風土環境に合っているか?(ただし侵略的でないこと)・四季を通して行儀がよいか?(暴れにくい、倒れにくい、花枯れ後の姿が汚くない・シードヘッドも魅力的であること) ① なるべく長期間生きて、その地に順応するか、花が咲くか?(翌年以降も持続して美しい草姿で、花が咲くこと)② 生物多様性、蜜源植物としても役立ち、病害虫に強いか?(命の循環、病害虫に侵されてもまあまあ復活できること。益虫もやってくるとよい) ふわっとして、エアリーなグラスや、蜜源花の代表、バーベナ・ボナリエンシス。その少し下で花後のアガパンサスやエキナセアのフォルムがアクセントに。その下方手前でアガパンサスの葉群やベンケイソウが植物の株元をしっかりガード/9月 ‘the cloud’で重宝した代表的な植物 36選 ガーデンでさまざまな役割を担った、メンバーの一部をご紹介します。ここで取り上げていない植物たちも、それぞれにいい役割を果たしています。 ■細い葉が魅力のグラス類 透け感抜群。軽やかな穂が風に揺れ、植栽の上部分(奥)で、表情豊かなナチュラル感を強めてくれます。 左/ディスカンプシア‘ゴールドタウ’ 中/ミューレンベルギア・カピラリス 右/パニカム‘ヘビーメタル’ 左/ディスカンプシア‘ゴールドタウ’イネ科草丈:約80cm特徴:穂の観賞期は初夏から。たくさん穂を上げ、細かい黄褐色となる。秋には穂が乾いて色が抜け始めるが、冬も楽しめる。ほかのグラスとは異なり多湿を好む。常緑~半常緑性。 中/ミューレンベルギア・カピラリスイネ科草丈:60~90cm特徴:夏~秋にかけて丈のあるピンクの花穂が大人気。初めはつややかだが、冬には色あせる。丈夫で大きく育つので根の張るスペースが必要。日照・風通し、根張りの場所が制限されると倒れやすく、花穂も上がりにくくなることも注意。 右/パニカム‘ヘビーメタル’イネ科草丈:約160cm特徴:葉がまっすぐに直立する姿はオーナメンタルな存在感がある。葉色は、夏まではメタリックなブルーグリーン、秋に上がる繊細な穂と葉は黄金色に変化して直立性も高い。 左/メリニス‘サバンナ’ 中/カラマグロスティス‘カールフォースター’ 右/カラマグロスティス・ブラキトリカ 左/メリニス‘サバンナ’イネ科草丈:約50cm特徴:ブルーグリーンの葉と秋に葉や穂が赤くなるのも魅力的。丈が高くならず、株もコンパクトにまとまるので狭小地でも楽しめるが、こぼれ種で増えるので、コントロールが多少必要なことも。 中/カラマグロスティス‘カールフォースター’イネ科草丈:100~150cm特徴:葉茎、穂が直立する、ナチュラリスティックガーデン代表のグラス。5月頃から上がるすっきりとしてスリムな穂が魅力。穂が出たあと徐々に黄金色に変わり、冬枯れの姿もオーナメンタルな趣がある。 左/カラマグロスティス・ブラキトリカイネ科草丈:約80cm特徴:日本名はノガリヤス。葉はグリーンで柔らかく扇状に弧を描く。羽根のように膨らむ穂は、はじめは明るいグリーンで徐々にシルバー~クリーム色へと移ろう。倒れにくく丈夫。 ■ボールドで頼りになるアガパンサス 巨大花からコンパクトものまで多種あるヒガンバナ科の球根植物。高温化の夏に負けない頼もしい植物で、‘the cloud’では8種類も植えています。美しい花を咲かせることに加え、常緑の葉が低い位置(花壇の手前)をがっしりカバーする役割も。 左/アガパンサス‘クイーンマム’ 中/アガパンサス‘サマーラブ’ 右/アガパンサス‘ポッピンパープル’ 左/アガパンサス‘クイーンマム’草丈:50~70cm花期:初夏特徴:超巨大多花性タイプで、白花を咲かせる花房は約25cmにもなる。ボリュームたっぷりに花をつけるので華やかな印象。 中/アガパンサス‘サマーラブ’ 草丈:約50cm花期:初夏~秋特徴:葉が細く花首がさほど伸びないコンパクトな品種。花色は白と青があり、春から秋まで咲く四季咲き性タイプ。 右/アガパンサス‘ポッピンパープル’草丈:30~60cm花期:初夏~初秋特徴:ほかの品種よりも株はコンパクトで半常緑性。花色は濃紫で花つきがよく、大人っぽい雰囲気が漂う。 ■日陰気味・湿り気味の場所を彩る植物 ほかの場所とは異なる、しっとりとした趣も出してくれます。 左/アネモネ‘アンドレア・アトキンソン’ 中/シュウメイギク‘パミナ’ 右/アスチルベ 左/アネモネ‘アンドレア・アトキンソン’キンポウゲ科草丈:80~120cm花期:夏~秋特徴:アネモネの仲間でシュウメイギク系のハイブリッド品種。純白の花を夏から秋と長期にわたり咲かせる。耐寒性は強く半日陰向き。土壌が肥沃すぎると徒長して倒伏する場合がある。 中/シュウメイギク‘パミナ’キンポウゲ科草丈:約80cm花期:秋特徴:華奢に見えるが花穂は高くならず、株はややコンパクトで倒れにくく丈夫。発色のよい濃いピンクの花は半八重咲き。 右/アスチルベユキノシタ科草丈:90〜120cm花期:初夏特徴:春に白やピンクの細かい花を穂状につける。夏以降に茶色く枯れた花穂をそのまま残しておくと、オーナメンタルな姿が楽しめる。 ■日本在来種、もしくは古くから親しまれてきた植物 日本の風土に合っていて、とにかく丈夫! 左/ミソハギ 中/オミナエシ 右/ヒヨドリバナ 左/ミソハギミソハギ科草丈:50~100cm花期:7~9月特徴:日本各地の湿原や田の畔などに生えている植物で、湿り気のある土地を好む。やや木質化する茎に、鮮やかなマゼンタピンクの花を穂状にたくさんつける。 中/オミナエシオミナエシ科草丈:60~100cm花期:8~9月特徴:秋の七草の一つで、黄色い小花を平らな散房状にたくさん咲かせる。低い場所で葉を広げるので、雑草が広がりにくい。 右/ヒヨドリバナキク科草丈:40~120cm花期:8~10月特徴:茎の上部の散房状花序に、白色または淡紅紫色の頭花を密につける。山地の林縁に多く自生。野趣にあふれる。 ■銅葉が美しいもの ダークな葉色がナチュラルな植栽をぐっと引き締めてくれます。 左/ベルゲニア‘ダークマージン’ 中/ペンステモン‘ハスカーレッド’ 右/ペンステモン‘ダコタバーガンディ’ 左/ベルゲニア‘ダークマージン’ユキノシタ科草丈:約40cm花期:春特徴:革のような質感で光沢のある厚い常緑葉。春~秋は葉縁に赤い縁取りが入り、晩秋以降は葉全体に赤みが濃くなる。花色はピンク。 中/ペンステモン‘ハスカーレッド’オオバコ科草丈:80~100cm花期:初夏特徴:ブロンズ色の葉がカラーリーフとして楽しめ、白花とのコントラストが魅力。春の芽吹きはより濃色で、花後は暗い緑色になる。タネもシックな印象。 右/ペンステモン‘ダコタバーガンディ’オオバコ科草丈:約60cm花期:初夏~秋特徴:光沢のある赤みがかったダークな葉に、濃ピンクがにじむ花をつける。ペンステモン‘ハスカーレッド’よりも葉が赤黒く、コンパクトな品種。 ■彩りが寂しい春先に毎年咲き続ける小球根 一度植えれば、毎年グラウンドカバーとしても活躍しながら、愛らしい花色で春の到来を告げてくれます。 左/イフェイオン‘アルバートキャスティロ’ 左/シラー・シビリカ 右/スイセン‘テタテート’ 左/イフェイオン‘アルバートキャスティロ’ユリ科草丈:10~20cm花期:早春特徴:可憐な白い星形の花をいっぱいに咲かせる。植えっぱなし可能でグラウンドカバーにも最適。細い青々とした葉は初冬から展開して花後に休眠し、地上部は枯れる。 左/シラー・シビリカユリ科草丈:10~15cm花期:早春特徴:ベルのように下垂した花は非常に可憐で房状に咲く。花色は白と青紫。緑の細い葉は開花前に展開する。 右/スイセン‘テタテート’ユリ科草丈:20cm花期:早春特徴:鮮やかな黄色の愛らしい花を咲かせるコンパクトなスイセン。早春の植栽ににぎやかさを与えてくれる。 ■シードヘッドが楽しめるもの ユニークな造形が、秋の風情を深めてくれます。 左/エキナセア‘マグナススーペリア’ 中/ヒオウギ 右/ルドベキア‘リトルヘンリー’ 左/エキナセア‘マグナススーペリア’キク科草丈:60~150cm花期:初夏~初秋特徴:ライラックピンクの花弁×赤い花心の組み合わせが鮮やか。花径が大きく、夏の植栽に元気な存在感を与えてくれる。花心が乾いて残る。 中/ヒオウギアヤメ科草丈:40~100cm特徴: 夏特長:夏の花も扇形に立ち上がる葉姿も、どちらも美しい。また、秋に風船のような種袋ができ、それが割れると中から真っ黒なタネが現れるところも非常に魅力的。万葉の昔はそれを‘ぬばたま’と呼んだ。 右/ルドベキア‘リトルヘンリー’キク科草丈:60~90cm花期:初夏~夏特徴:筒状の細長い花弁がユニークで、茶色い花心とのコントラストが愛らしい。半日陰でも咲く丈夫な小型種。蝶を呼ぶ。 ■オーナメンタルに花が楽しめる球根 細い柄に花房がつき、風に揺れる浮遊感も楽しめます。 左/アリウム‘パープルレイン’ 中/アリウム・シューベルティー 右/トリテレイア‘シルバークイーン’ 左/アリウム‘パープルレイン’ネギ科草丈:約60cm花期:春特徴:鮮やかな赤紫の星形の花を放射状につける、植えっぱなし可能な丈夫なアリウム。早咲き種。 中/アリウム・シューベルティーネギ科草丈:30~50cm花期: 初夏特徴:ネギ坊主が花火のようにパッと広がる巨大輪のピンクのアリウム。放射状に広がる花柄はそのままの形で乾いて残る。 右/トリテレイア‘シルバークイーン’ ユリ科草丈:30~40cm花期:初夏特徴:針金のように細い茎に、ラッパ形の白い花をたくさん咲かせる。掘り上げなくても毎年植えっぱなしでよく開花する。 ■暑さと干ばつにも強いストレスフリーな宿根草 昨今の酷暑を乗り越える性質を備えながら見応えがある頼もしい種類です。 左/アガスターシェ‘ブルーフォーチュン’ 中/アリウム‘サマービューティー’ 右/セダム(ハイロテレフィニューム)‘オータムジョイ’ 左/アガスターシェ‘ブルーフォーチュン’シソ科草丈:約80cm花期: 夏~秋特徴:シソの穂を細かくしたような花穂をたくさん上げ、淡いブルーの花を長期にわたり咲かせる。花後は花穂がシードヘッドになり、秋から冬の間も見応えたっぷり。 中/アリウム‘サマービューティー’ネギ科草丈:20~40cm花期:夏特徴:小型のアリウムで、球形・ピンク色の花をつける姿はチャイブに似ている。厚めの葉をたくさん展開し、グラスのよう。暑さに強い。 右/セダム(ハイロテレフィニューム)‘オータムジョイ’ ベンケイソウ科草丈:30~60cm花期:晩夏~秋特徴:丈夫な茎が立ち上がり、多肉質な葉を広げながらこんもりと育つ。花はピンクからローズピンクに移ろい美しい。ほぼ水やりは要らず、肥えていない土=貧しい栄養環境だとうまく育つ。また、西日の厳しい場所に植えるのに向いているが、少し湿り気があるところだと巣蛾(すが)でダメージを受ける場合がある。 ■グラウンドカバーで活躍する宿根草 表土を隠し、雑草防止や乾燥予防に役立ちます。 左/セラトスティグマ 中/エリゲロン・カルビンスキアヌス 右/リッピア・カネスケンス 左/セラトスティグマ(ルリマツリモドキ)イソマツ科草丈:30~60cm花期:夏~秋特徴:1~2cmのコバルトブルーの花が次々と長い間咲き続け、茎葉をこんもりと密生させながら、株は横に広がるように成長する。秋には紅葉も楽しめる。 中/エリゲロン・カルビンスキアヌスキク科草丈:10~30cm花期:春~秋特徴:小輪多花性で、長期間咲き続ける。咲き始めは花弁が白く徐々に赤みを帯びていくので、2色咲いているように見える。性質も強い。 右/リッピア・カネスケンスクマツヅラ科草丈:10~30cm花期:春~秋特徴:地面を這うように成長して広がり、各節から根を根付かせながら密に地面を覆う。また、白やピンク色の花を次々に咲かせる。 ■ふわりと間をつないでくれる一年草(一年草扱いの宿根草) 一年草や短命な宿根草は、春の庭に早くから花を咲かせます、成長が早く、しかもこぼれ種で増えるので、侵略的ではないタイプを選んで(オルラヤなどは増えすぎた場合のコントロールが大変なので場所を選ぶとよい)。 左/ニゲラ・ダマスケナ 中/セントランサス・コキネウス アルバ 右/バーベナ・ボナリエンシス 左/ニゲラ・ダマスケナキンポウゲ科(一年草)草丈:40~90cm花期:春特徴:白や青、ピンクなどの花弁のような萼片も、ふわふわとした糸状の葉も花後の風船形のシードヘッドも魅力的。一年草ながら開花前から開花後まで見頃が長い。こぼれ種から出る糸葉の新芽は雑草との見分けがつきやすいので、コントロールがしやすい。 中/セントランサス・コキネウス アルバオミナエシ科(一年草扱いの宿根草)草丈:約60cm花期:春特徴:ベニカノコソウの白花種で小花が集まって咲く。花つきが非常によく、こんもりと茂ると見応えたっぷり。宿根草で、環境に合えば温暖地の場合は常緑で冬越しする。短命だがこぼれ種で増える。 右/バーベナ・ボナリエンシスクマツヅラ科(一年草扱いの宿根草)草丈:70~100cm花期:初夏~秋特徴:強健で自立性が高く細長い茎が分岐した先に、紫の小花を咲かせる。昆虫たちにも人気が高くタネもできやすいので、適度に軽めの剪定をして、花を長く咲かせながら株の状態を保つとよい。日当たりがよく、少し乾き気味な環境を好み、条件が合えばこぼれ種でよく増える。冬越しした株は翌年も開花する。 『ガーデン・メリット』がある植物を選ぶ意味 「“花の美しさや愛らしさ”はガーデンプランツを選ぶ上で重要な選択肢となりますが、それにプラスして、芽出しの時期から枯れるまで、ずっと庭景色に魅力を与えてくれる『ガーデン・メリット』がある植物を選ぶことも大切です。 それを見極めるには、一度やってみる。失敗しながらも発見を楽しむ。“トライ&エラー”の精神で挑んでください。年を追うごとに経験値を積んでいけば、人生はきっと充実するはず。エコロジーにあった、強く美しい植物の存在を知ることは、私たちの心を癒やし、人生を豊かにしてくれる“庭”の可能性を広げてくれますよ」と吉谷さん。 連載4回目となる次回は、「ガーデン環境整備」についてご紹介します。
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レポート
都立公園を花の魅力で彩る画期的コンテスト「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」全国から選ばれた5人のガーデンコンセプト
今回のコンテストのテーマは「武蔵野の“くさはら”」 大温室を背景にばら園を望む神代植物公園。 写真/神代植物公園 武蔵野の面影が残る広大な敷地を有する神代植物公園。園内には、ばら園、つつじ園、うめ園、はぎ園をはじめ植物の種類ごとに30ブロックに分かれており、約4,800種類・10万本もの植物が植えられています。 この公園はもともと東京の街路樹などを育てるための圃場でしたが、戦後、神代緑地として公開されたあと、昭和36年に名称を神代植物公園と改め、都内唯一の植物公園として開園しました。古くから伝わる日本の園芸植物の品種の保存や植物・園芸に関する催し・展示会などを開催し、都民の緑に対する関心を高めるのに一役買っています。大温室は平成28年5月に大規模にリニューアルされ、多くの珍しい熱帯の植物や彩り鮮やかな花々が楽しめるようになりました。 大温室内には熱帯花木室、熱帯スイレン室、ベゴニア室などがあり、約1,300種類の植物を有している。写真/神代植物公園 今回のコンテストは、公園の正門手前プロムナード[無料区域]で行われ、審査を通過した5名の入賞者がそれぞれ約70㎡のスペースにガーデンを制作します。土壌改良や植え付けなどの作庭は、2023年12月と2024年2月に行われます。その後は11月の最終審査まで、ガーデナーにより必要に応じてメンテナンスが行われ、3回の審査を経てグランプリが決定します。 コンテストガーデンが作られるエリアは、以前はツツジとササが植わる緑一色の場所だった。 今回のコンテストのテーマは「武蔵野の“くさはら”」。ここ調布市を含む武蔵野エリアはかつて見渡す限りのススキやハギの原野で、野の向こうからの月の出入りが見られる月見の名所として知られていました。こういった土地の歴史的背景を現代の解釈でガーデナーたちはデザイン。2023年9月1日のコンテストの締め切りには多数の応募が寄せられました。9月15日は、書類審査で5名の入賞者が決定。色彩豊かな5つの新しい武蔵野の風景が、ここに制作されます。 公園の正門手前プロムナード[無料区域]にコンテストのために日向エリアと日陰エリアで5つずつの花壇が整備されました。 5人が作庭する花壇は、プロムナード(公道)を挟んで向かい合う日向と日陰となる2つのエリアに設けられました。日陰となる花壇は、南側に植わる常緑高木のシラカシの列植に日が遮られるため、夏場以外はほぼ日が当たりません。一方日向のエリアは、冬でもほぼ終日日が当たる環境。代々木公園の開催時とは異なり、日向・日陰と異なる環境それぞれに合わせた植物選び・構成によって1名につき2タイプのガーデンが設けられます。異なるタイプの花壇を同時に観賞できることは、今回の大きな見どころ。5者5様の環境・植物に合わせた土壌作りなど、5名のガーデナーがどのような工夫で「持続可能なロングライフ・ローメンテナンス」のお題を叶えるのかも見逃せないポイントです。 左手にコンテストの花壇が並ぶ日向のエリア。奥に神代植物公園の正門があります。 「持続可能なロングライフ・ローメンテナンス」であることに加え、審査でみる重要なポイント 今回も「持続可能なロングライフ・ローメンテナンス」であることが外せないルール。丈夫で長生きする宿根草・球根植物=多年草を中心に季節ごとの植え替えをせず、順繰りに花が四季ごとに咲かせられることが求められています。 ● 公園の景観と調和していること ● 公園利用者が美しいと感じられること● 植物が会場の環境に適応していること ● 造園技術が高いこと● 四季の変化に対応した植物(宿根草など)選びができていること● 「持続可能なガーデン」への配慮がなされていること(ロングライフ) ● メンテナンスがしやすいこと(ローメンテナンス)● デザイナー独自の提案ができていること ● 総合評価※各審査は別途定める規定に従い、審査委員による採点と協議により行われます。審査は次の視点から行われます。 2023年に都立代々木公園で3回行われた「第1回 東京パークガーデンアワード」の審査の様子。審査委員は、福岡孝則(東京農業大学地域環境科学部 准教授) 正木 覚(環境デザイナー・まちなか緑化士養成講座 講師) 吉谷桂子(ガーデンデザイナー) 佐々木 珠(東京都建設局公園緑地部長) 植村敦子(公益財団法人東京都公園協会 常務理事) 近年日本では夏場が酷暑になるため、日向のエリアで求められるのは暑さや乾燥に耐えるもの。夏に茂りすぎて株が倒れたり、蒸れて病害虫が発生したりするなどのダメージを回避するための手入れのテクニックも必要です。メンテナンスはガーデナーの申請によって行われるのが条件ですが、手入れの頻度(回数)も審査の対象となります。 植物の状態を維持するための最低限の灌水は主催者が行います。 また、手入れの際に発生した剪定枝などを、花壇内で循環させることを考慮することも重要。ゴミに出せば焼却時に二酸化炭素が発生しますが、花壇内で微生物に分解されるような仕組みが整えられていれば、二酸化炭素は発生させずに、土壌内微生物の多様化につながります。 全国から選ばれた5人のガーデンコンセプト 12月に行われた第1回作庭で集合した5名のガーデナー。 コンテストのテーマとルールをふまえて制作するガーデンのコンセプトや図面、植物リストの一部をご紹介します。 コンテストガーデンAGrasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜 【作品のテーマ・制作意図】 武蔵野のくさはらを表現するにあたり、オーナメンタルグラスとカラーリーフ、特徴的な葉を持つ植物をメインにしたガーデンをつくってみたいと思いました。「グラスガーデン」は馴染みが薄かったり、地味にとらえられたりすることもあるかと思いますが、宿根草に加え、球根植物も多用し華やかさをプラスすることで、多くの方に楽しんでいただけるガーデンを目指しています。 【日向】 ガーデン中央に帯状の管理通路を設置して植栽シーンの切り替えをし、植物の高低差をうまく生かすことで、野原の広がりを表現しています。植栽は秋の七草など日本人になじみのある宿根草を多く取り入れながら丈夫なグラス類を加え、親しみのある風景を展開。 【日向の主な植物リスト】 グラス類…イトススキ/カラマグロスティス/ペニセタム/パニカム/モリニア など季節の花…アガスターシェ/フロックス/ルドベキア/アガパンサス など和の花…キキョウ/オミナエシ/フジバカマ類/ヤブカンゾウ/ヒオウギ など球根…ユリ類/スイセン/カマッシア/ダッチアイリス/アリウム など 【日陰】 日向のガーデンと同じグランドデザインで、植栽は日陰に強いものをセレクト。低木のノリウツギ2種とアジサイ’アナベル’を手前と奥の3カ所に植栽することで花壇に奥行きやボリューム感を与えています。春は小さなシラーと山野草からスタートし、夏にはヤマユリやリーガルリリーが開花してあでやかな趣が楽しめます。 【日陰の主な植物リスト】 グラス・葉物類…フウチソウ/ベニチガヤ/ギボウシ類/クジャクシダ/クサソテツ など季節の花…アスチルベ/プルモナリア/ティアレラ/ムラサキツユクサ など和の花…イカリソウ/ヤマブキショウマ/シュウメイギク/チョウジソウ/ミヤコワスレ など球根…ユリ類/スイセン/コルチカム など コンテストガーデンB花鳥風月 命巡る草はら 【作品のテーマ・制作意図】 ガーデンの美しさは緑量や花の色目や形状だけで測れるものでなく、空や光や風や生きもの全ての関わり合い、生命の尊さを感じることでガーデンがより輝いて見えます。ガーデンに長く根付いて、地域に馴染む風景、生態系の一部になることを想定し、植えっ放しに耐えられる丈夫な品種を中心に、蜜源植物や、風や光の動きを反映しやすい植物を多く取り入れ、地味な在来種でも組合せや配置で奥行ある豊かな草はらの表現を目指します。 【日向】 3本の帯状の溝を緩やかに蛇行しながら左右に流し、中央の最も広いゾーンに多数のオミナエシを植栽。この和の植物をガーデンの主役・軸として、季節ごとの草花による彩りがプランされています。また、種類を絞って選ばれた植物で各季節の見せ場が設けられているのも見どころ。 【日向の主な植物リスト】 フジバカマ/パニカム‘ブルージャイアント’/ノリウツギ‘ライムライト’/ヘリアンサス‘レモンクイーン’/パブティシア/キキョウ/アヤメ/バーベナ・ボナリエンシス/ダイアンサス・カルスシアノラム/ペニセタム・マクロウルム/ジャーマンアイリス/ルドベキア‘ゴールドスターム’/ヒオウギ(オレンジ花・キバナmix)/ペンステモン‘ハスカーレッド’/スティパ、カッコウセンノウ/ミニスイセン・ティタティタ(球根)/オミナエシ/ダッチアイリス(球根)/アリウム‘丹頂’(球根)/ミューレンベルギア・カピラリス/カマッシア(球根)/イトススキ/ロシアンセージ 【日陰】 手前から右後方に向けてうねるようにカーブを描く管理通路を設け、それを挟むように植栽。たくさんの種類を植えず、ハナニラやアガパンサス、ヤブラン、ヒヨドリバナなどこれぞという植物に絞って群生させているので、旬となる時季には迫力のある風景が楽しめそう。 【日陰の主な植物リスト】 ラナンキュラス‘ゴールドカップ’/カレックス・オメンシス・エバリロ/アジュガ/ベニシダ/フウロソウ/ツワブキ/ユキノシタ/ジャノヒゲ/ヤブラン/ハナニラ(球根)/スイセン各種(球根)/フリチラリア(球根)/ペンステモン/ホタルブクロ/ヒヨドリバナ/アスチルベ/カレックス/アガパンサス(青花・白花mix)/クサソテツ/ヤツデ/スミレ/セキショウ コンテストガーデンC草原は、やがて森へ還る。 【作品のテーマ・制作意図】 森では、様々な木々が壮絶な生存競争を繰り広げています。しかしそれは草原もまた同じ。草原は生命力に溢れる草花たちの戦いの場です。そしてやがて、草原の中から樹木が芽生え、最終的には森へと遷移していきます。私は、草原から森へと還るこのはじまりの瞬間を、美しくもドラマティックに演出したいと思いました。ここは、森が好きなガーデンデザイナーが解釈し表現したペレニアルガーデンです。 【日向】 対角線上に配した2つの築山ゾーンと、その間を流れるように設けられた谷筋のような溝がメリハリのある起伏をつくり、多種多様な植物とともにドラマティックな野趣を演出しています。また、谷筋にはノカンゾウやアヤメ、ミソハギを植え、より自然な川筋を表現しています 【日向の主な植物リスト】 グラス類:アオチカラシバ/エラグロスティス‘スペクタビリス’/カレックス‘フェニックスグリーン’/スティパ‘テヌイッシマ’/ディスカンプシア‘ゴールドタウ’ など球根類:コオニユリ/カノコユリ/スノーフレーク/ハナニラ(イフェイオン)‘ジェシー’/原種系チューリップ ‘アルバコエルレアオクラータ’/クロッカス‘ホワイトウェルパープル’/アリウム‘カメレオン’/アリウム‘グレースフルビューティー’ など宿根草:ノカンゾウ/アヤメ/ミソハギ/ウツボグサ/シュウメイギク/チョウジソウ/ワレモコウ/フジバカマ/ハゴロモフジバカマ/オミナエシ/ノコンギク‘夕映え’/アスター‘アポロ’/シオン‘ジンダイ’/エキナセア‘パープレア’/エキナセア‘ロッキートップ’/ルドベキア‘ヘンリーアイラーズ’/セントーレア‘ニグラ’/オルレア(一年草)/ガウラ‘クールブリーズ’/ペルシカリア‘ブラックフィールド’/フロックス‘フジヤマ’ など低木類:ガマズミ/バイカウツギ/コバノズイナ/テマリシモツケ など 【日陰】 日向・日陰ともに森へと遷移している途中の草はらを表していますが、日陰のほうがより森に近づいているような雰囲気を演出しています。また、たくさんの種類を植えて多様性を出していますが、ガーデン内一面にいろいろな種類を植えるのではなく、谷筋はキチジョウソウで統一するなど、環境に合わせて量にメリハリをつけ、より自然に見える風景を描いています。 【日陰の主な植物リスト】 グラス類:カレックス‘ペンデュラ’/カレックス‘テスタセア’/シマカンスゲ/ワイルドオーツ/フウチソウ など球根類:ヒアシンソイデス‘ヒスパニカエクセルシオール’/シラー・シベリカ‘アルバ’/フリチラリア‘バイモユリ’/フリチラリア‘エルウィシー’/カマシア‘クシキー’/ゲラニウム‘チュベロサム’/コリダリス・ソリダ‘ベスエヴァンス’ など宿根草:キチジョウソウ/ヤブラン/ギボウシ/オカトラノオ/ホタルブクロ/イカリソウ/ミツバシモツケ/クリスマスローズ/シュウメイギク/チョウジソウ/ハゴロモフジバカマ/ベニシダ/ニシキシダ/クサソテツ/アスター‘トワイライト’/アスター‘リトルカーロウ’/ワイルドチャービル/サラシナショウマ(シミシフーガ)‘ブルネット’/カラマツソウ(タリクトラム)‘ヒューイットダブル’/モウズイカ(バーバスカム)‘ビオレッタ’/ペンステモン‘ミスティカ’ など低木類:ナツハゼ/ノリウツギ/ムラサキシキブ/ヤツデ‘スパイダーウェブ’/コバノズイナ など コンテストガーデンDfeeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~ 【作品のテーマ・制作意図】 人々の心に残る武蔵野の情景を骨格に、新たな要素を組み足して、これからの愛される武蔵野の風景を植物の魅力や武蔵野の風景を「伝え」「感じる」ことを軸に提案しました。武蔵野の草原を連想させるグラスをベースに、季節の流れの中で、さまざまな色や形の草花がガーデンを彩っていくような配置を心がけました。自然との距離が遠くなった現代で、このガーデンが少しでも自然と人とが寄り添うきっかけになればと思っています。 【日向】 斜めに伸びる群植で植えられたさまざまなグラスの間に花の美しい宿根草を植え、グラスを背景にした季節ごとの風景が楽しめるデザインです。若い世代の目に留まるよう、自然でありながらもポップな色彩も花色で盛り込まれています。 【日向の主な植物リスト】 イトススキ/カラマグロスティス/カレックス/ユーパトリウム ‘ベイビージョー'/ムギ/ソバ、ダンギク/ベルガモット/オミナエシ/ワレモコウ/ルドベキア‘ブラックジャックゴールド’/エキナセア、バーベナ・ボナリエンシス/アリウム/チューリップ 【日陰】 後方に低木・ノリウツギを多数植え、植栽の背景とさせながらボリュームを加え、見応えを出しています。またアカンサスなどのユニークな花を用いることで、見る人の目を引くなど、ガーデンへの興味をそそる工夫が施されています。 【日陰の主な植物リスト】 カレックス/ギボウシ/ツワブキ/クサソテツ/アカンサス・モリス/バプティシア/ユーパトリウム’チョコレート’/ペルシカリア‘ファイヤーテール’/アジサイ‘アナベル’/オトコエシ/オミナエシ/カクトラノオ/ペンステモン/アリウム/チューリップ コンテストガーデンE武蔵野の“これから”の原風景 【作品のテーマ・制作意図】 世界的に"Climate Change(気候変動)"が叫ばれ、日本でも夏の猛暑、雨不足による水ストレスが植物を苦しめました。農業技術である完熟した堆肥をはじめ有機資材を使い、微生物に富み団粒構造を持つ土壌を作ることからはじめ、これまで武蔵野の草原風景を担ってきた在来植物を中心にガーデンを構成します。都市の暮らしの中でこぼれ落ちてきた技術、植物でこれからの武蔵野の風景を模索していきます。 【日向】 設定した築山~低地により生まれる、わずかな環境条件の違いを生かして植物を選定。右後方に明るい日陰、やや湿り気のあるゾーンを作り、そのほかの広範囲は乾燥気味になることを意識して植栽しています。植物は武蔵野の在来種を中心に、9割が日本生まれの野草を用いています。 【日向の主な植物リスト】 ヤマハギ/ミソハギ/オミナエシ/ノガリヤス/チカラシバ/フジバカマ/オトコエシ/コマツナギ/ワレモコウ/シラヤマギク/カワミドリ/フジアザミ/ノダケ/ヒヨドリバナ/キセワタ/マツムシソウ/クララ/オカトラノオ/ヤマホタルブクロ/ツルボ/キキョウ/アサマフウロ/タカノハススキ/ミスカンサス‘モーニングライト’/ミツバシモツケ/カタクリ/ムラサキ/カライトソウ/タムラソウなど 【日陰】 前方・中央・後方と大きく3つに分け、やや湿り気、乾燥、湿り気のあるゾーンに分けて植栽。複数のシダやヤグルマソウ、オオバギボウシなどのリーフ類に楚々とした花を合わせています。こちらにはグラス類の使用を抑え、日向の植栽と大きく差別化を図っています。 【日陰の主な植物リスト】 フクジュソウ/ヒトリシズカ/フタリシズカ/ツリガネニンジン/キバナノアキギリ/チダケサシ/シュウメイギク/クジャクシダ/ナチシダ/クサソテツ/ヒトツバ/ナキリスゲ/ゲンノショウコ/ナガボノシロワレモコウ/ヤグルマソウ/キョウガノコ/チョウジソウ/アキカラマツ/フシグロセンノウ/キリンソウ/エゴポディウム・バリエガータ/ツワブキ・アージェテリウム‘浮雲錦’など コンテストガーデンを見に行こう! Information 都立神代植物公園(正門手前プロムナード[無料区域])所在地:東京都調布市深大寺元町5丁目31-10https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/電話: 042-483-2300(神代植物公園サービスセンター)開園時間:9:30〜17:00(入園は16:00まで)休園日:月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日が休園日、年末年始12/29~翌年1/1)アクセス:京王線調布駅、JR中央線三鷹駅・吉祥寺駅からバス「神代植物公園前」下車すぐ。車の場合は、中央自動車道調布ICから約10分弱。
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ガーデン
吉谷桂子さんのガーデン「the cloud」から学ぶ“ナチュラリスティックな庭づくり”① 〜1年の移り変わり〜
吉谷さんが牽引する「宿根草を中心に考えた植栽による21世紀のガーデンづくり」大々的にスタート! 「the cloud」が作られたのは、JR山手線「原宿」駅から徒歩3分の「都立代々木公園」の中。原宿門から入ってすぐ右手の「オリンピック記念宿舎前広場」の右側にあります。 「東京パークガーデンアワード」は、「持続可能(サステナブル)なガーデンへの配慮がなされているか」「メンテナンスしやすいか」を考慮することが条件となっている画期的なコンテスト。モデルガーデンである「the cloud」も同様に、宿根草をメインに植栽設計がされました。ハイメンテナンス、ハイインプットになりがちな“花の満開時が見どころ”の観光ガーデンとは大きく趣旨が異なります。 光や風を感じさせる軽やかな植栽/10月 持続可能で新たな宿根草の世界に触れることができる『New Prennial Plants Movement(新宿根草主義)』。植物の植生の仕組みを理解した上で、自然の風景を手本とするこのスタイルは、特にオランダのピート・アウドルフ氏による「ナチュラリスティックガーデン」により近年注目されるようになり、欧米で主流になっています。 そしてこれが今、地球沸騰ともいわれる気候変動などを抱えた私たちを癒やしてくれる新たなソリューションとして大いに期待されています。 「干ばつがひどいイギリスでもサステナブル、エコフレンドリーであることが主流となっていますが、植物は丈夫で長もちであることが核ですね」 広い公園の中でぷかぷかと浮かぶように広がる「the cloud」。 けれど、長もちの植物を集めただけではなく、アートフォルム(デザイン性)もなくてはと吉谷さん。 「ここ代々木が、アウドルフさんが手がけたニューヨークにある高架線路跡をリノベーションした公園『ハイライン』のようになればと思っています。映える場所が好きな若い人たちや洗練された大人、そして子どもたち皆が楽しめる場所を目指しています。レアな植物が植わっていなくてもいいんです。来るのが楽しみになるガーデンになれば」 花も満開だけに注力しない、芽出しから枯れるまでのプロセスが楽しめる植栽となっています。 「the cloud」と名付けられた理由とこの形になった理由 ユニークな形をしている花壇ですが、これは吉谷さんがこの場所に初めて立ったとき、夏空に浮かぶ雲や背景の明治神宮に広がるモクモクとした森を見て、直感的に‘雲’と連想したもの。ガーデンデザインは、背景と庭が調和して一体化することを目標としていることからも、ぴったりだったと言います。 くねくねと入り組んだ形は、植物をいろいろな角度からよく観賞できるほか、手入れもしやすいという利点があります。 花が少なくても、青々と柔らかい葉が美しい植栽/3月 【ナチュラリスティックガーデン「the cloud」の6つのメソッド】 1. 自然な雰囲気、季節ごとの変化を感じられる庭。エコロジカルな機能性にデザインの創造性を感じさせるデザインですが、基本的にローメンテナンスを目指した設計です。 秋に透明感のある彩りを添えるシュウメイギクは、ヨーロッパでも注目されている。吉谷さんが自宅の庭でもずっと育てている丈夫な長生きプランツ/11月 2. 生物多様性に柔軟な植物構成(農薬不使用、チョウの好む品種などを中心にして昆虫も共存)。 チヨウやハチを呼ぶ蜜源植物、バーベナ・ボナリエンシスなどが選ばれている/7月 3. ローインプット(丈夫で長生きな宿根草や球根植物を選び、季節ごとの植え替えをせず、主に植えっぱなしの宿根草で、異なる季節の花の開花があること)を目指しています。 眺めの統一感のため、初夏から秋にかけて、下方では肉厚な葉、上に行くに従って軽やかで透明感のある植物を選んでいる/11月 4. 猛暑・大雨、逆に雨が降らず極度な乾燥の冬にも耐えうる植物の選択。対処し得る花壇の構造を設計し、21世紀の日本における存続可能な草花選び(日本原産や身近な植物にも着目)をしています。同時に装飾性も感じられる庭。庭の一部には写真映えするスポットがあり注目の草花が咲くことにも配慮していますが、それは、桜の頃やゴールデンウィーク、夏休みといった集客時期に合わせた開花品種を選んでいます。冬の枯れ姿も味わいある眺めとしたい。 左:紫と白のアガパンサスが群れ咲く。アガパンサスは、暑さや乾燥にも強く、東京なら冬も常緑で病害虫の心配もない持続可能な宿根草/7月 右:花後の花茎もオーナメンタルに楽しめるように、タネを取り除き茎を残した、夏以降のアガパンサス。 5. 宿根草により完成された根張りの植物コミュニティを形成(雑草が生えにくくなる)するには、通常3年ほどかかりますが、期間が限定されるため、初年度はなるべく土の余白を残さず、雑草の入り込む余地を与えないためと、ある程度の華やかさを補足するため、まめな花がら摘みを必要としない一年草も設計に加えています。 左:雑草防止のグラウンドカバーとして植栽されたニゲラ。雑草との見分けのつきやすい葉の品種を選んでいる/1月 右:低く伸び花後のタネも景色の一部になった/5月 6. モデルガーデン「the cloud」は、地面から10〜30cm上げたレイズドベッド(盛り土花壇)であり、水はけや風通しを確保しながら、草丈の低い植物の見栄えもよい構造です。また、花壇に個性を与えるために雲海のような膨らみの強弱のあるデザインになっていますが、これは一般のボランティアスタッフにとっても、作業・維持管理がしやすいよう配慮されたもの。花壇の幅は浅く、土に踏み込まなくても手入れがしやすい形なのです。 植え付け当初。花壇の縁がくっきりと見えていた/12月 【「the cloud」の植栽プラン】 植えられた植物数 宿根草:100種類、3,615株 球根:9種類、9,350球 東側に明治神宮の森、西側に野原が広がる代々木公園の隅に位置する「the cloud」。約40×15mの敷地の中にモクモクとした雲形の花壇が7つ設けられ、吉谷さん厳選の植物たちが配植されました。アートフォーム(デザイン性)がありつつ公園や明治神宮の森に調和し、四季折々の楽しみを提供するような植栽設計となっています。 モデルガーデン「the cloud」の初年度12カ月 【冬】例年どおりの気温で、積もる降雪はなし 11月 植え付け当日。著名なガーデンデザイナーなどメンバー8人の力を借りて、4日間で施工。土壌改良(連載第4回参照)、アイアンの仕切りを設置した後、数千株の苗を植栽。球根を植えたところに棒を立てて目印をつけている。 2月 植え込みから2カ月経ったが、まだまだ大きな変化は見られない。寒さにあたってアガパンサスの葉が黄色く、ベルゲニアが赤くなっているが、どれも順調に元気に育っている。小さな黄色いスイセン‘テタテート’が咲き始めた。 【春】例年どおりの気温、降雨 3月 まだまだ色彩の寂しい植栽に、黄色いスイセン‘テタテート’とイフェイオン‘アルバートキャスティロ’が愛らしい彩りをプラス。 4月 イフェイオンは、全部でなんと5,000球。丈夫で冬の干ばつにも耐え毎年よく花をつける小球根を植えることで、花の少ない時期の花壇がにぎやかになる。 5月 まぶしい新緑の花壇の中で、アリウム‘パープルレイン’の花穂がファンタジックな風景を描いている。 【夏】梅雨がほとんどなく、かつてない酷暑・干ばつに加え、突発的なゲリラ豪雨が数回あり 6月 ストケシアやモナルダなどが咲き始め、にぎやかさが増してきた。 7月 全体的に緑が深くなってきて、あちこちに植えたアガパンサスが満開に。 8月 干ばつのような暑さのなかでも元気に育つ、生命力あふれるたくましいガーデン。背が高くなる宿根草も少なくないが、頭が重くならず向こうが透けて見えるような品種を選んでいる。 【秋】いつまでも気温が高かったが、10月末に冬日となる日が数日あり。夏からずっと台風の到来はなし 9月 さまざまなグラスの穂が、それまでとは異なる趣を見せ始めた。 10月 秋風に揺れる、暑さを乗り越えたたくましい植物たち。 11月 晩秋はミューレンベルギア・カピラリスがピンク色に。銅葉のペンステモンもアクセントに。 「the cloud」作庭から1年を経て 吉谷さんならではの緻密な計算と抜群のセンスがぎっしりと詰め込まれた「the cloud」。 「春先の気温が高かったため、1年で予想以上に大きく育ち慌てる場面もありましたが、ライトプランツ・ライトプレイス、適地適草を見極めて、来春はもっと安定的に宿根草が楽しめるようにしていきたいです」と吉谷さん。 次回は、この美しい風景づくりに用いられた、吉谷さんによる『植栽デザイン』についてご紹介します。
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ガーデン&ショップ
素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪40 埼玉「ガーデンセンターさにべる」
お気に入りが見つかるはず!充実した苗売り場づくり 北西に連なる山々の稜線を背景に広がる田畑…その中に「ガーデンセンターさにべる(以下さにべる)」はあります。70台も収容できる駐車場には、毎日オープンからひっきりなしにお気に入りを入手するべく花好きな人々が出入りしています。 駐車場側の木戸口から入ると、ひな壇状に並べられた無数の花苗パレットがお出迎え。足を踏み入れた途端、一気にテンションが上がります。 フラワーパレットは白で統一、花の可憐さや透明感をアピールしています。なにげないこだわりがそこここに。 かつては生産農家や苗の仲卸を行っていた「さにべる」。ポットマム生産時代を合わせると50年以上の歴史があり、30年ほど前に社長の間室照雄さんが園芸店をスタートさせました。現在も野菜苗と花植えを生産直売していますが、ショップは娘で店長の間室みどりさんが柱となり、長年培った園芸のノウハウと、生産者・市場との横のつながりを大切にしつつ、時代に沿うよう進化させています。 みどりさんが仕入れる苗は、どれも新鮮。市場からの仕入れだけでなく信頼のできる生産者に依頼したものも多く、多種多様な植物を最高の状態で提供できるように力を注いでいます。「苗も雑貨も、お気に入りを見つけてもらいたいという思いで揃えています」とみどりさん。 寄せ植えやハンギングに力を入れている「さにべる」。特にパンジー・ビオラは、たくさんの生産者から取り寄せ、充実させている。 ぜひ参考にしたい!プロの寄せ植え・花合わせ 店内には寄せ植えの見本鉢が点在。植物それぞれの魅力を引き出し、お客様の花合わせの参考になるように、サンプルとして飾っています。 売り場にあった寄せ植えご紹介!手軽に楽しめる愛らしい寄せ植えを集めました 「寄せ植えを美しくまとめるのに大切なのは、色づかい」とみどりさん。じつは、みどりさんは「趣味の園芸」など、テレビや雑誌に登場する人気園芸家。カラリストの資格も持っており、常に美しく見せることを意識しながら、植物に向き合っているのだそう。「さにべる」での講習会だけでなく、出張講習会やトークショーなどでも活躍しています。 東京農業大学農学部を卒業後、デンマークで4年間切り花を学んだというみどりさん。デンマークでは「最近ヒュッゲという言葉がよく使われていますが、それは花を愛するデンマークの人々が大切にしている‘居心地のよい空間・時間’のこと。ここで、ヒュッゲな暮らしを提案できたらと思っています」。 ショップでは、寄せ植えの楽しみを提案しているみどりさんが考案した培養土が販売されています。大きな特徴は、水はけと保水性を兼ね備え、腐食酸を多く含んでいること。腐食酸(フルボ酸)は、根の働きを助けて根張りをよくし、成長につなげてくれる今注目の成分です。近いうちに、寄せ植え用の肥料も発売予定です。「季節で寄せ植えが終わったときに再利用しやすいよう、短期間効くものにしています」とみどりさん。 屋外の用土コーナーには、土壌改良材などあらゆるアイテムが揃っている。 花苗以外も見どころたくさん外売り場&店まわり 花苗売り場の奥には、樹木コーナーが展開されています。取材時の秋に最も充実していたのはオリーブ。そのほか、美しい葉や花が楽しめるものが揃っています。 ハーブなどの花壇が設けられているオリーブコーナー。 店まわりも魅力的なコーナーがたくさん。ウッドフェンスで囲まれた売り場はつる植物や多年草で覆われ、牧歌的な雰囲気が漂っています。こののどかな雰囲気が好きなファンも多いそう。 エントランスにはニセアカシアが心地よい緑陰を作っている。 フィカス・プミラが古いポストやフェンスに活着し、瑞々しいシーンに。 古い車輪のオーナメントのまわりをユーパトリウム‘チョコレート’が覆う、ノスタルジックな風景。 店内のミニガーデンは、季節の寄せ植えを飾ったり、撮影場所や子どもが遊ぶ場になったり……。自由な発想で使える空間。 屋内売り場もあらゆるアイテムが盛りだくさん! 大きなハウスを活用した屋内売り場では、季節の鉢花や観葉植物、多肉植物、園芸資材などがそれぞれ島を作っています。どれも選ぶのに困ってしまいそうな広さと品揃えです。 ドライな雰囲気たっぷりの多肉・サボテンコーナー。 秋は、あらゆる春咲きの球根植物が揃う。 照雄さんは生産農家でもあり、奥にあるハウスでは、照雄さんの作った野菜苗が大人気。最近は、農家さんも買いに来るほどの充実ぶりです。 ブロッコリーの苗(左)と隣のハウスのハーブコーナー(右)。 姉妹で作り上げる見やすく楽しい売り場 みどりさんとともに店を回しているのは、妹の2人・小枝子さんと夏実さん。それぞれに得意分野が異なる最強の仲間です。仲のよい3姉妹が一緒に考え、最近形にしたのが観葉植物コーナー。冬は加温してあたたかい空間となりますが、夏は冷房し、冷涼な気候を好む植物を管理するという特別なコーナーです。「人にとっても心地よい場所です」とみどりさん。無骨なビニールハウスの印象を払拭する、ウッディでクールなデザインが売り場の雰囲気をぐっと高めています。 コーナーの内部は、観葉植物や進物用のラン、サンセベリアなどがひしめき合い、植物園の温室さながらの雰囲気です。 シンプルなデザインの什器もおしゃれで、手書きのポップが楽しい雰囲気。 左/近年人気のビカクシダも、大きさ・種類さまざまに揃う。 右/インドアプランツ用アイテムも、一緒の場所に。 一角に設けられた雑貨コーナーも見応え十分。ここはおもに小枝子さんがディスプレイを任されている場所。かつてブライダルの世界で花を飾ることを専門にしていた能力を発揮する場となっています。 はしごでやんわりと空間を区切り、いくつものシーンを展開。あらゆるテイストのアイテムが自然になじみ、それぞれのエリアが美しく整えられています。 ボタニカルの額を背景に、花瓶などのガラス器が飾られている。 ドライフラワーのブーケやバスケットなど、温かみのあるアイテムが並ぶエリア。 テンションが上がる、おしゃれなガーデニングツールもたくさん。 「さにべる」では、照雄さんや農家が作った野菜をはじめ、地元の養蜂家の蜂蜜、コーヒーなども販売しています。新鮮な野菜は午前中に売り切れになるほどの人気。 この日販売されていたコシヒカリは、照雄さんが育てたお米。パッケージは小枝子さんがデザイン。 散策しながら見つけよう!充実の園芸資材 庭に彩りを添えるアイテムも充実した「さにべる」。広いハウス内のあちこちにアイテムごとの空間が作られ、選びやすく陳列されています。 庭の雰囲気を高めてくれる、アイアンフェンスコーナー。目隠ししたいときや、つる植物の誘引に最適。 テラコッタやグラスファイバー、ブリキなど、用途や置く場所に合わせて容器も選んで。 間室みどりさんイチオシの本格派ハンドフォーク 「こんなツールが欲しい!」というガーデナーたちのリクエストから生まれた、浅野木工所(新潟県・三条)の本格的なガーデンツール。一般的なサイズより爪の部分がやや長く、柄につながるネック部分も長さや角度など、微妙な設計が施され、使いやすいのが魅力。広い場所でもへこたれません。掘る、混ぜる、耕す、1つで何役もこなす頼れる庭仕事の相棒です。ぜひ店頭で実物をご覧ください。 上から、草取り、草取り鎌、ハンドフォーク、ハンドスコップ。ハンドフォークはSunny valeのロゴ入り。 新鮮な苗・多様なアイテムを取り揃え、地域の人々の憩いの場となっている「ガーデンセンターさにべる」。寄せ植えやハンギングバスケットなど、各種教室も充実し、気軽に花と触れあえます。「sunny:降り注ぐ光」「vale:谷」という意味を持つ「さにべる」、その名の通り、みんなの暮らしを明るく照らすスポットです。ぜひ訪れてみてください。アクセスはJR高崎線「鴻巣」駅から川越観光バス(東松山駅行き)で約10分、東武東上線 「東松山駅」から川越観光バス(鴻巣駅・免許センター行き)で約10分、どちらも「谷口」停留所下車・バス停から約300m。