閑静な住宅街の中で、白~ピンクのグラデーションのバラが道行く人の目を引く一軒家。ここは根本めぐみさんが丹精込めて作り上げた空間です。2021年に開催したガーデンストーリーのフォトコンテストで編集長賞を受賞し、インスタグラムでも人気の個人邸ガーデンをご紹介します。
目次
コツコツと手づくりしながら
つるバラの魅力を引き出した庭
東側の家の側面を活用しながら、南側の駐車スペースを含めた50㎡ほどの場所につくられた根本さんの庭。日陰になる部分以外はすべて白やピンクの淡い色のつるバラが覆い、芳しい香りが辺りを包んでいます。

もっとも目を引くのが、道路側の幅70cmほどの小さなスペースに咲く、ロサ・ムリガニー。庭を本格的につくり始めた9年ほど前に長尺仕立ての苗を植えたもので、今では見事な株に成長し、この庭のシンボル的な存在となっています。以前実店舗があったバラのお店「オークンバケット」の店先を彩っていた風景に憧れて、このバラを選んだそう。

大きなトゲをつけた太いつるは、建物の外壁に取り付けたワイヤーにしっかり結わえながら誘引。理想的なシーンをつくるために、毎年冬にすべてを取り外して誘引し直しています。「作業は脚立を少しずつずらしながら、3~4日かけて行います。昨年は窓の下にも誘引しましたが、今年はピンクのバラ‘ケルナーフローラ’をもっと大きく育てるために、窓の上にだけ誘引しました」と根本さん。ここの見栄えも考えて、今年は網戸も取り外しました。


庭スペースは駐車スペースより60~70cmほど地面の高さが上がっており、シーンの切り替えには最適な構造です。駐車スペースの正面突き当たりには手作りのベンチを置き、背面のフェンスにはバラ‘レイニーブルー’をレイアウト。さらに庭への通路には小さな階段+アーチを設けてバラ‘ジャスミーナ’を誘引し、ロマンチックな空間を生み出しています。

バラの見頃は、早咲きと遅咲きの2部構成。前半の5月上旬は早咲きの‘レイニーブルー’の青みがかったピンクの花が群れ咲き、後半には‘ジャスミーナ’とロサ・ムリガニーにバトンタッチします。

庭の骨格をなすバラの誘引や構造物はめぐみさんがデザインし、それをご主人の力を借りて形にしています。「じつは、主人は当初、あまり乗り気ではありませんでした。でも、近所の人に‘棟梁!’なんて言われたりして、徐々に楽しくやってくれるようになりました。DIYとは無縁だったのに、なぜかうまくまとめてくれるんですよ」と笑います。
バラのアーチの奥に隠れた中庭もご紹介!
コーナー別にご紹介します
9年前に正社員だったのをパートに切り替え、時間にゆとりができた根本さん。以前は草花だけだった庭にバラを取り入れたことで、庭づくりを本格的に始動させました。
マイナーチェンジを繰り返し、ここまで魅力的に仕上がった根本さんのスモールガーデン。
外からは窺えない中庭エリアも併せ、素敵な場所をクローズアップしてご紹介します。
【アーチ】

見せ場の1つである‘ジャスミーナ’が覆うアーチ。ランプやお手製のステンドグラスのオーナメントを下げて、愛らしさをプラス。駐車スペースから奥へと視線を誘います。

【アーチ奥の植栽コーナー】

アーチをくぐると、ナチュラルで繊細な草花が出迎えます。こぼれ種で増えたオルラヤと宿根したジギタリス、根本さんが種まきから育苗したオンファロデスやニゲラが咲き群れ、夢のような風景が広がります。

【勝手口まわり】

アーチをくぐって右手の勝手口まわりをDIYでカバーして、生活感を払拭。段差をなくすためにステップを作り、鉢物をレイアウトしました。さらにフェイクの窓や飾り棚を取り付け、早咲きのバラ‘ボニー’を誘引。淡いピンクやペパーミントグリーンにペイントし、どこか素朴でカントリーな雰囲気を醸し出しています。

【庭の板塀】

奥の白い板塀にはクレマチス‘グレイブタイ・ビューティー’や雑貨類をディスプレイして、見応えたっぷりに。手前にはバードバス+バラ‘グリーンアイス’の鉢を配して、立体感と奥行き感を出しています。

【ガーデンシェッド】

日当たりの悪い庭の隅は、2人で作った白いシェッドを設置。中庭のフォーカルポイントになっています。バラ‘サマースノー’が屋根部分を程よいボリュームでカバー。

【日陰のエリアのパーゴラ】

南側の隣家との境目は、最も日が当たらない場所。ここにはガゼボ風パーゴラをつくって設置し、隣家を目隠ししています。パーゴラにもステンドグラスや棚を取り付け、雰囲気を高めました。旺盛に上部を覆うのは、秋に咲くクレマチスのセンニンソウ。「小鳥が多いので、毎年ピーナッツのリースを下げています。いつも全部食べてくれるんですよ」と根本さん。

【テーブルまわり】

来客があったときは、中庭で花を眺めながらおもてなしをしています。通りからの視線をつるバラが遮ってくれるので、心おきなくでくつろぐことができ、会話も弾むそう。

センスが光る手づくり&小物あしらいにもクローズアップ!
ここでは、随所に見られる小技をご紹介。見逃せないシーンがたくさん。
■ストーンワーク 敷く・並べる
スモールガーデンでも、多様な石づかいで、飽きのこない風景を作ることができます。

シェッドの前は細長い石を並べ(左)、塀の前の細い園路にはピンコロ風の石を採用(右)。

以前敷いていた固まる砂を剥がしたときに残った塊がコッツウォルズストーンのような形をしていたので、それを並べて再利用。草花の軽やかさを維持しながらナチュラルな雰囲気に。
■ディスプレイ
あちこちのシーンにアクセントを作り、見応えを出しています。スモールガーデンに合わせて手作りしたアイテムがいっぱい。

左・中/スペースにピッタリのベンチはご主人と一緒に作ったもの。傍らにガーゴイルを配し、さながらイギリスの庭園のワンシーンのよう。
右/スタイロフォームを組み、ダークグレーにペイントして作った、石柱のような花台。

左/レンガをざっくりと積んで、上にコーンのオーナメントを。時間の経過を感じてもらえるように苔をのせています。
中/小さなバードバスで、水のきらめきをプラス。花がたくさんある時期は、摘んで浮かべて楽しみます。
右/ハート形のワイヤーにアイビーを誘引。「丈夫なので数年放ったらかしです」と根本さん。
■フェンスで仕切る
小さな空間でもシーンの切り替えは必要。立体感を出すのにも有効です。

バラ‘レイニーブルー’が絡むフェンスの隣にアイアンフェンスを設置。透け感を維持するためには、程よく華奢なものが◎。

■ペンキでエイジング加工
ガーデンの雰囲気に合わないものは「グレーに塗ってダークな色でほんのり汚れをつける」加工を自ら施し、空間に統一感を出しています。



左/にぎやかな色のガーデンピックの棒を取り外し、トップの小さな動物にペイントしたオーナメント。
右/セアノサスを植えるコンテナは大きいので、テラコッタなどでは重くなりますが、軽いプラスチック製のものを用いてペイントすることで、問題をクリア。
スモールガーデンを彩るバラ&クレマチス
根本さんの普段のお世話は、冬に寒肥で牛ふんや油粕、カリ有機肥料を施すのみで、お礼肥は様子を見て。消毒は2~3週間に1度行っています。庭を彩る美しいバラとクレマチスを一部ご紹介します。
まずはバラから。

左上から時計回りに、‘レイニーブルー’、‘ジャスミーナ’、 ‘アイスバーグ’、ロサ・ムリガニー。

左上から時計回りに、‘パシュミナ’、‘フランボワーズ・バニーユ’、‘ロマンティック・レース’、‘ブラン・ピエール・ドゥ・ロンサール’。
続いてクレマチスもご紹介。

左上から時計回りに、‘マリア・コーネリア’ 、‘マーガレット・ハント’、‘白万重’、‘ワーレンバーグ’。

左上から時計回りに、‘ロマンティカ’、‘シーボルディー’、 ‘カイウ’、‘篭口’。
種まきで増やした草花
変わった品種やお気に入りの植物は花後に種子を採り、播種してベランダで育苗。これなら絶やすことなく、デザインどおりの場所に咲かせることができます。

左上から時計回りに、ニゲラ‘アフリカンブライド’、ジギタリス・トロヤナ、ゲラニウム‘ビオコボ’、スカビオサ・オクロレウカ。

左上から時計回りに、ギリア・レプタンサ、ゲラニウム‘クラリッジドリュース’、シノグロッサム、シレネ‘ホワイトパンサー’。
とびきりのセンスとアイデアで、小さな空間をロマンチックなローズガーデンに仕上げている根本さん。何より手間を惜しまず丁寧に向き合う姿が、多くの人が憧れる魅力的な空間を生み出しているようです。二人三脚の庭は、これからも思い出を紡ぎながら進化を続けていきます。
2021年フォトコンテストで編集長賞を受賞
受賞時にガーデンストーリーサイトでもご紹介した受賞写真は、‘ジャスミーナが咲くアーチ’でした。
うつむき加減に咲くつるバラの‘ジャスミーナ’は、少し遅咲きで、ほのかに香る品種のようですね。純白の‘アイスバーグ’や足元の小花たちによるロマンチックな色合いのコラボレーション。画面いっぱいの花々の風景に、吸い込まれるように見入ってしまう写真です。中央の木製ランタンと、その奥にちらりと向こうの風景が覗くことで奥行きが感じられて、他のエリアも拝見してみたいと思いました。副賞として来年春、編集部による取材をお約束させていただきました。ご主人と2人で庭づくりをされているそうです。「何度もくぐり抜けた」という花咲くアーチをくぐる日が楽しみです。
編集部コメントより
ガーデンストーリーでは、今年も、フォトコンテストを開催中です。詳しくは、下記の記事をご覧ください。
Credit
写真&文 / 井上園子 - ライター/エディター -
いのうえ・そのこ/ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。ガーデニング以外の他分野のPR等にも携わる。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
写真 / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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