いのうえ・そのこ/ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
井上園子 -ライター/エディター-

いのうえ・そのこ/ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
井上園子 -ライター/エディター-の記事
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ガーデン&ショップ
【話題のスポット】森の中の北欧が香るヒーリングガーデン 『ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ』
フラワーアーティスト ニコライ・バーグマンが考える誰もが心癒やされるガーデン デンマーク出身のフラワーアーティスト ニコライ・バーグマンさん。ボックスに花を敷き詰めた‘フラワーボックス’を生み出し、国内外に多数のフラワーブティックを展開する、今をときめくフラワーアーティストです。 20年以上日本に暮らし、切り花の世界で培った感覚を“ガーデン”という形を用いて新たに表現。アーティストとしての次なるステージをここ箱根でスタートさせました。 エントランスから見上げた風景。きらきらとした風景に心躍る。* 9,000坪もある手つかずの森を極力そのまま生かし、9年の時間を費やしながら自ら仲間と開墾してつくった『ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ』。一昨年の2022年4月にオープンしました。緩やかな傾斜が続く敷地内では、散策路を歩きながら自生する植物や鳥のさえずり、新鮮な空気が味わえ、多くの人々が自然を求め訪れています。 箱根はアジサイの名所ですが、園内の約2,000株ものアジサイは、バーグマンさんが植えたもの。7月中旬頃が見頃。 バーグマンさんはかねてより「日々得られるインスピレーションを形にして永続的に残したい」という思いを抱きながら、それにふさわしい場所を探していました。そんなとき、箱根の土地を大切に扱ってくれる人を長年探していた地主さんに出会ったことで、庭づくりの計画が進展。そして、9年の歳月を費やして完成したのが、『ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ』。「身近な自然を新たな視点で味わってもらいながら、僕の大好きな箱根ももっと知ってもらいたいんです」とバーグマンさん。 デンマークの国土は平らで、最高地点でも海抜わずか173mほどしかないため、日本の連なる山々はとても新鮮で、海抜600mの箱根もとても魅力的でした。この起伏に富んだ地に、デンマークの豊かな自然や慣れ親しんだ近所の農園、家族の庭など、心の原風景を映し出し、日本とデンマークの自然を融合させています。 敷地中に生茂る約2mもあるクマザサを刈って設けた平らな広場。デンマークのアウトドア家具ブランド『SKAGERAK(スカゲラック)』のファニチャーを点在させているので、ここでランチを食べたりお茶をしたりしても。* 風景をデザインするだけでなく、サステナブルであることも大切にしています。例えば、伐採したクマザサは短くカットして、園路をマルチングするチップとして活用。雨後に水がはけやすいほか、ふかふかとして歩きやすいなど利点がいっぱいです。 倒木の幹は花台に、枝葉はガーデン内のオブジェの材料として活用しています。バーグマンさんの豊かな発想は、生命の循環を意識することからも生まれています。 切り株や古い木の根元に着いたさまざまなキノコ。自然な森の姿に出会える。 「箱根には、箱根特有の色や香りのある独自の自然が息づいているんです。ユニークな生態の保全を第一に、自然と融合できる機会を提供しつつ、癒やしと新しい発見、インスピレーションを得られるような場所を目指しています」。 枯れ枝をスクエアにまとめたものと、ツゲのトピアリーをリズミカルにレイアウトした、見せ場となっている造形的なシーン。 左/木のツルを繭型に編んで吊るした、不思議な雰囲気を醸すオーナメント。中/折れた木の枝を束ねて作ったオブジェ。左/伐根したクマザサの根をボール状にまとめたオブジェ。 左/梅の剪定枝を園路脇の柵に活用。ところどころに芽吹いた葉が見られる。中/枯れ枝や剪定枝を鉢植えのマルチに活用。サークルを描いて施すところが、やはりデザイナーならではの小技。 右/流れるように並べられた本小松石。アーティストらしい小技があちこちで見られる。 パビリオンが感じさせるフラワーアーティストが紡ぐ洗練 自然に親しみながら木漏れ日の輝く園路をたどると、空間で都会的な雰囲気を放つパビリオン(グラスハウス)が出現します。黒いフレームの北欧の雰囲気がたっぷり感じられるガラスの温室。バーグマン氏が気に入っているデンマークのメーカー『JULIANA社』のものです。色は森の中で悪目立ちしないブラックをセレクト。 最初に出会うショップパビリオンは、バーグマンさん氏がセレクトした草花を販売するコーナー。初夏は大好きなアジサイをメインに、白・ブルー・紫・ピンクの花が、『SKAGERAK』のファニチャーとともに、洗練されたディスプレイで並べられていました。 マメツゲのトピアリーが、都会的なデザイン性を加えている。 パビリオン内には、見頃を迎えているあでやかな植物が、効果的に配置されています。これらは盛りを過ぎたら切り花のように捨てるのではなく、ほかの場所で養生してまた見頃を迎えたらディスプレイに出していますが、このスタイルをバーグマンさんは「モバイルガーデン」と称し、飾るだけでなく、植物の健やかな栽培・生育にも意識を向けています。 ウッドデッキを斜面側に設置した、一番高い場所にある見晴らしのよいバレービューパビリオン。 イベント時などは、バーグマンさんの豪華なアレンジが見られることも。 北欧の洗練が香る心にくい演出をチェック! パビリオンだけでなく、園内あちこちに散りばめられたデンマークらしいデザインも見逃せません。最も効果的なのがフォーマルな印象が強いツゲやコニファーのトピアリーのレイアウト。一般的には野趣に富んだ空間ではほとんど用いられませんが、あえて異なるスタイルのものを導入させることで、自然な風景を洗練されたシーンまで昇華させることができるのです。これをさりげなくやってのけるのは、バーグマンさんだからこそ。クマザサが茂る原生林に見事に溶け込ませています。 急な傾斜になっている場所に設けられた蛇行する階段は、グラスハウスと合わせてブラックにペイント。北欧らしいしつらい。 園路の分岐点にもゲッケイジュのトピアリーやツゲのコンテナが。箱根の自然に不思議とマッチしている。 大きなコンテナがシンメトリーに置かれた、新たな空間への入り口。自然と相反するスタイルも、コンテナの色形・質感をうまく選べば、こんなにも素敵によくなじむ。 園内には、『SKAGERAK』などのファニチャーがポイントで設置されています。手触りのよいチェアでくつろぎながら、自然の息づかいを感じてみましょう。 北欧インテリアが用いられたカフェで、こだわりのメニューを味わって 散策のあとは、エントランス奥にある『ノム ハコネ(NOMU hakone)』で、オーガニックコーヒーとこだわりのスイーツでひと休みを。心地よい陽光が差し込む空間には、デンマークの老舗家具ブランド『フリッツ・ハンセン(FRITZ HANSEN)』や、照明ブランド『ルイス・ポールセン(LOUIS POULSEN)』など、スカンジナヴィアスタイルを取り入れており、北欧のくつろぎ時間を楽しむことができます。 北欧らしいブラックの建物の中は、あたたかみにあふれる素敵なしつらい。 カフェでは、ガーデン内の倒木を切り出してバーグマンさん自らデザインした、無垢のテーブルを使っています。すべての人や物に感謝するバーグマンさんの精神が、あちこちで見られます。 「箱根の素材をふんだんに使用したデンマークらしい料理」をテーマに、箱根周辺で育った野菜や果物などを取り入れたサラダやスイーツを提供。国産小麦にこだわったパンは自家製発酵をさせて、毎日キッチンで焼き上げています。ここでしか味わうことができない季節のメニューをぜひ味わってみて。 またすべてのメニューは、ガーデン内のベンチや広々としたカフェパビリオンでいただけます。バスケットに入れてもらえるので、森の中でピクニック気分を味わってみても。 カフェ内には、『ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ』でしか購入できないさまざまなオリジナルグッズが揃う。またプリザーブドフラワーのボックスも販売。 カフェ横の段差にも、たくさんのツゲのトピアリーが。濃紺の背景に美しく映えているが、きれいに並べすぎないところがポイント。 アジサイが咲き誇る入り口からの坂道。アジサイは、ニコライ・バーグマンの南青山のフラワースクールで花部分を花材として使った株を植えたもの。無駄をせず、循環させることを徹底している。* フラワーアーティスト ニコライ・バーグマンの感性と箱根の自然が共鳴した『ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ』。ここにつながるすべてのものを大切にする思いと、自然を守ることを核とした姿勢で育まれています。雨の日も楽しめるガーデン。ぜひ、四季折々に彩られる美しい風景を見に訪れてみてください。 ニコライ・バーグマン(Nicolai Bergmann)デンマーク出身のフラワーアーティスト。20年以上日本を拠点として活躍し、現在、国内外に多数のフラワーブティックを展開している。日本の伝統、文化、風土から得られる和のインスピレーションとデンマーク(洋)スタイルと融合させたデザインに定評がある。 【Garden Data】 ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ神奈川県 足柄下郡 箱根町 強羅 1323-119TEL: 0460-83-9087https://hakonegardens.jp/開園時間:10:00~17:00休園日:水曜日 (水曜日が祝日の場合は開園し翌木曜日を休園)アクセス:箱根登山電車・「強羅駅」下車→箱根登山バス・観光施設めぐりバス「ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ」バス停下車すぐ。「強羅駅」からタクシーの場合約5分。車の場合は、御殿場ICから国道138号→国道733号経由(22km)で約40分。箱根湯本から国道1号→強羅駅→国道733号経由(10km)で約25分
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ガーデン&ショップ
素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪37 滋賀「グリーンロフトザパーク」
河川跡を有効活用した 瑞々しいショップが誕生 旧草津川の廃川に伴い生まれた空間、草津駅まで続く全7kmの有効活用として、5年ほど前にオープンした「ai彩ひろば」。スポーツ・農業などアウトドア活動の拠点として整備され、バーベキュー&DAYキャンプ、サイクリングロード、ジョギングが楽しめるスポットです。その1区画に、緑のある暮らしを提案する園芸店「グリーンロフトザパーク」がオープン。広々として子どもから大人まで楽しめるショップです。 ‘すべての人が楽しめる、身近な自然との接点になる場所’をコンセプトに、心癒やされる自然空間を提供している「グリーンロフトザパーク」。300㎡もの売り場には、インドアグリーンや花苗、コンテナ、雑貨など、ガーデニングライフを応援するアイテムがずらりと並び、最近人気のパルダリウム関連商品も充実しています。 店内は、木製とステンレスの什器を巧みに取り合わせ、有機質と無機質の絶妙なバランスを見せています。欧米のインテリアショップのようなトーンを落とした照明が、心地よい空間を演出しています。 観葉植物は沖縄や鹿児島まで買い付けに出向いているそうですが、「特別に変わった種類や樹形などにはこだわっていません。それよりも樹木本来の姿を生かした扱いやすいものを仕入れて、素敵に見せることに力を入れています」と、マネージャーの佐藤真昭さん。 ホームセンターのバイヤーとして約20年、ガーデニングの流行の移り変わりを眺めてきた佐藤さん。このあたりは、住宅開発で移住してきた感度の高い若者が集まるエリアで、昔ながらの見慣れたアイテムでも見せ方に工夫をすれば、新鮮なものとして受け入れてくれるそう。「若い人は違うスタイルやジャンルのものでも先入観なく、いろいろなことに結びつけたり、はめ込んでいったりすることができるんですよね。単に珍しいものを追い求めるのではなく、一般的なものでも魅力的な見せ方をすることで、植物を好きになるきっかけづくりに繋げることが大切。今までの園芸の枠を脱して、園芸を楽しむ人の裾野を広げたいですね」。 テーマパークのような ディスプレイを拝見 来る人を飽きさせない努力を惜しまない、グリーンロフトザパークのスタッフたち。「こまめに模様替えをしていますよ。大がかりなチェンジもしょっちゅうです。室内のディスプレイやパワープレイ、どんな仕事もスタッフそれぞれが協力しあってお店をきれいにしています」と、アシスタントマネージャーの東晧平さん。モデルルームやショップの装飾も依頼されることが多いそう。 洋書とドライフラワー、ガラス商品を組み合わせたディスプレイには、エレガントさも漂います。「欧米の知的な雰囲気を香らせたり、古きアメリカを感じさせたり…異なる雰囲気を共存させています」と佐藤さん。チープにならないように、意識を注いでいるのが伝わってきます。 アウトドアのガーデニングコーナーも 魅力的なしつらいに 外の売り場も清潔感あふれ、落ち着いたブルーの建物を背景におしゃれな雰囲気。植物は季節の草花に加え、カラーリーフも充実。あらゆるシーンに対応できるラインナップです。 大きめなコンテナは屋外の軒下コーナーで販売。インテリアになじみやすいグレーやアイボリーのマットなデザインのものが多く並んでいます。それと向かい合わせになるように、樹木類も陳列。オリーブやユーカリなど、リーフが美しい人気樹種は、品種も豊富に揃っています。 もし希望の樹木がなければ、お取り寄せも可能。また、配達や庭への植え付けも可能な範囲でやってもらえます。「植え付けをする場合は用土代を頂くだけで、いわゆる手間代は不要です。その浮いた分で、ほかのアイテムを試していただきたいですからね」と東さん。 ところ狭しと並ぶ 暮らしまわりの雑貨コーナー ガーデンパーティーやキャンプでも活躍してくれそうな食器やキッチンツール、ファブリックも充実。丈夫でカジュアルな価格なので、庭でも惜しみなく使えるものばかりです。 テーマパークのデコレーションのような楽しさあふれるコーディネートも必見。眺めているだけで、ワクワクする空間です。 佐藤真昭さんイチオシの 日本製の小さな鉢 輸入鉢が多い中、最近佐藤さんが注目しているのが、メイドインジャパンのもの。「日本の伝統工芸品にはどこか雅な雰囲気が残っていて、観葉植物に合わせにくいところがあるのですが、地元の信楽や岐阜県の美濃焼など、とくに若い作家さんの作る鉢で合わせやすいものを見つけたんです。これからほかの産地のものを含めて、どんどんアイテムを増やしていきたいですね」。 植物をいかに美しく暮らしに取り入れるかを追求し続ける「グリーンロフトザパーク」。お客様を飽きさせない、最旬の提案でいっぱいです。『café KaimanaLio(カフェ・カイマナリオ)』も併設しているので、地場野菜を使ったフードやドリンクを頂きながらショッピングできます。ぜひ訪れてみてください。アクセスは、JR琵琶湖線「草津」・バス「陽の丘団地口」下車より徒歩約8分。名神高速道路「栗東」ICから車で約15分。
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ガーデン&ショップ
素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪35 京都「京都・洛西 まつおえんげい」
“わかりやすく”に徹し ガーデニングライフを応援 京都の西部・洛西ニュータウンの山側にある「まつおえんげい」。明治時代から続く老舗の園芸店で、シーズンにはたくさんのバラや草花が来訪者を出迎えます。 このショップは、バラのエキスパートの一人として知られる松尾正晃さんが営むバラとクレマチス+園芸用品全般を扱う総合園芸店。マネージャーである息子の祐樹さんとともに、販売をしながら全国の花のイベントに積極的に参加し、主にバラの魅力を発信しています。 店内はバラとクレマチスの苗でいっぱい。ピーク時には、バラは400~500品種7,000~8,000株、クレマチスは150品種1,500~2,000株の苗が並んでいます。 バラはイギリスやフランス、日本、オランダ、ドイツ、イタリアなど各国のメーカーのものを網羅。自社ブランド品種や古い品種も揃っています。バラは特にお国柄のような特色が表情に出るので、それを見比べながらショッピングするのも楽しい時間です。 品種が多く、育てるのも難しいと思われがちなバラ。そういった不安を払拭すべく、「まつおえんげい」ではコミュニケーションを大事にしています。「皆さん恵まれた環境で育てていらっしゃるとは限らないので、まず環境をお聞きして、対話しながら問題や疑問を一緒に解決していきます。それぞれに合った育て方をご提案できるように心がけています」と祐樹さん。 看板やポップは、「とにかく分かりやすく、より有益な情報や知識を提供」することに力を注ぐ「まつおえんげい」。「どんな些細なことでも困ったことがあれば気軽に相談してください。皆さまのお手元に植物を届けることだけが園芸店の仕事ではないんです。その後もしっかりと育ってくれるようにサポートすることが、なにより大切だと考えております」と祐樹さん。 ロマンチックな庭づくりに欠かせないつるバラ。店内にはつるを伸ばすシュラブやクライミングのバラが100株以上あり、スタッフ皆で剪定・誘引などの管理をしています。ショップの突き当たりの花壇では、つるバラとカラーリーフとの美しい競演が見られるので、ぜひチェックを。 ショップを彩る つるを伸ばすバラたち フェンスやオベリスクに誘引された、丈夫で育てやすいバラをご紹介します。取材時の秋バラは、特に深みのある魅力的な花色でした。秋は春より苗の販売数はだいぶ少ないものの、実際に咲いている花を見て、返り咲き性が強く丈夫な品種を確認できます。 左/‘ダフネ’:四季咲き、シュラブ半横張H1.5×W1.2m、花径6~7cm、中香 右/‘リパブリック・ドゥ・モンマルトル’:四季咲き、シュラブ半横張H1.3×W1.5m、花径8~10cm、強香 左/‘パットオースチン’:返り咲き、シュラブ横張H1.2×W1.0m、花径10~12cm、強香 右/‘エドゥアール・マネ’:四季咲き、シュラブ半横張H1.8×W1.2m、花径8~12cm、強香 左/ルイーズ・オジェ:返り咲き、シュラブ半直立H2.0×W1.5m、花径8cm、強香 中/‘マルク・アントン・シャンポルティエ’:四季咲き、シュラブ横張H1.5×W1.2m、花径6~8cm、中香 右/‘ポール・ボギューズ’:返り咲き、シュラブ横張H1.5×W1.0m、花径8~10cm、強香 左/‘ナエマ’:返り咲き、シュラブ半直立H2.0×W1.5m、花径8~10cm、強香 中/‘エリアーヌ・ジレ’:四季咲き、シュラブ横張H1.0×W0.8m、花径8cm、微香 右/‘パレード’:返り咲き、つる横張H2.5m~、花径10cm、中香 コンパクトなクレマチスは 奥の専用ハウスで販売 バラと併せて育てたい植物ナンバーワンのクレマチス。互いの花の少ない時期を補い合うように咲く、バラとベストコンビの植物で、広い敷地の奥にある専用ハウスにずらりと並んでいます。国内のさまざまな生産者から仕入れているので、品種は多種多様。たくさんありすぎて分からないときは、ぜひスタッフに声をかけてみて。 バラと一緒にクレマチスもサンプルで植わっています。さすが専門店、仕立ての美しさは見事です。 先代からの精神を受け継ぎ 上質な植物を販売 ショップがオープンしたのは今から約40年前ですが、店の前身として、戦後に先代の祖父がキクやシクラメン、クレマチスの原種を焼き物の鉢に植え、魚屋からもらった木のトロ箱に入れてリヤカーに載せて街に売りに行っていたそう。そんな時代を経て、息子の正晃さんは園芸店をスタート。その後、バラの魅力にいち早く気づいて、約20年前に、バラとクレマチスに力を入れたショップへと進化させました。 広い店舗ではバラやクレマチスのほか草花の品種にもこだわり、徹底した管理の下で販売。お店でピークを迎えるのではなく、お客様の手元に届いてからピークを迎えるように苗を扱っています。「仕入れ先の農家さんの思いのバトンをきちんと渡したいですね」と祐樹さん。 また、思い切ったサービスとして、苗に1カ月枯れ保障をつけているということにも驚き。「私には園芸は向いていない…で終わるのではなく、チャレンジして育てることの楽しさを感じていただきたいんです」。とことんお客様に寄り添う、真摯な姿勢がうかがえます。 ハウス内の資材売り場にも こだわりが凝縮 ハウス内は、寒さに弱い植物や資材売り場。バラやクレマチス栽培におすすめのアイアンフェンスやコンテナも多数揃っています。 松尾祐樹さんのイチオシ 「まつおえんげい」オリジナル培養土&肥料「プロスタイルシリーズ」+α プロスタイルシリーズは、「まつおえんげい」が長年の生産経験から自信を持っておすすめするガーデニンググッズや用土。とくに培養土は、こだわりがぎっしり詰まった最高品質です。 ◆「プロスタイルシリーズ バラの専用培養土」:排水性・保水性・通気性・保肥性・pHなど、すべてにおいてバラ栽培に最適な配合になっている。過剰になった肥料分を吸収する働きを持つゼオライトも配合され、根の傷みを防いでくれる。 材料にこだわった、「まつおえんげい」の肥料。販売されている苗や地植えしている植物にもふんだんに使われています。 ◆「プロスタイルシリーズ 花の元肥」:花だけでなく野菜や観葉植物にも使える元肥。植物のスムーズな成長を促す高品質の肥料で、効果は120日。 ◆「ALA配合肥料」:根張りをよくする特殊なアミノ酸配合の肥料。株が弱ったときや根が弱りやすい夏などにおすすめ。 ◆「プロスタイルシリーズ バラ専用肥料」:一年を通して使える追肥。1回の使用で30~40日持続する。バラをはじめ、クレマチスや樹木にも使用できる。 地元に愛される店を目指して設けられた 手づくりの喫茶店 「まつおえんげい」では喫茶‘ログハウス’も併設。「奥さんだけがお花を楽しむような場所ではなく,ご主人も一緒に来てゆっくり過ごしてもらえる、地域に愛されるお店にしたい」という思いで、今から36年前に正晃さんの奥様が始めました。ぬくもりを感じる建物は、北山杉の間伐材を使用。椅子やオブジェは倒木が用いられ、一刀彫で造られています。 松尾祐樹さんのイチオシ 丈夫で育てやすいバラ 【四季咲き・木立ち性】 ‘夜来香’ パープル系の中でも育てやすく頼もしい強健種。ブルーローズ独特の爽やかな香りも楽しめる。※1 ‘縁(ゆかり)’ 中輪多花性で、春以外のシーズンにもよく咲く良花。枝は太くなりすぎず、比較的コンパクトに維持しやすい。※2 ‘ピンク・アバンダンス’ 「アバンダンス(=たくさんの)」という名の通り、見応えのある中~大輪花をたくさん咲かせる。大まかな剪定でも花つきがよいので、剪定が苦手な方にもおすすめ。※2 【返り咲き・つる性】 ‘アミ・ロマンティカ’ 花弁のグラデーションが美しい半つる性品種で、秋によく咲く。花弁がしっかりとしているので雨でも傷みにくく、長く美しい状態を楽しめる。※3 ‘ベル・ロマンティカ’ 爽やかなクリアイエローと明るいグリーンの葉色のコントラストが美しい。直立気味のスリムな姿に育ってくれるので、スペースを取りすぎず、行儀よく楽しみやすい。※3 ‘マリー・ヘンリエッテ’ これぞバラといった豪華な大輪花で、香り・花もちともに優秀。病気にも強く、強健で見ごたえのある姿に育ってくれる。※3 ‘パブロワ’ 新品種で、バラの中でも意外と少ない白花大輪のつる性品種。耐病性に優れた育てやすい性質と、グレイッシュな落ち着きのあるホワイトの花が大変魅力的。※4 ‘リパブリック・ドゥ・モンマルトル’ 赤バラの中でも特筆すべき育てやすさを持つ、半つる品種。年に3~4回繰り返しよく咲き、深紅の美しい花を何度も楽しませてくれる。※5 明治から続く園芸店の老舗「まつおえんげい」。優雅なバラとクレマチスに加えて、四季折々の草花が豊富に並びます。また、知識豊富んsスタッフが丁寧にガーデニングライフを支えてくれます。ぜひ訪れてください。アクセスは、京都縦貫自動車道「大原野IC」「沓掛IC」より車で約5分。JR桂川駅・阪急洛西口駅よりバスで約20分「新林センター前」下車から徒歩約5分。 【GARDEN DATA】 京都・洛西まつおえんげい 京都府京都市西京区大枝西長町3-70 TEL :075-331-0358 営業時間:平日10:00~17:00/9:00~17:00(土日祝) 定休日:木曜日(祝日は営業)/正月・盆休み(※詳細はブログ等で掲載) https://matsuoengei.co.jp/ Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。 【写真協力】 ※1:河本バラ園、※2:タキイ種苗株式会社、※3京成バラ園芸株式会社、※4:株式会社花ごころ、※5:まつおえんげい
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ガーデン&ショップ
素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪34 岩手「iisago nursery & garden(イーサゴ ナーセリー&ガーデン)」
ナーセリーが営むクレマチス専門店「iisago(イーサゴ)」 「iisago(イーサゴ)」は、岩手県花巻市東和町のクレマチスのナーセリー「及川フラグリーン」が営むクレマチスの専門店。新しいオリジナル品種からスタンダードな品種まで、ナーセリーがおすすめするクレマチスを中心に、クレマチスと相性のよい宿根草や低木類、ガーデンツールなどを販売しています。 店名「iisago(イーサゴ)」とは、地元の作家・宮沢賢治が小説の中で、盛岡のことを「モーリオ」と呼んでいることにならい、ここ砂子(いさご)集落の名を変化させてつけたもの。地元愛にあふれたユニークな名前です。 約200種類ものクレマチスの苗がずらりと並ぶショップは、かつて生産用だった温室を活用して約6年前にオープンしました。大小さまざまな苗は用途や生育タイプなどでグループ分けされており、陳列商品の上から下げられた看板に分かりやすく表記されています。「たくさんある中から選ぶことは難しいと思いますので、分からないときや迷ったときは、気軽に近くのスタッフに声をかけてくださいね」と、オーナーで育種家の及川洋磨さん。 新しいオリジナル品種を生み出すには、ものすごい手間と年月を費やすというクレマチスの育種。及川さんは「無理なくきちんと育つ苗を作りたい」という思いで育種に励み、毎年3品種を目標に作出しています。 シーズンには株いっぱいに花をつけているので、圧巻の風景が広がります。奔放に伸びる細いつるが隣同士で絡んでしまわないように、ひと株ひと株ていねいに誘引されている様子には驚きです。 ショップ内には構造物に多様なクレマチスを誘引した植栽サンプルがたくさん。2~3種類組み合わせたプロの技も見られ、成長のタイプや雰囲気が確認できます。 難しいと思われがちなクレマチス。「iisago(イーサゴ)」では、初心者の気持ちになって相手のレベルに合わせ、専門用語を使わずにシンプルに伝えることを心がけています。「よく書籍などのクレマチスの紹介で見られる、系統や剪定タイプなどの複雑さに尻込みしてしまう人が多いみたいですね。でもそんなに難しく考える必要はないんです。最も難しいと思われている冬の剪定なんかも、じつは簡単。元気な芽があるところの上でカットすればいいんです。本当は思っている以上に簡単に楽しめる植物なんですよ」と及川さん。 園路脇で最も目を引くのが、この楽しいディスプレイ。今咲いている花を一輪ずつ挿した小瓶に名札が添えられています。「いい花なのに売り場では気づかずスルーされることが多いんですが、一輪ずつ飾ると劇的に皆さんの見方が変わるんですよ。多くの人が楽しそうに眺めていくんです。すべての花の魅力を、その都度伝えたいですね」。 大学で学んだ造園知識を生かしたサンプルガーデン 1970年代に父の及川辰幸さんが植木生産を始め、その過程でクレマチスの品種を集めていた「及川フラグリーン」。幼いころから植物を身近で眺めていた及川さんは、生産よりも庭づくりのほうに興味があり、東京農大・大学院の造園学科に進学しました。 6年かけて国内外さまざまなスタイルの庭やランドスケープを学んだというだけあって、商品苗を並べるだけでなく、クレマチスを庭でどう生かすかを小さな植栽で素敵に提案。併せてクレマチスの庭におすすめの植物の苗を多数揃えています。 ハウス奥には、木々に囲まれたレクチャースペースが設けられています。ここではクレマチスの育て方などの講座や、さまざまなワークショップが行われています。 及川さんおすすめの培養土や肥料、フェンスなどの資材類も充実。男性や若者など、多くの人に楽しんでもらえるようにと、おしゃれなアイテムも揃えています。併設された傍らのコーヒースタンドから、深い香りが漂っています。 五感が喜び、クレマチスの育ち方が分かる サンプルガーデン ハウスを抜けると、ショップのサンプルガーデンが設けられています。ガーデンは3つのエリアで構成されていますが、もともとは及川さんの実験場を兼ねたプライベートガーデン。6年前に「庭でもクレマチスの楽しさを見てもらいたい」という思いで、一般公開に踏み切りました。 周囲に広がる田んぼを借景にした起伏に富むガーデンは、かつては赤松が混在する林。‘いぐね’と呼ばれる防風林でした。マツクイ虫などで赤松が枯れ始めたことをきっかけに雑木林に切り替えたのち、脇にある田んぼだった場所に盛り土をして造られました。 最初に広がるのは、オベリスクに絡むたくさんのクレマチスと宿根草が調和するメインガーデン。未発表のオリジナル品種とイチオシのクレマチス、ガーデンプランツが植わっています。ここでは明確な園路は作っていないので、足を踏み込める場所なら自由に歩くことができます。また、池にはメダカやドジョウ、ヤゴなどが棲みついているので、子どもたちも楽しめる空間となっています。 ガーデンにも、クレマチス同士や草花との合わせ方のヒントがたくさん。鳥のさえずりや花の香りなど自然を感じながら、美しいクレマチスが楽しめます。 メインガーデンの奥は、防風林いぐねと雑木林の混在したエリア。木漏れ日がきらめく風景は、まるでイギリスのウッドランドガーデンのよう。ここにもたくさんのクレマチスが植わりつつ、ユニークな仕掛けがあちこちに盛り込まれています。 林の中にもクレマチスを導入。自然の風景になじみやすいよう、悪目立ちしない繊細なオベリスクが用いられ、‘エトワール・バイオレット’など野趣感のある品種が植えられています。 倒木などをクレマチスを生かす素材として使ってしまうのも、自然が多いこの地で育ち庭づくりを学んだ及川さんだからこそ。思いもよらぬ驚きの仕立て方です。 曲がりくねる林の中の園路にはバークチップが敷かれており、やさしい歩き心地。雨の日でもぬかるむことがないのもポイントです。園路がカーブするところには大型のホスタが植えられて、印象的な風景になっています。 林の中で見かけた魅力的なコーナー1 遊び心満載の演出 ショップ近辺の農家の納屋には、壊れた古道具がたくさん転がっているそうですが、及川さんはそれを譲り受け、庭で廃材と合わせながらユニークなオブジェとして活用しています。 林の中で見かけた魅力的なコーナー2 クレマチス以外の植物たち 赤松やアカシデ、コナラなどが植わる林の中で、静かな存在感を放っている植物をご紹介します。樹木や宿根草は和・洋のスタイルにこだわらず、及川さんが植えたもの。 ボリュームたっぷりの ロックガーデン サンプルガーデンの最も奥のエリアにあるのは、10年前に奥様の真由美さんと古い庭をリニューアルさせたロックガーデン。こちらはナチュラルなメインガーデンよりもダイナミックで、大人っぽい雰囲気です。 メインガーデンではクレマチスの育ち方を知ることができますが、こちらでは庭への取り込み方が分かります。真由美さんは、自然な空間づくりを得意とする造園設計会社で設計を担当していたこともある、この道の専門家。庭づくり&造園に精通する2人がつくっただけに、見応え抜群です。 こちらではオベリスクだけでなくトレリスなどを用いて、クレマチスの多様な表情を紹介しています。 及川さんおすすめの オリジナルクレマチス3種 及川さんが手がけた品種は今までに30種ありますが、なかでも特におすすめの3種をあげていただきました。 ‘流星’ インテグリフォリア系/開花期:5~10月/花径:8~11cm/草丈:1.5~2.5m 誘引しやすい半つる性。オベリスクやフェンスとの相性がよい。銀色にも見える花は、紫色の絵の具を吹きつけたような色合いで爽やか。 ‘タイニー・ポップ’ テキセンシス系/開花期:5~10月/花径:3~4cm/草丈:1~1.5m ポップで可愛いピンク色のベル形の花を、次々に咲かせながら成長する。枝の伸びはほどほどで、絡まりも弱いので扱いやすい。 ‘ルノカ’ ビチセラ系/開花期:5~10月/花径:6~9cm/草丈:2~3m 縁の爽やかな青紫色と、中心部の緑がかる白色とのコントラストが素晴らしい。ほどよい大きさの花をふわふわ舞うように咲かせ、軽やかな姿を見せる。初夏によく似合う。 ひたむきに美しい花を追求し、たくさんの人々に花の魅力を伝えることに心血を注ぐ及川さん。岩手の人々が敬愛する宮沢賢治の「農民芸術=労働すべてが芸術的行為である」の思想をそのまま体現しているようです。そんな及川さんが営む、自然なガーデンも楽しめるショップ「iisago(イーサゴ)」、ぜひ訪れてください。アクセスは、東北新幹線「新花巻駅」より車で約20分、JR釜石線「土沢駅」より車で約10分、釜石自動車道「東和IC」より車で約10分。
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素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪22 佐賀「グミノキ」
のどかなエリアにある 地域密着型の癒やしのショップ 佐賀県の西部に位置する武雄市。ここは、1,300年以上の古い歴史をもつ武雄温泉で有名です。「グミノキ」は、そんな温泉の風情漂うエリアの駅からすぐのところに店舗を構えています。 街道に面した開放感あふれる「グミノキ」は、店舗前に並ぶ色とりどりの草花が目印。植物に興味がない人も、ちょっとのぞきたくような華やかな彩りは、地域の癒やしの空間となっています。 季節の草花に加え、近年注目されているオージープランツやカラーリーフ、果樹など、どれもが庭を表情豊かに演出してくれるようなアイテムばかり。店頭にないものは取り寄せてくれます。 軒下、右手のゾーンは、ワイルドな趣のグリーン売り場。緑のグラデーションが作る潤いに満ちた空間は、植物園にでも来たような楽しい雰囲気です。一方、左手に広がるゾーンは、ドライプランツ類の売り場。こちらも個性あふれるサボテンや多肉植物などがずらり。乾湿、自生地の気候が異なる植物を混在させないメリハリを利かせた展開に、さらに奥の売り場への期待感がぐっと高まります。 庭を飾るアイテム類は、たくさんのグリーンの合間に点在。思いがけないものに出合うような楽しみがあります。これは、ディスプレイコーナーのアクセントや、鉢のポットフットとして活躍するミニレンガ。右側のスマイルレンガは、グリーンの脇に置くだけで愛らしいと人気のアイテムです。 ショップの‘得意’が詰まった 屋内のインドアグリーン売り場 屋外の売り場とは打って変わって、たくさんの観葉植物と旬の鉢花が並ぶ建物内は、四方から光が差し込むカフェのような空間。充満する植物のエネルギーが、訪れた人を元気にしてくれるよう。 この売り場では‘ギフト’に特に力を入れています。グミノキのスローガンは『日本のおもいやりを増やす』こと。「贈られた人が喜ぶことで、贈った人も嬉しくなるでしょ。だから、もらって嬉しいものを軸に店舗展開しています」と、オーナーの田中治さん。加えて、企業・病院・美容室などに飾ってある植物のメンテナンスにも力を入れており、「生き生きとした植物のエネルギーを、そこで働く人や訪れた人に提供したい」と考えています。 この店は、田中さんが何か地域で役立つビジネスをしたいと思いオープンしました。その当時、このあたりでは植物を販売する店がなく、「武雄の人々の生活に潤いを」という思いで園芸店を選びました。それまで勤めていた園芸店で得た知識と、テーマパークで学んだ‘人を楽しませるためのノウハウ’を生かしながら、店づくりをしています。 インテリア好きな人、贈り物を求めて訪れる人が多いグミノキ。そんなお客様の期待に応えるため、ショップ内には、「上質なビタースイート系植物で、おしゃれで、心地よい時間を演出するもの」という基準で選ばれた植物や雑貨が集められています。 インドアグリーン売り場には、植物に合わせたい、グミノキおすすめの雑貨類がたくさん。シャビーシックやビターなテイストのアイテムが、植物とともに雰囲気たっぷりにディスプレイされています。雑貨を使った植物ディスプレイの依頼も受注しており、いろいろなスタイルに応えられることが評判を呼んでいます。 田中さんのおすすめ。 鉢植えの土をカバーするアイテム 観葉植物を飾る際に、気になるのが土。大きな鉢ほど土の存在が目立ってしまいがちで、場合によっては不潔感や無粋な印象を与えてしまうことも。そんな土をカバーするのにおすすめなのが、「バーク」や「クルミの殻」、「ヤシの実のチップ」などのナチュラルな化粧材。自然素材なのでインテリアともなじみやすく、悪目立ちしません。カップ1杯・少量から販売しています。「どれを選ぶかは好みですが、植物とのベストマッチを狙うなら、ぜひご相談くださいね」。 のどかなエリアに彩りを添える地域密着型の園芸店・グミノキ。「町の癒しと笑顔づくりの場に」という田中さんの強い思いが込められたショップです。最近は、田中さんが気に入ったアート(絵画)をインドアグリーンと一緒に展示して、サブスクリプション(一定期間、定額で利用できる)スタイルを導入。気軽にアートに触れながら植物を楽しんでもらうための、新たな取り組みです。たくさんの提案が詰まった「グミノキ」。武雄温泉と併せて是非訪れてみてください。アクセスは、JR長崎本線佐世保線・武雄温泉駅から徒歩で約3分。 【GARDEN DATA】 グミノキ 佐賀県武雄市武雄町昭和40-2 TEL:0954-28-9144 10:00~18:00 祝日:火~金曜日 http://www.guminoki.net/shop.php Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
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素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪21 京都「cotoha」
京都の路地裏にある 隠れ家的存在の観葉植物専門店 専門コーヒーの香りと独特な雰囲気が漂う袋小路。インドアグリーンをメインに扱う植物の専門店「cotoha」はその一角、ツタに覆われた古びた建物の2階にあります。1階はカフェと雑貨店で、ゆっくり楽しめるショップが集まっています。 期待に胸を膨らませ急勾配の木の階段を上ると、まるで植物園の温室のような瑞々しい空間が。想像以上のグリーンの量に圧倒されます。 のびのびと枝葉を広げる観葉植物はみな、オーナーの谷奥俊男さんが自ら沖縄や鹿児島の生産農家に赴いて選んできたもの。現地で生産者に会い、育った環境、樹形の魅力などを一株ずつ自身の目で確かめながら仕入れています。珍しい品種はもちろん、曲がりくねった自然樹形のものも積極的に仕入れているので、空間をデザインするのにぴったりのグリーンが揃っています。 京都らしいこの古い建物は、もとは燃料倉庫で、その後は写真のスタジオとして使われていたもの。当時の高い天井と、大きく取られた半円形の窓をそのまま生かした店内には、どこかクラシックな趣が漂っています。それぞれの時代の名残が、空間に深みを与えて。 アンティークアイテムと合わせて 植物の生命力が感じられる空間を提案 オープンして約6年の「cotoha」。それまでは西陣の実家の生花店で切り花の販売をしていた谷奥さん。「生きている植物をもののように扱い、売れ残ったら廃棄という流れに疑問を持ちながらやっていたんだよね」。そんな思いを抱えながら販売していた観葉植物を自宅で育ててみると、次第に成長するその姿に繊細さやたくましさ、おもしろみを感じ、愛おしく思うようになりました。そして「育てる植物を販売しよう」と方向性が明確に定まり、実家の生花店から独立して観葉植物の専門店「cotoha」をオープンさせたのです。 店内では観葉植物と併せてアンティークの家具や雑貨も販売。什器や飾りにも巧みに使い、空間に雰囲気と立体感をもたらしています。どこを切り取っても絵になるそのあしらいは、おしゃれ感度の高い人たちの間でもインテリアのお手本として話題です。 あちこちのガーデニングショーやイベントで空間提案をすることも多い「cotoha」。最近は、東京ドームで開かれた世界らん展に、「ランとグリーンのある暮らし」をアンティークのアイテムと併せて展示提案し、好評を博しました。店舗でもワークショップやセミナーを開催し、「植物があることの重要性と楽しさ」を常に発信しています。 店名の「cotoha」は「古と葉」という意味。「古いものと植物で、暮らしに潤いを」という思いが込められています。 充実した植物ライフのために アフターフォローに注力 こんなにも多くの人に支持されている「cotoha」ですが、最初の年は失敗も多く、お客様に教えていただくことも多かったと谷奥さん。「実践することが何よりですね。自信を持って説明して販売できるよう、必死に研究しました」と振り返ります。その真摯な姿勢とインテリアセンスが評判を呼び、話題の人気店に成長しました。 お店が軌道に乗り3年ほど経った頃、新規の客数の伸びに対して、リピーターが減っていることに気づきました。その原因を探るべくいろいろリサーチしたところ、「購入後しばらくすると枯れてしまった。我が家には無理」という声が多く、さらにその枯れた原因を確認してみると「部屋は常に締めきっている」「部屋に日が入らず暗い」といったパターンでした。多くの人が本来あるべき状況からは大きくかけ離れた環境で植物を育てていることを知った谷奥さん。「これでは店も園芸業界も衰退してしまう」と危機感を募らせ、販売時の説明に加え、購入後のフォローにも力を注ぐようになりました。 観葉植物を育てながらベストな生育環境を分析して、きちんとデータ化している谷奥さん。お客様が育てようとしている環境を聞いて、どういった種類が合い、どういう管理が必要かということを分かりやすく、的確にカウンセリングしています。最近評判なのが、LINEを使っての個別アドバイス。植物は育てる環境が変わると葉を落としたり元気がなくなったりしますが、それが生理的なものなのか、不調なのか、初心者には見極めが難しいもの。お客様が写真をLINEでお店に送ることで、原因や今の状況を判断してもらえます。「初期に判断ができれば、枯らすことはありません」と谷奥さん。細やかなフォローで、お客様のストレスが軽減し、ショップのリピート率アップにつがっています 「今の園芸店は、店頭でもお客様が購入した後も、‘育てる’でなく‘延命している’感じがします。仕入れたときが最高にいい状態というのでは、お客様にストレスを与えますし、結果園芸から離れてしまいます。だから、僕は植物を仕入れる際に、生育環境を目で確認してます。そしてこの空間に徐々に慣らし、お客様にお届けた後もフォローすることを心掛けています。それは、この店の客数を増やすということだけでなく、園芸離れに歯止めをかけることにつながり、結果、園芸界に活気が戻ると思うからです」 最近では、ハウスメーカーやインテリアコーディネーターから講習会を頼まれることもしばしば。大学の教授と観葉植物がもたらす効果や最適な土などの研究を重ね、オリジナルの用土も開発・販売をしています。 谷奥さんのイチオシアイテム 「cotoha」のオリジナル用土・セラミックソイル 「cotoha」では、オリジナルの用土を開発・販売しています。室内で育てる観葉植物は、特に保水性、排水性が高く衛生的であることが重要。「cotoha」のオリジナル用土は、セラミックで作り、これらをクリアした安心の室内用用土です。最近は、個人や店舗のインテリア用としてだけでなく、病院での採用も増え、多方面からの信頼を得ているとか。 この用土は、一般的な鉢植えはもちろん、テラリウムなどにもおすすめです。乾燥してくると白く、湿っている状態だと茶色くなるので、水やりの目安が分かりやすいのもポイント。肥料は液肥を施してください。 落ち着いた路地裏で、京都を満喫しながら観葉植物を選べるショップ「cotoha」。植物の楽しみ方のみならず、ベストな栽培法や植物が人にもたらす効果、お客様へのサポートなど、とことん追求し、形にしている谷奥さんの熱意が満ちたショップです。ぜひ訪れてみてください。アクセスは、JR二条駅より徒歩約5分、地下鉄東西線二条城前駅より徒歩約7分。 【GARDEN DATA】 cotoha 京都府京都市中京区西ノ京職司町67-38 TEL:075-802-9108 営業時間:11:00~18:00 定休日:水曜日 http://www.cotoha.me Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
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素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪17 三重「こるれおーね」
西欧の片田舎にワープ感覚の 予約制のショップ 葉擦れの音が心地よい雑木の間に見え隠れする建物。西欧の童話に出てくるような風景です。ここは、庭づくりと資材販売業を営む竹内弘法さんのアトリエ兼店舗「こるれおーね」。普段は工事に出てしまっていることも多いため、予約制のショップとなっています。 まず出合うのは、フランス瓦を載せた建物に囲まれた小さな緑の空間。右側は、竹内さんが建てたアンティーク雑貨を販売するコーナーで、正面と左側は、かつての母屋の外装に手を加えたもの。ふんだんに使われた石の構造物や無造作に置かれた古道具と相まって、映画のセットのような風景となっています。 まるで西欧の古い農家を移築したかのような建物ですが、一般的な古い家屋(母屋)の外壁に石を張り付け、ニッチを設けたり、鎧戸風なあしらいを施したりと、竹内さんが渡欧時に目にした魅力的なシーンが、さまざまな形で再現されています。空間づくりの基本的なイメージは、イギリスやフランスの片田舎の風景です。 たくさんの雑木が植わる小さな空間では、素焼き鉢に植えたリーフ類を古びたテーブルやスタンドに添えるようにディスプレイ。絶妙なバランスで、さりげなくコーディネートがなされています。 ほんのり暗い建物内には、イギリスやフランスで買いつけた古道具を陳列。ビターなシーンづくりに活躍しそうなラインナップ。 地元のものを生かした 庭づくりを提案 店頭で資材販売を行っていますが、竹内さんの仕事のメインとなるのは、「庭づくり」。西欧の風景を意識しながらも、「地元の環境に合わせた庭づくり」を提案しています。 この周辺は、クヌギ、コナラ、ウバメガシなどが自生する自然豊かな場所。これらの環境を破壊して新たな住空間をつくるのではなく、共存していく方法を絶えず考えながら、お客様の希望を形にしています。 庭づくりの参考として、自宅・アトリエの前にサンプルガーデンを設けています。ここでは元から植わる雑木をうまく活用し、自然体なガーデンを提案しています。 雑木を活用する上で重要なのは、樹形や葉の形が醸す雰囲気で植栽場所を決めるだけではなく、木の性質・特性を踏まえた「機能性」も考えてレイアウトすること。例えば、西日が強かったり風が強く吹いたりする方角には、クヌギ、コナラなどしっかりガードしてくれる丈夫な雑木を植栽して日差しや風当たりを緩和。逆に、庭の中心や住居の前などには、ヤマモミジやアオダモなどのスラリとした繊細な木で、日当たりを確保しながら心和ませる効果を持たせるなど、雑木の利点をうまく活用しながら、レイアウトしています。 抜群のセンスを持ちながら、何でもこなしてしまう器用な竹内さん。「こるれおーね」を開業する前には、一般の会社で事務作業をしたり、造園会社で公園施工に携わったりする、サラリーマンの時代がありました。しかし、「もっと自身の感性に近い世界」に近づくために退職し、以前から興味があったイギリスの庭づくりを学びに渡英。日本でイングリッシュガーデンがもてはやされる少し前の頃でしたが、洋書などで見た「石を使った庭づくり」に、強く興味をそそられたのです。 イギリスの造園会社に飛び込んで石積みなどの修業を重ねた後、フランスにも数回渡り、見聞を広めた竹内さん。フランスで見た「無造作で愛らしさを感じる素朴な庭」に心動かされ、戦利品を持ち帰るような気分で帰国しました。 早速、イギリスやフランスから石材や古道具などを仕入れ、自宅の敷地で庭づくりをスタート。まずは、古い母屋を改装して小屋をつくり、徹底してフランスらしさを演出しました。「その当時、フランスのナチュラルな雰囲気が時代にフィットしたんですよね。今考えると、あの頃は海外にばかり目を向けていたな」と、竹内さんは振り返ります。 庭づくりが軌道に乗ってくると、地元の良さを再認識する余裕が生まれ、地産の石や樹木の活用を考え始めました。このあたりの黄色みを帯びた石は、イギリスやフランスの石と馴染みがよいので、竹内さんは部分的に混在させて使用。さらに、植物もこのあたりに自生するウバメガシなどの雑木を使用することで、鳥や虫がたくさん棲息するようになるそう。「土づくりも地元の土をよく研究して行っています。植物も、ここの風土に合った地元のものを選ぶことで、無理のない庭づくりが行えます。健やかな庭づくりが、健やかな暮らしにつながっていくよね」と竹内さん。 古くからある知恵も取り込み、 住空間もデザイン 海外で得たノウハウを自宅の敷地全体に盛り込み、ヨーロッパテイストに仕上げて約23年経った2017年、煉瓦や石など、ヨーロッパのアンティーク資材を用いながら、木造りや土壁などによる日本的工法を取り入れ、新しい住居を敷地内に建て始めた竹内さん。仕事の合間を縫って、手間をかけながらじっくりと家づくりをしています。 着手して3年目のぬくもり感あふれるこの家には、こだわりの手法がいっぱい。「便利でなくてもいいんです。かつて大工だった親父が言っていた『家を建てることとは』のセオリーが、今自分が考える『自然に寄り添った健やかな住環境づくり』と共通していることを、ここ数年で感じ始めたんです。それをじっくり考え、実践、検証しているんです。もっと親父にいろいろなことを聞いておけばよかったな」。 杉皮を載せた軒(左)と薄い石を重ねて載せた屋根(右)。どちらも手間をかけて丁寧な作業を重ねただけあって、深い味わいを放っています。 「こるれおーね」の 雑貨あしらいのあれこれ イギリスやフランスで買い付けてきたアイテムが、ガーデンのあちこちに点在する「こるれおーね」。竹内さんの片田舎の風景づくりの素敵の秘密をご紹介。ぜひシーンづくりの参考にしてください。 【建物の入り口脇には、どっしりとあしらう】 入り口に細々しいものが転がっていると、来た人に不安定さを感じさせてしまうので、ボリュームを持たせてあしらいます。 【きれいに並べすぎない】 アイテムを重ねて飾る時は、向き=振りを少し変えておくことで、軽やかさと動きが生まれます。 【時間を感じさせる】 放置して植物を絡ませたり、「作業の途中」という雰囲気を出したり…。‘時間’を感じさせることで、シーンに深みがぐっと増します。 【ちょっと寂しい場所には、ハンギングを】 なんだか物足りないけど、日陰だし…。そんな場所では、やはり雑貨が活躍。あまりあれこれ使わず、2~3点を組み合わせて飾るといいでしょう。 【さっぱりさせたい場所は、白でまとめる】 ボリュームを持たせたいけれど、さっぱりと飾りたい場所には、色がケンカしない白いアイテムがおすすめ。ここはホウロウでまとめたので、異素材の縄をかけて温かみをプラス。 「こるれおーね」竹内さんのイチオシアイテム 「車輪がついた雑貨」 いろいろなアイテムがありますが、ここぞという場所には、車輪の付いたアイテムがおすすめ。ボリュームのあるボディに車輪の細いラインが対比して、変化のあるシーンを生み出してくれます。また、車輪が動きも感じさせるので、シーンに軽やかさも加わります。 ヨーロッパのデザインや輸入したこだわりのアンティーク資材を取り入れながら、日本の知恵や技術を生かした庭や建物づくりを目指す「こるれおーね」。西洋と日本の異なる魅力を融合させながら、オリジナル性の高い世界を生み出しています。「本物を知り、今目の前にある自然と向き合ってこそ、よい仕事ができると考えています」と竹内さん。よいものを創るには労力を惜しまないその姿勢が評判を呼び、たくさんの人が志摩まで訪れています。不在のことも多いので、訪れる際は一度ご連絡を。アクセスは、志摩神明駅から徒歩約45分。伊勢自動車道 伊勢西ICから車で45分。 【GARDEN DATA】 こるれおーね 三重県志摩市阿児町立神3414-25 0599-45-4352 営業時間:10:00~18:00 定休日:月・火曜日(夏・冬休みあり) http://www.corleone.ecnet.jp/ https://www.corleone1995.com/ Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
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素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪15 宮城「スワローテイルガーデン」
閑静な住宅街の中で 牧歌的な風を感じさせるショップ 仙台市郊外の閑静な住宅地の中にあるスワローテイルガーデン。店先の小さな庭に設けられたはちみつ色の石積みが、異国情緒を放っています。この石積みは、オーナーである小野雄大さんがイギリスの石を英国式の工法で積んだ壁、ドライウォール。ほんの数メートルの壁ですが、コッツウォルズの風景を感じさせています。 石積み+ナチュラルな草花の 素朴な演出にほっこり 石積みには、野に生えているような楚々とした草花が寄り添い、牧歌的な風景が演出されています。この本場さながらの石積みは、セメントを使わずに石を載せるだけという英国式工法で、熟練の技術と勘が必要。国内で最初に英国に渡って資格を取得した神谷造園(愛知県岡崎市)の神谷さんに学びながら、さらに本場でも研鑽を積み、技術を習得しました。現在国内でたった3人しか認定されていない難易度「レベル3」を保持しており、常に次なる高みを目指して技術を磨いています。 ふんわりとした姿の草花を合わせて、石積みの重い印象を軽減。 庭の雰囲気を盛り上げる 数々のオーナメントも必見 小さなガーデンの雰囲気を盛り立てているのは、イギリスから仕入れた、重厚感のあるオーナメントやコンテナ類。大小さまざまのアイテムが見事に石積みと響き合いながら、軽やかな植物とバランスよく調和しています。 植栽の中にひっそりと配したバードバスとカエルのオーナメント。全形を見せないのが自然な庭を造るポイント。自然体な庭づくりからは、小野さんの人柄や植物との向き合い方が感じられます。 子どもの頃から親しんだ風景が 現在つくり出す風景につながる 子どもの頃、庭に咲いた花を部屋に飾るのが大好きだったという小野さん。母方の実家は田畑に囲まれた茅葺きの古民家で、そんな風景に親しみながら育ちました。その頃の記憶が、現在抱く心の原風景になっていると言います。 「園芸というより植物全般やそれを取り巻く環境に興味がありましたね」。子どもの頃から抱いていた「植物や園芸のことをもっと知りたい」という思いに押され、高校卒業後は、タイやマレーシアの農場を一年ほどかけて見て回り、帰国後は園芸の学校に入学。園芸学校では室内装飾・インドアグリーンを専攻していました。けれど、それだけでは飽き足らず、専攻以外にも面白そうなことは何でも参加し、学校が長期休みに入ると、校内の圃場やハウスで栽培の管理を自主的に行ったり、造園の講習にも頻繁に出席。さらに、都内のインテリアショップやアンティークショップも、時間をつくっては見に行くという生活で、あらゆる感性に磨きをかけていきました。 園芸の学校を卒業した後は、通訳をしていた祖父の影響もあってニュージーランドに渡航した小野さん。ニュージーランドでは、古いモノや拾ってきたモノをさりげなく取り込んだり、自然な植栽を楽しんでいる人が多く、日本のガーデニングとは異なる‘無作為な庭づくり’に感動を受けました。毎日新たな刺激を受けるにつれ、「日本の庭園についてもきちんと学ぶ必要があるのでは?」と感じ始め、帰国後すぐに、鎌倉の造園会社に入社しました。 何世代にもわたって受け継いだものを大事にしながら、自身の趣味を反映させている家が多い鎌倉。土地柄、借景を生かした庭も多かったため、自然に見せる手法や剪定の技術を学びました。学校だけでなく、ニュージーランドや鎌倉で、あらゆることを吸収していったのです。 英国の香りが満ちあふれる 居心地のよい建物内 東日本大震災をきっかけに、奥様の明日香さんと仙台に戻り、以前から考えていた園芸店を自宅でスタートさせた小野さん。住まい兼を兼ねたショップは、イギリスにあるような小さな家がコンセプトです。壁はコッツウォルズのハニーストーンに似た色を選び、屋根の傾斜は現地の角度を参考に。緑の木のドアを開けると、イギリスの香りがさらに強く味わえる世界へ突入です。 室内はイギリスで買い付けてきたというツールや雑貨でいっぱい。暖炉のあるリビングのような空間は、誰かの住まいを訪れたような落ち着いた時間が流れています。 小野さんはイギリスに行くたびに、あちこちのディスプレイをチェック。特に、コッツウォルズのテットベリーという小さな村にある何軒かのアンティークショップがお気に入り。「ショップ巡りはとても刺激になりますよ。この村はリッチなエリアなので、置いてあるものがみんな素敵なんです」。 父方も母方も、祖父が通訳だったことから、幼い頃から海外の人や物に親しんでいた小野さん。「イギリスのトラッドなファッションが昔から好きですね。あまり時代に流されずに、カッチリしたところが好きなんです」。そんな伝統を重んじるイギリス人は、おとぎ話や愛らしい動物が大好き。このショップでは、そんな文化も感じることができるアイテムがいっぱいです。 スワローテイルガーデンの ディスプレイあれこれ 季節ごとにチェンジするスワローテイルガーデンのディスプレイ。イギリスのウインドーディスプレイの雰囲気を意識して飾り付けをしています。その素敵の秘密をご紹介。ぜひ、ベランダのコーナーやもてなしのシーンづくりの参考にしてください。 【ガーデンアイテムは、明るく清潔感が漂うように】 ガーデンツールや雑貨も泥臭い印象にならないように、清潔感を大切に一般的な雑貨と同じ感覚で飾ります。春や夏など開放的な気分になる季節は、明るいカラーにまとめて楽し気に演出しましょう。 【チェアも什器に活用】 テーブルセットの一つであるチェアも立派な什器に。何を置いてもしっくりなじみ、ぬくもりのあるシーンが演出できます。居心地のよい空間づくりにぴったり。 【ドライフラワーもマストアイテム】 なんだか物足りない──そんな場所にはドライフラワーを添えてみましょう。ニュアンスのある色味のものを選べば、落ち着いたシーンを描けます。ほんの少し添えるだけで、絵になるシーンに。 【冬ごもりの時季は、あたたかみを添えて】 寒い時期は外の風景を取り入れながら、心もあたたまるシーンを演出します。野山に行けばいくらでもある枯れ枝は、ディスプレイで活躍する重要アイテムです。花瓶などに数本挿して、動物のオーナメントを添えれば、ォーカルポイントに。この年のクリスマスは、あたたかみのある上品なブラウンでまとめました。「冬の時期のピーターシャムナーセリのようなキラキラ感を取り入れています」。 キッチンツールで アットホームな楽しさを おたまや木べら、キャニスターなどのキッチンツールは、空間に安心感やぬくもりを感じさせるのにぴったりのアイテム。クロスやお菓子などを合わせて、楽しく演出しましょう。 テーブルコーディネートは つややかさと透明感が肝要 大切な人をおもてなしする日は、テーブルセッティングに特に力を入れたいもの。上品にまとめるためには、次の3つが大切です。①色を揃えて少なくとどめること。②ガラスも使って透明感を出すこと。④植物をほどよい分量でさりげなく添えること。 こだわりのスイーツ&ティーも並ぶ 夢のような空間 ショップ内には、「秘密の庭の小さな焼き菓子店」と名付けられた小さなスイーツ&紅茶コーナーがあります。スイーツは、近所で小野さんの母が営むレストラン、「Salon de Cafe MANNE (サロンド カフェ マンナ)」のもの。こだわりの材料で作られたタルトやシフォンケーキ、クッキーが並びます。そして10種類以上ある紅茶は、ドイツのロンネフェルト社のもの。香り高く深い味わいが、優雅なティータイムを演出してくれます。 小野さんのイチオシアイテム 「コッツウォルドストーン」 イギリスのカントリーサイドでよく見られる石積み。庭や牧場の仕切りとしてだけでなく、橋や川岸、建物の塀にも用いられています。イギリスでは景観条例が厳しいので、自然に溶け込むこの石積みが最適なのです。 小野さんは庭の施工も手掛けているので、現在日本各地で石積みをしています。地場産の石を使うこともありますが、雰囲気を出したいエントランスなどには、やはりコッツウォルドストーンがおすすめです。 イギリス人がこよなく愛する草花、お菓子、紅茶、おとぎの世界。それらすべてを取り込んで、トータルでガーデンライフを提案しているスワローテイルガーデン。イギリスのエッセンスがぎっしりと詰まった空間は、しばしの間旅行気分にさせてくれる本格的な演出です。ぜひ訪れてください。アクセスは、仙台市地下鉄南北線泉中央駅よりバスで約15分。 【GARDEN DATA】 スワローテイル ガーデン 宮城県仙台市泉区将監12-11-9-2 TEL: 022-725-6998 https://www.facebook.com/Swallowtail-garden-1426701067608819/ 営業時間:11:00~18:00(冬季は17:00ごろ閉店) 休日:日曜日、月曜日
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素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪5 兵庫「みどりの雑貨屋」
雑貨好きにはたまらないショップ「みどりの雑貨屋」 生活提案型の大型ショッピングモール・西宮ガーデンズ内にある「みどりの雑貨屋」。このショップではモールのコンセプトにふさわしく、グリーンと雑貨でつくる潤いある生活を提案しています。商品はマニアックというよりも、「ガーデニングの初心者も手軽に始めてもらいたい」という思いでスタッフが選んだものばかり。‘育てやすいグリーン×雑貨’に特化した、ありそうでなかなかないショップです。 ‘かわいい’がぎっしり詰まった宝箱のようなショップ ショップに一歩足を踏み入れると、たくさんのグリーンと愛らしい雑貨の森に入り込んだような、ファンタジーな世界にワープした感覚を覚える「みどりの雑貨屋」。100㎡ほどの空間には細い通路がめぐらされ、小さいながらもさまざまなシーンに出合えます。商品数はとても多いのですが、センス良く整然と並べられているので、気持ちよく売り場を見て回れます。 グリーンはすべて、鉢や雑貨と一緒に並べられています。コーディネートに不慣れなビギナーでもイメージしやすいよう、こまやかな提案がなされています。 ショップの中央に設けられたパーゴラが、売り場のシーンの切り替えに大活躍。いろいろなものを置いたり吊ったりと、楽しく飾った見どころの多い空間です。 マクラメやワイヤーバスケットなど、ハンギングアイテムもたくさん。 愛らしい寄せ植えも参考にしたいものの一つ。ベランダガーデンにオススメのオリーブの木も、実付きを考えて2品種以上選べるよう、いろいろな品種が用意されています。 悪条件の場所にオススメのフェイクのグリーンも充実 店内にはたくさんのグリーンがありますが、販売の回転が速いこともあり、どれも瑞々しい状態を維持。スタッフ全員で万全な管理を行っています。しかし、「玄関やトイレなど光が入らない空間にもグリーンを飾りたい」という声が多く寄せられたことから、フェイクのグリーンも多数扱っています。 「最近のフェイクはとてもよくできているので、植物と同じぐらい瑞々しさを感じさせてくれます。特に室内や、日当たりや風通しの悪いスペースなどにオススメですね」と、ショップのコーディネーターであるRIKAさん。悪条件になる場所では、こういったもので対応すればストレスなく過ごせますね。 室内での管理が難しい多肉植物。うまくいかない時は、本物のように瑞々しいフェイクを使ってみませんか? アートフラワーも充実。上品な色合わせで、アンティーク調の雑貨と親和性が抜群。ブーケ状になっているので、おもてなし時のコーナーづくりにぴったりです。 コンテナも什器も要チェック売り場にあるものすべてが商品 おしゃれなコンテナも充実。大きさ・色・形などバリエーション豊かに並びます。いずれもグリーンや雑貨に合わせやすいデザインのものが選ばれているので、ビギナーさんでも考え込まずに購入することができます。 大きなコンテナは土が入るとずっしりと重くなってしまうので、女性でも扱いやすい軽い素材のものも取り扱っています。色は植物や雑貨となじみやすいアイボリーやグレーのものが中心。使う側の目線に合わせた商品選びが感じられます。 また、コンテナを飾っている什器も販売されており、商品の雰囲気を引き立てるように黒や木製のもので統一されています。「ナチュラルなものやメンズライクなテイストは、グリーンが美しく映えるし、雑貨とも合わせやすいんです」とRIKAさん。 キャベツボックスは、オランダの農家で使われていたものを忠実に再現した、ショップのオリジナル商品。細部までこだわり、材を釘だけでなくカスガイでもとめて、底面をメッシュにした本格的な仕上がり。強度も抜群です。 おしゃれなコーナーづくりに欠かせないアイテムも 植栽に忍ばせたり、コンテナに添えたりと、シーンの雰囲気を高めてくれるアイテムもバラエティー豊富に揃っています。たくさんある中から、お気に入りの一点を探すのも楽しい時間です。 洋書の世界のようなお手本にしたいディスプレイ 小さなスペースを巧みに生かし、さまざまなテイストで提案している見ごたえのある‘グリーン×雑貨’の楽しみ方。ディスプレイは月に2~3回と頻繁に変えているので、行くたびに新たなシーンが楽しめます。眺めているだけでもセンスアップにつながること請け合い。 緑色の花瓶とボタニカルアート、ボックスなどを盛り込んだ、つややかなコーナー。 異なるテイストのコーナーが、スムーズに、そして自然に移り変わる見事なディスプレイ。小さなスペースでいろいろ楽しみたい人に、とても参考になる技です。 ガラスのケースに並ぶ、乙女チックな趣のアイテム。やさしい花色のバラと一緒に飾っても素敵。 クラフトのリースも大人気。リースひとつでシーンの雰囲気がガラリと変わるので、ぜひ季節ごとに替えてみて。 RIKAさんイチオシのグッズはコレ!ウッディボックスキャリー みどりの雑貨屋がオススメするのは、「グリーンを部屋に飾る時は鉢カバーにもこだわってほしい」という思いで作ったオリジナルの木製カバー。色は落ち着いたブラウンで、空間のスタイルやテイストを問わずに使えます。作りはキャベツボックスと同様で非常に丈夫。底部にキャスターをつけることができるのも、オススメポイントの一つです。 サイズはLとSの2つ。8号サイズが入るL(W29.5 × D29.5 × H31 cm)と、6号サイズが入るS (W23 × D23.5 × H24.5 cm)。 グリーンと雑貨で見せる‘かわいい’空間づくりにこだわった「みどりの雑貨屋」。‘おもちゃ箱をひっくり返したよう’をイメージして展開された店内には、植物から広がる楽しさのアイデアがたっぷり詰まっています。ぜひ、お気に入りのアイテムを見つけに訪れてみてください。アクセスは、阪急電鉄神戸線「西宮北口駅」から直結する阪急西宮ガーデンズ内。 【GARDEN DATA】 みどりの雑貨屋 所在地: 兵庫県西宮市高松町14-2 阪急西宮ガーデンズ 1階 東モールTEL: 0798-65-4187URL: http://midorinozakkaya.com/ 営業時間:10:00~21:00定休日:無休(正月を除く) 併せて読みたい ・素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪1 岩手・雫石「花工房らら倶楽部」・ガーデンデザイナーが教える「寄せ植え上手」のコツ・一年中センスがよい小さな庭をつくろう! 英国で見つけた7つの庭のアイデア