「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」ガーデナー5名の2月の“庭づくり”をレポート!
東京都調布市にある神代植物公園のプロムナード[無料区域]でコンテストガーデンの公開がスタートしている第2回 東京パークガーデンアワード。2023年12月上旬の第1回作庭から約3カ月後を迎えた2月下旬、2回目となる作庭日が設けられ、切り戻しなどのメンテナンスや追加の植栽など、花壇のブラッシュアップ作業が行われました。日向と日陰の各5つのエリアでは、どんな作業がされたのか。仕上がりの様子までご紹介します。
目次
「第2回 東京パークガーデンアワード」【2月末】第2回作庭
12月上旬に第1回目の作庭がされたあと、コンテストガーデンのある東京では一度雪が数センチ積もる日があったものの、2月にはこの時期には珍しく25℃に達する暖かな日もありました。年を越し、本格的な春がやってくる前に行われた2月下旬2度目の作庭の様子をご紹介します。
コンテストガーデンA
Grasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜
◆今回の作業
①除草
抜いた雑草類は花壇後方に設置したバイオネストに。比較的コンパクトなサイズで、鳥の巣のような形が愛らしい。
②上部残った枯れた部分を切除
主にグラス類の地上部をカット。これもバイオネストにイン。
③一部球根類の植え込み
1月に届き、家で保管していたユリの球根を植え込み。「芽が伸びてしまっていて、植え付けが遅すぎではないか心配」と古橋さん。
◆2月下旬のガーデンの様子
■日向(北側)
マルチング材の杉皮バーク堆肥(ガーデンモス)をたっぷり使い表土が覆われていることで、ガーデン全体が明るくやわらかい印象です。リナリア・プルプレアがこんもりと葉を茂らせ、小球根のピンク色のクロッカス‘ホワイトウェルパープル’やスイセン‘ベビームーン’が彩りを添えるなど、一足早い春を迎えています。
◆日陰(南側)
日向と同じグランドデザインですが、日陰の花壇の方がレベルの起伏がはっきりと浮かび上がっています。ベースの構造が確認できるのは冬の間だからこそ。まだ寒々しさが残っていますが、明るい黄緑葉のカレックス‘エバリロ’や銅葉のティアレラなどのリーフ類が色彩を添えつつ、シラー・ミスクトスケンコアナや、楚々としたバイモユリの花が愛らしさを放っています。
◆こだわりのプランツタグ
プランツタグといえば、イギリスなど海外の植物園で見かける「黒地に白文字」のイメージがあり、日本語による表記とともに学名も記載しています。神代で開催なので植物園らしさを出しつつ、外国の方にも楽しんでいただけるように設置しました。
コンテストガーデンB
花鳥風月 命巡る草はら
◆今回の作業
①不要な分の雑草取り
宿根草の根元で邪魔になる雑草のみを除去。現時点で愛らしいものや彩りが寂しい場所は残し、草原っぽさを演出している。
②宿根草苗を追加植栽
アガパンサスやホトトギス、カレックスなど寒さに弱い植物を植栽。
③カットバック
グラス類の切り戻しやノリウツギの花がら取り。刈ったグラスの葉は細かく切ってマルチングとして活用。
◆2月下旬のガーデンの様子
■日向(北側)
グラス類の枯れ葉の合間で、黄花のスイセン ‘イエローセイルボート’と白い房咲きのスイセン‘ペーパーホワイト’が明るい顔をのぞかせて、早春らしい風景が広がっています。また、宿根アイリスやスイセン類、カレックスの葉が描くアールのフォルムで、春の訪れに浮足立つようなリズミカルさが生まれて、素朴でナチュラルな雰囲気が漂っています。
◆日陰(南側)
常緑のヤブランやツワブキが瑞々しく育ち、日向のガーデンとは全く異なるシーンが広がっています。中央を横断する作業用の通路には剪定枝やカットした枯れ葉が敷かれ、思わず歩きたくなる小道があるような風景に。青々とした風景の中でカレックス‘エヴァリロ’ (左)が、効果的な明るいアクセントになっています。通常鉢植えで楽しまれるオモトも今回植え付けられましたが、今後どのような効果をもたらすのか楽しみ。
◆こだわりのプランツタグ
自然な草はらの空気感を壊さないように目立たない細長いプレートを選びました。鉄製で重みがあって何度も使用できます。裏には、学名も記載してあります。
コンテストガーデンC
草原は、やがて森へ還る。
◆今回の作業
①雑草取り/溝に資材を投入
抜いた雑草は、小川のように蛇行して設けられた溝に入れる。溝内の腐植にタイムラグをつくるために枯れ枝・炭を溝に足す。
②苗の追加/微調整
1回目に植えた植物の育ち具合を見ながら、位置を微調整する。
③カットバック
グラス類をメインに枯れた葉を切り戻し。カットした葉は溝に入れる。
◆2月下旬のガーデンの様子
■日向(北側)
起伏が大きく、溝となる部分には太い木片が投入され、ワイルドな雰囲気が漂っています。それに対し、溝の傾斜部分に春を告げるクロッカス‘ホワイトウェルパープル’が群れ咲いて、小球根の愛らしさが際立っています。花壇の手前側に植えたチューリップの原種‘アルバコエルレアオクラータ’が。あまり目立つ花ではありませんが、花が少ないこの持期に花を発見する楽しみを提供してくれています。
◆日陰(南側)
低木はまだ葉を出していませんが、株元では常緑の植物たちが瑞々しく葉を展開。まだ深みのある緑葉が多い中で、ワイルドチャービル(下左)のライムグリーンの葉がひと際明るく存在感を発揮しています。可憐な花を下げるクリスマスローズ(下右)とともに、道行く人の目を引き、ところどころに差す光が林床を思わせています。
◆こだわりのプランツタグ
シンプルで見やすくて主張しすぎない、そして朽ちにくい素材のものとして、黒い金属板のタイプを採用。
コンテストガーデンD
feeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~
◆今回の作業
①雑草取り
除草したものは後方に設置したコンポストの片方に入れる。ある程度積み上がったら、開いている側に切り返し(かき混ぜて空気を取り込む作業)を行い、腐食を促す予定。
②植物苗追加植栽
年内に入手できなかった植物を追加で植栽(ラナンキュラス・ラックスシリーズ、ユーパトリウム‘ベイビージョー’、ニホンムラサキなど)。福岡のちびっ子も上京して参加(下)。
③切り戻し(グラス、低木など)
アナベルなどの低木類は、生産者のレクチャーの元、花が咲く時期の樹高や花のつき方をイメージして切り戻しの高さを調整しながら剪定。グラス類の中でも、スティパとカレックスは、切り戻さず透かし剪定を行い、ボリュームを調整。剪定くずは雑草同様にコンポストに入れる。
◆2月下旬のガーデンの様子
■日向(北側)
細い溝で分けられたいくつかのゾーンに植え込みには、今か今かと待ちわびているさまざまな宿根草が確認できます。ガーデンの手前では、よく道端で見かけるオオイヌノフグリをイメージして、丈が低く華奢なベロニカ‘オックスフォードブルー’を植栽。のどかな風景を連想させています。チューリップがあちこちで芽を出しており、春本番にはぐっとにぎやかになることでしょう。
◆日陰(南側)
まだ枯れ木状態の落葉低木を背景に、一足早く宿根草や球根類が芽を出して成長を始めていいます。その陰陽の対比が、これからの競演を期待させています。また、大きく葉を広げるツワブキやリョウメンシダが、日向のガーデンとはひと味もふた味も異なるダイナミックな野趣を演出しています。
◆こだわりのプランツタグ
間伐材を加工して作成し、日向・日陰、それぞれの雰囲気に合うように2タイプ用意。日向には木の無垢地に黒文字で、日陰には黒く塗った地に白文字で植物名を表記しています。又どちらもハンギングタイプで高さを出し、植物名が調べられるようQRコードをつけています。
コンテストガーデンE
武蔵野の“これから”の原風景
◆今回の作業
①雑草取り/カットバック
ススキやフジバカマなど地上に枯れた姿を残していた植物を切り戻し、春の芽吹きを促す。冬季には地上から姿を消す宿根草が大部分を占めており、それぞれの芽吹きを観察できるよう今回は雑草を抜く。
②苗の補植
12月になかなか思い通りの株が手に入らなかった、クサソテツやフウチソウを植え付け。
③バイオネスト設置
神代植物公園内で発生した剪定枝を材料にして、日向・日陰それぞれ異なる樹種の枝でガーデン後方に設置。枝のしなり方が違うので、作り方や仕上がりの見え方もやや異なっています。バイオネストの底には、植物ごみの減容、減量を促す自作の基材(モミガラ、落ち葉、コメヌカを発酵管理したもの)を敷き込んでおく。
④マルチング
昨年末に、完熟バーク堆肥を3cmほどかぶせていましたたが、細かすぎて風で飛んでしまうこと、今後保湿効果が薄いことを懸念して、重みのある腐葉土を追加で2cmほど、全体にかぶせました。
◆2月下旬のガーデンの様子
■日向(北側)
選んだ野草類は成長速度が穏やかなものが多く、まだガーデンに大きな動きは見られないですが、土中の見えないところでは、確実に小さな芽は成長しています。部分的に成長が早い植物もあるので、それを見つける楽しい時間です。ガーデンの手前側では、ノアザミ(寺岡アザミ)と原種のチューリップ・トルケスタニカがほかより一足先に成長を進めていました。
◆日陰(南側)
日陰側も主だった成長はまだまだのようですが、ガーデンの中央高台ではディアネラ‘ブルーストリーム’がオーナメンタルな存在感を放ち、背後ではタマシダがつややかな葉を広げています。また、多くの野草が眠るなか小さなフクジュソウが見頃を迎え、春の到来を告げていました。
◆こだわりのプランツタグ
木材に植物名と学名をレーザー加工で記したオリジナルのプランツタグです。地域内での資源巡回を目指し、使用した木材は近所のオーダーメイド材木屋『ティンバークルー』で長く使っていなかったサクラ材を用いて製作しました。表記はシンプルに和名と学名のみにして、データを作成し、レーザープリンターで印刷しました。
コンテストガーデンを見に行こう! Information
東京都・神代植物公園を舞台に行われている「第2回 東京パークガーデンアワード」。5人のガーデンデザイナーが日向と日陰のガーデンづくりにチャレンジし、趣の異なる10のガーデンを観賞することができます。いつでも自由に見学可能。日々表情を変えていくプロによる植栽を見に、ぜひ訪れてください。
都立神代植物公園(正門手前プロムナード[無料区域])
所在地:東京都調布市深大寺元町5丁目31-10
https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/
電話: 042-483-2300(神代植物公園サービスセンター)
開園時間:9:30~17:00(入園は16:00まで)
休園日:月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日が休園日、年末年始12/29~翌年1/1)
アクセス:京王線調布駅、JR中央線三鷹駅・吉祥寺駅からバス「神代植物公園前」下車すぐ。車の場合は、中央自動車道調布ICから約10分弱。
Credit
取材&文 / 井上園子 - ライター/エディター -
いのうえ・そのこ/ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
写真 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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