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吉谷桂子さんのガーデン「the cloud」から学ぶ“ナチュラリスティックな庭づくり”④ ~ガーデン環境整備について~

吉谷桂子さんのガーデン「the cloud」から学ぶ“ナチュラリスティックな庭づくり”④ ~ガーデン環境整備について~

2022年から東京都公園協会が実施しているガーデンコンテスト「東京パークガーデンアワード」とともに話題となっている吉谷桂子さんによるモデルガーデン「the cloud」。2022年冬に着手されたこの庭は、吉谷さんのこれまでの経験と実践、そしてセンスのすべてが注ぎ込まれたモデルガーデンです。持続可能な社会に相応しく『ロングライフ・ローメンテナンス』を目標に掲げながら、実験的要素が含まれた「the cloud」の庭づくりを、、連載でご紹介。現代のガーデニングのヒントがたくさん! 第4回は『ガーデン環境整備について』です。

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ガーデンづくりは、環境にも自分にも優しい
メンテナンスフレンドリーで

園路が入り組んでいる雲形の花壇は、お手入れしやすいことに配慮されたデザイン。

気象変動と自身の体力と向き合いながらガーデンをつくるには、下記の3つを意識して自然といかに仲よくしながら楽しめるかがカギ。

  1. メンテンスが楽・容易
  2. 生物多様性/脱化成肥料・無農薬
  3. 耐久性・永続性・丈夫で長もち・長生の宿根草に注目

西日に輝くミューレンベルギア・カピラリスが存在感を放つガーデン/11月

実際に「the cloud」で行われた
最小限のメンテナンス

植え付け後の様子を確認する吉谷さん/12月

植物の生命力を信じて、ここぞというタイミングで最小限で行いました。「目指す所は、彼らのコロニーを作り、植えっぱなしで手を加えずに育っていく環境を作っていくこと。『トライ&エラー』。今までにない気候変動によって起こる予測不能な問題にも、都度あきらめず、自然に寄り添う気持ちでいきましょう」と吉谷さん。

灌水

特に雨が少なく乾燥しやすい冬~春はしっかり行います。植え付け1年目の宿根草は、未成年者のような存在。保護者として、最初のうちは植物から目を離さないことが必要。のちのち、放ったらかしにできるのを目標にしています。

初年度ということもあり、雨量を測るカップを設置。今後の目安データとして役立てる。
丘の頂上には水やりチェッカー「サスティー」を挿して水分量を目視。

剪定・切り戻し(カットバック)

近年は春の急激な気温の上昇で植物の成長が早く、5月を過ぎるとあっという間に株が茂りすぎてしまいます。そのままでは夏に蒸れてしまいそうな植物は、思い切って夏前に伸びた株の枝葉を切り戻す、オーバー・グロウ・カットバックを行います。イギリスでは5月下旬にチェルシー・フラワーショウが始まりますが、そのタイミングで切り戻す作業のことを“チェルシー・カットバック”と呼んでいました。関東地方以西の温暖な地域では、ヨーロッパより気温が高いので、品種にもよりますが、ゴールデンウィーク後にカットバックしてもよいでしょう。

また、前年から冬越しした宿根草の立ち枯れた枝やシードヘッドは、2月中旬までに切り戻します。この作業を、“アーリースプリング・カットバック”といいます。また、3月から出てくる新芽が成長して、生命の再スタートです。

オーバー・グロウ・カットバックが必要だった植物:バーベナ・ボナリエンシス、エキナセア、モナルダ、デスカンプシア‘ゴールドタウ’

アスチルベは1度しか花が咲かないので、花穂は切り取らず、そのまま秋までシードヘッドを楽しむ。

施肥

基本的に施肥は行いません。その代わり、冬に完熟堆肥で花壇全体を覆うことで、微生物の働きを促します。堆肥は肥料分となりながら表土の温度や湿度をコントロールしてくれるほか、乾燥から防ぐ役割も担ってくれます。

しかし、生育が旺盛なアガパンサスのように、花を咲かせるのにエネルギーと肥料が必要なものには、春先に固形の有機堆肥を施しています(アガパンサスのみ)。

植え付け直後、12月のアガパンサスの様子。黒い完熟堆肥と緑の葉とのコントラストが美しい。

病害虫対策

化学的な薬品は使用しません。

害虫/どうしてもイモムシ・毛虫はついてしまうもの。吉谷さんはこれも生物多様性だとして許容。「蝶もいれば益虫・害虫もいます。被害の可能性の高いコガネムシなどは捕殺しますが、アゲハの幼虫などは見守り、テントウムシやカマキリの安住の地となるような場所を目指しています」と吉谷さん。

病気/まず病気が出ないように環境を整えることが大切。なんといっても風通しが大切なので、蒸れる恐れがある梅雨や夏前に株間を透かすなどの剪定を行う。

【蜜源植物 ベスト3】

花の蜜で虫たちを呼ぶ蜜源植物を集めました。セリ科の植物はアゲハの幼虫の被害にあいやすいのですが、この眺めを楽しむ気持ちで見守っていました。

左/アンジェリカ‘ビカースミード’(セリ科) 中/ミソハギ(ミソハギ科) 右/バーベナ・ボナリエンシス(クマツヅラ科)

エキナセアのシードヘッドの先で休む赤トンボ。「トンボは食害しないうえ、ヤブ蚊を食べてくれているんだと思うと、ちょっと嬉しいかな」と吉谷さん。

雑草対策

花後に早々と地上部が枯れるイフェイオンは、丈夫な上に愛らしい花を咲かせる優秀なグラウンドカバー。ニゲラもこぼれ種で増えているが、増えすぎないのが◎。オルラヤは侵略的すぎるので、避けているのだとか。

実生の雑草は放ったらかしにすると抜けにくくなりますが、双葉が出た頃なら割りばしなどでかき出せば簡単に抜けます。それまでが勝負。宿根草が小さい初年度は、雑草に負けないようにこまめにチェックします。

初年度。11月に植え付けたニゲラが、その他の宿根草などの間を埋めていたが、これでも株間が狭く、翌春は大きくなって間引きが大変だった。

除草になるべく手間をかけないための予防策としては、雑草が生える余地がないように、宿根草の間にニゲラや5,000球のイフェイオンを植えてカバーしています。マルチングしている堆肥は雑草予防にもなっています。

メンテナンスフレンドリーにするには
まずは土壌環境を整えること!

植物が気候変動のストレスを受けにくく、エコフレンドリーで美しく健やかなガーデンに育てるためには、日当たりや風通しなどの『生育環境』を整えることは大前提ですが、それと同様に重要なのは『土壌の状態を整えること』。「育て方が最重要と思われがちですが、考えるべきは『土壌環境、庭の構造(高低差や水はけ・日当たり)、植物選び、その植え方、育て方』の順番です」と吉谷さん。

しかし、最初から思いどおりにはならないので、気分はいつでも『トライ&エラー』。今までにない気候変動により起こる問題に、都度あきらめずに立ち向かうことが必要。

完熟堆肥のふかふかな布団がかけられた花壇。葉の瑞々しいグリーンとのコントラストも楽しめる。

【土壌の状態を整える】

「the cloud」では、水はけなどを改良しつつ、「いかに微生物を育てて土壌環境を豊かにするか」を意識して花壇が作られています。

◆植え込み前
30cmの深さまで掘り起こし、ワラ、炭、剪定枝ほか有機物を基本の土全体に混ぜ込んで酸素の豊富な構造に。

深さ約30cmほど耕し、ワラや剪定枝、炭などを投入。

花壇内に20~30cm間隔で直径約10cm、深さ30cmほどの穴をあけて直径6cmの有孔管を挿し込み、筒の中にはくん炭を入れて、通気・浸透・排水を確保。ゲリラ豪雨や長雨に備える(環境デザイナー・正木覚さんのアドバイスによる)。

棒が立ってるのは空気孔をあけた場所(棒は後で抜いています)、植え升の裏側(日陰側)でジメジメしやすく、正面から見ても、目立たないところに有穴パイプを埋めてあります。土中に酸素が届き、嫌気が溜まらないように。
ベッドに高低差をつけ水捌けや風通しは、植物の乾湿の好みに合わせて植栽デザインをした。

◆植え込み後
完熟堆肥を全体に厚み3cmほどかけてマルチングをする。

◆様子を見て適宜
完熟堆肥を株間にマルチング(11月頃)。こうすることで土壌の乾燥を防ぎながら、土中の団粒構造を保ち、保水性・排水性・保肥性が高まります。また、微生物の多様性が豊かになることで、病気の発生を予防することにもつながります。

「土中の微生物の多様性が保たれている = 病気の発生しにくい健全な土壌」

8月下旬の「the cloud」。酷暑を元気に乗り切った植物たち。

日本の園芸界も次なるステージへ

審査員をしながら「the cloud」を手掛け、自身も思わぬ問題に直面しながらも新たなガーデンの在り方を示してくれた吉谷さん。エコロジカルな植栽システムの構築を目指しつつ、日本の園芸界を次なるステージに牽引する、ガーデンエコロジストでもあります。

「厳しい気候変動の影響もあり、2023年の夏は、その前年に予想していたよりもさらに厳しく、これまでの観測史上最も暑い夏と言われました。地球沸騰の時代が到来。地獄の門を開けたと言う科学者もいます。そんな深刻化する気候下で、ガーデニングは私たちが、自然との共存について考える大切な機会となるはずです。

諦めるのではなく、発見とアイデアで乗り越えていく道は多様性に富んでいるはずです。庭をデザインするうえでは、まず構造デザインが先ですが、次に大切なのが植物選び。今後はそうしたことを共に体験しながら、共に学ぶ「メンテナンスフレンド=メンテナンスフレンドリーに、ガーデン管理に誇りをもって携わる若いガーデナーや、植物に関わることを生きがいに感じられる人を増やしていきたい」と、人材育成プログラムにも意欲を燃やしています。

次回は、ガーデンデザイナーとして吉谷桂子さんが庭づくりをする際に指標としていることをお伝えする最終回です。

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