スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。「ガーデンストーリー」書籍第1弾12刷り重版好評『植物と暮らす12カ月の楽しみ方』、書籍第2弾4刷り重版『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(2冊ともに発行/KADOKAWA)発売中!
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スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。「ガーデンストーリー」書籍第1弾12刷り重版好評『植物と暮らす12カ月の楽しみ方』、書籍第2弾4刷り重版『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(2冊ともに発行/KADOKAWA)発売中!
3and gardenの記事
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DIY

庭のオブジェを手作りしよう! 女性でも楽にできるモルタルデコ
英国コッツウォルズにあるような蜂蜜色の不揃いの石を積み上げたような壁に、つるバラが枝を伸ばしてたわわに花を咲かせる「Sanae Garden」。ここは長年、造園・植栽の仕事とともにガーデンクラフトを手掛けてきた原嶋早苗さんの庭です。 「レンガの石積みに見えて、じつは実際に石を積んだわけではなく、土台は、発泡スチロールの一種、スタイロフォームなんです。庭のフォーカルポイントになっている花台もモルタルデコです」(原嶋さん) モルタルデコとは、スタイロフォームという建築用の断熱材を削って形を作り、そこに薄くモルタルを塗り、色づけしてレンガや擬木のように見せるガーデンクラフトです。 「スタイロフォームは、押し出し発泡ポリスチレンの商品名で、通常の発泡スチロールと違って粒子が密なんです。防水性が高くほとんど水を吸収せず、軽くて丈夫な一方、カッターなどで簡単に切ったり削ったりできて加工性もよいので、屋外使用が前提のガーデンクラフトには最適な素材なんです」(原嶋さん)。 モルタルだけを使って作ると、重量がありすぎて取り扱いも飾るのも大変ですが、原嶋さんのモルタル造形はスタイロフォームがベースになっているため、見た目の重厚感とは裏腹に、軽量で女性にも扱いやすいのが特徴です。 「石積みやテラコッタなどの風合いは、モルタルの上から塗る水性アクリル絵の具による着色で出していきます。皆さんがよく目にするテーマパークのお城やレンガの小屋も、モルタルを加工して作られているのをご存じですか? 塗料などを駆使してエイジング加工し、時代感や風合いを演出しているのですが、モルタルデコも同様に、“らしさ”を追求していきます」(原嶋さん) つまり、着色次第でどんな素材らしさも演出できてしまうのがモルタルデコの楽しさです。また、本物の石積みは費用もかかりますが、モルタルデコなら、スタイロフォームもモルタルも千円ほどで購入でき、保ちは半永久的というコストパフォーマンスの高さも見逃せません。 「それとガーデンのオブジェって、テラコッタやアイアンや石でできているものが多くて、素敵なんですけど、ちょっと位置を移動しようにも重くて、女性1人じゃ難しいものもあるんですよね。だけど、モルタルデコで大鉢や花台を作れば、ガーデンでの取り扱いも楽にできます。モルタルデコのよさは、自分のイメージ通りのものが簡単に作れて、作った後のガーデニングも楽ですし、リメイクにも向いているんです。以前、古いブロック塀をモルタルデコでプロヴァンス風にリメイクしたことがありますが、全く雰囲気が変わって素敵でしたよ」(原嶋さん) 庭の見え方は植物の組み合わせだけでなく、壁などの背景も大事。特につるバラを仕立てるときには、背景や絡ませる構造物次第で見栄えがかなり左右されますが、モルタルデコのテクニックを使えば、自分のイメージ通りの背景を自分で作り出すことができます。例えば「Sanae Garden」の壁はモルタルデコで石積み風に作り、そこにいくつかの扉をつけています。バラの花の下、扉を開けるのを想像するとワクワクしませんか? 実際には隣家との境の目隠しで、その向こうに何かがあるわけではないのですが、大切なのは、この先に何があるのかしらと思わせること。それだけで実際の庭より奥行きを生むことができます。 「モルタルデコによるミニチュアハウスは想像力の賜物です。モルタルデコのクラフト教室では、最初はボードのような簡単なものから作るのですが、皆さんはこのミニチュアハウスが作りたいんですよね。これはガーデン版のドールハウスのようなもので、中にソーラーライトを入れておくんです。これを庭に置いておくと、夕方帰った時に小さな家々に灯りがともっていて、本当に妖精が住んでいるみたいで楽しいんですよ。庭に物語が生まれるワクワク感を、ぜひ皆さんにも体感してほしいですね」
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ガーデン&ショップ

イングリッシュガーデン旅案内【英国】注目のガーデナーが生み出す21世紀のイングリッシュガーデン「マルバリーズ・ガーデンズ」後編
オープンガーデンで大人気 今回訪れているのは、クラシカルなガーデンデザインと表情豊かな植栽で人々を魅了する、マルバリーズ・ガーデンズ。ここは個人邸の庭ですが、英国の慈善団体、ナショナル・ガーデン・スキーム(NGS)のオープンガーデンに参加していて、年に数回、一般公開が行われます。また、庭園独自の一般公開日も設けられていますが、その人気は高く、どちらの日程も発表されるなり、あっという間に予約が埋まってしまうそう。 この大人気の庭園を作り上げたのは、2010年からヘッドガーデナーを務めるマット・リースさんです。彼は、英国王立植物園キューガーデンと、英国王立園芸協会のウィズリーガーデンという、世界最高峰の2つの庭園で経験を積んだ後に、20世紀を代表する名ガーデナー、故クリストファー・ロイドの自邸、グレート・ディクスターで7年間修業したガーデナー。生前のロイドから直に庭づくりを学んだという、貴重な経験を持つ人物です。 「マルバリーズ・ガーデンズ」前編では、マットさんが一から作り上げた、セイヨウイチイの生け垣に囲まれた美しいガーデンルームの数々をご紹介していますので、ぜひご覧ください。 では、庭巡りを続けましょう。 屋敷を彩るテラスボーダー 小さなウッドランドガーデンの木々の間を抜けていくと、アーチの先は明るく開けていました。左奥に屋敷が見え、その脇に、植栽豊かなボーダーが広がっています。 「ここは、先日発売されたガーデン誌〈The English Garden(2019年7月号)〉の表紙になったんですよ。写真は早朝ですね。4月には、別のガーデン誌〈Gardens Illustrated〉でも紹介されました」 屋敷に沿って、敷石の小道と花壇が長く伸びています。石と石の隙間にも緑がのぞいて、ナチュラルな雰囲気。黄色の穂を立ち上げるエルサレムセージ(フロミス・フルティコサ)や、オレンジの花穂のエレムルス、フランネルソウ、ゲラニウム、ユーフォルビアなどが混ざり咲いて、花々の競演は、遠く、奥まで続いています。 イタリア風のレンガ造りの屋敷は、ヴィクトリア朝時代の1870年に建てられたもの。テラスガーデンの植栽が、この屋敷をより美しく見せています。屋敷を背に立つと、花壇の先に芝生があって、その向こうには、パークランド(草原)が遠くまで広がっています。 このテラスボーダーは、マットさんにとって「実験」を行う場。植物の性質を確かめたり、植物同士の組み合わせを試したり、新しいものに挑戦する場所です。たくさんの草花が混じり合う植栽を魅力的に保つためには、頻繁に植え替えを行うなど、こまめなメンテナンスが欠かせませんが、マットさんは労力を惜しみません。さすが、「世界一、忙しい庭」と呼ばれるグレート・ディクスターで修業したガーデナーさんです。 ゲラニウムにジギタリス、バーバスカム、セリンセ、オリエンタルポピー、エリンジウムなど、たくさんの植物が混じり咲くボーダー。それぞれが自由に茂り、ラフな雰囲気が心地よい楽しい一角。左側には、パーゴラがあります。 花壇の中で、オレンジがかった明るい色を添えていたのは、一重のハイブリッドティー、‘ミセス・オークリー・フィッシャー(Mrs. Oakley Fisher)’。これは、マットさんにとって大切なバラなのだそう。なぜなら、名園シシングハースト・カースル・ガーデンを作り上げた、ヴィタ・サックヴィル=ウェストから、マットさんの師匠であるクリストファー・ロイドに贈られ、その後、ロイドからマットさんに贈られたものだから。20世紀を代表する2人の偉大なガーデナーから、新時代を牽引するガーデナーの一人であるマットさんへと託されたバラは、イギリスの庭園史の流れを象徴しているかのように思えます。 マットさんは、師匠ロイドの著書だけでなく、イングリッシュガーデンの基礎を作り上げたウィリアム・ロビンソンや、ロマンチックな植栽を得意としたヴィタ・サックヴィル=ウェストが書き残した本からも、多くを学んできたそうです。 無数の植物がコレクションされたガーデンに圧倒されてしまいますが、まだ他にもガーデンがあるとのことで、次のエリアに向かいます。 対比を楽しむトピアリーメドウ 最初、車で入ってきた時に目にしたトピアリーメドウにやってきました。真っ赤なポピーの咲くメドウに、エレガントなスタイルに刈り込まれたトピアリーがいくつも立っています。赤と緑の色彩が鮮やか! メドウにはワイルドフラワーが咲きますが、時期によっては真っ白な花が咲き広がるなど、色彩が変化するようです。 「ポピーなどが咲く自然なメドウを、人工的なトピアリーと並べることで、対比の面白さを見せているガーデンです。トピアリーの形は、鳥のようにしたいと思っています」 刈り込まれたトピアリーの頂上付近をよく見ると、まだ整形されていないよう。この部分を伸ばして、鳥を形作るのでしょうか。 グレート・ディクスターにも似たスタイルのメドウガーデンがありますが、この庭は師匠のロイドに捧げるオマージュかもしれませんね。 トピアリーメドウの奥には、柵に囲われたニワトリ用のスペースがあって、キュートな小屋が建っています。じつは、これらのニワトリもガーデナーさんたちがお世話しているとのこと。この他に、ヒツジやウシも飼われています。 クラシカルな美しさ ホワイトガーデン どんどん進んでいくと、レンガ塀でぐるりと囲われた、大きなウォールドガーデンにやってきました。扉の向こうに、ホワイトガーデンが見えます。 このウォールドガーデンの中には、英国の有名なランドスケープデザイナー、トム・スチュワート=スミスが、前オーナーのために作った庭がありました。多年草を取り入れた、モダンな要素のある、個性的なデザインの庭だったそうです。 「しかし、私たちはこの場所を、例えば、ウィリアム・ロビンソンが作ったような、ナチュラルな、イングリッシュガーデンの伝統を感じるものにしたかったので、すべて作り直しました」 ウィリアム・ロビンソンは、19世紀後半に活躍した造園家。整形式庭園全盛期の、人工的な庭園が人気を博していた時代に、植物の自然な姿を生かした庭づくりを提唱し、現代に続くイングリッシュガーデンの基礎を築きました。ミックスボーダーやメドウガーデンなど、植物が思い思いに咲き乱れる、イングリッシュガーデンのナチュラルなイメージは、ロビンソンの時代に生まれたものです。 ホワイトガーデンは作り直してから6~7年経ちますが、3年程前に生け垣を足して、エリアを拡大したそうです。人の背丈以上に伸びた白花のバラや宿根草などが、奥に建つガラス温室を覆い隠すように茂っています。 ガーデンの途中に、再び水音の演出を発見。四角く組まれた石の中心から隙間へと流れ落ちる水が底で反響して、涼しげな音が周囲に響いています。 小さな噴水は、全部で4つ。景色に静かな変化を与えています。 エレガントな雰囲気のキッチンガーデン ホワイトガーデンの隣には、野菜や果物、切り花を育てるキッチンガーデンがありました。ツゲの低い生け垣に囲まれて、季節の野菜が整然と育っています。2つの白い構造物は、果樹を育てるための大きなフルーツケージ。他の庭園にあるものを参考に、マットさん自身がデザインしたものだそう。装飾性の高い白いケージときれいに刈り込まれた生け垣が、このキッチンガーデンに優美な雰囲気を与えています。 2棟のフルーツケージの中にあるのは、サクランボの木。収穫が2度できるように、早く実る木と、遅く実る木が、それぞれ1本ずつ植えられています。果実が鳥に食べられないように、ケージはぐるりとネットで囲まれています。 訪ねた時は、ちょうど、サクランボが実っていて、足元には、イチゴが広がっていました。2段ベッドのような、効率的な空間の使い方ですね。 「2010年にここをオーナーが買い、その2~3カ月後に私は雇われ、それ以来、すべての植栽やデザインを行ってきました。これまでいろいろ手を加えてきましたが、これからももっと変えていきます。プロジェクトがたくさん待っていますが、まだまだ新しい植栽法にチャレンジして、植え込みも毎年変化させていく予定です。日本は幾度か行きましたが、北海道の庭はまだ見たことがありません。クマに遭遇しないように気をつけながら、いつか行ってみたいと思っています」 マットさんは最後に、未来の庭への思いをそう話してくれました。 ホワイトガーデンとキッチンガーデンが接する地点には、向こうまでずっと続く、緑のトンネルがありました。花は終わっていましたが、キングサリのトンネルのようです。長さを尋ねてみると「80mかな」と、あまり気にしていない様子。黄金色の花が満開の頃、ここにはどんなゴージャスな景色が現れるのでしょう。 マルバリーズ・ガーデンズの庭巡りを終えて、同行した北海道上野ファームのガーデナー、上野砂由紀さんは、このように話していました。 「マルバリーズはインスタグラムで見つけたガーデンで、書籍などでも情報を得ていましたが、これが初訪問となりました。インスタでは分からなかったことも見ることができて、非常に勉強になりました。 日本では、一年草は植え替えることが定着していますが、宿根草については、一度植えたら抜いたり移動したりしてはいけない、という意識が強いですよね。(でも、ここでは宿根草も植え替えていて)イギリスに来る度、マットさんのような、果敢にチャレンジするガーデナーたちの姿を目にして、私も多くの刺激を受けます」 「帰国したらすぐに植え替えたいもののイメージも、もう頭の中にあります。よく、宿根草は植え替えちゃいけないんですか? と訊かれますが、色合わせに失敗したなとか、もう少し色を足したいな、と思う場合は、一年草でも宿根草であっても、根がダメージを受けやすいものを除いて、春や秋のタイミングで植え替えていくのは、庭にとって非常に大切なことです。マットさんも、庭の成長とともに植栽を変えていくことが、いちばん面白いことだと話していました。ガーデン雑誌でもまだ十分に紹介されていない最新のガーデン、見せていただけてよかったです」 イギリスの庭巡り、残念ながら2020年は中止となりましたが、またいつか訪れて、ガーデナーさんたちの交流によって庭が進化していく様子を、ガーデンストーリーでお伝えすることができたらと、強く願っています。
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イングリッシュガーデン旅案内【英国】注目のガーデナーが生み出す21世紀のイングリッシュガーデン「マルバリーズ・ガーデンズ」前編
緑の壁に囲まれた美しいガーデンルームの数々 ロンドンから車で西に向かい、1時間半ほど。庭園はハンプシャー州、ニューベリーの町の近くにあって、近隣には、人気のテレビドラマ『ダウントン・アビー』の撮影が行われた、ハイクレア・カースルがあります。 車が敷地内へと進み、まず目に入ってきたのは、真っ赤なポピーがトピアリーの間を埋め尽くす、鮮やかな景色! 目が釘付けになって、庭への期待がぐんと高まります。 車を降りると、ヘッドガーデナーのマット・リースさんが出迎えてくれました。マットさんは、英国王立植物園キューガーデンと、英国王立園芸協会のウィズリーガーデンという、世界最高峰の2つの庭園で経験を積み、その後、20世紀を代表する名ガーデナー、故クリストファー・ロイドの自邸、グレート・ディクスターで7年間修業し、腕を磨きました。生前のロイドから直に庭づくりを学んだという、貴重な経験を持つガーデナーです。 マルバリーズのオーナーがこの地所を購入したのは、2010年のこと。マットさんは、それからまもなくしてヘッドガーデナーを任されました。 「私がここに来た時、敷地の西の端には、以前からのウォールドキッチンガーデンがありましたが、それ以外は、サッカーグラウンドがあるだけでした。そこから、すべてのガーデンを新しくつくったのです。1年目は何もせず(といっても、観察したり、計画したりはしていたのでしょうが)、2年目以降は、そのウォールドキッチンガーデンと、少し離れたところに建つ屋敷を繋げるために、どんな庭をつくるかという課題に取り組みました」 マットさんは、オーナーとともに数々の名園を見て回り、どんな庭をつくるべきか検討を重ねました。さまざまな庭を見るうちに、目指すべき方向性が定まります。それは、「きちんと整った構造物の中で花々が豊かに咲く、イングリッシュフラワーガーデン」でした。マットさんは、オーナーの意向に沿いながら、自ら庭をデザインし、そして、セイヨウイチイの高い生け垣という「整った構造物」で囲われ、それぞれに異なるテーマを持った、魅力溢れるガーデンルームをいくつもつくり上げてきました。その「部屋」に入るたびに、玉手箱を開けるような楽しさがあります。 現在、マルバリーズの庭は、マットさんに加えて、4人の専任ガーデナーと学生さんによって維持されています。敷地の総面積は10エーカーですが、その多くは森や草原(パークランド)で占められています。マットさんが、庭園の各エリアを一緒に巡りながら、丁寧に案内してくれました。 ネプチューンに守られる水の庭 まず最初に入ったのは、コッツウォルドストーンを使った、優美なデザインの石塀に囲まれたエリアです。緑の芝生が広がり、その中央に、細長い池のような窪みが見えます。近づくと、チョロチョロと水の音が聞こえてきます。 窪みの中は細長い水路になっていました。左右から細く噴き出す水が、カーブを描きながらその中に注がれ、静かな水音が、窪みの空間に反響して聞こえてきます。 「この庭は6年前に、何もないところからつくられました。他のガーデンとは異なるスタイルで、植物の数を抑えて、構造物を生かしたウォーターガーデンとなっています。中央の長方形のスペースの下には水が流れていて、この水位を調整すると、反響する音が変わるようになっています」 「海洋の神ネプチューンの彫像と、グロット(少し窪んだ石組みの壁部分)のデザインは、2年前に追加しました。彫像は現代のもので、友人の彫刻家スティーブン・ペティファーが手掛けました」 芝生や木の葉の緑が主体の庭ですが、グロットの壁面や石塀には、‘メグ’や‘ニュー・ドーン’といったバラによって、ささやかな色が添えられています。 「庭のデザインに水を用いるアイデアは、京都に4週間滞在した時に出合った、小さな滝といった、水の音の演出から得ました。静かな空間にさらさらと水が流れる、そのサウンドに惹かれたのです」 マットさんは知日家で、京都をはじめ、日本各地を何度も訪れているそうです。 一方、細長い水路のデザインは、スペインのアルハンブラ宮殿の庭にインスピレーションを得たものだそう。 「いずれ、水辺の両側に植えた樹木は、丈高く、空を隠すくらいまで伸びて、枝葉のトンネルの中に水が流れているような景色になる予定です。これらの樹木は‘白普賢(シロフゲン)’という、日本の八重桜。アーネスト・ウィルソンが1910年に日本から輸入した桜です」 グロットの周辺には多少の色があるものの、緑を基本に構成されたシンプルな庭です。低く仕立てられた木々の下で、繊細に弧を描く水のラインが、緑に引き立ちます。それは、初めて目にする景色でした。サクラが満開の頃や、花散る頃の景色も、きっと幻想的で、美しいのだろうなと、想像が膨らみます。 いつまでも水の音に耳を傾けていたいところですが、次のエリアに進みましょう。 炎の色彩 ホットガーデン 先ほどとはテイストが変わって、こちらは植栽豊かなエリア。長方形の庭の2つの長い辺に沿って、奥行きのある花壇が伸びています。この花壇は、盛夏に向けて、トリトマ、ルピナス、ヘレニウムなど、赤やオレンジの鮮やかな色の花がどんどん咲いていくので、「炎の花壇(フレイム・ボーダー)」と呼ばれているそう。訪れたのは6月で、まだ少しおとなしい色彩でした。夏真っ盛りの様子も見てみたいものですね。 「ここは完全なミックスボーダー(混植花壇)で、樹木もあれば、灌木や宿根草、一年草もあります。そして、このポピーのように、勝手にこぼれ種で生えてくるものもあって、それらも生かしています。花壇を目にした時に面白いと思ってもらえるように、隣り合う植物が対照的な姿になるように計算して。例えば、尖った葉の横には丸い葉を、というように。形も色も対比させて、楽しめるようにしています」 「花壇の植物はどんどん育っていきますから、全体的なバランスが悪くならないように刈り込んでいます。また、花が咲き終わったら、スポットごとに次のシーズンの花へと変えていきます。例えば、ここには4月はチューリップが植わっていましたが、6月の今はルピナスがあって、次はダリアとなります。植え替えをする時は、宿根草でも多年草でも、完全に抜いてしまいます。抜いたものは、株分けすることもあれば、捨ててしまうこともあります」 銅や紫、ライムグリーン、赤……。色や形のさまざまな植物が隣り合って、生き生きと茂っています。 さて、先を見ると、小道が別の庭へと続いていて、奥のほうに置かれた彫像が見えます。 振り返ると、先ほどのウォーターガーデンから通ってきた小径があって、奥にネプチューン像が見えます。 左を見ると、遠くに可愛らしいニワトリ小屋が。 そして、右を見ると、これから向かう、池のある庭があります。 このホットガーデンは、いわば、十字の交差点の上に置かれている庭。四方向に小道が伸びて、それぞれ別の庭へと繋がっています。背の高い生け垣で囲われている庭ですが、四方向にある開口部は遠くまで視線が抜けて、メリハリのあるデザインとなっています。 水面を楽しむポンドガーデン さて、ホットガーデンから次の庭へ進むと、静かな水面が広がっていました。大きな長方形の池のある、ポンドガーデンです。 「ここも、大きなカシノキ以外は何もない、まっさらな場所でした。この庭の見どころは、池の水に映る影。水面に映り込む、周囲の植物の姿を楽しむ庭です」 池は四方を豊かな植栽で囲まれていて、その変化に富む植栽が水面に映ります。風がなく、艶やかな水面に映る草木のシルエット。ガーデンには静けさが漂います。 池の畔では、水の妖精、ニンフが水面を見つめていました。 さて、ぐるりと池を一周したら、隣のエリアへ向かいましょう。 オーナー夫人好みのクールガーデン 「ここは、清涼感のある寒色でまとめた、クールカラーガーデンです。オーナーは暖色(ホットカラー)が好きで、夫人は寒色(クールカラー)が好き。そういうわけで、先ほど見ていただいたホットガーデンと、このクールガーデンがつくられました」 「ここの花壇も、先ほどと同じように、樹木、灌木、宿根草などが混じり合った、ミックスボーダーです。また、ここでも、このルピナスが終わったら、次はサルビアという風に、植物を植え替えています」。 マットさんは、植え替えの労力を惜しまず、ベストの状態の美しい花壇を保とうとします。その姿勢は、おそらくグレート・ディスクター仕込みでしょう。師匠のクリストファー・ロイドも、美しい植栽を求めて頻繁に植え替え、「実験」を繰り返した人物でした。 株全体が青く染まるエリンジウムやサルビア、ゲラニウム、アリウムなどが青紫の色を添え、優しいトーンでまとまっていました。その他に、この庭では、アイリスやカンパニュラ、デルフィニウム、フロックス、アザミ、ワレモコウの仲間、カラマツソウの仲間などが使われています。 「花壇には、日本のカエデ ‘獅子頭(シシガシラ)’も植わっています。秋になるときれいに色づきますよ」。 心穏やかに、一つ一つの植物をじっくり眺めていたいエリアです。 太古の森のようなスタンプリー 砂利道をしばらく行くと、巨木が葉を伸ばし、濃い影を落としています。小さなウッドランドガーデンへと入っていきます。 進んでいくと、木の切り株がワイルドな雰囲気を醸し出す、スタンプリーがありました。スタンプリーとは、19世紀のヴィクトリア朝時代に生まれた庭園スタイル。切り株(スタンプ)を置いた、いわば「切り株園」で、プラントハンターによって英国に持ち込まれた、シダ類を栽培するのに適していました。 「この切り株には苔が生えていますが、これは屋久島のイメージです」 屋久島まで足を伸ばしたことがあるという、マットさん。ここは、イギリスにいながら、遠い日本での旅の記憶が蘇える場所なのかもしれませんね。このスタンプリーがつくられ始めたのは2015年ですが、もう苔が広がって、太古の森のような、長い時間が経過した雰囲気があります。苔がきれいに生えているのは、ミストシャワーが設置されていて、湿度が適度に保たれているからなのでしょう。 幹や根が折れていたり、曲がっていたり。そのワイルドなフォルムに、クサソテツやシダなどの緑が着生して、エキゾチックなイメージです。シダの中には、マットさん自身がヒマラヤで採取した、貴重なものもあるそうです。 さらに進むと、なんと大きな白い花でしょう。おばけモクレン? 「葉っぱの裏がビロードみたいに美しいね。ホオノキの仲間だよ、ほら見てごらんよ」と、マットさんが木を引き寄せたら、花茎が折れてしまいました。 同行していた、北海道・上野ファームのガーデナー、上野砂由紀さんのお顔より大きな花! 「すごいおっきいね!」日本にはない植物に、庭散策は盛り上がりました。 *『マルバリーズ・ガーデンズ』後編に続きます。
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一年草

カラフルな花を楽しもう! サルビアの特徴・花言葉・育て方をご紹介
サルビアとは サルビアは、シソ科サルビア属(アキギリ属)の非耐寒性多年草で、原産地は南米など。本来は多年草ですが、寒さに弱く、日本の厳しい冬を乗り越えられないので、国内では一年草として扱われています。セージとも呼ばれ、その種類は900種以上に及び、ハーブや観賞用として利用されるものなど、じつに多様です。それら全てをご紹介するとなると紙幅が尽きるので、ここでは日本で観賞用の園芸種として広く普及しているサルビアに絞ってご紹介していきます。日本で主に流通しているのは、赤花で最もポピュラーなスプレンデンス、ブルーサルビアの名称で知られるファリナセア、長い穂状の花が咲き続けるコクシネアなどです。 名前の由来 サルビアの名前は、ラテン語で「健康でよい状態」という意味の「salvas(サルバス)」が由来となっています。それというのも、サルビアにはヘビの噛み傷に効くなど、さまざまな薬効があるとされ、ローマ時代から一部のサルビアが薬草として用いられてきたからです。現在、日本ではサルビアとセージの名前が入り混じって、どうにもややこしくなっていますね。それは「salvas」がフランスに渡って「sauge(ソージュ)」と呼ばれるようになり、さらにイギリスに伝えられると「sage(セージ)」の名で普及したため。国によって名前が異なっているものの同じ植物で、日本では種類によってサルビアと呼ばれたり、セージとして利用されたりしています。 どんな花を咲かせる? サルビア・スプレンデンスは、赤が最もポピュラーですが、園芸品種が多く、オレンジ、ピンク、紫、白など多様です。花穂が立ち、下から順に咲き上がっていきます。 ブルーサルビアの名前で親しまれているサルビア・ファリナセアは、ラベンダーに似た青い花穂を多数つける姿が魅力。白花や2色咲きの品種もあります。 トロピカルセージとも呼ばれるサルビア・コクシネアは、花色に赤、ピンク、白などがあります。やや長めの穂を上げて咲き、開花期間が長いのが特徴です。 サルビアの花言葉 サルビア全般の花言葉は、「尊敬」「知恵」「良い家庭」「家族愛」など。サルビアの一部は、古くから薬用として利用されてきたことから、使いこなせる人を思い浮かべて「知恵」や「尊敬」という言葉を重ねたのかもしれません。「良い家庭」「家族愛」はサルビアを手元に置くことで、体調不良時やケガへの備えとなることからでしょうか。 それぞれの花色に限定した花言葉としては、赤花はその情熱的な花姿のイメージから「燃える思い」、青や紫の花は「尊敬」「永遠にあなたのもの」などです。 サルビアの見頃はいつ? サルビアの開花期は6〜11月です。開花期が初夏から晩秋までと長いのが特徴で、花が少なくなりがちな真夏も元気に乗り切ってくれます。昼夜の気温差が大きくなる秋には、花色が深く冴え冴えとし始め、その表情の変化も楽しめます。真夏に草姿が乱れてきたら、草丈の半分くらいまで切り戻してもOK。再び茎葉を伸ばして、秋に充実した花姿を見せてくれます。 サルビアは幻覚を見せる? 数あるサルビアの種類の中には、幻覚作用を持つものも含まれていることをご存じでしょうか? メキシコ原産種の中には、標高300〜1,800mの限られた地域で生育する「幻覚性サルビア」(Salvia divinorum)と呼ばれる種類があります。これには人間の脳の中枢に働きかける「サルビノリン・A」という成分が含まれており、摂取すると浮遊感、幻聴、めまいなどの症状が現れ、幻覚を見せる作用があるそうです。メキシコの先住民は、このサルビアを宗教的儀式に使用していたとされています。ただし、日本で一般にホームセンターや花苗店で出回っている園芸用サルビア品種には、このような成分が含まれているものはないので、安心してくださいね。 サルビアの育て方 これまで、サルビアの特性や魅力について触れてきました。では、ここからは育て方の実践編です。ビギナーでも分かりやすいように、庭植え・鉢植えの管理の仕方について、詳しく解説していきます。 栽培環境 日当たりがよく、風通しのよい場所を好み、水はけ・水もちのよい、ふかふかとした土壌でよく育ちます。弱酸性で有機質肥料を施した肥沃な土壌が理想です。 生育適温は15〜25℃。暑さに強い一方で、寒さに弱い性質です。本来は多年草ですが、日本ではうまく冬越しできないために、一年草として扱われています。ただし、霜や凍結にあわない5℃以上の環境であれば冬越しが可能です。気に入った品種があれば、抜き取って処分せずに草丈の半分くらいまで切り戻して鉢に植え替え、日当たりのよいベランダの軒下や、室内の日当たりのよい窓辺などで管理してみましょう。翌春の成長期を迎えると、再び生育し始めます。 土づくり 【庭植え】 サルビアは丈夫な性質で土壌を選びませんが、植え付け前に腐葉土や堆肥などの有機質資材を植え場所に投入し、よく耕してふかふかの土をつくっておくとよいでしょう。 【鉢植え】 草花の栽培用にブレンドされた、市販の園芸用培養土を使うと便利です。 種まき コンテナやハンギングバスケットに寄せ植えとして少し植える程度なら、花苗店で苗を購入するのがおすすめですが、広い敷地にたくさん植えたい場合は、種まきからスタートすると経済的です。 種まきの適期は、4月下旬〜6月中旬。サルビアの発芽適温は20〜25℃と高温性なので、十分気温が上がった頃に行うと失敗が少なくなります。まず、種まき用のトレイに、赤玉土とピートモスを同量ずつブレンドした土(草花用にブレンドされた培養土を使ってもOK)を入れましょう。サルビアのタネを条まきか、ばらまきにし、培養土を厚み5mmくらいかけて軽く押さえます。最後に霧吹きで水やりしましょう。種まきから10日前後すると発芽します。 発芽後は日当たりのよい場所で管理。込んでいる場所があれば、苗が徒長しないように間引きます。本葉が出始めた頃に、一度液肥を少量混ぜて水やりをし、生育を促しましょう。 本葉が2〜4枚ついたら、鉢上げのタイミングです。直径6cmの黒ポットを準備し、赤玉土とピートモスを同量ずつブレンドした土(草花用にブレンドされた培養土を使ってもOK)を入れましょう。種まき用のトレイから苗の根鉢を崩さないように取り出して、ポットに植え付けます。緩効性肥料を置き肥し、最後にたっぷり水やりを。その後は、1週間に1度を目安に液肥を施して育苗します。 植え付け サルビアの苗の植え付け適期は、6月中旬〜7月中旬です。タネから育てている場合は、鉢上げした黒ポットの底まで根が回った頃が、定植に適したタイミングです。花苗店で苗を購入した場合は、早めに定植しましょう。 【庭植え】 腐葉土や堆肥などの有機質資材を投入して土づくりをしておいた場所に、植え付けます。草丈が20〜30cmのスプレンデンスなどは、株間を約25cm取り、ファリナセアやコクシネアなど80〜150cmに及ぶ種類は、30cm以上は取りましょう。植え付け後は、たっぷりと水やりします。 【鉢植え】 草花の栽培用に配合された園芸用培養土を利用すると便利です。鉢の大きさは、5〜7号鉢に1株を目安にするとよいでしょう。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから培養土を半分くらいまで入れましょう。サルビアの苗をポットから取り出して鉢に仮置きし、高さを決めます。水やりの際にすぐ水があふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取るとよいでしょう。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底からたっぷりと流れ出すまで、十分に水を与えましょう。寄せ植えの素材として、大鉢にほかの植物と一緒に植え付けてもOKです。 水やり 【庭植え】 植え付け後にしっかり根づいて茎葉をぐんぐん伸ばすようになるまでは、水切れしないように管理しましょう。根付いた後は、地植えの場合は下から水が上がってくるのでほとんど不要です。ただし、雨が降らずに乾燥が続くようなら、水やりをして補います。真夏は朝か夕方の涼しい時間帯に与えることが大切です。 【鉢植え】 日頃の水やりを忘れずに管理します。土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。茎葉がしおれそうにだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサインです。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイント。特に真夏は高温によって乾燥しやすくなるため、朝夕2回の水やりを欠かさないように注意します。真夏は昼間に水やりすると水の温度が上がり株が弱ってしまうので、涼しい時間帯に行うことが大切です。 肥料 ビギナーの場合、緩効性化成肥料を常備しておくのがおすすめです。植物への汎用性が高く、ニオイがしないため扱いやすいのがメリット。開花期に与える液肥は、開花促進を目的とした配合の製品を選ぶのがおすすめです。 庭植え、鉢植えともに、5〜7月と9月〜11月中旬の期間は、定期的に緩効性化成肥料を株の周囲にまいて株の勢いを保ちます。鉢植えの場合は、花茎が上がってきた頃から開花が終わるまで、10日に1度を目安に液肥を与えるとよいでしょう。夏の高温期に肥料成分が残ると株が弱ることがあるので、夏は肥料を切らして管理するのがポイントです。 病害虫 成長期には、アブラムシやヨトウムシがつきやすくなります。早期の対策が大切で、定植する際に土中に混ぜる粒剤タイプの薬剤を使うと効果的です。用法・用量を守って使うようにしましょう。また、真夏の乾燥期はハダニが発生しやすくなります。乾燥が続く時は、葉裏など全体に水を噴霧して防除するとよいでしょう。雑草が繁茂していたり、花がらや枯れ葉をそのまま放置したりしていると、病害虫が発生しやすくなります。こまめにメンテナンスをして、株まわりを清潔に保ちましょう。また、成長とともに茎葉が茂って込み合いすぎると、風通しが悪くなって病害虫が発生しやすくなるので、適宜枝葉を間引いてスマートな姿を保つことも予防のポイントです。 きちんとメンテナンスをしていれば、病気が発生する心配はほとんどありません。 増やし方 サルビアは、挿し芽で増やすことが可能です。挿し芽の適期は6月か9月。勢いのある茎葉を切り取り、清潔な挿し木用の培養土を育苗用トレイなどに入れて、採取した茎葉(挿し穂)を挿しておきます。摘心したり、切り戻す際に切り取った茎葉を使ってもOKです。水切れしないように管理すると、しばらくして発根するので、黒ポットなどに植え替えて育苗しましょう。株が大きくなったら、植えたい場所に定植します。挿し芽のメリットは、採取した株のクローンになることです。 タネを採取して保存しておき、翌シーズンに種まきして増やすこともできます。ただし、タネをつけると株が消耗して次々と花を咲かせなくなるので、開花期前半は花がら摘みをして長く楽しみ、そろそろ終わりを迎える頃に花がら摘みをやめて、タネをつけさせるとよいでしょう。種がはじける頃に莢ごと採取して、よく乾燥させてからタネを取り出します。密封容器に入れて、花名と採取した日を書き入れたラベルをつけ、次の種まきシーズンまで冷暗所で保存しましょう。 サルビアの寄せ植えを楽しもう! ここまで、サルビアの特性や育て方について、細かく解説してきました。サルビアの魅力について分かっていただけたでしょうか? 花色や花姿の豊富さが魅力のサルビアは、夏の暑さに強く、初心者でも簡単に育てられる草花です。さまざまな種類のサルビアを組み合わせて、初夏から秋まで長く楽しめる寄せ植えを作ってみてはいかがでしょうか。 Credit 文/3and garden ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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果樹

たくさんの栄養素が含まれるキウイフルーツの育て方とは?
キウイフルーツとは? キウイフルーツは、マタタビ科マタタビ属のつる性落葉樹で、原産地は中国南部です。暑さに強い性質で、真夏もぐんぐんつるを伸ばして生育します。一方で寒さがやや苦手で、栽培の北限は関東北部から東北南部です。雌雄異株の植物のため、果実を実らせるには、雄木と雌木を植える必要があります。 一年のライフサイクルは、以下の通りです。3月頃から新芽を出し、5月中旬〜6月中旬に開花。旺盛に枝葉を伸ばし、夏には涼しい緑陰をもたらします。10月中旬〜11月中旬に果実を収穫でき、11月下旬には落葉。12〜2月に休眠します。一年を通して表情を変えていくため、季節の移ろいを強く感じさせてくれる果樹といえるでしょう。 キウイフルーツの樹高は約1.5m、株張りは3mほど。つる植物のため、家庭で栽培するなら広めの棚仕立てにするとよいでしょう。棚は2mくらいの高さで、3〜4m四方ほどを用意。つるや果実の荷重がかかるので、しっかりと支える丈夫な資材を用いて設置します。雌木は棚に仕立てて、枝葉をたっぷりと伸ばしましょう。雄木は授粉樹として開花させるのが目的となるので、コンパクトに仕立てても構いません。鉢栽培にしてもOKです。 キウイフルーツの果実は、果実の色みで青系と黄色系に分類することができます。青系より黄色系のほうが実つきがよいようです。また、青系は黄色系に比べて花が遅い傾向にあります。雄木と雌木のカップルは、受粉が順調に進むように開花期が揃う品種同士を選ぶとよいでしょう。 キウイフルーツの歴史 キウイフルーツの原種は、中国のサルナシだといわれています。サルナシは日本にも古くから自生してきた馴染み深いつる植物で、果実は2〜3cmくらいのミニサイズ。果皮はキウイフルーツのように毛で覆われておらず、つるんとした緑色ですが、味も果肉もキウイフルーツにそっくりです。 このサルナシがニュージーランドに渡り、20世紀初頭に品種改良されてキウイフルーツが生まれました。キウイフルーツという名称は、ニュージーランドからアメリカへ輸出されるにあたって、国のシンボルとなっている鳥のキウイから名づけられたといいます。今や人気のフルーツとして、全世界に普及しています。 キウイフルーツに含まれる栄養素 キウイフルーツには、多様な栄養素が含まれています。まず、ビタミンCの含有量はミカンのおよそ22。風邪予防や疲労回復などに効果があります。食物繊維も豊富で、青系のキウイはバナナの3本分の含有量があるとされ、腸内環境を整える効果が。抗酸化作用のあるビタミンEはリンゴのおよそ7倍。血行を促す働きもあるとされています。ほかにも塩分の排出を促す効果のあるカリウム、細胞に働き、造血ビタミンともいわれる葉酸、抗酸化作用のあるポリフェノールなども多く含まれ、大変栄養価の高いフルーツです。 また、キウイフルーツの属名「Actinidia」から名づけられたアクチニジンはタンパク質の分解酵素で、キウイフルーツに多く含まれる成分。魚や肉を食べた後、消化促進や小腸への吸収率をアップさせる効果が期待できます。キウイフルーツは、食後のデザートとしてぴったりのフルーツなのです! 代表的なキウイフルーツの品種 キウイは人気のフルーツだけに、品種改良は日進月歩で進んでいます。その中から青果店で人気の高い品種はフルーツ業界にお任せするとして、ここではガーデニング用の苗として出回っている、入手しやすい品種をピックアップ。雄木と雌木のおすすめペアをご紹介します。 雌木の‘ヘイワード’はキウイフルーツの代名詞ともいえるもので、病気に強い品種。パートナーには、雄木の‘トムリ’がおすすめです。雌木の‘ゴールデンイエロー’は糖度が高く適度に酸味が乗って濃厚な味わいが魅力。果実は大きめで1本に100個ほど実ります。雄木には‘孫悟空’または‘ロッキー’と相性が抜群です。‘レインボーレッド’はやや小玉で種子の周辺が赤くなる果実が特徴。甘みが強く、酸味が少なく香りがよくてジューシー。開花期が早いので、ペアには極早生の雄木を選びましょう。‘ミンキーゴールド’は3〜4cmの小さな果実が多数実ります。つるが伸びすぎずに節間も短いため、鉢栽培などでコンパクトに仕立てることができる品種です。雄木には‘ミンキーメール’が向いています。 キウイフルーツの育て方 キウイフルーツは樹勢が強く、病害虫もつきにくい果樹です。放任しても丈夫に育つので、ビギナーにおすすめ。なんといっても、秋には豊かな実りをもたらしてくれ、収穫の喜びを味わえるのもいいですね。ここでは、植え付けから日頃の管理、収穫、追熟の仕方まで、詳しく解説していきます。 栽培環境 キウイフルーツの栽培にあたっては、日当たりがよく、風通しのよい環境を選びましょう。水はけのよい土壌でよく育ち、土壌酸度は微酸性から中性付近がよいとされています。 キウイフルーツは雌雄異株の果樹です。収穫には、必ず開花期が近い雌花と雄花の両方を植え付ける必要があります。また、旺盛につるを伸ばして生育するので、つるを誘引するための棚を設けておきましょう。雌株を棚仕立てにして枝葉を広げて育成します。雄株には果実が実らず、花を咲かせて授粉を促すのが役割なので、近くに植えて行燈仕立てにし、コンパクトに仕立ててもかまいません。 土づくり 【庭植え】 苗を植え付ける1カ月前の10月下旬頃に、土づくりをしておきます。100cm四方、深さ40〜50cmの植え穴を掘り、掘り上げた土に苦土石灰約200g、熔リン約200gと土壌の状態に合わせた適応する堆肥をよく混ぜ込みます。植え穴に戻して、少し高めに盛り上げておきましょう。1カ月ほどで分解が進んで土が熟し、植え付けに適した土壌になります。 【鉢植え】 果樹栽培用にブレンドされた、市販の園芸用培養土を利用すると便利です。 植え付け 【庭植え】 植え付けの適期は、11月下旬〜12月中旬です。土づくりをしておいた場所に、入手した苗の根鉢より一回り大きな植え穴を掘ります。植え穴に根を広げて苗を入れ、根の間にも土を入れて密着させますが、深植えにならないようにしましょう。最後にたっぷりと水やりをします。 【鉢植え】 8号鉢を用意します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから果樹用の培養土を半分くらいまで入れましょう。苗をポットから取り出して鉢に仮置きし、高さを決めます。水やりの際にすぐ水があふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取るとよいでしょう。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から水が流れ出るまで、十分に水を与えましょう。 水やり 【庭植え】 地植えの場合は下から水が上がってくるので、ほとんど不要です。ただし、乾燥には弱いので、梅雨明け以降から収穫期までは、日照りが続く場合は水やりをして補いましょう。大きな葉が朝露を持たない時や、新梢が垂れ下がっている場合は、水を欲しがっているサインです。真夏は昼間に水やりすると水の温度が上がってすぐお湯になってしまうので、朝か夕方の涼しい時間帯に与えることが大切です。 【鉢植え】 日頃から水やりを忘れずに管理します。土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。新梢がややだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサインです。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイント。特に真夏は高温によって乾燥しやすくなるため、朝夕2回の水やりを欠かさないように注意します。真夏は気温が上がっている昼間に水やりすると、水がすぐにぬるま湯になって木が弱ってしまうので、朝夕の涼しい時間帯に行うことが大切です。 追肥 【庭植え】 7月、9月、11月に堆肥などの有機質肥料と緩効性肥料を株の周囲にまき、土壌にすき込んでなじませます。 【鉢植え】 2月下旬〜6月中旬に、木の状態を見て勢いがないようであれば、適宜緩効性肥料を施します。9月下旬〜10月中旬に、有機質の固形肥料を与えます。 人工授粉 風や昆虫によって自然に受粉しますが、人工授粉を行うと確実です。開花直後の雄花から花粉を採取し、やわらかい筆などにとって雌花の柱頭につけていくとよいでしょう。 摘果 品種によって異なりますが、たくさん実がつきすぎているようなら、葉4〜5枚につき1個の結実を目安に、摘果します。ほかよりも小さい実や、形が悪い実を選んで摘み取りましょう。 収穫 10月下旬〜11月に実が充実してきたら、ハサミで切り取ります。果皮に傷をつけると長く保存できなくなるので、取り扱いに注意しましょう。 追熟の仕方と食べ頃 キウイフルーツは収穫したてを味わうフルーツではなく、しばらく置いて追熟させることが必要です。デンプンを多く含む果実なので、リンゴなどエチレンを発するフルーツと一緒に置いておくと、デンプンが糖へと分解され、甘みが増します。リンゴやバナナなどと一緒に、密閉できる袋に入れて20日くらい置いておくと、糖度が増して食べ頃になりますよ! 長期保存しておきたい場合は、冷蔵庫などに入れておき、必要な時に室温で追熟させて食べるとよいでしょう。 ふっくらとして弾力があり、少し柔らかくなってきたら食べ頃。押さえて確認する場合は、真ん中あたりの腹の部分ではなく、頂部と下部の軸を挟むようにしましょう。 病害虫対策 病害虫の心配はほとんどありません。一般家庭では、無農薬で栽培できます。 仕立て方 【庭植え】 キウイフルーツはつる性植物のため、庭植えの場合は棚仕立てにしましょう。一年生苗の場合は、植え付け直後に地際から50〜60cmの高さで切り取って摘芯し、仮支柱を立てて主枝を誘引します。主枝が棚の天井部まで達したら仮支柱をはずして棚上に主枝を出し、90度曲げて棚の頂部に誘引していきます。主枝を棚で屈曲させた部分の葉腋から、副梢が発生するので、これを第2主枝として育成し、主枝とは反対方向へ棚上で一直線に誘引していきましょう。棚の下から発生する枝があれば、すべて元から切り取ります。主枝・第2主枝からは、さらに新しい枝が出てきます。枝が伸びるごとに棚に仕立てて、やがて棚全体を覆うようにします。込んでいる場所があれば、枝を元から切り取って透かし、風通しよく管理しましょう。 【鉢植え】 一年生苗の場合は、植え付け直後に地際から30cmの高さで切り取って摘芯し、仮支柱を1本立てて誘引します。その年の5〜6月に、伸びた新梢の先端を切り取って摘芯しましょう。翌年(栽培2年目)の3月頃に仮支柱を撤去し、鉢にリング支柱を設置して、芽吹く前の枝を支柱に沿わせてあんどん仕立てにします。以降は、伸びる枝葉をバランスよく支柱に誘引して育成していきましょう。 剪定 キウイフルーツは樹勢が強く、徒長枝は年に5〜6mも伸びることがあります。放任すると棚がつるで覆い尽くされてジャングルのようになってしまうことも。基本的には、棚面から地面に木漏れ日が落ち、晴れたら土壌が乾くくらいの光量を保つことを目安にするとよいでしょう。剪定の適期は1〜2月頃です。枝の先端を切り戻す剪定を中心にします。ただし、古い枝があれば元から切り取って若い枝に切りかえ、不要な徒長枝も元から切り取りましょう。込み合っている部分も光量や風通しを保つために、間引き剪定をして全体のバランスを取ります。 増やし方 挿し木で増やせます。挿し木の適期は6月頃です。勢いのある枝を選んで切り取ります。園芸用培養土を育苗トレイなどに入れて、採取した枝葉を挿しておきます。直射日光の当たらない明るい場所で、水切れしないように管理を。発根したら黒ポットなどに植え替えて育成します。大きく育ったら、植えたい場所に定植しましょう。挿し木のメリットは、採取した株のクローンになることです。 キウイを家庭菜園で育ててみよう キウイフルーツの特性や魅力、育て方まで幅広くご紹介してきました。「キウイフルーツってどんな植物?」とあまり馴染みのなかった方には、理解が深まったのではないでしょうか。収穫できる植物が庭にあると、家族の会話のきっかけにもなり、何より美味しく味わえて、暮らしを豊かにしてくれます。生食にして美味しく、タルトやケーキの飾りにも活躍するキウイフルーツを、ぜひ自宅で育ててみてはいかがでしょう。 Credit 文/3and garden ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。 Photo/1) Mattis Kaminer 2) Oksana_Konotop 3) hal pand 4) Ana Brettas 5) itaci 6) T.Kai 7) wavebreakmedia 8) noranoranamona 9) Akin Ozcan 10) 1New Africa 11) DGSHUT 12) Srdjan Delic 13) Climber 1959 14) Pavlo Baliukh 15) Andrea Ravasio 16) Tienuskin 17) Emmily 18) Filippo Cogotti /shutterstock.com 参考文献: 『決定版 はじめてでも簡単 おいしい家庭果樹づくり』 著者/大森直樹 発行/講談社 2010年11月28日第1刷発行 『はなとやさい』2015年9月号/タキイ種苗
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イングリッシュガーデン旅案内【英国】「グレイブタイ・マナー」〈後編〉イングリッシュガーデンの源流を訪ねる
緑の丘に広がるワイルドガーデン ロンドンから南へ50km。ウェスト・サセックス州の美しい田園風景に囲まれたグレイブタイ・マナーは、現在は高級カントリーサイドホテル、そして、ミシュランガイドの一つ星を獲得したレストランとして知られています。屋敷の周りに広がる35エーカー(約14万㎡)のガーデンは、宿泊かレストランのゲストのみ見学ができます。 ウィリアム・ロビンソンについては、『グレイブタイ・マナー』前編にて詳しくお話しているので、ぜひご覧ください。この後編では、屋敷の周りに広がるガーデンを散策していきます。歴史的なキッチンガーデンで採れる食材を使った、美しいお料理もご紹介しますよ。 それでは、ガーデンツアーを始めましょう。16世紀の屋敷は南を向いた丘の斜面にあって、屋敷前には、芝生と花壇からなるフラワーガーデンがあります。その外周には、屋敷を囲むようにメドウと果樹園が広がっていて、そして、丘のてっぺんに、大きなキッチンガーデンが待っています。 グレイブタイのヘッドガーデナーを務めるのは、名園グレート・ディクスターで腕を磨いた、トム・カワードです。彼は、園芸史に名を残す文化遺産、グレイブタイの管理者として、「ロビンソンにも満足してもらえるような」進歩的な庭づくりを行っています。 屋敷を囲む塀の外側には、赤いポピーやヤグルマギク、フランネルソウ、バーバスカムなどが植わっています。後ろのほうには、丈高いアーティチョークや黄花のディルなどがあって、ダイナミックな、動きのある植栽です。このような、宿根草や灌木などいろいろな種類の植物が混在するミックスボーダーのスタイルを生み出し、一般に広めたのも、ロビンソンです。 ここがメドウガーデンの始まり 塀を背に南側を向くと、眼下にメドウが広がり、その先には湖と森が見えます。100年以上前のこと、ロビンソンは周辺の森や牧草地、1,000エーカー(約4㎢)を所有していました。現在、その土地は慈善団体によって管理されていますが、おそらく、ここに見える草原や森までも彼のものだったのでしょう。 ロビンソンは、森のはずれや森の中の空き地、牧草地や湖の周りに、耐寒性のある外来種の球根花や植物を植え、それらを帰化(野生化)させて、イギリスの在来種と一緒に、自然で美しい景色を作ることを試みました。彼が「ワイルドガーデン」と名付けた庭づくりで、それは当時の園芸に対立する、全く新しい概念のガーデニング法でした。ロビンソンは、この湖の周りにも、イベリア半島原産の小さなスイセンを10万球植えたと伝えられますが、春になると、それらは今も咲くのでしょうか。 こちらは、もう少し丘を上った、果樹園の区画に広がるメドウです。これらのメドウは、グレイブタイのワイルドガーデンを形作る、最も大切な要素です。ロビンソンの著書を参考に植栽が考えられ、2月のスノードロップとクロッカスから始まり、3月は黄色いラッパズイセンと青いシラー、4月は野生種のチューリップや北米原産のカマシア、その他の球根花が花開いて、5月になると、イギリスの野生の花々が夏の終わりまで咲き続けます。私たちが訪れた2019年6月は、ワイルドフラワーが咲く景色でしたが、春の球根花の群生も見てみたいものですね。 フラワーガーデンの西の端にある小道から、遠くに屋敷と芝生が見えました。 上ってきた道を振り返ると、左手に、先ほど立っていた、パーゴラの連なる小道が見えます。ロビンソンはその昔、パーゴラに日本原産のフジや、クレマチスを絡めていました。それに倣って、現在、このパーゴラにもフジを這わせています。春になると、頭上から白い花房が垂れ下がり、両脇にブルーのアイリスと紫のアリウムが咲くという、夢のように美しい取り合わせが見られるそうです。 こちらは果樹園のメドウ。広さ2エーカー(約8,000㎡)の区画には、リンゴを中心とする果樹が点在しています。100年以上前にロビンソンが植えた第1世代の木々は、1987年の大嵐でほぼ倒されてしまい、今ある果樹は、1980年代に植えられた第2世代と、現在のオーナーによって2011年に植えられた第3世代の50本だそう。歴史を感じますね。果実はレストランの料理に使われるほか、ジュースにして保存され、ホテルの朝食で提供されます。 丘の中腹に、バラの絡まる、石塀で囲われたベンチがありました。ひと休みできるこのスポットは、そのうちバラで覆われるのでしょう。もう少し丘を上ると、ガラスの温室がいくつか見えてきました。 背の低い温室はコールドフレーム(冷床)と呼ばれる、苗を寒さから守るものです。苗を保管するバックヤードもおしゃれな雰囲気。 中で育てているのはハーブでしょうか。ガラス屋根をずらして通気できるようになっています。 背の高いほうの温室は、ちょっとレトロな雰囲気です。出番を待つ苗が並んでいます。 その先にあるのは、ピーチハウス。桃専用の温室のようで、実がなっているのが見えます。桃を露地で育てるにはきっと涼しすぎるのですね。 広い敷地の中を、パブリック・フットパスが通っていました。パブリック・フットパスとは、イギリスの丘や川辺、牧場などを抜ける公共の遊歩道のことで、このように私有地を通っている場合もあります。私有地は勝手に入ることができませんが、遊歩道上なら歩いてもよいことになっています。こんな美しい緑の中で、ゆっくりウォーキングを楽しんでみたいですね。 丘の上のキッチンガーデン さて、さらに上へ登ると、石塀に囲まれたキッチンガーデンのゲートが見えてきました。ウィリアム・ロビンソンが1898年に建設を始めたというキッチンガーデンです。 これまで英国の庭をいくつか見てきましたが、その中でも最大級のキッチンガーデン! 広さは堂々の1エーカー半(約6,000㎡)。丘のてっぺんの、南向き斜面につくられています。 地面に立っているとよくわかりませんが、上空から撮った写真を見ると、このキッチンガーデンは木の葉のような楕円形という、とても珍しい形をしています。通路は、中央を貫く通路が一本と、そこから左右に枝分かれして、ぐるりと一周できる大きな楕円の通路があって、それらの通路と、野菜の植わる畝の線が、まるで葉脈のように見えます。ロビンソンが木の葉をイメージしたかどうかはわかりませんが、緑の丘に抱かれるようにつくられた菜園に、四角が似合わないと思ったことは確かでしょう。 石塀には、地元サセックス州で切り出された砂岩が使われていますが、当時、この石塀を建ててガーデンを完成させるのに、3年を要したそうです。斜面に建てられているので、階段状の塀になっています。 イギリスの大きなお屋敷では、かつてこのようなキッチンガーデンが必ずあって、屋敷で消費される食料をまかなっていました。しかし、当時の菜園で、今も実際に使われているものはあまりありません。100年前と同じように、同じ手法を用いて作物を収穫できているのは特別なことだと、ヘッドガーデナーのトムは言います。昔ながらの方法でこのキッチンガーデンを使い続けることも、保全活動の大切な一部です。 2012年に、キッチンガーデンの大規模な修復作業が行われて、通路などがきれいに手入れされました。 エスパリエ仕立ての果樹と、菜園には、ハーブや切り花用の花も植わっています。 石塀に誘引されているのはレッドカラントでしょうか。ここでは四季を通じて収穫があり、それらはすべて、レストランの料理に使われます。まさに採れたての鮮度と、風味豊かな食材の魅力を存分に生かすべく、料理は考えられています。野菜などの栽培計画は、レストランのシェフとヘッドガーデナーが話し合って決めていて、シェフも毎日ここに足を運ぶそうです。 この壺のようなものは、ルバーブの遮光栽培をするための、ルバーブ・フォーサーでしょう。使いこまれているので、古いものかもしれませんね。果樹は鳥よけのケージの中に植えられています。 果樹のエスパリエ仕立てには、省スペースや日光を効率よく浴びるといった実用的な側面もありますが、古い石塀を背に枝を広げる姿はただ美しいものですね。さて、キッチンガーデン散策はこれで終わりです。 ゲートを出て、鬱蒼とした木々の間の小道を進むと… 一転して、開けた場所に出ました。丁寧に芝刈りが行われている、クロッケー用の芝生です。ここでは、バドミントンやショートテニスを楽しむほか、読書をしてゆっくり過ごしてもよいとのこと。静けさの漂うクリーンな空間は、ワイルドガーデンとコントラストをなす、ガーデンデザインの上でも大切な要素です。 屋敷周りのフラワーガーデン そのまま進むと、屋敷を見下ろす場所に出ました。見晴らしがよく、遠くまで見渡せます。 屋敷に続く石段を下りていきます。階段脇にもいろんな草花が植わっていて、楽しい! 階段を降りると、突然、古い建物に挟まれる形で、現代的なガラス張りの増築部分が出現しました。レストランに使われている新しい区画で、とってもおしゃれ。 この増築部分を設計した建築家は、30年にわたってレストランの常連客だったそう。だからこそ、素敵な庭のことがよくわかっていて、庭を存分に味わえるように考えたのでしょう。 レストラン脇の斜面は、グラス類やルピナスを使った、他の区画よりモダンで軽やかな印象の植栽。レストランのガラスや新しい白い敷石のテラスによくマッチしています。 レストランのテラスからは、昔からの敷石の小道が続いていて、途中にパラソルのあるテーブル席が用意されています。 庭で草花に囲まれながら、お茶や飲み物を楽しむこともできます。とても贅沢な時間の過ごし方ですね。 ウィリアム・ロビンソンが暮らしていた当時、芝生の生えている4つの区画は、低い生け垣に囲われた大きな花壇になっていて、いろいろな植物が植えられていました。海外からやってきた新しい植物がイギリスのどんな環境に合うのか。どんな植物同士を合わせると美しいのか。ロビンソンはそんなガーデニングの実験を繰り返し、花壇は日々、変化していたそうです。 芝生の中央には、ロビンソンの頃からのものでしょうか、古い石造りの日時計が、素朴なエリゲロンに彩られています。 フラワーガーデンの芝生は、見晴らしがよく、開放感のある空間です。カントリーサイドホテルの醍醐味ですね。 軽やかな明るい花色の中で、渋めの赤が効いた、とても美しい植栽です。春の植栽は、オレンジや赤のチューリップが主役だそう。 これぞ21世紀のコテージガーデン・スタイル。植物が自然に生い茂るような、ナチュラルな植栽ですが、花色に立ち姿、開花期間など、きっと計算されつくしているに違いありません。 ミシュラン一つ星の優雅なランチ 庭めぐりを終えて、いよいよランチの時間です。漆喰の天井飾りが美しい、二階の一室に通されると、イギリスの貴族ドラマに出てくるような長テーブルが私たちを待っていました。お庭からちらりと見えた、一階のガラス張りのお部屋にいた皆さんは、とても優雅な雰囲気で楽しんでらっしゃいました。誕生日や結婚記念日など、特別の機会に訪れるお客様も多いそうです。 窓から庭の緑が見えます。さて、キッチンガーデンで採れる野菜はどんなお味でしょう。料理が楽しみです。 こちらは、特製スモークサーモンに、サワークリームのようなクレム・フレーシュをミルフィーユ状に挟んだもの。上品な甘さのビートと、爽やかな苦味のクレソンが添えられています。 メインディッシュは、マッシュポテトとスプリンググリーンの上に載った子牛のステーキ。肉や魚は地産の最高級のものが使われていて、しっかりとした味わいです。マッシュポテトはぽってりとして、少し苦味のあるスプリンググリーンがアクセントに。デザートのカラメルホワイトチョコレートムースのカカオニブ添えは、地産のハチミツの繊細な甘みが美味しく感じられました。 美しいガーデンと、ミシュラン一つ星のおもてなしに、心もお腹も満たされた、とても幸せな時間でした。
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イングリッシュガーデン旅案内【英国】「グレイブタイ・マナー」〈前編〉イギリスのガーデニングを変えたウィリアム・ロビンソンの庭
歴史的価値を持つガーデン 16世紀後半のエリザベス朝時代に建てられたグレイブタイ・マナーは、ロンドンから南に50kmほど、ウェストサセックス州イースト・グリンステッドの近くにあります。19世紀、ヴィクトリア朝時代のガーデナーで園芸著述家のウィリアム・ロビンソン(William Robinson 1838–1935)が所有し、暮らしたことで、イギリス園芸史に残る文化遺産となりました。 現在、グレイブタイ・マナーは、美しい庭と田園風景の中でくつろぐことのできる、高級カントリーサイドホテル、そして、ミシュランガイドの一つ星を獲得したレストランとして知られています。屋敷の周りに広がる35エーカー(約14万㎡)のガーデンは、宿泊かレストランのゲストのみ見学ができます。現在見られる庭は近年の修復作業によって生まれたものですが、そこにはロビンソンの精神が息づいています。 「ワイルドガーデナー」ウィリアム・ロビンソン ウィリアム・ロビンソンは1838年、ジャガイモ飢饉の貧しさにあえぐアイルランドに生まれました。幼い頃から庭師見習いとして働き、23歳でロンドンに移ると、リージェンツ・パークの植物園で経験を積みます。 彼がロンドンで働き始めた19世紀中頃、ヴィクトリア朝中期のイギリスは、産業革命による豊かさの絶頂にありました。当時の園芸は、最新技術で建てられたガラスの温室で、プラントハンターが集めてきた熱帯の植物を育てたり、外来種の一年草を使って整形式花壇を作ったりするのが主流でした。非常にお金のかかった、贅沢な園芸が人気だったのです。 ロビンソンは次第に、そのような人為的で、自然を支配するような栽培や植栽の在り方に疑問を持ち、森や草原などの自然の美を生かした庭づくりを考えるようになります。 1866年、彼は29歳で有名なリンネ協会の特別会員に選ばれ、その後、雑誌や新聞に園芸記事を寄稿する著述家として仕事を始め、独立します。そして、1870年、代表作となる “The Wild Garden” を発表し、イギリスの森の外れや草原に、寒さに耐えられる野生種の外来種を植えて帰化させ、外来種と在来種を合わせた「自然で」手のかからない景色をつくることを提言しました。花々で幾何学模様を描く整形式庭園がもてはやされていた当時、その流れに真っ向から対抗する新しい庭づくりを示したのです。ロビンソンはその後も植物の最新情報を書き加え、改訂を繰り返しました。大反響を呼んだこの本は、今も読み継がれる、園芸本のベストセラーとなっています。 同時代を生きた友 ガートルード・ジーキル ロビンソンは翌年から、園芸週刊誌 “The Garden” を編集者として立ち上げ、ワイルドガーデンの考え方を一層広めていきます。週刊誌の寄稿者には、友人の女性ガーデンデザイナー、ガートルード・ジーキル(Gertrude Jekyll 1843-1932)もいました。 ジーキルは、昔ながらのコテージガーデンのスタイルを、鮮やかな色彩の植栽に発展させて、富裕層のガーデンシーンに大きな変化をもたらした人物です。2人はコテージガーデン風の自然な植栽というデザインの信条を分かち合い、長年にわたって友人関係を続けました。1883年にロビンソンが発表した著書 “The English Flower Garden” には、ジーキルによる寄稿記事が含まれていますし、また、このグレイブタイ・マナーの庭づくりにもジーキルが協力したといわれます。 早春の森のスノードロップに始まり、公園や草原に咲き広がるクロッカスやラッパズイセン、木立の中のブルーベル、そして、メドウの花々。イギリス各地で季節の移ろいを告げる、英国人にお馴染みの「自然な」花景色は、ロビンソンのワイルドガーデンの考え方から生まれたものといえます。ロビンソンは、宿根草を使った植栽スタイルやミックスボーダー(混植花壇)を広め、高山植物を使ったロックガーデンも提案しています。一方のジーキルは、さまざまな花が色彩豊かに咲く、ナチュラルな植栽スタイルを生み出しました。現在あるイングリッシュガーデンの姿は、ロビンソンとジーキルの2人によって、大きく形作られたと考えられています。 ガートルード・ジーキルについてはこちらの記事もご覧ください。 ●ジーキル女史のデザインがよみがえった「マナーハウス、アプトン・グレイ村」 ●現在のイングリッシュガーデンのイメージを作った庭「ヘスタークーム」【世界のガーデンを探る19】 理想の景色を求めた実験の日々 文筆業の成功で財を成したロビンソンは、1884年にグレイブタイ・マナーの屋敷と庭園、そして、周辺の土地を購入し、翌年から庭をつくり始めます。そして、亡くなるまでの約50年間をここで暮らし、自らの考えを実践する場として、理想とする景色を求めてガーデニングの実験を続けました。新しい外来植物がイギリスのどんな環境に合うのか、どんな植物同士を合わせるとよいのか、彼は実験の結果を著書や園芸誌で伝え続けました。 ロビンソンは周辺の牧草地や雑木林を徐々に買い増し、最終的には1,000エーカー(約4㎢)の土地を所有しました。森を守ることは人間にとって大切なことと考え、北米やインド、中国を原産とする、さまざまな広葉樹や針葉樹を植えて、新たに森をつくっています。そして、その森のはずれや、森の中の空き地、メドウ(牧草地)や湖の周りには、自らの考え通りに、耐寒性のある外来種の球根花や植物を植えて帰化させ、在来種とともに、自然で美しい景色をつくることを試みました。 ハシバミやクリの雑木林では、日本の白いシュウメイギクをはじめ、ユリ、ハアザミ、パンパスグラスを大きな茂みに育て、その下に、ブルーベルやシクラメンのカーペットをつくりました。屋敷近くの湖の周りに、イベリア半島原産の小型のスイセンを10万球も植えたり、北米原産のシロバナマンサクや、ナツツバキ、ヌマミズキなど、姿の美しい樹木や灌木を森に加えたりもしました。 ロビンソンは、剪定ばさみやホースといった新しい園芸用品も一般に広めました。70歳の頃、彼は怪我で背中を傷め車いすの生活になりますが、車いすを押してもらいながら庭を見て回ったといいます。現代のガーデニングに多大な影響を与えたロビンソンは、1935年に96歳でその生涯を閉じました。 美しさを取り戻した現在の庭 ロビンソンには後継者がいなかったため、全ての財産は営林に役立ててほしいと、国の林業委員会(フォレストリー・コミッション)に遺贈されました。屋敷や土地の管理のために慈善団体が設立されますが、しかし、その後まもなくして第二次世界大戦が始まり、屋敷はカナダ軍の駐留のため接収されます。この時、兵士が花壇を野菜作りのために掘り起こしてしまったので、ロビンソンの残したものは残念ながら、すべて失われてしまいました。 現在、ロビンソンの残した広大な森や牧草地は、ウィリアム・ロビンソン・グレイブタイ・チャリティという慈善団体によって管理されています。敷地の中心にある屋敷と屋敷周りの35エーカーのガーデンは、1958年にピーター・ハーバートに貸し出されて、ホテルとレストランの経営が始められました。ハーバートは2004年に引退するまでの約50年間で、グレイブタイ・マナーを、美しい田舎で最高級のサービスを受けられるカントリーサイドホテルの先駆けとして成功させましたが、彼の引退によってグレイブタイは衰退してしまいます。 しかし、2010年、現オーナーのホスキング夫妻に経営が移ったことで、大規模な改修も行われて、この場所はかつての輝きを取り戻しました。現在のヘッドガーデナー、トム・カワードは、名園グレート・ディクスターで腕を磨いた人物。「ロビンソンにも満足してもらえるような」ダイナミックで実験的なガーデニングを行い、庭をますます美しい姿に変えています。 *『グレイブタイ・マナー』後編で、ガーデン散策の様子をお伝えします。
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ビギナー向け! この夏にミニトマトを自分の手で育ててみよう!
トマトとミニトマトについて トマトは、ナス科ナス属の果菜類で、原産地は南米アンデスの高地。3〜4月にタネを播き、5月〜6月上旬頃に苗を植え付けて、6月下旬〜9月中旬に収穫、その後は枯死する一年草です。トマトの種まきには加温設備が必要なので、家庭菜園でトマトの栽培を楽しむ場合は、4月下旬頃から出回り始める苗を購入して、植え付けから始めるのが一般的。草丈は、放任すれば人の背丈を越えてぐんぐん伸びます。 トマトは、サイズによって大玉トマト、中玉トマト、ミニトマトに分類されています。今回スポットを当てるミニトマトは、果実の重みが20〜30gくらいで、栽培しやすく収穫量が多いのが特徴です。 トマトは、南米アンデス地方で古代から食用されていましたが、ヨーロッパを経て日本に伝えられたのは、江戸時代。最初は真っ赤な色や青臭い味が好まれず、「赤茄子」と呼ばれて観賞用として栽培されていたようです。一般に食べられるようになったのは明治後期以降で、日本人の嗜好に合った品種が開発された昭和以降から急速に普及しました。 今日では、人気の夏野菜として需要が高いことから品種改良が進み、糖度の高いトマトや料理に向くトマト、黄色やオレンジのトマトなど、さまざまな種類が出回っています。 トマトとミニトマトに適した環境 南米のペルーやエクアドル近辺が原産地のトマトは、標高3,000m級の高原地帯がふるさと。比較的雨の少ない地域で、日当たりがよく、昼夜の温度差が大きい環境を好みます。したがって、日本の高温多湿の気候、それも夜に気温が下がらず熱帯夜が続く夏が、トマトにとっては過酷な環境なんです! そのせいか「トマトの栽培は難しい」と、家庭菜園の世界ではささやかれがち。そこで、ビギナーさんにおすすめなのが、ミニトマトにターゲットを絞ることです。ミニトマトなら収穫量も豊富なうえに、摘芯や摘果、雨除けなどの栽培テクニックにあまりこだわらず、放任してもよく実ってくれますよ! マンションでもミニトマトは栽培できる! ミニトマトの育て方 ここからは、ビギナーさんに向けて「ミニトマトの鉢栽培」にターゲットを絞った、育て方の実践編です。準備するものから、鉢への植え付け、日頃の管理など、ビギナーさんでもすぐに取りかかれるように、詳しく解説していきます。 準備するもの 【大鉢】 10号鉢(直径約30㎝)に1株を目安に、大型の鉢を用意します。ミニトマト自体は小さく、購入時の苗もまだ小さいので、ビギナーの方なら「小さい鉢でもいいかな」とイメージしがちでしょう。しかし、すぐにミニトマトはぐんぐん茎葉を伸ばして、人の背丈ほどにまで成長します。ベランダやテラスなどでの鉢栽培では、たっぷり土が入る大鉢を用意するのが成功の秘訣です。 【鉢底ネットと鉢底石】 鉢底ネットは、鉢穴から土が流れ出すのを防ぐとともに、病害虫の侵入も防ぎます。 鉢底石は、水はけをよくするために鉢底に敷きます。 【培養土】 市販の果菜類用の培養土を使うと便利です。トマトに向いている培養土か、必ずパッケージの記載を確認してから購入しましょう。なぜなら野菜によっては、土壌酸度の適正値が異なるためです。トマトに適した配合の土を選んでください。 【ミニトマトの苗】 ヒョロヒョロと間延びしておらず、節間がしまってがっちりとした、勢いのある苗を選びましょう。値段は高めになりますが、接木苗(野生の台木に品種を接木している苗)を選ぶと、病気に強いので、より管理が楽になります。 【支柱とひも】 ミニトマトは人の背丈ほどにまで成長し、たくさんの実をつけるので、倒伏を防ぐために支柱とひもは必須アイテムです。長さ約2mの支柱を3本用意し、誘引するためのひもも準備しておきましょう。ひもの代わりに園芸用のビニタイを購入しておくと、より使いやすくて便利です。 植え付け 大鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、底が隠れる程度に鉢底石を入れます。 市販の果菜類用の培養土を入れます。鉢縁から2〜3cm下くらいまでを目安に、水やりの際に水があふれ出さないよう、ウォータースペースを取っておきましょう。 鉢の中央に、苗の大きさに合わせた植え穴をあけます。ポットからトマト苗を取り出して、根鉢を崩さないように植え付けましょう。根元に土を寄せて、ぐらつかないようにしっかり押さえておきます。 鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと水やりをします。 3本の支柱を鉢縁に立て、奥まで深く差し込みます。差し込みが浅いと倒れやすくなるので注意。3本の支柱の上部をまとめ、ひもでとめて固定します。 トマトの苗の主枝を支柱に誘引し、ひも、またはビニタイでとめて固定します。 日々の手入れ 【置き場所】 日当たりがよく、風通しのよい場所で育成します。ベランダやテラスなど、コンクリート状のフロアで管理する場合は、床からの熱を遮断するために、脚をかませておくか、ウッドパネルなどを敷いて対策しましょう。実がつき始めたら、雨が当たらない軒先やベランダなどへ移動するとベター。 【水やり】 表土が乾いたら、株全体にかけずに株元の土を狙って鉢底から水が流れ出すまでたっぷりと与えます。一番花が果実をつける頃までは、水やりを控えめに管理しましょう。梅雨明け後、真夏の高温期は乾燥しやすいので、朝夕2回の水やりを行いましょう。真昼に与えると、すぐに太陽熱によって温度が上がり、お湯のように熱くなってトマトが弱るので、涼しい時間帯に与えることがポイントです。 【誘引】 茎葉が順調に伸びてきたら、随時支柱に茎を誘引して、ひも、またはビニタイでとめて、倒伏を防ぎます。ひもをかける位置は、花の下ではなく、葉の下を目安に。主枝が折れないように、無理せずに螺旋状にとめていきます。 【肥料】 一番果が膨らみ始めたら、大さじ3杯くらいの化成肥料(N-P-K=8-8-8)を表土にまいて、土になじませます。以降は2〜3週間に1度を目安に、追肥しましょう。あまり肥料を多く与えすぎると、茎葉ばかりが茂って実がつかない「つるボケ」の状態になってしまいます。株の状態を見て、与えすぎには注意しましょう。 【仕立て方】 脇芽が葉のつけ根から出てきたら、茂りすぎて日当たりが悪くなるため摘み取ります。脇芽が出たらすべて取り、主枝の1本のみを残す、1本仕立てにしましょう。ミニトマトは樹勢が強いため、主枝と第1果房のすぐ下の脇芽を伸ばして、2本仕立てにしてもかまいません。草丈が支柱の高さを越えて、持て余すようようになったら、主枝の先端を切り取って、それ以上伸びないようにします。 【一番花を実らせる】 トマトは、一番花に確実に実をつけさせることがポイント。一番花に実がつかないと、茎葉ばかりが茂る「つるボケ」の状態になってしまうからです。しかし、一番花が咲く頃は気温も低く、天候が悪いと虫が活動しなくて受粉できないこともあります。そこで、「トマトトーン」などのホルモン剤を吹きつけて、確実に実らせるのがおすすめ。すると、樹勢が安定して第2花房以降も安定して結実します。 ちなみに大玉トマトの場合は、1花房に6個以上の実がついた時は、4〜5個のみ残して他は摘果し、一つひとつの果実を充実させる必要がありますが、ミニトマトは摘果の必要はありません。 【害虫の予防】 トマトの生育期は、病害虫が発生しやすい時期です。早期に発見して捕殺しましょう。適応の薬剤を散布して防除すると万全ですが、「せっかくの家庭栽培だから薬剤を使いたくない」という場合には、木酢液やニームなど、自然由来の害虫除けけを利用するのも一案です。 【雨除け】 トマトの果実は、雨に当たると実が割れてしまったり、病気にかかりやすくなったりします。果実がつき始めたら、軒下やベランダなど、日当たりがよく雨の当たらない場所へ移動しましょう。そのような場所がない場合は、支柱とビニールがセットになった被覆資材のキットを設置すると便利です。 【収穫】 実が赤くなって熟した順に、朝のうちに収穫していきます。ミニトマトは約3カ月間、収穫を楽しめます。 害虫の対処方法 トマトの大敵は、オオタバコガやタバコガ。青い実のヘタ近くに4〜5mmの丸い穴があき、周りに糞がついていたら、オオタバコガやタバコガの幼虫がいることを疑いましょう。茎の中に入って食害し、茎の先端のほうが枯れ込んでくることもあります。幼虫は緑色をしたイモムシで、大きくなると4〜5cmにもなって、旺盛に活動するので注意。異変があった時は株周りをじっくり観察し、見つけ次第捕殺しましょう。被害にあった果実は摘み取って処分します。薬剤で駆除しようとしても、果実や茎の内部に入り込んでいるとあまり効果がないので、6月頃のまだ小さいうちに発見して対処することが大切です。 ミニトマト栽培の注意点 トマトの中でも比較的育てやすいミニトマトは、ぜひビギナーさんにチャレンジしていただきたい野菜の一つです。しかし、じつのところビギナーさんにハマってほしくない「ミニトマト栽培の罠」があります。これからご紹介する栽培の注意点について、知っているのと知らないのとでは大違い。健やかに育てて、収穫の喜びを味わいましょう。 プランターの深さが足りない 4月下旬頃から花苗店やホームセンターに出回り始めるミニトマトの苗は、まだ大変幼い状態です。トマトが生育している姿を見たことがないビギナーさんは「これより1〜2回り大きな鉢を準備すればいいのかな」とイメージしがちでしょう。でも、それが失敗の原因に。ミニトマトであっても、草丈は人の背丈以上になるんです。その地上部を支えるためには、十分に根が張れる土の量が必要になります。少なくとも深さ30cmはある10号以上の鉢や、大型プランターを準備して植え付けましょう。背丈が大きくなるのはもちろん、茎葉を大きく広げて株幅も40〜60cmになるので、ベランダやテラスなどで育てる場合は、置き場所を確保できるかも検討しておいたほうがよさそうです。とにかく、実際に育て始めてから「こんなに大きくなるの!?」とビックリしないように、サイズ感をイメージしておいてくださいね。 水を与えすぎている トマトの原産地は、南米アンデス地方の高原地帯です。年間を通して日照量が多く、比較的雨の少ない気候の下で生育してきたトマトは、乾燥した気候には大変強い性質をもっています。したがって、トマトの栽培では、適切な水の管理がポイントに。水を与えすぎると、根腐れを起こしたり、甘みが落ちたりするほか、実が水分を含みすぎて膨張し、割れてしまう原因にもなってしまいます。 トマトの栽培に限らずですが、毎日の習慣として水やりをするのはNGです。動物のように毎日決まった時間に食事を欲しがるのとは違い、植物は土の状態に合わせて水やりをする必要があります。晴れた日もあれば、雨の続く日もあり、毎日土が乾くわけではないのです。常にジメジメした状態が続くと健康に育たなくなってしまうので、土の状態を見て、乾いていたら、鉢底から流れ出すまでたっぷりと与えることがポイント。また、トマトの茎葉がだらんと下がっていたら、水を欲しがっている証拠です。ただちに水やりをしましょう。植物が発するメッセージが分かるようになると、愛情もより増していきますよ! 脇芽かきをしていない トマトを栽培していると、主枝とは別に葉の茎の根元から、脇芽が出てきます。この脇芽が出たら、小さいうちに摘み取っておくことが大切なポイントです。脇芽を放置しておくと、茎葉の量が増えて日当たりや風通しが悪くなるうえに、茎葉が多くなるだけ養分が分散されて、実つきが悪くなってしまうのです。脇芽は収穫まで頻繁につくので、こまめにチェックしましょう。 脇芽を見つけたら、晴れた日の午前中に手で摘み取ります。これは、ウイルス病が入らないように傷口を早く乾燥させるためで、同じくウイルスの伝染を防ぐためにも、剪定バサミよりは手で摘み取るのがおすすめです。 大玉トマトにも挑戦してみよう! この記事では、ミニトマトの栽培について、さまざまな角度から解説してきました。ビギナーさんでも、きっとたくさんのミニトマトを収穫できるはずです。この成功体験は、次のステップに進むきっかけとなることでしょう。栽培難度は上がりますが、次は中玉トマトや大玉トマトなど、食べ応えのあるトマトの栽培にきっとチャレンジしたくなるはず。いずれも基本的な栽培方法は同じですから、さまざまなトマトを育てて、味比べを楽しんではいかがでしょう。 Halfpoint/shutterstock.com ミニトマト・トマト栽培についてよくある質問 ミニトマトが成らなくなってきました。このままにしておけば、来年も収穫できますか? 秋が近づくと、夏の間元気に実ってくれていたミニトマトもそろそろ終わりになる時期に。ミニトマトは日本では一年草なので、そのままにしておいても残念ながら翌年は芽を出しません。株が弱り、収穫できなくなってきたら根から抜いて片付けます。ミニトマトを片付けるとスペースがあくので、冬に楽しむ秋植えの野菜や花を植えるのもよいですね。あまり広い場所が取れない家庭菜園では、効率よくスペースを使うためにも、終わってしまった株は抜いて、土を休ませてやりましょう。枯れた株がないので、見た目もすっきりしますよ。 鉢植えのミニトマトがたくさんできたのですが、皮がかたくて生ではあまり美味しくありません。何か良いレシピはありませんか? 野菜の中でもミニトマトは育てやすく人気です。品種もたくさん出ており、色とりどりのミニトマトがガーデニングで楽しめるようになりました。丹精込めて育てたのだから美味しくいただきたいですよね。皮が固いトマトは、湯むきして使う方法もありますが、お湯を沸かすのが面倒な時はそのまま冷凍します。凍ったトマトを水で洗えばスルっと皮がむけ、そのままサラダに添えれば、ひんやり新しい食感が楽しめます。また練乳をかけると、お子さんにも人気のデザートに。たくさん収穫できた時は、セミドライトマトにするのもオススメです。ミニトマトを半分に切り、切り口を上にして塩をかけ並べます。そのまま天日干しするか、130℃のオーブンで1時間程焼成。トマトの水分が飛んでしぼんでいたら完成です。そのまま食べても濃厚な旨味が楽しめますが、パスタの具材としてやオリーブオイルに漬けて調味料として、色々な料理で楽しみことができます。庭の収穫を存分に楽しんでください! 今年、初めてトマトを育てましたが、たくさん実が割れてしまいました。どうしてですか? キッチンガーデンでの最大の醍醐味は、やはり収穫です。せっかくなら、健康で生き生きとした野菜を収穫したいですよね。しかし、トマトのひび割れは、農家の方でも起こってしまう症状。この実が割れることを「裂果(れっか)」といいます。乾燥している時に、大雨などが降り、一気に水分を吸い上げたトマト。それに伴い、実もあっという間に大きく育てばいいのですが、皮はそのスピードに付いていくことができず、ひび割れが起きてしまうことがあるのです。実を甘く育てるために、水分を少なくし乾燥気味に育てる方法もありますが、極度に乾燥させすぎたりすると裂果が起きやすくなるので要注意です。予防対策は、雨除けをすること。プランター栽培の場合は、直接雨の当たらない場所で育てて、極度の乾燥や過湿を防ぐのもいいでしょう。ちなみに、裂果したトマトも、もちろん食べることができますので、ご心配なく! 家庭菜園でトマトを育てています。甘くするにはどうしたら良いでしょうか? 太陽の光をたっぷり浴び、ガーデンで育ったトマトはとても美味しいもの。そんな家庭菜園のトマトを、さらに甘く濃厚な味にするコツが水分です。水分を多く与えられたトマトは、成長が早い反面やや味が薄くなってしまう傾向にあります。トマトを育てる時には、水を控えめにしてゆっくり成長させることで味が濃く甘いトマトを楽しむことができます。完熟するまでしっかり育ててから収穫するのもポイントです。実が柔らかく、濃厚で甘いトマトを楽しめます。また、実の表面がひび割れてしまう「裂果」という現象は、水分を一気に吸収するとなりやすいので、水分を控えめに一定量与えることでこれを防ぐという効果もあります。 併せて読みたい
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家庭菜園

小さな庭で収穫たっぷり! デッキ一体型家庭菜園
ビフォーは、雑草が繁茂していた庭 庭づくりをする前は、軽自動車2台分のスペースに雑草が繁茂していました。このままでは雑然とした雰囲気ですし、ヤブ蚊も発生してしまいます。このような雑草だらけの庭をどうにかしたいと思っている方は非常に多く、その手段としてコンクリートで覆ってしまうケースがよくあります。でもその前に、別の案を探ってみることを強くおすすめします。 庭をコンクリートで覆ってしまわないで! コンクリートで覆われた地面は、日射を受け赤外放射という熱を発します。頭上からの日射に足元からの赤外放射が加わると、外気温が30℃でも体感温度は40℃にも上がってしまいます。コンクリートで覆われた面積が広ければ広いほど、この赤外放射の熱量は増し、室内の冷房効率も著しく低下します。 一方、地面が緑で覆われている場合、その表面温度はコンクリートと比較し10℃も低くなることが環境省から発表されています。 ●庭づくりは暑さ対策にも効果絶大! 10℃も差が出る緑の実力 アフターは駐車もできて、家庭菜園も芝生もある庭に! この庭の依頼を受けたのは、造園家の阿部容子さんが在籍する「かたくり工房」。公園や病院、マンションの庭、ショーガーデンなどを手がける一方で、個人邸の庭づくりを大事にしています。 施工にあたっては、庭の手前に駐車スペースを確保し、フェンスを仕切りにして奥をガーデンにしました。駐車スペースは全体をコンクリートで覆ってしまうと、前述のように高温になりすぎるので、芝生を張ってタイヤが通る部分だけを石張りに。タイヤが通る部分は踏圧で植物が育たないので、最初から石張りにしたほうが芝生の張り替えなどの手間も省けて効率的です。 スリッパのまま行き来ができるデッキ一体型菜園 フェンスの奥が、芝生とデッキ、菜園が揃ったプライベートエリアです。デッキと菜園は一体型になっていて、地面レベルがほぼ同じ高さです。リビングからスリッパのままデッキへ出て、菜園で野菜を収穫し、そのまま室内に戻るということが可能です。施工当時、まだお子さんが小さかったことから、できるだけ菜園を生活空間に近づけて、靴を脱いだり履いたりする手間も省けるようにしました。 隣家との境には、リンゴの木とジューンベリーを植栽してあります。ジューンベリーは春の白い花、初夏の赤黒い果実、秋には美しい紅葉と、楽しみの多い果樹です。果実は生で食べても甘酸っぱく美味しくいただけますし、ジャムなどにして保存することもできます。ジューンベリーを角地に植栽し、その両サイドにリンゴをエスパリエ仕立てにしました。エスパリエ仕立てとは、枝を水平に伸ばす果樹の仕立て方の一つです。枝をそのまま自然樹形で仕立てると、その下にある菜園が日陰になってしまいますが、エスパリエ仕立てなら陰を作ることなく省スペースで果樹栽培が可能なので、小さな庭づくりにはおすすめの仕立て方です。菜園は深さがあるので、ジャガイモやダイコンなどの根菜類も育てられます。 家族がゆったり集えるオリジナル「デッキ in テーブル」 デッキは家族が庭を眺めながらゆっくり過ごせるアウトドアリビングとして活躍します。デッキチェアが2脚置けますが、テーブルセットも置くと菜園までの動線の邪魔になるので、使う時だけ引き出して使える「デッキ in テーブル」を制作しました。使用しない場合は、デッキの中にしまえる仕掛けになっています。この写真は、このデッキを制作したのは「かたくり工房」スタッフで、テーブルは4人で囲めるくらいの大きさです。また、庭へ降りる際のステップは、上り下りしやすい段差であることはもちろん、奥行きも吟味。ステップに腰を下ろしてリラックスできるよう、十分な奥行きが取られています。 防犯対策にもなるメロディーフェンス フェンスは格子状のデザインとし、庭への風通しや日照が確保できるようにしました。このフェンス、じつは音が鳴るのです。間に長さの異なる鉄筋が入っており、バチで叩くとメロディーが奏でられる楽しい仕掛けがあります。お子さんやその友人たちにも大人気です。 中央の白い大きなコンテナは、ライトが灯るライティングコンテナ。夜になると公道に面した駐車場側は明るく照らし出され、庭側は暗くなるので、プライベートエリアを守ることができます。このように、完全に壁などで覆ってしまわないほうが、防犯対策には有効です。 庭は五感刺激の宝庫 デッキを下りたエリアは芝生にしました。立水栓の周囲を玉砂利でデザインし、タイムも植栽してあります。玉砂利の上を裸足で歩くと足裏が刺激され、タイムの香りも立ち上ります。タイムは料理にも使えるハーブですし、五感への刺激は豊かな感性を養うきっかけにもなります。 立水栓の位置は意外と大事。庭の真ん中にあったほうが水まきの際にホースさばきが楽です。地植えの植物には基本的に水やりはいらないのですが、近年のような猛暑が続く場合には、菜園にも芝生にも水やりをしたほうがいいでしょう。特に、ナスは水が不足すると硬くて食べられません。葉っぱがくたっとなるような場合には、水やりが必要です。 このように、小さな庭こそプロの知恵と技術を借りましょう。最初にいいデザインをしてもらうことで、その後のガーデニングの楽しみや暮らし方が大きく違ってきます。「こんな小さなスペースをお願いしていいのかしら」「ガーデンデザイナーに依頼するなんて敷居が高い」と思われている方が少なくありませんが、そんなことはありません。気軽に相談して、充実したガーデンライフを叶えてくださいね。
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イングリッシュガーデン旅案内【英国】イギリスガーデン界の巨匠、故クリストファー・ロイドの自邸「グレート・ディクスター・ハウス&ガーデンズ」後編
時代を先駆けたガーデナー クリストファー・ロイドは、1950年代から生家のグレート・ディクスターを実験場にして、新しいガーデニングに挑戦し続けた園芸家でした。そして、ミックスボーダー(混植花壇)やメドウガーデンなど、自らが体験から得た新しい考え方を、英米の有名ガーデン誌や新聞、著書で伝え、プロやアマチュアのガーデナーたちに刺激を与え続けました。 グレート・ディクスターはクリストファーにとって、ガーデナー仲間との意見交流の場でもありました。彼は、園芸家ベス・チャトーなどの友人を招いて、菜園で収穫した野菜を使った手料理をふるまいつつ、園芸談議を楽しみました。英国園芸界で活躍する人々が集まるこの庭は、ガーデニングの新しい潮流が生まれる場所だったのです。 2006年、クリストファーは84歳で惜しまれつつ他界しましたが、彼が愛し、精力を注いだ庭と屋敷は、現在グレート・ディクスター・チャリタブル・トラストという公益財団に引き継がれ、その遺志を受け継ぐガーデナーたちによって、管理、運営されています。詳しくは「グレート・ディクスター・ハウス&ガーデンズ」前編でご紹介していますのでご覧ください。 さて、前編では、入り口から屋敷を中心に時計回りに庭を巡り、屋敷の南西側のメドウまでやってきました。庭巡りを続けましょう。 色彩豊かなロングボーダー メドウの縁には、屋敷へと延びる、幅広い敷石の小道と細長い花壇「ロングボーダー」があります。雑誌などでもよく紹介されている有名な花壇です。優しい色合いのメドウとは対照的に、このロングボーダーは彩り豊か。たくさんの種類の植物が小道にこぼれるように茂り、競い合って咲いています。 小道を進んでいくと、植物の種類が変わることで色彩も変化していきます。花壇の植栽は、6月中旬~8月中旬に花盛りとなるよう考えられているそう。また、クリストファーは、5月末からは土が見えないくらい植え込むべきと考え、この花壇を「綿密に織られたタペストリーのよう」にしたいと思っていました。 このロングボーダーはミックスボーダー(混植花壇)で、さまざまな植物が使われています。宿根草だけでなく、灌木や一年草、つる植物など、植物の種類にかかわらずなんでも使うのが、クリストファー流。ロングボーダーには斑入り葉の灌木や、真紅やピンクの花を咲かせたバラの茂みも所々にあって、ボリュームたっぷりです。訪れた6月中旬は、バラに加え、ポピーやルピナスの赤い花がアクセントとなって、強い印象の景色をつくっていました。 名建築家ラッチェンス設計の円形階段 ロングボーダーの端まで来て、視線の先を遮っていたマルベリーの大木の茂みを抜けると、左手に、円形のデザインが目を引く個性的な石階段がありました。その先にはメドウが広がっています。 この円形の石階段や、ロングボーダー前の敷石の小道は、20世紀の初めに活躍した名建築家、エドウィン・ラッチェンスによって設計されたものです。アールを描く石のステップの側面には、こぼれ種で広がったのか、ポツポツとエリゲロンの可愛い花が咲いていて、石階段の固い印象を和らげています。使われている石自体100年以上経っているので、趣があります。 メドウに立って、円形の石階段を正面から見てみると、上段に背景となる屋敷、中段にローダンセのピンクの花、下段に石階段と、高低差を生かした立体的なデザインであることが分かります。右側に茂るブラック・マルベリーの木は、もともとは対で両側に生えていたもので、ローダンセの花壇と同じく左右対称のデザインとなっていました。 ラッチェンスは、ガーデンデザイナーのガートルード・ジーキル女史とともにつくり上げたヘスタークーム・ガーデンズでも、似たような円形の石階段を設計しています。庭のアクセントとなる素敵なデザインですね。 花に飾られた石階段を、上ったり、降りたり。次のエリアに向かう過程も、とても楽しめました。 円形の石階段からメドウの中へと、放射状に3本の小道が伸びています。右手の小道を先に進むと、濃い緑の壁に囲まれたエリアがありました。中に入ってみると…… 異国情緒たっぷりのエキゾチックガーデン 他のエリアとはがらりと印象が変わって、緑一色の世界。背丈を超えるほど成長したバショウや木生シダなどが、自由に葉を広げて、面白いコントラストを見せています。ここはエキゾチックガーデンと呼ばれるエリア。もともとは整形式のローズガーデンとして設計された場所ですが、連作障害でバラが育たなくなったため、クリストファーが大改造を行いました。バラからの大胆な方向転換。きっと雰囲気が一新したことでしょうね。 小道の先を隠すように葉が垂れて、ジャングルのような雰囲気です。葉を楽しむための植物の多くは、イギリスの寒さに耐えられるものが選ばれています。6月の段階では緑一色の景色ですが、晩夏から秋にかけて、この庭にはダリアやカンナ、こぼれ種で増えるサンジャクバーベナの花が咲いて、とてもカラフルになるそう。その頃の景色も、ぜひ見てみたいものですね。 楽しみいっぱいのナーセリー さて、エキゾチックガーデンを出て敷地の奥へと進むと、花苗やテラコッタポットなどが並ぶナーセリー&ショップにたどり着きました。このナーセリーは1954年に、クリストファーが、自分が好きな植物を売るという形で始めたもの。特に、彼が大好きだったクレマチスは多くの品種が取り揃えられていて、今でもクレマチス専門店として知られています。 ナーセリー&ショップのエリアには建物が2つあって、小さいほうでは特製ブレンドの土の量り売りや、グレート・ディクスターのマークの付いたタネ袋などが売られていました。大きいほうでは、書籍やハサミ、オリジナルバッグや誘引紐など、心惹かれる商品がたくさん。店先には、アンティークのジョウロやダックスフントを模したジョウロなど、ユニークなグッズもありました(クリストファーはダックスフンドが大好きで、ずっと飼っていました。庭園では今もその子孫が飼われています)。 ガーデンの中で見かけた低い木柵も、山積みになって売られていました。これはガーデンハードルという、英国の庭で伝統的に柵やゲートとして使われているもの。グレート・ディクスターでは築500年の納屋を使って、伝統的な木工品づくりも行っています。古くからある近くの森からヨーロッパグリやクリ、オークなどの木材を切り出して、柵のほかにもスツールやベンチ、はしごなどを作成します。これは、森を守ると同時に、木工品づくりの伝統技術を伝えていくためでもあります。 ショップ付近では、草屋根のロッジア(イタリア式の、片側に壁のない屋根付き柱廊)が飲食スペースとして使われていて、用意されたテーブルや椅子で休憩する人の姿がありました。 苗コーナーも広く、たくさんの品種が並んでいます。奥に見える濃い緑の壁からバショウの葉が伸び出ているエリアが、先にご紹介したエキゾチックガーデンです。 トピアリーとメドウ ナーセリー&ショップのエリアを出ると、目の前に、再びメドウが広がっていました。草むらの中に、セイヨウイチイのトピアリーがリズミカルに配置され、広いスペースにアクセントをつけています。トピアリーは、アーツ&クラフツスタイルの庭で欠かせない要素ですが、日本庭園で見る松の刈り込みのようでもあって、親しみを持てました。クリストファーの父、ナサニエルはトピアリーが大好きで、昔は庭園内にもっとたくさんのトピアリーが立っていたそうです。クリストファーは「トピアリーは存在感があって、長い影をつくる時など、植わっているというより、住んでいるように見える」という言葉を残しています。確かに、ずんぐりむっくりの森の妖精のようにも見えますね。 一方、母のデイジーは、メドウが大好きでした。このトピアリー・ローンと呼ばれる庭は、クリストファーの両親が好きだったものがどちらもある場所です。 メドウとはもともと牧草地のことですが、イングリッシュガーデンでは、草原に小さな花々が咲く風景が、メドウ、もしくは、メドウガーデンとして、ガーデンデザインの中に取り入れられており、広い敷地を持つガーデンには、たいていメドウを思わせるエリアがあります。数あるメドウの中でも、ここグレート・ディクスターの庭は格別です。クリストファーの母は、この庭ができた1910年代からメドウをつくっていたので、彼は幼い頃からメドウに親しんできました。クリストファーは園芸家となってからも、美しいメドウガーデンづくりに試行錯誤し、精通していたので、メドウづくりの第一人者と目されていました。彼は2004年に刊行した著書“Meadows”で、その知識を伝えています。 グレート・ディクスターのメドウは多様性に富むもので、ヨーロッパの野生種のランも育っています。メドウはまた、チョウやガ、昆虫など野生生物の棲む場所としても重要なものになっています。 素朴な花が、まるで自然に咲き広がっているように見えますが、このような景色は、じつはとてもテクニックを必要とするもので、人の手が入ることによってはじめて実現するといわれます。植物同士がバランスよく一緒に成長するように、また、意図しない植物の侵入を避けたり、特定の植物が繁茂しすぎないようにしたり、種まきから成長過程を調整することも、メドウガーデンづくりのテクニックとか。 だからこそ、この景色は毎年必ずしも同じになるとは限りません。またいつか訪れるチャンスがあるかしらと心の片隅で思いながら、そよぐ風や野鳥の声に耳を澄ませて、そこにいる時間を楽しみました。 メドウに囲まれた小道を、建物のある方向へ進むと、屋根につるバラが絡むロッジアが見えてきました。その左横を進んで、次のブルーガーデンに入ります。 よく手入れされた芝生の中に、敷石の小道がまっすぐに通っています。建物に沿って、緑が生き生きと茂っていました。この小道や階段、レンガ造りのアーチも、ラッチェンスの設計です。 屋根に迫るほど大きな果樹のエスパリエがありました。リンゴの木でしょうか、石の壁にぴったり沿って、枝がきれいに誘引されています。こんなに大きなエスパリエを見たのは初めて! 次のエリアへ行く前に振り返ると、階段脇の一角に、いろんな種類のギボウシがバランスよく配置されていました。鉢植えのギボウシがたっぷり日差しを受けて、生き生きと葉を広げています。 次のエリアは、四方を壁にぐるりと囲まれたウォールガーデンです。 中は広い敷石のテラスになっていて、その周りを地植えの木々や鉢植えの植物が囲んでいます。中央付近は、小石を無数に敷き詰めたペイビングとなっていて、クリストファーの愛犬、2匹のダックスフンドがモチーフとなった模様が浮き上がっていました。テラスのペイビングの細かさから、相当のエネルギーが注がれた場所なんだなぁと実感します。 ウォールガーデンの一角は、カンパニュラやゲラニウム、フラックスなど、青系の花々の鉢植えが飾られて、爽やかな印象でした。 さて、庭巡りの最後を飾るのは、サンクン・ガーデンです。サンクン・ガーデン(もしくは、サンク・ガーデン)とは沈床式庭園のこと。イギリスのガーデンデザインでよく取り入れられる手法ですが、庭の中央の「床」が、周囲より一段、もしくは数段低く「沈んで」いて、そこに噴水が設けられたり、花壇が作られたりします。この庭の場合は、中央に八角形の池が作られていて、睡蓮が咲いていました。 もともとこの場所にはクロッケー用の芝生がありましたが、クリストファーの父ナサニエルが、1921年にこのように設計し直しました。ナサニエルは、建築や庭の設計にとても興味を持っていた人で、地域の古い建築に関した本を著してもいます。テラスの周りには芝生が広がっていますが、第一次世界大戦中はその芝生を掘り起こして、野菜を作っていたそうです。 池の水面に映る空の雲や植物のシルエットは、一幅の絵のよう。ベンチに座って、静かな時間を楽しみました。 グレート・ディクスターの広大な庭のメンテナンスには何人ものガーデナーが関わって、こぼれ種から発芽した芽の抜き取りや植え直しなど、とても繊細に行われています。一年で一番忙しい時期は、1月から2月にかけて。グレート・ディクスターは「英国で最も手のかかる庭」として知られますが、植えっぱなしでも育つ宿根草でさえ、よりよい状態を求めて、毎年植え替えるのだそうです。ここではガーデナー教育にも力が注がれていて、屋敷には研修生が住み込んで庭作業に励んでいます。ここを卒業したガーデナーは、他のガーデンで実力のある人材として活躍しているそうです。 かつて、庭づくりの巨匠として、イギリスのガーデニングに影響を与え続けたクリストファー・ロイド。新しいガーデニングに挑もうとするその精神は、ヘッド・ガーデナーのファーガス・ギャレットをはじめとするガーデナーたちに引き継がれています。クリストファーが愛し、築き上げたグレート・ディクスターは、今も新しい景色を生み出し、進化し続けるガーデンとして、多くの人々に驚きと感動を与えています。 *「グレート・ディクスター・ハウス&ガーデンズ」前編もどうぞご覧ください。





















