スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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おすすめ植物(その他)
蜜源植物とは? ガーデンで人気の種類&ハチミツの香りと味わいの違いもご紹介
蜜源植物とは Davizro Photography/Shutterstock.com 蜜源植物とは、ミツバチが蜜を採取する花が咲く植物のことです。世界には約4,000種類の蜜源植物があり、日本には500〜600種類があるとされています。 ハチミツは植物の蜜からできているため、蜜源植物はハチミツを作り出す上で欠かせない存在です。ミツバチは蜜源植物から蜜を採取し、胃にためて巣に持ち帰ります。蜜を巣の中のミツバチに渡して、糖度の薄い蜜を翅であおぎ、水分を蒸発させて糖度を80%程度まで上げるとハチミツになります。 ミツバチは花の蜜を集めてハチミツを作るだけでなく、ほかの植物に飛来して花粉を運ぶ役割も担っています。他の昆虫とは異なり、ミツバチはほぼすべての植物に飛来し、人間が食べる作物の多くはミツバチが花粉を運ぶことで受粉し、収穫できるようになります。 現在、気候変動や環境汚染など複合的な要因によるミツバチの減少が大きな社会問題になっています。ミツバチの減少は生態系を毀損し、農作物の生産にも影響を与えると考えられています。ミツバチの生育をサポートするためには、ミツバチが蜜や花粉を得ることができる蜜源植物を増やすことも大切です。 ミツバチが好む花の特徴 LIUCHUNG/Shutterstock.com ミツバチが好む花の種類には、樹木の花、群生する草花、ハーブ類、キク科、マメ科、シソ科、柑橘類の花があります。樹木の花は一時期にまとまって咲くため、ミツバチは移動せずに効率よく蜜を集めることができます。草花の中では、レンゲや菜の花、ヒマワリ、クローバーなどの群生する草花にミツバチが集まりやすいです。シソ科のバジル、ローズマリー、ミント、シソなどは香りが強く、小さい花が密集して咲くため、ミツバチが好んで集まります。 単花蜜と百花蜜 New Africa/Shutterstock.com 単花蜜とは、ミツバチが単一種類の花から集めた蜜で作られたハチミツです。蜜を集める働きバチの中には偵察の役割をするハチがいて、蜜の集められる花を見つけると巣に帰り、仲間のハチに蜜源となる花がある方向や距離を8の字ダンスと呼ばれる手段で伝えます。ハチは一つの蜜源にたどり着くと、その花の蜜を取り終えて巣に戻るまで他の花に行かない「訪花の一足性」という習性があり、この習性が単花蜜が作られる原因の一つとなっています。 一方、百花蜜はさまざまな花から採取したハチミツで、花の種類が限定できないため、味や風味、香りは採取された地域によって異なります。また、同じ花から採れる蜜でも、時期やその年の天候によって味わいが違うものになります。西洋ミツバチは一種類の花から蜜を集める性質がありますが、花の蜜が少ない場合や開花が遅れている場合は他の花からも蜜を集めます。日本ミツバチはその地域特有のさまざまな野草の花から蜜を集めてハチミツを作り、日本ミツバチによって作られた百花蜜は希少価値が高いです。 主要な蜜源植物10種 蜜源植物はハチミツを作るうえで欠かせないもので、非常に多くの種類があります。まずは、代表的な蜜源植物と、それから採れるハチミツについて種類ごとに紹介します。 ナタネ(菜の花) Leonid Ikan/Shutterstock.com ナタネはナタネ油が採れる植物としても知られており、菜の花やアブラナとも呼ばれています。温暖な地域に生息する植物で、花は黄色です。4〜5月に採蜜されます。ナタネから採れるハチミツは淡い黄色で、なめらかな香りと菜種油を思わせるコクのある味わいが特徴です。結晶は細かくクリーミーです。 ハチミツの主成分はブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)で、ブドウ糖の割合が高いほど結晶化しやすくなります。ナタネハチミツは他のハチミツよりもブドウ糖の割合が高いため、固まりやすいという特徴があります。 レンゲ Bennie/Shutterstock.com マメ科の植物であるレンゲは、紫色の小花を咲かせ、4〜5月中頃に採蜜されます。しかし、日本では外来の害虫であるアルファルファタコゾウムシの影響を受けて、栽培面積は30年前と比べて30%にまで減少しています。 レンゲハチミツは日本で販売されているハチミツの中で最もポピュラーで、「ハチミツの王様」とも呼ばれています。その味わいは濃厚でまろやかであり、ほんのりとした酸味とフローラルな香りが特徴です。国産のハチミツの中でも最も癖がなく、食べやすいとされています。 サクラ Serghei Starus/Shutterstock.com 山桜は日本を代表する樹木で、4〜5月に採蜜されます。単花蜜として採蜜する場合、山桜が蜜源になることが多いです。山桜のハチミツは華やかさがありながらも桜の葉の青さが感じられ、上品な甘さが特徴です。しかし、山桜が多く自生していないと採蜜できないため、山桜のハチミツは希少価値が高いです。 アカシア Victoria Kondysenko/Shutterstock.com アカシアはマメ科の植物で、ハリエンジュやニセアカシアとも呼ばれます。房状の花が垂れ下がって咲くのが特徴です。蜜源植物の中でもアカシアは人気が高く、「ハチミツの女王」と呼ばれています。アカシアのハチミツはさっぱりとした味わいで、日本人に特に人気があります。癖があまりないため、ドレッシングやパンなどさまざまな料理に合わせやすいです。 ミカン barmalini/Shutterstock.com ミカンの花は5月初旬から5月中旬にかけて採蜜されます。白く透き通った薄い黄色の花からは、甘酸っぱい香りのハチミツが採れます。このハチミツは柑橘特有のさわやかな風味とキレのあるコクが特徴で、さっぱりとした飽きのこない味わいが楽しめます。そのため、ハチミツが苦手な人にもおすすめです。果糖だけでなくブドウ糖も多く含まれているため冬季には結晶化しやすいです。 ソバ Nnattalli/Shutterstock.com ソバの花は6月下旬から8月後半にかけて採蜜され、白やピンクの花を咲かせます。採蜜の時期によって夏ソバと秋ソバに分けられ、秋ソバは特に蜜源として利用されます。ソバハチミツは茶褐色をしており、黒砂糖に似た深いコクがあり、ハチミツの中でも色が濃いです。 このハチミツには花粉由来のフラボノイドが含まれており、カルシウム、鉄、ビタミン、ミネラルなど身体によい成分が多く含まれています。特に鉄分は他のハチミツと比べて5倍も多く含まれており、脳卒中や動脈硬化に効果があるといわれるルチンも含まれています。また、ハチミツには殺菌作用がありますが、中でもソバのハチミツはその殺菌力が高いことで知られています。 クローバー Vladimir Konstantinov/Shutterstock.com マメ科シャジクソウ属の植物であるクローバーは、和名はシロツメクサ。6月から7月下旬にかけて採蜜されます。酪農が盛んな北海道では、家畜の餌としてクローバーが栽培されているため、クローバーのハチミツを採取することができます。クローバーのハチミツは結晶化するときめが細かくクリーミーです。 クローバーのハチミツは世界的にも人気があり、親しまれています。クセがなく優しい甘みと上品な味わいが特徴で、どんな飲み物や食べ物にも合わせやすく、特に紅茶との相性が良いです。 リンゴ marilyn barbone/Shutterstock.com リンゴはバラ科リンゴ属の落葉高木で、小アジアやコーカサスを原産としています。6月上旬から6月中旬にかけて採蜜されるこの樹木は、ミツバチの受粉を必要とする代表的な植物です。 リンゴのハチミツは癖がなく、後味にリンゴの皮の渋みが感じられ、リンゴ畑にいるようなフルーティーな味わいが特徴です。特にリンゴの産地である東北地方などで採取される、貴重なハチミツとされています。 シナノキ ganjalex/Shutterstock.com 菩提樹はリンデンとも呼ばれ、リラックス効果のあるハーブとしてアロマテラピーやハーブティーに利用されます。7月中旬から8月上旬にかけて採蜜され、日本では東北以北地方でのみ採取されています。ヨーロッパでは特に人気が高いこのハチミツはやや強めの黄色で、ハーブの香りが持続する個性的な味わいが特徴です。 トチノキ(トチ) BestPhotoStudio/Shutterstock.com トチノキは山の中に多く自生する自然木で、トチノキ科に属します。栃木県の県の木にも指定されており、東北地方で多く生産されています。採蜜時期は6月上旬から中旬で、白と赤の花を咲かせます。大きな花の群れがツリー型に細かい花を咲かせ、その実は食用になります。 トチノキのハチミツは自然を感じさせるワイルドな味わいが特徴で、フローラルな香りとこってりしたコクがあり、濃厚で柔らかい甘さが楽しめます。コーヒー、ヨーグルト、紅茶、チーズやパンによく合います。 蜜源植物にもなるガーデンプランツ8種 主要な種類に続いて、ガーデンプランツとしても人気があり、自宅の庭でも育てやすいミツバチやチョウが好む花を8種ご紹介します。 モナルダ Tatyana Mut/Shutterstock.com モナルダはシソ科の宿根草。ベルガモットやタイマツバナとも呼ばれ、香りがあるのでハーブとして扱われます。6〜9月に赤やピンク、紫、白などの鮮やかな花を咲かせ、夏のガーデンを彩ってくれます。 ラベンダー aniana/Shutterstock.com ラベンダーはシソ科の低木。その香りと愛らしい紫の花から、ハーブの中でも人気が高い種類です。開花期は4〜7月。高温多湿に弱いので、温暖な地域では暑さに強い種類を選ぶとよいでしょう。 カラミンサ Traveller70/Shutterstock.com カラミンサはシソ科の宿根草で、淡いピンクや白、淡い紫の小さな花を咲かせます。ミントのような爽やかな香りがあり、開花期間は5月中旬〜11月上旬と、非常に長く楽しめます。カラミンサによく似たキャットミント(ネペタ)もよくミツバチが訪れるハーブです。 ブッドレア Paya888/Shutterstock.com ブッドレアはゴマノハグサ科の低木で、和名はフサフジウツギで、チョウが集まることから、英名ではバタフライブッシュと呼ばれます。成長が早く、開花期は7〜10月。花色は藤色のほか、白や紫などで、円錐形の花穂を長く伸ばし、甘い香りがあります。 アガスターシェ(アニスヒソップ) Svetlana Zhukova/Shutterstock.com アガスターシェはシソ科の宿根草。アニスヒソップとも呼ばれ、葉に香りがあることからハーブとしても扱われます。開花期は5〜10月で、小さな花を穂状にたくさん咲かせます。黄金葉や銅葉の品種は、カラーリーフとしても人気があります。 エキナセア ileana_bt/Shutterstock.com エキナセアはキク科の宿根草で、別名ムラサキバレンギク。花の中心部が盛り上がり、その周囲に放射状に広がる花弁は満開になると垂れ下がるのが特徴です。開花期が6〜9月と長く、耐暑性があり、園芸品種も非常に豊富でカラーバリエーションもあることから、人気の高いガーデンプランツです。種類によってはハーブとしても利用されます。 ヤグルマギク Marina Demidiuk/Shutterstock.com ヤグルマギクはキク科の一年草。もともとヨーロッパでは麦畑の雑草として扱われていたことから、英名ではコーンフラワーと呼ばれます。開花期は4〜5月で、花茎を立ち上げた頂部に青や紫、ピンク、白、黒赤、複色などの花を咲かせます。こぼれ種でもよく増える丈夫な性質です。 キュウリ jekin/Shutterstock.com 花を楽しむ植物だけでなく、夏の家庭菜園で人気の高いキュウリやカボチャ、ズッキーニ、ゴーヤなどのウリ科の野菜もミツバチがよく訪れます。これらの野菜は、ミツバチなどの花粉媒介者によって受粉するため、家庭菜園の収穫量をアップさせるためにもミツバチは欠かせない存在です。 蜜源植物の種類によって味わいや香りが異なるハチミツ kobeza/Shuttertstock.com ミツバチが蜜を集めに来る蜜源植物は日本だけでも500〜600種類ほどあり、今回は中でも代表的な植物をご紹介しました。自宅の庭でも蜜源植物となる花を育てることで、ミツバチの生育をサポートすることにもつながります。また、蜜源植物が異なるハチミツは味わいや香りなども異なります。ぜひ、さまざまなハチミツを食べ比べて、好みの味や香りのものを探してみてはいかがでしょうか?
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宿根草・多年草
プリムラ・オブコニカの育て方〜花言葉は「初恋」の可憐な花
プリムラ・オブコニカの基本情報 unverdorben jr/Shutterstock.com 植物名:プリムラ・オブコニカ学名:Primula obconica英名:Primula obconica、German primrose、poison primrose和名:トキワザクラ(常盤桜)その他の名前:シキザキサクラソウ(四季咲き桜草)科名:サクラソウ科属名:サクラソウ属(プリムラ属)原産地:中国形態:宿根草(多年草) プリムラ・オブコニカの学名はPrimula obconica で、学名がそのままの流通名になっています。常盤桜(トキワザクラ)、四季咲き桜草(サクラソウ)の別名もあります。サクラソウ科サクラソウ属(プリムラ属)、常緑性の多年草ですが、夏の暑さに弱く夏越しが難しいために、日本では一年草として扱われることもあります。原産地は中国湖北省で、高温多湿に弱く、冬の寒さも苦手とするのが特徴です。草丈は20〜30cmほどです。 冬から春にかけて開花するプリムラ・オブコニカは、シクラメンやポインセチアなどのように、冬に室内を彩る花鉢として愛されてきました。花色が豊富で花が少なくなる時期にカラフルな花を咲かせてくれるので、ギフト用としても人気があります。茎葉には、プリミンと呼ばれるアルカイドを含み、触るとかぶれることがあるので、花がら摘みなどの手入れをする際にはガーデングローブを着用するとよいでしょう。近年は、品種改良によってプリミンをほとんど含まない園芸品種も登場しています。 プリムラ・オブコニカの花や葉の特徴 Esin Deniz/Shutterstock.com 園芸分類:草花開花時期:12〜4月草丈:20〜30cm耐寒性:弱い耐暑性:やや弱い花色:紫、ピンク、白、藤色、サーモンピンク、複色など プリムラ・オブコニカの開花期は12月〜翌年4月頃で、冬から春にかけて室内を彩る花鉢として親しまれてきました。花茎を長く伸ばし、その先に数輪~十数輪の花を咲かせます。花色は紫、ピンク、白、藤色、サーモンピンク、複色などで、色幅が豊富に揃うため、選ぶ楽しみがあります。産毛が生えた葉には長い葉柄があり、ロゼットを作ります。 プリムラ・オブコニカの名前の由来や花言葉 ncristian/Shutterstock.com プリムラ・オブコニカという名前は学名Primula obconicaから。「最初の、初めの」という意味の「primus」と、「逆円錐」という意味の「obconica」というラテン語から名付けられたもので、花の形と早春にほかの花に先駆けて花を咲かせることが由来です。 プリムラ・オブコニカの花言葉は、「初恋」「青春」「少年時代」「しとやかな人」などがあります。 プリムラ・オブコニカの誕生花 Peter Turner Photography/Shutterstock.com プリムラ・オブコニカは、2月19日、3月1日、3月26日、12月9日、12月19日の誕生花とされています。花鉢としてポピュラーに出回っているので、ギフトにしても喜ばれそうです。 プリムラ・オブコニカの代表的な種類 プリムラ・オブコニカは品種改良が進み、かぶれにくい園芸品種も登場しています。ここでは、それらの品種について取り上げます。 ‘タッチミー’ ncristian/Shutterstock.com オランダのナーセリーが開発した品種で、かぶれの原因となるプリミンをほとんど含まないため安心です。赤、紫、ピンクの濃淡など色幅があるシリーズです。 「プリカント」シリーズ InfoFlowersPlants/Shutterstock.com 「プリカント」シリーズは、グリーンがかった白、青紫、赤紫の花色が揃い、いずれもシックなニュアンスカラー。花弁にはフリルが入るのでエレガントな雰囲気をまとっています。アレルギー物質のプリミンをほとんど含まないのが特徴です。 プリムラ・オブコニカの栽培12カ月カレンダー 開花時期:12月〜翌年4月植え付け・植え替え:9月頃肥料:10〜4月種まき:6~7月 プリムラ・オブコニカの栽培環境 Ric Photography/Shutterstock.com 日当たり・置き場所 【日当たり/屋外】耐寒性が弱いため、鉢植えでの栽培が基本で、春から秋は屋外でも栽培できます。基本的には半日陰で栽培しますが、あまりに日当たりが悪いとヒョロヒョロと茎葉が間のびして軟弱な株になったり、花つきが悪くなったりするので注意してください。また、多湿も嫌うので雨の当たらない軒下などで管理するとよいでしょう。 【日当たり/屋内】気温が10℃を下回るようになったら取り込み、明るい窓辺で管理しましょう。 【置き場所】高温多湿に弱いので、屋外で栽培しているときは、風通しがよく雨の当たらない軒下などで管理するとよいでしょう。また、室内ではエアコンの風が直接当たらない明るい窓辺に置きます。ただし、あまり窓の近くだと、夜に外気温が伝わって冷え込み、株が弱ることがあるので注意してください。 耐寒性・耐暑性 プリムラ・オブコニカは、寒さに弱いため、鉢植えにして季節に応じて適した場所に移動しながら管理します。耐寒温度は5℃くらいなので、10℃を下回るようになったら室内に取り込みます。また、暑さにも弱いので、風通しのよい涼しい場所で夏越しするとよいでしょう。 プリムラ・オブコニカの育て方 ここからは、プリムラ・オブコニカの鉢植えでの育て方を解説します。 用土 blueeyes/Shutterstock.com 特別な成分は必要がないので、市販の草花用培養土を利用すると手軽です。 水やり Osetrik/Shutterstock.com 日頃の水やりを忘れずに管理します。ただし、いつも湿った状態にしていると根腐れの原因になるので、与えすぎに注意。土の表面が乾いてから、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。水やりの際は、株が蒸れるのを防ぐために茎葉全体にかけるのではなく、株元の土を狙って与えてください。茎葉がしおれそうにだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサイン。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイントです。 真夏は乾燥しやすいので、水切れには特に注意しましょう。また、気温の高い日中に水やりすると、太陽の熱によって土の温度が上がってお湯のように熱くなってしまうことがあり、株が著しく弱ってしまいます。真夏の水やりは、気温の低い朝か夕方に行いましょう。一方で、真冬は十分に気温が上がった真昼に水やりをすませておくことがポイントです。 肥料 sasimoto/Shutterstock.com 植え付け時に元肥として緩効性肥料を施しておきましょう。 開花期を迎えたら、月に1度を目安に緩効性化成肥料をばら撒き、スコップで軽く中耕して土に馴染ませます。または、10日に1度を目安に液体肥料を与えてもよいでしょう。 注意する病害虫 nechaevkon/Shutterstock.com 【病気】 プリムラ・オブコニカに発生しやすい病気は、灰色かび病です。 灰色かび病 灰色かび病は花や葉に発生しやすく、褐色の斑点ができて灰色のカビが広がっていきます。気温が20℃ほどで、多湿の環境下にて発生しやすい病気です。ボトリチス病、ボト病などとも呼ばれています。風通しが悪く込み合いすぎていたり、終わった花や枯れ葉を放置していたりすると発生しやすくなるので注意。花がらをこまめに摘み取り、茎葉が込み合いすぎている場合は、間引いて風通しよく管理しましょう。 【害虫】 プリムラ・オブコニカに発生しやすい害虫は、アブラムシ、ヨトウムシ、ハダニ、スリップスなどです。 アブラムシ アブラムシは、3月頃から発生しやすくなります。2〜4㎜程度の小さな虫で繁殖力が大変強く、発生すると茎葉にびっしりとついてしまうほどに。植物の茎葉について吸汁し、株を弱らせるとともにウイルス病を媒介することにもなってしまいます。見た目にも不愉快なので、発生初期に見つけ次第こすり落としたり、水ではじいたりして防除しましょう。虫が苦手な方は、スプレータイプの薬剤を散布して退治するか、植え付け時に土に混ぜ込んで防除するアブラムシ用の粒状薬剤を利用するのがおすすめです。 ヨトウムシ ヨトウムシは蛾の幼虫で、漢字で「夜盗虫」と書き、主に夜に姿を現して茎葉を食害します。大きくなった幼虫は食欲が旺盛で、一晩に株を丸裸にしてしまうほどです。葉から食害し始めるので、異変を察したら幼虫がまだ若いうちに駆除しましょう。発生しやすい時期は4〜6月、9〜10月です。食害の跡が認められたら夜にパトロールして補殺するか、適用する薬剤を散布して防除します。 ハダニ ハダニは、葉裏に寄生して吸汁する害虫です。体長は0.5㎜ほどと大変小さく、黄緑色や茶色い姿をしています。名前に「ダニ」がつきますが、クモの仲間です。高温で乾燥した環境を好み、梅雨明け以降に大発生しやすいので注意が必要。繁殖力が強く、被害が大きくなると、葉にクモの巣のような網が発生することもあります。ハダニは湿気を嫌うため、予防として高温乾燥期には葉裏にスプレーやシャワーなどで水をかけておくとよいでしょう。 スリップス スリップスは花や葉につき、吸汁する害虫です。アザミウマの別名を持っています。体長は1〜2㎜ほどで大変小さく、緑や茶色、黒の姿をした昆虫です。群生して植物を弱らせるので注意しましょう。針のような器官を葉などに差し込んで吸汁する際にウイルスを媒介するので、二次被害が発生することもあります。被害が進んだ花や葉は傷がついてかすり状になって、異変が見られるのでよく観察してみてください。花がらや枯れ葉、雑草などに潜みやすいので、株まわりを清潔に保っておきます。土に混ぜるタイプの粒剤を利用して防除してもよいでしょう。 プリムラ・オブコニカの詳しい育て方 苗の選び方 プリムラ・オブコニカの苗を購入する際は、葉色がよく、つぼみがたくさんついたものを選ぶとよいでしょう。 植え付け・植え替え AlenKadr/Shutterstock.com プリムラ・オブコニカの植え付け適期は9月下旬頃です。 5〜6号鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから草花用の培養土を半分くらいまで入れましょう。苗をポットから取り出して鉢の中に仮置きし、高さを決めたら、根鉢を軽くほぐし、少しずつ土を入れて植え付けます。水やりの際にすぐあふれ出さないように、土の量は鉢縁から2〜3㎝下を目安にし、ウォータースペースを取っておいてください。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から流れ出すまで、十分に水を与えましょう。 越年して株が大きく育ち、鉢が窮屈そうになっていたら、ひと回り大きな鉢に植え替えます。適期は9月下旬頃です。植え替えの際は、しばらく水やりを控えて土を乾かしておき、作業しやすいようにしておきます。鉢から株を取り出して根がびっしりと詰まっていたら、根鉢を少しずつ崩して古い根や土を取り除きましょう。根をくずして1/2〜1/3まで小さくし、再び植え直します。 日常のお手入れ Early Spring/Shutterstock.com プリムラ・オブコニカの季節ごとのお手入れのポイントについてご紹介します。 【花がら摘み】 プリムラ・オブコニカは次々に花が咲くので、終わった花は摘み取りましょう。まめに傷んだ花がらを摘んで株まわりを清潔に保つことで、病害虫発生の抑制につながります。また、いつまでも終わった花を残しておくと、種子をつけようとして株が消耗し、老化が早まって花数が少なくなってしまうので注意。花がらをまめに摘み取ると、次世代を残そうとして次から次に花がつき、長く咲き続けてくれます。種子を採取したい場合は、開花が終わりそうな頃に花がら摘みをやめて、種子をつけさせましょう。 夏越し OTS1989/Shutterstock.com プリムラ・オブコニカは、本来は多年草ですが、日本の高温多湿の環境を苦手とし、夏越しが難しいため一年草として扱われる場合もあります。暑さで枯死してしまった場合は処分しましょう。夏越しにチャレンジする場合は、風通しのよい涼しい場所で管理します。 冬越し ibrahim kavus/Shutterstock.com プリムラ・オブコニカは寒さを苦手とし、5℃以下になると枯死してしまうことがあります。最低気温が10℃を下回る前に室内に取り込み、日当たりのよい窓辺などに置きましょう。夜は外気温が伝わりにくい場所に置いてください。 増やし方 Montana Isabella/Shutterstock.com プリムラ・オブコニカは種まき、株分けで増やすことができます。ここでは、それらの方法についてご紹介します。 【種まき】 プリムラ・オブコニカの種まき適期は6〜7月です。 まず、種まき用のセルトレイを準備してください。トレイに市販の種まき用の用土を入れて十分に湿らせ、1穴当たり数粒ずつ播きます。プリムラ・オブコニカは発芽に光を必要とする好光性種子のため、土をかぶせる必要はありません。種が細かいので、浅く水を張った容器にセルトレイを置いて鉢底から給水します。発芽までは涼しい場所に置き、乾燥しないように適度な水管理をしてください。 双葉が出揃ったら、弱々しい苗を間引いて1本立ちにしましょう。残す苗の根を傷めないように、株元を押さえて抜き取ってください。本葉が4〜5枚出始めたら、セルトレイから鉢上げするタイミングです。3号の黒ポットに草花用の培養土を入れ、セルトレイから苗を抜き取って根鉢をくずさずにそのまま植え付けます。日当たり、風通しのよい場所で育苗しましょう。根がまわるほどに十分育ったら、植えたい場所に定植します。 【株分け】 プリムラ・オブコニカが大株に育っていたら、株分けして増やすことができます。株分けの適期は4〜5月頃か9月下旬頃です。株を掘り上げて数芽ずつつけて根を切り分け、再び植え直しましょう。それらの株が再び大きく成長し、同じ姿の株が増えていくというわけです。あまり強引に引きちぎったり、小分けにしたりすると、株が弱ることがあるので注意してください。 プリムラ・オブコニカを育てる際の注意点 ncristian/Shutterstock.com プリムラ・オブコニカは、葉や花茎、萼などにプリミンを含有しています。この物質は、肌に触れると皮膚炎を起こしてしまうことがあるので注意。植え替えや花がら摘みなど、手入れ作業をする際は、必ずゴム手袋を着用しましょう。特に敏感肌の方は要注意です。一度かぶれると、二度目、三度目は症状が重くなることがあります。 プリムラ・オブコニカの鉢花を長く満喫しよう fotookamziky/Shutterstock.com 寒い冬でも、窓辺に置けば明るい花色を見せてくれるプリムラ・オブコニカ。咲く花の種類が少なくなるこの時期は嬉しく、毎年購入している人もいるのではないでしょうか。ぜひ鉢栽培にチャレンジして、お部屋を明るく彩ってみてください。
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宿根草・多年草
春蘭とは? 春蘭の特徴・育て方について分かりやすくご紹介!
春蘭の基本情報 goriyan/Shutterstock.com 植物名:シュンラン学名:Cymbidium goeringii英名:Riverstream orchid和名:春蘭その他の名前:ジジババ、ホクロ、ゲンコツバサミ(拳骨挟み)、テングバナ(天狗花)など科名:ラン科属名:シュンラン属(シンビジウム属)原産地:北海道~九州、中国形態:常緑多年草 春蘭はラン科シュンラン属の多年草。学名をシンビジウム・ゴエリンギー(Cymbidium goeringii)といいます。洋ランとして親しまれているシンビジウムの仲間で、東洋ランと呼ばれ古くから愛されています。 英語圏ではリバーストリームオーキッド(Riverstream orchid=谷間のラン)と呼ばれる通り、山あいでひっそりと咲くランです。 日本と中国が原産地で、3〜5月に開花期を迎えます。 春蘭の花や葉の特徴 goriyan/Shutterstock.com 園芸分類:山野草、ラン開花時期:3月下旬~4月草丈:10~30cm耐寒性:普通耐暑性:普通花色:緑、黄、朱金、褐色 春蘭は北海道から九州の山地に広く分布しています。里山の雑木林など、広葉樹の林床に自生していることが多く、春の雪解けと共につぼみを膨らませます。野趣のある素朴で可憐な花と、甘く爽やかな香りがあり、山菜として食したり、塩漬けにしてお茶にするなど、昔から人々の暮らしの中にある植物でした。ジジババ、ホクロなどの地域名もあります。 花の色が違ったり、葉に斑が入っているなど通常とは異なる個体は珍重され、増やされてきました。現在でも古典園芸植物として人気があり、春になると多くの場所で品評会が開催されています。 春蘭の名前の由来と花言葉 chasou_pics/Shutterstock.com 春蘭は、その名の通り春に咲く蘭であることから名づけられました。 春蘭の学名(Cymbidium goeringii)は、Cymbidiumがギリシャ語で船を意味するcymbeと形を意味するeidso、goeringiiは植物採集家のグーリングが由来です。 代表的な別名であるホクロは、唇弁の斑をあらわした呼び名です。なお一説にはハクリと呼ばれる薬草に用途がよく似ていたことから、ハクリと混同して呼ばれ始め、やがてホクロに変化したとされています。 春蘭は、素朴で美しい花姿から「控えめな美」、うつむき加減で横向きに咲き、主張が少ないことから「飾らない心」、また林床部の薄暗い中でもしっかりと存在感を漂わすことから「気品」などの花言葉が与えられています。 春蘭の代表的な種類 yoshi0511/Shutterstock.com 春蘭は基本的にシンビジウム・ゴエリンギーを指しますが、コラン・カンラン・スルガラン・ナギラン・ヘツカラン・アキザキナギランなどたくさんの仲間がいます。カンランをはじめとする仲間は育て方も似ており、春蘭に近似のグループとして扱われます。 同じラン科でも少し違うのがエビネランです。エビネランはエビネ属(カランセ属)で、春咲きと夏咲きがあります。春蘭が1茎に1つの花を咲かせるのに対し、エビネは1茎に10~30輪の小ぶりな花を、穂のように咲かせます。野生のエビネランはほかのエビネ類と交わりやすく、交雑種が多数存在するのも特徴です。 エビネラン。High Mountain/Shutterstock.com なお、エビネランは春蘭と同じく、偽鱗茎(バルブ)と呼ばれる、水分や栄養を蓄える部位を持っています。このバルブがエビの背に似ていることからエビネと名づけられました。 このグループに含まれるものにはいくつかの種類があります。代表的な種は、以下になります。国内のシュンラン属は樹上着生のヘツカランを除き、ほかは土壌に根を張る地生ランです。また亜種や変種、シュンラン属同士の自然交雑種などもあります。 なかには根に共生した菌類から栄養をもらって成長する菌従属栄養植物(腐生植物)というカテゴリーに分類されるものもありますが、これは栽培に向きません。 国内のシュンラン属 ホソバシュンランCymbidium goeringii var. angustatum カンランCymbidium kanran ナギノハヒメカンランCymbidium × nomachianum スルガランCymbidium ensifolium コランCymbidium koran ヘツカランC.dayanum Reichb. fil. var. austro‐japonicum オオナギランCymbidium lancifolium ナギランCymbidium lancifolium アキザキナギランCymbidium javanicum var. aspidistrifolium ホウサイランCymbidium sinense マヤランCymbidium macrorhizon サガミランCymbidium macrorhizon f. abberans ハルカンランCymbidium × nishiuchianum 春蘭の栽培12カ月カレンダー muhummhad siddik noppaka/Shutterstock.com 開花時期:3月下旬~4月植え替え適期:4月下旬~5月中旬肥料:4月下旬〜6月植え付け:4月下旬~5月中旬 春蘭の栽培環境 yoshi0511/Shutterstock.com 日当たり・置き場所 春蘭は、地植えと鉢植えどちらでも栽培可能です。 鉢植えの場合は、水はけ・通気性のよい鉢を用意しましょう。素焼きの鉢で、鉢底穴が大きなものがおすすめです。春蘭は根が太く長いので、深めの鉢を選ぶ必要があります。春蘭専用の鉢も市販されているので、鉢選びに迷ったら活用してみましょう。 【日当たり/屋外】半日陰を好みます。 【日当たり/屋内】基本的には屋外で管理します。 【置き場所】通常は30~50%、夏場は70~75%の遮光下で管理しましょう。地植えの場合は木陰がおすすめです。 耐寒性・耐暑性 春蘭の耐寒性・耐暑性のレベルは普通です。年間を通して屋外での管理が可能ですが、冬にマイナス5℃を下回る場合は、屋内に移動しましょう。 春蘭の育て方のポイント 用土 用土は、保水性と水はけのよさを重視し、粗めの軽石を主体とするか、赤玉土を混ぜた混合土にしましょう。東洋ラン専用の培養土を利用するのもおすすめです。 水やり Osetrik/Shutterstock.com 用土が乾いたら鉢底から流れ出すまで水を与えます。その際は、鉢の表面だけでなく、内部の用土までしっかりと乾いていることを確認しましょう。春蘭は水を与えすぎると根腐れしやすいので、乾いているときと水やり後の鉢の重さを把握しておき、水やりのタイミングの参考にしましょう。 また冬期は鉢内部の乾燥が緩やかになるので、水やりは控えめに行います。暖かい日の午前中に、表土が濡れる程度の水やりをすればよいでしょう。 肥料 Ihor Matsiievskyi/Shutterstock.com 施肥は、4月頃と9月頃に緩効性肥料を与えるようにしましょう。また新芽が成長し、翌年の花芽を形成する4~6月と、花芽充実期の9~11月には、液体肥料を2週間に1回を目安に与えるのがよいでしょう。緩効性肥料は、できるだけ株から離して置くことで肥料焼けを予防できます。 注意する病害虫 shyshechka/Shutterstock.com 【病気】 被害として一番挙げられるのはウイルス病です。その多くが株分け時などに使った刃物から感染するというものです。葉に斑点ができたり、かすり模様が出てきた場合は、ウイルス病の可能性があります。一度ウイルスに感染してしまうと薬などでは対処できないので、処分するしかありません。使う刃物の消毒をしっかりと行い、予防に努めましょう。 また高温多湿の時期は根腐病や軟腐病、低温多湿の環境であればカビ病にも注意が必要です。そのような時期は水やりに気をつけ、風通しのよい場所で管理し、定期的な薬剤散布で予防しましょう。 A.Halff/Shutterstock.com 【害虫】 風通しの悪い場所などではハダニやナメクジが発生することがあります。また花芽形成時にアブラムシが付くこともあります。見つけ次第、捕殺や薬剤散布を行うなどして対処しましょう。地植えの場合は野生動物による食害もあるため、心配なら防護ネットを張るなどの対応をしましょう。 春蘭の詳しい育て方 苗の選び方 苗を選ぶ際には、バルブや葉、株立ちを見ましょう。バルブが大きく、葉が多いものは、元気な苗の特徴です。株から立ち上がっている茎が多いかどうかも、勢いのある苗を見分ける目安になるでしょう。 根の状態を見ることができる場合は、なるべく根が大きなものを選ぶのがおすすめです。 なお、春蘭は基本的に苗から育てます。種子を発芽させるためには専用の設備が必要なので、一般的には行われません。 植え付け・植え替え shyshechka/Shutterstock.com 春蘭の植え付けの適期は、花が終わった後もしくは秋です。植え付けをする前には、バルブや根の状態をチェックしておきましょう。傷んでいるバルブや根、葉は剪定し、切り口を清潔にしておきます。 植え付ける際には、バルブが1~2cm埋まるくらいを目安にしましょう。 植え替えの適期は、4~5月の花後です。おおよそ3年ごとに植え替えると、根詰まりを防げます。 鉢を株から外したら、根の土を落とし、枯れた根があれば取り除いておきます。株が込み入っていたり、傷ついている場合は、バルブごと切り離しましょう。 根やバルブ、葉を切る際は、切り口から病原菌が入らないように注意が必要です。使う刃物は、アルコール消毒あるいは火であぶる消毒を行いましょう。 日常のお手入れ 春蘭の日常的なお手入れは、主に古葉外しと花がら摘みです。 春蘭の葉は2~3年で新しくなるので、古い葉は摘み取りましょう。また、花が咲き終わったら、しぼんだ花を摘み取ります。 夏越し・冬越し 春蘭は夏場も戸外で育てられます。しかし、強い日差しで葉焼けする恐れがあるので、真夏は70~75%以上の遮光ネットを張りましょう。 また、春蘭はランのなかでは珍しく、屋外でも冬越しが可能です。ただし、凍結による葉や根の傷みを避けるため、真冬は無加温ハウスや棚下で管理しましょう。また、マイナス5℃を下回る場合は室内に移動するのもおすすめです。ただし、花の生育のためにはある程度の低温が必要になります。室内で管理する場合は、凍結しない程度の寒さに一定時間あてましょう。 増やし方 春蘭を増やしたいときは、株分けを行いましょう。株分けとは、小木や多年草の株を分割して、数を増やすことを指します。植え替え時に株が大きくなっていたら、株分けのタイミングです。 株分けをする際は、まず春蘭の株を土から引き抜き、根に付着した土を落とします。次に、バルブ2~3個を目安に、新しい芽がついていることを確認して、刃物で株を切り分けます。切り口は清潔に保ち、病気や雑菌が侵入しないようにしましょう。 春蘭を育ててみよう chuyuss/Shutterstock.com 春蘭は古典園芸植物として多くの品種があります。通常種を地植えにして素朴で可憐な花を愛で、春の訪れを感じるもよし、さまざまな品種をコレクションしたり、自分で交配してオリジナル品種を作出するもよし、春蘭の楽しみ方は多岐にわたります。この機会に美しい春蘭を育ててみましょう。
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樹木
常緑低木マサキの育て方と楽しみ方 日本庭園にも洋風の庭にも映える樹木
マサキの基本情報 AnnaNel/Shutterstock.com 植物名:マサキ学名:Euonymus japonicus英名:Japanese euonymus、evergreen euonymus、Japanese spindletree、evergreen spindle和名:マサキ(柾、正木)その他の名前:シタワレ、フユシバ科名:ニシキギ科属名:ニシキギ属原産地:日本、中国、朝鮮半島形態:常緑性低木 マサキの学名は、Euonymus japonicus(ユオニマス・ジャポニカス)。シタワレ、フユシバの別名もあります。ニシキギ科ニシキギ属の庭木で、原産地は日本、中国。日本で自生してきた植物なので暑さや寒さに強く、放任してもよく育ちます。 マサキは、潮風や大気汚染にも強いとされ、海岸付近や都市の緑化を目的に街路樹として用いられてきました。葉に斑が入る変異が出やすいため、江戸時代の園芸愛好家に好まれたことから、園芸品種が多様に生まれた歴史があります。その名残により、現在でも斑入り種が多様に揃っており、選ぶ楽しみもあります。 常緑樹で冬もみずみずしい葉姿を保つので、目隠ししたい場所に植えるのにも向き、園芸用や生け垣として珍重されています。斑入り葉を選べば、カラーリーフプランツとしても活躍することでしょう。樹高は自然樹形で6mほどですが、毎年剪定をすればコンパクトな姿をキープすることは可能です。萌芽力が強いので、刈り込んで生け垣として利用することもできます。 マサキの花や葉の特徴 園芸分類:庭木開花時期:6〜7月樹高:2~6m耐寒性:強い耐暑性:強い花色:淡緑色 開花期は6〜7月で、直径5mmほどの小さな花が集まって咲きます。花は淡いグリーン色で、あまり目立ちません。花弁は4枚で、おしべも4本ついています。開花後、7〜8mmほどの果実をつけます。秋に赤く熟すと野鳥がやってくることも。完全に熟すと果実が割れて中から実が飛び出してくるので、その実姿も愛らしいものです。厚みのある葉は長さ4〜7cmほどの楕円形で、縁には浅い切れ込みが入ります。 マサキの名前の由来や花言葉 Svetlana Zhukova/Shutterstock.com マサキという名前の由来については諸説あり、常緑で冬でも青々としていることから真青木(まさおき)と呼ばれ、それが転訛したとする説、挿し木が容易なことから「芽挿木(めさしき)」が転訛したとする説、真っすぐに伸びることを表す「正木」からとする説などがあります。 マサキの花言葉は「厚遇」「円満」です。 マサキの葉や実には毒がある F.Neidl/Shutterstock.com マサキの葉や実、樹皮には脂肪油が含まれ、毒性があります。野鳥が好んで食べにくるのでおいしいのかな? と思う方もいるかもしれませんが、絶対に口に入れないでください。誤って食すと、下痢や嘔吐の症状が出ることがあります。特に幼い子どもやペットがいる家庭では、口に入れないように注意しましょう。 マサキの品種 マサキは江戸時代から品種改良が行われた植物として知られています。ここでは、特にポピュラーな品種についてご紹介します。 マサキ Jcaley/Shutterstock.com 基本種としてのマサキの葉は濃いグリーン。肉厚で光沢があります。 キンマサキ 本来は新芽の中央に黄色い斑が入る品種を指しますが、最近では葉の外側に斑が入る品種もキンマサキとして流通しています。バランスよく入る黄色が洋風で軽やかな雰囲気で、庭を明るく彩ります。 ギンマサキ Peter Turner Photography/Shutterstock.com やや丸みのある葉が特徴で、葉に白い縁取りが入る品種です。明るく爽やかな雰囲気をもたらします。 オウゴンマサキ Yoshihide KIMURA/Shutterstock.com 新芽が出る頃は明るい黄色で、まるで花が咲いたような華やかさがあります。葉は徐々にグリーンになります。 マサキの栽培12カ月カレンダー 開花時期:6〜7月植え付け・植え替え:3月〜4月中旬、9月下旬〜10月上旬肥料:2月頃剪定:6月頃と9〜10月(生け垣) マサキの栽培環境 Umair 123/Shutterstock.com 日当たり・置き場所 【日当たり/屋外】日当たりがよく、風通しのよい場所を好みますが、耐陰性があるため、朝のみ光が差す東側やチラチラと木漏れ日が差す落葉樹の足元など、日なた~明るい日陰まで栽培可能です。ただし、あまりに日当たりが悪い場所では枝葉がヒョロヒョロと伸びて間伸びした樹形になったり、実つきが悪くなったりすることがあります。 【日当たり/屋内】一年を通して屋外での栽培が基本です。 【置き場所】水はけがよく腐食質に富んだふかふかとした土壌を好みますが、さほど土質を選びません。潮風や大気汚染にも強く、耐陰性もあるため、環境を選ばず栽培できます。 耐寒性・耐暑性 暑さにも寒さにも強く、特に冬越し対策などをしなくても周年戸外で管理できます。 マサキの基本的な育て方 用土 Wstockstudio/Shutterstock.com 【地植え】 植え付けの2〜3週間前に直径、深さともに50㎝程度の穴を掘ります。掘り上げた土に腐葉土や堆肥、緩効性肥料などをよく混ぜ込んで、再び植え穴に戻しておきましょう。土に肥料などを混ぜ込んだ後にしばらく時間をおくことで、分解が進んで土が熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。 【鉢植え】 市販の樹木用の培養土を利用すると手軽です。自身で配合土を準備する場合は、赤玉土小粒と腐葉土を等量でブレンドするとよいでしょう。 水やり Afanasiev Andrii/Shutterstock.com 水やりの際は、株が蒸れるのを防ぐために茎葉全体にかけるのではなく、株元の土を狙って与えてください。 真夏に水やりする場合は、気温の高い昼間に与えると、すぐに水の温度が上がって株が弱ってしまうので、朝か夕方の涼しい時間帯に行うことが大切です。 また、真冬は、気温が低くなる夕方に与えると凍結の原因になってしまうので、十分に気温が上がった日中に行うようにしましょう。 【地植え】 根付いた後は下から水が上がってくるのでほとんど不要です。ただし、雨が降らない日が続くようなら水やりをして補います。 【鉢植え】 日頃の水やりを忘れずに管理します。ただし、いつもジメジメとした状態にしておくと、根腐れの原因になってしまいます。土の表面が乾いてから、鉢底から流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。枝葉がしおれそうにだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサイン。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイントです。 肥料 Pawel Beres/Shutterstock.com 【地植え・鉢植えともに】 生育期に入る少し前の2月頃、生育を促すために緩効性化成肥料を株の周囲にまき、周囲の土を軽く耕して土に馴染ませましょう。あまり肥料を多く与えると枝葉が茂りすぎて樹形が乱れやすくなるので、与えすぎには注意してください。 注意する病害虫 Decha Thapanya/Shutterstock.com 【病気】 マサキに発生しやすい病気は、うどんこ病、すす病などです。 うどんこ病は、カビによる伝染性の病気です。葉、新梢、つぼみに発生しやすく、表面が白く粉を吹いたような状態になり、放置するとどんどん広がって光合成ができなくなり、やがて枯死してしまいます。窒素肥料を施しすぎたり、枝葉が繁茂しすぎて風通しが悪くなったりしていると、発病しやすくなります。うどんこ病が出たら病気の葉を摘み取って処分し、適用する殺菌剤を葉の表と裏に散布して、蔓延するのを防ぎましょう。 すす病は、一年を通して葉や枝などに発生する病気です。葉に発生すると表面につやがなくなり、病状が進むと黒いすすが全体を覆っていき、見た目が悪いだけでなく、光合成がうまくできなくなり、樹勢が衰えてしまいます。カイガラムシ、アブラムシ、コナジラミの排泄物が原因ですす病が発生するので、これらの害虫を寄せ付けないようにしましょう。込み合っている枝葉があれば、剪定して日当たり、風通しをよくして管理します。 【害虫】 マサキに発生しやすい害虫は、ミノウスバ、カイガラムシなどです。 ミノウスバはガの一種で、幼虫が葉を旺盛に食害します。クリーム色字に黒い縦縞が多数入り、毛も生えているのが特徴です。老齢になると2cmほどになります。発生時期は3〜5月で、集団発生することがあるので要注意。肌に触れるとかぶれることがあります。見つけ次第補殺するか、適用する殺虫剤を散布して駆除しましょう。 カイガラムシは、ほとんどの庭木に発生しやすい害虫で、体長は2〜10mm。枝や幹などについて吸汁し、だんだんと木を弱らせていきます。また、カイガラムシの排泄物にすす病が発生して二次被害が起きることもあるので注意。硬い殻に覆われており、薬剤の効果があまり期待できないので、ハブラシなどでこすり落として駆除するとよいでしょう。 マサキの詳しい育て方 苗木の選び方 苗木を購入する際は、葉色が鮮やかで、新しい芽がしっかりしているものを選ぶとよいでしょう。 植え付け・植え替え Jurga Jot/Shutterstock.com マサキの植え付け・植え替えの適期は、3月〜4月中旬か、9月下旬〜10月上旬です。 ただし、植え付け適期以外にも苗木は出回っているので、花苗店などで入手したら真夏と真冬を除いて早めに植え付けるとよいでしょう。 【地植え】 土づくりをしておいた場所に、苗の根鉢よりも一回り大きな穴を掘り、根鉢を軽く崩して植え付けます。最後にたっぷりと水を与えましょう。 地植えで育てる場合は、環境に合えば植え替える必要はありません。 【鉢植え】 鉢で栽培する場合は、入手した苗よりも1〜2回り大きな鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから樹木用の培養土を半分くらいまで入れましょう。苗木をポットから取り出し、鉢の中に入れて仮置きして高さを決めたら、少しずつ土を入れて、植え付けていきましょう。水やりの際にすぐあふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3cm下を目安にし、ウォータースペースを取っておいてください。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から水が流れ出すまで、十分に水を与えましょう。 鉢植えで楽しんでいる場合、成長とともに根詰まりして株の勢いが衰えてくるので、1〜2年に1度は植え替えることが大切です。植え替え前に水やりを控えて土が乾いた状態で行うと、作業がしやすくなります。鉢から株を取り出してみて、根が詰まっていたら、根鉢をくずして古い根などを切り取りましょう。根鉢を1/2〜1/3くらいまで小さくして、元の鉢に新しい培養土を使って植え直します。もっと大きく育てたい場合は、元の鉢よりも大きな鉢を準備し、軽く根鉢をくずす程度にして植え替えてください。 剪定 mihalec/Shutterstock.com 剪定の基本 【自然樹形で剪定する場合】 自然樹形を生かして剪定する場合は、真冬と真夏を除けばいつ行ってもかまいません。花や実を楽しみたい場合は、芽吹く前の3月頃に行うとよいでしょう。 マサキは自然に樹形が整うので、若木のうちはあまり刈り込んだり強く切り戻したりする必要はありません。木が大きくなって枝葉が込み合っている部分があれば、不要な枝を枝の付け根で切り取って風通しをよくします。不要な枝とは、古くなった枝、勢いよく伸びすぎている枝、ほかの枝に絡んでいる枝、内側に向かって伸びる枝、下に向かって伸びる枝、ひこばえ(株元から勢いよく伸びる枝)などです。 また、斑入りの品種を育てている場合、斑の入っていない緑の葉を茂らせた枝が出てくることがあります。このような先祖返りした枝は繁殖力が強く、そのままにしておくと斑の入っていない枝のほうが優勢になってしまうため、こうした枝は見つけ次第根元から切り落としましょう。 【生け垣を刈り込む場合】 生け垣にしている場合、マサキは成長が早く形が乱れやすくなるので、年に2回ほど刈り込みます。適期は6月頃と9〜10月です。さぼらずに刈り込むことで、枝葉が密になって充実した生け垣になります。刈り込む際は、だいたいのアウトラインを決めて、はみ出している枝を刈り込みバサミで切り揃えていくとよいでしょう。 庭師に剪定してもらう 家の周囲にぐるりとマサキの生け垣を設けているなど、範囲が広すぎて手に負えない場合は、庭師に依頼するのも一案です。 増やし方 Kunlanan Yarist/Shutterstock.com マサキは挿し木で増やします。挿し木とは、枝を切り取って地面に挿しておくと発根して生育を始める性質を生かして増やす方法です。植物の中には挿し木ができないものもありますが、マサキは挿し木で増やすことが可能です。 マサキの挿し木の適期は、6月頃です。その年に伸びた新しい枝を10〜15cmほどの長さで切り取ります。採取した枝(挿し穂)は、水を張った容器に1時間ほどつけて水あげしておきましょう。その後、吸い上げと蒸散のバランスを取るために下葉を数枚切り取ります。3号くらいの鉢を用意してゴロ土を入れ、新しい培養土を入れて水で十分に湿らせておきます。培養土に穴をあけ、穴に挿し穂を挿して土を押さえてください。発根するまでは明るい日陰に置いて乾燥させないように管理します。その後は日当たりのよい場所に置いて育苗し、大きく育ったら植えたい場所に定植しましょう。挿し木のメリットは、親株とまったく同じ性質を持ったクローンになることです。 観賞用庭木・生け垣に人気のマサキを育てよう マサキは日本に自生してきた植物のため環境に馴染みやすく、放任してもよく育つのでビギナーにもおすすめの庭木です。江戸時代から品種改良がされてきた歴史もあり、カラーリーフも種類を選べます。常緑樹で冬もみずみずしい葉姿を保つため、目隠ししたい場所に植栽するのもおすすめ。庭木として見映えのよいマサキを、庭に迎え入れてはいかがでしょうか。
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ガーデン&ショップ
都立公園を新たな花の魅力で彩る「第3回 東京パークガーデンアワード」都立砧公園で始動
第3回コンテスト会場は「都立砧公園」 芝生が青々とした「みんなのひろば」をはじめ、バラ園、サイクリングコース、‘子供の森’などのエリアがある東京都立砧公園。秋にはイチョウなどの紅葉・黄葉が楽しめる。 2022年に代々木公園から始まった「東京パークガーデンアワード」。第2回の神代植物公園に続き、3回目となる今回は、成城学園、二子玉川など閑静な住宅街からほど近い場所にある都立砧公園(東京都世田谷区)が舞台です。芝生の広場と樹林で構成されたファミリーパークのほか、運動施設や遊具等が設置された広場が整備され、区民みんなに親しまれている公園でコンテストが繰り広げられます。 第3回のテーマは「みんなのガーデン」 今回のコンテストエリアは、‘みんなのひろば’前に広がるスペース。これから育っていく5つのガーデンは公園を訪れる多くの人の目を楽しませてくれることでしょう。 天気のよい休日には、家族連れがお弁当を広げる光景もあちこちで見られ、地域の住民をはじめ、多くの人々に親しまれている砧公園。‘みんなのひろば’前で開催される「第3回 東京パークガーデンアワード」のコンテストテーマは『みんなのガーデン』です。「東京パークガーデンアワード」の目指す“持続可能なロングライフ・ローメンテナンス”であることはもちろん、訪れる人々の五感を刺激し、誰もが見ていて楽しいと感じる要素を取り入れたガーデンであることが求められます。植栽のメインとなる宿根草は、丈夫で長生きすることから、季節ごとの植え替えは行わず、四季ごとに花の彩りがあることも期待されています。 第3回のコンテストガーデン コンテストガーデンが設けられた敷地の平面図。A〜Eの各面積は約40㎡ 。どのエリアでガーデンを制作するかは、2024年10月に抽選により決定しました。 各コンテストガーデンは、高さ40cmの枠に囲まれた中に作られました。子どもたちの目線にも近い高さで、かがまなくても、植物を身近に鑑賞できるのも今回の特徴です。12月作庭前の様子。 今回のガーデンでは、通路を挟んで対に設けられた2つ1組の花壇が5つ連なっています。隣接する‘みんなのひろば’や‘ねむのき広場’からコンテストエリア全体を眺めたり、花壇に挟まれた通路を歩きながら、左右に育つ植物を観賞したりするなど、さまざまな角度からガーデンを堪能することができます。 写真手前の北から奥の南に向けて、A・B・C・D・Eの順に花壇が並ぶ。12月の作庭後の様子。※2025年3月下旬まで、園路の舗装工事のため、コンテストエリアは柵で囲まれています。 2024年12月に行われた第1回作庭。5つのガーデン制作に関わった皆さん。 【第3回 東京パークガーデンアワード in 砧公園 最終審査までのスケジュール】 コンテストに挑戦する5名の入賞者が1年を通してガーデン制作に挑む「東京パークガーデンアワード」。2024年12月中旬に、それぞれの区画で1回目の作庭が完了し、2025年2月下旬に2回目の作庭日が設けられています。その後、4月は春の見頃を迎えた観賞性を審査する『ショーアップ審査』、7月は梅雨を経て猛暑に向けた植栽と耐久性を審査する『サステナブル審査』、11月は秋の見ごろの鑑賞性と年間の管理状況を審査する『サステナブル審査』が行われ、グランプリが決定します。 以下、入賞者決定~審査結果発表までのスケジュール。 【審査基準】公園の景観と調和していること/公園利用者の関心が得られる工夫があること/公園利用者が心地よく感じられること/植物が会場の環境に適応していること/造園技術が高いこと/四季の変化に対応した植物(宿根草など)選びができていること/「持続可能なガーデン」への配慮がなされていること/メンテナンスがしやすいこと/テーマに即しており、デザイナー独自の提案ができていること/総合評価※各審査は別途定める規定に従い、審査委員による採点と協議により行われます。 全国から選ばれた入賞者5名のガーデンコンセプト コンテストのテーマとルールをふまえて制作される5つのガーデン。それぞれのガーデナーが目指す庭を、作者の制作意図や図面、植物リストの一部を紹介しながら、月々の様子を撮影した写真とともにお伝えします。 コンテストガーデンAGathering of Bouquet 〜庭の花束〜 12月の作庭に関わったコンテストガーデンAの皆さん。 【作品のテーマ・制作意図】 皆さんの日常に癒やしや潤いを届けたいという願いを込め、プランツ・ギャザリングの視点で、ガーデンをひとつの大きなブーケに見立ててデザインを構成しました。動物たちが次の訪問者のために心遣いを残していく絵本から着想を得て、あらゆる世代の方が見て触れて、香りなどを楽しめるように、花の形や手触りがおもしろいものを用いた植栽計画をしています。ぜひ手に取って、お気に入りの植物を見つけてください。たくさんの感動や気づきが新たな会話を生み、笑顔になるシーンが増えますように。 【主な植物リスト】 宿根草:エキナセア‘マグナススーペリア’/ペンステモン‘ストリクタス’/アガパンサス‘ピッチュンホワイト’/クラスペディア‘ゴールドスティック’/オルレア・グランディフローラ‘ホワイトレース’ などグラス類:ペニセタム・ビロサム‘銀狐’/メリニス‘サバンナ’/ホルデューム・ジュバタム/カラマグロスティス・ブラキトリカ など低木:コルヌス・ステラピンク/ビルベリー‘ローザスブラッシュ’/ニシキギ・コンパクター/コバノズイナ など球根:チューリップ‘フレーミングピューリシマ’/レウコジャム‘スノーフレーク’/アリウム‘グレイスフルビューティ’ など 12月の様子 コンテストガーデンA Gathering of Bouquet 〜庭の花束〜 12月下旬、作庭後の様子。 コンテストガーデンBCircle of living things 〜おいでよ、みんなのにわへ〜 12月の作庭に関わったコンテストガーデンBの皆さん。 【作品のテーマ・制作意図】 季節によってカラーリングが変化する植物や、実をつけて味わい深い風景を作ってくれる植物に集まる多様な生き物たち。そして各所に配置したサークルネストはそんな生き物たちの拠り所に。命の循環というキーワードをもとに植物だけではなく生きとし生けるものたちの集まる「庭」をテーマにデザインしました。人間だけに限らず、あらゆる生き物たち「みんな」にとっても楽しめる「命を感じられるガーデン」は「みんなのにわ」となり、命を循環させてゆきます。 【主な植物リスト】 宿根草:バプティシア‘ブルーベリーサンデー’/アガスター‘シェゴールデンジュビリー’ /糸葉丁子草/スタキス・オフィシナリス などグラス類:カレックス‘プレーリーファイア’/メリニス‘サバンナ’/ぺニセタム・オリエンターレ など低木:ブルーベリー/イチジク/紫式部 など球根:アリウム各種/チューリップ各種 など 12月の様子 コンテストガーデンB Circle of living things 〜おいでよ、みんなのにわへ〜 12月下旬、作庭後の様子。 コンテストガーデンCLadybugs Table 「てんとう虫たちの食卓」 12月の作庭に関わったコンテストガーデンCの皆さん。 【作品のテーマ・制作意図】 砧公園で暮らす「小さな住人(虫たち)」がこのガーデンを訪れて住みやすいように生態系を意識した植栽のデザインをしています。植栽は、見る場所や角度によって印象が変わるように、カマキリなどの天敵が身を潜められるような複雑さが出るよう工夫しました。植物は、てんとう虫やカマキリの食料となるアブラムシなどが好む「バンカープランツ」や蝶やミツバチたちの蜜源となる植物を植えています。「小さな住人(虫たち)」の生活をそっとのぞき見ることができる場所を目指しています。ここでの小さな体験が、自分の身近な自然環境を考えるきっかけになってもらえたら嬉しいです。 【主な植物リスト】 バンカープランツ:へメロカリス/ユウスゲ/イタリアンパセリ など宿根草:モナルダ・ブリドブリアナ/エキナセア‘メローイエロー’/アスター‘オクトーバースカイ’ などグラス類:スキザキリウム‘ハハトンカ’/ぺニセタム・カシアン/パニカム‘シェナンドア’ など低木:キンカン/アロニア/コバノズイナ など球根:ダッチアイリス‘ブルーマジック’/カマシア/カノコユリ‘ブラックビューティー’ など 12月の様子 コンテストガーデンC Ladybugs Table 「てんとう虫たちの食卓」 12月下旬、作庭後の様子。 コンテストガーデンDKINUTA “One Health” Garden 12月の作庭に関わったコンテストガーデンDの皆さん。 【作品のテーマ・制作意図】 ヒトの健康、生きものの健康、環境の保全を包括的な繋がりとして捉えるワンヘルス (One Health)の概念を軸に、それら3つの主体が密接に関わり合う「ワンヘルスガーデン」をつくります。土壌環境を改善し、植物や微生物を豊かに育て、鳥や虫などの地域の生きものを呼び込む。ガーデンの香りや触れ合いを通し、ヒトの健康と安らぎを生み出すガーデンをつくり、いろいろな生きものがやってくる「みんなのガーデン」を実現します。 【主な植物リスト】 宿根草(蜜源植物):ルドベキア/オミナエシ/モルダナ/アザミ/ガウラ/スミレ/チェリーセージ など宿根草(四季の移ろい):グラス類のフェスツカ/カレックス/イトススキ/フウチソウ/チカラシバ/レモングラス/ミューレンベルギア’カピラリス’ など低木類(鳥類・昆虫類来訪):スモークツリー‘グレース’/ガマズミ/アロニア‘メラノカルパ'’カラーリーフ:カラスバセンリョウ/カリステモン‘リトルジョン’/イリシウム‘フロリダサンシャイン’その他(季節の果実や葉):ビルベリー/コバノギンバイカ/レモンマートル 12月の様子 コンテストガーデンD KINUTA “One Health” Garden 12月下旬、作庭後の様子。 コンテストガーデンE「みんなのガーデン」から「みんなの地球(ほし)」へ 12月の作庭に関わったコンテストガーデンEの皆さん。 【作品のテーマ・制作意図】 私は「みんなのガーデン」を、来園者だけでなく、花を訪れる虫、土壌菌類などの分解者、そして庭の先につながるこの生きた星「地球」の環境といった全ての「生あるもの」をつなげる庭と捉えました。温暖化する東京の気候に合った植物を差別なく組み合わせ、虫や菌たちによる循環系の形成、見るだけでなく庭づくりに参加もできる「みんなのガーデン」。「みんな」が共に助け合いながら、末長く幸せに暮らす世界、生命共存の尊さ・美しさを伝えたい。この想いが、この庭から未来へ・社会へ・地球へと広がっていけば、と考えています。 【主な植物リスト】 宿根草:マンガベ ‘マッチョモカ’/アムソニア ‘ストームクラウド’/アガパンサス ‘ブラックマジック’ /アネモネ トメントーサ/ジンジバー(ミョウガ)斑入り/イリス・エンサタ(ハナショウブ)‘バリエガータ’/パトリニア プンクティフローラ/タリクトラム ‘エリン’ /ユーフォルビア ‘ファイアーグロー’/ユーパトリウム ‘リトルレッド’ などグラス類:カラマグロスティス ‘カールフォースター’/モリニア ‘トランスペアレント’ /アンドロポゴン ‘ブラックホークス’ /スキザキリウム ‘ハハトンカ’ /コルタデリア ‘ミニパンパス’/メリニス ‘サバンナ’/ムーレンベルギア/スティパ/ホルデウム など低木:ネリウム(キョウチクトウ)‘ペティットサーモン’/コルヌス(サンゴミズキ)‘ケッセルリンギィ’/ロロペタルム (トキワマンサク) ‘黒雲’ /ブッドレア・ グロボサ など球根:ナルキッスス(スイセン)タリアなど数種/チューリップ(原種、園芸種含めて多品種)/アリウム (開花期をずらして数種)/イキシア・バビアナ・ワトソニアなどの南アフリカ原産種 など 12月の様子 コンテストガーデンE 「みんなのガーデン」から「みんなの地球(ほし)」へ 12月下旬、作庭後の様子。 5つの花壇のコンセプトについて詳しいレポートはこちらをチェック! コンテストガーデンを見に行こう! Information 都立砧公園「みんなのひろば」前所在地: 東京都世田谷区砧公園1-1電話: 03-3417-0308https://www.tokyo-park.or.jp/park/kinuta/index.html開園時間:常時開園※サービスセンター及び各施設は、年末年始は休業。営業時間等はサービスセンターへお問い合わせ下さい。入園料:無料アクセス:東急田園都市線「用賀」から徒歩20分。または東急コーチバス(美術館行き)「美術館」下車/ 小田急線「千歳船橋」から東急バス(田園調布駅行き)「砧公園緑地入口」下車/小田急線「成城学園前駅」から東急バス(二子玉川駅行き)「区立総合運動場」下車駐車場:有料
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ガーデン
【冬のおしゃれな庭づくり】地植え+鉢植え+花壇+ハンギングで実現! 立体感で魅了する美しい庭
コンテナ、花壇、ハンギング、リースの4重奏の立体ガーデン ここは公道に面したエリアで、道ゆく人の目を楽しませる武島邸のフロントガーデンです。春にはつるバラがフェンスや壁に咲き誇り華やかそのものですが、冬もバラが咲かなくとも彩り豊かで見応えたっぷり。奥行き2mほどの場所ながら、手前から「コンテナ」、「花壇」、「ハンギング」、扉にかけた「リース」というように、さまざまなガーデニング手法を組み合わせ、視線の先を下から上まで花と緑で彩り、冬も華やかなフロントガーデンを実現しています。 冬の庭の素材はパンジー&ビオラなど草丈の低いものが多いため、地植えだけでは視線が下に集中し、庭が平面的な印象になりがち。これらの素材で華やかさを演出するには、いかに「立体感」を出すかがポイントです。武島さんの「コンテナ」、「花壇」、「ハンギング」、「リース」で構成された4重奏の立体ガーデンを詳しく見ていきましょう。 ① 一番手前は石積みの花壇の手前に置いたコンテナ。透明感のある水色のビオラ‘ビビ ヘブンリーブルー’とミニサイズのハボタンを寄せ植えにした奥行き15cmほどの横長のコンテナがズラッと並びます。シンプルな寄せ植えを繰り返し並べることで、花壇の縁がトリムのように彩られ、おしゃれ度アップ。 ② 高さ50cm、奥行き30cmほどの石積みの花壇にはパンジーとシルバーリーフのダスティーミラー、ストックを植栽。ストックは冬の花材の中では草丈が30〜40cmと高く、立体感が出る貴重な植物。甘い香りがするのも魅力です。柔らかなペールトーンでまとめながらも、パンジーに濃い色をプラスしてアクセントに。 ③ ハンギングバスケットの一つは、コンテナの寄せ植えと揃えたビオラ‘ビビ ヘブンリーブルー’の単植。花壇にハンギングスティックを差して飾っています。草丈の低いビオラの花が、目線の高さで堪能できるのがハンギングバスケットの魅力。 もう一つのハンギングバスケットは、アイボリーのガーデンシクラメンやサーモンピンクのパンジー、イエローやシルバーのカラーリーフを用い、ペールトーンでまとめた一鉢。こちらはフェンスにS字フックで引っ掛けています。 ④ 一番目線が高くなる、扉にかけたリースは、ハボタンとワイヤープランツの寄せ植え。リース形の寄せ植えをこのように扉などにかけて垂直に飾る場合は、高低差があまり出ない素材を選んで、ギュッと詰めて植えるのがポイント。隙間があると土がこぼれ落ちてしまいます。 玄関扉の横にはスクエアのコンテナの寄せ植えを。ブルーのパンジー‘シエルブリエ’を囲むようにシルバーや斑入りのリーフをたっぷり使い、冬のイメージを表現した上品な一鉢。コンテナも鉢の高さやプランタースタンドを用いることで、目線を上にコントロールすることができます。 レンガを積んだプランタースタンドにピンクの豪華な寄せ植えを。庭の中のアーチの両側に対になるように設置している。 ガーデンチェアで作る冬の庭のハイライト 庭の中には数カ所にガーデンチェアが置かれており、その背もたれもハンギングバスケットやリースを飾る場所として活用しています。椅子の手前に寄せ植えを、背後にハンギングスティックを使ってハンギングバスケットを配置。ピンク系のパンジー&ビオラでコーディネートし、ここでも下から上まで目線の先を花が彩るように演出しています。 フリル咲きのパンジー、ハボタン、アイビーの3種を使ったリース。 白と黒のコントラストが美しいハンギングバスケットを飾ったチェア。手前に対のハボタンとドドナエアの寄せ植えを置いて。 ハンギングバスケットは地面のない場所でも飾れるのがメリットですが、引っ掛ける場所を必要とします。ガーデンチェアはテラスなどでも手軽にハンギングバスケットが飾れるツールとして活用でき、庭風景にもナチュラルになじむのでおすすめです。 コンテナ+ハンギングの花材を揃えて印象的に バラのアーチの正面は、視線が集まりやすいフォーカルポイントです。武島さんはガーデンシェッドの壁を利用しハンギングバスケットとコンテナをコーディネートし、華やかなシーンを作り出しています。メインの素材となるスキミアとパンジー、ハボタンは両者共通させ、脇役となるリーフ類はスキミアのつぼみの色に合わせつつ、それぞれの鉢の形に合う銅葉を選んでいます。壁を背にして半球状のハンギングバスケットを作る場合は、中央部を高く、コンテナは後方から前方へ草丈を低く作るのがきれいに見えるセオリーです。 コンテナの後方を彩るのはロフォミルタス‘マジックドラゴン’とドドナエア。ハンギングバスケットではヘーベとドドナエアを。 花瓶に飾ったパンジーにも、ハンギングバスケットとコンテナの間をつなぐ効果が。 連続ハンギングバスケット+地植えで作る花咲く小径 細い棒状のハンギングスティックを使い、ハンギングバスケットを連続させた庭の小径。ハンギングスティックは土に差すだけでどこでも手軽にハンギングバスケットが飾れる新しいツールで、細くて目立たず風景の邪魔にならないのも魅力です。ピンクのグラデーションがかわいい大輪のパンジー‘ピーチシェード’を植え、ハンギングも足元の花も揃えて小径を華やかに演出しました。 大輪で華やかなパンジー‘ピーチシェード’。 空中に浮かぶようなハンギングバスケットは、冬枯れの庭で存在感抜群。凝った花の組み合わせにしなくても、花付きのよい種類を選べば1種類でもかわいく仕上がるので、ハンギングバスケット初心者にもおすすめです。 室内から庭を眺める時間も長くなる冬だからこそ、武島さんのようにさまざまな手法を組み合わせて庭を立体的に演出し、冬も美しい庭景色を楽しみたいですね。新しいツールも活用し、まだまだ店頭にたくさん並ぶパンジー&ビオラで新しい冬の庭づくりにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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ガーデン&ショップ
都立公園を花の魅力で彩る画期的コンテスト「第3回 東京パークガーデンアワード 砧公園」全国から選ばれた5人のガーデンコンセプト
第3回会場となる「都立砧公園」 芝生が青々としたみんなの広場をはじめ、バラ園、サイクリングコース、‘子供の森’などのエリアがある。秋にはイチョウなどの紅葉・黄葉が楽しめる。 今回のコンテストの舞台となる都立砧公園は、東京世田谷区の成城学園、二子玉川など閑静な住宅街からほど近い場所にあり、昭和32年4月1日に開園しました。総面積は約39万㎡と広く、戦時中は防空緑地、戦後は都営のゴルフ場として開放されていました。のちにその起伏のある地形を生かして、芝生の広場と樹林で構成されたファミリーパークのほか、運動施設や遊具等が設置された広場が整備され、区民みんなが楽しめる公園です。 コンテストのテーマは「みんなのガーデン」 今回のコンテストエリアの向かいに広がる、‘みんなのひろば’。これから育っていく5つのガーデンは多くの人の目を楽しませてくれることでしょう。 天気のよい休日には、家族連れがお弁当を広げる砧公園。‘みんなのひろば’前で開催される「第3回東京パークガーデンアワード」のコンテストテーマは『みんなのガーデン』です。宿根草をメインとして活用しながら、五感を刺激し、見ていて楽しいと感じる要素を取り入れ、ロングライフ・ローメンテナンスなガーデンが制作されます。多数の応募の中から審査を通過した5名の入賞者が作るのは、それぞれ約40㎡のスペース。土壌改良や植え付けなどの作庭は、2024年12月と2025年2月に行われます。その後、11月の最終審査まで、ガーデナーにより必要に応じてメンテナンスが行われ、3回の審査を経てグランプリが決定します。 「持続可能なロングライフ・ローメンテナンス」であることに加え、審査で見る重要なポイント 2024年に3回行われた「第2回 東京パークガーデンアワード神代植物公園」の審査の様子。2025年の審査員は、福岡孝則(東京農業大学地域環境科学部 教授) 正木 覚(環境デザイナー・まちなか緑化士養成講座 講師) 吉谷桂子(ガーデンデザイナー) 佐々木 珠(東京都建設局公園緑地部長)、植村敦子(公益財団法人東京都公園協会 常務理事) 第3回も「持続可能なロングライフ・ローメンテナンス」であることが外せないルール。丈夫で長生きする宿根草・球根植物(=多年草)を中心に季節ごとの植え替えをせず、季節の花が順繰りに咲かせられることが求められています。 ● 公園の景観と調和していること ● 公園利用者の関心が得られる工夫があること●公園利用者が心地よく感じられること● 植物が会場の環境に適応していること ● 造園技術が高いこと● 四季の変化に対応した植物(宿根草など)選びができていること● 「持続可能なガーデン」への配慮がなされていること● メンテナンスがしやすいこと● テーマに即しており、デザイナー独自の提案ができていること ● 総合評価※各審査は別途定める規定に従い、審査委員による採点と協議により行われます。審査は次の視点からも行われます。 昨夏はかつてない酷暑でしたが、昨今の異常気象を乗り切るために、暑さや乾燥に耐えるもの、繁茂しすぎないものの選定が重要となり、成長して倒れたり蒸れて病害虫が発生したりするなどのダメージを回避するための手入れのテクニックも判定されます。メンテナンスはガーデナーの申請によって行われるのが条件ですが、手入れの頻度(回数)も審査の対象となります。 第2回のガーデン内に設けられた堆肥ヤード(Dガーデン)。 また、手入れの際に発生した剪定枝などは、自身のガーデン内で堆肥化させるなどで処理・循環させる考慮も重要です。ゴミとして焼却すれば二酸化炭素が発生しますが、ガーデン内で微生物に分解されるような仕組みが整えられていれば、二酸化炭素を発生させずに、土壌内微生物を多様化させることができます。 全国から選ばれた5人のガーデンコンセプト どのエリアでガーデンを制作するかを決めるため2024年10月中旬に集合した5名のガーデナー。 コンテストのテーマとルールをふまえて制作するそれぞれのガーデンのコンセプトをご紹介します。 コンテストガーデンAGathering of Bouquet 〜庭の花束〜 【作品のテーマ・制作意図】 皆さんの日常に癒やしや潤いを届けたいという願いを込め、プランツ・ギャザリングの視点で、ガーデンをひとつの大きなブーケに見立ててデザインを構成しました。動物たちが次の訪問者のために心遣いを残していく絵本から着想を得て、あらゆる世代の方が見て触れて、香りなどを楽しめるように、花の形や手触りがおもしろいものを用いた植栽計画をしています。ぜひ手に取って、お気に入りの植物を見つけてください。たくさんの感動や気づきが新たな会話を生み、笑顔になるシーンが増えますように。 【植栽計画について】 フラワーデザインの花束を構成する際に考慮する「自然環境の中で成長している植生本来の姿や形を意識すること」を踏まえ、本計画では草花の形状が持つ役割と全体のバランスに気をつけながら配植計画を作成しました。春のガーデンは、ナチュラルなグリーンとパステルカラーの花を中心にして構成。初夏からぐんぐんと葉の旺盛さが増し、夏のガーデンでは花色が分かりやすい鮮やかな植物を中心に構成しました。晩夏から秋では、庭全体がシードヘッドとグラスが中心になり、ナチュラルの中にどこか秋の上品さを感じられるような植栽計画となっています。 【主な植物リスト】 宿根草:エキナセア‘マグナススーペリア’/ペンステモン‘ストリクタス’/アガパンサス‘ピッチュンホワイト’/クラスペディア‘ゴールドスティック’/オルレア・グランディフローラ‘ホワイトレース’ などグラス類:ペニセタム・ビロサム‘銀狐’/メリニス‘サバンナ’/ホルデューム・ジュバタム/カラマグロスティス・ブラキトリカ など低木:コルヌス・ステラピンク/ビルベリー‘ローザスブラッシュ’/ニシキギ・コンパクター/コバノズイナ など球根:チューリップ‘フレーミングピューリシマ’/レウコジャム‘スノーフレーク’/アリウム‘グレイスフルビューティ’ など コンテストガーデンBCircle of living things 〜おいでよ、みんなのにわへ〜 【作品のテーマ・制作意図】 季節によってカラーリングが変化する植物や、実をつけて味わい深い風景を作ってくれる植物に集まる多様な生き物たち。そして各所に配置したサークルネストはそんな生き物たちの拠り所に。命の循環というキーワードをもとに植物だけではなく生きとし生けるものたちの集まる「庭」をテーマにデザインしました。人間だけに限らず、あらゆる生き物たち「みんな」にとっても楽しめる「命を感じられるガーデン」は「みんなのにわ」となり、命を循環させてゆきます。 【植栽計画について】 互い違いに築山をつくり、背丈の高い植物を配置することにより奥の植栽を目隠しする効果を出しています。S字型に配置した窪みは水捌けだけではなく空気の通り道として。区切られた築山・フラットな部分それぞれにテーマカラーを設定して、その色の花を植栽。眺める場所によって違う印象の風景を作ります。植えるのは草木や花だけでなく、味覚や嗅覚でも楽しめる実のなるものやハーブなど。風や、季節、味わいや集まる命を感じられる庭。人間だけに限らず、生き物たちにとっても楽しめるようなガーデンを考えています。 【主な植物リスト】 宿根草:バプティシア‘ブルーベリーサンデー’/アガスター‘シェゴールデンジュビリー’ /糸葉丁子草/スタキス・オフィシナリス などグラス類:カレックス‘プレーリーファイア’/メリニス‘サバンナ’/ぺニセタム・オリエンターレ など低木:ブルーベリー/イチジク/紫式部 など球根:アリウム各種/チューリップ各種 など コンテストガーデンCLadybugs Table 「てんとう虫たちの食卓」 【作品のテーマ・制作意図】 砧公園で暮らす「小さな住人(虫たち)」がこのガーデンを訪れて住みやすいように生態系を意識した植栽のデザインをしています。植栽は、見る場所や角度によって印象が変わるように、カマキリなどの天敵が身を潜められるような複雑さが出るよう工夫しました。植物は、てんとう虫やカマキリの食料となるアブラムシなどが好む「バンカープランツ」や蝶やミツバチたちの蜜源となる植物を植えています。「小さな住人(虫たち)」の生活をそっとのぞき見ることができる場所を目指しています。ここでの小さな体験が、自分の身近な自然環境を考えるきっかけになってもらえたら嬉しいです。 【植栽計画について】 ガーデンは、敷地に高低差をつけて作業通路と大型のグラスがあるブロック植栽で区切り、4つのマトリックスエリアで構成。1.西日や乾燥に強い植栽エリア、2と3.緩やかなミラーボーダーで蝶々やミツバチの蜜源になる植栽エリア、4.半日陰に強い植栽エリア、とそれぞれ特徴は異なります。見る場所や角度によって印象が変わり、より複雑に見えるような視覚効果があり、春から夏は花数が多くてにぎやかな植栽、秋はグラスをメインとした風情のある植栽となっています。 【主な植物リスト】 バンカープランツ:へメロカリス/ユウスゲ/イタリアンパセリ など宿根草:モナルダ・ブリドブリアナ/エキナセア‘メローイエロー’/アスター‘オクトーバースカイ’ などグラス類:スキザキリウム‘ハハトンカ’/ぺニセタム・カシアン/パニカム‘シェナンドア’ など低木:キンカン/アロニア/コバノズイナ など球根:ダッチアイリス‘ブルーマジック’/カマシア/カノコユリ‘ブラックビューティー’ など コンテストガーデンDKINUTA “One Health” Garden 【作品のテーマ・制作意図】 ヒトの健康、生きものの健康、環境の保全を包括的な繋がりとして捉えるワンヘルス (One Health)の概念を軸に、それら3つの主体が密接に関わり合う「ワンヘルスガーデン」をつくります。土壌環境を改善し、植物や微生物を豊かに育て、鳥や虫などの地域の生きものを呼び込む。ガーデンの香りや触れ合いを通し、ヒトの健康と安らぎを生み出すガーデンをつくり、いろいろな生きものがやってくる「みんなのガーデン」を実現します。 【植栽計画について】 みんなのワンヘルスガーデンにするために、植栽計画は見るだけでなく触れる、香るなど五感で楽しめるハーブやカラーリーフやクラフトの素材などを用い、植物に触れるための仕掛けを散りばめます。また、四季を通じて彩りのある品種やシードヘッドの美しいものも使用し、管理が容易で楽しみながら持続できるガーデンを作ります。 【主な植物リスト】 宿根草(蜜源植物):ルドベキア/オミナエシ/モルダナ/アザミ/ガウラ/スミレ/チェリーセージ など宿根草(四季の移ろい):グラス類のフェスツカ/カレックス/イトススキ/フウチソウ/チカラシバ/レモングラス/ミューレンベルギア’カピラリス’ など低木類(鳥類・昆虫類来訪):スモークツリー‘グレース’/ガマズミ/アロニア‘メラノカルパ'’カラーリーフ:カラスバセンリョウ/カリステモン‘リトルジョン’/イリシウム‘フロリダサンシャイン’その他(季節の果実や葉):ビルベリー/コバノギンバイカ/レモンマートル コンテストガーデンE「みんなのガーデン」から「みんなの地球(ほし)」へ 【作品のテーマ・制作意図】 私は「みんなのガーデン」を、来園者だけでなく、花を訪れる虫、土壌菌類などの分解者、そして庭の先につながるこの生きた星「地球」の環境といった全ての「生あるもの」をつなげる庭と捉えました。温暖化する東京の気候に合った植物を差別なく組み合わせ、虫や菌たちによる循環系の形成、見るだけでなく庭づくりに参加もできる「みんなのガーデン」。「みんな」が共に助け合いながら、末長く幸せに暮らす世界、生命共存の尊さ・美しさを伝えたい。この想いが、この庭から未来へ・社会へ・地球へと広がっていけば、と考えています。 【植栽計画について】] 宿根草やカラーリーフの低木類、球根類を中心に、国籍や古今の流行、有名無名を問わず、植物の多様性や季節変化の諸相を楽しめるバラエティ豊かな植物選びで植栽を構成します。また、蜜蜂や蝶などの昆虫が好んで訪れる蜜源植物や香りのよい植物を積極的に使用し、植物の美観だけでなく、生物が共存する世界の美しさや、嗅覚や聴覚(葉ずれや虫の羽音)、味覚(蜜やハーブへの想像)、触覚(植物のテクスチャーからの連想や肌に触れる風が植物の動きを介して理解される)など、五感で楽しめる植栽表現を目指します。 【主な植物リスト】 宿根草:マンガベ ‘マッチョモカ’/アムソニア ‘ストームクラウド’/アガパンサス ‘ブラックマジック’ /アネモネ トメントーサ/ジンジバー(ミョウガ)斑入り/イリス・エンサタ(ハナショウブ)‘バリエガータ’/パトリニア プンクティフローラ/タリクトラム ‘エリン’ /ユーフォルビア ‘ファイアーグロー’/ユーパトリウム ‘リトルレッド’ などグラス類:カラマグロスティス ‘カールフォースター’/モリニア ‘トランスペアレント’ /アンドロポゴン ‘ブラックホークス’ /スキザキリウム ‘ハハトンカ’ /コルタデリア ‘ミニパンパス’/メリニス ‘サバンナ’/ムーレンベルギア/スティパ/ホルデウム など低木:ネリウム(キョウチクトウ)‘ペティットサーモン’/コルヌス(サンゴミズキ)‘ケッセルリンギィ’/ロロペタルム (トキワマンサク) ‘黒雲’ /ブッドレア・ グロボサ など球根:ナルキッスス(スイセン)タリアなど数種/チューリップ(原種、園芸種含めて多品種)/アリウム (開花期をずらして数種)/イキシア・バビアナ・ワトソニアなどの南アフリカ原産種 など コンテストガーデンを見に行こう! Information 都立砧公園「みんなのひろば」前所在地: 東京都世田谷区砧公園1-1電話: 03-3417-0308https://www.tokyo-park.or.jp/park/kinuta/index.html開園時間:常時開園※サービスセンター及び各施設は、年末年始は休業。営業時間等はサービスセンターへお問い合わせ下さい。入園料:無料アクセス:東急田園都市線「用賀」から徒歩20分。または東急コーチバス(美術館行き)「美術館」下車/ 小田急線「千歳船橋」から東急バス(田園調布駅行き)「砧公園緑地入口」下車/小田急線「成城学園前駅」から東急バス(二子玉川駅行き)「区立総合運動場」下車駐車場:有料
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宿根草・多年草
フクジュソウは春を告げる縁起のよい花! 育て方のポイントや増やし方を解説
フクジュソウの基本情報 HikoPhotography/Shutterstock.com 植物名:フクジュソウ学名:Adonis ramosa英名:Far East Amur adonis、Amur adonis、Pheasant's eye和名:フクジュソウ(福寿草)その他の名前:元日草、元旦草、朔日草、エダウチフクジュソウなど科名:キンポウゲ科属名:フクジュソウ属原産地:北海道~本州形態:宿根草(多年草) フクジュソウの学名は、Adonis ramosa(アドニス・ラモサ)。キンポウゲ科フクジュソウ属の多年草です。原産地は日本で、主に山野に自生してきた植物です。漢字では「福寿草」と書き、縁起のよい名前からお正月に飾る花として昔から人気を集めてきました。そのため12月頃から鉢植えの開花株が出回りますが、これらはお正月に合わせて咲くよう開花調整したもので、自然の環境下での開花期は2〜4月です。寒さに強く、早春から開花した後は、夏前に地上部を枯らして休眠します。草丈は20〜30cmです。 フクジュソウの花や葉の特徴 YUMIK/Shutterstock.com 園芸分類:草花開花時期:2〜4月草丈:20〜30cm耐寒性:普通耐暑性:普通花色:黄、クリーム色 フクジュソウの開花期は2~4月です。花色は黄色が基本ですが、赤や緑の花色の品種も生まれています。地面から花茎を伸ばした頂部に、3cmほどの花を咲かせます。花や葉などは太陽の動きに合わせて向きを変える性質を持ち、夜間や曇りの日は花弁を閉じます。したがって、開花期は日当たりのよい場所で管理するのがポイントです。葉は羽状複葉で互生につきます。 フクジュソウの名前の由来や花言葉 Yukikazu/Shutterstock.com 早春からほかの植物に先駆けて花を咲かせるため、春を告げるという意味で「フクツグソウ(福告ぐ草)」と名付けられ、語路の悪さからフクジュソウ(福寿草)になったとされています。別名のガンジツソウ(元日草)やツイタチソウ(朔日草)は、旧暦の正月頃に咲くことが由来です。 フクジュソウの花言葉は、「幸せを招く」「永久の幸福」など。縁起がよいので贈り物にもいいですね。 日本のフクジュソウは4種類 フクジュソウ(アドニス・ラモサ)。YUMIK/Shutterstock.com フクジュソウは多くの園芸品種が出回っていますが、日本に自生しているのは、フクジュソウ、キタミフクジュソウ、ミチノクフクジュソウ、シコクフクジュソウの4種類。ここでは日本に自生する4種のフクジュソウについて、フクジュソウ以外の特徴をガイドします。 キタミフクジュソウ Konstantin Baidin/Shutterstock.com 北海道の北東、シベリア東部、中国に自生。萼片が花弁とほぼ同じ長さかやや長く、赤紫色を帯びるのが特徴です。1茎の頂部に1つずつ花を咲かせます。フクジュソウの葉はほぼ無毛ですが、キタミフクジュソウは葉裏に毛が密生しています。茎は中実。 ミチノクフクジュソウ goriyan/Shutterstock.com 東北から九州、朝鮮半島、中国に自生。萼片が花弁よりも短く、淡い色をしているのが特徴です。1本の茎から分枝して多数の花が咲くタイプもあります。葉裏はわずかに産毛があり、茎毛があります。茎は中空。 シコクフクジュソウ shiro_ring/Shutterstock.com 本州、四国、九州の一部に自生。萼片が花弁とほぼ同じ長さかやや短いのが特徴です。1本の花茎の先端に一つの花が咲くか、または分枝して多数の花をつけます。葉裏は無毛で、茎は中空。 フクジュソウの栽培12カ月カレンダー 開花時期:2〜4月植え付け・植え替え:10〜11月肥料:1〜5月種まき 5月頃 フクジュソウの栽培環境 High Mountain/Shutterstock.com 【日当たり/屋外】フクジュソウは落葉樹の株元などで自生するので、落葉樹がまだ芽吹く前の開花時期は日当たりがよく、木々が芽吹く頃からは半日陰になる環境を好みます。梅雨前には地上部がなくなって休眠し、休眠期間中の日照は必要ありません。 【日当たり/屋内】一年を通して屋外での栽培が基本です。ただし、鉢が凍結する恐れのある寒冷地では、鉢植えの場合は室内に取り込んだほうが無難です。 【置き場所】庭植えにする場合は落葉樹の下が最適。鉢栽培にする場合は落葉樹の休眠期は日なたで、生育期は半日陰で管理することがポイントです。休眠期間中は涼しい場所で管理しましょう。 耐寒性・耐暑性 寒さに強く、マイナス10℃程度であれば地植えでも越冬し、特に防寒対策なども必要ありません。ただし、乾燥や凍結には弱いので注意しましょう。積雪があれば地面は保温されるため凍結の心配はありません。暑さにはやや弱いので、休眠期である夏は涼しい場所で管理します。 フクジュソウの育て方のポイント 用土 funnyangel/Shutterstock.com 【地植え】 植え付けの約2週間前に腐葉土や堆肥、緩効性肥料を混ぜ込んで、よく耕してください。土に肥料などを混ぜ込んだ後にしばらく時間をおくことで、分解が進んで土が熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。 【鉢植え】 市販の山野草用の培養土を利用すると手軽です。 水やり Zoom Team/Shutterstock.com 水やりの際は、株が蒸れるのを防ぐために茎葉全体にかけるのではなく、株元の地面を狙って与えてください。 真夏は、気温が高い昼間に行うと、すぐに水の温度が上がってぬるま湯のようになり、株が弱ってしまうので、朝か夕方の涼しい時間帯に行うことが大切です。 また、真冬は、気温が低くなる夕方に与えると凍結の原因になってしまうので、十分に気温が上がった真昼に与えるようにしましょう。 【地植え】 根付いた後は、下から水が上がってくるのでほとんど不要です。ただし、雨が降らない日が続くようなら水やりをして補います。 【鉢植え】 日頃の水やりを忘れずに管理しましょう。特に、地上部が枯れる休眠期は水やりを忘れがちなので、乾燥させることのないように、適宜水やりを続けてください。ただし、休眠期はあまり水を必要とせず、また植物の様子も分かりにくいので、過湿にしすぎて枯らさないように注意しましょう。いつもジメジメとした状態にしておくと、根腐れの原因になってしまいます。水やりの基本は、土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまでたっぷりと。茎葉がしおれそうにだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサインです。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイントです。 肥料 Sarycheva Olesia/Shutterstock.com 【地植え・鉢植えともに】 元肥として緩効性肥料を施した後は、越年して新芽が動き始めた頃から地上部が枯れるまで、1週間に1度を目安に液体肥料を与えます。フクジュソウは休眠期が長いため、生育期間中にしっかりと太らせるのが栽培のコツです。 注意する病害虫 POOJA SAINI/Shutterstock.com 【病気】 フクジュソウが発症しやすい病気は、白絹病、灰色かび病などです。 白絹病はカビが原因の周囲に伝染しやすい病気です。根や茎に発生しやすく、発症初期は地際あたりに褐色の斑点が見つかります。病状が進むと株元の土に白いカビがはびこり、やがて株は枯れてしまうので注意が必要。病株を発見したら、周囲に蔓延させないためにただちに抜き取り、土ごと処分してください。土づくりの際に、水はけのよい環境に整えることが予防につながります。 灰色かび病は花や葉に発生しやすく、褐色の斑点ができて灰色のカビが広がっていきます。気温が20℃ほどで、多湿の環境下にて発生しやすい病気です。ボトリチス病、ボト病などとも呼ばれています。風通しが悪く込み合っていたり、終わった花や枯れ葉を放置していたりすると発生しやすくなるので注意。花がらをこまめに摘み取り、茎葉が込み合っている場合は、間引いて風通しよく管理しましょう。 【害虫】 フクジュソウに発生しやすい害虫は、ナメクジ、アブラムシなどです。 ナメクジは花やつぼみ、新芽、新葉などを食害します。体長は40〜50mmで、頭にツノが2つあり、茶色でぬらぬらとした粘液に覆われているのが特徴。昼間は鉢底や落ち葉の底などに潜んで姿を現しませんが、夜に活動します。植物に粘液がついた痕があれば、ナメクジの疑いがあるので夜にパトロールして捕殺してください。不可能な場合は、ナメクジ用の駆除剤を利用して防除してもよいでしょう。多湿を好むので風通しをよくし、落ち葉などは整理して清潔に保っておきます。 アブラムシは、3月頃から発生しやすくなります。2〜4mmの小さな虫で繁殖力が大変強く、発生すると茎葉にびっしりとついて吸汁し、株を弱らせるとともにウイルス病を媒介することにもなってしまいます。見た目もよくないので、発生初期に見つけ次第こすり落としたり、水ではじいたりして防除しましょう。虫が苦手な方は、スプレータイプの薬剤を散布して退治するか、植え付け時に土に混ぜ込んで防除するアブラムシ用の粒状薬剤を利用するのがおすすめです。 フクジュソウの詳しい育て方 苗の選び方 フクジュソウの苗を購入する際は、なるべく芽のしっかりした大きめの株で、節間ががっしりと締まって勢いのあるものを選びます。葉が傷んでいるものや、ヒョロヒョロと間のびしているものは避けたほうが無難です。またお正月の鉢花として人気のフクジュソウは、12月頃にはさまざまな場所で苗が販売されますが、こうした苗は促成栽培で育てられ、根が切られているものも多いため、その後の成長がよくない場合もあり、注意が必要です。地掘り苗なら根が大きいものを選ぶとよいでしょう。 植え付け・植え替え Vlyaks/Shutterstock.com フクジュソウの植え付け適期は、10〜11月です。ただし、植え付け適期以外に花苗店などで入手した場合は、早めに植え付けるとよいでしょう。 【地植え】 土づくりをしておいた場所に、苗の根鉢よりも一回り大きな穴を掘り、軽く根鉢をほぐして植え付けます。最後にたっぷりと水を与えましょう。複数の苗を植える場合は、20〜30cmくらいの間隔を取ってください。 庭で育てている場合、環境に合えば植え替える必要はありません。しかし、大株になると込み合いすぎて弱ってくることがあるので、その際は掘り上げて株分けし、植え直しましょう。 【鉢植え】 鉢で栽培する場合は、6〜7号の鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから山野草用の培養土を半分くらいまで入れましょう。苗をポットから取り出し、根鉢をくずさずに鉢の中に入れて仮置きして高さを決めます。少しずつ土を入れて、植え付けていきましょう。水やりの際にすぐ水があふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3cm下を目安にし、ウォータースペースを取っておいてください。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から流れ出すまで、十分に水を与えましょう。 鉢植えで楽しんでいる場合、2年に1度は植え替えましょう。植え替え前に水やりを控えて土が乾いた状態で行うと、作業がしやすくなります。鉢から株を取り出してみて、根が詰まっていたら、根鉢を軽くくずし、元の鉢に新しい培養土を使って植え直します。根を切り詰めすぎずに、丁寧に扱うことがポイントです。もっと大きく育てたい場合は、それまで育てていた鉢よりも大きい号数の鉢を準備し、根鉢をくずさずに植え替えるとよいでしょう。 日常のお手入れ marekuliasz/Shutterstock.com 【花がら摘み】 フクジュソウの終わった花は早めに摘み取りましょう。まめに花がらを摘んで株まわりを清潔に保つことで、病害虫発生の抑制につながります。また、いつまでも終わった花を残しておくと、種子をつけようとして株が消耗し、老化が早まって花数が少なくなってしまうので注意。花がらをまめに摘み取ると、次世代を残そうとして次から次に花がつき、長く咲き続けてくれます。種子を採取したい場合は、開花期が終わりを迎える頃に花がら摘みをやめて、種子をつけさせるとよいでしょう。 増やし方 Kunlanan Yarist/Shutterstock.com フクジュソウは、株分け、種まきで増やすことが可能です。それぞれの方法についてご紹介します。 【株分け】 フクジュソウの株分け適期は10〜11月です。株を植え付けて数年が経ち、大きく育ったら株の老化が進むので、「株分け」をして若返りを図ります。株を掘り上げて数芽ずつつけて根を切り分け、再び植え直しましょう。あまり小分けにしない方が無難です。それらの株が再び大きく成長し、同じ姿の株が増えていきます。 【種まき】 フクジュソウは開花後に結実するので、そのタイミングで果実を採取します。果実を採取したら、間を置かずにすぐに播きましょう。ポットに新しい培養土を入れて十分に水で湿らせ、フクジュソウの種子をそのまま数粒播きます。種子は腐りやすいので1週間ほどは土をかぶせないことがポイント。その後に薄く覆土して明るい日陰で管理。越年して春の生育期を迎えると発芽するので、その後は日当たりのよい場所に置きましょう。本葉が2〜3枚ついたら勢いのある苗を1本のみ残し、ほかは間引いて育苗します。ポットに根が回るまでに成長したら、植えたい場所に定植しましょう。種まきから4〜5年すると開花し始めるので、それまでは株の育成に努めます。 フクジュソウは毒成分に注意 shepherdsatellite/Shutterstock.com フクジュソウの根茎は生薬として使われることがありますが、全草に毒成分を含み、毒性が強いので、一般家庭では利用しないでください。芽がフキノトウと似ているため、間違って誤食するケースも多いようです。誤食すると、嘔吐、呼吸困難、心臓麻痺などの強い症状が現れるので注意。「強心によい」という話を参考に根茎を煎じて飲み、死亡した例も報告されています。 フクジュソウとフキノトウの違い 左がフクジュソウ、右がフキノトウ。Shinshu、Ken Kojima/Shutterstock.com 早春が旬のフキノトウと、毒をもつフクジュソウは、芽出しの頃の姿が似ているので、誤食は避けたいもの。ここで、両者の見分け方をご紹介しましょう。フキノトウはキク科のフキのつぼみで、出蕾した時は産毛があって白っぽく見え、強い香りをもっています。フキノトウにも毒成分が含まれているので、食べる際にはあく抜きが必要です。 一方、フクジュソウの芽は茶色~緑色で、綿毛がなく光沢があるのが見分けるポイント。フキノトウより小さくてやわらかく、やや弱い香りをもちます。全草に毒があるので、誤食に注意しましょう。 フクジュソウを育てて春の訪れを楽しもう Naohisa goto/Shutterstock.com 黄色い花を咲かせるフクジュソウは、縁起のよい植物として大変人気があります。早春に咲くことから、いち早く春の訪れを感じられることができるので、庭やベランダに取り入れて、季節感を演出してはいかがでしょうか。
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ガーデン
【画期的!】庭中に浮かぶパンジー&ビオラ?!新ガーデンツールで変わる冬の庭景色
冬はハンギングバスケット作りにベストな季節 濃いパープルに覆輪が入るパンジー‘横浜セレクション フレアブルー’やハボタン、ネメシアなどを組み合わせたシックなハンギングを玄関前に。 「パンジー&ビオラは毎年、目が釘付けになるような魅惑的な花色が登場するので、創作意欲がかきたてられます」と話すのは、武島由美子さん。ハンギングバスケット協会の理事を務め、これまでたくさんの生徒を育成してきたハンギングバスケットの達人です。 クリスマスを演出した庭へ続くレンガの小径。ガーデンシェッドの壁にもハンギングバスケットを。 ハンギングバスケットとは、植物を立体的に楽しむガーデニング手法の1つで、球体や半円状の容器に植物を植え込み、チェーンやフックを使って吊して飾ります。地面を使わず、玄関先やベランダなど狭い空間も華やかに彩ることができるのが魅力。彩りが寂しくなりがちな冬でも、武島さんの庭ではそこここでパンジー&ビオラのハンギングバスケットが華やかです。 パンジー‘シエルブリエ’を使ったハンギングバスケット。雪をイメージさせるシルバーリーフやイベリスとともに。 「冬の花の代表、パンジー&ビオラはユニークで素敵な色合いが豊富ですが、草丈が低いので、庭植えにするとせっかくのかわいい花が目立たなくなってしまいます。でも、ハンギングバスケットなら目線の高さで花の美しさを強調することができるんです」(武島さん) スキミアやパンジー、ハボタンなどを組み合わせたコンテナとハンギングバスケットをコーディネート。 ハンギングバスケットは鉢植えと異なり、目線やそれ以上の高さに飾れるため、まるで絵画を眺めるように花を堪能できるのが魅力。ハンギングバスケットに加えて、寄せ植えのコンテナを組み合わせれば、さらに華やかな演出も楽しめます。ただし、ハンギングバスケットは引っ掛けるための頑丈な場所が必要になるため、これまでは飾れる場所が限られていました。 庭のどこにでもハンギングバスケットが飾れる「ハンギングスティック」 パンジー&ビオラのハンギングバスケットが連続し、バラのスタンダード仕立てのようなフォーマルな雰囲気も新鮮。 「でも、今年からはハンギングスティックという新たなツールの登場で、庭のどこでもハンギングが楽しめるようになりました。ハンギングスティックは支柱のような直径1.5cmほどの細い棒状で、目立たないのでハンギングの花がすごく映えるんです。シンプルな作りなのに、丈夫で重さのあるバスケットもしっかり支えてくれ、とても気に入っています」(武島さん) ハンギングスティックは二股になった下部30cmを土に差し、上部の丸い穴にフックでハンギングバスケットを吊り下げて飾ります。庭はもちろん、深さが30cm以上あるコンテナにも使用可能で、どこでも簡単にハンギングバスケットが楽しめる画期的なツールとして、2024JHBS(日本ハンギングバスケット協会)新器材・装飾アイデアコンテスト金賞を受賞しました。 高さ違いのハンギングスティックでリズミカルに小径を彩って。 まるで花が浮かぶように空中を彩るハンギングバスケット。さまざまな植物を組み合わせるハンギングバスケットは作るのにコツが必要ですが、パンジー&ビオラ1種だけに絞ってもこんなに華やか。ハンギングスティックを使えば複数のハンギング鉢を連続して飾ることもでき、これまでにはなかった見応えのある冬の庭景色が作れます。 「庭のような広い空間に連続して飾るときは、パンジーやビオラ1種類だけのほうが印象的かもしれません。昔からある品種ですが、透明感のあるブルーのビオラ‘ビビ ヘブンリーブルー’は、冬中花上がりが素晴らしくおすすめ。大輪の‘ピーチシェード’も庭のなかでよく目立ちます。どちらも手に入りやすい品種なのもいいですね」(武島さん)。 左/パンジー‘ピーチシェード’。右/ビオラ ‘ビビ ヘブンリーブルー’。 奥行き30cm程度の花壇でもハンギングスティックが活躍。 ハンギングバスケットは、空間を彩り豊かに演出し、季節感や創造性を楽しむガーデニングテクニックです。設置する場所や植物の選び方で個性を発揮でき、手入れをしながら植物の成長を見守る喜びも得られます。ハンギングスティックのような便利なツールも活用し、新しい冬のガーデンづくりを楽しんでみてはいかがでしょうか?
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果樹
ボケは早春に咲く美しい花が魅力! 育て方のポイントや花言葉を解説
ボケの基本情報 CoinUp/Shutterstock.com 植物名:ボケ学名:Chaenomeles speciosa英名:flowering quince、Chinese quince、Japanese quince和名:ボケ(木瓜)その他の名前:カラボケ(唐木瓜)科名:バラ科属名:ボケ属原産地:中国形態:落葉性低木 ボケはバラ科ボケ属の花木です。学名はChaenomeles speciosa(チェノメレス・スペシオサ)。原産地は中国で、暑さや寒さに強く一年を通して戸外で栽培できます。樹高は2〜3mの低木で管理しやすいですが、トゲを持っているので剪定などの際はガーデングローブを着用するなど、ケガをしないよう注意が必要です。ボケは開花後に10cm前後の楕円形の果実がつき、香りがよいので果実酒やジャムにも利用可能。落葉樹で、冬は葉を落として越冬します。トゲがあり、密に茂るので、侵入防止の生け垣としても利用されています。 crystaldream/Shutterstock.com 日本には平安時代に伝わったとされ、庭木や盆栽、生け垣、切り花として多様に利用されてきました。江戸時代には開花期の長い淀ボケや花弁が多数重なる八重ボケなどの品種が存在し、さらに20世紀に入ると愛好家が増えたため多数の品種が生まれるに至っています。 ボケの花や葉の特徴 Robert Buchel/Shutterstock.com 園芸分類:庭木開花時期:3月中旬~5月上旬樹高:2〜3m耐寒性:強い耐暑性:強い花色:白、赤、ピンク、オレンジ、複色など ボケの花の時期は3月中旬~5月上旬。品種によって花が咲く時期が異なり、特に冬の寒い時期から咲くものを「寒咲き」と呼んでいます。葉が展開する前に花が咲き始め、花色は白、赤、ピンク、オレンジ、複色など。基本は直径2〜5cmほどの5弁花で、花弁は先が丸く優しい印象。半八重咲き、八重咲き種もあります。品種によって、花の色や形はバラエティーに富んでおり、選ぶ楽しみがあります。 葉は長さ3~9cm程度で、卵形~楕円形、縁には鋸歯があります。枝にはトゲがあるものとないものがあります。 ボケの名前の由来と花言葉 gardenia68/Shutterstock.com 和名のボケは中国名の「木瓜(ボクカ、モクケ、モケ)」が転じたものとされています。果実の形がウリに似ているため、木に実るウリとして「木瓜」の漢字があてられ、その音読みから「モケ」、それがボケに変わったとする説があります。別名はカラボケ(唐木瓜)。 haraldmuc/Shutterstock.com ボケの花言葉は「先駆者」「早熟」「平凡」「熱情」など。「先駆者」「早熟」は中国での呼び名「放春花(ファンチェンファ)」に由来し、この名は「いち早く春を告げる花」「どの花よりも先に春の香りを漂わせる花」という意味です。ボケの花は戦国武将の織田信長の家紋になっており、「先駆者」や「熱情」はカリスマ性のある統率力で戦国時代に名を馳せた織田信長をイメージさせる言葉です。「平凡」は生垣としてポピュラーに利用されていることや、成長しても2~3mとあまり大きくならず、小さな庭に向いていることが由来のようです。 ボケの名前は憎まれ口の「ボケ」と同音異義語にあたるので、悪いイメージを持たれることがありますが、花言葉がよく、春にいち早く華やかな赤と白の紅白の花をつける花木として、縁起がよいとされています。贈り物にする際には、誤解を招かないようにメッセージや花言葉を添えて想いを伝えるとよいでしょう。 ボケの品種や近縁の仲間 ikwc_exps/Shutterstock.com ボケは愛好家が多いだけに品種改良が進んでおり、その数は200種を超えています。大輪一重咲きで赤、白、白地に赤の絞りと、1本でさまざまな花色がみられる‘東洋錦’、同じく大輪一重咲きでピンクの地色に紅色または白の絞りが入って咲き分ける‘高根錦’、早咲きで優しいパステルピンクの花を咲かせる‘ゆめ’、遅咲きで上品なオレンジ色の巨大輪八重咲きの‘世界一’、発色の美しい赤の大輪一重咲き‘緋の御旗’などがあります。 ボケの近縁の仲間には、カリンやクサボケがあります。カリンはボケ属の中高木で、カリン属に分けられることもあります。赤色の花の後に実る、黄色く硬い果実には咳止め効果があるとされ、カリン酒などに利用されています。クサボケは日本固有種で、中国でも栽培されています。全体に小型で、山野の日当たりのよい斜面などに自生し、地面を這うように枝を伸ばします。ボケの園芸品種にはクサボケとの交配種も多くあります。 カリンの実。Hyejin Kang/Shutterstock.com ボケの実は漢方薬に使われている ElenVik/Shutterstock.com ボケの果実は径10cm前後の楕円形です。10月頃には黄色く熟し、果実の硬さや芳香は同じボケ属のカリンに似ており、苦みや酸味が強いため生のままでは食べられませんが、果実酒やジャムなどに加工できます。また、この果実を乾燥させたものは木瓜(もっか)という生薬になります。 ボケの栽培12カ月カレンダー 開花時期:3月中旬~5月上旬植え付け・植え替え:10〜11月肥料:1〜2月剪定:12月頃 ボケの栽培環境 crystaldream/Shutterstock.com 日当たり・置き場所 【日当たり/屋外】日当たりと風通しがよい場所を好みます。半日陰の環境でも育ちますが、日当たりが悪く暗い場所では、花つきが悪くなり、枝葉が間伸びして徒長してしまうので注意してください。 【日当たり/屋内】一年を通して屋外での栽培が基本です。 【置き場所】低木ではありますが、株立ちタイプで横に広がりやすいので、広めの場所を確保しておくとよいでしょう。トゲを持っているので、頻繁に人が出入りする場所の近くには不向きです。また、水もちがよく腐植質に富んだ土壌を好みます。乾燥する時期は、根元にバークチップなどでマルチングをしておくとよいでしょう。 耐寒性・耐暑性 日本の気候に馴染みやすく、暑さ寒さに耐えるので、一年を通して戸外で管理でき、夏越し・冬越し対策などは特に必要ありません。 ボケの育て方のポイント 用土 funnyangel/Shutterstock.com 【地植え】 まず一年を通して日当たり、風通しのよい場所を選びましょう。植え付けの2〜3週間前に直径、深さともに50㎝程度の穴を掘ります。掘り上げた土に腐葉土や堆肥、緩効性肥料などをよく混ぜ込んで、再び植え穴に戻しておきましょう。土に肥料などを混ぜ込んだ後にしばらく時間をおくことで、分解が進んで土が熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。 【鉢植え】 市販の花木用培養土を利用すると手軽です。 水やり Afanasiev Andrii/Shutterstock.com 水やりの際は、株が蒸れるのを防ぐために枝葉全体にかけるのではなく、株元の地面を狙って与えてください。 真夏は、気温の高い昼間に与えると、すぐに水の温度が上がって木が弱ってしまうので、朝か夕方の涼しい時間帯に行うことが大切です。 また、真冬は、気温が低くなる夕方に与えると凍結の原因になってしまうので、十分に気温が上がった真昼に行うようにしましょう。 【地植え】 植え付け後にしっかり根づいて枝葉をぐんぐん伸ばすようになるまでは、乾いたら水やりをしましょう。根づいた後は下から水が上がってくるので、ほとんど不要です。ただしボケは乾燥を苦手とするので、真夏に晴天が続いて乾燥している場合は水やりをして補いましょう。 【鉢植え】 日頃から水やりを忘れずに管理します。ただし、いつも湿った状態にしていると根腐れの原因になるので、与えすぎに注意。土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。枝葉がややだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサインです。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイント。特に真夏は高温によって乾燥しやすくなるため、朝夕2回の水やりを欠かさないように注意します。冬は休眠し、表土も乾きにくくなるので控えめに与えるとよいでしょう。 肥料 New Africa/Shutterstock.com 【地植え】 1〜2月に緩効性肥料を与え、土によくなじませましょう。生育期を迎える前に肥料を与えることで、新芽を出すエネルギーとなり旺盛に枝葉を広げることにつながります。 【鉢植え】 1〜2月に緩効性肥料を与え、土によくなじませましょう。生育期を迎える前に肥料を与えることで、新芽を出すエネルギーとなり旺盛に枝葉を広げることにつながります。また、開花後の4〜5月にお礼肥として緩効性肥料を与えます。忘れずに与えて、開花によって消耗した木の体力回復を促してあげましょう。さらには木が充実する10月頃にも緩効性肥料を与えます。 注意する病害虫 Decha Thapanya/Shutterstock.com 【病気】 ボケに発生しやすい病気はうどんこ病、黒星病などです。 うどんこ病は、カビによる伝染性の病気です。葉、新梢、つぼみに発生しやすく、表面が白く粉を吹いたような状態になり、放置するとどんどん広がって光合成ができなくなり、やがて枯死してしまいます。窒素肥料を施しすぎたり、枝葉が繁茂しすぎて風通しが悪くなったりしていると、発病しやすくなります。うどんこ病が出たら病気の葉を摘み取って処分し、適用のある殺菌剤を葉の表と裏に散布して、蔓延するのを防ぎましょう。 黒星病は、カビによる伝染性の病気です。雨が多い18〜20℃の環境を好むため5〜7月に発症しやすく、葉、枝、果実に被害が現れます。黒っぽくて丸い斑点が全体に広がっていくのが特徴です。日当たり、風通しが悪いと発病しやすくなるので、込み合っている枝などはすかすように剪定して発生を防ぎましょう。病気にかかった後に剪定した枝や落ち葉は、地中に残らないように処分することも大切です。また、適用のある殺菌剤を葉の表と裏に散布して防除します。 【害虫】 ボケに発生しやすい害虫は、アブラムシ、カイガラムシなどです。 アブラムシは、3月頃から発生しやすくなります。2〜4mmの小さな虫で繁殖力が大変強く、茎葉にびっしりとついて吸汁し、株を弱らせるとともにウイルス病を媒介することにもなってしまいます。見た目もよくないので、発生初期に見つけ次第こすり落としたり、水ではじいたりして防除しましょう。虫が苦手な方は、スプレータイプの薬剤を散布して退治するか、植え付け時に土に混ぜ込んで防除するアブラムシ用の粒状薬剤を利用するのがおすすめです。 カイガラムシは、ほとんどの庭木に発生しやすい害虫で、体長は2〜10mm。枝や幹などについて吸汁し、だんだんと木を弱らせていきます。また、カイガラムシの排泄物にすす病が発生して二次被害が起きることもあるので注意。硬い殻に覆われており、薬剤の効果があまり期待できないので、ハブラシなどでこすり落として駆除するとよいでしょう。 ボケの詳しい育て方 苗の選び方 ボケは接ぎ木苗だと台木の性質が現れてしまうことがあるため、挿し木苗から栽培するのが一般的です。ヒョロヒョロと徒長したものや病害虫の痕があるものは避け、幹が太くぐらつきがないもの、葉に枯れや変色がなく、元気のよいものを選ぶとよいでしょう。 植え付け wavebreakmedia/Shutterstock.com ボケの植え付け適期は10〜11月です。ただし、花苗店などでは植え付け適期以外でも苗木が出回っていることがあります。入手したら、真夏や真冬を除き、植えたい場所へ早めに定植しましょう。 【地植え】 土づくりをしておいた場所に、苗の根鉢よりも一回り大きな穴を掘って、根を傷めないように植え付けます。苗木がぐらつくようであれば、しっかり根付くまでは支柱を設置してビニールタイや麻ひもなどで誘引し、倒伏を防ぎましょう。最後にたっぷりと水を与えます。 環境に合って順調に育っているようであれば、植え替えの必要はありません。 【鉢植え】 鉢で栽培する場合は、入手した苗木よりも1〜2回り大きな鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから花木用の培養土を半分くらいまで入れましょう。苗木は根鉢をあまりくずさずに鉢に仮置きし、高さを決めたら、少しずつ培養土を入れて植え付けます。水やりの際にすぐあふれ出さないように、土の量は鉢縁から2〜3cm下を目安にし、ウォータースペースを取るとよいでしょう。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から流れ出すまで、十分に水を与えましょう。 鉢植えで楽しむ場合は、成長とともに根詰まりしてくるので、2〜3年に1度は植え替えることが大切です。植え替え前に水やりを控えて土が乾いた状態で行うと、作業がしやすくなります。鉢から株を取り出して軽く根鉢をくずし、古い根はカットして新しい培養土を使って植え直しましょう。 剪定 Kabar/Shutterstock.com ボケは樹形が乱れやすいので、定期的に剪定をしてコンパクトな姿を保ちましょう。 ボケは8月頃に花芽分化し、11月頃に花芽がついて視認できるようになるので、剪定の適期は12月頃です。 ボケは株立ち状で、地際から細めの枝を放射状に伸ばす樹形が特徴で、剪定は「すかし剪定」を基本とします。地際から立ち上がっている枝のうち、太くて古い枝は元から切り取って若い枝に切り替えます。また込み合っている部分は、内側に向かって伸びる枝、下向きに伸びる枝、枯れ枝、他の枝に絡んでいる枝などを選んで分岐部まで遡って切り取りましょう。徒長枝には花がつかないので、5〜6節残して切り取ります。 残す枝のうち長い枝があれば、ふっくらと丸い花芽は残し、花芽の先にできる丸みのない葉芽を1つ残し、そこから先は切り取りましょう。葉芽を一つ残すことで翌年に新しい枝が発生し、その枝に花芽がつきます。 増やし方 Kunlanan Yarist/Shutterstock.com ボケは、挿し木と種まきで増やすことができます。 【挿し木】 挿し木とは、枝葉を切り取って地面に挿しておくと発根して生育を始める性質を生かして増やす方法です。植物の中には挿し木ができないものもありますが、ボケは挿し木で増やせます。 ボケの挿し木の適期は10月頃です。新しく伸びた枝を切り口が斜めになるように10cmほど切り取ります。採取した枝(挿し穂)は、水を張った容器に2時間ほどつけて水あげしておきましょう。3号の黒ポットを用意して新しい培養土を入れ、水で十分に湿らせておきます。挿し穂についた葉は1〜2枚残してほかは取り除き、水の吸い上げと葉からの蒸散のバランスをとっておきましょう。培養土に穴をあけ、穴に挿し穂を挿して土を押さえてください。発根するまでは明るい日陰に置いて乾燥させないように管理します。発根後は日当たり、風通しのよい場所に移動しましょう。十分に育ったら、植えたい場所へ定植します。挿し木のメリットは、親株とまったく同じクローンになることです。 【種まき】 ボケが開花した後、秋にできた種子を採取し、種まきをして増やすことができます。熟した果実を切り取って果肉を落とし、流水で洗って中から種子を取り出します。黒ポットに新しい培養土を入れ、種子をまいて覆土します。日当たり、風通しのよい屋外に置き、表土が乾いたら水やりをしましょう。越年した翌春には発芽が期待できます。十分に育ったら植えたい場所に定植します。ただし、開花までには数年がかかりますし、園芸品種の場合は親とまったく同じ花が咲くとは限りません。 ボケの花で季節の移ろいを楽しもう Edita Medeina/Shutterstock.com 愛好家が多いボケは品種改良が進み、花色や花形が多様に揃うため選ぶ楽しみがあります。日本の気候にもよく馴染んで栽培しやすいのでビギナーにもおすすめ。春の満開時には見応えのあるシーンを作り出すボケを、庭に植栽してはいかがでしょうか。