植物にまつわる、ものづくりの物語。日本には、植物の力を生かして、真摯に製品を生み出す人や企業が多くあります。今回お話を伺ったのは、京都・宇治市でお茶の葉を使ったフラワーアレンジメントを制作販売している工房・店舗「茶和花 京都宇治」です。インテリアとして茶葉を飾る? まったく新しい試みです。代表の三好亜海(みよし・つぐみ)さんに、作品が生まれたきっかけや製品化までの奮闘について、お話を伺いました。

Print Friendly, PDF & Email

花のある暮らしの楽しさを伝える「花育」をきっかけに

「茶和花」

「茶和花」は京都府宇治市で、フラワーアレンジメントの教室など、花にまつわる活動を続けてきた会社です。

「茶和花」

私たちはフラワーアレンジメントの教室や、子どもたちに花のある暮らしの楽しさや季節を感じる喜びを伝える「花育」という活動を行ってきました。アレンジメントの教室は、花の活け方や知識、造形を伝えるレッスンですが、「花育」では子どもの気持ちに寄り添い、技術以上に創造活動や自然と共存する豊かさを感じることを大切にしています。クラスによって主眼に置くことはさまざまですが、小さなお子さんも、忙しく働く人も、リタイア後に趣味を楽しむ方も、花に触れると明るい笑顔になります。私たちはそんな姿を見て、慌ただしく便利な時代だからこそ、どんな方にも「自然のものに癒やされる感性を持ち、生活の中で花や植物を身近に感じることができれば」という思いを、常に持ち続けてきました。

愛する町・宇治への恩返しを探して

宇治

「茶和花」を展開する株式会社TAJIRO工房は、作り手や職人、アーティストが社内に所属し、アート事業を全国に発信してきました。会社が一歩一歩前に進み、私たちの理念である「アートを身近に」そして「心を温かくする企業」これを少しずつ形にしていくことができたのは、本社がある京都府宇治市の風土によるところも大きく、「宇治という街が会社を育ててくれた」という思いをずっと抱いていました。そこで私たち職人の力で、宇治のよさを広く発信していきたいという夢も持っておりました。そんなある日、たくさんのお茶屋さんが並ぶ、宇治の観光の中心地・宇治橋通り商店街を歩いていたとき「そういえば、お茶も植物の一つである」という思いが浮かびました。

厳格な基準で選別された茶葉に、次のステージを

宇治茶

そこで、まずは宇治茶について深く知ることから始めました。宇治の茶畑は、ほとんどが急斜面にあります。まんべんなく日光が当たる、水はけのよい場所が栽培に適しているからです。しかし、急斜面での作業は平地に比べて重労働になります。そのうえ、日射し一つにも気を使うほど、想像以上に細やかで大変な作業をされていました。さらに、「宇治茶」のブランドを守るため、茶葉は厳格な基準に沿って選別されます。賞味期限も短く設定されているため、一定数の廃棄品が出るそうです。商品にならなかった茶葉は、これまで肥料として畑に撒くくらいしか活用法はありませんでした。ほんのわずかに基準から漏れただけで、香りも見た目も美しい茶葉なのに、です。

茶の葉

私たちはこの茶葉に、「飾って愛でる植物」として次のステージを用意したいと考えました。そこで、茶葉と花を組み合わせることにしたのです。美しい茶葉に合わせるのは、やはり本当のお花でなければならないと考えました。そこで、本当のお花を特殊加工した高価な花材として注目されるプリザーブドフラワーを合わせることにしたのです。これなら、手間なく長く楽しめます。

そして、インテリアとして活用しやすいように、こだわったのは「立てて飾れること」です。パラパラと細かい茶葉がこぼれないよう、接着する技術を開発するのに1年近くもかかってしまいました。茶葉の香りを邪魔しないように接着剤は無香でなければなりません。また、湿気があるとプリザーブドフラワーのもちが悪くなるので、乾かし方にも工夫が必要です。あれこれ試行錯誤を重ねて、ようやく思い通りの作品ができあがりました。「茶和花」は、実用新案登録の作品です。

「茶和花」
立てて飾れるので、いつでも眺めて楽しめる。

花とお茶を詰めた木箱にも、こだわりがあります。茶葉の輸送に昔から使われている茶箱をイメージしたもので、一つひとつ手作りです。素材は松で、一つひとつ異なります。一度、花の造形の過程で、木箱の底と本体を別々にした後に、手近なものから組み合わせようとすると、これが全然合わないことがあって…。結局、スタッフ総出でトランプの「神経衰弱」みたいな作業になり(笑)、大変な思いをしました。しかし、これも手作りの木箱だからこそ。お客様には「唯一無二」の品を選んでいただける楽しみがあると思います。ネット販売もございます。私たちが心をこめて選びますので、出合いを楽しんでいただけると、うれしいですね。

「茶和花」
「茶和花」には、すべて京都、宇治ゆかりの名前がついている(左から「三室戸」、「源氏物語」<赤・黄>)。

本物の花とお茶の香りを、長く楽しめる

「茶和花」

「茶和花」は茶葉の香りも楽しめるのが特長です。宇治で栽培された「茶和花」の茶葉は、飲用の基準から少しは外れても、香りに遜色はありません。微かな香りではありますが、宇治を感じていただけるとうれしいです。また、どの品にも「あと入れ茶葉」をつけています。お茶の香りが飛んでしまったら、茶葉を追加してください。立てて飾ることはできなくなりますが、これでお茶の香りが蘇ります。

お客様、売り手、生産者、地域、未来。「五方よし」を目指して

お陰さまで、「茶和花」は宇治の手土産やプレゼントとして、少しずつ認知されてきたように感じています。先日も、壮年の男性が結婚祝いを探しに来られて「普通の花は、たくさんもらうだろうから」と、「茶和花」を選んでくださいました。香港の方が「日本好きの友人に、イメージ通りのプレゼントを見つけた!」と、購入されたこともあります。オリジナルの「茶和花」を制作できる「手作りキット」もご用意していますので、なかなか旅行も難しい昨今、ご自宅でお茶の香りに包まれながら、宇治を訪れた気分を味わっていただけたら、嬉しいです。

関西のビジネスには「売り手よし・買い手よし・世間よし」の「三方よし」という言葉がありますが、私たちが目指しているのは「五方よし」です。お客様、売り手、茶葉の生産者さん、宇治の町、そして環境や子どもを守る未来。これら「五方」がみんなで幸せになれるように、これからも力を尽くしていきたいと考えております。

茶和花 京都宇治(CHAWAKA)

ガーデンストーリーウェブショップで「茶和花」販売中!

「木箱の茶和花」や、ティーバッグと「木箱の茶和花」のギフトセット、ご自宅で「茶和花」が作れる「自宅造形キット」をウェブショップにて販売中です。

商品の詳細・ご購入は↓へどうぞ!
https://www.gardenstory.shop/shopbrand/ct19/

Information

茶和花 京都宇治(CHAWAKA)

京都府宇治市宇治妙楽166−25

https://chawaka.jp/

写真協力/茶和花(株式会社TAJIRO工房)

Credit

取材・文/新 明子
出版社勤務を経て、編集&ライターとして独立。女性誌編集部に5年在籍した経験を生かして、ライフスタイル一般、美容、人物インタビュー記事などを担当。その後、縁あって園芸専門誌の編集部に3年在籍。園芸にまつわる喜怒哀楽を味わい、植物の魅力に目覚める。自宅のベランダでは、レモン、ユーカリ、ジューンベリー、ハーブなどを栽培。新苗から育てたバラ‘ノヴァーリス’を溺愛中。

Print Friendly, PDF & Email