身近なガーデンの中にひそむ危険と改善方法をアドバイス! ~オマの庭から~

Cora Mueller/Shutterstock.com
近年、一段と重要性を増しているように感じるリスク管理。時に、私たちのガーデンの中にも、一歩間違えばけがにつながってしまうようなシチュエーションが見られます。ここでは、ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんが、九州で暮らす義母の庭と、その中で見つけた、見過ごされがちな不便さや危険の解決方法についてご紹介します。
目次
ガーデン内のリスクを減らそう
今年も日本の夏は暑かったですね。でも、極端な気候は何も日本に限った話ではありません。私の故郷のドイツでは、短時間に大量の雨が降る滅多にない豪雨により、多くの地域が洪水に見舞われ、大きな悲劇となってしまいました。このような気候による災害は全世界で起こっていて、異常気象により、いままで予想もしていなかったような危険な災害が発生し始めています。
こんな時代ですから、せめて自分たちの玄関先やベランダ、ガーデンなど身の回りを見直して、手の届く範囲のリスクは減らしておきたいものですね。
九州に暮らす義母、オマ

私の義母が暮らす家は九州にあります。緑の小高い丘と坂道に囲まれた小さな町にある家の小さな庭は、ドイツ語でおばあちゃんという意味の「オマ」と呼んでいる義母によってよく手入れされています。オマは86歳になりますが、心はいつまでも若々しい、とっても素敵な人ですよ! すぐに人と打ち解けて、どんな人とでも親しく会話ができるのです。彼女のこの素晴らしい才能に気づいたのは、以前ドイツに行った時。オマはほとんどドイツ語が分からず、知っている単語は「Guten Morgen(おはようございます)」「Guten Tag(こんにちは)」「Gute Nacht(おやすみなさい)」「Danke(ありがとう)」そして「Bitte(どういたしまして)」ぐらい。それでも100%ドイツ語の環境の中で、ずっと楽しそうにしていたのです。もちろん交流もしていたようで、例えば一緒にプラムケーキを焼こうとご近所さんを訪れたときは、オマはその3時間後、私の実家に満面の笑みでやってきて、ケーキを2台焼いて、家とガーデンを案内してもらったと言っていました。

オマは花が好きで、果樹も好き。花をもらったら、ゆっくり時間をかけて眺め、香りを楽しみます。眼鏡なしで読書も楽しみ、いろいろなことに興味を持っているオマですが、そんなオマと私の間でよく話題になるものといえば、いろいろな食べ物やフルーツ、そしてもちろん彼女の庭についてです。
オマの小さな庭

オマの庭は、玄関前にある小さな素敵なスペース。オマが若いときに、高さ25cmの石垣を、花壇や菜園を囲むように積み上げて作ったそうです。重労働で成し遂げた仕事ですね。そんなオマは、80歳を過ぎてからも、庭仕事に精を出しています。
オマの庭は南向きで、背の高い木は2本だけです。1本は高さ、幅ともに3mほどのカキの木。この季節は小さなリンゴほどのたくさんの青い実が生っています。庭の中心となる木です。もう1本は、数年前に私が贈って植えた桜の木。観賞用の桜ではなく、実際にオマの大好きな果物でもあるサクランボが実る品種です。残念ながら、オマの家を訪れるタイミングと重ならないため、まだ私自身は開花も実りも見たことがありません。この2本に加え、低木のキンモクセイも植えられています。

他の植物は多くが手のかからない宿根草で、例えばギボウシや黄花のクリサンセマム、シラン、ヨモギ、ツワブキ、ヤブラン、アマドコロ、アイリス、ボタン、ドクダミ、ショウガ、クロコスミア、アジサイ、その他いろいろな球根類に、背の低いリュウノヒゲもたくさん植わっています。今年は、野の花の種と、種から育てたトマト苗を2つ、そしてチャイブの苗をプレゼントしました。この高温多湿の地域では、花の種もすぐに発芽。どれもぐんぐん成長していきます。
以前、オマがより高い花壇の壁を作って土が流されないようにしたいと言うので、屋根瓦を店頭に並べているようなお店が無いかを一緒に探してみたことがあります。ちょうど、そんなお店を郊外で見つけたので入ってみると、店頭の商品の後ろに壊れた屋根瓦が並んでいました。探していたものにうってつけです。許可をとった後、20個ほどを選んで家に持って帰り、翌日、もらってきた瓦を花壇の周りに置いてみたところ、とてもいい感じに。狙い通り土留めの効果もありました。彼女と一緒に簡単に実践できるガーデンの改善策を探すのはとても楽しい時間でした。
オマの庭の安全対策

このように、私たちは時々一緒にオマの庭づくりをしています。数年前には、夫がオマのために何日もかけて、小さなウッドデッキを作りました。これが大正解! ウッドデッキができた日から、オマは台所から直接ウッドデッキに出て、気軽に庭を眺められるようになりました。もう一つの大きな利点は、簡単に洗濯物を干すスペースにできるということ。台所の前なので出入りしやすく、洗濯物も素早く乾かせます。

ウッドデッキができる以前、ここは足場の悪い場所でした。台所の扉の前には、不安定な大きなコンクリートブロックがあるだけで、オマはそれを庭への台として使っていました。今でもよくけがをしなかったものだと思います。このように、庭の中には一歩間違うとけがの元になってしまう所がありますので、そのような場所を改善していくのはとても大切です。今回は、オマの庭を例に、イメージ写真とともに庭の安全対策を見ていきたいと思います。
庭の小径と水やり作業の改善策

今、オマの庭で危ないなと思っているのは、いたるところに何年も前から敷かれたブロックの数々。高さが微妙に異なったり、雑草が生えるような隙間があったりすると、庭の中でつまずいたり転ぶ原因にもなりかねません。それぞれ大きさや形が異なることが、フラットな地面を作るのをさらに難しくしています。基本的に、一番歩きやすく手入れしやすいのは、段差のない幅広の小径。でも、言うのは簡単ですが、庭によって土の種類や質が違うので、実際にはなかなか難しいものです。
以前は水道が庭の奥にあり、水を使うためにはこの凸凹道を遠くまで歩かなければならなかったので、水やりは大変な作業でした。しかし最近、近場に新しい水道の蛇口を取り付けたことにより、水やりがぐっとラクで楽しくなりました。安全性の向上と水やり時間の短縮にかかわる大きな改善です。新しい水場はとても便利で、野菜を洗った水を水やりに利用したりもできて実用的です。また、水の節約にもなります。

水やりについていえば、ジョウロの大きさも重要です。簡単に取り回しができて屋外のガーデンシェッドに収納できる大きさを選びましょう。大きすぎれば水を入れた時に重すぎて扱いにくいですし、バランスを崩して転んでしまうことも考えられます。なので、自分の力に見合った大きさのものを選ぶことが必要。オマにとっては5ℓジョウロがぴったりのようです。散水ホースを使う場合は、接続が簡単にできるよう、同じタイプやメーカーのものを選びましょう。もっとも、ホースは時に足元の障害物となってしまうので注意が必要です。
オマはちょっと変わったところにジョウロをしまっています。先日私がジョウロを見つけたのは、ガーデンシェッドの中…ではなくカキの木の茂みの中。ここは庭のすぐ近くなのですぐ取り出せて、日陰なのでジョウロが傷む心配もありません。しかしながら、落ち葉などが入り込みやすく、ハス口が詰まってしまう心配があります。そのため、私はシェッドの中にしまうようにしています。ここにもジェネレーションギャップを感じますね!
庭道具はしっかりしたものを

最近、ほうきを買い替えたことにより、使いやすいしっかりしたほうきの大切さを再認識しました。オマの庭には小さなほうきが2つありますが、正直なところ、今までオマのほうきを使ったことはほとんどありませんでした。古くなったほうきは、掃き掃除にはちょっと使いづらかったのです。ほうきを1つ処分することにし、専門店で新しいほうきを買ってみると、使いやすくて庭の小径を掃除するのが楽しくなりました。とはいえ、古いほうきも、シェッドの前に張ったクモの巣を払うにはちょうどいい存在。一見壊れたような道具も、使い方次第で役に立つことがあります。
このように、夏は庭道具の整理にもいいタイミング。必要なものを残し、収納場所のスペースだけをとっている役に立たないものは処分しましょう。

私は、傷みやすい安い道具を買うより、長持ちするいい道具を買ったほうがよいと思っています。安価な金属製の庭道具などは、時に縁がとても鋭く、手を切ってしまいそうなものも。私自身も、安価なシャベルには苦い経験があります。土が濡れたガーデンを耕しているときに、シャベルの上でレインブーツが滑って、ブーツが切れてしまい(しかも2度も!)、お気に入りのブーツをダメにしてしまったのです。また、ハンドシャベルは土がかたい時には曲がってしまうことがありますが、品質のしっかりしたシャベルなら、そんな心配はありません。
庭道具を扱う際は、道具の鋭い縁は常に地面を向いているようにします。使い終わった後は、その辺に放り出しておかず、壁の横や菜園の隅など収納場所を決めてきちんと片付けましょう。幸い、オマは時にやりすぎに思えるほど几帳面なので、この心配はありません。
樹木や草花のメンテナンスと庭道具の使い方

枝や茂りすぎた植物も、ガーデンに潜むリスクです。オマの庭ではカキの木が茂り、またガーデン収納の金属製のキャビネットの前には背の高いアジサイが伸びています。以前はアジサイの長い枝により、この収納庫の前の小径が分かりづらく、通りにくくなってしまっていました。そこで長く伸びた枝を3本切り、だいぶ歩きやすくなったのですが、次に問題となったのは、低く茂るカキの木の枝。オマは私よりも15cmほど身長が低く、小柄なので、簡単に枝の下を通っていけます。しかし、私や夫が庭で仕事をしようとすると、ちょうど顔の高さに枝があり、同じくらいの背丈の人はけがをしてしまう恐れがありますので、枝を整理することも考え中。このようにガーデンで枝を切る場合は、けがを防止するため、切り口が尖らないように気を付けましょう。
ガーデニングでは刃物も使うので、扱いには注意が必要です。オマも、園芸バサミや鎌など刃物の使い方に関して時々不注意なことがあり、先日はアジサイを切るのに鎌を使っているのを見てびっくりしました。ちょっとバランスを崩したら大けがをしてしまうかもしれません。剪定バサミなどの専用の道具を使うほうが安全です。
ガーデンの中に潜む危険

私たちの身の回りにも、気を付けないと事故につながりそうな場所があります。それぞれの状況に応じた改善策を探るには、時間と経験、そしてアイデアが必要。危険がありそう、と感じる場所も人によって大きく違います。ここでご紹介したオマの庭を例にとっても、私から見ると改善できそうなところがたくさんありましたが、どれも明確に危険だというものではありません。これもまたジェネレーションギャップの一つだと思いますが、オマは彼女なりのやり方で作業しているので、私とはまた見方が違うのでしょう。また、何十年にもわたってここで過ごしてきたオマは、この庭特有の要素にも精通しています。
ただし、慣れているからといって、必ずしも危険でないということや事故につながらないということにはなりません。ぐらついた台所前の踏み石も10回までは何事もないかもしれませんが、もしかしたら11回目に乗ったときにバランスを崩して転んでしまうかもしれません。

オマの庭に限らず、ガーデンでよく見られる光景の中にも、私から見ると危ないなと感じるようなものがあります。例えば、狭い階段に植木鉢を並べたり、狭い道が庭中を巡らせてあったり。今回の記事でご紹介したオマの庭の例は、他の庭でもよく見られるものばかりです。
そんな身近な庭に潜む危険や非効率な場所について把握し、改善案を探してみませんか? 自分の庭だけでなく、世代が異なる実家の庭などについても同様です。一つひとつ状況を改善して、庭仕事がラクになったときの彼らの笑顔を見るのはとても素晴らしいものですよ。
それに、庭はどんな人と交流するにしても素晴らしい話題を提供してくれます。庭の美しさについてはもちろんですが、問題点や危険な点について話し合ったり、解決方法や改善案を探したりするときであっても、それは変わりません。
さあ、庭の安全性を確認してみましょう。いつかやろう、ではなく、いま確認しておくといいですよ。健康と安全は、人生で一番大切なものの一つですから。
Credit

ストーリー&写真(*)/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
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