バルコニーとリビングを結ぶ観葉植物たち【写真家・松本路子のルーフバルコニー便り】

都会のマンションの最上階、25㎡のバルコニーがある住まいに移って26年。最初は何もなかった空間を、自らバラで埋め尽くされる場所へと変えたのは、写真家の松本路子さん。「開花や果物の収穫の瞬間のときめき、苦も楽も彩りとなる折々の庭仕事」を綴る松本路子さんのガーデン・ストーリー。今回は、内と外をつなぐ癒しの緑、観葉植物についてご紹介します。
友人から贈られて26年、成長を続けるパキラ

東面のバルコニーに面した窓辺には、天井まで届くパキラが葉を茂らせている。26年前にこの部屋に移り住んだ時、友人から引っ越し祝いに贈られたものだ。高校時代をともに過ごした女友達は、その木が届いた2年後に40代の若さで亡くなった。
鉢の土を替えることもなく今に至っていて、その生命力には驚嘆させられる。時折茂りすぎて乱れた枝を剪定するほかは、水やりと年数回の液肥だけの手入れだ。
朝の光を浴びて輝く葉を見ていると、心穏やかに一日が始まるように思える。凛として美しかった友が、今も見守ってくれているような気もしている。
インテリアに明るさをプラスするハイビスカス

パキラの隣にはハイビスカスの鉢植えが置かれている。これも20年来我が家で育っている植物。毎年5月から10月にかけて、花を咲かせ続ける。観葉植物の緑の中に鮮やかな赤が点在すると、灯がともったような華やぎが生まれる。

伊豆の熱帯植物園で育った私には、ハイビスカスやブーゲンビリアなどのトロピカルな花々は、原風景の一部ともいえ、これもまた生活の中に欠かせない。
パキラとハイビスカスの挿し木苗

パキラやハイビスカスの枝が伸びすぎて剪定した後、どうしてもその枝を捨てることができなくて、つい水に挿してしまう。根が出たところで、また小さな鉢植え苗をつくるのだ。苗が増えすぎて困るので、我が家には一鉢だけ残し、あとは客人に持ち帰ってもらっている。いずれも丈夫な木なので、友人たちの家の窓辺でのびやかに育っているようだ。

ランナーで増え続けるヒロハオリヅルラン

緑に白い斑が入った葉が曲線を描き、放射線状に伸びて美しい。30年ほど前に、小さな鉢植えを求めたものが大株になり、たくさんのランナーを伸ばしている。ランナーの先に白い花をつけ、そこから子株が生まれ育ってゆく。小さな子株が折り鶴に似ているので、その名がつけられたのだろう。

バルコニーに置かれている大株は思いっきりランナーを伸ばし、あちこちの鉢に子株を移してゆく。子株の勢いが強く、ほかの鉢の植物を侵食するほどなので、それらを集めて小さな鉢に移し替える。また早めに摘み取って、しばらく水に浸けたのち、鉢植えに仕立てる。今までにいったいいくつの鉢をつくったことか。これもまたバルコニーのバラの宴に参加した友人たちに持ち帰ってもらっている。

野鳥たちにも人気のアスパラガス

アスパラガスの苗には、花をつけたのちに小さな実が生る。その実を小鳥たちがついばんで、フンをするのだろう。いつの間にかバラの鉢にアスパラガスが顔を出す。それを見つけて、別の鉢に移すのも私の仕事。

アスパラガスの苗は、ニューヨークのロフトに住むアーティストの部屋を借りた時に、窓辺に茂っていて気に入り、東京で買い求めたものだ。だが倉庫を改造した広いロフトと違い、狭い部屋の中で鋭いとげのある枝を大きく広げるので、ギブアップ。バルコニーに移ってもらった。その実が小鳥たちの大好物なのだった。
手作りのネットでハンギングした挿し木苗のポトス

観葉植物の定番ともいえるポトス。仕事場にある苗は、なんと40年以上も前に求めたもの。無数に枝を伸ばすので、長くなった枝先を切り取り水栽培している。切った枝の節から根が出てくるので、鉢植え苗として増やすことも簡単だ。
自宅には一鉢だけ天井から吊るしてある。鉢を吊るすネットは、園芸用のグリーンの麻ひもを使い、自分で編んだ手作り。自己流で不格好なものだが、その夜なべ仕事が殊の外楽しかった。
芽出しが楽しくて、つい育ててしまうアボカド

果物のタネが捨てられなくて困っている。タネはたいていが芽を出すからだ。特にアボカド。80年代にニューヨークに長期滞在していた時、友人の家で見かけた涼やかな葉の植物がアボカドと知った時の驚きが、いまだに忘れられない。それで実を食した後のタネをついついコップの水の中に入れてしまう。夏の暑い季節には、コップの中で芽を出し、また種を半分ほど土に埋めても発芽する。

ニューヨークで育てた苗は、その部屋を去る時に、街の小さな公園や道路脇の茂みにひそかに植えて帰った。しばらくは、街で成長しているであろう図を思い描き、ひとり悦に入っていた。

観葉植物と暮らしをともにする日々は、ゆったりとした時の流れの中にある。丈夫な種類を選べば手入れも簡単で、挿し木や水栽培で増やすことも可能だ。私にとってこうした植物は、バルコニーとリビングの動線を結んでくれるもの。バルコニーもリビングの一部に思え、都会のマンションのリビングでも、自然の息吹を感じることができる。
ずっと以前、友人の3歳になる女の子がパキラを見上げて、「ここんちは家の中に木が生えている」と叫んだ言葉を、今も愛しく思っている。
併せて読みたい
・写真家・松本路子のルーフバルコニー便り「小さなバラ園誕生! 初めの一歩」
・写真家・松本路子のルーフバルコニー便り「夏の収穫」
Credit
写真&文/松本路子
写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-20年現在は、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。
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