【スイス旅行記】世界遺産ラヴォーの絶景ブドウ畑に学ぶ! 自然と調和するナチュラルガーデニングのヒント
Alexander Chaikin/Shutterstock.com
スイス・レマン湖北岸に広がる世界遺産「ラヴォー地区のブドウ畑」。急斜面に石積みの段々畑が連なり、輝く湖を臨むこの地は、スイス屈指のワインの産地です。じつはこのブドウ畑には、厳しい自然環境と共生しながら美しい景観を保ち、生物多様性を守るための「ナチュラルガーデニング」のヒントが凝縮されています。ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ-ツェルナーさんが、この夏スイスを旅した際に訪れたこの場所から、絶景を巡るミニトレイン「ラヴォーエクスプレス」の体験談や希少なスイスワインの魅力とともに、ご自宅のお庭やベランダでも取り入れられる自然派ガーデンのアイデアをご紹介します。
目次
スイスでも指折りの美しいハイキングエリア
世界遺産にも登録された「ラヴォー地区のブドウ畑」

夏に旅したスイスで見つけた美しい風景やアイデアをご紹介している今回のシリーズ。舞台となるのは、前回に引き続いて、息を吞むような美しい景観が広がるレマン湖の周辺。今回訪れたのは、段々畑にブドウの垣根が連なり、2007年にユネスコ世界遺産にも登録された「ラヴォー地区のブドウ畑」です。

ここは、スイスのヴォー州、レマン湖北岸30kmに沿って、総面積800ヘクタールを超えて広がる、素晴らしいワインの産地。急斜面に築かれた石積みで区切られた段々畑や歴史ある村々、そしてユネスコ世界遺産という称号で知られています。石積みはセメントを使わずに築かれており、使用されている石材はこの地域で産出されたもの。ブドウ畑は、モントルー近郊のシヨン城からローザンヌの東部郊外にかけて広がっています。その歴史はベネディクト会やシトー会の修道院がラヴォーを支配していたと11世紀頃にまで遡るとされています。
上質なブドウを育む“3つの太陽”と厳格な栽培

この地域を表すのによく使われる表現に、「“3つの太陽”がある」というものがあります。1つ目の“太陽”はそのまま降り注ぐ「日光」、2つ目は「レマン湖からの反射光」、そして3つ目は「石積みに蓄えられた輻射熱」。ブドウの生育を促すこの地域ならではの気候を生かしたよい例ですね。

ラヴォー地区で主に栽培されているブドウの品種は、スイスの伝統品種であるシャスラ(Chasselas)で、爽やかでフルーティーな白ワインの原料となります。また、ピノ・ノワールも人気の品種です。
この地域では化学的な農薬や除草剤の使用は禁止され、使用されるのは、有機認証を受けた資材や肥料のみ。また環境全体を考慮した総合的病害虫管理(IPM)が実践されています。
急勾配に連なる段々畑という立地から、管理や収穫などの作業の多くは、完全に手作業で行われています。レマン湖に流れ込む流出水を減らし、地域の動植物を保護することを目的とした規制もあり、持続可能な農法や生産手法が厳格に守られたワインの生産が行われている地区なのです。
ラヴォー地区全体にわたってこのようにルールや厳しい規制が設けられていますが、生産者の中には、さらに高い基準を独自に設定しているところもあります。

自然を生かした効率的な栽培

およそ半世紀前には、多くのブドウ畑では地面がむき出しの状態でブドウだけが栽培されていたラヴォー地区。急勾配で栽培されているため、冬には畑の下のほうに流れてしまった土を掘り起こして上へと戻す作業が必要でした。やがて、ブドウの列の間に芝生などの草を育てる生産者が現れ始めました。すると、こうした植物が土留めとなり、下に流れた土を戻す必要がなくなったそうです。冬場の重労働が一つ減ったわけです! そこで多くの生産者がこの方法に倣い、今では段々畑のあちこちで、芝生やタンポポなどの野草が育てられています。春になると、畑一面にタンポポの黄色い花が咲き誇り、美しい景観が広がります。そして何より重要なのは、雨で土が流されたり、風で飛ばされたりするのを防げるという実利的な効果です。

ブドウ栽培に生物多様性を取り入れているもう一つの例として、夏の草刈りを一度に全面行うのではなく、段階的に行うことが挙げられます。例えば、1列目はいま、2列目は6〜8週間後に、というように1列おきに草刈りのタイミングをずらしておく、といった具合です。こうすることで、昆虫やトカゲなどの野生生物は、1列目から2列目へ、あるいはその逆へと移動できるようになり、生息できる空間が広がります。
この方法は、自宅の庭でも、「野生生物や昆虫をどう守るか」という点において、重要なヒントになります。生物多様性を育むためには、一度にすべての雑草や植栽を抜いたり植え替えたりするのではなく、区画ごとに分けて作業を行うのが効果的。生き物たちが新たな棲み処を探す時間を与えることは非常に重要であり、その配慮が、後から自然からの「恩返し」として報われることもあります。農作物の収益で生計を立てなければならない広大な畑に比べれば、庭やベランダでこうした取り組みを行うのは、ずっと手軽にできることです。
さて、ラヴォー地区に話を戻すと、ブドウ畑の周囲に生えている木々に野鳥の巣箱やコウモリの隠れ家が設置されていたり、トカゲが冬を越すための快適な場所として畑の中や周辺に石を積み上げたストーンシェルターが設けられていたりと、生物多様性を守るための取り組みが随所に見られます。
生物多様性と自然の保護

ラヴォー地区で実践されている自然を生かした栽培法は、従来のブドウ栽培に比べると手間はかかりますが、その分、将来的に自然が私たちに「恩返し」をしてくれます。例えば斜面に一年を通して草や野草を生やしておく方法は、土壌を保護して適度な湿り気を保ち、また土が風で飛ばされたり雨で流されたりするのを防ぐための、素晴らしい手法です。こうした自然を利用したバリアや土を支える植物の根は、大雨の際にも土壌を守る助けとなります。
近年、豪雨による災害は世界中で大きな関心事となっています。日本でも、ゲリラ豪雨や線状降水帯の発生による激しい雨、洪水の増加に伴い、畑や果樹園の貴重な土壌を守るための新たな方法が求められています。その解決策の1つとして、作物の間に野草や雑草を積極的に残しておくことが、メリットをもたらす可能性もあります。
観光におすすめ!
パノラマビューが楽しめる「ラヴォーパノラミック」

ラヴォー地区を訪れるなら、ぜひ乗ってみたいのが、緑と白のカラーリングが印象的な観光用ミニトレイン「ラヴォーパノラミック」。急勾配な細い道が続くブドウ畑の中を走り抜けるのに、とても便利な乗り物です。同様にこの地域を巡る「ラヴォーエクスプレス」もありますが、“トレイン”や“エクスプレス”と呼ばれても、線路を走る電車ではなく、普通のタイヤがついていて道路を走るロードトレインです。この地域のハイキングコースはかなり急で距離も長いため、へとへとになることなくエリアの主要な見どころを巡るにはうってつけの手段。もちろん、体力に自信があるなら、小道をハイキングするのもとてもおすすめです! 今回の旅行では、シェーブル(Chexbres)でこのミニトレインに乗車しました。シェーブルは素晴らしい景色を望める、とても素敵な小さな駅です。

ミニトレインはブドウ農家の家々を通り抜け、車1台の幅でもやっとというような、曲がりくねった細い小道を進んでいきます。60~90分ほどの道程には、絶景スポットでの停車時間も組み込まれているため、慌てる必要もありません。出発の合図はミニトレインの鐘の音。停車中は自由に散策を楽しむことができ、のんびりとしたひとときを過ごせます。とはいえ、どこを見ても息をのむほど素晴らしい景色が広がっているため、こうした展望スポットを離れるのは本当に名残惜しいものです。

今回の旅でラヴォーのブドウ畑を訪れたのは、真夏の暑い日。ですが、側面が開放されたミニトレインの屋根の下は、日陰と心地よいそよ風のおかげで最高の環境でした。秋や冬の景色もまた格別だそうで、秋には色づいた葉、冬には雪に覆われたブドウの木々を楽しむことができます。一年を通して魅力にあふれた地域です。

この「ラヴォーパノラミック」の旅が終点に近づいた頃、運転手が特別にミニトレインを止めてくれたのが、素晴らしい眺望が楽しめる大きな木の下。どこを見てもブドウ畑や歴史あるブドウ農家の建物が広がり、目の前にはレマン湖がキラキラと輝いていました。ここに至る狭い道は、畑の手入れをするブドウ農家など特別な理由がある人のみ通行が許可され、一般車両が通らないため、喧噪から遠く離れた静かなスポットです。
安全面への配慮も行き届いており、運転手は、停車するたびに運転席から降り、リラックスした様子でゆったりと各車両のドアを開けてくれていました。そんな彼が、最後の停車場所で下ろしたのは、大きなクーラーボックスとトレイ。そこには……テイスティング用のワインとグラスが!

ユネスコ世界遺産にも登録されているラヴォーのブドウ畑。その斜面で、青空の下、ワインを味わうのは、本当に素晴らしい体験でした。
木陰に集まった参加者は皆、ワクワクした様子。子供たちはリンゴジュースや水がもらえます。大人は3種類のワインを試飲できました。それらはすべて、今まさに立っているこのラヴォー地区で栽培・醸造されたものなのです。
どのワインも、すっきりとしていてフルーティーな味わい。食前酒としてはもちろん、チキンや魚料理にもピッタリでしょう。とても心地よい、素敵なひとときでした

スイスワインの存在を意識したのは、これが初めて。ドイツで暮らしていた頃でさえ、主に飲むのはドイツやイタリア、スペインといった地域のワインでした。なぜ両親はスイスワインを買わなかったのだろう、とふと考えましたが、その答えは、スイスで生産されるワインのほとんどが国内で消費されてしまうから、ということかもしれません。輸出量はごくわずかであるため、本来もっと有名であってもおかしくないのに、それほど知られていないのです。
今ではすっかり、シャスラというブドウ品種とスイスワインのファンになってしまったので、スイスでワインを味わうのは、きっと今回が最後にはならないでしょう。

エーグル城(Château d’Aigle)とカーヴ・デュ・クロ・エモン(Cave du Clos Aimond)

ワインが楽しめるのは、ラヴォー地区だけではありません。時間に余裕があったので、今回の旅の拠点としていた同じヴォー州のエーグル(Aigle)でも、観光案内所で無料のワインテイスティングを紹介してもらい、予約を入れてみました。正確な場所はよく分かりません。というのも、この地域には至る所にワイナリーがあるから。とはいえ、ブドウ畑の前に大きな看板が出ているので、見つけるのは簡単です。
訪れたワイナリー「カーヴ・デュ・クロ・エモン」は、ブドウ畑の中の平坦な土地に位置していました。言葉にすると地味に聞こえるかもしれませんが、実際に足を運んでみると、これ以上ない最高のロケーション。景色は素晴らしく、数百メートル先にはエーグル城の全景がはっきりと見えました。

この古城もスイス旅行中に訪れましたが、現在はワイン博物館となっていて、ワインの栽培や、この地域にとってワインがいかに重要かについて、とても興味深く、分かりやすく学べる場所でした。

秋から楽しむブドウやバラの美しさ

木々やブドウ畑の葉が色づき始める季節の美しさを愛でるのは、本当に素晴らしい体験です。日本でも、ブドウ畑の真ん中で、その土地のワインやブドウジュース、あるいはリンゴジュースを味わう時間は、涼しくなり始めた季節の素敵な楽しみとなるでしょう。
今回訪れたブドウ畑の旅では、ブドウの畝の前に植えられたバラも見ることができました。満開の時期にはその美しさが際立ち、素晴らしい景観にさらなる彩りを添えてくれます。特に、春だけでなく何度も花を咲かせる四季咲きの品種であれば、その魅力もひとしおです。
また、花が終わった後に実るローズヒップをそのまま残しておけば、冬には「霜化粧」をまとい、美しい光景を見せてくれます。

個人の庭でも、バラは花の美しさ以外にも見どころがあります。大きく育ったバラの株は冬の庭に魅力的な立体感をもたらし、飾り付けを楽しむスペースにもなります。季節感を取り入れるために、鳥の餌台やクリスマスオーナメントなどを吊してみるのもよいでしょう。木製の動物の置物、陶器、ガラス細工、あるいはブドウのつるを使った手作りの品など、自然素材のオーナメントが特におすすめです。

地元の市場や各地の道の駅は、こうしたアイデアや素材を見つけるのに最適な場所です。ぜひのぞいてみてくださいね。
Credit
話 / Elfriede Fuji-Zellner - ガーデナー -

エルフリーデ・フジ・ツェルナー/南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/ Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood
まとめ / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。「ガーデンストーリー」書籍第1弾12刷り重版好評『植物と暮らす12カ月の楽しみ方』、書籍第2弾4刷り重版『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(2冊ともに発行/KADOKAWA)発売中! 2026年10月5日発売の書籍第3弾『小さな空間を生かす立体ガーデニング 玄関から始める花のある暮らし』(発行/KADOKAWA)予約受付中!
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