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庭づくり、植物選びに“マンネリ“しているあなたへ。分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題の、ボタニカルショップのオーナー&園芸家の太田敦雄さんがお届けする連載「ACID NATURE 乙庭 Style」。今回ピックアップする植物は、秋のガーデニングの参考にしてほしい、宿根草植栽に織り交ぜて楽しみたい秋植え球根6選。庭の面白さや植物の可能性のアンテナを刺激します。

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春~初夏咲きの宿根草と合わせて楽しめる秋植え球根

秋植え球根というと、他の植物に先駆けて早春を彩るシラーなどの小球根類や、春庭の華やかな主役、チューリップを思い浮かべる方も多いでしょう。どちらもガーデニングでは定番アイテムですよね。

今回は、少し見方を変えて、宿根草と同じように植えっぱなしでよいものや、春~初夏咲きの宿根草植栽にとけ込みつつ、ほどよく目立つ植物をご紹介します。

メドウ風の庭に秋植えの球根が開花
メドウガーデン風の宿根草植栽に、エレムルスや、植えっぱなしで栽培できるユリ、アリウム・スファエロセファロンなどの秋植え球根を効果的に混植した事例。Photo/Del Boy/Shutterstock.com

チューリップのように、毎年掘り上げたり植え直さなくてはいけない、なかば一年草のような扱いとは異なり、年々少しずつ増えて見事な迫力ある群生になっていく、ナチュラリスティックなライフサイクルで栽培を楽しめる一群です。

カマッシア・ライヒトリニー ‘カエルレア’と宿根草。
カマッシア・ライヒトリニー ‘カエルレア’ の淡青紫色の花と宿根草の黄金葉の芽吹きを対比させて。

「球根」「宿根草」という分類の垣根をいったん取り払って組み合わせてみることで、選択肢が広がり、ラインナップがカブりやすい宿根草植栽にオリジナリティーを加えることができますよ。

エレムルス・ブンゲイの穂花とフロミス・ルッセリアナの段咲き花。
エレムルス・ブンゲイの穂花とフロミス・ルッセリアナの段咲き花、そしてアリウム・クリストフィのメタリックな紫花を組み合わせたオーナメンタルな植栽。Photo/InfoFlowersPlants/Shutterstock.com

宿根草苗と違い、流通時期が短いので、買い時を逃さないように

秋植え球根各種

今回ご紹介するイキシアやエレムルスなどの秋植え球根植物は、植えつけ以降は宿根草のように楽しめますが、ほぼ通年手に入る宿根草の苗とは違い、休眠している球根の状態で販売されるため、秋の短い期間しか園芸店の店頭に並びません。また、チューリップほど流通量も多くないので、手に入れたい場合は、夏から受け付けを開始するオンラインショップの早期予約などを活用して、先手先手で準備をしていくとよいでしょう。

種類に合った植え方が大切。組み合わせのポイント

秋植え球根の大きさ比較
球根の形・大きさ比較。左からエレムルス ‘クレオパトラ’、2列目上からリリウム‘ディメンション’、 カマッシア・ライヒトリニー ‘カエルレア’、3列目上からオーニソガラム・アラビクム、グラジオラス・ビザンティヌス、右イキシア・ビリディフローラ。

今回ご紹介する6種の球根は、上写真のように形状も大きさもさまざま。原産地の気候や性質も異なります。比較的育てやすく、庭植えの宿根草と混植しやすいものをセレクトしましたが、球根はごく浅く植えるもの、深く植えるものなど、それぞれの性質に合わせ、また日本の環境にも合わせてカスタマイズした植え方をすることが大切です。以下で、各種について解説していきます。

アジアティックハイブリッド系のユリ‘ディメンション’

また、これらの球根植物は、花はとても美しいのですが、葉にはそれほど観賞価値がないものが多いです。しかし、開花後から休眠するまでの期間に、葉で日光を受けて栄養を合成し球根を肥らせるため、葉は切ったりせずに枯れるまで残してあげないといけません。

そこで、晩春から勢いを増す葉の美しい宿根草やオーナメンタルグラス類などと組み合わせることで、これら球根植物の開花後の葉や休眠中の空いた地面を上手にカバーしつつ、植栽の見どころをバトンタッチしていけます。

大型の球根花、エレムルス

球根植物は、群生で咲く姿が植栽に映えますので、エレムルスのような大型種であれば3球以上、草丈40~60cm程度の中型種でしたら5球以上をまとめて植えると効果的です。

セレクト1
ターコイズ色の神秘的な花
イキシア・ビリディフローラ

イキシア・ビリディフローラ

ターコイズ色で中心が紫紺色となる星形の花がとても幻想的で美しい、南アフリカ原産の小球根植物です。

他の植物にはあまり見られない花色が目を引き、細い花茎に咲く花が風に揺れる姿も、ナチュラルな宿根草植栽によく似合います。繊細で珍しい雰囲気の見た目に反して、性質は丈夫で、関東平野部以南では数年は植えっぱなしで栽培可能です。

イキシア・ビリディフローラの球根

上写真のようにとても小さい球根ですが、このサイズで初年度から開花します。球根の植え付け深さは、球根の上に3~4cm土がかかる程度。水はけのよい土壌で、日向に植えましょう。

【イキシア・ビリディフローラ 植物DATA】
■ アヤメ科
■ 学 名:Ixia viridiflora 
■ 主な花期:晩春~初夏(明るい昼間のみ開花)
■ 草 丈:50cm
■ 耐寒性:中
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向

セレクト2
初夏のフォーカルポイントになるダイナミックな穂花
エレムルス

海外の有名庭園やショーガーデンでも主役級のフォーカルポイントとして植栽される、壮麗な穂花が魅力的な中央アジア原産の植物。晩春~初夏に、高さ1.5mを超える花茎に、長さ60cmにもなるオーナメンタルな穂花がダイナミックに咲き上がっていく姿が見事です。

エレムルス‘クレオパトラ’
Photo/Marty Nelson/Shutterstock.com

日本では、ニュアンスのあるオレンジ花の人気品種‘クレオパトラ’ Eremurus ‘Cleopatra’(上写真)や黄花の原種 ブンゲイ Eremurus bungei (下写真)などが流通しています。

エレムルス・ブンゲイ
Photo/sichkarenko.com/Shutterstock.com

エレムルスの球根は、次写真のように、ちょっと風変わりなタコ足状の形状をしています。

エレムルスの球根

耐寒性はありますが、日本の高温多湿環境が苦手。水はけよく乾燥ぎみに育てるのが栽培のポイントです。球根植え付けの際には、水がいち早くはけるように、薄く盛り土をした上に球根を置き、球根が隠れる程度に土をかける、ごく浅植えにするとよいでしょう。タコ足状に広がる根を折ってしまうと球根が弱りますので、丁寧に扱いましょう。

エレムルスの球根
エレムルスの上側。

植え付け時に球根の上下を間違えないように。上写真のようにタコ足状の球根は基部に芽が出っ張っているほうが上側です。下写真のように平滑で丸みを帯びているほうを下にして植えます。

エレムルスの上下
エレムルスの下側。

暖地では休眠中の晩夏に球根が腐ることがあるので、夏、地上部が枯れたら掘り上げて乾燥貯蔵すると安心です。

【エレムルス 植物DATA】
■ ススキノキ科
■ 主な花期:晩春~初夏
■ 草 丈:1.5~1.7m
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:やや弱い
■ 日 照:日向

セレクト3
ナチュラルでさわやかな淡青紫花
カマッシア・ライヒトリニー ‘カエルレア’

カマッシア・ライヒトリニー ‘カエルレア’
Photo/nnattalli/Shutterstock.com

高さの出る淡青紫色の穂花が春の庭を爽やかに彩り、植えっぱなしで宿根草のように栽培できる北アメリカ原産種。性質は丈夫ですが、春の生育期に入ってからは、土壌が一瞬でも乾燥すると花茎が萎れて開花しないので注意が必要です。鮮やかな黄金葉の植物と合わせると、青紫色との補色関係で引き立て合います。

カマッシア・ライヒトリニー ‘カエルレア’の球根

カマッシアの球根は、上に球根の高さと同じくらい土がかかる深さに植えつけます。数年植えっぱなしのほうがよく育ちますが、群生して球根が混み合ってくると開花が少なくなります。数年に一度、休眠後に掘り上げ、球根を離して植え直すとよいでしょう。

【カマッシア・ライヒトリニー ‘カエルレア’ 植物DATA】
■ キジカクシ科
■ 学 名:Camassia leichtlinii ‘Caerulea’
■ 主な花期:春
■ 草 丈:70cm
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向

セレクト4
個性的な品種でアピールしたい
アジアティックハイブリッド系のユリ

日本原産のスカシユリやオニユリなど、アジア原産のユリを中心に育種交配された品種です。日本の気候にも合い、植えっぱなしでも育てやすく、初夏に咲く大きな花は春のバラに続く庭の見どころになります。多彩な花色の品種が開発されていますが、ユリは日本人にとってとてもなじみ深い花だけに、個性的な品種を選んで差別化を図りたいですね。

アジアティックハイブリッド系のユリ‘ディメンション’

赤黒花の品種 ディメンション Lilium ‘Dimension’ は、ダークシックな花色で、ふんわりとした雰囲気になりがちな宿根草植栽を引き締めてくれます。

アジアティックハイブリッド系のユリ‘アプリコットファッジ’
Photo/Flower Studio/Shutterstock.com

短く詰まった花弁で、 これまでのユリとはまったく異なる、バラを思わせるような花を咲かせる最新品種、アプリコットファッジ LiliumApricot Fudge’ 。ユリの品種改良の新トレンドを感じさせ、庭での注目の的になることでしょう。

アジアティックハイブリッド系のユリの球根

ユリは、球根下部からだけでなく、地中の茎からも上根と呼ばれる根が出ます。上根をしっかり出させるため、他の球根よりやや深め、球根上部に球根の高さの2倍くらいの土がかかる程度の深さに植え付けます。

【アジアティックハイブリッド系のユリ 植物DATA】
■ ユリ科
■ 主な花期:初夏
■ 草 丈:70cm
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向

セレクト5
宿根草に先駆けて咲いてくれる
春咲きグラジオラス

夏咲きの豪華なグラジオラスとは対照的な、繊細で野生味を感じさせる春咲きの原種系グラジオラス。他の宿根草よりも早めに芽吹いて成長し、関東平野部では4月からゴールデンウィーク頃に開花します。この時期はまだ宿根草は葉が展開するくらいの頃合いで、チューリップ以外には背の高い花が少ない季節。そんな時期にチューリップとはまったく違う花容の花を咲かせてくれる貴重な素材です。性質は丈夫で耐寒性もあり、数年植えっぱなしで栽培可能。球根が増えて群生化すると見事です。

アガベ・オバティフォリアとグラジオラス・トリスティスの組み合わせ

今回ご紹介する2種とも、南アフリカや南欧など比較的乾燥した地域の原産です。原産地の気候から読み解いて、ドライな植栽に合わせても面白いでしょう。上写真では、アガベ・オバティフォリアなど乾燥地域の植物とグラジオラス・トリスティスを組み合わせています。

グラジオラス・トリスティス

グラジオラス・トリスティス Gladiolus tristis は、淡クリーム色の花弁中央に黄緑の筋模様が美しく、しなやかな花茎とともにゆらゆらと風にそよぐ姿は植栽に動きと風情を与えてくれます。南アフリカ原産。

グラジオラス・ビザンティヌス

グラジオラス・ビザンティヌス Gladiolus communis ssp. byzantinus は、グラジオラスらしい、花茎の片側に花が咲き上がっていく姿が、植栽に垂直方向の線を加えてくれる、スペイン~アフリカ北西部原産種。ゴージャスな夏咲きグラジオラスとは異なる原種らしいナチュラルさが宿根草植栽によく似合います。

春咲きグラジオラスの球根

春咲きグラジオラス上記2種の球根は、上写真のような大きさ・形状です。球根上部に3~4cm程度土がかかる深さに植えつけます。

【グラジオラス 植物DATA】
■ アヤメ科
■ 主な花期:春
■ 草 丈:60cm
■ 耐寒性:中
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向

セレクト6
切り花にも使われる清楚で美しい花
オーニソガラム・アラビクム

オーニソガラム・アラビクムの花
Photo/smspsy/Shutterstock.com

別名「ベツレヘムの星」とも呼ばれ、黒紫色の子房がよく目立つ白緑色の星形の花が、切り花素材としても人気の植物です。北アフリカ~南ヨーロッパ原産で、カラッとした砂質の土地に自生しています。水はけのよい日向に植えるとよいでしょう。

オーニソガラム・アラビクムの球根

球根の上に5cmくらい土がかかる深さに植えつけます。数年植えっぱなしのほうがよく育ちます。

【オーニソガラム・アラビクム 植物DATA】
■ ユリ科
■ 学 名:Ornithogalum arabicum
■ 主な花期:晩春~初夏
■ 草 丈:50cm
■ 耐寒性:普通
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向

アリウムやイキシア・ヴィリディフローラの咲く花壇

「垣根は相手がつくっているのではなく、自分がつくっている。」
(アリストテレス 哲学者 前384 – 前322)

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