ステイホーム期間中に、家庭菜園に興味が高まったという方が増えています。よく食卓に上る野菜を自宅で育てて、その様子を子どもと一緒に見守り、食育につなげたいという方もいることでしょう。では、玉ねぎを育てるには何から始めたらいいのか? そんな疑問にお答えするべく、玉ねぎの特性やライフサイクル、栄養価などの基礎知識から育て方のポイントまで、奥深い玉ねぎの世界を詳しく解説します。この記事を読めば、玉ねぎを育ててみたいという意欲が倍増するはずですよ!
目次
玉ねぎの基本情報
玉ねぎはヒガンバナ科ネギ属に分類されています。単子葉植物のネギの仲間で、保存性が高いために重宝する野菜です。原産地は中央アジア、近東。生育適温は15〜20℃で、寒さに強い一方で暑さには弱く、高温になると休眠します。今でも原産地周辺では野生種に近い玉ねぎが栽培されているようです。
栽培が始まったのは、非常に古い時代で、紀元前にエジプトや地中海沿岸で栽培されていたことが分かっています。16世紀までにはヨーロッパ全域に広がり、やがてアメリカに伝わると品種改良が進み、多くの品種が生まれました。日本へ伝わったのは江戸時代。南蛮船で長崎にもたらされましたが、日本人の口には合わなかったのか、一般に広まることはありませんでした。
明治になってアメリカの品種が伝わると、洋食化の影響もあってか需要が伸びていったようです。現在では、常備野菜に欠かせない存在として広く普及しています。
ところで、玉ねぎは地中で太った球を掘り上げて収穫することから、根菜類だと思っている方も多いのではないでしょうか。じつは、玉ねぎはホウレンソウやコマツナなどと同じ葉菜類に分類されています。食べる球の部分は、根ではなく「葉鞘」と呼ばれる葉の部分なんです! 葉鞘は葉が輪状に重なっており、成長するとともに葉の数が増え、葉の厚みも増して丸く結球します。球を横にカットすると中身が輪状に分かれますが、それぞれが葉なのです。
玉ねぎは、西洋ではハーブとしても使われ、臭み消し、殺菌、食欲増進などの効果があります。疲労回復効果が高く、強壮効果もあるので、古代から食されてきました。玉ねぎの辛味成分は硫化アリルという化合物です。玉ねぎを切った時に涙が出るほどの刺激が発生するのは、硫化アリルが空気中に含まれる酸素に反応し、揮発性の催涙物質に変化するため。この硫化アリルには、血液の凝固を防いでサラサラにする効果があるとされています。
玉ねぎの栽培時期
玉ねぎは、ほかの野菜に比べて栽培期間が長いのが特徴です。9月にタネを播いて育苗し、11月〜12月上旬に苗を定植。冬を越して翌年の5月中旬〜6月に収穫します。育苗期間が2カ月と長いので、手間と時間を考えれば、一般家庭の菜園で育てる分には、苗を購入して晩秋からスタートするのがよいでしょう。それでも収穫までには半年かかるので、コマツナのように種まきから収穫まで1カ月程度で済むものに比べれば、長く菜園を占拠する野菜といえます。栽培期間が長いことを念頭に、邪魔にならない場所を選ぶなど、植え場所をあらかじめ検討しておきましょう。
玉ねぎの種類
玉ねぎの品種は、甘味種と辛味種の系統に大別されます。地中海沿岸の南ヨーロッパでは生食用の甘味種や白玉ねぎが、東ヨーロッパでは辛味種が発達してきました。日本では、甘味種は赤玉ねぎのみで、ほかはすべて辛味種が流通しています。
玉ねぎの品種は、栽培期間が短いものから順に、極早生、早生、中生、中晩生、晩生に分類されています。極早生や早生は春から収穫できる品種群で、生食もでき、やわらかくて甘いのが特徴。栽培期間がやや短めなので、ビギナーにおすすめです。
ただし、長い期間の保存には向いていません。長く貯蔵したい場合は、中晩生や晩生を選ぶとよいでしょう。また、玉ねぎの形には扁平形、扁円形、球形、長球形、長楕円形があります。早生種ほど扁平で、晩生ほど球形から縦長になる傾向にあるようです。現在は、色や形、辛味の強弱などさまざまな品種が出回っています。
なお、玉ねぎの「セット栽培」と呼ばれる栽培方法も広まっています。これは、玉ねぎの苗を定植するのではなく、子球を秋に買い求めて球根を栽培する方法です。プランターなどでも手軽に栽培することができます。
玉ねぎの栽培方法
では、実際に玉ねぎの栽培方法をご紹介しましょう。ここでは、準備するものや土づくり、植え付けから収穫まで、手順を追って、詳しく解説。玉ねぎを育てる際に起こりやすいトラブルや、発生しやすい病害虫についても取り上げます。
栽培環境
玉ねぎは、日当たり、風通しのよい場所を好みます。酸性土壌に弱い性質で、適した土壌酸度はpH6.0〜7.0です。酸性に傾いた土壌では、土づくりの際に苦土石灰を散布して土壌改良するとよいでしょう。連作すると病気が発生しやすくなるので、前作にヒガンバナ科の植物を栽培していない場所を選ぶことも大切です。また、冬を乗り切って翌年に収穫するので、耐寒性を増すために、通常の化成肥料に加えて熔性リン肥などのリン酸肥料を併用するのがポイントです。
玉ねぎ栽培の用土
【種まき・育苗】
玉ねぎは保存がきくので、たくさん収穫したい場合は、種まきからスタートするとよいでしょう。ただし、育苗には2カ月ほどかかります。ビギナーなら、苗の購入からスタートするのが手軽でおすすめなので、この項目は飛ばして先に進んでください。
種まきの適期は、9月です。種子を播く2〜3週間以上前に、苦土石灰を1㎡当たり約100g散布し、よく耕して土に混ぜ込んでおきます。1〜2週間前に、1㎡当たり堆肥2kg、化成肥料(N-P-K=8-8-8)約100gを均一にまき、よく耕しましょう。種まきの際に、幅約50cm、高さ5〜10cmの畝をつくり、苗床にします。条間を約10cm取り、支柱などで深さ1cmほどの播き溝をつけて、約2cmの間隔で種子を播きましょう。播き溝の両側から土を寄せて土をかぶせ、最後に軽く手で押さえます。発芽率を高め、乾燥を防ぐ目的で不織布を苗床にべたがけし、周囲に土を盛って固定。最後にはす口をつけたジョウロで水を与えておきます。茎の直径が7〜8mmの太さになるまで育苗しましょう。
【地植えの苗の植え付け】
苗の植え付けの適期は、11月〜12月上旬です。植え付けの2〜3週間以上前に、苦土石灰を1㎡当たり約100〜150g散布し、よく耕して土に混ぜ込んでおきます。植え付けの1〜2週間前に、1㎡当たり堆肥2kg、化成肥料(N-P-K=8-8-8)約100g、熔性リン肥約50gを全体にまき、よく耕します。
植え付けの際、幅約60cm、高さ5〜10cmの畝をつくります。地温を確保して乾燥を防ぐためにポリフィルムマルチを張るのがおすすめ。株間15cm、条間15cmの間隔でマルチに穴をあけ(穴あきマルチを使ってもOK)、苗を植え付けます。苗は茎の直径が7〜8mmくらいの太さがよく、根元の白い部分が約2cm見えるくらいの深さで植え付けましょう。最後にたっぷり水を与えます。植え付け直後は茎が倒れていても、根付くと立ち上がってきますよ!
【プランターへの苗の植え付け】
プランター栽培では、オニオンセット(子球)の栽培が手軽です。植え付け適期は、年内採り(年内に収穫)が8月中旬〜9月中旬、翌春採り(翌春に収穫)が10月上旬〜10月下旬。用土は、葉菜類用にブレンドされた市販の培養土を使うとよいでしょう。大型のプランターを用意し、底が見えなくなるくらいまで鉢底石を入れ、その上に培養土を入れます。元肥として用土10ℓ当たり化成肥料(N-P-K=8-8-8)を20gほど混ぜ込んでおきましょう。水やりの際に水があふれ出さないように、ウォータースペースを鉢縁から2〜3cm残しておきます。株間を約10cm取り、オニオンセットを植え付けましょう。先端が少しだけ見える程度の浅植えにします。最後にジョウロにはす口を付けて、鉢底から水が流れ出すまでたっぷりと水やりしましょう。
玉ねぎ栽培の水やり
【地植え】
地植えの場合は、下から水が上がってくるので、ほとんど不要です。雨がなく乾燥が続いて、株が水を欲しがっているようなら水を与えて補います。
【プランター】
表土の状態を観察し、乾いていたら、鉢底から水が流れ出すまでたっぷりと与えます。
玉ねぎ栽培の追肥
【地植え】
2月上旬頃と3月中旬頃の2回が追肥の適期です。苗の周囲に化成肥料を1つまみずつ施し、土になじませて土寄せします。
【プランター】
オニオンセット(子球)の栽培では、年内採りは植え付けから1カ月後、翌春採りは植え付けから約2カ月半後が追肥の適期です。プランターで列植した中央に化成肥料を約10gほど均一にばらまき、土になじませましょう。最後に苗へ土寄せをしておきます。
玉ねぎの収穫
【地植え】
葉の7〜8割が倒伏したら、収穫のタイミングです。早生品種で5月中旬頃、中生〜晩生品種で6月上旬頃が目安。地際の葉を持ち、引き抜いて収穫します。抜き取った後にそのまま畑に並べてしばらく乾燥させるので、晴天が続く日を選んで作業しましょう。湿気に弱いので、濡らさないように注意します。収穫後の畑は、ポリフィルムマルチを撤去し、枯れ葉や根を処分して整地しておきます。
【プランター】
茎葉が倒れてきて、大きな玉ねぎが地表に顔を出したら、収穫のタイミングです。年内採りは11月中旬〜12月、翌春採りは3月中旬〜4月が目安。翌春採りではトウ立ちしやすいので、採り遅れに注意を。ネギボウズが立ったらトウ立ちしてしまった証で、玉ねぎの中央に硬い芯ができ、食感が悪くなります。
玉ねぎの貯蔵方法
乾燥させて葉がしんなりとしたら、4〜5個ずつ束ねて紐で縛り、風通しがよく、雨や直射日光が直接当たらない軒下などに吊るして保存します。多湿な環境では腐りやすいので、乾いた場所であることが条件です。こうしておくと、早生品種は夏まで、中生〜晩生品種は冬まで、長い期間にわたって貯蔵できます。すぐに使う分に関しては、葉と根を切り、冷暗所で保存しましょう。
玉ねぎのトラブル・生育不良
玉ねぎの栽培において、最大のポイントは、植え付けに適した時期の苗を植えることです。前述の通り、苗の茎の直径が7〜8mmのサイズが適した苗です。これよりも小さい苗を植えると、冬の寒さで枯れてしまうことがあり、冬を越したとしても葉数が少なく小さな球しか採れません。また逆に、適したサイズよりも大きい苗を植えると、無事に冬を越して葉数も多くなりますが、トウ立ちしやすくなります。ある程度の大きさに育ってから寒さにあうと、冬の間に花芽ができてネギ坊主がたくさんできてしまうのです。こうなると玉ねぎの中に芯ができて食味が悪くなり、小さく分球してしまうこともあります。苗は小さすぎても、大きすぎてもだめで、玉ねぎの栽培では植え付け適期を逃さないことが大切です。
また、収穫してみたら腐っていた、というトラブルも。「地中に長くあるほど球が充実するのでは」と思いがちですが、葉が黄色くなるまで畑において収穫が遅れると、球に病原菌が侵入して腐ってしまいます。これは収穫適期のタイミングを逃したことが原因。茎葉が7〜8割倒れてきたら、抜き取って収穫します。
玉ねぎ栽培で発生しやすい病害虫
植え付け後は、徐々に気温が下がって低温期に入るので、病害虫の心配はほとんどありません。しかし、33頃から温度が上昇するとともに、病害虫が発生しやすくなります。害虫では、ネギアザミウマ(スリップス)やネギアブラムシに注意。雑草から繁殖することが多いので、株周りに雑草があれば必ず抜いておきましょう。シルバーマルチで対策するのも一案です。病気はベト病が発生しやすく、発症すると葉色が淡い黄緑色に変色し、葉が倒れてきます。多湿な環境で発生しやすいので、水はけのよい土壌づくりをすることが大切。発症株を見つけたら、周囲に蔓延しないように、ただちに抜き取って処分します。
玉ねぎは長期的に栽培していく植物
ここまで、玉ねぎの特性から栽培の歴史、種類、ライフサイクル、育て方まで、幅広く解説してきました。「玉ねぎって、どんな風に育てるの?」というモヤッとした疑問があった方には、一気に解決できたのではないでしょうか。玉ねぎは、メンテナンスの手間がかからないため、家庭菜園のビギナーにとっても失敗が少ない、おすすめの野菜といえます。ただし一つの特性として、他の野菜に比べて栽培期間が長く、収穫まで場所を占領されるということを知っておきましょう。それを踏まえて邪魔にならない場所に植え、ゆっくりと太っていく成長の様子を見守りたいものです。
参考文献
『やさしい家庭菜園』 監修者/藤田智、加藤義松 発行/家の光協会 2006年3月1日第1刷
『はじめての野菜づくり コンテナ菜園を楽しもう』著者/藤田智 発行/日本放送出版協会 2007年5月25日発行
『別冊やさい畑 野菜づくり名人 虎の巻』発行/家の光協会 2009年2月1日発行
『甘やかさない栽培法で野菜の力を引き出す 加藤流絶品野菜づくり』著者/加藤正明 発行/万来舎 発売/エイブル 2015年5月25日発行第2刷
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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