ギリシャ語のクレマ(ぶどうの蔓)を語源とするクレマチス。アレンジメントでも、とても人気の高い花なのに、検索しても園芸に関する情報ばかり。そこで、調べてみました! 切り花のクレマチスの種類について。本題に入る前に、明日、誰かに話したくなるようなクレマチスヒストリーもまとめました。
目次
クレマチスの花の、特徴と原種が知りたい!
初夏、旬を迎えるクレマチス。咲き方の多彩さとやさしげな風情が好まれ、年々、人気が高まっています。まずは、クレマチスについて、基本的なことを知っておきましょう。
クレマチスの基本データ
学名:Clematis L.
科名:キンポウゲ科
属名:クレマチス属
原産地:中国、日本、ヨーロッパ、北アメリカ
和名:風車(カザグルマ)、鉄線(テッセン)
英名:Leather flower、 Vase vine、 Virgin’s bower
開花期:5~10月
切り花の出回り時期:4~10月
花色:赤、ピンク、白、紫、青、複色
花もち:5~7日
イングリッシュガーデンに咲き誇る花のイメージからか、クレマチスはヨーロッパ生まれの花だと思っている人が多いそうです。バラを「蔓植物の王」、クレマチスは「蔓植物の女王」とするイギリスでは、確かに、古くからクレマチスの栽培が行われてきました。しかし…イギリスを発祥の地とするクレマチスの原種はビタルバという花の1種だけ。
クレマチスは北半球の温帯を中心に、約300種もの原種が存在する多年草の植物です。そして、その三分の一は中国に自生する花。じつはクレマチスには、中国原産の花が多くあります。
ちなみに、クレマチスは和名で「テッセン(鉄線)」とも呼ばれていますよね。その由来は、中国名の「鉄線蓮(テッセンレン)」とも、茎が固く、まっ直ぐ伸びるからともいわれています。古くから呼び親しまれている和名のためか、クレマチスもテッセンも、この花の総称と思っていませんか? じつはテッセンという名前は中国に自生する、ひとつの原種を指します。クリームがかった6枚の白い花びらが平らに開き、しべの色は濃い紫色をしています。
そして、日本にもクレマチスの原種があることはご存じでしたか? ↓の写真をご覧ください。
夏の野山で清楚な白い花を揺らす「ボタンヅル(牡丹蔓)」。
ボタンヅルによく似た「センニンソウ(仙人草)」は、別名を「ウマクワズ(馬喰わず)」。有毒で馬も敬遠したことからとか。
ベル形の花を下向きに咲かせることから半鐘にたとえられた「ハンショウヅル(半鐘蔓)」。
そして、花びらが8枚の大輪「カザグルマ(風車)」。花色は淡い紫や白など、さまざまです。
日本の各地に自生するこれらの花々を含め、日本にも約20種のクレマチスの原種があるそうです。
海を渡った日本のクレマチス「カザグルマ」
ヨーロッパでの大輪の園芸品種の隆盛には、前述の日本の原種「カザグルマ」が大きな役割を果たしています。その立役者はふたり。ひとりめは、ドイツ人の医師であり博物学者、シーボルト。多くの植物とともに、1836年、植物標本として、このカザグルマとテッセンを持ち帰ったという記録が残っています。シーボルトといえばアジサイで有名ですが、日本のクレマチスにも関心を寄せていたのですね。
そして、ふたりめはイギリス人のプラントハンター、ロバート・フォーチュンです。中国で原種のクレマチス、ラヌギノーザを発見し、日本の八重咲き種とともに1851年頃、本国へ持ち帰ったそう。なお、このラヌギノーザの原種は絶滅したといわれています。
こうして海を渡ったアジアのクレマチスは、世界の原種とマッチング(交配)され、現在、私たちが目にするような多彩な花色の大輪や八重咲き品種が生まれたといいます。クレマチス革命ですね。
世界に誇る、日本のクレマチスがあります
この方の名前をご存知でしょうか? クレマチスを愛する方々から崇拝される育種家・小澤一薫さん(1923年~2003年)。雑誌の『花時間』でも登場いただいたことがあります。ピンクシャンパンと呼ばれ、世界中の庭を彩る「柿生(カキオ)」や「篭口(ロウグチ)」、踊場(オドリバ)」などの名花を生み出した人です(篭口はつぎの項目で花を紹介しています)。クレマチスの挿し木による栽培方法を確立したことで、日本のクレマチスの切り花は飛躍的に進歩し、品質が向上したとされます。
そして、現在。切り花としてのクレマチスは、海外からも注目を集めています。そのひとつが「デュランディー」です。デルフィニウムやアジサイの青さとも違う、しとやかに潤った青紫の花色。日本のクレマチスがふたたび、海を渡っているんですね!
クレマチスの主なタイプと、その見分け方
クレマチスは大別すると、3つのタイプがあります。ひと重咲きと八重咲き、そして「ベルテッセン」という通り名で呼ばれる、小さなベル形。この3のタイプは、花びらの枚数や形で、それぞれ見分けられます。
ひと重咲き
花びらは6枚が基本。ぱっちり顔です。
八重咲き
花びらの枚数が6枚以上。ボリュームがあります。
ベル形タイプ
言葉どおり、ベルの形をした可憐なタイプ。
画像一覧つき! クレマチスの種類と人気品種
クレマチスのヒストリーやタイプを学んだところで、今度は種類や品種について紹介しましょう。現在、クレマチスの園芸品種は、厳密には17~18系統に分類されます。そのなかで、切り花として出回る花を、以下のようにグループ分けしました。なお、出回り時期はおおよその目安と考えてください。
切り花クレマチスの主な種類(分類)は以下の7種です。
早咲き大輪系
花色が豊富で品種も無数。日本のカザグルマと中国のラヌギノーザを交配し、改良されたクレマチスを代表する、もっとも大きなグループです。花びらが平らに開く大輪のなかでも、早咲きのものを指します。本来は一季咲きですが、現在はほとんど四季咲き性です。
出回り時期/4月~秋
マルチ・ブルー
舞姫
早咲き大輪系八重
早咲き大輪系のなかの八重咲きです。ゆっくりと花を開きながら、なかには半月以上も楽しめる花もあるそう。一番花は八重咲きでも、二番花以降は半八重咲きやひと重咲きになる花もあります。
出回り時期/ 4月~秋
ベル・オブ・ウォッキング
ジョセフィーヌ
フロリダ系大輪
中国のテッセンを中心とした、その交配種のグループです。ひと重咲きがメインですが、万重咲きのシロマンエも、テッセンの枝変わり品種。
出回り時期/ 5月~秋
フォンド・メモリーズ
テッセン(フロリダ・バイカラー)
遅咲き大輪系
濃い花色が多数。大輪とはいえ、以前はジャックマニー系とされていた、中輪系の花もこの系統に分類されます。
出回り時期/5月下旬~秋
ロコ・コラ
ヴィチセラ系
小輪から大輪の花が数多くつく、ひと重咲き。花のもちも抜群です。咲き方は、花びらが波打つものやベル形など多彩に揃います。アジア南西部と南欧に自生するヴィチセラの交配種です。
出回り時期/4月~秋
エトワール・ローズ
テキセンシス系・ヴィオルナ系
花びらが外に向かってカールする、チューリップ形やベル形のひと重咲きです。テキサスなどのアメリカ中西部に自生するテキセンシス、ヴィオルナと大輪系の交配種が多く見受けられます。丈夫で花もちがよく、蔓もよく伸びます。
出回り時期/4月中旬~秋
篭口(ロウグチ・テキセンシス系)
スカーレット(ヴィオルナ系)
インテグリフォリア系
この系統は、主に4弁のひと重咲きで、可憐な花をたくさん咲かせます。ベル形やパラソル形もあり、大きさも多様。切り花では小ぶりな品種が主流です。
出回り時期/4月中旬~秋
ソシアリス
ユーリ
ヴィチセラ系やテキセンシス系・ヴィオルナ系、インテグリフォリア系のベル形やチューリップ形の花は、花屋さんに出回る切り花では、「ベルテッセン」という通り名でも呼ばれています。
下の写真の、シルバーがかったこのもしゃもしゃしたものは「クレマチスシード」。そう、花後にできる種です。種がついた枝も、切り花として出回っているんです! クレマチスの種類ごとに、種の様子も違うようです。おもしろいですね。
クレマチスの切り花を、飾って楽しむために
さまざまな種類がある切り花のクレマチスだから、いけて楽しみたくなりますよね! 種類はいろいろでも、いける前の下準備は同じです。そう、水あげ。最近のクレマチスは、とても優秀なので、水中で茎を切る「水切り」だけでもよく水があがります。
水切りの方法
アレンジに生かさない不要な葉を取り除き、水中で、茎を斜めにカット。すぐさま30分ほど深い水にいけて休ませましょう。これで全体に水が行き渡り、張りのある姿で楽しませてくれます。不要な葉を取り除くと、花により多くの水を行き渡らせることができます。
いけるときは…
クレマチスの花びらは、とても繊細です。ひと重や八重の花びらはとても薄く、一見、しっかりしていそうなベル形タイプも、じつは振動や少し触れただけで、ぱらりと花弁がはがれてしまいます。花器などに挿すときは、花の部分には触らず、茎を持って挿して!
クレマチスの茎はしっかりしていますが、細いので長く伸ばしていける際は、折れないように注意が必要です。
また、葉もとても美しい花なので、ぜひ生かして、あしらいに取り込みましょう。とてもいきいきとしたアレンジが楽しめます。
クレマチスをできるだけ長く楽しむためには、飾る場所もポイント。
・直射日光、照明が直接当たらないところ
・エアコンの風が直接当たらないところ
・電化製品がそばにないこと
・風通しのよい場所
これらが、花の居場所としてはベターです。直射日光やエアコンの風が当たると、クレマチスは花びらから水分を奪われ、しおれの原因に。花にやさしい場所を選んでくださいね。
クレマチスがもっと素敵になる、おすすめ切り花
もちろん、クレマチスだけでいけても素敵ですが、ときにはほかの花と出会わせてみませんか? アレンジで、クレマチスの魅力がぐんと引き立つ花はこちらです。
バラ
クレマチスの軽やかさが際立つ、こちらも初夏のパートナー。涼やかさと、しっとりとした潤いをもたらします。水面を見せるアレンジに。
ダリア
八重咲きのトルコギキョウを選ぶと、ゴージャスなイメージに。ひと重咲きでは、楚々としたイメージを演出できます。クレマチスと同じ、初夏が旬の花です。
スモークツリー
ピンク色の細い花びらがふわっと広がり、煙のように咲く花。初夏、一瞬だけ出回る花ですが、クレマチスを幻想的なイメージで楽しめる花材の代表です。
スカビオサ
ベル形のクレマチスを楽しみたいときには、小さな草花もおすすめです。野原で摘んだ花のつもりで、花合わせを楽しみましょう!
クレマチスって、素敵な花ですから、もっともっとお近づきになりたいものですね。
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Credit
構成と撮影と文・鈴木清子
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