槇谷桜子の古民家グリーン・リノベーション「キッチンを癒し空間に」
前回お話ししたように、家事の時短を心がけている私は、キッチンも動線を意識し、スムーズに動けるように考えました。一方、キッチンは私の癒しスペースでもあります。というのも、私は何かをつくること全般が大好きで、お料理はストレス発散の時間でもあるからです。平日はできるだけ速くご飯がつくれるように、週末は少し時間を取ってお菓子をつくる日もあります。美味しい匂いがしてくると、それだけで幸せな気持ちになれるのです。さまざまな工夫を凝らしたキッチンづくりの過程をご紹介します。
目次
2列型のセパレートキッチン
キッチンは2列型にしました。片側はIHコンロのみのシステムキッチン、振り向けば古材のテーブルに埋め込まれたシンクがあるセパレートキッチンになっています。
システムキッチンの両脇には、リノベーションならではの事情で強度的に撤去できない柱があり、システムキッチンのサイズは柱と柱の間に入るものに限られていました。この限られたスペースに、IHコンロもシンクも入れると作業スペースが狭くなり、使い勝手がとても悪くなります。
そこで、IHコンロとシンクを分けることにしました。以前から、キッチンから振り向けばすぐにダイニングテーブル、という配置が使いやすく気に入っていたため、古材のダイニングテーブルにシンクを埋め込む造作キッチンをつくりました。そして、背後にシステムキッチンという組み合わせです。
システムキッチンのデザイン
たくさんの植物が似合う空間にデザインしたメインルームは、壁はアースカラー、素材は木材を多く使っています。
システムキッチンは木目調のものもありましたが、この空間に木目のシステムキッチンが入ると、まるで山小屋のような雰囲気になり、私の思い描く空間とはちょっと違ってしまう気がしました。自然と近代的なデザインとのMIXスタイルが私のテーマでしたので、スタイリッシュなオールステンレスキッチンを探しました。
オールステンレスにこだわったのは、見た目だけの問題ではなく、メインルーム全てを土足ゾーンとしたため、水を流してブラシで掃除できるよう、水に強い素材である必要があったからです。最初は業務用キッチンも検討していたのですが、一般家庭では使いにくい部分もあり、毎日使うものですので使いやすさを重視しました。
何社か実際にショールームに足を運び、決定したのがEIDAIの「ゲートスタイルキッチンS-1」です。
シンクなしのシステムキッチンにカスタムが可能で、細かな幅も指定できるという自由度の高さが決め手でした。
パンフレットではオープン棚になっているのですが、我が家は土足スペースであるため、砂や埃も通常より多いことが予想されたため、衛生面の配慮からオープンの部分は、ほとんど引き出しに変更しました。一部分だけ、鍋や洗い物の水切りかごの収納スペースとしてオープン棚にしています。
キッチン内の高さへのこだわり
もとの古民家の形状から、余儀なくセパレートキッチンになりましたが、それを活かし、システムキッチンは料理のしやすい高さ85㎝、シンク側は洗い物のしやすい高さ90㎝にしました。
キッチン内は室内の床より15㎝下げ、床を水洗いする際に室内スペースに水が流れ込まないようにしています。また、段差の部分の端にグレーチングを設置し、水を効率よく排水できるようにもしました。業務用のような雰囲気のキッチンにしたかったため、機能性もさることながら、デザイン的にも気に入っています。
この15㎝の差は、コミュニケーション上のことも考えてつけた差です。私はキッチン内で立ってお勝手仕事をしていますが、子どもたち、あるいはお客様はダイニングテーブルの向こう側で椅子に座っています。でも、この15㎝の差があるおかげで、立っている私と座っている相手とで、目線が近くなり会話がしやすいというわけです。
古木一枚板のダイニングテーブルとシンク
メインルームには家具は極力置かないと決めており、さまざまな用途で使用できるよう、特大のテーブルを作ってもらうことにしました。
素材は、サザン・イエロー・パイン。パインとしては「ハード・パイン」に分類され、堅くて重い木材です。ですから、その重さを支えるための土台をどうするか、土台にどうとめるか、はたまた脚のないフローティングカウンターにするにはどうすればよいかなど、かなり悩んだ部分です。
そして、次のような解決策を編み出しました。カウンター下の足元や収納スペースを少しでも有効に使用できるよう、一般のブロックよりやや幅の狭い8㎝ブロックに鉄筋を入れて積み上げ、カウンターの土台としました。そして、脚のないフローティングカウンターを実現するため、丈夫な鉄アングルを土台に埋め込みました。
当初は今より短いテーブルを設計していたのですが、実際に古木を見たら、その一枚板の迫力が素晴らしく、切断して短くするのが惜しく思われました。そこで急遽予定を変更し、長さ12フィート(約3600㎜・厚み35㎜)を、そのまま使用し、一枚のカウンターになるよう寸切りボルトで5枚の板を繋ぎ、シンク部をくりぬいてもらいました。
古材一枚板の迫力は出たのですが、実際には使い方によって長すぎるシーンも出てくると考え、片側を一般的なテーブルの大きさになるよう、真っ二つに切って移動できるようにしました。普段はぴったりとくっつけているので、一枚板の迫力はそのままに、不要な時だけ移動させることができるようになっています。
すべてを造り付けにしてしまうと、生活シーンの中で不便な点も発生してしまうかもしれませんが、このように一部分だけでも移動可能にしておくと、空間の使い方に広がりを出すことができます。
シンクは直線が美しいデザインを求め、ヨットで使われるオーバータイプのステンレスシンクにしました。
キッチンのデザインを考える前に、絶対にコレ! と決めていたのが、キッチン水栓です。アンティーク風の雰囲気を演出するうえで「古材のテーブル×ステンレス水栓」というのはチグハグな感じがして、私の中ではあり得ない組み合わせでした。
できるだけアンティークっぽい雰囲気のデザインで、なおかつ機能性が高い水栓が欲しい!
そして最終的に採用したのは、アメリカのDELTA社のAddison Touchです。重量感があり、男性的でも女性的でもない、そのちょうどいいバランスのデザインに惚れました。デザインはアンティーク感が強いのですが、なんと機能的なタッチ水栓なのです!
庭仕事も多く、手が土で汚れることも多いので、水栓を握らずに水が出るタッチ水栓は、我が家ではとても重宝しています。水栓のどの部分を触っても水が出るので、カウンター側から操作することも可能です。もちろんお湯も出る混合水栓です。
唯一、色味を足したキッチンタイル
植物が似合うようにと、できるだけシンプルに色味の抑えたデザインで創り上げてきたメインルームですが、キッチンタイルだけは色を足そうと考えていました。どんなデザインにも共通することですが、全てを統一してしまうと‘面白味’に欠けるため、足し算引き算のバランスが重要です。さまざまな色を検討し、流行のブルックリンタイルも選択の一つにあったのですが、もっと面白味のあるものがいいなぁと、悩みました。
多くのタイルを検討して、結局直感で決めたのが、このTNコーポレーションの「六花」。日本製のタイルです。
私はヨーロッパのアンティークも好きですが、日本独自の美や配色も大好きです。花を愛する者として「六花」というネーミングも、六角形のそのレトロな形も、私が頭で描いていたイメージそのものでした!
一つひとつのタイルにも微妙に濃淡がありますが、我が家では無地とレース柄、レザー柄の3つのタイルを採用し、アトランダムに配置しています。タイルは古民家の空間に馴染み、主張しすぎず、でも存在感があり、このコーナーは私のお気に入りになっています。
換気扇の上には、エアープランツのフェイクグリーンを。これは、タイルの淡い色に合わせて選びました。
炊飯器やオーブンなどの家電やゴミ箱は、シンク側のカウンター下に配置しており、とてもスムーズに料理ができます。ですが、キッチン側からしか見えない位置ですので、お客様に生活感が丸見えになる心配もありません。
吊り戸棚がないすっきりとしたデザインにしたので、キッチン収納が少ないのでは? と思うかもしれませんが、そこはキッチンに隣接した大型パントリーに、たっぷり収納スペースを確保して解決しました。
次回は、このパントリーやウォークスルー・シューズクロークのお話をしたいと思います。
Credit
写真&文 / 槇谷桜子
まきたに・さくらこ/‘大人可愛い’をテーマにした「Junk sweet Garden tef*tef*」とクールでスタイリッシュな観葉を扱う「BOTANICAL GREEN」、2つのWebプランツショップのオーナー。高校1年生の娘と小学校4年生の息子がいるアラフォー。花好きが高じてショップを始めて10年、仕事と家庭を両立させながらショップを展開中。繊細で絵画的な寄せ植えにファン多数。
「BOTANICAL GREEN」https://shop.teftef.biz/shopbrand/ct273/
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