都立公園を花の魅力で彩る画期的コンテスト「第3回 東京パークガーデンアワード 砧公園」全国から選ばれた5人のガーデンコンセプト
2022年に代々木公園から始まった「東京パークガーデンアワード」。第2回の神代植物公園に続き、3回目となる今回は、東京都立砧公園(世田谷区)で開催されます。宿根草を活用して「持続可能なロングライフ・ローメンテナンス」を目指すこのコンテストでは、デザイン力だけではなく、植物や土壌の高度な知識やノウハウが必要となります。今回も多数の応募の中から選ばれた5人の気鋭のガーデンデザイナーたちによるガーデンづくりが始まりました。ガーデンプラン(応募時提出のもの)をガーデナープロフィールと併せてご紹介します。
目次
第3回会場となる「都立砧公園」
今回のコンテストの舞台となる都立砧公園は、東京世田谷区の成城学園、二子玉川など閑静な住宅街からほど近い場所にあり、昭和32年4月1日に開園しました。総面積は約39万㎡と広く、戦時中は防空緑地、戦後は都営のゴルフ場として開放されていました。のちにその起伏のある地形を生かして、芝生の広場と樹林で構成されたファミリーパークのほか、運動施設や遊具等が設置された広場が整備され、区民みんなが楽しめる公園です。
コンテストのテーマは「みんなのガーデン」
天気のよい休日には、家族連れがお弁当を広げる砧公園。‘みんなのひろば’前で開催される「第3回東京パークガーデンアワード」のコンテストテーマは『みんなのガーデン』です。宿根草をメインとして活用しながら、五感を刺激し、見ていて楽しいと感じる要素を取り入れ、ロングライフ・ローメンテナンスなガーデンが制作されます。多数の応募の中から審査を通過した5名の入賞者が作るのは、それぞれ約40㎡のスペース。土壌改良や植え付けなどの作庭は、2024年12月と2025年2月に行われます。その後、11月の最終審査まで、ガーデナーにより必要に応じてメンテナンスが行われ、3回の審査を経てグランプリが決定します。
「持続可能なロングライフ・ローメンテナンス」であることに加え、審査で見る重要なポイント
第3回も「持続可能なロングライフ・ローメンテナンス」であることが外せないルール。丈夫で長生きする宿根草・球根植物(=多年草)を中心に季節ごとの植え替えをせず、季節の花が順繰りに咲かせられることが求められています。
● 公園の景観と調和していること
● 公園利用者の関心が得られる工夫があること
●公園利用者が心地よく感じられること
● 植物が会場の環境に適応していること
● 造園技術が高いこと
● 四季の変化に対応した植物(宿根草など)選びができていること
● 「持続可能なガーデン」への配慮がなされていること
● メンテナンスがしやすいこと
● テーマに即しており、デザイナー独自の提案ができていること
● 総合評価
※各審査は別途定める規定に従い、審査委員による採点と協議により行われます。審査は次の視点からも行われます。
昨夏はかつてない酷暑でしたが、昨今の異常気象を乗り切るために、暑さや乾燥に耐えるもの、繁茂しすぎないものの選定が重要となり、成長して倒れたり蒸れて病害虫が発生したりするなどのダメージを回避するための手入れのテクニックも判定されます。メンテナンスはガーデナーの申請によって行われるのが条件ですが、手入れの頻度(回数)も審査の対象となります。
また、手入れの際に発生した剪定枝などは、自身のガーデン内で堆肥化させるなどで処理・循環させる考慮も重要です。ゴミとして焼却すれば二酸化炭素が発生しますが、ガーデン内で微生物に分解されるような仕組みが整えられていれば、二酸化炭素を発生させずに、土壌内微生物を多様化させることができます。
全国から選ばれた5人のガーデンコンセプト
コンテストのテーマとルールをふまえて制作するそれぞれのガーデンのコンセプトをご紹介します。
コンテストガーデンA
Gathering of Bouquet 〜庭の花束〜
保坂悠平
(東京都)
明治大学農学部農学科を卒業。造園会社を経て、花卉小売業界に転身。バイオフィリックデザインの企画・提案に造園技法を取り入れながら、緑化事業を中心とした業務に従事する。また、設計段階から植栽計画に参画して施工監理まで携わる他、地域の多世代交流を目的としたコミュニティデザインプログラムの監修業務を担う。
【作品のテーマ・制作意図】
皆さんの日常に癒やしや潤いを届けたいという願いを込め、プランツ・ギャザリングの視点で、ガーデンをひとつの大きなブーケに見立ててデザインを構成しました。動物たちが次の訪問者のために心遣いを残していく絵本から着想を得て、あらゆる世代の方が見て触れて、香りなどを楽しめるように、花の形や手触りがおもしろいものを用いた植栽計画をしています。ぜひ手に取って、お気に入りの植物を見つけてください。たくさんの感動や気づきが新たな会話を生み、笑顔になるシーンが増えますように。
【植栽計画について】
フラワーデザインの花束を構成する際に考慮する「自然環境の中で成長している植生本来の姿や形を意識すること」を踏まえ、本計画では草花の形状が持つ役割と全体のバランスに気をつけながら配植計画を作成しました。春のガーデンは、ナチュラルなグリーンとパステルカラーの花を中心にして構成。初夏からぐんぐんと葉の旺盛さが増し、夏のガーデンでは花色が分かりやすい鮮やかな植物を中心に構成しました。晩夏から秋では、庭全体がシードヘッドとグラスが中心になり、ナチュラルの中にどこか秋の上品さを感じられるような植栽計画となっています。
【主な植物リスト】
宿根草:エキナセア‘マグナススーペリア’/ペンステモン‘ストリクタス’/アガパンサス‘ピッチュンホワイト’/クラスペディア‘ゴールドスティック’/オルレア・グランディフローラ‘ホワイトレース’ など
グラス類:ペニセタム・ビロサム‘銀狐’/メリニス‘サバンナ’/ホルデューム・ジュバタム/カラマグロスティス・ブラキトリカ など
低木:コルヌス・ステラピンク/ビルベリー‘ローザスブラッシュ’/ニシキギ・コンパクター/コバノズイナ など
球根:チューリップ‘フレーミングピューリシマ’/レウコジャム‘スノーフレーク’/アリウム‘グレイスフルビューティ’ など
コンテストガーデンB
Circle of living things 〜おいでよ、みんなのにわへ〜
世田谷bajicoポットラックガーデン
代表デザイナー 石野夕華(東京都)
造園会社や園芸店での勤務を経て、自身の出産のタイミングで独立。知人のお庭づくりから始まり、現在は世田谷区内の個人宅や地域子育て支援拠点おでかけひろばをメインに自転車で移動する、ちりりんガーデナーとして活動中。世田谷区立桜丘農業公園(仮)予定地の暫定利用期間に「桜丘ポットラックガーデン」の運営に従事。
【作品のテーマ・制作意図】
季節によってカラーリングが変化する植物や、実をつけて味わい深い風景を作ってくれる植物に集まる多様な生き物たち。そして各所に配置したサークルネストはそんな生き物たちの拠り所に。命の循環というキーワードをもとに植物だけではなく生きとし生けるものたちの集まる「庭」をテーマにデザインしました。人間だけに限らず、あらゆる生き物たち「みんな」にとっても楽しめる「命を感じられるガーデン」は「みんなのにわ」となり、命を循環させてゆきます。
【植栽計画について】
互い違いに築山をつくり、背丈の高い植物を配置することにより奥の植栽を目隠しする効果を出しています。S字型に配置した窪みは水捌けだけではなく空気の通り道として。区切られた築山・フラットな部分それぞれにテーマカラーを設定して、その色の花を植栽。眺める場所によって違う印象の風景を作ります。植えるのは草木や花だけでなく、味覚や嗅覚でも楽しめる実のなるものやハーブなど。風や、季節、味わいや集まる命を感じられる庭。人間だけに限らず、生き物たちにとっても楽しめるようなガーデンを考えています。
【主な植物リスト】
宿根草:バプティシア‘ブルーベリーサンデー’/アガスター‘シェゴールデンジュビリー’ /糸葉丁子草/スタキス・オフィシナリス など
グラス類:カレックス‘プレーリーファイア’/メリニス‘サバンナ’/ぺニセタム・オリエンターレ など
低木:ブルーベリー/イチジク/紫式部 など
球根:アリウム各種/チューリップ各種 など
コンテストガーデンC
Ladybugs Table 「てんとう虫たちの食卓」
小野雄大
(宮城県)
スワローテールガーデン代表。英国の「ドライストーンウォーリング」という石だけを使った石積みを中心に様々な広さの庭づくりをしています。そこに集まる生き物たちや、たおやかによりそうように成長して行く植物たち、みんなにとって気持ちの良い場所になるように。そんな思いを軸に設計デザインから施工まで手がけています。
【作品のテーマ・制作意図】
砧公園で暮らす「小さな住人(虫たち)」がこのガーデンを訪れて住みやすいように生態系を意識した植栽のデザインをしています。植栽は、見る場所や角度によって印象が変わるように、カマキリなどの天敵が身を潜められるような複雑さが出るよう工夫しました。植物は、てんとう虫やカマキリの食料となるアブラムシなどが好む「バンカープランツ」や蝶やミツバチたちの蜜源となる植物を植えています。「小さな住人(虫たち)」の生活をそっとのぞき見ることができる場所を目指しています。ここでの小さな体験が、自分の身近な自然環境を考えるきっかけになってもらえたら嬉しいです。
【植栽計画について】
ガーデンは、敷地に高低差をつけて作業通路と大型のグラスがあるブロック植栽で区切り、4つのマトリックスエリアで構成。1.西日や乾燥に強い植栽エリア、2と3.緩やかなミラーボーダーで蝶々やミツバチの蜜源になる植栽エリア、4.半日陰に強い植栽エリア、とそれぞれ特徴は異なります。見る場所や角度によって印象が変わり、より複雑に見えるような視覚効果があり、春から夏は花数が多くてにぎやかな植栽、秋はグラスをメインとした風情のある植栽となっています。
【主な植物リスト】
バンカープランツ:へメロカリス/ユウスゲ/イタリアンパセリ など
宿根草:モナルダ・ブリドブリアナ/エキナセア‘メローイエロー’/アスター‘オクトーバースカイ’ など
グラス類:スキザキリウム‘ハハトンカ’/ぺニセタム・カシアン/パニカム‘シェナンドア’ など
低木:キンカン/アロニア/コバノズイナ など
球根:ダッチアイリス‘ブルーマジック’/カマシア/カノコユリ‘ブラックビューティー’ など
コンテストガーデンD
KINUTA “One Health” Garden
合同会社百暮
代表デザイナー 高橋祐眞(神奈川県)
岐阜県大垣市出身。生態系や地域に根差した空間を軸にランドスケープアーキテクトとして、公共、民間の造園設計、現場監理に従事。今回のKINUTA ‘One Health’Gardenは、生態系、植木、ワークショップ、微生物の専門家とチームで作成し、人、生き物、環境が調和するみんなのガーデンを目指しました。
【作品のテーマ・制作意図】
ヒトの健康、生きものの健康、環境の保全を包括的な繋がりとして捉えるワンヘルス (One Health)の概念を軸に、それら3つの主体が密接に関わり合う「ワンヘルスガーデン」をつくります。土壌環境を改善し、植物や微生物を豊かに育て、鳥や虫などの地域の生きものを呼び込む。ガーデンの香りや触れ合いを通し、ヒトの健康と安らぎを生み出すガーデンをつくり、いろいろな生きものがやってくる「みんなのガーデン」を実現します。
【植栽計画について】
みんなのワンヘルスガーデンにするために、植栽計画は見るだけでなく触れる、香るなど五感で楽しめるハーブやカラーリーフやクラフトの素材などを用い、植物に触れるための仕掛けを散りばめます。また、四季を通じて彩りのある品種やシードヘッドの美しいものも使用し、管理が容易で楽しみながら持続できるガーデンを作ります。
【主な植物リスト】
宿根草(蜜源植物):ルドベキア/オミナエシ/モルダナ/アザミ/ガウラ/スミレ/チェリーセージ など
宿根草(四季の移ろい):グラス類のフェスツカ/カレックス/イトススキ/フウチソウ/チカラシバ/レモングラス/ミューレンベルギア’カピラリス’ など
低木類(鳥類・昆虫類来訪):スモークツリー‘グレース’/ガマズミ/アロニア‘メラノカルパ’’
カラーリーフ:カラスバセンリョウ/カリステモン‘リトルジョン’/イリシウム‘フロリダサンシャイン’
その他(季節の果実や葉):ビルベリー/コバノギンバイカ/レモンマートル
コンテストガーデンE
「みんなのガーデン」から「みんなの地球(ほし)」へ
太田敦雄
(群馬県)
前橋工科大学建築学科卒業。アマチュアの趣味で植栽・発信していた自庭が雑誌や建築家の目に留まり、趣味の園芸家からプロの道へ。2011年「ACID NATURE 乙庭」を起業。園芸店運営、建築家に寄り添う植栽設計家、植物・園芸関連の執筆や講師等、植物に関わる活動を多角的に展開。自分らしい一歩を踏み出して夢を叶えていく希望と勇気を伝えたいと思っています。
【作品のテーマ・制作意図】
私は「みんなのガーデン」を、来園者だけでなく、花を訪れる虫、土壌菌類などの分解者、そして庭の先につながるこの生きた星「地球」の環境といった全ての「生あるもの」をつなげる庭と捉えました。温暖化する東京の気候に合った植物を差別なく組み合わせ、虫や菌たちによる循環系の形成、見るだけでなく庭づくりに参加もできる「みんなのガーデン」。「みんな」が共に助け合いながら、末長く幸せに暮らす世界、生命共存の尊さ・美しさを伝えたい。この想いが、この庭から未来へ・社会へ・地球へと広がっていけば、と考えています。
【植栽計画について】]
宿根草やカラーリーフの低木類、球根類を中心に、国籍や古今の流行、有名無名を問わず、植物の多様性や季節変化の諸相を楽しめるバラエティ豊かな植物選びで植栽を構成します。また、蜜蜂や蝶などの昆虫が好んで訪れる蜜源植物や香りのよい植物を積極的に使用し、植物の美観だけでなく、生物が共存する世界の美しさや、嗅覚や聴覚(葉ずれや虫の羽音)、味覚(蜜やハーブへの想像)、触覚(植物のテクスチャーからの連想や肌に触れる風が植物の動きを介して理解される)など、五感で楽しめる植栽表現を目指します。
【主な植物リスト】
宿根草:マンガベ ‘マッチョモカ’/アムソニア ‘ストームクラウド’/アガパンサス ‘ブラックマジック’ /アネモネ トメントーサ/ジンジバー(ミョウガ)斑入り/イリス・エンサタ(ハナショウブ)‘バリエガータ’/パトリニア プンクティフローラ/タリクトラム ‘エリン’ /ユーフォルビア ‘ファイアーグロー’/ユーパトリウム ‘リトルレッド’ など
グラス類:カラマグロスティス ‘カールフォースター’/モリニア ‘トランスペアレント’ /アンドロポゴン ‘ブラックホークス’ /スキザキリウム ‘ハハトンカ’ /コルタデリア ‘ミニパンパス’/メリニス ‘サバンナ’/ムーレンベルギア/スティパ/ホルデウム など
低木:ネリウム(キョウチクトウ)‘ペティットサーモン’/コルヌス(サンゴミズキ)‘ケッセルリンギィ’/ロロペタルム (トキワマンサク) ‘黒雲’ /ブッドレア・ グロボサ など
球根:ナルキッスス(スイセン)タリアなど数種/チューリップ(原種、園芸種含めて多品種)/アリウム (開花期をずらして数種)/イキシア・バビアナ・ワトソニアなどの南アフリカ原産種 など
コンテストガーデンを見に行こう! Information
都立砧公園「みんなのひろば」前
所在地: 東京都世田谷区砧公園1-1
電話: 03-3417-0308
https://www.tokyo-park.or.jp/park/kinuta/index.html
開園時間:常時開園
※サービスセンター及び各施設は、年末年始は休業。営業時間等はサービスセンターへお問い合わせ下さい。
入園料:無料
アクセス:東急田園都市線「用賀」から徒歩20分。または東急コーチバス(美術館行き)「美術館」下車/ 小田急線「千歳船橋」から東急バス(田園調布駅行き)「砧公園緑地入口」下車/小田急線「成城学園前駅」から東急バス(二子玉川駅行き)「区立総合運動場」下車
駐車場:有料
Credit
文 / 井上園子 - ライター/エディター -
いのうえ・そのこ/ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。ガーデニング以外の他分野のPR等にも携わる。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
撮影 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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