ポカポカと降り注ぐ日射しに、花のつぼみが次々とほころぶ春。小さな庭に植わるシンボルツリーのヤマボウシの株元では、若葉の木漏れ日に戯れる球根花や西洋オダマキが賑やかに春の訪れを告げています。神奈川県横浜で小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さんに、小さな庭の春の歓びを教えていただきます。
目次
清々しいユリ科の球根花

放射状に広げたみずみずしい緑葉から真っ直ぐ花茎を伸ばし、釣り鐘状に薄紫色の小花を咲かせるシラー・カンパニュラータ。
シンボルツリーのヤマボウシとほぼ同じ時期に植栽したこの球根花は、よほどこの場所が気に入ったようで、かれこれ18年近く咲き続けています。嬉しいことに、年を重ねる毎に分球して花数も増え、ここ数年は、植えた覚えのない場所でも咲くようになりました。きっと、こぼれ種が根付いたのですね。

あまり増えすぎても困るので、種を付けないように花後に花茎をカットしているはずなのに…。とはいえ、長い歳月を経て密かに育まれた命の愛おしさは格別で、宝物を見つけたように嬉しくなります。
小さな庭に響く薄紫色のベルの音は、まさに春の歓び。日増しに賑やかになるその音色に心も弾みます。

そして、シラー・カンパニュラータに少し遅れて咲き始めるのが、オーニソガラム・ヌタンス。白と黄緑色の透明感のある花弁のコントラストが清々しい球根花です。その容姿から、「ガラスの花」という別名も。
また、「ヌタンス」とは、ラテン語の「垂れ下がる」という意味だそうで、星形の花は「ベツレヘムの垂れ下がる星」ともいわれているそうです。「ベツレヘムの星」といえば、クリスマスツリーの頂上に飾るオーナメント。キリスト誕生を知らせた星の象徴ですね。

そういえば、キリストの生誕地で、何世紀にも渡り受け継がれてきたベツレヘムパールの手工芸品にも、「ベツレヘムの星」のデザインが見られます。じつは以前、手芸店で実物を手にとって見たことがありますが、繊細な貝細工のブローチやボタンの清浄な美しさに目を奪われました。その風情は、ひと目で心が浄化されるようなこの花と似ています。

さらに、シラー・カンパニュラータと咲き揃う様は、ベル形と星形の花と淡く清らかな色合いが相まって、どこか神聖な雰囲気も。降り注ぐ木漏れ日も不思議と神々しく感じます。
そんな光景を眺めていると、自然と新たな春を迎えられた喜びと感謝で胸がいっぱいになります。
凛とした佇まいが美しい西洋オダマキ
〜ピンクランタン〜

そして、球根花との競演を楽しみにしているのが西洋オダマキ。西洋オダマキは、欧州や北米原産、およびその交配種で、多様な園芸品種があります。また、日本原産の高山性オダマキに比べて丈夫で育てやすいのも嬉しいところ。ただ、夏の暑さと直射日光が苦手なので、わが家ではヤマボウシの木陰になるこの場所がお気に入りのようです。

植栽している西洋オダマキのなかで、一番の早咲きは‘ピンクランタン’。ソフトピンクの花弁とレモンイエローの花心の色合いがロマンチックな品種です。うつむき加減に咲く小輪多花性の花は、深山オダマキや風鈴オダマキのような、可憐で野趣溢れる風情があります。そんな花をより引き立てているのが黄緑色の愛らしい3枚葉。よく茂り、花が終わった後も秋までカラーリーフとして楽しめます。

そのうえ、見かけによらず性質も強健で、植えっ放しでもいつの間にかこぼれ種で増えてくれます。多年草とはいえ、意外と短命なオダマキですが、これまで育てたどのオダマキよりもこの場所に馴染んでいるようです。
それにしても、春風にちらちら揺れる‘ピンクランタン’の何と愛らしいこと。パステルカラーの小さな灯りが灯る毎に、心までポカポカと温かくなります。
凛とした立ち姿が美しい西洋オダマキ
〜ブルーバロウ&ノラバロー〜

満開の‘ピンクランタン’を追って咲き始めるのが、‘ブルーバロー’と‘ノラバロー’。どちらも華やかな八重咲きの品種で、丈夫な花茎を真っ直ぐ立ち上げる凜とした姿は、いつ見ても惚れ惚れします。八重咲きなので花期も長く、花後に花茎をこまめにカットしてあげると、次々と新しい花芽が立ち上がり、バラが咲き始める初夏まで咲き続けます。

‘ブルーバロー’は、パッと目を引く濃青紫色。パステルカラーのアクセントになります。‘ノラバロー’は、覆輪咲きのエレガントなローズピンク。同じバロー系でも見た目の印象が異なるので、2種類植えると色彩に深みが生まれます。
また、バロー系は、この他にも‘ローズバロー’や‘ホワイトバロー’、‘ブラックバロー’があり、こちらも人気がありますね。比較的丈夫で育てやすい品種ですが、‘ピンクランタン’に比べると短命です。

残念ながら、わが家ではこぼれ種でうまく育ったことがないので、毎年、秋に採種してストックしています。このシードヘッドになった造形美も魅力的。振ると中の種がシャカシャカと、まるで楽器のマラカスのようです。
春から秋まで楽しませてくれる‘ブルーバロー’と‘ノラバロー’。春の庭に欠かせない大好きな西洋オダマキです。

春が巡る度に、満開の花を咲かせてくれる球根花と西洋オダマキ。こうして絶えることなく命を育んでこれたのも、豊かな木漏れ日を届けてくれるヤマボウシがあってこそ。
きっと今春も、このシンボルツリーの足元で、密かに新たな命が芽生えていることでしょう。

そう、若葉を湛えた太い幹では、シジュウカラも忙しなく巣作りを始めています。
今年も、無事に巣立ちを迎えられますように。
Credit
写真&文 / 前田満見

まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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