冬から春に向けて季節が進む時期。庭で春のおとずれを知らせてくれる植物の一つが、春咲きの球根花たちです。憧れの風景を実現したい! と育てている球根花について、神奈川県横浜で小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さんが教えてくれます。

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私が好きな春咲きの球根たち

春咲き球根の芽吹き

小さな庭に、春一番を運んでくれる、スノードロップやムスカリ、水仙、チューリップ、シラー・カンパニュラータ、フリチラリア…..。春の球根花は、どれも個性的でとびきり愛らしい姿をしています。中でも、釣鐘形のシラー・カンパニュラータとフリチラリア・メレアグリスは、イギリスの森や庭園に咲く景色に憧れて植えた球根花です。

シラー・カンパニュラータ
~ブルーベルの森に憧れて~

シラー・カンパニュラータ

シラー・カンパニュラータを庭に植えたのは、かれこれ17年も前のこと。きっかけは、ちょうど庭づくりを始めた頃、ガーデン雑誌で目にした「イングリッシュ・ブルーベルの森」でした。ページをめくると目に飛び込んできた若芽色の初々しい木々の緑と、その足元に絨毯のように群れ咲く青い花。初めて見た景色とイングリッシュブルーベルの可憐な美しさに心を奪われ、「庭のどこかにこんな景色をつくりたい!」と思いました。

シラー・カンパニュラータ

早速、秋になるのを待ってイングリッシュ・ブルーベルの球根を探してみましたが、なかなか手に入らず….。代わりに、よく似たシラー・カンパニュラータという球根を見つけました。2つの花の違いは、どちらも同じ「ヒヤシンソイデス属」ですが、ブルーベルは「ノンスクリプタ種」。シラー・カンパニュラータは「ヒスパニカ種」に分類されています。確かに、よく比べてみると色合いと花の咲き方が違いますが、見た目も性質もさほど違いがなかったので、10球ほどヤマボウシの株元に植えてみることにしました。

シラー・カンパニュラータ

待ちに待った翌春。初めて目にしたシラー・カンパニュラータは、薄紫のコロンとした釣鐘形の愛らしい花でした。その花姿にすっかり魅了され、それからは毎秋、同じ場所に少しずつ球根を植え込みました。

下萌えの頃、乾いた土の中から一斉に芽吹き始めるシラー・カンパニュラータ。鳥のクチバシのように固く引き締まった姿は、冬の名残の寒さをぐっと堪えているかのよう。ひと雨ごとに暖かくなる春の陽射しと共に、徐々に背伸びしながら放射状に葉を広げます。しばらくすると、葉の中心に隠れるように花芽をつけ、日に日にニョキニョキと花茎を伸ばします。そんな球根花特有のみずみずしく力強い姿を見ると、何だかこちらまで、縮こまった身体を背伸びしたくなります。そして、春分の日を迎える頃、穂状のつぼみに色が差し始め、下の方からだんだんと薄紫色の花が咲きます。

シラー・カンパニュラータ

嬉しいことに、年を重ねる毎に株が充実し花数も増えてきました。さらに、いつの間にか思いがけない場所で増えて、より自然な風情に。ようやく、庭につくりたかったあの憧れの「ブルーベルの森」の景色ができてきたような気がします。

ヤマボウシの若葉の木漏れ日の下、群れ咲く薄紫の小さな花々は、耳を澄ませば「チリンチリン」と鈴の音が聞こえてきそうです。

フリチラリア・メレアグリス
~妖精が住む魅惑の花~

フリチラリア

釣鐘形の赤紫と白の市松模様の花弁が魅力のフリチラリア・メレアグリス。じつは、この花を知ったのは3年前から始めたインスタグラムでした。ある時、「オススメ」のアカウントを覗いてみると、イギリス王立植物園「キューガーデン」の地面を埋め尽くさんばかりのこの花の群生に目が釘付けになりました。「一体、この花は何?!」と、胸がドキドキするほど感動しました。まさに、ひと目惚れです。

ウィリアム・モリスも好んだ
フリチラリア・メレアグリス

この花の原産地は、欧州~西アジア。別名チェッカーリリー、スネークヘッドとも呼ばれ、イギリスでは、「妖精が住む花」として、古くから親しまれているそうです。まさか、フリチラリア・メレアグリスがそんな花だったとは….。

そのことを知った時、ふと、あるデザイン画が頭に浮かびました。それは、「モダンデザインの父」と呼ばれる19世紀のイギリスの詩人、ウィリアム・モリスがデザインした一枚の壁紙です。

ウィリアム・モリス

直ぐに、数年前に「ウィリアム・モリス展」で購入した図録を開いてみたところ、「ブラックソーン(スピノサスモモ)」というタイトルのデザイン画に、この花が描かれていたのです。驚きと同時に、感動で胸がいっぱいになりました。改めて図録を読み返してみると、このデザイン画に描かれている植物は、モリスが「地上の楽園」と表現したコッツウォルズ地方にある別荘「ケルムスコット・マナー」に自生していた野草たち。ページの右下には「スモモ、ヒナギク、ワスレナグサ、バイモ(アミガサユリ)」と、小さく記されていました。

そう、フリチラリア・メレアグリスは、日本で茶花や生け花として親しまれているバイモユリやクロユリの仲間だったのです。何だか、急にこの花が身近に感じられ、「きっと、モリスもこの花が好きだったんだろうな…. 」と思うと、どうしても実物を見たくなりました。

●ウィリアム・モリスの過ごした「ケルムスコット・マナー」の記事はこちら

庭に咲いた2色の花

フリチラリア

それから、ようやくインターネットのサイトで球根を見つけ、試しに5球だけ庭に植えてみました。そして、一昨年の春、庭に3輪のフリチラリア・メレアグリスが咲きました。そのうち1輪は何と白花。残念ながら2球は芽吹きませんでしたが、白花が咲いたのは嬉しいサプライズでした。実物の花は、花弁の市松模様は想像以上に繊細で奥深い色合い。見れば見るほど幻想的で、イギリスで「妖精が住む」といわれている理由が頷けます。それに、バイモユリやクロユリのような、奥ゆかしく品のよい風情も感じました。

北海道ガーデンでの偶然の出合い

フリチラリア

じつは、2019年の5月上旬。友人と訪れた北海道旭川市の「上野ファーム」で、思いがけずフリチラリア・メレアグリスに出合いました。北海道の5月は、まさに芽吹きの春。園内は、木々の枝先が淡い若芽色に染まり、足元にスイセン、ムスカリ、チューリップなどの無数の球根花が鮮やかな彩りを添えていました。そして、射的山の斜面とノームの庭に、この花がたくさん咲いていたのです。何と、憧れのキューガーデンの景色が目の前に….。

その時の感動と興奮は、今でも忘れられません。

そんな思いがけない出合いに不思議な縁を感じ、ますますこの花の虜になりました。

昨秋は、新たに5球の球根を庭に植えました。

さて、今年はどんな出合いがあるでしょう。今から楽しみで仕方ありません。

フリチラリア

Credit


写真&文/前田満見
高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。

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