暦の上では立春を迎えつつも、フランスでも厳しい寒さが続いています。「フランスに住むようになってから、春をじっと待つ2月のこの時期がワクワクに楽しみな季節になりました」と話すのは庭園文化研究家、遠藤浩子さん。春到来を予告するかのように開花する最初のスプリング・エフェメラル、スノードロップの季節について、フランスからレポートします。

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早春の球根花、スノードロップ

スノードロップ
気温が上がると、目一杯に花が開きうさぎの耳みたいな形になったスノードロップ。

フランス語ではペルスネージュ(perce neige)、和名では雪待草とも呼ばれるスノードロップ。ヨーロッパ~コーカサス山脈が原産地ですが、ヨーロッパ~西アジアに20種弱が広く分布し、フランスでは庭園の植栽に限らず、森の中や野原などにも自然の群生が見られます。学名はGalanthus nivalis、スズランなどと同じヒガンバナ科で、球根には毒があるので、取り扱いには注意です。

春の先駆けの魅力

スノードロップ

森の林床や庭園や公園の芝生など、さまざまな場所で、時には積もった雪の下からでも、この時期になるとむくむくと顔を出すのがスノードロップです。地方にもよりますが、冬のパリやイルドフランス地方は基本的に曇ってて暗くて寒いイメージです。そんななか、例えば冬枯れのヴェルサイユの庭園を囲む森の中を歩きつつ足元に目をやると、何やらシュッとした新鮮な緑の葉っぱがたくさん元気そうに育っている。さらによく見ると、小さなティアドロップのような可憐な花が咲きかけている。しかも1本、2本ではなく、あちこちに群生している姿には、宝物を見つけたような高揚感があります。

名前の由来

真珠の耳飾りの少女
Boris15/Shutterstock.com

スノードロップという呼び名は、涙形の花の形から。17世紀にヨーロッパで流行したティアドロップ形の真珠のイヤリングのドイツ語呼称に由来するそうです。フェルメールの絵画の少女が耳につけていたあのイヤリングです。可憐なイメージにぴったりの由来ですね。

小さな花の一つひとつも可愛らしいのですが、冬の終わりの林床を埋め尽くすように咲く満開のスノードロップは、さながら白い絨毯のようで、感動的と言ってよいほど。

昔の人々も、はっとするようなスノードロップの白い絨毯にきっと大感動したに違いありません。花言葉は主なところで「希望」や「慰め」とされているこの花には、じつにさまざまな伝承があります。

さまざまな伝承

キリスト教では聖母マリアの花とされているスノードロップは、イエス・キリストの奉献、聖母マリアの御清めの祝日である2月2日の聖燭祭に関わりが深く、この日にスノードロップを集めて持ち帰ると家が浄化されるといわれています。ちなみに少々脱線しますが、フランスでの聖燭祭(フランス語ではシャンドルールと呼ばれます)の日は、クレープを焼いて食べる日でもあります。

雪の中のスノードロップ
雪にも耐えて、花を咲かせる瞬間を待つスノードロップ。

他にも、エデンの園を追われたイヴが初めて地上で迎えた冬の日、一面雪で草花が何もなくなってしまったのを嘆くイヴを慰めるために、天使が降る雪をスノードロップに変えたという伝説もあります。そこから花言葉の「希望」や「慰め」に繋がるのでしょうか。

ドイツでは、雪には元々色がなかったので、花々に色を分けてほしいと頼んだものの、唯一応じてくれたのはスノードロップだけだった、だから雪は白いのだという伝承もあります。

いずれのエピソードにも優しさがこもった、可憐なスノードロップらしさが感じられるようです。

寒さに強いスノードロップ

スノードロップ

雪の日や寒い朝は白い水滴のようにしっかりと花を閉じて、日中暖かくなってふわっと目一杯花を開いた姿は、ウサギの耳みたいに見えて、これもまた可愛らしい。夜間や寒い時に花を閉じるのは、昼間吸収した暖かい空気をしっかりキープするためなのだそうですが、さすが寒さに負けず花咲くには、それなりの工夫が備わっているものです。

開花シーズンは2~3月

ヴェルサイユ宮殿の大運河(グランカナル)沿いの散歩道
ヴェルサイユ宮殿の大運河(グランカナル)沿いの散歩道も、スノードロップでいっぱいになります。

聖燭祭は2月の始めですが、暦通り、イルドフランス地方では例年2月に入ってからがスノードロップの開花シーズンです。開花が始まってから2~3週間は花咲く姿を楽しめるのも嬉しいところ。

花期の後半には、クロッカスやスイセンなどのスプリング・エフェメラルが追いついて咲き始めます。庭園の芝生や大木の足元に、スノードロップとともに、またはその後に、さまざまな球根花がカラフルに咲き乱れる姿からは、しっかりと季節がどんどん春に向かって進んでいるのを実感できます。

森の魔法のような白い絨毯

林床のスノードロップ
こちらも大運河(グランカナル)沿いの林間の散歩道。まるで白い絨毯が敷き詰められたようにスノードロップの花が広がります。

とはいえ、ちゃんと春が来るのか少し疑わしいほどに寒々とした時期に、林床に広がるスノードロップの花の存在感、その白い絨毯は、本当に圧巻です。背丈も低いので、花の時期が過ぎると、どんどん後から育ってくる他の植物の陰に隠れてすっかり存在感がなくなってしまいます。それゆえなおさら、花の時期には特別感があるのでしょうか。

スノードロップの群生

一種類の花の群生には、一つひとつが派手であってもなくとも、全体力で印象深い風景をつくる力が備わるのを感じます。例えば、ヒマワリ畑やポピーの群生、梅林や桜並木、ツツジやアジサイなど、その時期の風物詩になるような、また特別な場所のイメージに繋がるような花の風景がいろいろと思い付くのではないでしょうか。

スノードロップ

スノードロップの白い絨毯から思い浮かぶのは、森に束の間の魔法がかかったみたいな、ヨーロッパのお伽話のシーンのようなイメージです。妖精が潜んでいても不思議じゃない、そんな感じがしてくるほどです。この白い絨毯の風景に出逢ったら、1鉢のスノードロップに感じる魅力もまたさらに倍増する違いない。そんなことを思いつつ、寒さのなかを進む自然とともに春を待つ日々です。

スノードロップの育て方。コツとお手入れ、植え替えや寄せ植えを一挙紹介

Credit

遠藤浩子

写真・文/遠藤浩子

フランス在住、庭園文化研究家。
東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。

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