下萌えの頃、いち早く春を告げるスプリング・エフェメラル。直訳すると「春の儚いもの」「春の短い命」という意味の草花の総称です。夏頃まで葉を付けると、後は静かに地下で過ごします。小さくて可憐な姿から「春の妖精」とも言われるスプリング・エフェメラル。神奈川県横浜で小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さんが、小さな庭の「春の妖精」たちを紹介します。

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冬から春へ、希望を灯す小さな花

スノードロップ

木枯茶色の土の中から、真っ先に顔を出すスノードロップの和名は待雪草。その名の通り、雪のように純白で、花丈10cm足らず、大きさも1〜1.5cmの極小の花です。

吐く息が白い朝に、上着を羽織って庭に出ると、落葉樹の足元で朝露をまとった花弁をふっくらと閉じて咲いているスノードロップ。人差し指で触れると、今にも零れ落ちそうな雪の雫のようです。

スノードロップ

柔らかな陽射しが差し込む昼間は、ふわりと花弁を広げてまた違った姿に。どうやら、冷える夜に備えて温かい空気を溜め込んでいるそうですが、その姿はまるで蝶々のよう。しゃがんで覗き込むと、内弁に緑のハート模様が隠れています。姿形だけでもこんなに愛らしいのに何というサプライズ! この模様を目にする度に、胸がキュンとします。

スノードロップ

それにしても、スノードロップに心(ハート)があるなんて。きっと、「また会えたね」と、囁くわたしの声も聞こえているに違いありません。春を心待ちにしているガーデナーにとって、やっぱりこの花は特別。こんなに愛おしく再会に胸ときめく花は、他にはないような気がします。

ユキワリソウ

そして、スノードロップの次に咲き始めるのが雪割草。葉が三角形になっていることから三角草(ミスミソウ)とも言われています。わが家の雪割草は紫色の一重咲きですが、白や桃色、八重咲きもあり種類が豊富です。この花の魅力は、なんといっても発色のよい整った丸い花弁と繊細な花心の美しさ。木枯茶色の景色に咲く一輪に、夜空に咲いた花火を連想するのはわたしだけでしょうか。色鮮やかな雪割草を見ていると、気持ちまでパッと明るくなります。

スノードロップ

冬の名残の寒さに負けず、たくましく春を告げるスノードロップの花言葉は「希望」、雪割草は「期待」や「自信」だそうです。

まさに、新たな春へ「希望」と「期待」を心に灯してくれる花たちです。

鮮やかな色彩のミニアイリス

ミニアイリス

ここ数年、マイブームのミニアイリス。じつは、インスタグラムを始めて間もない頃、イギリス庭園の早春の景色に、ミニアイリスが群生している写真を見て心を奪われました。「小さな庭の何処かにこんな景色が作れたら」と、ネット通販や園芸店を覗いては球根を手に入れて、毎年少しずつ増やしています。最近は、嬉しいことに芽出し球根も出回るようになったので、鉢植えの後に地植えする楽しみも増えました。

ミニアイリス

意外と品種の多いミニアイリスですが、庭に植えているのは赤紫色のレティキュラータ‘パープルヒル’と、青紫色のレティキュラータ‘ブルーノート’の2種類です。鳥の口ばしのようなツンと尖った芽吹きが愛くるしく、花丈の割に花も大きく目が覚めるような色鮮やかさ。そのうえ、花弁にドキッとするような模様もあってなかなか個性的です。

ミニアイリス

なので、ミニアイリスが咲き始めると急に庭が華やぎ、ちょっと洒落た雰囲気に。ミニアイリスのおかげで、ほんの少し憧れのイギリス庭園の早春の景色を味わえています。

シラー・シビリカブルー

そして、ミニアイリスとほぼ同じ頃に開花するシラー・シビリカブルー。以前はもっとたくさん咲いていましたが、年々減ってきました。きっと、あまりに球根が小さいので、多年草の植え替え時につい誤って傷つけてしまったことが原因ですね。所々植えるのではなく、位置を決めてまとめ植えしなくてはいけないと反省しています。

早春の庭
左の紫花がアイリス。その間に咲くブルーの花がシラー・シビリカブルー。

スノードロップと同じくらい極小の花ですが、房状に花が咲くので咲き進むと華やかでとてもチャーミング。シラー・シビリカブルーの透き通るような清々しいブルーは、「青い宝石」とも言われ、思わず見惚れてしまいます。やっぱり今秋こそ、球根を買い足して植え替えしましょう!

球根愛好家に人気のフリチラリア

フリチラリア
赤紫色のギンガムチェック柄のフリチラリア・メレアグリス。手前で低く咲くのは、スミレ。

球根愛好家に人気のフリチラリア。調べてみると、インペリア種、ペルシカ種、ミハイロフスキー種、メレアグリス種と、意外に多品種です。それぞれが個性的で全品種を植えてみたいところですが、残念ながら暑さと湿度に弱いので、暖地にはあまり適さないようです。ですが数年前に、試しに落葉樹の足元にメレアグリス種の球根を植えてみたところ、毎年芽吹き花を咲かせてくれます。

フリチラリア・メレアグリス

とはいえ、植えた当初より随分減って最近は1〜2輪ほど。きっと、梅雨〜夏場の高温多湿に耐えられなかったのでしょう。残念ですが仕方ありません。でも、だからこそ、たった一輪でも咲いてくれるだけでありがたいのです。

赤紫色のギンガムチェック柄が、何ともお洒落なフリチラリア・メレアグリス。見れば見るほど、ふっくらとした釣鐘状の花の中から妖精たちが出てきそうですね。

バイモユリ

そしてもう一つ、バードバスの足元に咲くのがバイモユリ(別名:アミガサユリ)。バイモユリは、山林の自生種というだけあって、半日陰〜日陰の場所なら比較的育てやすい品種です。

すぅ〜と伸びた花茎に、淡い黄緑色の釣鐘状に咲く花は清楚で品があり、早春の柔らかな陽射しにとてもよく似合います。さらに、しなやかな細長い葉の先端もカールして何とも軽やか。花だけでなく葉の美しさもバイモユリの魅力です。

そんな風情が、茶花や生け花にも好まれたようで、幼少の頃から生け花に親しんできたわたしにとっても馴染み深い花。庭にバイモユリが咲き始めると、旧友に再会したような懐かしい気持ちになります。

バイモユリ

そして、花数が増えてきたらカットして器に活けて愛でます。茶花のように一輪挿しにしたり、早咲きのスイセンを添えたり、ほんの数輪で表情豊かな挿花に。春一番に活ける庭の花は、いつもバイモユリ。この花を手に取ると、不思議と心が和みます。

バイモユリ

薄紫色の絨毯のようなタチツボスミレ

スミレ

最後に紹介したい花は、薄紫色のタチツボスミレ。もしかしたら、スプリング・エフェメラルとは言えないかもしれませんが、下萌えの庭に、まるで絨毯を敷き詰めたように群れ咲くこの花が、わたしは大好きです。

タチツボスミレ

じつは、20年ほど前、家を建てることになり土地を下見した時、この花があちこちに咲いていました。殺風景な空き地にひっそりと咲く健気さと可憐さに心を奪われ、「家を建てるならここがいい!」と、直感しました。

庭づくりを始めた頃は、外構工事や土壌改良で土を掘り起こしたため、しばらく消えてしまいましたが、いつの間にか、またこの庭に根を下ろし、今では絨毯を敷き詰めたように群生しています。

ゆっくりゆっくり時間をかけて創りあげたその景色は、決して人の手では創り出せないもの。自然の植栽力の素晴らしさに感動で胸がいっぱいになります。そして、庭づくりは自然との共同作業だと、改めて気付かせてくれます。

タチツボスミレ

そう、タチツボスミレは、わたしの庭づくりの原点。足元に広がる薄紫色の絨毯を目にする度に、あの時の直感は間違ってなかったなと、しみじみ感じています。

春の庭

一輪、また一輪とスプリング・エフェメラルが咲くにつれて近づく暖かい春。きっと、今日も庭のどこかで新たな妖精たちが顔を覗かせていることでしょう。

Credit


写真&文/前田満見
高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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